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女三宮と源氏・夕霧・柏木 99001035 川越麻紀子

女三宮に対する態度に、それぞれの性格が表れている。

< 夕霧 >

宮の降嫁の話があったとき、夕霧も有力な候補者であった。夕霧が、源氏の使いで朱雀院をたずねた際、院はその立派なのを見て、娘の婿のよいと思われて、それとなくほのめかされる。宮のめのとたちは、夕霧は雲居雁以外には心を動かさないといい、夕霧としても、院から直接ほのめかされたので、自分がもらいたいといえば、お許しくださらないこともない、と心がときめきもするが、宮をもらえば自分を頼りにしている雲居雁に物思いをさせることになり、言い出さない。院も、夕霧は心動かすまい、と思われ、夕霧もまた、そ知らぬふりをしたので、この話は立ち消えとなる。

< 源氏 >

源氏は、一度は宮を断るけれども、後で心が引かれ、もらいうけることになる。紫上が悲しむのを見ては、心弱くて、もらったことを後悔する。紫上は出家を望み、果ては病気で倒れてしまう。十九歳であった夕霧が、宮をもらえば面倒なことが起こり、雲居雁を悲しませ、自分も苦しむだろうと思って断念したのに、四十歳である分別ある男が、紫上に対して、何の思いやりもなく、好き心に任せて宮を貰い受け、結局は二十年余りも連れ添った紫上に、離れていく心を固めさせることになった。

< 柏木 >

柏木と女三宮に対しては、「柏木の恋愛」で述べたとおりであり、密通したことを源氏に知られ、弱くなってついには死んでしまうが、相手である女三宮も、心に大きな傷を負うことになり、世を捨てて、出家する。

柏木の人柄

夕霧が、「まめやかさ」で大いに強調されているのに対して、柏木にはそれがかけている。しかし、祖母大宮のなくなったときに、その子頭中将よりも、孫の柏木が心から悲しんだといい、感情にたつ真実味があるといえる。平常から、「いと用意あり顔に、静めたるさま」を、つまり、思慮深そうに、落ち着いた様子をしている。しかし、実際は感情的であり、その表れとして、女三宮と密通したのである。その表裏が実に巧妙なので、彼の心を見抜いたものでない限り、内面はわからない。彼は、この物語で、最も表裏の多い人間であるが、意識的に外装を作っているのでもなさそうで、おそらく、内実の情緒的なものを隠すために、おのずから生じた殻のようなものではないかと考えられる。

容姿について

「いとあてに、清げなる容貌して、御直衣の姿好ましう、花やかに、いとおかし」(とても高貴で、美しい容貌で、御直衣の姿は心が引かれ、花やかで、とてもすばらしい)とほめられているが、それでも「宰相の中将のけはい有様には、えならび給はねど、云々」と、夕霧には及ばないという。

柏木の恋愛

柏木の感情的性格が、女三宮を恋することにより、顕著になった。そもそもこの根源は、宮がとても美しく、父朱雀院によって大切に養育されている、と聞いたことから起こっている。宮の人柄などは何も知らないで、想像によって理想化し、憧憬の心を寄せるのである。宮降嫁の話があったとき、朧月夜(頭中将の妻の妹)を通じて院に働きかけたが、身分が低いということで成功しなかった。その後、宮が源氏に降嫁された後、一年たっても、まだ胸の痛い思いがするといい、さらに、源氏が出家したらその後を、と油断なく小従侍の周りをうろつきまわるという。さらに、宮の降嫁から七年経って、女二宮の降嫁を得ているにもかかわらず、女三宮になおも強く愛着している。そしてついに、源氏が留守にしたすきに、宮と会うことになる。直接会って、思う心をのべ、引き下がるというのであったが、会ってみると「なつかしく、いとらうたげに、やはやはとのみ見え給ふ御けはい」(心が引かれ、愛らしく見えるご様子)から、宮を連れ出して、ともに身を隠そうか、とまで思い乱れて、ついに宮を犯してしまう。その密通が、源氏に知られ、怖くなり、いたたまれなくなって、もう生きていられないと思いながら嘆き悲しむ。恐怖と悔恨ですっかり弱い人間となって、ついには死んでしまう。

夕霧の人柄

夕霧には、一言でいって、まめやかな心がある。「まめやか」という語が六回用いられていて、これと同じ意味の「まめ人」「まめ心」「まめまめし」なども用いられている。「まめ」を意味する語が、これほど多く用いられている人は、夕霧のほかにはいない。それは、一般的にはまじめであるという意味に用いられるが、この意味を表す語の多くは、女に対する心に用いられている。

< 例 >

〜源氏は、夕霧に明石姫君の御簾の内に入ることを許すが、それは「大方の心用いなども、いとものものしく、まめやかにものしたう君なれば、後安く」(大体の心使いがとても立派で、誠実である夕霧ならば安心だ。)と思ったためであった。

〜玉鬘に思いを寄せてはならないと思う心は、「ありがたきまめまめしさなめれ」(めずらしい誠実さである。)といわれた。

〜紫上の絶世の美貌に驚嘆しても、「ひとがらまめやかなれば」(人柄がとても誠実なので)恋をするなどということは思いもよらなかった。

〜頭中将が長い間拒んでいた雲居雁を許したのは、ほかの女に心を移さない「まめやかなる御心ざま」(誠実である心)に感心したためであった。

夕霧の恋愛

夕霧は、早く元服した頃、一緒に養育された頭中将の娘雲居雁と恋仲となった。しかし、家内を栄えさす希望が砕かれた、と頭中将によってそれを妨げられた。にもかかわらず、彼は待つこと六年に及び、驚くべき辛抱をした。玉鬘が実の姉でないと知っても、雲井雁のことを思って、恋しく思う心を抑える。また、籐典侍は、父唯光も認めた仲であったが、身分が低いために正妻となれる女ではなく、夕霧としても、正妻としては雲居雁だけを思っていた。

――――女二宮の登場(柏木に降嫁。柏木が死ぬ際に、夕霧にも宮のことを頼む。)

夕霧は、未亡人となった女二宮を、しばしば訪ねて慰問し、奥ゆかしい人柄と知って心にとめるようになる。美しくはないようだが、見た目によって嫌ったり、心を惹かれたりするのは見苦しいことで、容姿よりも心ばせが大切だという。これは「ただ心ばせのみこそ、いひもていかむには、やむごとなかるべけれ」(容姿に関係なく、気立て、心使いだけを見て、心が惹かれることは、大切にするべきである。)にあらわれているといえる。

この女二宮との恋だが、ある夜、夕霧は宮に求婚の心を伝え、その夜は泊まって宮に近ずき、様々に口説く。母である御息所は、二人が結ばれたものと思い、夕霧に、宮を許す文を送るが、それを雲井雁が取って隠したので、何もできない。夕霧は苦しんだ末、やっと宮を手に入れるが、家では雲居雁の激しい嫉妬にあい、雲居雁は、父頭中将のところへ帰ってしまい、苦渋の多い恋となった。

 

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