【配役の仕方「オーディション」】配役は、舞台創造のうえでもっとも決定的な意味を持つ要素である。劇団等では役が要求しているものと、各俳優の心身の一致点を生かして割り当てるのがもっとも無難だ。 演出は戯曲を研究している間に、各登場人物の具体的な姿を想定しながら、配役のプランを考える。 演出が落ち入りやすいのは、紋切型の配役をしてしまうことだ。 主役は『美男子』であり、敵役は『ごつい男』というようなやり方は絶体に避けるべきだ。 俳優の個性を生かして、他にまねのできないような配役を作り上げられればいい。 劇団でも、配役をオーディションで選ぶことは、マンネリを防ぐ有効な手段だ。 俳優には、場を盛り上げるのに長けた人、場面の転回や展開がうまい人、人の演技を助けるのがうまい人など、 様々な得意技がある。 特技に合わせて配役すれば簡単だが、それでも登場人物とマッチすることは難しい。 逆に不得意な役柄を組み合わせてみると、意外な登場人物像が生まれて面白いことがある。 俳優のやる気と忍耐を知るために、本を渡して1週間程で俳優が希望する役のオーディションを実施する。 【稽古】稽古に入って、演出の示唆は俳優の創造の方向を示し、俳優は演技という果実に育てる。これは演出が机上で考えたものを遥かに超える。 その結果を元に、演出はより大きく舞台構想を広げていくことが出来る。 演出は同じような示唆を繰り返さず、常に新しく可能性を含んだ示唆を俳優に提供し、 俳優もまた新鮮な演技を演出に提示していく。 創造の新しい局面は、それに先立つ局面に依存しているのだ。 ここに俳優と演出との真の相互協力が存在する。 演出の創造は、俳優の創造に深く根ざしていることが明らかだ。 演出の重大な関心事はリアリティと俳優の仕事だ。 例え上手に見える演技であっても、俳優から紋切り型の表現を受け取らない。 月並みな表現や動きは、演出にとってやりきれないものだ。 演出はあらゆる努力を尽くして、それを新鮮なものと取り換えようと試みる。 演出は皮相なお芝居ごっこから新鮮な演技へ、 俳優を導く事に最大の努力を尽くさなければならない。 【稽古スケジュールの組立て】稽古スケジュールは、作品の性質によって組立てを考えなければならない。全体像を俳優達と把握した上で、個々の役づくりや場面づくりに取りかかると、 よりスピーディーに舞台化できる場合がある。 また、最初の場面を丁寧に仕上げてゆくと、自然と全体像が理解できて、 ドラマの流れのテンポリズムが生まれ、役づくりもスムーズに行くこともある。 稀には最後の場面を作ってしまうと、成りゆきまかせでなんとかなってしまうモノのもある。 要は俳優の力量と演出の能力によって、稽古時間や組立て方を考え、 予算によって制限される稽古場の確保時間を配慮して、 無理のない稽古スケジュールができれば(不可能だが)幸せだということ。 《稽古の平均的時間と考え方》 稽古スケジュールの組立ての平均的な(つまり絶対にあり得ないことだが・・・)方法としては、 90分の作品に対して、1分を1時間で作る。おおよそ90時間、6時間の稽古で15日。3時間の稽古で30日。 最初の7日間でサラッと通し稽古が出来て、後の5日で小返し、 つまり切っ掛けや演出上の約束事、装置との相性、衣装や小道具を整える。 残りの3日で演出の後悔と愚痴と俳優の怨嗟をいかに少なくするかの努力が始まる。 《最初の稽古と考え方》 稽古場に初めて集まった俳優達を見て、演出は妙に騒いでいる俳優や、隅に静かに佇んでいる俳優を見る。 そこに彼らの、彼らが置かれている状況に対する典型的なパターンを見い出す。 そのパターンは彼らの素顔ではない。 彼らが知らず知らずのうちに身に付けてきた、『クセ』『日常的な処世術=仮面(ペルソナ)』に他なら無い。 この仮面は、舞台創造・演技創造の最大の障害になる場合がある。 演出は、この仮面を俳優個人個人について記憶し、訓練の課題と結び付けて考えなければならない。 俳優の性格や行動の癖、声の質、身体的特徴、精神的特徴、過去の実績、心の軌跡などの記録を俳優のカルテと呼ぶ。 ・全員を中央に集めて自己紹介をしよう。アイスブレークが出来れば良い。 生まれ月順に並ぶとか、普段なじみのない方法が望ましい。俳優同士の会話が生まれると楽しい。 この段階から演出は指揮者の役割を発揮しなければならない。そして、稽古プログラムの簡単な説明にかかる。 ・稽古場におけるルールの再確認もしなければならないだろう。 1.稽古に参加する者は、日常的な約束ごとや常識的な束縛から解放されて、舞台創造のために責任ある行動を取ること。 2.舞台創造の仲間は、一人は全員のために、全員は一人のために責任を負う事を忘れないこと。 3.稽古場は各俳優の発表の場であり、全員で創造して行く場である。稽古前にやってくる事を持ち込まないこと。 4.稽古場で演出以外のスタッフや俳優が、俳優に演技上の指図やダメだしをすることを禁じる。 