3.SiO2と珪酸塩鉱物の基本構造         このページや、下層のHTMLファイルに直接リンクされた方は、このボタンをクリックして下さい。

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珪酸塩鉱物 上部マントル 地殻 100km圏 比重
カンラン石
輝  石
ザクロ石
斜 長 石
正 長 石
石  英
角 閃 石
黒 雲 母
  56wt%
  28
  14
  −−
  −−
  −−
  −−
  −−
  2wt%
  5
 −−
 41
 20
 17
  6
  5
 47wt%
 24
 11.5
  7
  3.5
  3
  1
  1
 3.4
 3.3
 3.6
 2.75
 2.6
 2.65
 3.1
 2.9
平均比重
3.4
2.8
3.3
 
表 3-1 地球の表層を形成する珪酸塩鉱物


  前章で述べたように、地球はマグマオーシャン時代の分化作用で核・マントル・地殻の三層構造を持つに至ったがそのうちの約70%を占めるマントルと地殻は主に珪酸塩鉱物でできていると言われている 特に深さ650kmまでの上部マントルと表層約20km(海洋部分10km〜大陸部分40km)の地殻の推定組成は表 3-1 のような数字になっている ところが、地球の半径の1300にも満たない、薄皮状の地殻(質量比:0.4%)でさえボーリング調査で直接確認されたのは12kmまでである ましてや、地殻より深い所にあるマントル(質量比:68.1%)の成分は何も分かっていないと言った方がよい
  このボーリング調査は、ソ連の西北端にあるコラ半島で行われている(平成2年10月現在、その後継続しているかどうかは定かではない)が、深さ12km地点の地質は、地表と同じ花崗岩質の岩石であったことから風化侵食によって失われたと考えられる表層部分を入れると原始大陸の少なくとも深さ20kmまでは花崗岩層から成っていたと推定されている そして、地表の3割強を占めている、大陸棚をも含めた大陸部分の下部地殻と、7割弱を占めている海洋部分の地殻は斜長石を主成分とする玄武岩質〜安山岩質の岩石からできているらしい
  ただ唯一上部マントルの鉱物組成を推定できる手段として、ダイヤモンドの母岩であるキンバライトがある 2-3(5)でも触れたように、深さ100300km(310万気圧)のマグマが急上昇して形成されたと考えられている石英をほとんど含まない超塩基性岩である つまり、キンバライトは、カンラン石を主体に輝石やザクロ石などからできている珍しい岩石なのだ キンバライトに限らず、地球の形成時における表層(100km圏)付近は、マグマ・オーシャンの形成と大型隕石の衝突により更に複雑な地殻変動が起きていたと考えられる そして、この表層100km圏は、様々な珪酸塩鉱物が形成されるための温度・圧力条件(最大1500℃・3万気圧)を提供してくれたのである
  珪酸塩鉱物の構造や分類については古くから研究が行われ、結晶の骨組みとなっている珪酸イオンの連結方式の違いによって7種類に分類されている また表 3-3 に示したように、狭義の珪酸塩鉱物ではないが、構造的に同類である石英(SiO2)を含めると合計8種類に分類できる これまで個々の珪酸塩鉱物の結晶構造や生成条件については、X線回折や電子顕微鏡の発達あるいは鉱物の合成技術の進歩によりほぼ解明されている しかし、2-3(3,4)でも少し触れたように、各々の珪酸塩鉱物相互の関係を温度・圧力条件の変化あるいは水分や金属イオンの関与など実際に即した観点から結晶構造にフィードバックさせた研究は皆無に等しい 本章ではこの観点をもとに珪酸塩鉱物の基本構造を考えその進化の結果形成された高純度「SiO2」の生成機構についても触れてみたい

  
3−1.珪酸塩鉱物の骨格を成すSiO4四面体構造          目次:

