錯イオンの形について



 <軌道の形>

 第4周期の遷移元素の錯イオンの場合,s軌道とp軌道は満員であり,d軌道に電子が入ろうとする。そこで,d軌道について考えればよい。
 配位子は6配位(八面体)の場合,x,y,z軸上から配位する。
 八面体の場合,5つのd軌道のうち2つ(dz,dx−y)は配位子の方向を向いている。



 <Cu(+U)の錯イオンの形について>

 八面体の場合,5つのd軌道のうち2つ(dz,dx−y)は配位子の方向を向いているが,この2つの軌道に非対称に電子が入ると,正八面体にはならない。
 Cu(+U)には,d電子は9つある。電子が非対称に入ることに注意したい。
 八面体の場合,縦方向(dz)に2つの配位子が,横方向(dx−y)に4つの配位子が接近する。配位子が接近すると反発によりエネルギーが上昇するので,縦方向(dz)のエネルギーのほうが低くなる。
 そこで,縦方向(dz)に2つの電子が,横方向(dx−y)に1つの電子が入り,縦方向に伸びた錯イオンが得られる。
 これをヤーン・テラー効果という。

 dxy(↑↓)dyz(↑↓)dxz(↑↓)dz2(↑↓)dx2-y2(↑ )

 したがって,歪んだ八面体形をとるが,これを大学入試では「正方形」と称している。

 <Ni(+U)の錯イオンの形について>

 Ni(+U)には,d電子は8つある。正八面体の場合,5つのd軌道のうち2つは配位子の方向を向いているが,Ni(+U)ではこの2つの軌道に対称に電子が入る。

 dxy(↑↓)dyz(↑↓)dxz(↑↓)dz2(↑ )dx2-y2(↑ )

 正八面体の場合,縦方向(dz)に2つの配位子が,横方向(dx−y)に4つの配位子が接近するので,縦方向(dz)のエネルギーが低くなる。
 対称に電子が入っても,配位子の影響が強くなると,縦方向(dz)に2つの電子が,横方向(dx−y)に電子が存在しないようになる。

 dxy(↑↓)dyz(↑↓)dxz(↑↓)dz2(↑↓)dx2-y2(  )

 したがって,配位子の影響が強い場合,横方向にのみ配位し,正方形になる。

 例) [Ni(CN)4]2−
   ところが,配位子の影響が弱ければ,正八面体形になる。
    [Ni(H2O)6]2+



 <正四面体になる場合>

 @ 配位子が大きい。
 A 配位子の影響が弱い。
 B 中心金属の電荷が小さい。
 C d軌道に電子がないか,全部つまっている。

 <Al(+V)の錯イオンの形について>

 Al(+V)は,d軌道に電子がないので,正四面体構造かと思われるが,中心金属の電荷が大きいので6配位になる。
 水溶液中では,pHによって配するOHの数が異なることに注意したい。

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