相対論的軌道収縮



<相対論的軌道収縮>

 電子の運動速度は,原子核が重くなるほど速くなるので,第6周期にもなると,電子の運動速度が光速に近づく。
 相対性理論によると,電子の運動速度が光速に近づくと,電子が重くなる。電子が重くなると,電子はより原子核の近くを運動する(軌道収縮)。
 s軌道は,他の軌道よりも内側にある。内側の軌道は,電子の運動速度が速く,より光速に近づきやすい。
 したがって,s軌道が他の軌道より収縮することになる。
 逆にs軌道に「遮蔽」されて,d軌道とf軌道は外に飛び出したようになる。



<水銀はなぜ液体か?>

 第6周期元素では,6s軌道→4f軌道→5d軌道→6p軌道の順に電子が入っていく。水銀は,6s軌道,4f軌道,5d軌道のすべてに電子が入っており,非常に安定である。
 電子が入っていく順序とは異なり,水銀は6s軌道の電子が最も外側に存在する。4f軌道と5d軌道の電子は速く運動しても,軌道の形から「遮蔽」効果が小さいため,6s軌道は相対論的軌道収縮を大きく受ける。ちなみに,水銀のイオン化エネルギーは希ガス並みに大きい。
 従って,自由電子を放出して金属結合することができず,「液体のまま」である。



<金はなぜ有色か?>

 水銀の項で述べたように,6s軌道は相対論的軌道収縮を大きく受ける。その結果,6s軌道が原子核に近づくので,軌道のエネルギーは「安定化」することになる。
 一方で,5d軌道は内側のs軌道に「遮蔽」されて,逆に軌道は広がり,エネルギーは「不安定化」することになる。
 この5d軌道と6s軌道のエネルギー差は2.4eVであるので,500nmの光を吸収し,黄色味を帯びる。

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