★伝後光厳院筆『竹取物語切』−−極上の逸品を発掘★
伝後光厳院宸翰『竹取物語』切−−《妻問いの条》 高城弘一氏蔵
★伝後光厳院筆『竹取物語切』−−極上の逸品を発掘★(高城弘一助教授と分担執筆/高城氏執筆の書誌は原本をご覧下さい)
「大東文化」2003年03月号、大東文化大学広報部・2003.03.15 発行
※ 新=故新井信之氏蔵本
ひをくらすいとおほかりをろかなる /ひをくらすー新・日をくらせる
人はようなきありきはよしなかり
けりとてこすなりにけりその中
に猶いひけるは色このみといは
るゝかきり五人おもひやむことなく / やむことなくー新・やむ時なく
よるひるきけりその名ともは石
つくりのみこくらもちのみこ / くらもちー新・くらもり
(朱) 右大臣阿部御主人 大寶元年三月廿一日 右大(×石×本)臣あへのみあらし大納言おほとも
(朱) 甲午任干時従二位元大納言 のみめゆく中納言いその神のま / みめゆくー新・みゆき
(朱) 大納言大伴宿袮御行 大寶元年正月五日任
※ 奈良・平安時代の宸筆はいくつか遺されているが、こと平安朝文学となると、『源氏物語』を始めとして、作者の自筆本はほとんど遺っていないという現実がある。したがって、今回、畏友・高城助教授が「室町時代初期頃」と推定される伝後光厳院筆「竹取物語切」を発見されたのは、国文学・書道史上、極上の逸品の発掘であり、かつて古筆文献学のメッカであった本学にとっても久々の朗報であると言えよう。この切と諸本とを本文批判してみると、求婚者の名前にその特徴を求めることが出来る。特に諸本で異同の多い「阿部御主人」は、古本系統に「みあらし」、流布本系統に「みむらし」、『源氏物語』絵合巻に「おほし」(大島本・保坂本・河内本/阿仏尼本「おほ(ぬ)し」)とあり、字母から推定するに、本来、「あるじ=主人」とあった本文を、この切のように「あらし」と書写して派生した本文故の本文転訛と認めることが出来よう。とすれば、「むらじ=連」とする流布本に改竄の疑いが指摘でき、切が古本系の祖本に位置する時代的先行性を保証するものであることがわかる。ただし、大伴の御行は諸本異同がないのに対し、切では「みめゆく」とあり、「め」が衍字、「く」は「き」の誤写である。
また、朱の注記は、従来、江戸時代の国学者・加納諸平の『竹取物語考』によって、この物語の求婚者達が壬申の乱の功臣に比定されると認めてきた学説史を覆すことになる。つまり、この注記を見る限り、この物語を講釈する際の覚書に『公卿補任(くぎょうぶにん)』を記してあり、少なくとも室町期の文人達には、物語のモデルも確定されていたことになるからである。とすれば、この切の発見は、この物語の註釈史、及び、研究史を書き換える“事件”であると言うことが出来よう。(上原作和)
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