天狗山
Tenguyama

長野県南佐久郡川上村

天狗山
大深山バス停からみた天狗山南面の岩壁
男山と八ヶ岳
男山とその背後の八ヶ岳の稜線
千曲川
東南に見えるのは高原野菜の畑とその間を蛇行する千曲川
天狗山
高原野菜の畑まで降りふり返ると、先ほどまで立っていた頂上ははるか上にあった
 特急あずさを降り、小海線のホームへいくと、臨時列車の野辺山行きが停まっていた。走りだしたディーゼルカーは高原の林中を登っていく。白と緑色に塗り分けらた2両編成のワンマ ンカーは、エンジン音こそ響いてくるが、ローカル線で昔から使用されているものと違って振動は少なかった。JR最高地点となっている峠を越えるとエンジン音は消えた。 線路のつなぎ目のカタンという音だけをリズミカルに発し列車は滑っていった。前方に真上をむいた白いパラボナアンテナが見えてくると大きく右に曲がり、川崖に出た。峠は分水地点でもある。 今ここを流れている水は、千曲川に流れ込み、信濃川と名前を変えて新潟で日本海にそそぐまで、延々と長旅をする。水の流れでみれば、私はすでに日本海側に入っていることになる。
 まもなく減速した列車は野辺山駅のホームに滑り込み静かに静止した。私の向かうのは次の信濃川上駅である。ホームのベンチで次の列車がくるのを待つことにした。乗客の大方はこ れから八つ岳に登るのであろう。改札口はリュックを背負った人々で騒がしかった。
 私は静かな山歩きをしたくここまで来た。このあたりは都心から日帰りできる限界でもある。天狗山は2000mに満たない山であるから、いくら頂上からの展望が良いという特典がついてきても 東京からわざわざ長いアプローチを経てまでも訪れる人は少ないだろう。春先や秋の行楽シーズンは日帰りでいける山はどこでも騒がしくて、それを避けたいとなると行き先を探すのに苦労させ られる。これまでこのあたりはまったくの盲点であり候補にのぼらなかった。なぜなら、私も日帰りで来れるとは考えていなかったのである。
 次の列車が入ってきた。7分間だけのって次の川上駅で降りる。駅前の山の背後には岩峰が覗いていた。たぶん男山のものであろう。列車の到着を待っていた村営バスに乗ると、 金峰山あたりにいくのであろうか、団体の登山客がまたしても騒がしかった。少し遅れて出発したバスは、千曲川に沿って登っていった。そして私一人は大深山中央バス停でおりた。 さて期待していたとおり、バス停附近には天狗山の案内図はなさそうである。地形図を取り出し現在地を確認した。バスが停まる直前に千曲川の橋を渡ったから現在地は容易に特定できる。 そうすると天狗山の入口となる道路が合わさっていくのはもう少し先のようだ。
 歩いていくと、馬頭尊と書かれた大きな碑が建ち、ここから佐久に向かう県道2号線が始まっていた。 県道は馬越峠に向かって登っていく。道路の下方のグランドには万国旗が架けられ、今日は村の運動会のようだ。競技は中断しているのだろうか、広げたビニールシートの上で観客達はのんびりと再開を待 っているようである。参加者も観客も少ないここではスケジュールに追われて競技を進めていく必要もないのであろう。
頂上
1882mの山頂
 県道といっても通行車は少ない。大深山遺跡とゴルフ場の分岐が現れ、前方に見える天狗山の岩峰はだんだん近づいてきた。分岐の次のカーブを曲がったあたりから入る、地形図では黒の 一本線で示された細い車道が登山道に続いている。地形図に従って、私は南側に膨れてから北上する農道を進んだのであるがこれは失敗であった。ここでまっすぐいけば無難だったことが帰路判明した。 山麓に切り開かれた畑の間を細い車道が進む。農家が利用するだけであるから一直線でかなり急な坂である。農道が終わると動物の食害よけの電気柵が張られていて、これが曲者であった。 脇の木に着けられた赤い矢印にしたがって、左に進むと下り始めた。このまま進んでしまっても仕方がないので、もどって柵の電線が切られている場所を越えることにした。私と同じように迷った人がいたのだろうか。 それにしても柵を切るとはひどいものだと思いながらもかなりはっきりしたふみ跡を追った。沢にそって登っていけたががやがてはっきりしなくなる。この沢はどうみても山頂の西側に出てしまうから登山道とは別もので ある。頂上附近は岩峰であるから無理に詰めていっても登れるかわからない。歩道を探すほうが無難だろう。
