アーシングについての考察

最近、巷では、アーシングなるものが流行です。結局のところ、バッテリのマイナス側の配線を強化するものなのですが、結構効果があるというウワサです。自分は、車に関してはシロウトですが、電気に関してはプロです。電気のプロの目からみたアーシングについて考えてみました。

何故、効果があるのか?

特に古い設計の車の電源のマイナス側はボディを通しています。つまり、マイナス側の配線はされていないことになります。ボディ(シャーシ)をグランド(この場合マイナス側)に落とし、そこに電流を流す技法は、真空管時代ではアタリマエの手法でしたが、半導体の時代に入ってからはプリント基板内部で配線されるため少なくなってきました。逆に高周波の世界では、シャーシに電流を流すことがタブーとされているくらいです。きっと車は古い設計が、そのまま残っているのではと思います。

では、ボディに電流を流すのが悪いことなのかと言えば、鉄は良好な導電体ですので誤りではありません。まず、導線に流せる電流は断面積に比例して大きくなります。確かに、銅は鉄に比べて5倍も導電率が良いのですが、ボディは巨大な金属の固まりです。断面積を考えれば、半端な銅線よりよほど抵抗値が低いのが普通です。ただし、断面積が狭まるようなボディーの構造だったり、溶接箇所が少なく結果的に断面積が少なくなる箇所での抵抗は増える可能性があります。

では、なぜ、アーシングをすると改善されるのか? 市販のアーシングキットのうたい文句は、自動車メーカーがコスト対策のために安くて細い電線を使用しているため、太くて高価な電線を使うことで、これを改善するとあります。すべてが誤りとは言いませんが、メーカーでは保証期間は十分な性能を得られるように設計していますし、高級な電線を使ったから劇的な効果があるとは思えません。同じ値段なら、高級なものより太い物を選んだ方が、明らかに抵抗値は少ないです。

おおむねアーシングは古くなった車両に効果的です。ボディ自体は鉄の固まりですが、ボディをバッテリや各装置に配線するには、ボルト締めにした端子を使います。ボルト締めということは、基本的に電流はボディと端子の間の金属同士の面接触で電流が流れます。ボルトで締めるとしっかりとくっつくように思えますが、ミクロの目でみれば隙間だらけですし、エンジンルームは屋根(ボンネット)こそついているものの、ホコリや、雨や、オイルが付着しやすい環境にさらされています。時間が経てば、こんなボルト締めの端子の接触は不良になってゆくことも多いと思われます。アーシングは、この劣化した金属面の接触抵抗の増加を、新しい端子と電線を追加することで改善しよう、というものと私は理解しています。

純正アースラインのメンテナンス

基本的に、アーシングは劣化して増えた接触抵抗を減らせば良いと思われます。どうすれば、劣化した状態を元に戻せるか考えてみましょう。もちろん、アースラインを増やすのは手っ取り早くて良い方法ですが、アースラインがつながっている端子や、ボルト、ボディ部分の接触抵抗を軽減させてやれば、アース線を増やさずとも改善される可能性はあります。簡単なのは、端子磨きでしょう、ただ、磨きすぎて端子表面をデコボコにしてしまったり、メッキを剥がしてしまうとかえって悪化しかねません。ブレーキクリーナー洗い、接点復活材を掛けてやると良いでしょう。面倒なのは、端子を止めているボルトとボディ側の処理です。ボルトはネジ部分と端子と接触する部分の掃除が有効なのですが、ネジの洗浄は面倒です。新品に交換した方が早そうです。また、ボディー部分も金属を露出するまで磨けば効果絶大なのですが、その後、錆が出る可能性があります。ボルトとボディも洗う程度で、あまり対処しない方が良いかもしれません。

どんな電線が良いのか?

次は、アースラインを増やす(アーシング)ことについて考えてみましょう。まず、どんな電線が良いのか? はっきり言って、抵抗値が少なければ何でも良いでしょう。同じ値段なら、無酸素銅などの高級なものより太い物の方が抵抗値は少ないです。ただ、エンジンルームは高温なため、被膜が耐熱性の高い物の方が有利です。とはいえ、エンジンでも高熱になるのは排気系とエンジンヘッド周辺だけです。吸気系はそれほどでもありません。高温になる部分に触らないように配線するなら、なんでも良いと思います。まあ、格好いいから綺麗な色の配線にすることは否定しませんが、被覆の色は抵抗値とは関係ありません(笑) だいたい、電気的には被覆は無くても平気です。ボディと同電位なのですから、ボディ接触しても電流は流れません。ただ、被覆が無いと錆びますので、はやり塗料か何かを塗らないとダメでしょう・・・

耐久性を考えるなら、より線より単線の方が優れています。しかし、ぶっとい単線は単なる銅の棒ですから曲げるのも一苦労です。より線ならば、メッキされている電線であれば少しは耐久性がありそうです。自分は、アースラインは定期的に交換してやった方が良いと思っています。そうすれば、錆びや皮膜の耐久性など考えなくても大丈夫です。安いケーブルを数年ごとに取り替えるというのが理想的かもしれません。

