『魔法使いTai!』のひみつ

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■と、ここまで紹介してきた3人のクリエイターが初めて顔合わせをしたのが、OVAアニメ『魔法使いTai!』ということになる。

■これはもともと佐藤順一氏のオリジナル企画で、一貫して子供向けアニメでキャリアを重ねてきた氏が初めて手掛けたOVAである。
 なお、企画意図のメインは、「伊藤郁子さんのかわいい絵で何か作品を作りたい」というものであったらしい。

■実際、メインターゲットとされたのは某アニメ(笑)で二人に注目していたファン層で、販売時の惹句にも当然のように「『某アニメ(笑)』の佐藤順一&伊藤郁子の黄金コンビが贈る〜」という枕言葉がついていた。

■物語は、北野橋高校の「魔法クラブ」が中心となる。
 このクラブでは、部長である高倉先輩(笑)がどこかで見つけた魔法書を解読しながら、魔法の実践をめざしており、部員は高倉先輩(笑)と同じ3年生の副部長、油壷、2年生の主人公、沢野口沙絵、とその幼なじみの中富七香、そして1年生の愛川茜の5人。
 高倉先輩(笑)は、間違っても2枚目といえるタイプではなく(笑)、後輩が女の子ばかりというシチュエーションにかなりドキドキしている(そして、よくエッチな妄想に耽る(笑))。主人公の沙絵は思い込みの激しいちょっと天然ボケ系の女の子(笑)で、そんな高倉先輩を心から尊敬している。油壷は頭脳明晰スポーツ万能の美少年(笑)なのだが、なぜかバイの気があり(?)高倉に本気とも冗談ともつかないアプローチをかけつづけている。七香はきっぱりさっぱりした同性に好かれそうなタイプの女の子だが、そんな油壷に想いを寄せている。茜は何を考えているのか傍目にはわからない、マイペース…というかジコチュー(笑)な小悪魔タイプの美少女である。
 そんな5人が恋愛未満の気持ちをかかえつつ魔法の修行をする、という魔法コメディが『魔法使いTai!』である。

■そこに脚本として参加したのが小中千昭氏だったのであるが、氏は参加するまで、実は佐藤順一氏の名前も伊藤郁子氏の名前もよく知らなかったらしい(笑)。
 そういう意味では、この3人のコラボレーションは意図せずしてたまたま成立したもの、だったのである。

■佐藤順一氏の当初の構想では『魔法使いTai!』という作品は、先にあげたキャラクターたちのシチュエーションを使ったライトなコメディ、某アニメ(笑)では年度末に必ず重苦しいシリアスな展開を用意しなくてはならなかったことへの反省(?)も含めて、某アニメ(笑)からおきらくごくらくなコメディの部分だけを抽出したようなもの、として企画されていたらしい。
(現在角川のドラゴンJr.で連載中のマンガ版『魔法使いTai!』(紗夢猫)は、わりとそういう話で、あり得たかも知れないもう一つの『魔法使いTai!』として興味深いかも)

■実際のOVA『魔法使いTai!』はといえば、純然たるコメディとしてももちろん楽しめるのだが、それに加えて、恋愛未満の心理の揺れ動きをきめ細かに描き出す、「少女マンガ」的な要素がかなり色濃いものとなっている。
 佐藤順一氏の語るところによれば、そういうリアルな感情描写の部分が比率を増していったことには、小中千昭氏の脚本によるところが大きい、とのことである。

■その脚本に、もともとナチュラルな感情を演出する力のある佐藤順一氏の演出力と、微妙な感情表現を絵にする力のある伊藤郁子氏の作画が加わった、一つの頂点ともいえるのが、『魔法使いTai!』第5話「七香と油壷先輩と告白魔法?」である。
 これはタイトルの示すとおり、七香がついに意を決して油壷に告白をする、という話なのだが、この告白シーンはちょっと凄い。油壷の自分への感情が単なる後輩の域を出ないことは初めから承知しているけど、たとえ1%以下でもかすかな希望も捨てたわけではない、そんな七香の気持ちが、バストショットで画面に固定された七香の、油壷の一言一言に敏感に反応してしまう表情の変化だけで描き出されているのである。その表情の変化たるや、とても文章で表現することはできないニュアンスの固まりである。
 もちろん、七香にそんな動揺を与える油壷の台詞もなかなか微妙なもので、そのあたりは脚本の力といえるが、それを女の子の表情の変化だけで表現しよう、というある意味アクロバティックな演出と、その演出に120%応え切った作画とが三位一体となったこのシーン、これは日本のアニメ史上に絶対に残る名シーンだと思う。

■この作品において伊藤郁子氏の果たした役割は、単なる絵としてのキャラクターデザインの域をこえた、各キャラクターの背景設定まで含めたトータルの意味でのキャラクターデザインといえるもので、そんなやり方が、「世界観をまず初めに規定する」ところから始まる小中千昭氏の作風ともお互いによくマッチしていたのだと思う。
 今回の本題である『ふしぎ魔法ファンファンファーマシィー』での二人のコンビは、企画の立ち上げに参加していた伊藤郁子氏から小中千昭氏への「お誘い」があって成立したもの、とのことで、やはり、まず初めには『魔法使いTai!』ありき、なのである。


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