《舞台稽古》 立稽古もすすんで、各人物が生き生きと動きはじめ、舞台の流れも劇のテンポに乗って スムーズに動きはじめたとき、舞台稽古をやる。 舞台稽古は衣装をつけ、メークアップをし、照明も音響効果も加わり、舞台装置も小道具も本舞台と全く同じ。 費用の関係や劇場の関係で普通一回か二回しかできないが、回数の多いほどいいことはいうまでもない。 立稽古をやっていた場所と、広さも位置も変わってくるので、せっかくある程度出来上がりかけていた演技が、 舞台稽古にはいるとボロボロになってしまうことがよくある。演出が内心オロオロとする瞬間。 その困難を克服するためには、演出は新しい条件の中で、 俳優に稽古の間にやってきたことを十分思い出させるだけの余裕を与えなければならない。 また演出は、客席の隅から隅まで、すべての動作やせりふがよくわかるかどうか再吟味してみる必要がある。 劇場によっては道具の建て方や照明のいれ方によって、俳優の姿が見えなくなったり、 顔がはっきりしなくなる場所や客席ができてくる。 また、声が聞こえにくい場所というものもある。 その最悪の場所や席にあってもよくわかるように、演出は気を配って、俳優や各責任者に注意する必要がある。 つまり演出は、出演する俳優すべてが、観客から上手に見えるように舞台稽古で配慮する必要がある。 舞台稽古は、各スタッフが俳優の芝居を理解し、どこまで俳優を魅力的に観客に見せられるか、工夫する時間だ。 そして舞台監督(舞監)が、音響や照明をどこまで制御できるか試す。 その点に演出と舞監が、楽しい公演期間を過ごせるかどうかが掛かっている。 舞台稽古は、スタッフと俳優の為にやっている。通し稽古の最中に、演出や舞監が演技を止めるのはやめよう。 俳優が、自分達の芝居が舞台でどうなるのか確認していると考えよう。 演技の注意(ダメだし、というが何故だろう)は、通し稽古が終わって俳優とスタッフに伝えよう。 各プランナーが、俳優に演技上の注意を直接言うのは止めよう。舞台監督か演出に注意する方が良い。 どんなに未熟な俳優であっても、演出や舞監を通さずに、各スタッフが俳優に直接指示や注文をつけるのはタブーだ。 音響・照明・装置の各スタッフと俳優の、それでなくても息の合いにくい舞台稽古で、 なをさら間尺の合わないことをやって、本番の上手くいく可能性を限り無く少なくするのは止めよう。 舞台稽古でまずかったら、演出はおのれの失敗を認めよう。 後は舞監とスタッフと制作にあやまって、普通の稽古時間を確保するだけだ。 《舞台上の注意 》 専門的な訓練を受けていない俳優とともに舞台創造に向かう時は、 限られた日数で劇を仕上げなければならないときが多い。 演出が演技の基本を教えるということはたいへんむずかしい。 その時に、声の出し方や歩き方よりも、まず第一によく役の性格を理解し、台詞の一つ一つの意味を明瞭にし、 なんのためにこの台詞を話し、なんのためにどんな動きをするのかを考え、納得させる必要がある。 要は、俳優が、自分は何をしたら良いのか気付くことだ。 人に云われた事は化粧と同じ、汗で流れてしまう。自分で気付いた事は、土台になる。 それによって、初心者でもある程度まで自分の役割と任務に熱中し舞台で動けるようになってくる。 舞台の上で飲み食いする場合など、できるだけ食べやすいものをだし、胸やのどにつかえたり、 料理の皿を並べるのにひどく手間取ったりしないよう準備して置くべき。 【俳優スケジュールとの摺り合わせ】 俳優のスケジュールは、信頼し任せられる人程忙しいのが普通だ。 そのため具体的にシーン割りやピース割りで決まった香盤をもとに、 じっくり仕上げなければならないシーンと段取りよく済ませられるシーンを判断して、 俳優達のスケジュールと摺り合わせつつ稽古スケジュールを組み立てていく。 無理に通し稽古をしようとせず、関連の深いシーンのつなぎ稽古や跨ぎ稽古を取り入れていくこと。 本読みや読み合わせは、稽古として体に入りにくいので、なるべく簡略に。 できるだけ空間を活かした立ち稽古を実施すること。 【俳優付け帳の整理】 俳優が自分の役柄に関わる事柄を、上から下まで記録していく覚え書きのようなもの。 特に役柄に関わる衣装・カツラ・化粧・小道具・もち道具・出道具などは、 演出や各担当スタッフと打合せをして、自分が形作りたい役柄を、的確に表現できるようにしたいものだ。 さらに役の人物の履歴を精査し、足りない所は想像で補い、役の性格や身体的特徴、服や持ち物の好み、 仕事や遊びの具体的な内容とその上手い下手、交友関係など、役柄に関するアイデアや戯曲から理解できる事実、 実際の歴史的な事実から推理される役柄の特質などを記録していく。 演出が協力するのは、当然のことだ。 |
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