赤岩の滝
赤岩の滝
 赤岩の滝は奥日光山中の秘瀑である。もともと険阻な地形ゆえに観光地として発展した日光であるから、その一帯には、 日光48滝ともいわれるように数多くの滝がある。観光都市だけに、華厳の滝をはじめとする名の知れた滝では、人だかりの多さから訪れる気も しなくなってしまうが、運よく開発されずに残されて存在しているものも少なくないのは救いだ。
 落差50m、水量も充分で、むき出した岩肌を流れ落ちる、景観のすばらしい滝は,白根山の南面に起源し中禅寺湖に流れ込んでいる柳沢川に ある。幸い、滝までの道程は長く、ほとんど訪れる人もないからひとりだけの静かな散策を楽しめる。

日光の秘瀑、赤岩の滝を訪れる

 中禅寺湖の西端の奥まった場所には、小さな砂浜千手ヶ浜がある。夏期キャンプ場が開設され、夏休みを過ごす客でにぎわう。 この浜に続く道路は、自然を保護するため閉鎖された。替わりの足となるのは赤沼より運行されている、低公害バスである。
 日光駅から湯元行きのバスに乗った。このバスにはもう何回乗ったことか。しかし、訪れたい場所がまだ多く残っているのはうれしいことである。 この一帯は本当に飽きのこないところである。前回は雪の残る季節であったが、今日は真夏の日が照りつけている。
 赤沼に着いた。 戦場ヶ原の散策を終えて、この赤沼からスキー板を持ってがら空きのバスに乗り込んだのはつい先日のように感じられるが、それから半年近くの時間が 過ぎていた。裏側にある千手ヶ浜行きのバス乗り場にいくと、バスはもう乗りきれないかと思えるほどの乗客が待っていた。それでも詰めこみ、どうにか予定 どおり出発した。国道を離れ、ゲートを入ると、湯川の上に出た。道路には散策を楽しむ人々が点在する。バスはゆっくりと小田代ヶ原に向かう。弓張り峠を越え、急な下り道を Uの字にターンすると外山沢に沿っての下りとなる。緑一面の林中も、前回来たときは雪深く、閑散とした木々と、自分の雪を踏む音だけが聞こえる静寂の地であったが 今日は鳥がにぎやかだ。
 西ノ湖入口で下車した。降りた乗客は、先を急ぐかのように林道に入っていった。せっかくここまできたのだから、人のいない道を歩くべきだろう。人影が消えるまで、バス停脇のベンチで休むことにした。帰りのバスの 時刻を確認し歩き始めた。西ノ湖に向かう林道と分かれ、柳沢川に向かう林道に入った。まもなく、右手に鳥井が建っていて上には山の神が祀られていた。このすぐ先で道は分岐し どちらに進むべきか迷った。右を選択すれば、広い河原が現れた。これがこれから登ることになる柳沢川であった。
 一刻も早く沢に入りたい気分であるが、もうしばらくは林道を歩かねばならない。まだ、砂防用の堰堤をいくつか越さなければならないからである。近年作られた堰堤を2つ越えたあたりから林道は荒れ始めた。落石が転がり 道は泥濘んでいた。沢から少し離れる感じがするのでもうそろそろ河原に降りようかと気があせるが、地形図でみたときには林道の終点には橋があった。まだ橋はあらわれない。再び堰堤が現れ、川に行く手を阻まれ道は終 端していた。対岸には、だれが書いたのか赤岩の滝と赤ペンキかかれていた。これでは誤りようはないので石づたいに流れを渡った。すぐ上の二段になって落ちる堰堤を越えるため、道は急傾斜だ。朽ち果てた木橋の橋台が 対岸に見えた。地図の橋に違いない。
 これが最後の堰堤のようだ。河原で沢用のシューズに履き替えた。踏跡はまだ続いているようであり、水の濡れて涼しい以外に利点はないだろうが、せっかくの天気を活かすためにも水 に入ることにした。それというのも、沢はまだ広く、わずかに早瀬があるくらいで景観としてはおもしろみはない。右岸に崖が現れ、沢は左に折れていった。いったん踏跡にもどり進む。ここまで林道を降りてから三十分ほどがす ぎていた。
 赤テープが見つかるので追っていくと沢の分岐にでた。ここでは印も見当たらなかったので、小さな滝の落ちている左の沢を物色することにした。こちらのほうが水量は多い。 しかし、人の入った形跡もないしどうも違うようだ。地図で確かめるべきだろう。分岐までもどり地図を広げた。右手の沢が正解であった。沢の左岸を登っていくと、緩い傾斜の滝が流れている。滝の音も響いてくるから、この上あ たりだなと思い、左岸の岩によじ登ってしまった。柔らかくぼろぼろと崩れていく。前方の滝が見えてきた。それと同時に道を誤ったことに築いた。見下ろせば、先ほどの滝の右岸を登っていけるのがわかった。このまま進んでも どうにかいけそうだが、やぶもあるし下ったほうが良いことは確かだ。恐る恐る崩れる岩場を下った。最初からそうすれば良かったのであるが、こんな緩い滝は水際を登ってしまえば良いのである。左岸の水際を這登った。  前方の露岩には、水が滑り落ちている。これが、間違いなく赤岩の滝だ。荷物をおろし写真を撮った。少しは先客がいるかと思っていたのだが、私一人だった。ちょうどお昼の時間になっていた。滝を見ながら昼食を作り食べた。 これで長い日程のちょうど半分を終えたことになる。このぶんだと東京の自宅にもどるのは、夜遅くなりそうだ。
 滝は3つの部分からなる。上部の垂直に落ちる部分。次の傾斜を滑り落ちてから落下する部分。そして右向きに落下している下段である。 轟くというより、ザザと水の滑る音が先ほどから気になっていたが、これは中段の岩肌を滑るときの音だ。滝のすぐもとまでいき右側のガレを登り下段の上に出た。 ここには滝壺があると思っていたのだが、大きなものはなかった。見上げると雲のない濃い青い空から滑り落ちてくる水の流れが見える。中段を滑り落ちるとき吸い込んだ空気で 白濁し流れはより白みを帯びる。赤みがかった岩肌も美しいが、その周りの木々の葉もまた色を添えていた。 よく見ると、上段の岩は少しごつごつしているようで、滑り落ちる水が、そこら中で岩に引っかけられて二条になっている。見るものに本当に飽きさせない滝である。
 結局一時間以上ここにいることになったが、完璧なまで美しいこの滝を私は後にした。

訪問のために

<アプローチ> 東武日光駅またはJR日光駅から湯元温泉行きに乗り、赤沼下車. ここから千手ヶ浜行きの低公害バスに乗り、西ノ湖入口で下車する.冬季には千手ヶ浜行きは運行されていない.
<所用時間> 赤沼までバス1時間15分.低公害バス20分. 林道45分.遡行1時間.
<地形図> 中禅寺湖、男体山(1/2.5万).
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