民俗芸能撮影論(短縮版)   第二稿 990910 980917 980224

民俗芸能撮影に関する私論       渡辺国茂

○民俗芸能・祭礼を撮影するにあたり、注意すべきことをまとめてみた。


民俗芸能とは

 民俗芸能とは比較的新しい言葉で 「芸術としての意識を伴わず、民俗として伝承された芸能」を意味している。昭和27年(1952)民俗芸能の会が発足して使われ始めた。(三隅治雄氏)

民俗芸能撮影上の注意

 祭を撮影してゆく中でいくつか、注意することがあります。祭(神事)に関係することと、写真家側の機材のことです。

@祭(神事)にはいくつもの決められた約束事があります。祭のル−ルを勉強しておく必要がある。祭には結界があり、一般の人の立ち入れない場所があります。写真家だから何でも撮影してよいと勘違いして入っていって、つまみ出された人もいます。(たとえば屋台や山車の引綱はまたがないとか、注連縄のはられた内側には入らない。高いところから御神体を撮影しない等)

A場所取りが重要、祭によっては数時間前から撮影ポイントを確保しておく必要がある。(事前にロケハン・水分をひかえてトイレにいかなくてすむようにする。場所取りに脚立を立てておけば短時なら場所を離れてもとられることは少ない、ただし割り込まれることはある)

B祭は複数の場所で神事が執り行われる場合があり、どこの神事(芸能)を撮るか考えておく必要がある。(たとえば黒川能は上座下座の離れた2個所で同時進行形で能が演じられる)

C祭の行われる場所では交通の不便なところも沢山あります、帰りの足の確保を考えておく必要があります。(たとえば、小鹿野鉄砲祭(12月)や檜原村小沢式三番(9月)等は終わりまで祭をみていると帰りのバスは無い)

Dストロボをたけない祭もある。(御神体を御輿に遷す時や演劇的要素のある祭(黒川能)等)

E祭の流れは(時間的経過)事前に勉強しておくこと。一番重要な神事(行事)のときにフィルムが無くなったり、フィルムの取り替え作業をして、チャンスを逃さないようにする。(能や神楽、三匹獅子舞などで前半部にフィルムを使いすぎて、後半部の面白い場面でフィルム切れをおこす人をよく見掛けます)

Fカメラは2台持ってゆく、あと1台あればコンパクトカメラを持ってゆく。2台同時にフィルム切れにならないよう、使用する。

Gタングステンフィルムを用意する。(ストロボの焚けない祭のため)

Hフィルムは余分にもってゆく。交通費を考えればフィルムのが安い、そして地方ではフィルムは高くて手に入らない場合が多い。(ネガフィルムはどこにでもあるが、高い)フィルムは増感現像出来るから、光量不足のときは増感する。  
(フィルム先端は巻き込まないで、1つ折っておくとノ−マルで2つ折っておくとプラス1増感というような自分のル−ルを作っておく)

I電池類も余分に持ってゆく。

J雨具(折畳み傘、ポケットポンチョ類)は鞄の中に入れておく。防寒具にもなる。

K懐中電灯は数台用意する。(1台はル−ペ付きとか、ランプ部の曲がる物や、ボ−ルペン付きランプ等)

L冬は使い捨てカイロは必需品

Mカメラ類は手放さない。(持ってゆかれる場合もある)

N筆記類、行事の進行状況をメモしておく。神事の名称も書いておく。テ−プも有効、最近は小型ビデオも有力。

(別項でチェックリスト的な項目あり)

 

民俗芸能(祭り)の基本文献

1共通文献 柳田国男全集 折口信夫全集 早川孝太郎全集(花祭)

2秩父地方 清水武甲氏の写真集(『秩父民俗』木耳社・『秩父路50年』新潮社・とんぼの本・こ の 

 中に秩父の年中行事表有り) 南良和氏の写真集(『秩父』『日本農民』)

3多摩地方 各社ガイドブック・『多摩のあゆみ』多摩信用金庫発行季刊雑誌

4日本全国 『民俗文化財要覧』文化庁(芸艸社)

5写真集  芳賀日出男氏の写真集 萩原秀三郎氏の写真集 濱谷浩の写真集(雪国・裏日本) 薗 

 部澄氏の写真集(黒川能・そのた) 原さんの『東京の祭』 渡辺良正氏の写真集(遠山祭その た) 

 植田正治『童暦』(祭の写真ではないが)

6祭関係の写真集

 

