京都大学工学部電気系工学教室同窓会「洛友会」会報 平成15年1月号

テレビ五十年と番組保存

滝沢 修 (昭和六十年卒)

 今年は、我が国でテレビの本放送が始まって五十年となる節目の年です。テレビは日常生活に欠かせないものとなり、本会会員の中にも、テレビ業界やAV機器メーカーにお勤めの方が多いと思います。

 皆さんは、過去のテレビ番組の録画テープ(あるいはフィルム)が、制作局にどれくらい保存されているものなのか、お考えになったことはあるでしょうか。実はスタジオ制作番組に限ると、一九七〇年代以前の分については、保存されているのが極めて少ないのが実態なのです。一九七〇年代までは、放送用ビデオテープは高価であり、録画と消去を繰り返して使用するのが一般的でした。それに加えて、放送事業者であっても録画を六ヶ月以上保存するには「公的な記録保存所への移管」の手続きが必要という著作権法上の制約もあり(第四十四条の三)、録画は積極的に消去・廃棄する方針になっていました。まさに放送とは「送りっ放し」だったのです。また家庭用でも、ソニーがベータ方式のビデオデッキを世に出した一九七五年(ホームビデオ元年と呼ばれています)までは、機器もテープも高価で、一般庶民が録画を保存することはままなりませんでした。

 テレビ番組は、その時代を最もよく反映している記録であり、名番組に限らず、あらゆる番組を網羅的に残し、後世に伝えていくべきだったと考えられます。風俗や言葉づかいの変遷をたどるのにも、断片的でなく網羅的な保存継承がなされていて、初めて定量的な検証ができるのです。

 私がテレビ番組の保存問題に関心を持ったのは約二十年前の学生時代で、テレビが三十周年を迎えた頃でした。三回生の春休みに、東京の某民放キー局に三週間ほど滞在して技術研修を受けたことがあります。私はその機会に、同局の関係者に番組遺産の発掘、整理、継承が急務であることを力説し、各放送事業者が局内に設置している「公的記録保存所」を見学したいと申し出たのですが、「ただの倉庫だよ」と軽くいなされて相手にされませんでした。当時のテレビ制作者は、番組保存についての意識がまだ高くなかったことがうかがえます。またフジテレビが局舎をお台場に移転した際に、映画シリーズ化される前のテレビドラマ版「男はつらいよ」(一九六八年放送)を始め、多くの番組テープを保存状態不良の理由で廃棄したとも聞いています。番組保存に比較的熱心とされるNHKでも、大河ドラマや紅白歌合戦すら完全には残っていないのが実情なのです。

 対照的に米国では、時差のある広い国土で時間差放送を実現するために、録画が早くから発達していました。たとえば有名な「エドサリバンショー」は、一九五五年から十六年間の全録画が完全に現存しています。

 書籍には国立国会図書館があり、新聞には縮刷版があります。しかしテレビ番組については、収集保存の努力が近年までほとんどなされていなかったのです。失われた文化遺産は取り返しがつきません。テープが高価だったとしても、たとえば公的な資金の投入による網羅的な保存は可能だったはずで、なぜ早くから取り組まれなかったのか、つくづく悔やまれます。

 しかしながら、僅かな希望も残されています。放送事業者があてにならないのであれば、草の根を分けて視聴者から探し出す手段があります。一九七〇年代以前の番組を、当時は高価だった家庭用VTRで録画保存している人が少数ながらいました。そのテープは現在の再生機にはかからないこともあり、テープの貴重さに気づかずに廃棄されてしまう恐れがあります。また廃棄をまぬがれていたとしても、テープの劣化は進行します。このような秘蔵された貴重なテープを、インターネットという武器によって発掘し、世に出す動きが、マニアたちによって本格化しています。私も、朝日新聞「論壇」欄へ投稿を掲載して世論を喚起する試みをしました。

 このような活動の成果の一つとして、NHKで一九七二年に放送された少年ドラマシリーズ「タイムトラベラー」の発掘があります。このドラマは放送当時からマニアの間で評価が高く、しかもNHKには現存しない作品のため、これまでにも録画が発見されたという噂が繰り返し出ては消えたほどの話題性を持っていました。一視聴者の家庭から今度こそ本物が見つかったということで、私を含む全国のマニアたちが復刻キャンペーンを張るホームページを立ち上げ、大きなうねりとなりました。そしてNHK技研の力で再生可能になったテープをもとに、DVDソフト化され、さらに「NHKアーカイブス」という番組枠での再放送まで実現しました。

 近年のテレビは多チャンネル化やデジタル化が進み、番組素材(コンテンツ)の不足が深刻になっています。またコンテンツを放送に使うだけでなく、さまざまなビジネスと結びつけることは今や当たり前になっています。古いコンテンツを発掘してよみがえらせることは、文化遺産の継承やマニアの興味からだけではなく、ビジネス面からの要請にもなってきています。

 テレビ五十年の今年は、過去の番組を振り返る機会が多いことでしょう。その陰に、消え去った二度と見ることのできない番組が多くあることにも、思いを馳せたいものです。そして、もしかしたら皆さんのご家庭の押し入れに眠っている録画テープが、制作局にも残っていない貴重な番組を記録しているかもしれません。


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