図 3-1 “SiO4四面体”の構造

  珪酸塩と言うと、いかにも珪酸という酸が存在し、酸の水素イオン(H+)を金属陽イオンで置換したものと考えられがちである しかし、熱水を伴った高温・高圧条件下ならまだしも常温・常圧下では珪酸は酸としてほとんど存在し得ないのだ にもかかわらず、珪酸をオルト珪酸(H4SiO4)、メタ珪酸(H2SiO3)、メタ二珪酸(H2Si2O5)などとして取り扱われているところに石英を初めとする珪酸塩鉱物の第一の“不可思議”がある
  珪酸が単分子状の酸として存在できない理由は、珪素(Si)と酸素(O)の結合力が強いために、珪素イオン(Si4+)の4本の結合手が全て、4個の酸素イオン(O2-)と結合してしまうことにある つまり、酸素の供給が十分に行われないと容易に酸素イオンを共有して“数珠(じゅず)”のように連結し、ポリ珪酸イオン(例えば [(SiO3)2-])を形成するのである 従って、メタ珪酸以降やメタ二珪酸は、重合の進んだポリ珪酸として [H2SiO3]や[H2Si2O5]で表さなければならない また、オルト珪酸の場合、構造的にはSi(OH)4として表した方が実際に近いがこれも単独で存在することは稀で、通常は脱水縮合反応により低度の重合が進んでいる つまり、オルト珪酸はその縮合体として次式で表すのがより現実的である
 nSi(OH)4 − (n-1)H2OSinOn-1(OH)2n+2〔オルト珪酸縮合体〕    ・・・・・(3-1a)
但し、オルト珪酸の水素イオンが金属陽イオンと置換されている場合は脱水縮合反応が起こりにくく、単分子状のオルト珪酸イオンとして存在できるが、超高温・高圧条件を必要とする
  このように、オルト珪酸イオンはもちろん、重合の進んだポリ珪酸イオンにおいても、1個の珪素イオン(Si4+)が4個の酸素イオン(O2-)によって取り囲まれた、“SiO4”構造が最小の構成単位となっているのである そして、珪素イオンのイオン半径は、下表 3-2 に示したように0.4Åと小さく、イオン半径の大きな酸素イオン(1.3Å)が形成する最密充填(4-1節参照)において専ら4個の酸素イオンによって囲まれた正四面体空隙に入ることになる
  上の図 3-1 にも示したように、半径1.3Åの酸素イオンによって形成される正四面体の空隙は、半径約0.3Åに相当し、一見、半径0.4Åの珪素イオンは入りにくいように思われる しかし、珪素と酸素の結合はイオン結合だけでなく、共有結合の割合が55%も占めているため、Si-O結合の原子間距離は、1.7Å(1.30.4Å)から少し縮まり、1.6Åとなっているのである 従って、珪素イオンは、酸素イオンの形成する正四面体空隙にぴったりとはまる形になるため、“SiO4四面体”を非常に強固な構造にしている つまり、この“SiO4四面体”は超高温の下で、遊離炭素(C)や発生期の水素(H)などの強力な還元力を用いないと崩すことはできず、“SiO4四面体”は、あたかも1個の原子として振る舞うようになるのである そして、この四面体が連結(重合)することによって多種多様の構造を持った石英(シリカ)や珪酸塩鉱物を形作っているところに第二の“不可思議”がある
  酸素イオンの成す正四面体空隙は、珪素イオン(Si4+)の最優先席となっていて、特殊な状況下でないと他の金属陽イオンは四面体空隙に入ることはできない しかし、その中でもアルミニウムイオン(Al3+)とチタニウムイオン(Ti4+)は、Al3+はイオン半径がSi4+に近いという理由から、また、Ti4+Si4+と同イオン価であるという理由で、Si4+と置換される場合があり、前者は特に“Al-同形置換”と呼ばれている 同様の理由で、ベリリウムイオン(Be2+)やジルコニウムイオン(Zr4+)も四面体構造内に入る可能性を持っていると考えられる(下表 3-2 のイオン半径参照)

元 素 名 陽イオン イオン半径 配位数 イオン化傾向 水に対する反応性 酸化物の融点
水  素
硼  素
珪  素
ベリリウム
アルミニウム

チ タ ン
鉄 (3価)
ニッケル
ジルコニウム
マグネシウム
リチウム
鉄 (2価)
ナトリウム
カルシウム
カリウム
 H +
 B 3+
 Si 4+
 Be 2+
 Al 3+
  〃
 Ti 4+
 Fe 3+
 Ni 2+
 Zr 4+
 Mg 2+
 Li +
 Fe 2+
 Na +
 Ca 2+
 K +
  0.0Å
  0.2
  0.4
  0.4
  0.5
  0.6
  0.7
  0.7
  0.8
  0.8
  0.8
  0.8
  0.9
  1.1
  1.2
  1.6















