一番良かった映画

2000.09.15


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一番良かった映画

 たとえば飲み会とかで、「映画好きだったんで、よく観ました(過去形)」などと言うと、「じゃあ、今まで観た中で"一番良かった映画"って何?」と尋ねられることがあります。

 そういった場合に、どう答えるか。TPOをわきまえた答えが要求されます。

 その場が映画マニアの狂的集合体なのか、良識ある紳士淑女の集う場なのか、若い人が朗らかに語り合う場なのか、煮しめた色のジジイがはべる場なのかによって、発言を考える必要があります。

 アンケートとかならば、正直に挙げるけれど、やはり会話の中となると、正直には言えない部分が出てきます。

 そもそも、"良かった映画"に一番・二番・・・と順位はつけられないよね。そのとき、その場で、たまたま最初に思いついた題名を言うだけであって。いくつか指を折って挙げることは出来るけど、いろんな基準でピックアップしてるんだよね。

 例えば、観終わった後、"席を立てないほど感動した"・"涙がとめどなく流れた"・"映画館からどうやって帰ってきたか覚えていない"といった、鑑賞体験の強さ という基準がまずありますよね。

 それから、あまりにもおもしろくて "N回続けて観てしまった"・"N日続けて映画館に観に行ってしまった"・"やるたび観てしまうのでもうN回観てしまった"という、「頻度」ベースの基準があります

 また、この映画を観て "人生が変わった(←意識の変化)"・"○○(←職業とか)を志した"という、実人生・実生活への影響ってのもありますね。

 あと、題名を挙げるときには日本映画と外国映画っていう区分けも重要なファクターとしてありますね。「日本映画はあんまり観ない」「映画は洋画しか見ない」って人も多いから気をつけないと。

 上に挙げたような点を考慮しつつ、マア適当に答えることとなります。

 "良かった"というからには、どちらかというと"面白かった"という基準より"感動した"という基準で挙げたほうが質問者の意図にかなってるかもね。

 "面白かった"系の『スター・ウォーズ』とか『ダイ・ハード』みたいなのの方が、若い人たちとなら話ははずむかも知れない。

 やっぱり一般的に知られてる"感動"系作品、例えば『風と共に去りぬ』とか『サウンド・オブ・ミュージック』みたいなドラマチックなのがふさわしいんでしょうね。

 あんまり作家性が強いのは、話がはずまないばかりか沈黙して“天使が通る”事態も想定されるので、やっぱり避けるべきでしょう。(オーソン・ウエルズの『市民ケーン』...などと言ってしまうと、説明に5分ぐらいかかる)

 うそは言いたくないし、本当のことも言いづらい−という状況になりがち。

 そんな中で、本当であり うそでない一本がありました。

 それは、『ローマの休日』です。

 じじつ、観終わった後"席を立てないほど感動"したんだよ。中学2年の時だったか、銀座の名画座で観たんだけど。

 「7分の笑いに3分の涙」−というバランスの良さ、日本人の勤勉性に訴える悲恋ストーリーと、オードリー・ヘプバーン主演のアイドル映画と言って良い娯楽性。実は赤狩りブラックリストに載ってハリウッド追放されたドルトン・トランボが変名でシナリオを書いていたという裏話、ウィリアム・ワイラー監督らしい折り目正しい演出。まさに大衆性・話題性・作家性を兼ね備えた全方位外交。しかも日本人で観てない人は少ないという人気の高さで、マニアも一般人も射程に入っている。
 個人的にも、あのラスト、万感の想いをたたえたグレゴリー・ペックが「コツーン・コツーン」と足音を響かせてゆっくり歩いてくるカットについて、「何故、人が歩いているのを撮っているだけなのに、見ているこちらはこんなに心が動くのだろうか?」と良く考えたものでした。

 と、言うことで、「"一番良かった映画"って何?」と尋ねられれば「『ローマの休日』が良かった!」と答えることが多いのです。人と話も出来るし、自分の気持ちにも背いてないしね。

 (でも、ホントは薬師丸ひろ子主演の『・・・』


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