祭り情報の入手法

1市町村発行の自治体パンフレットにその地方の年中行事と地図はだいたい記載されている。この資料は市町村に返信切手を同封して請求するか、東京駅八重洲大丸の8階9階にある各県の出張案内所か、隣のビルの国際観光会館ビルの2、3階をまわれば入手できる。 デパ−ト等で開かれる県の物産展でも入手可能。

2入手した観光パンフレットから教育委員会の社会教育課か、観光協会に電話すれば日時やくわしい場所を教えてもらえます。

3インタ−ネットを使い(たとえばヤフ−の検索エンジンとか)市町村情報を入手することもできます、まだ全国の市町村がインタ−ネットで情報発信していませんが、個人で発信している方が多くなりました。かなりの祭が情報入手可能です。

4地方発行の新聞 日比谷図書館で講読可能。 東京に支社がある。

5東京近県情報は各鉄道会社発行のパンフレット。中央線沿線の行事は新宿駅1階の観光案内所。

6朝日・読売・毎日・サンケイ・東京 各新聞の夕刊の行事お知らせ欄

7祭関係の団体 日本民俗学会・明治神宮内儀礼文化学会・まつり通信(名古屋)

8テレビの報道 UHF局の祭番組 NHKの日曜日『ふるさとの伝承』ふるさとの伝承は再放映もあり半年に一度位再々放映もしています。私は気になる

祭は全部ビデオに取って有ります。

 

交通手段と宿泊

*祭によっては宿泊所や食堂は無いところが多い。その町の観光案内所(役場)に聞けば教えてくれます。

*駅から離れた場所で行われていることが多いので、帰りの交通手段を考えておく。

*祭によっては徹夜で行われる場合もある。(食事をどうするか)

*民宿を利用することも考える。(祭情報が入手しやすい)

 


撮影機材(チェックリスト作成の参考に)

1 フィルム (どこでもストロボは、たけると思うな)

 *カラ−フィルムは2種類ある。  ポジフィルム(スライド) と ネガフィルム(普通のカラー)

  *ポジフィルム 発色方法により 外式 と 内式 
        (違いは発色剤がフィルム内にあるか無いかの違い)

   *光源による違い デーライトタイプ と タングステンタイプ

      *デーライトタイプ(太陽光・色温度高い)

      *タングステンタイプ(電灯光・色温度低い)(蛍光灯・水銀灯は駄目です)
            主に商品撮影や舞台写真

  *ネガフィルム 一般のカラーフィルム
         感度の400のフィルムで十分 (昔はASA100と言ったが現在はISO400)
             カラー現像処理はお店にだした方が安くて確実・モノクロは
             自家現像の方が安心

 *モノクロ  フジのプレスト400でほとんど撮影可(昔はトライXだった)
              最近ではカラーネガフィルムを利用した、モノクロフィルムもある。

   カラ−モノクロフィルムの増感・減感現像を考えておく。プロラボの利用。
        プロラボとはプロカメラマン相手の現像所。
         写真引社 堀内カラー フジ クリエイト 青山 コダック等あり。
         カラーポジフィルムとモノクロは増感現像・減感現像が出来る。
          仕上がり時間が短い。自分で持参して取りに行く。

   地方ではネガフィルムしか手に入らないと考えて、フィルムは余分に持って行く。
      交通費に比べたらフィルムの方が安い。観光地ではフィルム高い。

 

2 カメラ  2台は必要 予備を入れて3台(1台はコンパクトカメラが便利)

 AFカメラで可だが、マニュアルで使用できること。スロ−シンクロ出来るカメラ。

 コマ間デ−タパック付きカメラ1台あると祭の進行がわかり便利。予備電池必要

 明るいズ−ムレンズ(f・8必要)と単品20・35・50ミリと1.4倍テレモアとマクロレンズ便利。

 

3 ストロボ 大型電池パック使用出来る物と小形ストロボ。

 ストロボを拡散(レフ板)させるか、殺して使う。スロ−シンクロや、軽く光らせる技術必要。

 

4 機材

 懐中電灯2個位大小・カイロ数個・磁石・ア−ミ−ナイフ・予備の電池沢山・三脚・脚立・一脚・ビニ−ル袋(雨の時カメラくるむ)・ライト付ル−ペ(夜の祭に便利) バッテリ−チェッカ−

5 服装

 ポケットの沢山ある服・帽子・手袋・タオル2本位・雨具

6 カバン

 ザック式が便利。カバン。小さくなる手提げ袋・肩掛け小バック・貴重品は身体からはなさない工夫。

7 小物類   手帳・ノ−ト・マジック・ボ−ルペン(紐付便利)・接着テ−プテ−プレコ−ダ−・必要に応じて御祝儀袋(つつむと食事させてくれる祭あり)

