原田知世 collaborate with 鈴木慶一

#1 原田知世 produced by 鈴木慶一
#1 "Tomoyo Harada" produced by "Keiichi Suzuki"

たこいきおし


 1986年に新潮文庫から出た『ムーンライダーズ詩集』の中にあった対談で、これは松本隆の発言なのだけど、ムーンライダーズは「何故売れないか」「何故解散しないのか」「はてして食えているのか」という話が笑い話になっていたことがあった(笑)。もちろん逆接的表現という奴で(笑)、対談の内容がそういうムーンライダーズを全面的に肯定するというニュアンスのものであったことはいうまでもない(笑)。

 あれから9年たった今、ムーンライダーズは相変わらず売れていないし(笑)、解散もしていないし(笑)、ちゃんと「食えている」ようにはとてもみえない(笑)。(現実にはちゃんと食って家族も養ってはいるんだろうけど(笑))


 ようするに「趣味人」という奴で、不特定多数の理解なんてものははなから求めちゃいない。自分の趣味に合わない〜美意識が許さないようなことは絶対にやらない。だから「売れない」のはむしろ必然(笑)。まあ、「どうやって食っているんだろう」という疑問は依然として残るのだけど(笑)。


 そういう類の人というのは、世の中に間違いなく存在していて、傍からみるとこれが実に「カッコいい」。まあ、そういうライフ・スタイルを維持するというのは非常なエネルギーを必要とする筈で、目に見えないところでいろいろあるんだろうとは思うんだけどね。

 で、そういう類の人の中でも、鈴木慶一みたいに生まれた時から「趣味人」やってたとしか思えないような人もいるし(笑)、ある時期を境に急速に傾き始めて、ある日気がついてみると立派な「趣味人」になっている(笑)、みたいな人もいる。鈴木慶一プロデュースによるアルバム三部作を今年一月にリリースし終えた原田知世も、もしかするとそういう「趣味人」の域に近づきつつあるかもしれない(笑)。


 その三部作のデータは下欄を参照(この電脳版ではアルバムタイトルからデータへのリンクを張ってあります)。では、個々のアルバムへの個人的評価など……。


『GARDEN』
 これはやはり一つの衝撃ではあった。なにしろ同じ年に出たムーンライダーズのアルバム『AOR』より出来がいい(笑)、と僕の知人のムーンライダーズファンの間では語り草になったくらい(笑)。

 前にも「霧笛」にちょっと書いたことがあるんだけど、このアルバムって、絶対『パヴァーヌ(原田知世18歳バースデーアルバム)』を念頭に置いて作られてると思う。二つを直接結びつけるものとしては、『GARDEN』のボーナス・トラックとして収録されている「早春物語」があって、でもそれだけじゃなくて、アルバム全体から受けるイメージがとても近しい。些末なことだけど、ジャケット〜ライナー・ノートの雰囲気もそれを狙っているように思えなくもない。『パヴァーヌ』というのは原田知世の声の質を当時としては一番よく生かしていたアルバムだったと思うんだけど、その原田知世がそのまま相応に成長して23歳になったらかくもあろう、という印象。

 アルバムの参加メンバーは、見ての通り、鈴木慶一の人脈図鑑といったところ。コーラスではさいとうみわこなんかも参加している。とはいえ大貫妙子は『パヴァーヌ』でも詩を提供していたっけ。考えてみると原田知世って、大貫妙子には縁が深いかも(最初の『バースデー・アルバム』の「地下鉄のザジ」でも、「彼と彼女のソネット」でも詩をもらってる)。

 『パヴァーヌ』がとても好きだった昔からの原田知世ファンにはこたえられない一作。


『カコ』
 バラエティに富んだ『GARDEN』から一転しての雰囲気たっぷりのカバー・アルバム。もしかするとアルバムとしてのまとまりというか完成度としては三作の中で一番かもしれない。耳に優しく入ってきて、とても気持ちいい。とんがったところが一つもなくて、肩の力がすっと抜けている感じ。聴いているとなんだかすごくゆったりした気分になれる。