 林中を東に横切っていけば登山道に出れそうである。荒れた道路跡がすぐ見つかり、下に降りていくから、ここを下っていった。しかし、この道はまったく利用されていないようで、いつしか消えてしまう。 前方に見えている少しだけ高くなっている尾根に登って反対側の沢に降りようと考えた。尾根からみると、沢のあたりに地形図に記された歩道がありそうな気がするが、ここでまた迷うこともないので、尾根沿いに いったん下ってから登山道を探すことにした。ふたたび柵の前に出た。柵にそって歩くと柵が切られて未舗装の車道が奥まで続いている。さらに先に赤矢印が続いているが、ここが登山道の入口であった。 消えかかった古い天狗山を示す道標が現れた。柵に沿って木に書かれていた赤矢印は登山道のものではないようなので注意が必要だ。ふたたび道は藪の中に隠れてしまい少し不安になるが道路の終わりから 先にはまだ細い道が続いている。
 径は沢に沿ってどんどん登っていくので急ではあるが、高度の稼ぎ方は早い。20分ほどで沢の源頭部まで出てしまい、行く手を岩 が阻んでいた。消えかかった赤いペンキで何か書かれているのでこの岩を登ろうとしたが、これは×が書かれていた。矢印に見えて危うく私は登ってしまうところであった。反対側をみれば急な径が続いていた。 ここから稜線までは10分もかからない。馬越峠から来る道と合わさる。岩の斜面につけられた急な道を15分ほど登って行くと頂上についた。急な分だけ高度を稼ぐのは早い。ふり返ると先ほど立っていたところ はもうかなり下の方に見えていた。最後の岩を登ると、直径が10mほどしかない頂上に着いた。頂上を示す標識が立ち、まだ新しいのであろうか風化していない小さな石の祠がおかれている。その脇には三角点を示す標石もある。
 待望の頂上からの眺めはきわめて良かった。360度すべてが見渡せる。西に続く稜線の先に男山があり、その背後には八ヶ岳の稜線がかすんで見えている。北東に見える川の向かい側の山はここより高い。御座山(おぐらやま)であろう。 馬越峠の向かいにある御陵山(おみはかやま)の山麓には、高原野菜の畑が区画され、茶色いタイルが貼られているように広がっている。その中を曲がりくねって流れていくのが千曲川である。
 急勾配の下りは往きよりさらに加速した。稜線を離れ沢沿いの道を下りきって林道に出るまでは40分しかかからなかった。一直線にくだっていく車道を降りていくと、左手に林を切り開き作られた畑が現れる。少し下ると右側にも畑が広がり 、ここからは頂上がよく見えた。先ほどまでそこに立っていたのが信じられないほどはるか上に頂上はある。15分ほどで舗装された県道に出ると、頂上では眺め下ろしていた御陵山も、ここからは高く立派な山に見える。
 運動会のグランドは、最後のテントを片付け終わるところであった。川音の響くバス停で、少し赤くなった天狗山を眺めながら村営バスの来るのを待ち続けた。

訪れるにあたって
<地形図> 御所平(二万五千分の一).
<交通機関> JR小海線信濃川上駅下車. 川上村村営バス、大深山(おおみやま)中央で下車.
<別ルート>馬越峠まで県道を登ってから、稜線を登るルートもあり、こちらの方が道は確かであるようだ.
所要時間の目安
信濃川上駅 >>10分(バス)>> 大深山中央 >>20分>> 遺跡の分岐 >>5分>> 農道の入口 >>迷ってしまったので正確な時間はわからないが30から40分であろう >> 登山道入口 >>30分>> 沢の源頭の岩の下 >>20分>> 稜線に出る >>20分>> 山頂 >>40分>> 車道に出る >>5分>> 最初の畑 >>20分>> 県道に出る >>20分>> 大深山中央バス停

1999年9月
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