"La Jollaからのボトルメール" 第五回
"Bottle-Mail from La Jolla" #5

(ザ・ロング・スタッフ)

平岩"Ted"徹夫6


 The Wrong Stuffを持ったguysの物語。Armageddonはそんなお話しだ。君はきっとロケットが好きなはずだ("Houston"を覚えているに違いない)。爆発も好きだろう(あ、おれのことか?)。だったら問題ない。きっと楽しめる、SF研のOBOGなら。


 UCSDで勉強を始めて1年が立つ。最近はようやく楽になった(夏休み時期だから当然かもしれんが)。昨年の秋から冬学期にくらべるとだけれど。授業を受け始めてから問題になったことはいくつかあるが、その一つに単語専門用語の問題があった(今もあるが...しくしく)。たとえばethanol:日本語では"えたのーる"、こっちでは"エセナル"。聞いてもすぐにはわからない。研究室の学生は、それぞれ母国語訛でしゃべるわけだし(えーと、ドイツ、オーストリア、ノルウェー、インド、中国、カナダ、アメリカ&日本)。理化学辞典をもってきたけれど、載っていない単語も多い。異なる意味で多用されるものも多い。いまDuo230PPC(最強最速のDuoである)に"研究社英和和英中辞典"をのっけて使用しているが役に立たないことがあまりに多いので、"American Heritage Dictionary"のCD版を購入した(たった10ドル!)。研究社の辞典はその筋では時代遅れということで相手にされていないらしいが、まったくそのとおりと思う。これから海外に行く人はもっと新しい辞書、"Genious"などを使用するといいかもしれない。間違っても高校時代、大学時代に使っていた辞書や、あのころいいといわれていた辞書を使ってはならない。日本の英語教育はとんでもなく変化しているのだそうだ(家内談)。言葉のはなしで思い出したのだが、"バイアガラ"は薬品名とナイアガラを合成した"ゴッズラ"並みのなさけない名前である。が、こんなにアメリカ人に一気に浸透した英語ではない名前は、"スプートニク"以来なのだそうだ。


 話を戻す。Deep Impactの時にもコメントしたと思うが、UCBerkleryやNASAの研究者が数年前恐竜のextinction(燃焼用語では消炎という意味だったりする)の原因が、ユカタン半島北側に落ちたmeteoriteによるという説を発表した。それと前後して、あるmeterorideの軌道を調べた結果、近い未来、地球に衝突するという研究発表がなされたりした。

注:わたしは区別できていなかったのだが、meteorideは使用前、meteroriteは使用後である。落ちてきたら名前がかわるということらしい。とんでもなく昔には彗星や隕石は気象の一部と考えられていたから、ちなみにこちらの英語の学校では、nauseousは"直前"、vomitは"手遅れ"だと教えるらしい。

 そんでもって世間を騒がせた結果、研究者たちはmeterorideの観測網をつくるということで金を手にできたのであった。それを見て、こいつは新たな金づるになるとHoll ywoodは考えた。その結果できあがったのが、Deep ImapctとArmageddonである。前者はcometだったが、今度はmeteorideである。が、結論から言おう。内容はまったくウリ二つである。壊しにいって、だれかは犠牲になって帰ってこない。でもそのおかげで地球はすくわれた.... それだけ。だが、味付けはまったく異なるしろものだった。


 だいたい主人公を、ブルースウイリスがやるんだから、これは結論が見えている。予告編を2度程みたが、爆発がないシーンの方が少ないくらいだった。だから"Deep I mpact"はお涙ちょうだいもの、で後者はアクションものだと考えれば問題ない。事実、期待を裏切らないほどの爆発ばかりの映画だった(笑)。

 さてこの映画、アクション映画だけれどもThe Right Stuffのアンチテーゼともいえる作品になっている。いたるところにかの映画を彷彿とさせるシーンがある。緊急に宇宙空間にいくことになったため身体検査させられる場面なんぞ、まったくのこぴーといってよい。スペースシャトルへ向かって歩く姿も、7人の宇宙飛行士たちとおんなじなのだ。ただ違うのは優秀であるが故に選ばれたか、しかたなく選ばれることになったか、である。だからかの映画を知っている人間にはとても楽しいに違いない。ただのアクション映画として作られたのではないと思うに違いない。私は、とても楽しかった。この夏の最高傑作といってしまおう。しかしアメリカがすべて! ってな考え方が垣間見えて、楽しめない人もおおいだろうと思う。ある意味では、アメリカの、アメリカ人に対する愛国心高揚映画でもあるだろう。(思うにHollywoodの映画産業はTVドラマの製作と大差ないと最近感じる。だれも世界中で見る人のことなんか考えてやしない。日本のTV局の人がドラマを作る時に世界で公開することを考えるか? 考えないはずだ。だから日本人がわかるように作る。アメリカの映画産業もまったく同じ。だからアメリカ、アメリカと連呼していることに対してめくじらをたてるのはオカド違いと言わねばならない) この映画を見終わったときの感覚は、大リーグの試合とか、卒業式とかコンサートとか人がたくさん集まる時かならず行われる、国歌斉唱(だいたいすっげー上手い人がリードするのだが)のときに感じる気分と同様なのだ。映画でもこんな感覚になるなんて、個人と個人の意識があって国が成立したアメリカならではのことだと私は理解している。

