お楽しみはこれからだッ!!
YOU AIN'T READ NOTHIN' YET !!

第8回 “夢魔の標的”
 掲載誌 TORANU TあNUKI 120〜123号
 (通巻第42号)
 編集/発行 渡辺英樹・渡辺睦夫/アンビヴァレンス
 発行日 1990/11/30


 どーも。僕が最近たてつづけに不幸にみまわれている後厄年のたこいです(本厄年は去年だ)。たとえば、4P分の原稿を古新聞もろともチリ紙と交換されてしまったり、見開きのつもりで書いた原稿を表裏に印刷されてしまったり左右逆に印刷されてしまったり、ホント、ロクなことがない。あ、それと女の子にもふられてしまった(笑)。←笑い事ぢゃないぞ。

 不幸! 不幸! の大津波!! でもあのライカ犬よりはずっとマシさ(笑)。

 と、前途にささやかな希望を見出したところで今回のテーマは“夢魔の標的”。

「ラリホー。
 夢の中で死ねるなんてロマンチックだと思わないかい?」

 “50日間世界半周”というよりは、もはや既に“やじきた珍道中”というか“てなもんや仕置人()”とでも呼んだ方がよいのではないかと思われる荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』第三部。今の調子でいくとDIOが登場しても“星の白金(スター・プラチナ)”が一撃で倒してしまい「DIOか。さんざんもったいつけて登場した割にはあっけない奴だったな。あっはっは」で終わってしまいそうな気がしているのは僕だけではないと思う。

 しかし、荒木作品史上これほど魅力のない主人公がいたであろうかという空条承太郎。第三部の各エピソードの中でも承太郎が活躍した話の大半は今イチ盛り上がりに欠ける。てなわけで台詞は花京院典明大活躍の夢のスタンド“死神13(デス・サーティーン)”編より。いや実際、花京院てば第三部の中でもおいしいとこばかりさらってくれて仙台人()としては嬉しい限りである。


「夢の中で殺された時!」
「死……死ぬ! ほんとうに死ぬというのか!」
「いいえ、現実には死にません。しかし……現実に死んだと思いこむのです。
 つまり心が死ぬのです! ねたっきりで死人同然に生きるのです!
 一生廃人としてなんの意識ももたずに生きつづけるのです……」

 夢のスタンド“死神13(デス・サーティーン)”で思い出した、という訳でもないんだけど、この手の“悪夢の中で殺される”ってネタを扱ったマンガの中でもかなり古いと思われるのが永井豪『あばしり一家』“菊の助幻想編”(『あばしり一家』4収録)。

 単に記憶力がないのか、それとも不勉強なのか、この手を扱ったマンガを他にも思い出せないかと頭をひねったんだけど、どうにも思いつかない。どなたかご教示いただけると幸いです。

 ともあれ、『デビルマン』を読んだ衝撃でマンガ立ち読みの世界に足を踏み入れた小学3年生の僕であったが、当時読み耽ったマンガの中でもとりわけ印象に残ってるのは、やっぱり永井豪。

 なかでも『デビルマン』は当然別格にするとして、それ以外で強烈に記憶に焼きつけられているのがたとえば「真夜中の戦士」であり、『ハレンチ学園』“ハレンチ大戦争編”であり、そしてこの“菊の助幻想編”なのである。

 “どんな危ない目にあっても死なない”という従来のギャグマンガの文法を解体し、それまで読者が親しんできたキャラクターたちを情け容赦なく死に到らしめる。これだけでも凄いのだけど、更にはキャラ自身が永井豪その人を“自分たちの命を弄んだ”かどで告発する。『ハレンチ学園』“ハレンチ大戦争編”の“作者−キャラクター”の構図は、『魔王ダンテ』における神と人類、『デビルマン』における神とデーモン(あるいはサタンと人類)といった構図と相通ずるものはある。

 「真夜中の戦士」において、将棋の駒として扱われる主人公(アンドロイド)火鳥ジュンと科学者(オリジナル)火鳥ジュンの関係もそのヴァリエーションである。

 閑話休題(それはさておき)。

 『あばしり一家』は一応ギャグマンガの体裁をとってはいたものの、実はなんでもありのマンガであった。後期になると完全にギャグ路線として固まってしまったものの、初期においてはギャグありシリアスありバイオレンスありSFあり、と、本当になんでもありで、以後の永井豪作品の原型のほとんどを、この『あばしり一家』の中にみつけることができる。

 世界的指名手配のあばしり一家をターゲットと定めた極悪人ハンター法印大子の最終兵器“精神破壊銃”の直撃をうけたヒロイン菊の助が悪夢の世界をさまよう“菊の助幻想編”は“内宇宙テーマ”のSFという点で、なんでもありの『あばしり一家』の中でもとりわけ異彩を放っている。

 悪夢世界のイメージ描写には(師匠である石森章太郎の)『ファンタジーワールド・ジュン』を思わせるシーンが散見されるし、後の『ダンテ』『デビルマン』に通じる“神”と“魔”の概念もちらっと出てくるし、「真夜中の戦士」の冒頭シーンとほとんどそっくりそのままのシーンもあったり、これらを永井豪の原イメージと考えると実に興味深い。と、もう少し話を続けたかったけど、いいかげんスペースがない。今回はこの辺で失礼。


『お楽しみはこれからだッ!!・電脳総集編』に戻る。
「糸納豆ホームページ」に戻る。



1:中村主水−藤田まこと、念仏の鉄−白木みのる、のコンビが東海道を旅しながら行く先々で必殺仕置人して歩くという公開録画時代劇。ゲストには三味線屋のおりく−京唄子など。悪人を仕置きした主水の決め台詞はもちろん「あたり前田のクラッカー」(笑)。 (本文に戻る)


2:知らない人がいるかもしれないので一応解説すると、“花京院”は仙台駅前にほど近い一角の地名である。因みに仙台土着のマイナー演歌歌手で“花京院しのぶ”(笑)という人が存在しているというのは、まぎれもない実話である。嘘じゃないってば(笑)。 (本文に戻る)