12
注1) 12
  −−−
  −−−
     6
     7
     〃
  −−−
    11
    10
     8
 〔5〕
 〔1〕
     9
 〔3〕
 〔4〕
 〔2〕
−−−
−−−
赤熱+水蒸気⇒H2
高温水蒸気⇒H2
過熱水蒸気⇒H2

−−−
赤熱+水蒸気⇒H2
−−−
−−−
熱水⇒H2 発生
水⇒H2 発生
赤熱+水蒸気⇒H2
水⇒H2 (発火)
水⇒H2 (ゆっくり)
水⇒H2 (激、発火)
注2)  0℃
   450
  1713
  2550
  2054
    〃
  1843
  1565
  1984
  2715
  2826
  1400
  1350
  (318)
  2572
  (360)
注1)水素分子(H2)に対するイオン化傾向を表すが〔 〕内は水素原子(H)より大きいもの。
注2)( )内は水酸化物としての融点。
表 3-2 主な元素(陽イオン)のイオン半径と諸特性

  
3−2.珪酸塩鉱物の分類とSiO4四面体の連結方式        目次:

  このように、SiO4四面体は非常に強固な構造を持つがゆえに、通常の金属酸化物とは異なり、SiO4四面体を骨組みとする珪酸塩鉱物は特殊な結晶構造を持つようになる その大きな理由としては、SiO4四面体が、溶融体や高温の熱水中では珪酸イオン(あるいはポリ珪酸イオン)としてあたかも酸素イオンと同じように1個の陰イオンとして振る舞うことや、SiO4四面体が、頂点の酸素イオンを共有しながら無限に連結し合うことが挙げられる
  つまり、前章の図 2-4 に示したような進化の経路をたどりながら、SiO4四面体の連結度を増していくに従って連結角も大きくなり、次第に空隙率の大きい(大きな結晶空隙を持つ)密度の小さい珪酸塩鉱物を形成していくのである(下の図 3-2 参照) 従って、その生成条件次第では、無限に近い種類の珪酸塩鉱物を形成できるものの実際は下の表 3-3 のように、基本的には8種類の連結方式に分類できることからその生成機構には何らかの制約があるように思える

連 結 方 式 四面体数  基 本 組 成  (連結度) 連 結 角 代 表 的 鉱 物 種
1.独立型(Neso)  (SiO4)4-     () −−−  カンラン石、ザクロ石
2.複合型(Soro)  (Si27)6-     () 約 140° (褐レン石)
3.環 状(Cyclo) 6 etc.  (Si618)12- etc. ()  155〜175° 電気石、(緑柱石)
4.単鎖状( Ino )  [(SiO3)2-]   () 約 140° 輝石、(珪灰石)
5.複鎖状( 〃 )  [(Si411)6-] (2.5) 角閃石
6.層 状(Phyllo)  [(Si25)2-]   () 雲母、(緑泥石)
7.網 状(Tecto)  [(SiO2)0]    ()  110〜180° 長石
8. 〃  [SiO2]      ()  145〜180° 石英
(連結度:Si 1個当たりのSi-O-Si結合の数、連結角:Si-O-Si結合角)
表 3-3 珪酸塩鉱物の分類とその進化
図 3-2 珪酸塩鉱物の各種連結方式(略図)