どの程度の太さの電線を使えば良いかという問題もあります。そりゃ、太い方が良いのですが、値段も高いし、扱いにくくなるでしょう。一般には、8スケアとか14スケアが良いと言われていますが、その根拠を聞いたことはありません。ちなみに、1スケアは1平方ミリ、14スケアだと導体の直径が4.2mmということになります。例えばアーシングするまえに1Ωだったところが、8スケアのケーブル(0.1Ωと仮定、実際には1〜2桁少ない)を使って0.09Ωになったとしましょう。ここに2倍の太さの16スケアのケーブル(0.025Ωと仮定)を使うと0.024Ωとなります。0.09Ωと0.024Ωをくらべれば3倍以上の差ですが、実際にはプラス側の配線抵抗や負荷抵抗(モーターなど)を含めた数値になります。負荷抵抗を10Ωとした場合、アーシング前は11Ω、8スケアは10.09Ω、16スケアは10.024Ωということになります。アーシング前を100%とすれば、8スケアは9.0%up、9.7%upということで0.7%の違いしかありません。でも、ケーブルの重さは4倍、価格も4倍くらいは違うでしょう。対費用効果は薄いと思われます。まして、無酸素銅などの高級品と安物電線との導電率の差は数%程度、この場合での差は0.03%程度です。高級品は、ほとんど無意味です。

端子処理の実際

今、売られているアーシングキットの多くは、大きなメーカー設計、製造しているものより、どっかの誰かが、家内制手工業(内職)で作ってる方が多いようです。もちろん、内職でも悪くは無いのですが、1つだけ大きな問題があります。それは、端子の圧着方法です。14スケアとかのケーブルを大きな圧力で圧着できる圧着ペンチは、数万円はする高価なものです。個人で、こんなものが買える人は少ないでしょう。安物の圧着ペンチでも使ってくれればまだ良いのですが、普通のペンチで挟んだり、トンカチで叩いて止めている人(製品)も多くあるようです。これでも、短期的に見れば、それなりの強度も取れますし、接触抵抗もそれなりに低いです。しかし、隙間に水分や汚れが入り、それに振動が加わり、さらに奥深くまで浸透して錆びたり接触不良が起きます。折角高価なケーブルを使っても、端子をいいかげんな方法で止めていたのでは意味がありません。市販のアーシングキットを買うときは、このへんを注意しておきましょう!

ちなみに圧着は、強度的にも、抵抗も、経年変化で見ても優れた方法です。なんでも、極めて強い圧力で圧着された場合、互いの金属が分子レベルでくっつくそうで、スポット溶接にも似た効果があるそうです。これは、半田付けなんかより、遙かに良い特性です。半田付けは、熱(200℃程度)にも弱いし、鉛合金で抵抗も高いし、強度も弱いです。しかし、高価な圧着ペンチを持っていないなら、半田付けの方が、まだマシに思えます。

インピーダンスの話

インピーダンスとは、交流回路での抵抗の事です。車の電源はバッテリーですから、直流抵抗を下げれば良いと思っている人が多いようでが、コイルやモーター類はON時の突入電流が大きく、その瞬間電流が大切です。イグニッションもコイルで、これがエンジン回転数の2倍の早さでON/OFFしています。これらは、直流電源ではありますが、十分交流的な特性を持っています。交流的な抵抗値を下げると言うことは、直流的に抵抗を下げるのとは少し違ってきます。まず、配線は太く短く直線的にが基本です。直流でも同じですが、交流では、これがさらに顕著になってきます。少なくとも、直流抵抗より高目になると言うことで、より太い配線が求められます。

気を付ける処としては、端子が汚れたままボルト締めしたり、端子に水分やホコリがしみついた場合、直流抵抗が低いのに交流抵抗が高くなることがあります。端子の一部だけしか導通しておらず、そのほかの部分の抵抗値が上がっているような場合が考えられます。テスターの微弱な電流なら問題ありませんが、大電流や交流が流れるには妨げになるのです。均一に導通するように掃除してあげるのがベストです。

FFやFRなら、大半の場合、エンジンルーム内にバッテリがあるので、それほど問題は無いのですが、MR2はフロントにバッテリがあります。フロントからリアまではボディを通して電流が流れます。フロント→リア間をアースラインを引くと、3〜4mは必要になりそうです。しかし、前後の間のボディの断面積は相当ありそうですので、ボディと端子間の接触抵抗が少なければ、延々とアースラインを引くより抵抗値は少なそうです。ただ、先にも述べたように、ボディと端子の接触抵抗を減らすのはなかなか難しそうです。こんな場合は、ボディの複数の場所から端子を使ってアースラインを取る方法が簡単です。例えば、純正のバッテリ周りのアースラインは1本だけですが、これを左右フェンダーにも配線することで、劇的に抵抗値を下げられるようです。

デメリットは無いのか?

アーシングは、いままで怠けていた装置にカツを入れる技法です。当然デメリットもあるでしょう! ランプ類は明るく点灯する分、切れやすくなるでしょうし、モーターやコイル(リレー)類も元気に動く分、消耗も激しくなります。今までは、車の劣化と共に、各装置に掛かる電圧も下がって怠けさせることで延命してきたものが、年を取ってからムチを入れて働かせようというのですから、早死にする可能性は大きいです。もし、パワーは要らないから、細く長く車に乗りたいなら、アーシングはしない方が良いかもしれません。まあ、壊れたパーツはバンバン入れ替えるつもりなら、それでも構わないのですが・・・

2001.11.30