FETのシングル動作における歪

 

 まず、はじめに2乗特性を有するFETのシングル動作について考えます。

 ドレイン電流を Id、ゲート・ソース間電圧を Vgs とすると、

    IdA・(VgsV)^2   (VgsVp)、   Id=0   (VgsVp)    

 AFETのgmの大きさに関する定数で同一品種ではほぼ一定の値になります。Vpはピンチオフ(カットオフ)電圧で同一品種でもばらつきます。このFETの静特性をグラフ化したものが図1となります。条件設定表のA およびVp は任意の値を入力できますがデフォルトとして、A=1、Vp=0 としておきます。

 

条件設定表1の数値は任意の値

(一般にMOS-FETは正の値、J-FETは負の値になります)

条件設定表1

パラメータ

数値

A=

1

Vp=

0

動作計算表1

Vgs

Id

-5

0

-4.5

0

-4

0

-3.5

0

-3

0

-2.5

0

-2

0

-1.5

0

-1

0

-0.5

0

0

0

0.5

0.25

1

1

1.5

2.25

2

4

2.5

6.25

3

9

3.5

12.25

4

16

4.5

20.25

5

25

 次にこのFETに任意のバイアスを与え動作点電流を決定し、入力に1周期の正弦波信号を加えたときの出力電流を考えます。1周期(2πラジアン)を0から2(πラジアン)までの40ステップ(41ポイント)に分割しその各々のポイントを計算します。

Vgs は バイアス電圧 +信号振幅 X sin(角度)、 I d はカットオフしない範囲で Vgs^2 となります。バイアスと信号振幅は任意の値を入力できますが、デフォルトとして バイアス=2、信号振幅=1 としておきます。動作点電流はバイアスが与えられると自動的に決定します。

  その結果が動作計算表2、および図2です。Vgs は当然バイアス電圧を振幅の中心にした正弦波です。出力電流 Id も一見正弦波のようですが、よく見ると波形の上部が伸び、下部がつまった波形であることがわかると思います。つまり2乗特性の非線形性の影響を受けて歪を含んだ波形となっています。

 

 最後にこの出力波形の歪率を以下の手順で求めます。いよいよクライマックスということになります。まず、直流成分が邪魔ですからこれを取り除きます。直流成分はIdの各セルの平均値で、E 84(出力の平均値=4 .5)のセルです。最初のポイントの角度が0のときと、最後のポイントの角度が2πのときは重複になりますから、計算は最初のポイントを除外してあります。E 84 セルが求めた直流成分です。この値が動作点電流より大きくなっているのは、上下非対称の歪により直流分が発生したためです。I d からこの直流成分を引いたものが出力の交流成分(表のG列)となります。 

次に基本波成分を求めますが、極端に歪みが大きくない限りにおいて、交流成分の実効値 = 基本波の実効値 と考えられますから交流成分の実効値を求めます。実効値(RMS)2乗して平均しその平方根を求めるということですから、Excelの関数では

SQRTSUMSQ(各セル)/セルの数)ということになります。ステップ数を無限にとれば、本来の積分になりますが、40ステップでも十分です。こうして交流分の実効値を求めたのがE 86(交流成分の実効値=2 .85)のセルです。それを√2倍したものが、振幅(の最大値)でE 88(交流成分の振幅=4 .0 3)セルです。この振幅に sin(角度) を掛けたものが基本波成分となり表のH列です。

元の交流成分(歪を含む)から基本波成分を引くと歪成分が求まります(表のI列)。歪成分の実効値も先ほどと同様に求めます

I 86のセル=歪み成分の実効値)。歪み成分の実効値 / 基本波の実効値 X 100%ですが、基本波の実効値=交流成分の実効値と考えて求めます。I 88のセル(歪み率(%)=12 .43)が求める歪率です。

条件設定表2   (バイアスは任意、信号振幅は正の値)

パラメータ

数値

バイアス=

2

信号振幅=

1

動作点電流=4

                   動作計算表2                動作計算表3

ステップ

角度

(rad.)

