話題を追う:二宮町桜美園問題 No.5

桜美園周辺の健康被害とバグフィルター黒こげ事故の怪?


二宮町桜美園問題を考える会  国弘



 二宮町環境衛生センター桜美園(以下桜美園という)に隣接した緑が丘住宅地に入居が始まってから早くも10年が過ぎました。緑が多い、近くに工場もない、通る車も少ないことから周辺環境は最高にすばらしいと思われるのに、なぜか「早期に入居した住民ほどガン、喘息など重篤な病気にかかる人が多い。まだ若い犬が突然死する。」と桜美園からの健康被害を心配する住民間ではささやかれてきました。
 しかし正確なデータもなくただ「そう感じる」というだけでは桜美園との因果関係は証明できないため、昨年9月にM自治会が中心となり、(財)日本農村医学研究所及び環境専門家である長野大学講師関口鉄夫氏に依頼し、自覚症状アンケートによる健康疫学調査を実施しました。自治会の熱心な取り組みが実を結び、住民の92%にも及ぶ高い参加率でアンケートが回収されました。いかに住民が桜美園からの被害を不安に思い、改善を望んでいるかその関心の高さが浮き彫りになりました。当然回収率が高ければ高いほど調査の精度は増し、正確な結果を得ることができます。
 自覚症状等調査といっても特別な内容ではなく、施設についての不安の程度、臭い・騒音・粉塵による汚れなど生活環境について気になること、家族の体調、家族一人一人の自覚症状(のどが痛い・いがらっぽい、声がかれる、風邪でもないのにセキがでる、目がショボショボする・充血する、皮膚のかゆみ・かぶれ、頭痛、めまいなどごくありふれた症状)についての問診です。このような単純な自覚症状調査で正確な調査が出来るのかと思われますが、このような単純な自覚症状のほうが、個々人の体質に関わりなく現れる症状であり環境汚染との因果関係がはっきりわかるといわれています。
 その結果は予想したとおり、@世界の環境汚染ワーストに並び称される所沢と同程度の健康への影響がある、AM住宅地はサラリーマン世帯が多く農家の多い所沢と比較すると居住年数や1日の居住時間が短いにも関わらず被害の訴えが高率である、B大量の煤塵(ばいじん:焼却により発生した粒子状物質)、悪臭、騒音が生活・健康に強い影響を与えている、Cこのような環境汚染が長期にわたって続くと健康に深刻な影響を及ぼす恐れがあると結論づけられています。周辺には桜美園以外それらしき公害発生施設は見当たらないことから、当然健康被害や環境汚染の元凶は桜美園であるということです。平成14年11月には「桜美園問題を考える会」が関口氏に依頼しM住宅地周辺の木の葉に付着した降下煤塵調査を実施しました。団地の全域にわたり0.05mm以下の煤塵が確認され、施設にはバグフィルターという有害ガス除去装置がついているにもかかわらず、なんと0.20mmを超える大粒の煤塵の降下も認められています。健康被害はこの煤塵の影響が相当あるに違いないと思わざるを得ません。
 その理由として健康疫学調査報告書中の環境調査の部分に記されている「焼却施設から排出されるガスの挙動について」には、「本施設からの排出ガスは周囲の木立に滞留したり、地形をなめることが多く、厚生省・ごみ処理に係る発生防止等ガイドラインに示された拡散倍率に関する指針を達成できていない」とあります。事実煙突の高さはたった20メートルでほぼ建物の高さと同じであり、突出した煙突らしきものは見える状態にありません。山の中腹にあるという施設の立地もダウンウォッシュ(煙突から煙がはう様に降りて行くこと)が日常化する条件であり、盆地である住宅地には常時ガスが滞留し、否が応でも毎日呼吸をして生きざるを得ない住民の健康を蝕んでいると言えます。