注:繰り返して述べておくが、"The Right Stuff"の主人公は宇宙飛行士たちではなく、チャック・イエーガ"だけ"である。7人の宇宙飛行士達はあくまでもチャック・イエーガの"Right Stuff"を引き立てるための産物である。映画を見なくても結果はあきらかである。いまもって最新の軍用機に乗れるチャック・イエーガと、"よたよたでなんとも頼りない"(CNN)ジョン・グレンと比較にならない。思うにイエーガは、飛ぶことに対して世界で最も優れた"right stuff"を持った人として記憶されることだろう。

 が、映画を見ててひっかかる箇所は多い。もっとreasonableだったら、consistentだったらいいのにと思わずにはいられない。以下の箇所を修正するだけでSFになりえたと思うのだ。


1. スペースシャトルのlaunch

 KSC(Kennedy Space Center)のlaunch padは38Aと39A以外、スペースシャトル打ち上げ用にはなっていない(他のlaunch padは映画にでてくるような状態で、使われていないところがほとんど)。1960年代ではないから、launch pad同士は映画ほど近寄っていないし、あんな打ち上げしたら危険窮まりない。SRB(Solid Rocket Boo ster)の固体燃料からの火炎は強力だ。また、maxQあたりも含め、先に飛び立った機体が生ずる衝撃波の影響は後続の機体と飛行経路に対して強く影響する。だからあのような映像は現実的ではないのだ。またクラウラー(スペースシャトルを整備棟(VAB)からlaunch padまで運ぶ)も一台しかない。二機同時に整備できるほどの施設はないはずだし、人員もケープカナベラルにはないだろう。したがって、今は運用停止されているヴァンデンバーグのlaunch padを急遽整備して使うことになるはずである。これはカリフォルニア、LAから100マイルほどの北にある空軍の基地である。スペースシャトルは基本的に空軍の強力があって完成したものであるため、空軍は自前の打ち上げ設備を建設した。数回打ち上げ実績があったと思うが、シャトルの整備がトンでもなく面倒(軍人に面倒くさいことは禁物)だったし、西海岸故、打ち上げ方向が限られてしまい、軌道上にたくさんのペイロードを乗せられない(打ち上げ方向が東向きでないから、地球の回転速度を利用できなくなるため)ため使われなくなった。とりあえず一機のスペースシャトルに空軍の手がかかることになるから、映画の伏線を補強するには格好であろうと思う。

2. スペースシャトルのブースタ

 X71という名前がついているそうだが、名前からして発想が東宝だ... xがついていたら試作機だし、機体の本来の用途が記号化されていない(FとかSとか...)。機体形状からすると現行のスペースシャトルの改良型なんだが....まるで"ミネルバ"じゃないか? 機首は尖りすぎているし...だいたい強力な推力を発生するものを機体の左右(あの位置からするとカーゴベイのドアだね)につけられる様にするのは大変だろう。如何に外部がチタニウムで補強されたとしても難しいんじゃないだろうか(表面の冷却をどーするんだ)。軌道上で、ミールから燃料を補給するような無茶は描かず(だいたいガソリンじゃないんだから、太めのパイプ(たいして太くなかったが...)でも補給は非常に困難だ。映画中でもここのシーンは無意味だし)、補充の外部燃料タンクと再度ドッキングさせるほうが現実味がある。あらかじめスペースシャトルを打ち上げる前にエネルギア(ロシアのでっけーロケット、僕の個人的趣味からいえばN1の方が好き)などを使って外部燃料タンク用アタッチメント付増槽を二機打ち上げておけばいい。SSEM(Space Shuttle Main Engine)の運用可能時間は、公称55時間だったはずだから(実際は毎度あっちこっちのパーツを交換しているようだ。が、実際現在運用されているロケットエンジンで400秒以上使用可能な第一段(大体そんな長時間にわたって使用するはずがないのだ)はない。SSMEは、しかしながら現状使用できるもののなかで最も長時間使用可能なはずだ。したがって、ブースタを使用するよりもSSMEを使用して月への軌道に乗ればいい。このコンセプトは現在NASAで検討されている、火星への有人探査計画のパクリである。かれらの計画によると、スペースシャトルの機体の代わりに円筒形の火星探査機の前半と後半をそれぞれスペースシャトルと同様に(つまり外部燃料タンクとSRB付で)打ち上げ、軌道上でドッキングして機体を完成させるというものだ。現在あるものを利用して(つまり時間とコストを削減する)行うことを前提にすれば、このような計画になるのは必然である。

