お楽しみはこれからだッ!!
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第59回 “橋本みつる定期便”
 掲載誌 糸納豆EXPRESS Vol.24. No.1.(通巻第41号)
 編集/発行 たこいきおし/蛸井潔
 発行日 2006/05/03


 唐突ではあるが、恒例(笑)、橋本みつる最新情報の時間になりました(笑)。いや、糸納豆を出すたびに橋本みつる情報の新ネタがあるなんて、一時期の暗黒時代のことを考えると夢のようだ(笑)。

 まあ、そんなこんなで、今回のテーマは「橋本みつる定期便」ということで……(笑)。

 だけど
 その日見た夢は
 苺の夢でした

 こちらは新書館ウィングス2006年2月号に掲載の、橋本みつる最新作「苺の夢」より。ラストのヒロインのモノローグ。

 書誌データ的には2006年にカウントされるものの、発売日は12月であり、2005年は、橋本みつるの新作短編が2本も発表されたということで、誠にめでたい(笑)。

 さらに最新情報として、この5月下旬にはウィングスコミックスより2年ぶり(というか、ウィングスコミックスとしては初めての)の短編集『青いドライブ』が発売されるとのことで、もうなんといったらいいやら……(笑)。

 閑話休題。ソニーマガジンズの後期(「幼い恋」「女神」など)あたりから新書館での前作まで(「青いドライブ」「流星」)、橋本みつるの発表作品にはなにかしら、SF、ファンタジー、オカルト的なちょっと不思議な設定、ストーリーの作品が多かったのであるが、この「苺の夢」は、久しぶりにそういう要素のない普通の学園もの(?)といえる内容である。

 高校1年の野衣にはバスケでちょっと有名な二つ年上の従兄、夏記がいる。夏記のファンの友だちに拝み倒されて二人で夏記の高校の前までやってきた野衣だったが、クルマにはねられそうになったところを夏記に助けられ、夏記の方が足を骨折して病院に入院してしまう。罪悪感と、それ以外のもやもやした感情を抱えて毎日病院に見舞いに通う野衣は、毎晩のように「シャツにパンツだけの姿で人前を歩いている」という妙な夢を見るようになる。夢占いによると、「下着」の夢は「自分をさらけ出したことを後悔している」ときに見る夢らしいのだが……。

 ストーリー的には、ヒロインの自分でも意識していない深層意識の中の感情が、何かあるたびに夢の形で暗示される、というわりとシンプルな構造。タイトルでもあり、オチでもある(ヒロインが物語の最後に見る)「苺の夢」の意味は作中では明示されないのだが、そのあたりの不親切な余韻の残し方が好きだなあ(そのままでも作品として成立しているが、「苺の夢」の意味がわかるとより腑に落ちる仕組み)。

 あと、人物から花や草むらなどの背景まで描線の色っぽさ全開で、そのあたりも堪能。やや不思議系(?)に寄りつつあった作風が、花とゆめ時代にちょっと揺り戻したような印象で、なんとはなしに懐かしくもあった。次作にも期待したい。


(「苺の夢」の意味は本屋ででもちょっと調べればすぐわかる。同じような不親切なオチの例としては『花田少年史』の「カタクリの花言葉」あたりが近いかも。)


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