6CA7の3結特性を求めて

(MJ 1994.1 所収)



 最近,6CA7の3結プッシュプルによるパワーアンプを設計しようと思って,真空管の規格表をいろいろ捜したのですが,なかなか3結特性が載っていません.ラジオ技術社の「オーディオ用真空管マニュアル」に載っているのを発見し,さっそくこれを使って設計を始めたのですが,どうもおかしいのです.


3結特性はにせものだった!

 6CA7の3結では,A級シングルとAB級プッシュプルの二つの動作例が発表されています.ところが,この動作例が,特性曲線上に乗らないのです.動作例は自己バイアスなので,換算したEp,Eg1の値を表1に示します.A級シングルの動作例では,プレート電流Ipが70mAとなるはずですが,図1に示す特性曲線では110mA程度流れることになります.AB級プッシュプルの動作例では65mAのはずが,グラフからは100mAと読めてしまいます.5極管接続の特性曲線は,他のマニュアルにも全く同じものが載っているので確かなものだと思うのですが,そこからプレート電圧とスクリーングリッド電圧の等しくなる点(Ep=Eg2)を抜き出して3結特性と比較してみると,差が小さすぎます.すなわち,スクリーングリッド電流Ig2が少なすぎるのです.この3結特性は実に直線性のよいきれいなグラフですが,以上の考察から,どうやらにせものであることが判明しました.歪率の計算などのために,真空管の特性曲線から細かく値を読もうとすると,不自然な部分が気になることはよくあるのですが,これはちょっと使いものになりません.というわけで,何を根拠にして設計を進めたらよいか行き詰まってしまいました.

パソコンで特性曲線を描く

 実は,パソコンに真空管の特性曲線を描かせるプログラムを以前から使っているのですが,これを使って5極管特性や3結動作例と矛盾のない3結特性曲線を描かせてみたのが図2です.まだ,パラメータを完全に合わせこんだとは言えないので,暫定版としておきます.スクリーングリッド電流のデータが少ないため,本当はいろいろ実測して確かめたいところです.このグラフを図1と比較してみると,Eg=0Vの特性はほとんど同じであることが読み取れるでしょう.つまり,最大出力を計算するだけなら,図1のグラフでもたいして変わらないのです.しかし,バイアスを深くしていったときの特性はかなり異なります.図2の方がμが大きく,カットオフからの立ち上がりが図1ほどきれいではありません.実を言うと,図1を見て美しい特性だと思ったからこそ,6CA7を選んだので,ちょっとがっかりです.とは言え,プレート電流も大きく流せるし,そこそこきれいな特性なので,他の球との比較からは,使いやすいよい球だと言えると思います.