1999.02.16


恩地日出夫監督の『あこがれ』を見た。

正直に言って感動した。何故心が動いたのか考える。
ストーリーは、施設で育った少年と少女が青年になってから久しぶりに出会う。
互いに恋心を抱くが青年の養父母は良い縁談を望み、彼女の父親は定職に就けず飲んだくれており
周りによかれと思えば別れるほかない。しかし青年は好きだという気持ちを全うしようとする。が、
彼女は彼の前から姿を消す。彼女は別れを決意するが、施設の先生の過去(駆け落ちしたが夫と死別)
を聞き、移民としてブラジルへ船出しもう会うこともない実の母に別れを告げた彼のもとへ戻る。
というものである。
施設で育った子供、ダメな実の父と善意の養父、引き裂かれる若い二人...と、書いていて多少
気恥ずかしい設定と展開。が、あざとい泣かせの作為も、いじけた自己憐憫もここにはない。
この映画の人物たちは確かに生きていて、そしてお互いに影響をおよぼしあいかわってゆき、
若者は他人への思いやりを身に付けた大人になってゆくし、もとより大人にはかけていた大人たちも
苦しんでのち他人の気持ちを認めてゆき家族の意識を成熟させていくようだ。
年長者が年少者を指導して成長させてゆく劇ではなく、これは人間すべての成長の可能性を信じた
理想主義的なドラマであると思う。そこになにより感動したようだ。
原作は木下恵介。ごめいふくをおいのりします(脚本は山田太一)。
人物では特に彼女の父親を演じた小沢昭一がよかった。若い彼に彼女を自由にしてやってくれと言われて
結局はその気持ちをくんで遠くに去っていく−というのは下手にやったら説得力なく失笑ものだが
若い彼の気持ちに一目おきつつ粗野にふるまって去っていくあたりの表現は素晴らしい。
こういった描写のひとつひとつが終盤の、二人が困難を乗り越えて結ばれる伏線になっているあたりが
構成の力というものか。恩地監督は屋外シーンでの望遠レンズによる大胆なパンニング、屋内シーンでは
花やティーカップといった小道具を丹念に使ってと、繊細にして力強い演出である。とくに中盤、彼女が
「好きだ」と言う彼に「帰って」と告げる駅ビルの食堂のシーンは素晴らしいの一言。内藤洋子の演技
(存在感)も素晴らしかった。
最後に。武満徹の映画音楽は他にかわりのないものだ。今まで書き連ねてきたことの全てが
この最高の音楽につつまれていた。


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