お楽しみはこれからだッ!!
YOU AIN'T READ NOTHIN' YET !!

第1回 (荒木飛呂彦のこと)
 掲載誌 第9回みちのくSF祭りDATECON・FINAL!!
 公式アフター・レポート「千客万来II・魔獣鶴亀伝」
 編集/発行 たこいきおし/仙台SFクラブ
 発行日 1988/7/15


 …と、いう訳で、荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』から名台詞をさがしてみました。とはいえ、最近は“荒木節”などという特殊用語(?)が存在するくらいで、荒木飛呂彦のあの独特の台詞まわしはかなり有名であるようで、実際一コマ一コマに“名台詞”があふれえってるので、どれをとりあげるか迷ってしまいますな。

 しかしやはり“第一部ジョナサン・ジョースターその青春”のなかでも極めつけの名台詞はこれだッ!!

「ふるえるぞハート!
 燃えつきるほどヒ───ト!!」

 いやあ、味がある(笑)。

 連載当初におけるジョナサンはおよそジャンプの主人公らしからぬ弱い主人公だった。宿敵ディオ・ブランドーが(関係ないけど最近の僕の夢はホンダのスクーター“DIO”を買って“ディオ・ブランドー”という愛称をつけて乗り回すことです)一足先に“石仮面”から吸血鬼の超人能力を手に入れてしまったのに対して、ちょっと常人より体格がよいだけのただの人間であるジョナサンは“勇気”だけを武器に自らも瀕死の重傷を負いつつかろうじてディオを倒す。ところがどっこいディオはしぶとく生きている。一体どうなるのだろう、と思っているとかのツェペリ男爵が現われ、ジョナサンはあの“波紋法”を身につけて強い主人公に変身するのである。

 件の台詞はジョナサンが初めて“波紋疾走(オーバードライブ)”を駆使して切り裂きジャックの屍生人(ゾンビ)を倒した時の台詞であり、それまで強い主人公としての才能を持ちつつも弱い主人公としてくすぶりつづけていたジョナサン・ジョースターが真の主人公として覚醒するための言わば“解放の呪文”なのである。同時に『ジョジョ』の物語としての魅力もこの台詞の出現を機に一気に開花する訳で、これを越える名台詞は他には存在しないッ!!

 断っておきますが、僕は本気です(笑)。


 『ジョジョ』が始まったときは誰もが「“第一部ジョナサン・ジョースターその青春”などといっているけど、例によって“第一部完”で連載が終わるんだろう」と考えていた筈だ。どっこい、第一部が感動のフィナーレを迎えた時、「ああ、これでもう毎週ジャンプを買う必要はなくなったんだなあ」と思って、ふと次号予告を見るとなんとなんと、次号から1930年代アメリカに舞台を移し第二部開始、とあるではないですか(!)。

 そこで僕は予想を立てた。第一部から40年以上過ぎているのでジョナサンの子供では主人公としてとうが立ちすぎている。従って主人公はジョナサンの孫! で、やっぱり愛称がジョジョなのに違いないッ!! と。

 予想は見事に的中しました(笑)。

「てめえの次にはくセリフは
『思い知ったか…この原始人が…』…だ……」

 第二部は第一部に輪をかけて名台詞がうじゃうじゃ群れをなしているのだけど、僕はこれを選びますね。全く、“さとるの化け物”みたいな奴ですな、このジョセフ・ジョースター。チンピラマフィアやストレイツォの台詞を言い当てるのはまだしも、二千年の眠りから目覚めたばかりの究極生物サンタナの台詞まで言い当ててしまうってのは、実に只事ではない、と思う訳です、はい(笑)。

 『ジョジョ』には“石仮面”と“波紋法”という二つの軸となるアイデアがあって、第一部ではその二つを単なるガジェットとしてのみ用いて、それをめぐるジョナサンとディオの二人の青春(きゃ)を描き切って、独立した物語として見事な完成をみせましたが、第二部の物語は“石仮面”の謎をめぐっての謎ときゲームになり、主人公ジョセフの敵も──ジョナサンの敵がディオ唯一人だったのとは対称的に──吸血鬼ストレイツォ、究極生物サンタナ、そしてワムウ、エシディシ、カーズ、とどんどん強い敵が現れてくる。舞台もニューヨーク→メキシコ→ローマ→ヴェネツィア、と二転三転。それにしてもあのナチス・ドイツが人類を救うべく日夜努力していたとはねェ(笑)。


「『誰だ?』って聞きたそうな表情(かお)してんで自己紹介させてもらうがよ。
 おれぁおせっかい焼きのスピードワゴン!」

 『ジョジョ』第一部第二部を通じて最も重要なバイプレーヤーというか狂言回しのスピードワゴン、自己紹介の台詞でした。僕は不幸にしてというべきか幸いにしてというか、ロックに限らず音楽全般に疎いんですが、このスピードワゴンという名前、REOスピードワゴンというバンドの名前からきてるんだそーで、これでこのスピードワゴンのフルネームがレオ・スピードワゴン(Reo Speedwagon)だというんだから思わず笑ってしまいますね(笑)。スピードワゴンって変な名前だからてっきりニックネームだと思ってたのに本名なんだもんね(笑)。

「しゃ…しゃべった!
 ラテン語だ! ローマ帝国時代の言葉だッ!」

 …というのはローマの地下で目覚めたワムウをまのあたりにしたドイツ軍将校の台詞。でもラテン語って当時の正確な発音なんて世界中の誰も知らない筈なんですがね(笑)。因みにワムウ、エシディシ、カーズの“柱の男”トリオは“ワム!”(これは流石に僕でも知ってる(笑))“AC/DC”(いや、エシディシって変な名前だとは思ってたんですが(笑))“カーズ”からとった名前だそうで、もう笑うしかない(笑)。

「わしは…結婚もしなかったし…家族ももたなかったが…自分の運命に満足しておる……」

 奇人ツェペリ男爵、いまわのきわの台詞。それじゃツェペリの孫と自称するシーザー・ツェペリってのは一体何者だい(笑)。『ジョジョ』も人気が出るにつれて『北斗の拳』みたいになってきたなあ。因みにツェペリの由来がかのレッド・ツェッペリンだというのは有名な事実ですな。


 ……と。前ページにああ書いてから一ヶ月。その間発売された『ジョジョの奇妙な冒険』第四巻では、件のツェペリ男爵の台詞は次のように修正されてしまひました(笑)。

「わしは…若い頃結婚もしていた。しかし石仮面のため家族を捨てた」

 さらに第四巻巻末には「どうもすみません。これは、おわびのためのあと書きです…」と題された一文が寄せられていて楽しいので、一部引用してみませう。

(前略)そのこと(註:シーザーの存在)についての抗議の手紙や電話をたくさんいただきました。「ふざけるんじゃねえ!」とか「いいかがんな話をかくな!」とか「大人はウソつきだ!」とかの、少年少女の絶望と怒りと悲しみの声でした。(中略)『ジョジョ』は、壮大な構想と緻密な計算のもとにつくられている作品ですが、長くかきつづけると、そこにヒズミやキズができてくるということでしょうか…。
「大人はウソつきだ」と思った少年少女のみなさん、どうもすみませんでした。大人はウソつきではないのです。まちがいをするだけなのです……。(後略)

 うんうん。荒木飛呂彦の人柄が思わずにじみ出てますねェ(笑)。そういう訳でシーザー・ツェペリはツェペリさんの孫として無事認知してもらうことができたのでした。めでたし、めでたし(笑)。


『お楽しみはこれからだッ!!・電脳総集編』に戻る。
「糸納豆ホームページ」に戻る。