朝日新聞 1999年9月8日朝刊「論壇」

TV番組の録画テープ発掘を

滝沢 修 (たきざわおさむ)

 郵政省の「放送番組の保存の在り方に関する調査研究会」の報告書が、七月にまとまった。放送番組は文化資産だと位置付け、テレビ局など放送事業者や番組制作者、NHKや民放テレビ局が協力して設立した「放送番組センター」などの公的機関が自ら、あるいは互いに連携して番組の保存を進めるよう求めるとともに、国はそうした公的機関の収集・保存活動を円滑に進めるため著作権法など法制上の措置や財政支援を検討する必要があると訴えている。

 最近、テレビ局などは番組再利用という事業上の要請から、自社保存している番組のデータベース化に積極的で、番組の保存という点では望ましい風潮になっている。その一方で、テレビ局などに残っていない過去の番組を視聴者から発掘する取り組みは、まだほとんどなされていない。研究会も、個人が公的機関へ映像資料を寄贈するための手続きの整備に言及してはいるが、その重要性や発掘の具体的な施策についてまでは、踏み込んでいない。

 ベータ方式やVHS方式の家庭用VTRが相次いで開発され、一般家庭へのVTRの普及が進んだのは一九七五年以降だが、それ以前にもオープンリール式などの家庭用VTRがあった。高価だったが家電店を通じて広く販売されており、七五年以前の番組も相当な数の録画が全国の家庭に眠っていると考えられる。

 この時代の番組はテレビ局などにも保存されていない貴重なものが多い。例えば、七一年から七二年にかけてNHK総合テレビで放送された人気時代劇「天下御免」は、主演の山口崇氏が個人的に録画保存しているものが唯一現存するテープとされている。同じころ放送され、当時の少年少女に絶大な人気を博したSFドラマ「タイムトラベラー」は長い間、録画が全く現存しない幻の番組と言われてきたが、最近になって最終回のみ保管している視聴者が見つかり、私を含む複数のマニアがインターネット上で呼び掛けたことが契機となって存在の周知とNHKによる一部再放送が実現した。

 六0年代後半から七0年代前半の番組は、家庭の押し入れで眠っている録画テープを地道に発掘すれば、失われたとあきらめられていたものでも見つかる可能性がある。

 だが、家庭で録画したテープは放送への再利用に耐えない画質である場合が多い。そのためテレビ局などの自発的・積極的な発掘には期待できない。しかし、画質が悪くてもほかに保存されていない番組ならば、文化資産としての価値は高い。またテープが個人の所有でも、テレビ番組は公共の財産とみなすべきである。

 私は今の職場とは関係なく学生時代から、放送番組の保存に個人的に関心があり、今年五月、三十歳代の仲間十数人と、NHKの過去のドラマシリーズに対象を絞って録画テープなどの発掘を呼び掛ける「少年ドラマシリーズ復刻プロジェクト」を始めた。だが、市民の活動には限界がある。国の予算措置で、テープ提供の呼びかけや復元装置の整備を進められないだろうか。

 業務用テープより劣化が早いであろう家庭用テープにとって、発掘のために残された時間は少ない。著作権など法的な問題をクリアすることは必要だが、それは後からでも可能だと割り切り、まず発掘を急ぐことが重要だ。発掘収集した録画の取り扱いは、閲覧可能な図書館方式にこだわらず、当面は所在情報以外を非公開にしたタイムカプセル方式でもいい。また、自分が所有する録画テープの貴重さに気づいていない視聴者への幅広い啓蒙や提供者に対する見返りなども検討しなければならないだろう。

 二十世紀を代表する文化資産であるテレビ番組は、できるだけ完全な形で後世に伝える責任が我々にはある。風俗や言葉の変遷などを時間軸に沿って統計的、科学的に分析するためにも、名作だけでなく網羅的に収集の対象にすべきである。

 これまでの保存状況は、ピースがほとんど残っていない未完成のジグソーパズルのようなものである。完成したパズルによってのみ、テレビ番組を通じた二十世紀の風俗文化を完全な形で後世に残すことができる。欠けているピースを少しでも多く見つけるために、テレビ局などだけでなく視聴者にも広く協力を求める施策が急務ではないだろうか。


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