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古典文学基礎演習  99001007 石川真由美

光源氏の苦悩について

  1. 光源氏が犯した罪〜加害者としての苦悩〜

源氏は、母更衣の死後入内した藤壺の女御が、死んだ母に似ていると周りの人々に言われて、子供のころから宮中で馴れ親しんでいるうちに藤壺に心を寄せるようになる。

そして、自分の実の父親である桐壺院の妃である藤壺と関係を持ってしまう。

その結果、藤壺は源氏の子供を懐妊してしまう。

そして、若宮を産む。

しかし、この若宮はあきれるくらい源氏を生写しにしたというような顔かたちなので源氏の子であることは紛れもない。そのため藤壺と源氏は桐壺院に御子の出生の秘密が漏れるのではないかと気が気でない様子である。本文でも、

{本文}

「「例の、中将の君、こなたにて御遊びし給ふに、抱き出で奉らせ給ひて、「御子たちあまたあれど、そこをのみなむかかるほどより明け暮れ見し。されば思ひわたさるるにやあらむ、いとよくこそおぼえたれ。いと小さきほどは、みなかくのみあるわざにやあらむ。」とて、いみじくうつくし、と思ひ聞こえさせ給へり。

中将の君、面の色かはる心地して、恐ろしうも、かたじけなくも、うれしくも、あはれにも、かたがたうつろふ心地して、涙落ちぬべし。物語などしてうち笑み給へるがいとゆゆしいうつくしきに、わが身ながら、これに似たらむはいみじういたはしうおぼえ給ふぞ、あながちなるや。宮は、わりなくかたはらいたきに、汗も流れてぞおはしける。中将は、なかなかなる心地の乱るやうなれば、まかで給ひぬ。」」

桐壺院が若宮を抱きながら源氏に「わたしには皇子が大勢いるがお前だけをこのぐらいの幼いときから明け暮れ見ていた。だからそのため自然とそんな気がしてくるのかもしれないがこの若宮はいかにもおまえによくにているねえ。小さいときは誰でもこんなに美しいものばかりというわけなのだろうか。」と言ったのに対し、

源氏は、顔の色も変わる気がして、そら恐ろしくも勿体無くも嬉しくも、いろいろな感じが乱れに乱れてつい涙が落ちそうになる。また、若宮を御覧になるにつけて、却って胸が掻き乱れるようなのでおさがりになった、とある。

この様子を見ていた藤壺はむやみにいたたまれない気持ちで冷や汗をながしている、とある。

ここからも二人が秘密の漏れるのをおそれていたことがわかる。

  1. 柏木と女三宮〜被害者としての苦悩〜

柏木は女三宮の婿選びのときからずっと女三宮のことが好きで源氏の妻になった後も忘れることができなかった.そしてとうとう小侍従を使って女三宮に恋文を届ける。

すると、最初は恐れていた女三宮だったがだんだん心を通わすようになる。 そして、源氏が紫の上の見舞いに行っている間に二人は一夜を共にしてしまう。その結果、女三宮は柏木の子を懐妊してしまう。

女三宮と柏木は二人のことが源氏にばれてしまうことを非常に恐れていたが、女三宮が柏木からの恋文を枕元に置き忘れ、それを見舞いから帰ってきた源氏が偶然見つけてしまう。源氏はその筆跡から柏木が書いたものだとすぐに分かったが信じがたい気持ちでいた。そして、源氏の心は深く傷つけられ、二人に対してはなはだ穏やかではないが、それと同時に自分も同じように父帝の妃に通じて子供を産ませたのであり、他人事として二人を責められない気にもなる。そして当時の父帝のことを考え思い悩むのであった。

源氏は今自分が父帝と同じ立場になってみて、もしかしたら本当は帝は自分と藤壺のことを知っていたのではないかと悩む。また、女三宮と柏木の子を抱かされ、世間には自分の子として披露する苦さを存分に味わうと共に、もしかしたら桐壺帝も今の自分と同じような気持ちで若宮を抱いたのではないかという思いが胸をよぎる。しかし源氏はこのような思い(他人の子を自分の子として抱くことなど)をしなければならない苦痛もかつて自分が犯した罪の報いを現世で受けると思って我が身を責める気にもなる,と言っている。

わたしは源氏は被害者でもあり、加害者でもあり、両方の気持ちがよく分かるのでとても悩んだのだと思う。

また、自分自身が被害者側の立場になってみて初めてかつて自分が犯した罪がとてつもなく大きいということに気付いたのだと思った。

 

参考文献

源氏物語のこころ       重松信弘

源氏物語の原点        伊藤博

源氏物語の女性たち      瀬戸内寂聴

源氏物語現代語訳       今泉忠治

            

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