(1)SiO4四面体の連結方式に及ぼす連結角の自由度
  珪素(Si)と酸素(O)の結合はイオン結合が約半分を占めるため、完全な共有結合とは異なり、炭素(C)と酸素(O)の結合に見られるような二重結合(結合軸に直交する電子雲同士のつながり)は起きにくい つまり、CO2や(CO3)2-に対応するSiO2や(SiO3)2-は、二重結合を有する単分子構造を形成することができず、全てSiO4四面体が基本となった連結体(重合体)となっている
  SiO4四面体の構造は、図 3-1 に示したように、4個の酸素イオン(O2-)が密に重なって形成する空隙の中心に、珪素イオン(Si4+)が位置するため、O-Si-Oの結合角は 109.5°で固定されている しかし、SiO4四面体の頂点同士でつながったSi-O-Si結合角は、共有結合の性質を持つため、かなり制限されているが変化することはできる
  図 3-3(a) に 酸素原子の最外殻電子軌道の状態を示したが、2S22P4軌道で、結合に関与する互いに直交した3個の2P軌道のうち、1個は既に電子対でふさがっているため、理想的な結合角は 90°である また、2P軌道をひとつの球面と考え、共有結合によって加わった2個の電子を合わせ合計6個の電子が確率的に等間隔で分布しているとすれば、180°もかなり安定した結合角となる しかし実際には、図 3-3 の(b)に示した水の分子構造のように水素原子同士の反発力によって 90°から多少(酸素原子約1個分)開き、104.5°となっているのである これをSi-O-Si結合角に当てはめてみると、図 3-3(c) のように約147°(α-石英の結合角:6-1(1) 参照)になることが予想される もちろんこれらの結合角は、共有結合のみ考慮に入れた場合に適用されるわけであるが、Si-O結合のように、結合力の強いものほど酸素の原子半径(表 6-3 参照)が犠牲的に縮小するものと仮定した 更に図 3-3(c) から分かることは、Si-O-Si結合角は約90180°の範囲内で変動できるが、Si原子同士が接触する 90°以下にはできないと言うことである

図 3-3 共有結合における酸素原子の電子軌道と結合角
図 3-4 SiO4四面体の成す極限状態のSi-O-Si結合角

  一方、Si-O-Si結合を、イオン結合の観点から SiO4四面体同士の連結としてとらえた場合、図 3-4 の(a)(b)に示したように、SiO4四面体の面(3個の酸素イオン)や稜(2個の酸素イオン)を共有して結合することはできない つまり、これらの Si-O-Si結合角が 90°以下になってしまうからである しかし、SiO4四面体の頂点(1個の酸素イオン)のみ共有して連結している限り図 3-4 の(c)(d)(e)のように、酸素イオン同士の反発力を無視すればかなり小さな結合角を取ることができ、実在する珪酸塩鉱物にはこのような結合角を成しているものもある 従って、Si-O-Si結合とは、言わば 110180°の比較的自由な角度が取れる、軸回転に制限のない“ボールジョイント”のようなものでスプリングを内蔵しているため、147°以外の角度にするには多少の力(エネルギー)を必要とするのである また、この角度の微妙な変化は SiO4四面体の連結方式にも影響し、珪酸塩鉱物の晶出条件とも深い関係がある

(2)SiO4四面体の連結角に及ぼす温度・圧力と水分の影響
  ここで、前項で述べた“Si-O-Siボールジョイント”のスプリングを引き伸ばす(あるいは押し縮める)エネルギーとは何かまた、これを制限する(あるいは自由にする)条件とは何かについて考えてみる必要がある
  SiO4四面体をイオン結合として見た場合、4個の酸素イオンの成す四面体構造の空隙に珪素イオンがぴたりとはまり、O-Si-O結合角を変えることができないことは既に述べた しかし、Si-O-Si結合角をSiO4四面体同士の連結角として考えた場合前述のごとく、比較的自由な角度と制限の無い回転が与えられたものの別々の四面体を構成する酸素イオン同士の反発力が無視できなくなる つまり、同じ四面体内の酸素イオンはその位置を変えることができないため酸素イオン同士の反発力は、直接SiO4四面体の連結角に影響を与えているのである 酸素イオン同士の反発力は温度が高いほど大きくなるため、Si-O-Si結合角を押し広げる要因は温度であり、逆に、これを押し縮める要因は圧力であると考えられる そして、両者の微妙なバランスによって、Si-O-Si結合角が決定されると言うことができる 2-3(4)で述べた石英(あるいは珪酸塩鉱物)の生成条件はまさにこの考え方に基づいているわけで温度・圧力のバランスは、前章の図 2-4 に示した水蒸気密度曲線と平行な位置関係にあることがよく理解できる
  しかし、珪酸塩鉱物が形成された環境は、圧力の非常に高い地中深い所で、多量の金属イオンが共存していた場合が多く、これらの金属イオンは、SiO4四面体あるいはその連結体(ポリ珪酸イオン)とイオン結合によって強固に結びついている そして、いかに温度が高くてもその連結角を自由に変えることはできず基本的には最密充填構造を崩さない範囲内でかつ共存する金属イオンの大きさに合わせて連結角が変わるものと考えられる このような密な状態で、最密充填を保ちつつSiO4四面体の連結角(Si-O-Si結合角)を変え得るのは隣り合う四面体の稜同士の見通し線を軸とする“連結軸”(図 3-6 参照)の比較的自由な回転のみである
  温度・圧力のバランスがSiO4四面体の連結角に直接フィードバックされるのは、次項で詳しく述べるように、珪酸塩鉱物の進化と分化(比重差によりマグマ中を上昇)が進み圧力が低下すると共に水分が十分に存在するようになってからのことである 従って、この豊富に存在する水分こそ、珪酸塩鉱物の最も進化した形である石英の形成に欠かすことのできない条件だったと考えられる