 しかし二宮町は、木の葉の降下煤塵調査に対しても、木の葉の病気であるうどん粉病だとごまかし、町で行った降下煤塵調査では基準値以内であることを理由にとりあわず、健康疫学調査については二宮町議会の桜美園周辺環境対策特別委員会での関口氏の調査報告会に行政職員の出席を特別委員長、M住宅地の自治会長から要望されたにもかかわらず、町長以下一人も報告を聴きに参加した職員はいませんでした。町民の命と健康を守らなければならないという行政の責務は二宮町のどこにあるのでしょうか。健康不安を解消させる手段として町は常々バグフィルターによる有害物質除去の有効性を語ってきました。桜美園の煙突がいくら低くてもフィルターによって捕捉され、悪い物質が排出されていなければいいではないかということです。
 ところが、今年3月の年度末に信じられないようなバグフィルター事故が起きたのです。それは桜美園焼却炉3号炉の耐火物交換工事、バグフィルターろ布交換工事後の乾燥運転時のことです。取り替えたばかりの新品のバグフィルター384本を全部とりかえなければならないほどバグフィルターが黒こげになり破れた。これまでは同様の工事は焼却炉を建設したS社が行ってきましたが、今回は初めて別の業者である大手のH社が行いました。H社が提出した原因調査結果報告書によれば乾燥運転時に油炊きバーナーから出た重油ミストがろ布にコーティングされ、負荷運転時に高温になったことでろ布上の未燃炭素分が酸化・蓄熱し、炉停止時に排ガス量の低下で冷却効果が低下し、重油ミストが燃焼したというものです。同様な工事は過去何回も繰り返されてきたのになぜ今回はこのような事故が起きたのか。
 今後の対応策としてH社は「乾燥運転時にはバグフィルターをバイパスする、もしくはろ布をはずしておく」と報告書の最後に提案しています。このようなバグフィルター黒こげ事故を防ぐには、驚くことに「排ガスをバグフィルターを通さずに別ルートで無処理のまま放出する」ということなのです。これまで事故がなかったとすれば、このようなバイパス運転をしていたということになります。平成15年3月に日本環境衛生センターが行った桜美園じん芥焼却場精密機能検査報告書には時間ごとの日常作業を示す表が作成されています。その表によればバグフィルターは24時間稼動とされていますが、ガス冷却塔と有害ガス除去装置は朝の立ち上げ時の1時間と、灰だし終了後の夜10時以降から翌朝の立ち上げまでの11時間はすべてオフになっています。冷却塔で高温の燃焼ガスを冷やさなければバグフィルターに通すことはできません。冷却塔や有害ガス除去装置がオフになっているということはこの時間帯はバイパス運転をしているのではないでしょうか。365日間ずっと半日もの間(日曜日は1日中)、拡散もされない高濃度の無処理の排ガスを周辺住民は吸い続けていることになります。またバイパス装置が設置されているということはそれが何かと都合よくたびたび利用されているのではないかと疑わざるを得ません。(梶山正三弁護士によれば、バイパスは違法操業の温床として埼玉県では禁止をしているそうです。) SPMという微粒子煤塵、重金属、ダイオキシンなど有害化学物質の人体に与える悪影響が最近顕著に報道されていますが、「何がつくられるかわからない化学合成プラント」と言われる焼却炉からは多種多様な有害化学物質が多量に排出されているのです。このような数々の疑惑のある中、桜美園からの健康被害がないなどと言えるでしょうか。
 桜美園周辺の健康被害解消の必要性については二宮町行政は今すぐにでも取り組まなければならない緊急事態にあります。関口氏は議会での意見陳述書に次のように行政としてあるべき姿を述べておられます。「このような公害発生施設に関しては、被害の有無にかかわらず予防原則の下に、行政が常に周辺住民の生活環境や健康状態を把握し、被害の拡大防止に努力すべきである。地域住民との軋轢を回避し客観的な現象を把握するためには、桜美園の操業を一時停止し、行政が住民の推薦する科学者・専門家で構成する第三者機関を設置し、必要な調査と施策を早急に行うことが必要である。」 
 いつまでも住民を欺き続けることはできません。行政はこれを重い提言として謙虚に耳を傾けるべきではないでしょうか。

  二宮町環境衛生センター桜美園

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