 原田知世もムーンライダーズも知らない/興味ないという人にも安心してオススメできる、と思う(笑)。


『Egg Shell』
 と、いうことで今年1月に出たばかりの最新作。ライナー・ノートを見ればわかる通り、ほぼ鈴木慶一と原田知世のプライベート・アルバム、といった風情である(笑)。

 一聴して、地味でとっつきにくい印象。しかして、3枚の中では一番「濃い」アルバムである。初め聴いてみると「ん?」という妙な印象を受けるんだけど、聴き込むほどに味が出てくるというのは、ムーンライダーズのアルバムに典型的な感触として僕は記憶している(『マニア・マニエラ』『青空百景』『アニマル・インデックス』『Don't Trust Over Thirty』みんなそうだった)。このアルバムもかなりそれに近いものがある。

 個々の曲をとってみても、「野営(1912からずっと)」とか「空から降ってきた卵色のバカンス」なんて、ムーンライダーズのアルバムか鈴木慶一のソロ・アルバムに入っていても違和感がないような内容で、全体に非常にライダーズ色が強い(実際、一緒にライブに行った室本(両谷承)が「のっぽのジャスティス・ちびのギルティ」を聴くなり、僕の方に「ライダーズみたいな曲だね」、と耳打ちしてきた(笑)。因みに彼は、その時点では『Egg Shell』はまだ聴いてなかったとのこと)。  それだけに、ムーンライダーズ、鈴木慶一にハマっていない人には積極的にはススメない。このアルバムは上級者向け(笑)、だと思う。個人的には一番気に入ってるんだけどね。

 このアルバムでは、原田知世の声がまた、えらくいい。なんていうのか、息継ぎの音までが気持ちいい。

 と、思ったら、どうもこれは意識してやってたみたいで、マックブロスの最終号に載ったインタビューでは原田知世本人がこんなことをいっている。


 『カコ』をやって自分の声を音として捉えるようになったんですね。ここの部分の声がいいとか。だから今回日本語で歌っているんですけど、あんまり感情移入してなくて、ここはこういう詩だからこう歌おうっていうのは全くないんですね。それよりも音として気持ちいいから、こういう風に歌おうとか、『カコ』をやって随分変わったっていうか、捉え方が変わって、それでもいいんじゃないかっていうか。なんか、音として耳に入ってきて気持ちいいものが、一番いいとかって最近思っているんでね。


……。じゃあ『GARDEN』までは自分の声に無自覚だったのか(笑)。と、いうようなちゃちゃは入れないことにしておこう(笑)。

 原田知世が自分の「武器」に自覚を持ったんだったら、この先の活動もちょっとは期待していいかな、と思ったりもしている今日この頃である(笑)。


 で、まあ、そのマックブロスの情報でライブがあるのを知って、試しに静岡のチケットぴあで調べたらチケットが残っていたので、行ってきました。2月24日、『原田知世ライブ '95 Egg Shell』。せっかくなので簡単なレポートなど。


 会場が恵比寿ガーデンホールという、うちの会社が工場跡地におったてたバブルの遺産「恵比寿ガーデンプレイス」の一角であったというのは、まあ、さておき……(笑)。

 歌った歌と順番は下記のとおり。行の空いている所は原田知世のおしゃべりの入ったところ(笑)。

 なにしろ曲の内容が内容だけに、間違っても場内総立ち(笑)なんてことにはなるまいと思っていたんだけど、大方は予想通りで、ライブというよりは「みんなで静かに原田知世の声を聴く会」といった風情(笑)。ベース、キーボード、パーカッションとギターが二人というやや変則的なバンド構成の割りには、アレンジはほとんどアルバムのままで変わった味つけはなし(足りないパートは打ち込みを使った模様)。唯一、「T'EN VA PAS」の日本語ヴァージョンとしてラストに使われた「彼と彼女のソネット」が新アレンジだったくらい。そういう意味では「ライブ」としての面白味のようなものにはちょっと欠けていたかもしれないけど(笑)、そこはそれ、観客のほとんどは「みんなで静かに原田知世の声を聴く会」のつもりで来ていた人だろうから、ね(笑)。

 因みに観客は、わりと年輩の人と20代くらいの女性が多かったように思う。


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『GARDEN』(1992/8/21)

