お楽しみはこれからだッ!!
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第28回 “ミニミニマンガ佳作選”
 掲載誌 TORANU TあNUKI 158〜162号
 (通巻第53号)
 編集/発行 渡辺英樹・原科昌史/アンビヴァレンス
 発行日 1994/2/14


 みなさん。お久し振りです。去年は結局“お楽しみ”を落としまくってしまい反省しとります(笑)。今年は頑張るぞ(笑)。と、いうことで今年初めてのテーマは、“ミニミニマンガ佳作選”。

「おい、三島。
 スカートのファスナーあいてんぞ」
「デカい声でいわないでよ、バカ!!」
「…それが教えてもらった奴のセリフか」

 この会話はわかつきめぐみ「螺旋のユーウツ」より。たった12ページの掌篇ではあるが、なかなかよい味を出している。とても少女マンガの中の高校生男女の会話とは思えないところが、ね(笑)。

 まあ、ありきたりの日常の中でなにかと突っかかってくる相手がいて、なんでもぽんぽん言い合うし、口喧嘩になることもしばしば。で、気がついてみる…、なんていうのはシチュエーションとしては使い古しもいいとこなんだけど、要は見せ方だと思う。

 とかく、ファンタジー的な作風の方が強調されがちなわかつきめぐみではあるが、この人の持ち味はやはり『不協和音ラプソディ』『月は東に日は西に』のような学園ものの系譜の中にいちばんよく出ているのではないかと思う。

 わかつきめぐみのキャラクターは基本的にふてぶてしい性格をしている(内向的・自閉的なキャラクターも、自分のペースを崩さない、という意味では充分にふてぶてしく、また、たくましいと思う)。そんなアクの強いキャラクターのちょっとしたぶつかり合いこそがわかつきめぐみの身上なのではないか、というのがデビュー以来のファンとしての見解である。


「井尻真理子、15才。父、日本人。母、英国人10年前死亡。日本生まれ日本育ち日本国籍……。
 不得意教科………英語?」
「ふんっ。笑いたきゃ笑いなさいよ」
「ぷっ」
「なにがおかしいのよ──っ」
「笑えとおっしゃったから笑ったまでです」

 えーと(笑)。今回はこの人をとりあげるのが目的のひとつ。「束子」と書いて「たわし」と読む(笑)。ファンロードにぽつりぽつり描いてきた作品が昨年1冊にまとめられたばかり(『ナースストーリー』ラポートコミックスより)。

 ファンロードいう雑誌も、もとはアニメックの別冊みたいな形で始まったように記憶してるんだけど、親雑誌のアニメックがつぶれて久しい今でも相変わらずマイペースで続いている。

 まあ、読者コーナーだけで一冊になっているような雑誌で、基本的にはアニメやマンガのファンの集まりなんだけど、ここでは「ファンロードの読者である」ということが一つの世界になってしまっている(笑)。ある雑誌の読者が一つのサブカルチャーを形成する、みたいなことは割とよくあると思うけど、その対象となる雑誌の内容が読者の投稿だけで出来上がっているというシチュエーションは珍しいかも。

 内容のほとんどは普通の雑誌の読者コーナーのような文章での投稿とか、葉書1枚のイラストとかなんだけど、頭角を現わした人になると一定のページ数をもらってマンガを描いたりもしている。車田正美そっくりの絵で「聖闘士ダ星矢」を描いてる島村春奈なんて人はその代表格。人気があればコミックスまで出してもらえるのである(笑)。

 この束子という人もそんな「人気作家(笑)」の一人。一回8ページのショートコミックを散発的に発表していた。看護学生の寮生活の日常を面白おかしく描く「ナース・ストーリー」、人の願いを一つだけかなえることを生業とする魔女の少女を主人公にした「魔女物語」、と、一応二つシリーズがある。

 先の台詞は「魔女物語」の中の一篇「Study Hard」より。まあ基本的にはこういう会話のテンポのよさだけで読ませる、みたいな感じのマンガである。そのへんは(先のわかつきめぐみとも共通する部分があるような気もするんだけど)10ページ前後の限られたページ数でいかに読ませるか、というテクニックのようなものかもしれないが、この人はなかなかうまくやっていると思う。微妙な間のとり方もうまい。

 本人は現職の看護婦で、今回収録された作品のかなりの部分は実際に看護学生だった時代の書かれたもの。その職業柄か、マンガの中にもついこんな台詞が出てきたりすることもある。

「へえ。忙しいんだ。
 そんなに忙しいなら、魔女の仕事はやめなさい」
「え。でも。
 最近魔女が不足して困ってるって」
「こんないい加減なことされるくらいならいない方がましよ」

 これは「魔女物語」の方の台詞なんだけど、この「魔女」は容易に「看護婦」と置き換え可能であろう。さぞや本人の実感がこもっているのではないかと思う(笑)。

 コミカルな中に、時にそんな真摯さが見え隠れし、はたまた普通の女の子の日常的な心理のひだを淡々と描いてみせたりもする。そんなマンガが読みたい向きにはオススメの一冊である。


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