杉並病とはなにか


小椋(廃棄物系化学物質による健康被害者支援科学者グループ)




2005.01.10 横浜市にて

   1.杉並病の真実

 東京都は1996年4月、プラスチック、缶、ビンなどの不燃ゴミ(23区の分類)の積み替えを行う中継所を杉並区井草に建設した。目的は江東区の埋め立て地への搬送回数を減らすこと、それによって排気ガスを減らし、人件費を削減できるということであった。このような施設は構造は異なるが23区内にすでに5箇所存在していた。中継所は区内で収集した不燃ゴミを約50トンの力で圧縮し、8台の収集車が収集したものを1台の大型車に積み替えている。
 この施設の稼働と同時に周辺住民にアウトブレーク(大災害)が発生、救急車が多数出動し、保健所に訴えが多数あった。この時点で杉並区の調査で因果関係ありということがわかった。
 被害者18人が原因裁定を求めて公害等調整委員会に提訴し、2002年6月20日に14人について中継所の稼働と被害との因果関係を化学物質を特定せずに認めた。残りの4人は被害の発生が9月以降であったということで認められなかった。
 現在にいたるも周辺住民への健康影響が存在することが地元のグループや我々の調査で判明している。杉並区は調査も行わずに安全宣言をし、地元のグループの健康調査の必要性を認めないと回答した。東京都も硫化水素説を現在も支持し、我々のグループの健康調査の陳情を退けた。
 健康被害は初期には粘膜系の被害、気管支、目、鼻、のど、呼吸不全であったが、現在はあらゆる症状に発展し、重症化している。個人の弱い部分に影響がでている。動植物の被害も発生している。
 区は保健所への訴えがないことを安全宣言の理由の1つとしているが、初期の保健所の対応が悪かったために届け出るくらいなら転居を選択する人が多い。転居した人でも未だに化学物質過敏症ほか健康被害を訴えている。昨年6月に転居している1人(公害等調整委員会で認められた人)が1億円の損害賠償を求めて都を提訴した。残念ながら被害者に対する地域住民の対応は一部の人を除き、きわめて冷淡である。

   2.行政の犯罪 その1

 不燃ゴミ中継所建設の際に安全性に対する配慮の欠如(安全工学の観点の欠如)

   3.行政の犯罪 その2 (疫学的観点の欠如)

 アウトブレーク発生後の行政の対応の誤り
 3?1.杉並区が中継所と被害との関係を明らかにしたために原因について東京都が硫化水素説(見当違いの推察)をうちだした。公調委では否決されているにもかかわらず、この説が現在までも東京都では通用している。
 3?2.東京都は実際は真の原因(大量の有害化学物質の発生)を知っていたと推察される。
 3?3.杉並区が平成11年に行った健康調査の統計処理を故意に「沈静化したとの結論」に置き換えた。その結果、公調委の「9月以降の被害の発生を否定」という結論を導き出した。さらに悪いことには杉並区の「安全宣言」は国内の同様な施設の建設にお墨付きを与えることになった。「安全宣言」はまったくの虚構である。
 3?4.環境省は「多種化学物質過敏状態の研究」において化学物質過敏症の存在を不明としている。シックハウスとどう違う?シックハウスは健康保険の対象となっているが、化学物質過敏症はこの研究のために健康保険の対象病とされていない。
 3?5.地域保健所が地域住民の健康を守る体制になっていない。不調を訴えた住民に対して「気のせい」など、環境問題として取り上げず、むしろ個人的な資質として切り捨ててきた。

   4.行政の犯罪 その3 国民や労働者の健康を守れない法律、条例、省庁の縦割り
 4?1.大気環境基準(環境省)、室内シックハウスに関する基準や指針(厚生労働省、文部科学省、国土建設省)、労働安全法(厚生労働省)室内と大気とどの様に違うのか。省庁による管轄の違いによりさまざまな問題が発生している。
 4?2.大気汚染防止法および環境確保条例(東京都)の濃度による規制、たとえばベンゼンの排気基準値は大気環境基準の1万倍
 4?3.たまに測定されたデータは信用できない。大気や煙突からの排出物の測定は、連続でないと真の値は不明である。いくらでも基準値以下のデータを出すことが出来る。
 4?4.行政の事業は第三者が監査しなければならないのに現在は泥棒の見張りを泥棒がやっているのと同じ状況である。
 4?5.周辺に10万種ある大部分の化学物質には基準値がない。あったとしても基準値自身が安全とは言えないこと。新しい物質の採用は健康影響があることを前提として慎重にすること(予防原則)。現在の規制は不十分である(環境濃度、食品や耐用1日摂取量も同じ)。
 4?6.化学物質に関する法律は37もある。省庁間の矛盾を解消することが最も急がれる。ようするに統一的化学物質管理法を早急に制定する必要がある。

   5.中継所から発生する有害物質
 5?1.主要物質は圧縮する際にプラスチックから発生する揮発性有機物質
 数百種が検出されている。(最近はプラスチックから揮発性有機物質が発生していることがようやく環境省の官僚にも認識されるようになった)
 5?2.大量の吸引によってフィルターのない換気塔から1時間あたり17万立方メートル、排気塔から1時間に3万立方メートル排気された。施設を減圧にしたためにプラスチックの添加物、原料および反応生成物が揮発した。初期にはベンゼン、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドが換気塔からそれぞれ1日に約500g以上が蒸発し、周辺住民に降りかかっていた。
 5?3.原料や添加物と異なる揮発性有機物質がプラスチックを圧縮する際に発生していることが実験で確認されている。その物質は、ラジカル反応生成物質であることが分かった。
 5?4.プラスチックから揮発する有機物質の有害性については40年以上前にアメリカで知られていて日本語にも翻訳されていた。そこではプラスチック容器に入れた食品に反応する患者のことが書かれている。◎セロン・ランドルフ著、松村・富所訳(1986):人間エコロジーと環境汚染病
    ?公害医学序説、農文協
 5?6.化学物質を使用している工場の従業員の被害も知られている。
 ◎横瀬浜三著(1977):化学症、三省堂選書(絶版)
 5?7.以上のことが一般的に知られていないために医学者も化学物質過敏症の存在を認めていない。個人によって感作の度合いが異なることが理解されない理由であるが、想像力のある人であれば理解できるはずである。



参考:◎「杉並病」
   ◎杉並病の健康不調に関するホームページ
   ◎冊子「杉並病と化学物質の健康影響を理解するために」2004年 10月、300円 
(横浜・ゴミを考える連絡会の許可を頂いて転載しました。)
 
 

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