【演出が使うTA】


【TAを使う、その3】

は、登場人物の分析です。
戯曲分析の中で、ある特定の人物を理解する時には、
戯曲の中でその人物が果たしている役割、
例えば物語の中心的な人物なのかどうか。
また幕開きの時の立場から幕が降りる時の立場までの変化を抜き出し、
物語を押し進めてきたのか、物語の中で流されてきたのか、を理解します。
更に、ト書きや登場人物の事前設定から本人を取り巻く環境と舞台前の本人の歴史を理解します。
例えば比較的裕福な家の次女で幼い頃は天才と云われていたとか、
昔は北面の武士で今は放浪の乞食坊主である、などです。
また本人の台詞やその他の台詞、ト書き等の実行した行為から、どのような性格かを推理します。

TAは、この登場人物の性格探しに役立つかもしれません。
TAでは、「自分」および「他人」に対しての基本的な立場を人生態度=基本的構えといいます。
TAでは、この基本的な立場が「幼児期における主に養育者とのふれあいの過程で形成される」と考え、
自分自身を振り返り、「自分も相手もOK」という相互理解の関係を目指す機会とします。
自他に対する信頼の基礎になる体験を“基本的信頼”といいます。
つまりある個人の「自分」および「他人」に対しての基本的な立場、基本的な姿勢、即ち人生態度は、
基本的構えとして下記の四つに分類されます。

(基本的構え) 1.自己否定・他者肯定(I am not OK,You are OK.)
あなたはなにをやっても素敵ね。勝ち組よ。それに比べてわたしは、なにをやってもだめ。負け組なのよ。

2.自己肯定・他者否定( I am OK,You are not OK.)
私はやるべき事をやって、この成果を得た。それに比べて、あなたは、なにをやってもだめね。
わかってるの?

3.自他否定     (I am not OK,You are not OK.)
あなたも私も落ちこぼれ。何をやってもだめなのよ。

4.自他肯定     (I am OK,You are OK.)
あなたもわたしもやるべき事をやってきた。思い残す事はないでしょう。良い結果を待ちましょう。

この(基本的構え)のアンバランスは、次の3つの基本的な構えの“ゆがみ”となって現われると考えます。


1.自己否定・他者肯定(I am not OK,You are OK.)
⇒ 自己卑下、劣等感、抑うつに悩む人達の心境です。

例えば……(『女達のセレナーデ 第一楽章ソナチネ』 作/神品正子より)

163. 美和子 だって二十年以上バレエやってて、やりたいことも我慢して、食べたい物も我慢して、
       とにかく我慢ばっかりしてきて。それでも簡単に降ろされちゃうんだから。
164. 真 紀 でも、仕方のないことですよ。
165. 美和子 仕方ないのは、わかってるわよ。結局、私にたいした実力がないってことでしょ?
166. 真 紀 そういう、つもりじゃ……。
167. 美和子 年もとったし。
168. 真 紀 年は誰だって、とります。
169. 美和子 でも、こういうことになると、もっと早くやめてればよかったとか思っちゃうのよ。
    その方がもっといろんなことができたかもしれないし、もっと幸せになれたかもしれないとか、 
つい考えちゃうの。パ・ド・トロワを何度踊ったところで、何にもならないんだから。 
170. 真 紀 何にもならないなんて。 
171. 美和子 じゃあ、今まで私のやってきたことは何? 
172. 真 紀 …… 
173. 美和子 毎日やってるレッスンは、何なの? 
174. 真 紀 …… 
175. 美和子 あなたに、こんなこと聞いてもわからないわね。 
176. 真 紀 …… 
177. 美和子 誰にも、わからないわよね。(間) 
178. 真 紀 でも、やっぱり……。 
179. 美和子 …… 
180. 真 紀 踊りたいです。 
181. 美和子 …… 
182. 真 紀 人を蹴落としたって踊りたいです。だって私には今のことしか、考えられませんから。 
183. 美和子 そうよね 
 
 
2.自己肯定・他者否定( I am OK,You are not OK.) 
⇒ 独善、他罰主義、他人不信などの心境で、攻撃的、反社会的な言動になりやすい構えです。 
 
例えば……(『楽屋 流れ去るものはやがてなつかしき』一幕四場 作/清水邦夫 より) 
 
219. 女優D あの、あたし、……健康になったんです、すっかり。 
220. 女優C ええ、だから。 
221. 女優D 長いこと、すっかりご迷惑かけちゃって。 
222. 女優C いいのよ。そんなこと気にしなくって、……それより、やってくれるんでしょう、 
      プロンプ。 
223. 女優D プロンプ? 
224. 女優C (いらいらして)プロンプよ。 
225. 女優D (いらいらして)どうしてあたしのいってる意味が通じないのかしら。 
226. 女優C 意味って。 
227. 女優D あたし、もうすっかり健康になったんです、だから。 
228. 女優C だから、なによ! 
229. 女優D 返していただきたいんです。 
230. 女優C (ポカンとする)返すって、なにを。 
231. 女優D まあ……(白っばくれてという笑い) 
232. 女優C (不安になる)なにか、預かった? 
233. 女優D 預かっただなんて。 
234. 女優C はっきりおっしゃい、いったいなにを返せっていうの。 
235. 女優D ニーナの役。 
236. 女優C え? 
 
 
3.自他否定     (I am not OK,You are not OK.) 
⇒ 虚無的な心境で、人生に絶望した自棄的な生活や、自殺などを招きやすい構えです。 
 
例えば……(『ハロー フロム バーサ』 作/テネシーウィリアムズより) 
 
80. バーサ (ややあってから)仰る通りさ、(肩を上げる)あたしだって、ルールはチャーンと分かってるんだ! 
     (ギラギラと遠いまなざしでゴールディを見つめる)アウトになった者は、アウト。  
  二度と入り込めッこない!(頭を振り、それからまたゆっくりと横になる。こぶしを固めて、 
  ベッドを二度三度と叩く。そのうち、手の力が抜けて、ベッドの横から滑り落ちる) 
81. ゴールディ ねぇ、バーサ、よく考えてごらん。あんたを感じのいい、さっぱりした部屋へ入れてあげよう。 
     食事もいいし、寝心地のいいベッドもあるし。 
82. バーサ そこで死ねってんだね!ちょっと起こしとくれ!(立ち上がろうとしてもがく) 
83. ゴールディ(そばへより)興奮しちゃいけないよ、あんた。 
84. バーサ 起こしてったら。よし!どこ、あたしのガウン? 
85. ゴールディ バーサ、ベッドから這いずり出るような体じゃないよ、あんたは! 
86. バーサ おだまり、この人殺し!リーナを呼んどくれ、あの子に荷造り手伝ってもらう。 
87. ゴールディ どう決めたの? 
88. バーサ 出てゆくよ。 
89. ゴールディ どこへ? 
90. バーサ よけいなお世話だ。 
 
以上のような場面を理解する時に、手がかりになる分析事例だと思います。 
 


TAを使う、その4
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