【道成寺攷 参考資料】

[道成寺芸能 参考歌謡詞集]

道成寺道行 /  松の葉 道成寺 /  琴線和歌の糸 道成寺 /  伊勢音頭 道成寺 /  上狛踊歌 日高踊 / 道成寺清姫和讃

[長歌古今集 天和2年「道成寺道行」]

つくりし罪も消えぬべき 鐘の供養に参らんと 
むろのこほりを立ちいでて 願ひもみつのお山に 
もしもげにやあるらんと おもひまはせば小車の 
やる方もなき我が思ひ 我にうかりし人々に 
忽ちむくいをみすべきと まよひの雲にかくされて 
月は程なくいりしほの 煙みちくる小松原 
急ぐ心かまだくれぬ 日高の寺にぞ着きにける。 



[松の葉 四巻 元禄16年「道成寺」]

つくりし罪も消えぬべし 鐘の供養に参らん 
みづからと申すは そも泊まり定めぬ忍び妻 
紀の路の奥に住み馴れし 人の心を慰むる白拍子の 
鼓ぐさなる瀧川の流れの身 道成寺のみ寺には 
鐘の供養のあるよしを 皆人ごとにゆふまぐれ 
月は程なくいりしほの さして我が身の罪科も 
報わんことの嵐ふく 三室の山のもみぢ葉の 
色にそれにしあだ衣の 薄からざりし 
さんしぅの罪おそろしく ことにまた罪業ふかき川竹の 
ひと夜ばかりの手枕に 人の罪をも身に受けて 
永き闇路や黒髪の 乱れ心や結ぼれて 
けぶり満ち来る小松原 急ぐ心かまだくれぬ 
日高の寺にぞ 着きたまふ。



[第八 琴線和歌の糸 巻ノ七 寛延4年「五十二 道成寺」]

 昔此の所にまなごの庄司というものあり 
かの者一人の娘をもつ またその頃奥よりも 
熊野へ通る山伏あり 庄司が許を宿と定め年月送る
庄司 娘を寵愛のあまりに あの客僧こそ汝がつまよ夫と戯れしを 
幼心に真と思ひ 明け暮れしていたりけり
 さて其の後に夜更け人静まりて 
衣紋つくろい びんかきなでて 
忍ぶ夜の障りは 冴えた月影更け行く鳥が音 
それに厭なは犬の声 そっとした人目忍ぶは憂やつらや 
せきくる胸をおし静め かの客僧の傍らへ行き 
いつまでかくておきたまふ 草々迎えてたまわれと 
じっと締むれば せんかたなくも客僧は 
よれつもつれつ常陸帯 二重廻りを三重四重五重 
七巻まいて離しはせじと引き止むる 切るに切られぬ我が思い 
おんま繋ぐはそれや嘘よ とても寝よならはて諸共に 
縁は朝顔あさくとままよ せめて一夜は寝て語ろ 
後程忍び男すべし 娘まことと喜びて ひと間の所に待ち居たり 
その時客僧しすましたりと それよりも夜半にまぎれて逃げて行く 
さいはい寺を頼みつつ 暫く息をぞつぎいたる 所へ娘立返り 
腹立ちや腹立ちや 我を棄ておきたまふかや 
なうなういかに御僧よ いづくまでも追っかけ行かん 
死なば諸共二世三世かけ 逃がすまじきと追っかくる 
折節日高の水かさまっして 越すべきやうもあらざれば 
川の上下あなたこなたと尋ね行きしが 毒蛇となって川へざんぶと飛び込んだり
(間の手) 逆巻く水に浮きつ沈みつ紅の舌を巻き立て炎を吹き掛け 
吹き掛け 吹き掛け なんなく大川を泳ぎ越し 
男子を返せ戻せよと ここの眼廊 かしこの客殿
くるりくるりくるくるくるくるくるくる
 追ひ廻り 追ひ廻り なほなほ怨霊威猛高に飛び上がり 
土を穿って尋ねける 住侍も今はせんかたなく 
釣鐘下ろし隠しおく 尋ねかねつつ怨霊は 鐘の下りしを怪しみ 
龍頭を銜へ七巻きまいて 尾をもってたたけば 鐘は則ち湯となって 
遂に山伏取りおはん なんぼう恐ろし物語