(側面図) (正面図) . (平面図) . (側面図) (正面図) . (平面図) .
図 3-5 SiO4四面体の各種連結型と連結角(太い線は四面体の面を横から見た部分)

  図 3-5 に各種珪酸塩鉱物におけるSiO4四面体の連結型を示したが、図中(a)は高圧型で輝石や角閃石などの原始的な珪酸塩鉱物に多く見られ(e)と(f)は高温型として、石英(シリカ)の変態(多形)に見られるものである そして、(d)が変形して連結角が小さく(146.5°)なった低温(低圧)型のα-石英や、(b)の(中温)中圧型としての長石は、前項でも述べたように比較的エネルギーレベルの低い安定した連結角と考えることができより進化した珪酸塩鉱物に多い連結方式である
  また、同じ連結角でも、Si-O-Siの結合軸を中心に回転することにより、面対称のcis型と点対称のtrans型に分かれる場合がある 両者の違いは単に温度条件の違いにより酸素イオン同士の反発力が酸素イオン間の距離の差となって現れたもので上の図 3-5 の(e)と(f)の比較からも分かるように、通常、trans型のクリストバライトはcis型のトリジマイトより高温状態で形成され易い(5-1節参照) また、cis型はより高圧条件下で最密充填を優先した場合に現れ、trans型は低圧条件下でより自由な連結をした場合に現れる傾向もある
  いずれにしても、珪酸塩鉱物の進化の過程で原料となったマグマが上昇するにつれ、SiO4四面体の連結角はマグマの圧力低下と共に拡大し続けるのである しかし、火山の噴火などでマグマが急上昇し圧力が急激に低下した場合は、高圧状態で安定なcis型が、結合軸の回転なしに連結角のみ押し広げられて高温cis型として残るため、進化の終着駅はトリジマイトということになり易い 一方、水分が少なく粘性の高いマグマが地中深い所で冷えて固まった場合は圧力低下より温度低下が優先するため連結角の拡大は起こらず、進化も停止してしまう場合が多い
  従って、珪酸塩鉱物の進化する条件を、SiO4四面体の連結角の拡大としてとらえた場合、マグマ中の適度な水分と、ゆっくりとしたマグマの上昇が必要となる マグマ中の水分は、その水蒸気圧により、温度の低下と共に圧力をも低下させる働きのほかマグマの流動性を増して、進化することによって比重の小さくなったマグマをゆっくりと上昇(分化)させる働きを持っている つまり、珪酸塩鉱物の理想的な進化は、前章の図 2-4 で示した水蒸気密度曲線よりも少し傾斜の緩い(温度低下よりも圧力低下の方がわずかに大きい)曲線上で起こるものと考えられこの場合の進化の行き着く先は石英以外の何物でもない

