1999.05.22


『足にさわった女』を観た。

東京国立近代美術館フィルムセンターにて。
特集「日本映画の発見N:栄光の'50年代(1)」(4/6〜6/5)の中で
4/14,22と5/22の三回上映され、5/22に鑑賞。

スクリューボール・コメディと呼んで良いのだろうか。池部良の著作『21人の僕』によればこの映画、
市川崑監督が「パラマウント映画を作る!」と宣言して製作されたとのこと。アメリカ喜劇的ながらも、
やはり「市川崑映画」としかいいようのない傑作である。

主要人物は女スリ・塩沢さや(越路吹雪)、青年刑事・五平太(池部良)、小説家・坂々安古(山村聡)
の三人。
五平太は休暇で東京の美人コンテストへ向かう。大阪から東京へ向かう列車で「女スリに美人はいない」
という坂々安古と出会い、反論する。偶然にも、日頃スリ係としてマークしていたその美人、塩沢さや
は同じ列車に乗っていた。途中列車が故障し田子の浦駅まで歩く際世話した老婆が実はスリで、塩沢さや
がお金をスられた。故郷の下田へ向かうさやは熱海で下車、自殺未遂を装い坂々安古に接近。五平太に
はスリであることを黙っててもらい、坂々安古からお金を借り、仮の夫になってもらい故郷下田に到着。
戦時中に父がスパイ容疑で自殺しており、自分達一家を国賊呼ばわりした親類に「復讐」するつもりで
大法要を行なう。さやはスリを止めることに決め、五平太に逮捕してもらう。

果たせない「復讐劇」への批評と、対立しながら惹かれ合う若い男女の珍道中記といった体裁の作品である。
観客としては二人が最後には結ばれ...るのを楽しみにしているのだが、珍妙な人物が珍妙な騒動を連発
した挙げ句に、幸せなラストがやってくる。そういった意味ではアメリカ喜劇的。冒頭コーちゃんが牢屋に
仲間の面会に行くシーンがあるが、イキナリ牢屋とはかなりバタ臭い。
脚本は和田夏十・市川崑。これまた冒頭、五平太と上司の会話で、突然上司が「この花を見たまえ!民主
警察の象徴だ!」なんていう突拍子もないセリフは...夏十さんでしょうね。万事この調子である。
池部良が浜辺で海に向かって...体操するといったパロディシーンも爆笑必至だ。
列車→船→タクシー →再び列車 と、乗り物でどんどん場面が変わっていく。フィリップ・ド=ブロカ
『リオの男』、大森一樹諸作の如し。運動会のかけっこ的、無償の運動を見る清々しさがある。
出演者はみんな良いが、私は特に池部良に眼を見張った。カッコいい!無理もあるオーバーアクションが
作品のタッチを決定している。たまらないカッコよさである。越路吹雪はオープニングで歌を歌っている。
アイドル映画か?大変魅力的である。好きだな〜。個人的だが父方の祖父(私の生まれる前に亡くなって
いる)はコーちゃんのファンだったらしい。
下田の復讐劇のくだりは、喜劇の中では重過ぎると批判されたらしいが、市川崑映画としては違和感なし。
戦争の悲劇と変わって行く世の中という認識が立ち上がり、女スリ・塩沢さやの悲しい青春が感じられて
しんみりした。
昭和27年作品。奇妙キテレツな中にも自由な風が感じられ、見てるこちらも楽しくなる傑作コメディ
作品であった。

個人的な話
@ 観たい観たい観たいと思いつつ、ナカナカ観ることのできない作品がある。毎週「ぴあ」で調べても
どこでも上映されていない。「ビデオコレクション」で地方テレビ局の映画放映リストをつぶさに見ても
やっていない。ビデオ化もされていない。洋画なら、輸入業者に調べてもらうが海外でもビデオ化されて
いない。そんな作品がありませんか?私にもたくさんあって、そのうちの一本がこの『足にさわった女』
でした。1982年、東宝が創立50周年ということでテレビで特別番組があり、、色々な東宝映画が
紹介された。その中で『足にさわった女』の断片が写ったのです。「フィルムはあるんだ。いつか観れるゾ」
と思い続けて17年、やっと観れました!

A 久しぶりの京橋フィルムセンター。思えば1984年、『いとこ同士』を観に行ったら火事になった。
その後別のところでやられていたようですが御無沙汰しており、新生FCに15年振りに参った次第。思えば
火が出た時「火事だー」ってんで逃げたんだけど入場料返金してもらってないんだよね(←冗談で書きま
した。国の最重要機関の復興を心より喜び申し上げます)。


戻る