 



祭りの種目分類(体験的分類と見どころ)

1 人形芝居

 人形芝居か各地に伝承されており、文楽型式の3人遣いから、2人遣い、一人遣い、そして下呂温泉にある一人で多数の人形をあやつるカラクリ系の人形まで沢山あります。また風流系の弥五郎どん人形(九州)から、道祖神系の人形、山車のからくり人形、等調べれば、きりがないほど沢山有ります。

2 地芝居

 地芝居とは地方に伝承された歌舞伎をさします。日本全国に百以上あると言われ。江戸時代の古い歌舞伎を伝承している所も有ります。東京のあきる野市には百年の歴史をもつ秋川歌舞伎があり、絵本太功記二段目本能寺の場を上演出来ることで有名です。 また小鹿野町は歌舞伎で町おこしをしており、5団体も上演可能です。地歌舞伎上演団体が連絡会をつくり、毎年「全国歌舞伎サミット」を持ち回りで開催しており、秋川歌舞伎保存会にも開催要請がきています。

3 獅子舞

 獅子舞の歴史は古く、いろいろな種類の獅子舞があります。関東地方から信州にかけては三匹獅子舞が多く伝承されており、地域により微妙な差があります。

4 伝統花火

 日本古来の花火も沢山あります。近くで有名なのは、茨城県伊奈村の綱火です。浜名湖の側の新居市には勇壮な手筒花火があります。

5 火祭系

 火祭りは各地にあり「那智の火祭」「鞍馬の火祭」が有名ですが、盆の送り火に関係した火祭りや、新年を迎えるための火祭り、小正月の火祭り等沢山あります。

6 稲の祭

 日本の祭は弥生からの稲の祭と縄文から続くと思われる、イモの祭や狩猟に関係した祭が有ります。「お田植神事」「収穫儀礼(赤米の祭)」等

 

祭りに残る猿楽能・延年能・田楽能・幸若舞

 ○長滝の延年  1月6日   岐阜県白鳥町白山長滝神社 当弁楽を伝承

    (注・黒川能大地踏の中で「当弁楽はつくすとも能申楽はつくすまじ」と言う)

 ○延年の舞   1月20日  岩手県毛越寺 能は「留鳥」のみ残った。中尊寺古実式三番

 ○幸若舞    1月20日  福岡県瀬高町大江・天満社 室町時代信長も愛好した。

 ○水海の田楽能 2月15日  福井県池田町水海 田楽と能舞を伝承

 ○大須戸能   4月3日   新潟県朝日村 黒川蛸井甚助師が指導して復活させた。

 ○五十川の能  5月3日   山形県、歌舞伎もあり。

 ○松山能    8月20日  山形県松山町。観世流の能を現在は地元の人が上演。

 ○能郷の能   4月13日  岐阜県根尾村 越前猿楽 主に能の後部分を上演

 ○題目立て   10月12日 奈良県都祁村(ツゲムラ) 謡曲を神社境内で上演

 ○住吉神社の翁 10月4日5日 兵庫県 上鴨川  丹波猿楽の翁

 ○各地の三番叟 東京檜原村・小沢・笹野/埼玉県蓮田町潤戸/伊豆や群馬の人形三番叟

 ●天竜川流域の祭り(ほとんど夕方から始まり、明け方まで続く祭り・徹夜で見物する)

 ○花祭り    11月23日〜1月4日頃まで 地域により日程が違う、2日掛かりの

               徹夜で行なう神事  (申楽の元の姿をのこす)

 ○遠山祭    12月10日〜1月2日頃まで 霜月祭り 徹夜の祭り(海道下り等に

               猿楽の遺風を残す)

 ○ 雪祭り   1月14日 新野町 折口信夫命名の祭

 ○ 冬祭り   1月 4日 富山村

 ○ 参候祭り 11月  日  愛知県設楽町 田楽の遺風 問答にさんぞうろうと言う

 ○ 西浦田楽 旧1月18日西浦町 田楽を伝え、演技にモドキという演出法を持つ・等

 ○奈良豆比古神社翁舞 11月8日奈良県奈良坂町翁三人舞で春日若宮のおん祭りと共通

 ○佐渡の能   徳川時代初期佐渡金山発掘から。世阿弥配流からではないらしい。

 ○壬生大念仏狂言 京都壬生寺 能以前の姿を残す。ガンデンデン

 ○嵯峨大念仏狂言 京都清涼寺 壬生より素朴

 ○わくら大念仏狂言 京都府 4年に1度 近年復活

 ○鷺流狂言   明治になり廃絶した狂言の流派、山口市に民俗芸能として伝承。

 ○松山能 0820 民俗芸能としてよりも、武家の式楽を残している。(観世流)