(3)マグマの温度・圧力や水分量の段階的変化に伴う連結角の変化
  それでは、原始地球時代の後期に、中〜大型隕石の衝突によって形成され、分化作用が進むにつれて、ゆっくりと上昇を開始したマグマ溜まりから、温度・圧力の低下と水分の濃縮に伴って段階的に晶出したと考えられる各種の珪酸塩鉱物を例にとり、SiO4四面体同士の連結角が変化する様子を見ていくことにしよう モデルとなるSiO4連結体は単鎖状の連結体に統一しその変化していく構造を下の図 3-6 に表した モデルとしては、独立型や複合型でも構わないが、これらの単純なSiO4四面体から、複雑な層状や網状の連結体を直接形成することは、3-3(1)で述べるように潤沢な水分が存在しない限り不可能に近いからである
  一方、原始マグマの初期の温度・圧力条件は、深さ50100kmに相当する1530千気圧と、原始マグマが完全に溶解する1500℃程度が想定される しかし、本項においては温度と圧力のバランスを重視し各段階における温度(T)と圧力(P)の相対的バランスを〔 〕内に表した もちろん、T=Pの関係は、(図 2-4 に示した)水蒸気密度が 0.60.7(g/cm3)の曲線上における、石英の晶出に適した温度・圧力条件である そして、各段階での水分(高密度水蒸気)の濃度(wt%)と、おおよその水蒸気密度(g/cm3)を( )内に示しておいた

a)最密充填型モデル〔T≪P〕(<1wt%,>0.8g/cm3
  4-1節で述べる最密充填型のモデルで、単鎖状の連結体としては天然にはほとんど存在しないが、よく似た配列のものに独立型のカンラン石やザクロ石などがある また、このモデルは、図 3-4(c) に示した極限状態の連結角を成しこれ以上温度を上昇させると酸素イオンの反発力により、SiO4四面体の連結が切断されることが考えられる コンドライト隕石にかなり含まれていた単鎖状の輝石も超高温・高圧の原始マグマ中では一旦分解されて、独立型のSiO4四面体として再出発(2-2b,c式参照)したであろうことが、構造的見地からもよく理解できる
  このようにして形成されたカンラン石やザクロ石の結晶は、原始マグマ中を比重差で沈降(分化)し、残った融液(マグマ)は上昇するために圧力が優先して低下する また、文頭の表 3-1 に示した地球の表層100km圏の鉱物組成を、そのまま原始マグマの組成と考えれば、独立型の珪酸塩鉱物は50%以上を占めているため、融液中の水分も約2倍に濃縮される

b)高圧cis型モデル〔T<P〕(12wt%,0.70.9g/cm3
  温度よりも圧力が優先して低下すると、SiO4四面体の連結角が押し広げられることは前項で既に述べた しかし、絶対的な圧力がまだ十分に高い状態では、自由な連結角を取ることができず基本的には最密充填に近い配置を保たなければならない 幸いにも、水分がかなり濃縮されているために下の図 3-6 に示した連結軸を中心に、SiO4四面体の回転が起こると考えられる 結果的に最密充填型を大きく崩すことなくひとつ置きの四面体が連結軸を中心に約110°回転することによって、高圧cis型の連結角(141°)に拡大できるのである

a)最密充填型
(a-1)カンラン石など
 (奇数番のみで連結無し)
b)高圧cis (b-1)輝石,角閃石,雲母
c)高圧cis
  高温trans
   Mix
(c-1)中間体 (実線)
     ↓〔降圧〕
(c-2)トリジマイト(点線)
同上 (c-1)中間体 (点線)
     ↓〔降温〕
(c-3)長 石 (実線)
d)中温
   trans
(d-1)中間体 (点線)
     ↓〔水分濃縮〕
(d-2)β-石英(実線)
e)高温
   trans
(e-1)クリストバライト
     ↓〔降温〕
(e-2)トリジマイト(点線)
図 3-6 単鎖状SiO4連結体をモデルとした珪酸塩鉱物の進化と基本構造の変化

  そして、単鎖状の輝石が晶出し始め比重差で沈降する 残った融液はゆっくりと上昇して水分も更に濃縮されるが、絶対的な圧力がまだ高いためと水分の量がまだ不十分なために自由な連結角を取るには至らず、軸(連結軸に直角)方向の連結のみ進んで、複鎖状の角閃石や層状の雲母を順次晶出することになる また、これらの結晶と残った融液の比重差が次第に小さくなるためマグマの上昇も次第に停止すると考えられる 従って、層状の雲母が晶出し始める頃、マグマの周囲からの温度低下が優勢となり残った融液は花崗岩(流紋岩)質のマグマとして周囲の固化した岩体の空洞中に閉じ込められる場合が多くなる しかし、相対的には前半でのマグマの上昇による圧力低下が大きく、この間、水分も2倍以上に濃縮されている

