「さくらやは、好感接客!」

2000.09.14


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気になって気になって しかたがないCM

 あなたは、くだらないCMが気になって、頭の中をぐるぐるまわってしまうことがありませんか?
 わたしは、あります。狂おしいほどなので、自分をこの呪縛から解放したくて、文にしてみることにしました。

 それは、「さくらや」の「好感接客!シリーズ」の一編なんですが。

 「さくらや」のCMは、深夜TVの好きな諸兄におかれては見たことがないという人はいませんね。「♪やすさ ばくはつ さく〜らや」というメロディは嫌でも頭にこびりつきます。

 この「好感接客!シリーズ」は、"時計修理編"・"売場ご案内編"・"重い荷物お運び編"などがあり、顧客サービス向上に努めている様を いかにも小劇場然としたオーバーな演技で戯画的に描いたものですね。まあ見ているこちらとしてはちょっと居場所に困るような代物ですが・・・

 問題は、その一編である"お取り寄せ編"です。
 "店頭になくてもすぐ取り寄せしますよ"−というだけの内容なんですが、15秒でこれだけ楽しめるものか・・・と感嘆してしまうCMです。

 早速、時系列に沿って一緒に見てみましょう。

【1】
客(男)がカウンターに来て紙(チラシか雑誌の切り抜き)を見せて「これある?」と商品在庫を尋ねる。まずこの素っ気無さが、嵐の前の静けさ−を感じさせる。男は仮に鈴木と名づけよう。

【2】
店員(女)が「すみません!あいにく品切らせております」とあやまるのだが、
すみません!といって頭を下げ、カウンター机に頭(額)を激突させる。これが凄い。ただの新喜劇風お約束事項とも言えるが、つかみというかカウンターパンチというか、本来のCMの意味を完全に逸脱・凌駕したショックを視聴者に与える。「これは何か普通ではない」と心が波立つ瞬間。女は仮に桜子と名づけよう。

【3】
鈴木は「じゃあいいや」と立ち去ろうとする。桜子は「す、すぐにお取り寄せいたします」と追いすがり、鈴木を羽交い締めにする。ここで立ち去る鈴木に合わせてカメラが大きくトラックダウン(後退移動)する。既に【2】で自分も殴られたような衝撃を受けている視聴者は、さらに、映像のこの大きな動きに幻惑される。深夜CMにあるまじき心理かく乱と言える展開である。

【4】
鈴木ははき捨てるように「すぐっていつ?」と尋ねる。桜子は動揺しながらも「み、三日後!」と答える。ここは背後からまわした手で三本指を作る桜子のボディアクションが圧倒的な迫力で迫ってくる。あの感情のない鈴木が思わず同意してしまったように、ここまで来られては視聴者ももう逃げる術はない。なお三本指を強調する桜子の小さいアクションを見せつつ

【5】
「♪やすさ ばくはつ さく〜らや」が全てを止揚する。
まさに15秒の弁証法マジックともいえる、素晴らしいカタルシスを感じるエンディングである。

と、いうような同じ感動経路を通った人がどれだけいるか不明ですが、わたしはすっかり魅せられてしまいました。できることなら桜子さんにインタビューして「頭を激突させたのはシナリオ通りかアドリブなのか」を聞いてみたいです。ご本人もしくは知り合いの方、もしもこの文章を見たらご一報下さい(←見るわけないっつーの)。

以上、おつきあいいただきましてありがとうございました。


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