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中ノ滝と西ノ滝大蛇嵓からみる. いずれも高さは２００メートル代の並外れた高瀑だが、
残念ながら、ここからは最上部しか見えていない． 地形図で計れば、大蛇嵓からこれらの滝までは直線距離で２キロメートルほ どの距離がある．これほど離れた場所から目的の滝を鑑賞して帰るのはちょっとばかり珍しい体験であった． |
訪問記 |
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| 近鉄吉野線大和上市駅に降りた．昨日、バス停の下見もかねて、この駅から蜻蛉の滝を訪れていたから、この駅に降りたのは２度めである．改札を出て大台ヶ原行きのバス乗場に向かう．今日は休日であるから、
バスは混み合うだろうと、３０分ほど早くつくように計画を立てていた．ところが、乗客らしき人影は三名しか並んでいない．休日であるので、通常の便より３０分早い９時発が出ていた．余裕をもってここまで
来たので、この前の便に乗れる時間に着いてしまった． 奈良交通がこのあたりの路線で運行しているのはマイクロバスだ．発車間際になっても、座席はがらがらのままで、乗客は６人しかいない．宿を予約したとき、 バスの状態を聞くと、この時期であれば空いているから心配しなくてもいいといわれた理由がここでやっと理解できたのだ．降雨量の多いことで有名な、大台ヶ原にわざわざ梅雨時に出かけるもの好きはいないのである． 私は今回の計画を立てるにあたって、雨のことがまったく頭に入っていなかった．降雨量の多いことに気を取られて、晴天を最初から期待していなかったからである． あたりまえのことではあるが、降雨量が多いことが、一年中平均して雨が降り続けることを意味していない．天気の良い季節というものもあるはずだし、 わざわざこんな山奥に出かけるからには季節を考慮にいれるのが普通なのであろう． 大台ヶ原は日本一多雨な場所として知られている．１９２０年には８２１４ｍｍという値も記録されているし、年間雨量は４８００ｍｍにも達する．これは、山岳とはいっても並の値ではない．やはり雨の多いことで知ら れる屋久島において、雨中登山をした経験を私はもっているが、雨後、地図にあるようなルートであっても、沢とも道とも判らない様態となってしまっていた． 林床にはコケが生い茂り、倒木も多いからも歩行はまことに困難だった．ここも同じような状態であることは予想できるから、多雨の季節を敬遠するのは正しい選択といえるだろう． さてこの一帯に降った多量の雨水は３つの経路をとって海に掃き出される．東の流れは、宮川である．流れの始まりは魅力的な険谷大杉谷である．流れは志摩半島のつけ根を北上し、三重県の伊勢市で伊勢湾に流れこんでいる．一方、南に流れ出た雨水は、熊野川によって熊野灘に運ばれることになる． 河口は新宮市にある．最後は紀伊半島のもうひとつの大河、吉野川である． 上市駅を出たバスは、この吉野川に沿って進む．吉野川は河口のある和歌山では紀ノ川と呼ばれている．和歌山市の紀ノ川河口から、このあたりまではほぼ東西方向に流れているのであるが、ここから少し先の吉野村新子（あたらし）付近で支流の高見川とわかれ、本流は南東の方角に方向を変える． その最奥が大台ヶ原である．バスはこの新子を通らず、国道に沿って五社トンネルを超えていった．昨日訪問した蜻蛉の滝の入口前を通った．郵便局もある大滝集落を過ぎると、ダムの建設工事が進行していた．将来の冠水に備えてか、深い谷を超える新設された橋々は高いところに架けられている． この工事で山村の風景も大きく変わっていくのだろう． 林業を主な産業とする山村は、先ほどの五社トンネルを超えたところからは吉野郡川上村である．立派な建物が並ぶ一角に出ると、この村の役場前を通り、杉の湯のバス停に入った．駅でこの地名を見たときには、ひなびた温泉を想像したのだが、実際には立派なホテルであった． この湯盛温泉杉の湯にバスは止まり休憩時間が設けられている．駅を出発してからまだ３０分もたっていないのであるが、この先には適当な場所がないのであろう． 再びバスが走りはじめる．このあたりの国道１６９号線は、近年拡張工事が進んでいるようだ．真新しい長いトンネルが続く．すでに廃道になり草に覆われた旧道が時々谷側に見えている．トンネル群を終えると急カーブして、川崖につけられた細い道路に変わった． ここから先の区間は、工事がまだ進行中のようだ．左手の吉野川にはダムが現れた．