c)高圧cis高温transMix型モデル〔T≦P〕(25wt%,0.60.8g/cm3
  このように、温度低下よりも圧力低下の方が大きく、水分も2%以上に増えてくると、最密充填型を部分的に崩す動きが出てくる つまり、上の図 3-6(c-1) にも示したように四面体が連結軸を中心に更に回転することにより、部分的に高温trans型(圧力の低下のみでも生ずる)の連結になることが考えられる もちろん、絶対的な圧力もかなり低下し水分も増加している状況下では、高圧cis型と高温trans型の連結は、両者の連結角が互いに接近して中間的な連結になっていることや連結軸自体もかなり歪んでいるであろうことは容易に想像がつく また、この連結型は、温度・圧力が共に低下して形成された流紋岩質マグマに限定されるものではない 図 2-4 に示した c)コースのように、原始マグマの位置が浅く、圧力が低過ぎた場合などには同じような現象(連結状態)を起こすことが十分に予想されるのである
  そして、両者共に温度が優先して低下し始める(密閉された空洞内では、水蒸気密度曲線に沿って圧力も低下する)と、上の図 3-6(c-3) のように部分的な連結角の縮小(クランクシャフト状の折れ曲がり)が起こると同時に、軸方向の連結のほか、軸(軸と直交)方向の連結も進んで網状の連結体を形成する つまり、前者の流紋岩質マグマではアルカリ長石がまた、後者の浅いマグマ中では斜長石を晶出するわけである このような複雑な単鎖状連結体がクランクシャフト状に折れ曲がる原因は、Al-同形置換によって取り込まれた、イオン半径の大きなアルカリ金属イオン(Na+K+)やカルシウムイオン(Ca2+)が、部分的な突っかい棒の役目をするためと考えられる 前者の閉じられた空洞内における流紋岩質マグマの場合アルカリ長石を多量に晶出することによって体積が縮小(溶融体よりも結晶体の方が密度が大きい)し圧力は更に低下したものと考えられる また、長石晶出後のマグマ中の水分は更に2倍以上に濃縮されることになる

d)中温trans型モデル〔T=P〕(510wt%,0.60.7g/cm3
  雲母と長石を晶出した後の流紋岩質マグマは、水分が5%以上に濃縮され、金属イオンをほとんど含まない残漿(ざんしょう:水分が多いために、粘性が著しく低下したマグマ)となる この残漿中の単鎖状連結体は、圧力が低いために最密充填構造から完全に開放され連結軸を中心として自由に回転するほか豊富な水分の影響で図 3-6(d-2) のような“螺旋(らせん)構造”が現れる そして、3回らせん軸対称の「SiO4らせん体」となり、軸(面)方向に連結が進んで、β-石英(連結角155.5°)を晶出するのである
  圧力の制限(最密充填)から開放された単鎖状の連結体が、らせん構造を取る大きな原因は、その時の温度・圧力のバランスによる、SiO4四面体の連結角を変えることなく、高温時における酸素イオン同士の反発力で、よりtrans型に近い連結に変わることと、近接する四面体の影響(反発)を受けるためと考えられる このことは取りも直さず、石英の原料となったSiO4連結体が単鎖状の連結体であったことを意味している 独立型や複合型では、環状の連結体を形成してしまうからである
  単鎖状の「SiO4らせん体」が、軸方向に連結して石英を晶出するためには、らせん回転にある程度の周期性を持たせなければならない しかし、上の図 3-6(d-2) に示した3回らせん軸対称を2回らせん軸対称に縮めると、らせん体の連結角は (a-1)と同じ 109.5°になってしまい、逆に4回らせん軸対称に拡げた場合は下の図 3-7(d-3) のクリストバライト型(連結角180°)になってしまうのである 従って、多少の温度・圧力条件の違いによる、らせん軸対称のずれは、軸方向の連結が開始されると容易に修正されるものと考えられ、いかに「SiO4らせん体」が3回らせん軸対称になり易いかがよく分かる
  一方、α-石英の単結晶である水晶などが晶出した条件は、その連結角(146.5°)がβ-石英よりかなり小さいため、晶出時の圧力が通常より高かったかあるいは温度が低かったかのいずれかである そして、その材料となった「SiO4らせん体」は、連結角がβ-石英より小さいためにかなり縮みあがった状態になっているが、軸方向に連結する際には、やはり3回らせん軸対称まで押し拡げられて三方晶系の結晶となるわけである しかし、その連結角は容易に変えることができないため、5-1(5)で詳しく述べるように、SiO4四面体が軸方向に首を振ることによって、連結角を小さく保っていると考えられる