都会の行き先
Words 原田知世 Music 原田知世 Arrange 鈴木慶一/原田知世
さよならを言いに
Words 鈴木慶一 Music 鈴木慶一 Arrange 鈴木慶一
アパルトマン
Words 鈴木慶一 Music 鈴木さえ子 Arrange 鈴木慶一
Walking
Words 大貫妙子 Music 中西俊博 Arrange 中西俊博
NOCTURNE
Words 原田知世 Music 原田知世 Arrange 鈴木慶一/原田知世
中庭で
Words 北田かおる Music 北田かおる Arrange 棚谷祐一
リボン
Words 北田かおる Music 鈴木慶一 Arrange 鈴木慶一
夢迷賦
Words 原田知世 Music 崎谷健次郎 Arrange 崎谷健次郎
ノア
Words 鈴木博文 Music 鈴木慶一 Arrange 鈴木慶一
夢の砦
Words 直枝政太郎 Music 鈴木慶一 Arrange 鈴木慶一
早春物語
Words 康珍化 Music 中崎英也 Arrange 中西俊博
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『カコ』(1994/2/18)

THE END OF THE WORLD
Words Sylvia Dee Music Arhtur Kent Arrange Keiichi Suzuki
UN BUCO NELLA SABBIA
Words A.Testa Music P.Soffici
THIS LITTLE BIRD
Words & Music John D.Loudermilk Arrange Keiichi Suzuki
WINCHESTER CATHEDRAL
Words & Music Geolf Stephens Arrange Hirofumi Tokutake
BOTH SIDES NOW
Words & Music Joni Mitchell  Arrange Kiichi Suzuki
ELECTRIC MOON
Words & Music Leitch Donovan Arrange Keiichi Suzuki
T'EN VA PAS
Words Regis Wargnier & Cathrine Cohen Music Romano Musumarra
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『Egg Shell』(1995/1/20)

Une belle histoire
Words Pierre Delanoe Music Michel Fugain Arrange Keiichi Suzuki
月が横切る十三夜
Words 原田知世 Music 原田知世 Arrange 原田知世/鈴木慶一
月とボロ靴とわたし
Words 鈴木博文 Music 鈴木慶一 Arrange 鈴木慶一
記憶の翼
Words 鈴木博文 Music 鈴木慶一 Arrange 鈴木慶一
野営(1912からずっと)
Words 鈴木慶一 Music 鈴木慶一 Arrange 鈴木慶一
Attends ou va-t'en
Words & Music Serge Gainsbourg Arrange Keiichi Suzuki
のっぽのジャスティス・ちびのギルティ
Words 鈴木慶一 Music 鈴木慶一 Arrange 鈴木慶一
夜にはつぐみの口の中で
Words 鈴木慶一 Music 鈴木慶一 Arrange 鈴木慶一
UMA
Words 原田知世 Music 原田知世 Arrange 原田知世/鈴木慶一
空から降ってきた卵色のバカンス
Words 鈴木慶一 Music 鈴木慶一 Arrange 鈴木慶一
T'EN VA PAS(REMIX VERSION)
Words Regis Wargnier & Cathrine Cohen Music Romano Musumarra
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『原田知世ライブ '95 Egg Shell』(1995/2/24)・曲目リスト


夜にはつぐみの口の中で『Egg Shell』
アパルトマン『GARDEN』

さよならを言いに『GARDEN』
UN BUCO NELLA SABBIA『カコ』

THIS LITTLE BIRD『カコ』
ELECTRIC MOON『カコ』

のっぽのジャスティス・ちびのギルティ『Egg Shell』
野営(1912からずっと)『Egg Shell』
ノア『GARDEN』
夢の砦『GARDEN』

T'EN VA PAS『カコ』
Une belle histoire『Egg Shell』
Attends ou va-t'en『Egg Shell』

空から降ってきた卵色のバカンス『Egg Shell』
月が横切る十三夜『Egg Shell』

WINCHESTER CATHEDRAL『カコ』
彼と彼女のソネット

(アンコール)
BOTH SIDES NOW『カコ』
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