ここから国道は吉野川の支流伯母峰川沿いにかわる．本流はといえば、左手に広がるダム湖の上にある．伯母峰トンネルにはいる直前で、すぐ脇に始まる大台ヶ原ドライブウェイに進路を変えた． この道ができたは昭和３４年、その後有料の観光道路だったようであるが、現在では奈良県の一県道として管理されている．観光道路の常であるが、無理に森林を切り開いて作られた形跡が多い．山肌には落石避けのネットが連続する．これらの補修工事も行われていた． 肝心の風景の方は、霧が出てきて白一色となってしまった．ここからは眠気との戦いとなった．はるばるここまできたのであるから、一瞬たりとも展開する光景を見逃したくないないという意思に反し、激しい睡魔が押し寄せてきた．霧で風景が単調になってきたのも、 ますます追い討ちをかけてくる．戦いに完敗しかけたころ、バスは止まった．終点の大台ヶ原である． バスを降り、宿泊する大台荘に向かった．部屋はもう利用できるようになっているとのことである．風呂は４時、食事は５時からだという．今日は、私の他には一人泊まっているだけだという．この時期に訪れる人は少なく、客のいない日もあるという． 宿票を書き終え、階段を上がった． まずは荷物を解き、これからのスケジュールを考えることにした．午後の４時間、霧はでていたものの雨は降っていない．明日の天気は期待できないし、念願の滝だけでも今日中に見ておくほうがよいだろう．行先は、先ほどフロントで聞いた大蛇嵓がちょうどよさそうだ． 中ノ滝、西ノ滝は大蛇嵓の上に立てば遠望できるというし、ここのところ雨続きだから水量も十分あるだろうとのことだった． |
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大蛇嵓から滝を見る | ||||||
| 大台ヶ原を訪れるのは、私の長年の夢であった．いつこのような名の山があることを知ったのか記憶に残って
いないが、その時以来忘れることのできない地名であった．一方名前こそ知ってはいても東京に住む私にとって紀伊半島の山中は
よくわからない場所でもあった．地理に暗いとはこういうことを示すのかと思えるくらいである．それが奈良県にあるわかっていても、私にも
検討がつく奈良盆地あたりから、どのように交通機関を乗り継いで行けばよいのかまったく予測がつかない．
もう１０年ほど前のことである．南紀を旅行しながら大台ヶ原に立ち寄ろうと考えたことがあった．もう時間がたってしまったか ら、どんな計画だったのかはっきり思い出すこともできないが、時刻表をみて調べたのであろうから、新宮からバスで入ろうとしていたはず だ．この計画は南紀行き自体をやめてしまったから、そのまま立ち消えになった． その後、関西に行く機会があったからついでによってみようと考えたこともある． この時は、川の流れを追ったのだろうか．和歌山県から入ろうとした．そして、どうみても時間的に無理だからとやめたのである． また、不思議とバスの運行していない冬場によくこの場所を思い出すのだ．春バスが運行するようになったら思いきって遠征してみようと、 これまで何回考えたことであろうか． そして今年は、運よく夏関西にいく機会を得た．週末を使って２日間の予定を立てることができる．時刻表で調べてみれば、大台ケ原行きのバスの出発 点となる大和上市という駅は、近鉄吉野線にあって、大阪から２時間ほどでいけてしまうことに初めて気づいた．これまで、雄大な紀伊半島の自然というイメージに邪魔さ れてか、はるかな秘境を想像していたようだ．今回、現実に行ける場所として初めてその存在を確信した感じである． この地に長年にわたりこだわり続けてきたのも、ここに中ノ滝、西ノ滝という２００ｍにもおよぶ大きな滝のあることを知っていたからである．日本国内いたるところに大きな 滝があるであろうが、高さ１００ｍを越すようなものになると覚えることのできる程の数になってしまうようだ．国内最高落差は富山県の称名の滝であることは、よく知られているが、 それでは第２位はどこなのであろうか．私は北海道の羽衣の滝あたりが 無難な候補かと思うのであるが、この中ノ滝も十分高く可能性はあるのではないだろうか．
