#1001_02

『 世界は幻なんかじゃない T 』

見知らぬ土地に惹かれる。
上手く説明できないけれど、興味であるとか冒険心であるとか、
いろいろと解釈はあるものと思う。

十代の終わり、僕は思っていた。

「世界は幻なんじゃないのか?」

思えばその頃の僕は、東京23区内で生まれ育ち、
たいした旅行もしていなければ、留学したわけでもなかった。

いくら経っても風穴の開かない生活に、不条理感や虚無感を感じていた。

こんなわけのわからない社会だ。

強大な力が介在し、僕の周囲のあらゆる風景や出来事や人々を司り、
生まれながらにシュミレーターに突っ込まれた人生を強いられているのではないか?

ちっぽけな部屋の中で、五感全てを調節され、
マガイモノの人生を歩んでいるのではないか?

実際には僕はベットにひからびた身体を横たえ、
あるいは摘出された脳が培養液の中で育てられ、
わずかな脈だけで生かされているのではないか?

食欲も睡眠欲も性欲すらもシステムに組み込まれ、
適当に紆余曲折のある人生をプログラムされ、
幻の大陸の幻の土地を目指すようにと、
前進的意識すら植え付けられているのではないか?

見知らぬ国や、まして月や太陽や銀河系など実在せず、
全てはスクリーンに描かれた白昼夢なのではないか?

生まれながらのように覚え込んできた宇宙や地上の摂理さえ、
まがいものなのではないか?

まして歴史上の人物など、本当にいてもいなくても僕には関係ないじゃないか。

...

学生時代の終わりに、初めての海外旅行に僕はニューヨークへ旅立った。

自由の女神やエンパイアステートビルの”実物”を眺めながら、
わずかな疑念を抱きつつも、身震いの中で僕は初めて確信した。

「世界は幻なんかじゃない。」

僕は現実の世界のみを信じて生き抜く覚悟を強いられた。

composed by mjn, 1998.06

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