日本のアニメ映画BEST10

2000.09.02


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 "TVアニメベストテン"などというものを作ってみると、やはり"映画"も...と思ってしまうのは自然の成り行きでしょうか。

 TVに比べて ややマニアックになってしまうのは"観に行った"という主体性ゆえか、やむを得ないのでご了承下さい。"セルアニメ"に限らず"広義の"アニメ映画を対象としました。(日本モノのみ。海外モノは除く)

アニメ映画BEST10
(順位ナシ。カテゴリ別にだいたい古い順)

タイトルの後は(公開年・製作/監督)です。

「太陽の王子 ホルスの大冒険」(68・東映動画/高畑勲)

 村人と悪魔の戦いを描いた、東映動画労働組合の自主企画製作映画ともいえる超力作。氷の悪魔グルンワルドの声は平幹二朗、その妹ヒルダの声は「家政婦は見た!」の市原悦子と 強力に濃い 敵・タッグチームの前に村人は苦戦。笑いの少なさを批判する人もいるが、巨人vs氷のマンモスの死闘(作画=大塚康生&宮崎駿)などスペクタクル的見せ場は充分。悪魔の術中に落ちたホルスが"迷いの森"を抜け 村人との共闘意識に目覚めるまでの一連の映像モンタージュには驚嘆(思想的にも共感)。

「長靴をはいた猫」(69・東映動画/矢吹公郎)

 農家の末っ子ピエールが流れ者猫のペロと組んでお姫様を魔王の手から奪い返す!−「ホルス」の心理描写・思想表現で疲弊しきったアニメーターの"リハビリ"のため東映動画が手掛けた娯楽編。ねずみを助けた罪で猫社会で死刑宣告を受け、追われるぺロ。ペロを追うのは(声)、愛川欽也・水森亜土・田の中勇(←鬼太郎の目玉おやじ)という最強の三匹の刺客。音楽は後にムーミン、井上ひさしの舞台等を手掛けた宇野誠一郎が担当、随所にミュージカル的な処理がなされている。「♪わーすれーられーないーともだーちだー」という劇中歌が忘れがたい。

「さらば宇宙戦艦ヤマト・愛の戦士たち」
(78・オフィスアカデミー/舛田利雄)

 説明の要ない大ヒット映画。私が封切りで観た横浜・相鉄ムービルはイモを洗うような大混雑で、最前列で観た。例えば映画「タイタニック」は劇場内が "涙の洪水"であったと聞くが、この映画も"鳴咽の大合唱"とでも表現せざるをえない凄いありさまだった。そりゃあ、みんな死んじゃうんだもんなあ。−といったようなイベント的な記憶が先に立ち、作品評価は非常に心もとない。展開もタルかったような気もするし、本当に特攻するしかなかったのだろうか?と今では疑問。沖田艦長の亡霊にうまくそそのかされちゃったのかなあ...と思わないうちにヤマト爆発、ごたくを並べた字幕が出てジュリーの曲が流れて、泣くの堪えるので必死(←今なら堪えないけど、やっぱり13才)。評価真空状態。初見以来見ていないが、もう怖くて見れん(見たらワーストかも?)。

「うる星やつら2/ビューティフル・ドリーマー」
(84・キティフィルム/押井守)

 永久に文化祭前日が続くという話。針の無い時計、胡蝶の夢、亀の背の上...といった哲学的な引用も適当にまじえつつ、"止まった時間"の甘いイメージと閉塞感を とことん追求している。ラムちゃんの水族館のシーンや、しのぶが風鈴屋とすれちがうシーンの美しい映像が特筆もの。当時の学生映画シーンではこの映画の音楽(星勝・ピアノ曲)を自分の映画で使う無粋者が多数輩出、8ミリ映画上映会で何度も耳にし閉口した。封切り(吉川晃司の「すかんぴんウォーク」と併映)以来未見。

「時空の旅人」(86・角川/真崎守),
「火の鳥・鳳凰編」(りんたろう)

 (個人的見解では)史上最高のアニメ2本立。舌が切れるまで語り、指が折れるまで書いて、命尽きるまで絶賛したい。
 「時空...」は眉村卓原作「とらえられたスクールバス」より、3人の高校生プラス先生(青野武・声)が未来からの"時間逃亡者"追跡劇にまきこまれタイムマシン化したスクールバスで時代を 大東亜戦争末期→江戸時代末期→安土桃山時代 と逆行し、本能寺の変にかかわっていく...。キャラクターデザイン=萩尾望都の人物が美しく、森蘭丸と女子高生(テコ)のロマンス等エピソードも面白い。てもち無沙汰な少年ふたりが安土城の下でラグビーボールを蹴り合うシーンの抒情性と、未来からの時間捜査官が意外な場面で「敵は本能寺にあり!」と叫ぶ娯楽性…が合体した自在な演出。難点は、数箇所で角川春樹の俳句が挿入される部分→ひいちゃう人もいるカモ...。それはそうと、カラオケで竹内まりやの「時空の旅人」「TECOのテーマ」唄ってるお嬢さんたち、映画は観てるんでしょうね、映画は。