そしてまさに今、その念願の大台ヶ原にいるのだ．一刻も早くその高瀑の姿を見てみたいと先ほどから気が焦っている．しかし、今日は決して恵まれた天候とは言いがたい． まだ雨は降っていないまでも、いつふり出してもおかしくないような空模様なのだ．しかし迷いはなかった．別に雨中でもかまわないとさえ思う．宿を出て、先ほどそこで降りたバス停 の横から下っていく山道に入る．ここは東大台の散策道の一部となっているのであるが、幸いにもこのあたりはそれほど整備されていなく、モミの林の中を歩道は進んでいく． 宿でもらった略図にはシオカラ谷まで標高差２００ｍとある．一気に下っていく．ひたすら下った先に吊橋があった．下の流れは、自身も東ノ滝となって落ち、右岸の中ノ滝や西ノ滝 から流れと合流して、東ノ川として流れ、後に熊野川に注ぐことになる．沢床まで下ってしまえば、今度は同じだけ登らなくてはならない．登り続けると、平で開けた場所に出た． このすぐ先に、大蛇嵓への分岐があった．ここから７分と略図には書かれている．もうあとほんの少しなのだ．走っていきたいような気持ちであるが、慎重に足を進めれば、 鎖に囲まれた岩場の上に出た．ここが大蛇嵓の展望台．この時、期待は見事に裏切られてしまった思いがした．この瞬間まで霧のことは全く頭に無かったのだ．あたりは白一色 であった． しかし、私はこのような状況での素人ではない．霧は時として晴れることは何度も経験している． いくらでも風は吹くのである．宿へ戻るには１時間もあれば足りるし、もどったとしても今日は他にすることはない． 晴れるまで、ここでじっくりねばれば良い． 霧がみるみる上がり眼前に岩が見えてきた．水音が聞こえているから、焦ってさがしたのだが、どこにも滝らしきものは見えない．そして次の瞬間、再び白一色に変ってしまった． 判断力が低下しているようだ．冷静に考えてみれば、そんな目の前に中ノ滝があるはずはない．お昼がわりに持ってきた菓子パンを食べ、気長に待つことに決めた． そして今度はかなり広い範囲の霧が消え去っていった．大蛇嵓の先には山並みも見えてきた．これはうまくいくと見れるかもしれないと思った瞬間であった． ついに北側に見える尾根の中腹に水量豊かに落ちる滝の姿が浮かびあがる．その左手の少し低いところにも、もうひとつの滝が落ちている．そして再びこれらは霧に包まれて いった． さてさらに待つとするか．ここまで前向きにものを考えられる自分が不思議なくらい、しぶとく滝の現れるのを待つことになった． 写真に写すのを諦めて退散しようなどという弱気はまったく消えてしまう．まずは、地形図を開き、滝がどの位置に出現 するのか把握することにした． |
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日出ヶ岳に登る | ||||||
| 日出ヶ岳はこの一帯の最高峰で、標高１６９５メートルである．
山頂へは、大台荘からは４０分ほどで登れる．朝食をすませ、７時４５分宿を出る．
案内標識にしたがって、駐車場の脇から歩道に入ると涼しい林間の道が始まった．整備が行き
届きすぎて少し単調すぎるが、ハイキング気分で楽しめる歩道だ．２０分ほど歩くと、コンクリート
で舗装されている場所に着く．ここから少し勾配は増し、階段もつけられている．案内図によれば、
このあたりの曲がりくねった場所を終えて、尾鷲辻からくる道と合流すれば、頂上はすぐである． 登っていくとまもなくこの分岐に出た．それと同時に見晴らしが開ける．海が前方に広がって いるのが見えている．左手には日出ヶ岳の山頂があって、その頂上に向けては木製の階段が 続いている．山頂まで２００mと書かれている．もうわずかであるが、木でできた展望台が設けられているので、 ここで少し休憩をとることにした． 飲み物と一緒に地形図をとり出して眺めていく．前に見えているのは志摩半島の南側の付け根のあ たりのようだ．すぐ前に見えている急な谷筋のくぼみは大杉谷のものである．流路を目で追っていくと山肌に 林道が露出しているところがある．道の曲がり具合を地図で探してみる．当然のことながら見えている川の 流れは地図のものとよく一致している． 階段を登り頂上に向かう．開けた頂上には、無人雨量観測所の白い小屋と、コンクリート製の展望 台があった．先ほど日も出てきて天気はきわめて良く、少しづつ暑くなってきた．雲がかかっている所もあるが 視界はまずまず利く．西に連なる大峰山脈を見る．この山脈の最高峰、そして近畿地方でも最も高いという 八剣山の頂上は雲で少しわかりにくいが、少し北側の山頂のとがった行者還岳の姿は確認しやすかった． 次に東側の海を見ていくことにした．まだ、だれも登ってこないから私一人が占有したままの展望台の 上に、持ってきた２０万分の１の地図を４枚並べておいた． 先ほども見えていた志摩半島のつけ根のあたりの地形と地図を照合していく．川の河口に広がっている 街並みは紀伊長島あたりであろうか．