Vgs

Id

交流成分

基本波

歪成分

0

0.00

2

4

-0.50

0.00

-0.50

0.05

0.16

2.156

4.65

0.15

0.63

-0.48

0.1

0.31

2.309

5.332

0.83

1.25

-0.41

0.15

0.47

2.454

6.022

1.52

1.83

-0.31

0.2

0.63

2.588

6.697

2.20

2.37

-0.17

0.25

0.79

2.707

7.328

2.83

2.85

-0.02

0.3

0.94

2.809

7.891

3.39

3.26

0.13

0.35

1.10

2.891

8.358

3.86

3.59

0.27

0.4

1.26

2.951

8.709

4.21

3.83

0.37

0.45

1.41

2.988

8.926

4.43

3.98

0.44

0.5

1.57

3

9

4.50

4.03

0.47

0.55

1.73

2.988

8.926

4.43

3.98

0.44

0.6

1.88

2.951

8.709

4.21

3.83

0.37

0.65

2.04

2.891

8.358

3.86

3.59

0.27

0.7

2.20

2.809

7.891

3.39

3.26

0.13

0.75

2.36

2.707

7.328

2.83

2.85

-0.02

0.8

2.51

2.588

6.697

2.20

2.37

-0.17

0.85

2.67

2.454

6.022

1.52

1.83

-0.31

0.9

2.83

2.309

5.332

0.83

1.25

-0.41

0.95

2.98

2.156

4.65

0.15

0.63

-0.48

1

3.14

2

4

-0.50

0.00

-0.50

1.05

3.30

1.844

3.399

-1.10

-0.63

-0.47

1.1

3.46

1.691

2.859

-1.64

-1.25

-0.39

1.15

3.61

1.546

2.39

-2.11

-1.83

-0.28

1.2

3.77

1.412

1.994

-2.51

-2.37

-0.14

1.25

3.93

1.293

1.672

-2.83

-2.85

0.02

1.3

4.08

1.191

1.418

-3.08

-3.26

0.18

1.35

4.24

1.109

1.23

-3.27

-3.59

0.32

1.4

4.40

1.049

1.1

-3.40

-3.83

0.43

1.45

4.56

1.012

1.025

-3.48

-3.98

0.51

1.5

4.71

1

1

-3.50

-4.03

0.53

1.55

4.87

1.012

1.025

-3.48

-3.98

0.51

1.6

5.03

1.049

1.1

-3.40

-3.83

0.43

1.65

5.18

1.109

1.23

-3.27

-3.59

0.32

1.7

5.34

1.191

1.418

-3.08

-3.26

0.18

1.75

5.50

1.293

1.672

-2.83

-2.85

0.02

1.8

5.65

1.412

1.994

-2.51

-2.37

-0.14

1.85

5.81

1.546

2.39

-2.11

-1.83

-0.28

1.9

5.97

1.691

2.859

-1.64

-1.25

-0.39

1.95

6.13

1.844

3.399

-1.10

-0.63

-0.47

2

6.28

2

4

-0.50

0.00

-0.50

          出力の平均値= 4.5

      交流成分の実効値=2.85  歪み成分の実効値= 0.35

      交流成分の振幅=4.03    歪み率(%)=12.43

               近似式による歪率(%)=12.60

 こうして求めたものが動作計算表3と図3です。波形を重ねてみると、交流成分が基本波成分に対して+になったり−になったりしているのがよくわかると思います。この差をとった歪成分は元の波形に対して2倍の周期の波形で歪の主成分が第2高調波(2次歪)であることがわかります。

さて、以前に会議室で示したFETのシングル動作における歪の近似式は (1/8 X (I d / I d 100% です。I d は交流成分の振幅であり、I d は動作点電流です。この近似式で求めた歪率をI 90のセルに示します。先の計算によって求めた値となんと良く一致していることでしょう!

前述したように、条件の表のパラメータの値(水色のセル)には任意の値を入れることができますので、いろいろと条件を変えて試してみてください。例えば、Vp=0 のとき、バイアス値より大きな振幅を加えるとFETがカットオフして波形の下側がクリップしてしまいますが、このような極端な条件の場合を除いて、2つの歪率の値がとてもよく一致することが解ると思います。またオレンジ色のセル(動作計算表1のVgsデータ)にも任意の値を入れることができます。

2000/03/25 13:56:09;ts7t-ymt;RETR;ok;/homepage/bulcvr/fetsingle/fetsingle.html 2000/07/28 21:01:21;ts7t-ymt;RETR;ok;/homepage/bulcvr/fetsingle/fetsingle.html