お楽しみはこれからだッ!!
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第39回 “マイライフ・アズ・ア・ゴースト”
 掲載誌 糸納豆EXPRESS Vol.14. No.1.(通巻第30号)
 編集/発行 たこいきおし/蛸井潔
 発行日 1996/2/29


 どうも。糸納豆も今号でめでたく通巻第30号。ということで、初めての試みとして「お楽しみはこれからだッ!!」2本立てとしゃれこんでみました(笑)。いや、何のこたあない。紙のメディアをさぼっている間に短めのネタがたまってたってだけのことなんですけど(笑)。

 しかし2本立てなのに番号が続いてないあたりにこだわりがあるでしょ(笑)。

 と、まあ、そういうどうでもいい話はこのくらいにして、今回のテーマは「マイライフ・アズ・ア・ゴースト」。

「そんなことばっかり言ってるから母ちゃんに捨てられるんだ。ザマミロ!!
 ?
 桂……?
 け……
 桂。ひきょうだぞ! 泣くのひきょうだぞ」
「泣いてない!!
 泣いたなんて誰かに言ったら、殺す!」

 台詞はミスターマガジンKCから全4巻で出ている一色まこと『花田少年史』より。時代は昭和40年代末。クルマにはねられたショックで幽霊が見えてしまうという特殊能力を獲得してしまった小学3年生の花田一路少年。彼のもとにはこの世に残してしまった思いを晴らして成仏しようともくろむ不成仏霊があとからあとから詰めかける(笑)。

 と、いう訳なんだけど、カラーTVが完全に普及していない、道路もアスファルトに埋め尽くされていない、まだダイハツミゼットが走ったりしてるこの時代設定は、どう考えても今現在30歳前後の人間を狙っているよなあ(笑)。


 例えば、僕は今31歳なのだけど、小学3年生の頃といえば、住んでいた官舎の前の道は前の年にアスファルトを敷かれたくらい。通っていた小学校はちょうどその年に木造から鉄筋コンクリートの立派な校舎に変わったけど、新校舎の敷地のまわりはまだまだ普通の田んぼでザリガニ取って遊んで家に帰るとTVでは仮面ライダーをやっている(笑)、といった具合。なんというか、まさにこのマンガに描かれている時代とは完全にシンクロしてしまうのである(笑)。

 そういう時代設定の下、絵に書いたような悪ガキの一路とその家族、友人、そして幽霊たちが生活感にあふれた物語を展開する。『となりのトトロ』は好きだけれど、あの時代背景に体験的に共感できる訳ではない、子供の頃、家のTVが白黒からカラーに変わったことが生涯の大事件に感じられた、まさにその年代(笑)のその手の人間(笑)をハメるために描かれたといっていいのがこの『花田少年史』である。

 前ページの会話は、主人公の一路とそのケンカ友だちの女の子・桂。うん。やっぱり「この手」の話には男の子とつかみ合いのケンカしちゃうような元気な女の子は必須アイテムよね(笑)。

「ホントはりん子……
 ずっと前死んじゃってて…
 オバケなんだろ
 どうしてオイラをだましたんだ」
「一路が……
 最初に逢った時……
 オバケの言う事はきかない!
 …って言ったから……」
「オバケの言う事はきかないけど……
 りん子の言う事ならきいたのに!
 なんでもやってあげたのに」

 『となりのトトロ』の主人公が少年で、いたずら好きのわんぱく小僧だったら、ということを考えると、どうしても言及しなくてはならない映画がある。スウェーデン映画なので知ってる人以外はタイトルをいってもわからないかもしれないが、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』という映画である。

 『となりのトトロ』とほぼ同じ時代のスウェーデンを舞台に子供たちの日常を淡々と描いたこの映画は、宮崎駿の作品が扱わないような生々しい部分をいろいろと持っているんだけど、『花田少年史』にはそれに近い雰囲気があると思う。

 その共通点というのは、少年の成長物語なんだけど、教条的・説教的な要素が全くないこと(笑)、登場するキャラクターがみんな自分の欲望にとても忠実なこと(笑)、などである(笑)。

 実際、一路という主人公はちょっと普通の大人の手には負えないほどの悪ガキだし、一路の力を借りて成仏しようともくろむ幽霊たちは浮気の証拠を抹消しようとするスケベじじい(笑)だの、死ぬ前に一度女の胸に顔を埋めてみいと思っていた童貞の受験生(笑)だの、死んだら本物の予知能力が身についてしまったインチキ占師(笑)だの、一癖も二癖もある連中ばかり(笑)。もちろんもっと良識的な幽霊(笑)も登場するんだけどね(笑)。

 引用した会話は、一路の精神的成長のキーになったエピソード。幽霊少女・りん子と一路の切ない初恋物語から。このエピソードの泣けることといったら、ハンカチ10枚だ(笑)!

 読んでない人の楽しみを奪わないため詳しくは書かないけど、最終回の展開がまた秀逸。この最終回でもって、『花田少年史』というタイトルが(ここまで述べてきたような)この作品の持つノスタルジー的な要素だけを表すものではなく、もっと普遍的なものとして昇華されている。その点では『となりのトトロ』も『マイライフ〜』もやっていないことを実現してしまったといえる。

 読んで絶対損はない名作である。


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