海岸には一列に島が並び、その並び方から推測するとそのあたりでありそ うだ．もう少し縮尺の大きい地図があれば確実に照合できるのであろう．もっとも、このあたりには他に大きな町 もないのだから、たぶん推測はあっているだろう． 紀伊長島は小さな漁村である．もう１０年も前のことであるが、那智の滝を訪れた帰り道、電車はつながらずこの町の駅に降りることになった． 時間はあったし、エアコンの効いた店でも探して時間を潰そうと改札を出てはみたけれど、そのような店など見当たらない． 炎天下を歩きまわる気にもなれず、結局、暑さについては少しはましな駅のベンチで昼寝をして、次の電車を待った思い出をもつ． なぜ記憶に鮮明なのであろうか．蒸し暑い日であって、潮のかおりは子供のころ夏休み、よく釣りに行った港のものに似ていたからだろう． 今は、遠く山頂から見ているだけであるから、知る手はずもないが、町並みはもうかなり変わっているのだろうか． それとも、そのころと同じままな残っているのだろうか、少し気になりはじめた． 日も高くなって次第に暑くなってきたから引き返すことにした． |
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| 歩道は明るい林中を進む． | ||||||
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| 山頂に登る階段 | ||||||
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| 日出ヶ岳の山頂 | ||||||
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西大台を歩く | ||||||
まだしばらくバスはこないから、ここを探索して小処温泉に向かう登山道の逆峠の手前にあるという展望台まで 行ってみることにした． 今にも雨が降り出しそうな気配の中、駐車場横の大台ケ原教会に向かう．あたりには霧が立ち 込めて、はっきりしない道に、はやくも心細い思いをする． 北側をいく歩道は、渡渉点もあるから、雨の強くならないうちにと、こちらを進むことにした．中ノ谷を渡った．この流れの 行く末は中ノ滝となっているはずだ．七つ池湿原というのもあったが、時間一杯そうなので、そのまま前進、 沢を渡渉すると開拓跡という場所に出た． 再び川を渡るが、これは、西ノ滝で東ノ川に落ちることになる逆川のものだ．南側の歩道も合流し、しばらく登ると 霧でまったく視界のない展望台についた． 風で霧が動くと向かいに勇壮な大蛇嵓が見えてくる．昨日はあの岩の上に立って、こちらを見下ろしていた ことになる．それにしても、東ノ川はこうも深いところを流れているのだろうか．それゆえに存在する滝の落差も大きい のだけれど．中ノ滝と思われる滝も木々に邪魔されて、ほんの一部だけしか見えなく、そこの先にあるはず垂壁は想像 するしかない． ここからほぼ真東になる、東ノ滝も見えるとガイドブックには書いてあったが、今日の天気では望めないだろう． 一日一便しかないバスも気にしなくてはならないから、ここも早々に出発することにした．南側の方の歩道は、いくらか 整備されていて、流れには橋がかかっていたりする．登り坂を駆け上がり、下りになれば滑りおり、ナゴヤ谷まで辿りついた ところで、ほっとして一休み． 霧で隠された流れをせせらぎを頼りに想像するのは楽しい． ブナの原生林と、その木々が根付く大地を這いまわる水の流れ、短い散策で触れた西大台の悠久な自然を回想しつつ、 バス停に向かう最後の道程を急ぐ． |
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| 東ノ川、滝見尾根には歩道があり、そこから中ノ滝、西ノ滝を見ること
ができるというようなことが、ずいぶん昔に読んだ「日本の滝 西日本編」には載っていたと思う．
かつては、気軽に滝の下までいけたようであるが、この歩道は現在利用不能であるとのことだったので、 私は結局遠望のみであきらめてしまった．このルートは沢を登る人々の間では使われ続けていたのであるから、 踏み跡はあるだろうから、今から思えば降りてみるべきであった． zephyrusさんの東ノ川、三大瀑訪問記 には、この歩道から見あげた２つの高瀑が載っていて興味深い． |
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