海の環境問題入門―その1

地球温暖化


松川康夫(海洋学者・日本科学者会議常任幹事)


地球温暖化と海


 海産魚にはマイワシ、サバ、ブリ、カツオなどのように沖合に棲む魚と、マダイ、クロダイ、メバル、カレイ、ヒラメなどのように岸近くに棲む魚がいます。大量にとれるのは沖合の魚です。
 沖合の魚を大本で養うのは単細胞の植物すなわち植物プランクトンで、顕微鏡でしか見えません。この植物プランクトンを養うのは栄養塩(肥料)をたっぷり含んだ深場(ほぼ200メートル以深)の海水です。深場の海水が太陽の当たる海面付近まで湧き上がると植物プランクトンが増えます。
 海水の湧き上がりを促す最大の要因は冬の冷え込みです。冷え込みは対流を引き起こします。みそ汁の入ったお椀で対流が見えますよ。この対流は赤道に近づくほど弱まりますが、基本的には世界中の海で起こります。
 次に大きいのは風です。カリフォルニアやチリの沿岸では殆ど年中赤道に向かって風が吹きます。こういう場所では地球自転の効果で海面の水が沖に払われ、深場の海水が湧き上がります。同じことは赤道貿易風帯やペルー沖でも起こっています。これらの海域は全て良い漁場です。
 もう一つは黒潮です。黒潮は非常に大きなエネルギーを持っています。このため、大気における温帯低気圧のように、大規模な乱れが海にも生じ、深場の海水が湧き上がります。三陸沖が良い漁場となるのはこのためです。
 さて、地球温暖化が進行中です。地球温暖化の特徴は、赤道より極地帯、夏より冬、昼より夜の気温上昇が大きく、それぞれの温度差が小さくなることです。地球温暖化が進めば、冬の冷え込みは勿論のこと、海流を駆動する風も、したがって海水の湧き上がりも弱まり、魚は減ることになります。
 世界の海の総漁獲量は年間ほぼ1億トンで頭打ちだったのが、最近は減少傾向のようです。魚は健康食品なので欧米でも魚食が広がっています。世界の人口増が予想通り進めば魚の需要はさらに増えるでしょう。地球温暖化は食料確保のためにも避けたいものです。

地球温暖化の原因と対策


 地球温暖化は大気中のCO2が増えることによって生じます。IPCC(気候変動政府間パネル)の気候学者達は、最新のコンピューター実験で、2050年までに世界のCO2排出量をいまの半分に減らさないと大変なことになると警告しています。日本は世界第4位のCO2排出国で、排出削減に真剣に努力する義務があります。
 ちなみに、エネルギー消費とCO2排出が少なくてすむ世界は、生活物資を極力地元でまかなう地産地消の世界です。アメリカや日本が求める国際分業と自由貿易の世界とは正反対の世界です。
 日本のCO2排出源で大きなものは、製造業と運輸と民生の3部門です。
 製造業部門では、日本は世界の工場を目指し、自動車、家庭電気、精密機械などを過剰に生産し輸出しています。過剰という意味は、農林水産業を犠牲にしたうえに毎年数10兆円にも及ぶ貿易黒字があることを指します。また国内の大量生産・大量消費と大型開発という過剰な生産と建設があります。このために膨大な石油を燃やしています。
 運輸部門では、過剰な製造と建設に必要な鉄鋼や石油・石炭などの原料の輸入と国内配送、製品の輸出と国内配送、運輸それ自体に必要な石油の輸入と配送があります。加えて工業製品の輸出を伸ばすための農林水産物輸入があります。食料の60%以上、木材の約90%、水産物の50%は輸入です。これらの輸入と配送、加工と製品配送があります。また、工業発展のためにモータリゼーションも進めました。このために膨大な石油を燃やしています。
 民生部門では、都市化、高層ビル化、コンクリート化、密室化、24時間化が進み、空調、給湯、照明、昇降機のエネルギー消費がかさんでいます。このために膨大な石油を燃やしています。
 要するに、日本のCO2排出を半減させるためには、農林水産業と関連地場産業を復興させ、地産地消を進め、肥大した工業を適正規模に縮小することが必要です。50年という期間があればこれは可能です。いまの国や地方自治体に求められるのは、このための強い意志です。
 
 

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