 「火の鳥...」はもともとOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)用に企画製作されていたものを発展させて劇場公開したもの。ゆえに軽く見る人もいるようだが、手塚治虫まんがの最良の映像化の一つ!と断言し絶賛したい。りんたろう監督の演出力は映画「銀河鉄道999」等で諸兄もご存知の通り。大仏建立をめぐり二人の人物が対立するドラマだが、一方の人物=茜丸を演じた声・古川登志夫(←諸星あたる)が絶品でキャリアの代表作と私は認識。ちなみに、角川映画ゆえ主題歌は渡辺典子でこれが名曲!シングルレコード保有。

「となりのトトロ」(88・徳間書店/宮崎駿)

 評価の定まった名作で、自分ごときが付け加えることは何もないが...。冒頭のトラックから家に到着するまでの音楽の付け方は、映画「駅馬車」のような連続性。音楽の久石譲、この映画ではアメリカ映画的な主題の明確さが必殺の効果をあげている。"猫バス"のテーマ曲に感嘆。声ではお父さんに糸井重里をもってきたのが大成功。私が好きなのは、走る猫バスを見て犬が吠えるカット(大人にはただ犬が吠えてるとしか見えない!)  しかし、発生する事件が小さい女の子が迷子になるだけ っていうのが...凄い(映画館で観てないので、併映「火垂るの墓」との関連性が論じられないのが残念)

「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」
(97・GAINAX/庵野秀明)

 前にも感想書いたんで省略。しつこいか。

 以上、セルアニメ作品。以下は、非・セルアニメ作品。
 最近は、クレイ(粘土)アニメーション「ピングー」「ウォレスとグルミット」がキャラクター商品ともども人気があったり、ティム・バートン製作の「ナイトメア・ビフォア・クリスマス」「ジャイアント・ピーチ」が劇場公開でヒットしたりと、セル画以外のアニメも違和感を持たれなくなったようです!

「あれはだれ?」(76/岡本忠成),
「花ともぐら」(70)

 岡本忠成監督は、商業映画の枠外(いわゆる"教育映画""文化映画"ということになるのか?)で短編アニメを作り続けた方です(既に故人)。作品内容によって技法を変える人で、「花ともぐら」は粘土アニメ。和田誠デザインのモグラ戦車が大活躍!
 「あれはだれ?」はなんと"毛糸アニメ"。毛糸が人物の枠線でそれが動くという趣向。たぬき(くまかも)の子供が色々なものを見てお母さんに「あれはだれ?」と尋ねるだけのシンプルな話しなんだが、技法とマッチして微笑を誘う。
 83年頃行った上映会で、監督を囲んだフリートークの場があったんだけど、そこで岡本氏が"ガンダム(を中心としたTVアニメ)批判"をしたので、反論 (擁護発言)したら、「最近の若いのは...」と満座の中で叱られました(ありがとうございました。御冥福をお祈りします)。

「バービーはキャッツ・アイ?!」
(84年頃かな…監督の名前も知らない)

 8ミリ映画ですが、当時の自主映画シーンの中でかなり話題になった映画です。内容は、杏里の歌「CAT'S EYE」に合わせてバービー人形が踊る(コマ撮り人形アニメ)−という、当時隆盛を誇ったミュージック・ビデオのパロディと言えるものです(よって3分ぐらい)。でもこれが、想像するだけで発狂しそうなほど手間暇かかった代物、大体ビデオやパソコンと違って8ミリ映画の[画面と音の合わせ]というのは"江戸職人芸の世界"...と言っていいほど至難なのですが、これが合ってる!しかも画面合成でバービーは大都会や宇宙空間で踊ってる...。上映会は感嘆のため息と絶賛の拍手に満ちていました。20世紀の証言。でもバービー人形はその構造ゆえ、最近でいう"パラパラ"みたいな動きしかしてませんでした。「♪まちは きらめく…」想像してネ。

「新選組」(2000・フジテレビジョン/市川崑)

 惹句にいわく"ヒューマン・グラフィック 崑メーション[三次元的立体漫画映画]"とあります。黒鉄ヒロシのマンガを映画にしたものなのですが、マンガの原画を拡大コピーしてウレタンボード(ベニヤ板で補強)に貼り、人物をパコッと切り抜く。それを下から人間が動かして撮影する−という手法をとっています(TVアニメ「猫目小僧」を思い出すとわかるかも)(←余計わからん)。そんなウレタンボードがフラフラしてる映画が面白いの?と疑問を持たれたアナタ、これが本当に面白い。プリミティブ・アートのような手法の単純さと作り手の熱意が 総体として江戸末期の殺人集団の狂気を見事に表現しています。しかし市川崑さんも84歳でよくこんなの作るよな(今年11月で85歳)。完璧脱帽。土方歳三=中井貴一、沖田総司=原田龍二、近藤勇=中村敦夫というマカロニトリオの声もグンバツよ!
 映画は近藤、そして沖田の最期を暗示して終わるのだが、終劇後ユーロスペース場内がパッと明るくなると後ろに座っていたOL二人組(ビジュアル=普通)が"トシさまはどうなったの!?"と激論開始、話は「御法度」批判にも波及、私はこのとき"新選組オタク"の存在を知ったのだった。

以上


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