3. 衝撃波、爆発の描写

 まずいところはいっぱいある。映画の立ち上がり65milllion years agoでの隕石の落下が描かれているが、衝撃波の伝播が早すぎる気がする。衝撃波は超音速で伝播するから衝撃波なのである。したがって、この場合たとえばスペースシャトル大気圏突入速度の2倍で衝突するとしよう。この場合マッハ数は約50。大気圏のエッジのところでも温度はせいぜい250Kだから、比熱比をえいやっと1.4にしてしまえば、音速は約320m/secとなる。×50倍だから毎秒16km/secくらいだ。日本列島を3000kmとすれば、3分くらいで縦断となろう。ちょっと映画の描写は早すぎないか? もちろん地球との相対速度に依存するから一概には言えないが。まあ、地球の公転速度程度で衝突(秒速30km)したとしても1.5分。ここらへんにくるとN2のionization pointも遥かに通り越しているから、いったいどうなっているやら。後半にもパリ市内に隕石が落下するシーンがある。町は衝撃波が来る前に破壊されるはずだがそうなっていない(原爆実験フイルムや、Daicon4のアニメフイルムを思い出して欲しい。衝撃波がやってくる前の圧力変動である程度家は壊れてしまうのだ)良くできていたが、craterにとなりに半壊しただけの凱旋門が存在するのにはがっかりした。フランス人に対しては衝撃的な映像だろう(ゴジラといい、この映画といい、最近ハリウッドはフランスを敵視しているとしか思えん。にもかかわらずゴッジラはフランスでえらく人気だったそうだ)。衝撃波が発生した場合、波の前後の圧力差は最小で約2倍ある。風速40m/sec位で家が倒壊するのだから(この流速が淀んだ場合の圧力差は、衝撃波が発生するものの1×10-4 order!)衝撃波による圧力変動は致命的である。それに衝突の際のエネルギ放出で、蒸発していなければならない。だからでっけー隕石が落ちた場合、荒れ果てた原野ができるはずなのだが。

4. 重力の問題

 だれもおかしいと思ったのではないか。meteorite上で"ヤマト"並みの重力が発生している!!。本来なら"着陸"も困難だろう。数メートル離れてmeteoriteとランデブーするのが正しいだろう。したがって問題なのは、穴を掘る際の力のバランスと、トルクである。地球軌道上で衛星を修理した場合のような、困難さが発生するはずなのだ。meteoriteが固いか固くないかの問題抜きににして。へんてこな車両を使うのではなく、シャトルのカーゴから直接穴をあけるようにすることになるだろう。シャトルの質量を利用してトルクバランスをえるのが最も容易だろう。

5. 用語の問題

 これはアメリカで生活していていつも気になるのだが、爆発や起爆させることを"d etonate""detonation"と間違えて使用している。"detonation"とは火炎伝播が超音速、もしくは火炎が衝撃波とともに移動する現象をいう(つまり2000m/secくらいで伝播する)。通常の火炎は"deflagration"という。亜音速で火炎は伝播する場合の伝播速度は早くて1m/sec以下なのだ。だから"detonate"は爆発という意味を含まない。それでは何といえばいいか? "explosion"がもっとも正しい。起爆は? igniteもしくはtriggerがふさわしいだろう。原子爆弾を作動させるには衝撃波を利用して急激にウラニウムを圧縮させる必要がある。そのために火薬を使い"detonation"を発生させる必要がある。だが、核爆弾を起爆させることを、"detonate"というのはミスである。The Wrong Stuff をもった山師たちが間違えるのはいいとしても軍関係者が間違えるのはいただけない。現実にどうだか知らないけれど。


 残念ながらこの夏、アメリカにおいて爆発的にヒットした映画はなかった。Saving Private Rianがいいところまでいったし前宣伝を含めメディアをにぎわせたが、R指定なので親子連れではいけない映画だった。吸引力がないもんだし、学会出席があったものだから、Almageddon(なんでこいつがPG-13なんだろ)を見にいったのはそろそろ映画館から消えようとしていた8月下旬のことだった。映画館の一室でしか上映していなかったためもあり、アメリカに来てもっとも混雑した状況(となりの椅子に他人がいる状態)で見ることになった。Titanicの時なぞ、見た時間がよかったためか多くて20人くらいしかいなかったのに、だ。映画を見ながら、もちろんアメリカ人だから、館内は大騒ぎになった。大笑いするし登場人物をからかうし、口笛を吹くし。それで最後は泣いていた。映画を十分に楽しみ、responsibilityとかprideとかアメリカというか自分達がしなければならないことを確認するのだろう。この国は依然としてとても若い。自分が行うことは世界のためだし、とてもいいことだと信じて実行するのだ。Almageddonにはそのすべてが盛り込まれている。国が考えるのではなく、アメリカ人がそれぞれ考えるのだから、これは宗教に近いものとも思ったりする。Star trekにもこの要素はいたるところに含まれている。だから今後もアメリカは、宇宙や航空に関して世界をリードするだろう。他の国が追い付くことは、まず無理だろうと思う。これはアメリカの信念の発露なのだから。


ということでまたね。

Tetsuo "Ted" Hiraiwa


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