 ○五十川の能  5月3日     歌舞伎もおこなう。

 ○大山の能狂言 神奈川県秦野市 江戸時代から能・狂言あり、現在は狂言のみ地元の人

 

そのほか民俗芸能撮影のための資料

○天竜川流域の祭

  1 花祭    2 遠山祭    3 冬祭    4 雪祭

  以上の祭は上記参照

 ○御柱    諏訪大社上社・下社 6年に1度。 末社で小さな御柱あり。

 ○人形芝居  早稲田人形・黒田人形

 ○地歌舞伎  大鹿村歌舞伎

○黒川能(上記参照)

○早池根神楽・岳神楽・東北各地の番楽

○秩父の祭

 ○人形芝居

 ○地歌舞伎(秩父歌舞伎・小鹿野歌舞伎・両神歌舞伎)

 ○獅子舞

 ○子供組の祭

 ○神楽

 ○山車

 ○風流系の祭

 ○その他 / 御田植祭

○奥武蔵の祭

 ○獅子舞

 ○神楽

 ○山車

 ○その他

○多摩の祭

 ○車人形芝居

 ○秋川歌舞伎

 ○獅子舞

 ○風流系の祭 / 鳳凰の舞・鹿島踊り

 ○神代神楽

 ○山車

 ○神輿系の祭・大国魂神社くらやみ祭

 ○その他

○関東その他の祭

 ○人形芝居

 ○地歌舞伎

 ○獅子舞

 ○風流系の祭

 ○神楽・鷲宮土師系神楽

 ○山車

 ○神輿系の祭・三社祭・深川祭・佃祭

 ○その他

◎私の好きな祭

 ○東北   祭堂・秋田県鹿角市/早池根神楽・大迫町。 ねぶた・ねぷた青森各地

 ○中部   天竜川流域の祭

 ○奥多摩・秩父の闇の祭

 

撮影実践論的まとめ 小論

 ○後処理 『発表』することを考えよう。(写真展・雑誌等)

 ○撮影写真を必ず届けることが、内部(楽屋)に入れるかどうかの分かれ目。

 ○民俗学のわかる人との話し合い必要、わからない人に批評されてもムダ。

 ○民俗学の講義が出来るくらい勉強しよう。

 ○祭写真を撮影している人達を見ていると、ル−ルを守らない人達が沢山います、有名なプロカ 

  メラマンでも黒川能の演能場面でストロボ禁止にも関わらず、撮影出来ないためストロボを使

  います。タングステンフィルムを持ってこなかったためです。調査不足のためです。これはド

  キュメンタリ−系のカメラマンに多く、民俗芸能・祭を撮影しているプロカメラマンにはみら 

  れません。

 ○昔のしきたりを守っている祭には、沢山のきまりごとがあり、撮影禁止の場面がありますので

  注意が必要です。(追い出されること有り)

 ○事前に祭を研究することが、大事です。こんな写真を撮りたいと幾つかイメ−ジしてゆくこと

  も必要です。撮影にあたってはイメ−ジにこだわらず臨機応変に動き・撮影すること。

 ○最初の祭は感動も大きいので、なるべく沢山撮影することをおすすめします。

 ○祭は最低3回みてほしい。つまり3年かよへ!

 ○撮影時フィルム切れや(フィルムを使い切ってしまう場合や寒くてフィルムが切断するときも

  ある)、電池切れ、カメラ故障でパニック状態になることがあります。そんな時の対処方法も考

  えておきましょう。

 ○フィルムは沢山もってゆこう。現地ではほとんど入手不可能(電池も単1・2・3以外は入手 

  不可と思うべし)

 ○少量のお酒と菓子飴類(食堂の無い地方もある)を準備する。

 

◎疑問点の学習

 ○全国各地の祭をみていると、類似点と相違点が気になりだします。自分なりの祭の系統図や分布図を考えて系統的に撮影するのも勉強になります。

 

デ−タ−ベ−スを作ろう

 撮影後その民俗芸能の名称・日時・演目等のデ−タ−ベ−スを作っておくこと。特にモノクロフィルムの場合しっかりした台帳を作っておけば、カラ−フィルムを1コマずつにカットした場合でもあとで検索可能です。(コンピュ−タ−のデ−タ−ベ−スを利用して作る)

 ○撮影で失敗した場合、原因を追求しておき次回は成功させる。

 

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