坂本 幹彦

海軍少佐

 

昭和19年10月には、在支米空軍の情報が頻繁に入電する態勢が整ってきており、11月21日にも

支那派遣軍から的確なB29出撃状況がもたらされた。

0910佐世保海軍地区が空襲警報を発令、大瀬崎・宇久島・田島岳の順にレーダーが目標を捕捉。

352空では、0820から0930の間に月光8機を離陸させ、0935男女群島上空の月光がB29編隊

を捕捉、攻撃した。

352空飛行隊長・神埼国雄大尉率いる零戦31機、雷電16機は、0904から0920頃、逐次発進。

この日の雲量は6乃至9で7,000mまで層雲があった。戦闘機隊は高度7,500mで大村地区に侵

入する米編隊を捕捉した。

大村空からは、零戦21機が発進、352空戦闘機と協同して邀撃戦闘を行った。

邀撃戦闘は味方戦闘機1〜2機が、敵の数機乃至10数機の編隊を各個に攻撃する形で実施され、

従来の20ミリ機銃のほか、編隊攻撃用として特に開発された30キロ三号爆弾を加えて果敢な攻撃

を行い、敵米編隊を攪乱した。

 

352空の坂本幹彦中尉(兵71期)は、零戦で三号爆弾を投下後、上方からの攻撃で銃撃。さらに

敵を追って編隊外側のB29に上方から体当たりした。

坂本中尉機は諫早市長田町から高来町の山中に飛散、坂本中尉は落下傘が開かず、長崎県北高

来郡高来町深海榎堂の東北、割石地区の山中に落下、戦死。

坂本中尉は前夜、期友に「体当たりする」と言い遺している。

 

坂本幹彦海軍中尉(兵71期):前列中央

 

一方、坂本中尉機に撃墜されたB29は、長崎県北高来郡小長井村の小川原海岸沖1キロの有明海

に垂直尾翼だけを出して墜落した。

機長以下の搭乗員11人全員が死亡。このうち10人の遺体が引き上げられ、現場付近に埋葬。

戦後になって長崎市目覚町の外人墓地に改葬、昭和20年9月に米軍が回収。

残る一人は、右翼砲座を吹き飛ばされ、海上にパラシュート降下したが溺死。遺体は12月に佐賀

県藤津郡多良村の海岸に漂着し村人によって埋葬された。

 

昭和19年12月 1日、第二十一海軍航空廠(大村)の格納庫へ運び込まれたB29の残骸

 

この邀撃線における坂本中尉の武勲は全軍に布告され、海軍少佐に特進した。352空に対して、

東久遷宮防衛総司令官及び、杉山佐世保鎮守府司令長官からそれぞれ部隊感状が授与された。

 

坂本中尉の戦死から49日目の昭和20年1月8日、深海地区の少女等三名が山中に薪取りに行き

発見、深海の蓮行寺で通夜が行われた。

坂本家ではご遺族が四十九日の法要をされている最中に、遺体発見の連絡がなされた。

 

平成 4年、坂本中尉の墜落現場に地元の人によって慰霊碑が建立された。

また平成 5年、小長井町の石材業・馬渡廣雄さんは、私有地内にB29搭乗員11人の氏名を記し

た鎮魂碑を建立された。

 

多良岳山中

長崎県北高来郡高来町

坂本幹彦海軍少佐慰霊碑(墜落地点)

坂本幹彦中尉終焉の地

去る第二次世界大戦において 坂本幹彦中尉は昭和十九年十一月二十一日 零式戦闘機に搭乗し

米国重爆撃機B29に体当りを敢行 之を小長井町沿岸に撃墜す

二階級特進により少佐に進級 縦六位勲六等功四級 旭日中綬章

海軍兵学校 七十一期

佐賀県相知町出身 享年二十一才

平成四年十一月建立

 

  

坂本幹彦海軍少佐慰霊碑(墜落地点)

 

蓮行寺

長崎県北高来郡高来町

坂本幹彦海軍少佐の通夜が営まれた寺

 

小川原浦海岸

長崎県北高来郡小長井町

B29搭乗員鎮魂碑

碑文

山裾の暖かそうな こゝに鎮めます

 

機長ジョセフ キルプルー    大尉

 ボール ミークス      中尉

 エムズリー エーガス    中尉

 アール ハインズ      中尉

 スピリット オビアール   少尉

 エドワード モンロー  二等軍曹

 ジョン ノーマンジュニア二等軍曹

 ウィンセント シェリダン二等軍曹

 ルーサー ヤング    二等軍曹

 ゲイル コーネリアス  三等軍曹

 ゴールドン チャード  三等軍曹

上記11名 1944.11.21 この海で戦死 この碑を建立しご冥福を祈る 1993

 

  

    B29搭乗員鎮魂碑                            撃墜されたB29の尾翼(当時の写真)

 

木下和郎(小長井町出身の詩人)詩碑

昭和十九年 秋

.                         わたしたちは やたらにわめき走りまくった

.                         いっときもしゃべらずにはいられなかった

.                         どんなにみごとに命中したか 銀の翼がどんなに輝いたか

.                         いかに ゆっくり 落ちていったか

.                         尾根を越え 部落を越えて 走ったのだ

.                         みんなの証言は どこかすこしづつ違っていた が

.                         だれのことばも だれの言うことも みんな信じられたのだ

 

.                         尾翼だけが海面に突っ立っていた

.                         トラックの上には すでに 引揚げられた飛行士がころがしてあった

.                         どよめく群集に向って 髪の毛をつかみ ぐいとあげられたその顔は

.                         桜色の 少年のおもかげをもっていた

.                         はじめて鬼畜をみた やすらかな ねむりの 姿勢だった

.                         その頬に消防団員の平手がとんだ

 

.                         わたしは少年飛行士となるはずだった 異郷の地に華と散るはずだった

.                         わたしは わたしのまぶたが ぬれるようにかんじられた

 

坂本機に撃墜されたB29が墜落した小川原浦海岸

 

本土防空

更新日:2010/03/07