[第十一 伊勢音頭二見真砂「道成寺」]

嘘の皮 日高川より恐ろしき 女心の一筋に 誠があらば逢ふまでに 
作りし罪も消えぬべき 消えぬべき 消えなば消えよ焚きさしの 
甲斐なき人の仇心 我は此の頃此の里へ
二道かける悪性の跡を慕うて廓町 三筋四筋と移り気の 
かげは二つ 月は程なく入り汐の急ぐ心にまた暮れぬ 
格子 格子のかけ行灯



[日本歌謡集成 巻六 近世篇 高野辰之編 第9 精霊踊歌]

上狛踊歌・六 日高踊

精霊踊歌は、石田元李氏が踊歌27番と題して歌舞伎研究の上に寄せられたのを、
同氏に乞うて、これに収めたのである。
前半10番は山城國相楽郡上狛村において、
後半の17番は同郡鹿背山において、盂蘭盆の聖霊踊に用いたものである。


△京山伏が熊野へ参る ヤァ 
○しはたか山の女茶屋で宿とりて、三つになる姫抱き上げて ヤァ
 妻にしようと申された。

△十三成る年またとまられて ヤァ 
○その時姫が申さるる様は ヤァ 
 妻になろうと申された。

△それから山伏 胆打ち潰し ヤァ
○あなべたなべをはや打ち越えて ヤァ 京松原へ逃げられた。

△あとより姫が追い掛けするよ ヤァ
○あなべたなべをはや打ち越えて ヤァ 京松原へ追い掛けた。

△それから山伏や日高川へ逃げられた ヤァ
○あとより姫が追い掛けするよ ヤァ 渡してたもるな船頭どの。

△あとより姫が追い掛けするよ ヤァ
○あの船いや、この船いや、渡さにゃ入る ヤァ
 渡さにゃ入る はいたる草履を手に持ちて、はいろとおもたら、蛇になりた。

△それから山伏や鐘巻寺へ逃げられた ヤァ
○同宿達をたのまれて ヤァ 鐘をおろして かくされた。

△あとより姫が追い掛けするよ ヤァ
○御門の脇に暫く立ちて、あの鐘ゝと念をいれ、 ヤァ
 一巻まこよ、二巻まこよ、ヤァ 三度巻いたら湯になりた。

△日本のうちに姫多けれど、ヤァ庄司が娘は蛇になりた。




[日本歌謡集成 巻六近世篇 高野辰之編 第5和讃雑集]

道成寺清姫和讃

帰命頂礼そのむかし 眞名子の庄司と呼ばれたる
紀州において名も高き 弓取る家の愛娘
姿容も清姫と その名を呼べる女なり
恋の暗路に踏み入りて 熊野参りの安珍と
その名を中す若者の 妙なる姿に思込め
ふかく迷ひて慕ひつつ 一夜の情に濡れなんと
胸に燃たつ煩悩の 炎身をばこがしつつ
口説けど泣けど安珍は 縋る袖をば無情なくも
振り切り払い聞き容れず かかる処に長居せば
身のためならずと夜に紛れ 安珍家を脱け出でて
道成寺へぞ至りつつ 事の由をばうち語り
鐘の中へぞ隠れたる 清姫かくと知るよりも
心も身をも狂ひ出し 恨みを言はんと思へども
中を隔つる日高川 わたす渡しのあらざれば
しばし川辺に泣き倒れ 果てしもここにあらざれば
終にも心をきはめつつ たとえ藻屑と化するとも
今にぞ思いを知らせんと さんぶと川に跳り入る
ああおそろしや一念の 大蛇となりて道成寺
いつの間にかは飛行って 安珍隠れし釣鐘を
七巻半ぞ巻きければ 瞋恚の炎燃えそめて
さしもに堅さ釣鐘も 溶くるばかりの苦しみに
あらあさましや安珍も ともに蛇道に落ち玉ひ
浮ぶせも無き魔界へと しづみけろをば御佛の
広大無辺の御功力 尊き御僧の読経に
ともに成佛遂げたるは 末世の今日に至るまで
残る話の因果なり 今にお寺も残りけり

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