１番人気の皐月賞馬ネオユニヴァースが直線突き抜けて５連勝で２冠を達成。イタリアのミルコ・デムーロ騎手（２４）は外国人として初のダービージョッキーとなった。タイム２分２８秒５（重）。牡馬の春２冠はサニーブライアン以来６年ぶり。サンデーサイレンス産駒は出れば無敗の今季ＧＩ６勝。１／２馬身差の２着にゼンノロブロイ、３着にザッツザプレンティが入り、ＳＳ系が５着まで独占。２番人気サクラプレジデントは７着に敗れた。〔写真右：２冠達成の瞬間、右手を突き上げ、ファンの声援に応えるデムーロ騎手。同下：「サンキュー、ネオ」−。外国人として初めて日本ダービーを制して２冠ジョッキーとなったデムーロは、レース後、何度もネオユニヴァースにほおずりした＝撮影・金子貞夫〕

　サラブレッドの頂点を極める最高峰のレースで歴史が誕生した。皐月賞馬ネオユニヴァースが６年ぶり、史上１９頭目の春２冠を達成。デムーロ騎手は皐月賞に続くクラシック制覇で外国人初の日本ダービージョッキーとなった。

　「アリガトウゴザイマス！アンビリーバボー（信られない）。５回イタリアダービーを勝つより、１回の日本ダービーがうれしいよ」。ウイニングランから引きあげたほおが高潮している。そして、昨年の伊ダービーをラクティで制した際に見せた馬上から飛びおりるフライングディスマウントだ。わき上がる“デムーロコール”に、もう目は真っ赤だ。

　「自分の馬が一番強い」。ネオの強さを信じたデムーロが王者にふさわしいレースを見せた。４コーナーまで中団より後ろのインで脚をため、直線に入ると、馬場の真ん中を一直線に伸びる。先に抜け出したゼンノロブロイを競り落とした先が栄光のゴール。デムーロは右手を突き上げ、ステッキを回し喜びを爆発させた。

　ダービーを勝つため再来日したデムーロは前日から東京で騎乗。日曜も芝のレースで馬場状態を確かめ、勝利へのシミュレーションは得ていた。「ストレート（直線）は内も外も差はなかった。４コーナーではすごい手応えだったし、サクラプレジデントさえかわせば勝てると追ったよ」と満面の笑みだ。

　ネオは菊花賞（１０月２６日、京都、ＧＩ、芝３０００メートル）で６年ナリタブライアン以来、６頭目の３冠を狙う。２９日で３カ月の短期免許を消化するデムーロは菊花賞で乗れる可能性は低いが、「レースの度に強くなっているし、これ以上良くなると飛んでしまうくらい（笑）。世界の馬とも渡り合える素晴らしい馬だし、チャンス。ネオはボクのことが好きだし、乗りたい」と騎乗をラブコール。表彰式では３冠獲りを宣言するように３本の指を立てた。

　

★ネオユニヴァース 父サンデーサイレンス、母ポインテッドパス、母の父クリス、鹿毛の牡３歳。栗東・瀬戸口勉厩舎所属。北海道千歳市、社台ファームの生産馬で、馬主は（有）社台レースホース。戦績は７戦６勝。重賞勝ちは今年の皐月賞（ＧＩ）、フジテレビ賞スプリングＳ（ＧＩＩ）、きさらぎ賞（ＧＩＩＩ）に次いで４勝目。総収得賞金は４億４２４７万２０００円。瀬戸口勉調教師、Ｍ・デムーロ騎手はともに日本ダービーは初勝利。

★ミルコ・デムーロ １９７９年１月１１日生まれの２４歳。イタリア出身。９４年にイタリアで騎手免許を取得。０１、０２年ともに伊リーディング２位。伊ＧＩは９９年ジョッキークラブ大賞、００年伊オークス、共和国大統領賞、０２年伊ダービーの４勝。日本には平成１１年から短期免許で参戦。ＪＲＡ通算７３４戦１２２勝（６月１日終了現在）。重賞はネオユニヴァースで挙げた日本ダービー、皐月賞（ＧＩ）など７勝。今季は３１勝を挙げ、東西リーディング８位。

★瀬戸口師、２９年目にして初Ｖ

　調教師生活２９年目、７度目のチャレンジで最高の栄誉をつかんだ。「競馬人としての夢がかなった。ダービーを勝ててすごくうれしい。別格だね」瀬戸口勉調教師（６６）はにこやかな笑みで喜びを表した。直線では右手で何度も何度も机をたたき、声をからして応援。「相手はサクラと思っていた。道中は内で大丈夫かと思ったが、直線はいい脚で伸びてくれた」と振り返った。

　オグリキャップで名をはせたトレーナーは「オグリは素晴らしく強い馬。クラシック登録があったらと思ったが、その分も勝ってくれた。ネオの根性がある所は似ているね」と１５年越しの“雪辱”に感慨深げだった。

　ネオはこの後、北海道・千歳の社台ファームへ放牧の出される。秋は１回使って菊花賞。「秋の鞍上はこれから。折り合いはつくし、順調に調整を進めて勝ちたい」と意欲満々だった。

★吉田照哉さんガッツポーズ

　ネオユニヴァースが、サンデーサイレンス産駒５頭目のダービー馬になった瞬間、生産者である社台ファーム代表の吉田照哉さん（５５）は、白い歯をのぞかせ、ガッツポーズを作った。「落ち着いていてパワーがあり、本当に強い馬だね。どんな競馬にも対応できるし、サンデーの子の中では最良の牡馬になる可能性がある」と最大級の賛辞。ＳＳ産駒が皐月賞、ダービーの２冠を初めて制した意義は大きいとして、照哉さんは、社台ファーム創始者で生産の何たるかの薫陶を受けた父の故・善哉さんに「素晴らしいことを報告できる」と、眼を潤ませた。

　１着から５着までが社台グループの生産馬であり、また育成馬。ゴール前でのせめぎ合いに、照哉さん自身も目を疑い、身震いしたという。最強のＳＳ産駒になる可能性が高いユニヴァースなら、海外遠征への夢も広がる。デムーロ騎手も後押しするように、凱旋門賞（１０月５日）挑戦が実現すれば面白い。

★デムーロ菊花賞騎乗の可能性は？

　外国人騎手に交付される短期免許は１年間で３カ月までと決まっており、デムーロ騎手は、２月〜４月にかけ２カ月、さらに今回で１カ月分を取得しており、年内はＪＲＡの短期免許が交付されることはない。３冠がかかる菊花賞でネオユニヴァースの手綱を取ること難しい状況だ。

　ただし、菊花賞前日の１０月２５日に東京で行われる国際競走のＧＩＩＩ富士Ｓに外国馬が参戦し、その鞍上がデムーロ騎手に決定した場合は、免許が週単位で交付されるため、翌日の京都でも騎乗は可能。なお、今回の短期免許は３０日まであり、今週は安田記念でテレグノシスに騎乗。安田記念後はいったんイタリアに帰国するが、宝塚記念の週に再来日の予定。ただし、宝塚記念での騎乗馬は未定。