e)高温trans型モデル〔T≫P〕(25wt%,<0.1g/cm3
  流紋岩質マグマが高温状態のまま火山の噴火などで地表に噴出した場合、圧力が急激に低下するため、単鎖状の連結体は、上の図 3-6(e-1)のような連結角が 180°の高温trans型に変化する そして、そのまま軸と軸方向に連結が進んで、クリストバライトを形成するのであるが噴出したマグマの中心部で温度がゆっくりと低下した場合は、(e-2)に点線で表したように部分的な高温cis型の連結が出現し、トリジマイトに変化することがある
  トリジマイトは、高温trans型と高温cis型が交互に並んだ単鎖状の連結体から形成されている つまり、長石の原料となった(c-1)の連結体の高圧cis型の部分が、やはり点線で示した(c-2)の様な高温cis型の連結に変化した場合でもトリジマイト型の連結体になり得ることが分かる このことは、高温・高圧の長石の融体を圧力のみ急激に低下させた場合にもトリジマイトが形成される可能性を示唆している

図 3-7 単鎖状「SiO4らせん体」の高温時における構造変化

  事実、1-6(3)で述べたように微惑星の衝突で生じた エコンドライト(隕石)中には斜長石から変化したと思われるトリジマイトが かなり含まれている また、石英をほとんど含まないはずの玄武岩などの噴出岩に含まれているトリジマイトは斜長石から変化したものと考えられその延長線上にはクリストバライトの形成も可能性を帯びてくる
  しかし、いかに玄武岩質マグマが高温(1200℃以上)でもクリストバライトが形成される温度(1470℃)には程遠く、ましてや流紋岩質マグマ(750℃以上)から 直接クリストバライトが晶出するには 何らかの融剤が必要となる 幸いにもトリジマイトやクリストバライトが 長石から変化したとすれば斜長石中のナトリウムイオン(Na+)やアルカリ長石中のカリウムイオン(K+)が、これらの晶出温度を 著しく低下させたと考えられる 融剤として作用したイオン半径の大きな アルカリ金属イオンは多量のAl-同形置換と同時にトリジマイトやクリストバライトの 大きくなった結晶空隙に取り込まれ低温時におけるこれらの構造を より安定なものにしている
  一方、一度結晶化した石英が 地中深い所で超高温のマントルマグマの貫入を受けて温度が急上昇するとクリストバライトやトリジマイトに変化(転移)する場合がある この機構は、上方の図 3-6(e-1,2) のような、直線状の連結体を経て形成されたのではなく(d-2)のらせん状の連結体から生成したものと思われる つまり、石英を構成している「SiO4らせん体」が、温度の急上昇に伴う連結角の拡大により、軸方向の連結が切断されて、4回らせん軸対称まで押し拡げられてしまうのである そして、再び連結の相手を換えて結合することにより図 3-7 の(d-3)に示したような形でクリストバライトを形成するものと考えられる
  しかし、この4回らせん軸対称の「SiO4らせん体」からトリジマイトを形成するためには、図 3-7(d-4) のように、SiO4四面体が4個置きに、連結を 180°回転させて高温cis型に変わる必要がある 従って、余程水分の多い環境下でないと、「SiO4らせん体」から直接トリジマイトを晶出することは不可能に近い このことは、5-1(1)でも詳しく述べるが水分の影響がほとんど無い状態で石英を加熱した場合石英→トリジマイト→クリストバライト→融液という段階的な転移は起こりえず通常はトリジマイトをパスして直接クリストバライトに転移する また、急速に加熱した場合はクリストバライトをもパスして比較的低温のうちに溶融を開始してしまうのである

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