NEONGENESIS GRANDPRIX
EVANFORMULA
第1話「選ばれし者」
エヴァンフォーミュラとは、A10神経接続の思考操作型のマシンEG−Mを操り、
全7戦を世界各国で転戦するモータスポーツの世界選手権である。
しかし、あまりに過敏なマシンの為、ドライバーは数少ない。
しかもマシンに乗れる人間も選ばれし人間のみのシビアな世界である。
ここで簡単にだがエントリーリストを発表しよう。
1、惣流アスカラングレー・・・去年のチャンピオン。そのアグレッシブな走り
と自己中心的な考えの戦略は、他を寄せ付けない。
2、綾波レイ・・・人を人とも思わぬ無謀な運転が目立つ。ひと呼んで
「命しらずの弾丸娘」
3、葛城ミサト・・・その気になったらついてこれる者はいない。
戦術眼はかなりの物がある。チャンピオン候補。
4、赤木リツコ・・・このマシンの設計者。レースにもでる。知識を生かして
違反スレスレの改造をしてくる。自分でマシンはNO,1と言いきる。
6、鈴原トウジ・・・攻撃的なレーサー。賞金目当てのラフな走りが売りだ。
7、加持リョウジ・・・かなりの速さを持つ。だが女性のブロックには弱く、
下位に甘んじる事が多い。
8、日向マコト・・・冷静だが、成績はイマイチ。
9、相田ケンスケ・・・彼は出てるだけのレーサー。
10、青葉シゲル・・・上に同じ
11、・・・・・・・・・・・ここに入るレーサーは今・・・
後はその他の大勢、総人数22人で行われる。
=第1戦ドイツGP−ホッケンハイムサーキット=
「はっは〜ちょろいもんよ。明日を待つまでもないわ。初戦からポールスタートよ。
もう私についてこれるだけの奴は存在しないわね」
彼女は惣流アスカラングレー。去年のワールドチャンピオンである彼女は
先ほど行われた予選で暫定ポールを取ってかなり御満悦だ。
傍らにいたアスカのチームのメカAはアスカの肩を揉みながら、
「さすがです。チャンピオン。もう今年もいただきですね」
アスカは皆に自分をチャンピオンとお呼び!と命令していたのだった。
「当然よ、ババアは論外。気にするのはアノ命知らずな女だけよ。
今年は全戦ポールトゥウインね」
彼女はドリンクを飲み干すと天下を取ったかのように高らかと笑った。
その頃コントロールタワーで父親と再会していた少年の姿があった。
彼の名は碇シンジ。
今までは普通の高校生として生活していた17歳の少年。
その父親とは碇ゲンドウ。
EVIA(エヴァンフォーミュラ・インターナショナルアソシエーション)
の会長だ。
高級なソファーに腰掛け、向かい合う二人。
「しばらくだな、シンジ」
ゲンドウが我が子に声をかける。いや他人に話し掛けるように。
「急に僕を呼び出すなんて・・・何か用なんですか?」
「用があるから呼んだ」
ゲンドウはサングラスを押し上げながら、
傍らにいたEVIA副会長の冬月コウゾウに右手を挙げて合図する。
ゲンドウの合図を受けた冬月はシャッターを開くリモコンスイッチを入れた。
『グオオオォォォ』
シャッターが開くにつれ中に置いてあった物が彼らの目の前に姿を現し始める。
「これは・・・父さんが主催しているEVIAの・・・」
そこには紫のEG−Mが置いてあった。
「お前がこれに乗るのだ、シンジ」
シンジは愕然とした。
「ぼ、僕がこれに乗るだって?な、何言ってんだよ!」
「このマシンにはお前にしか乗れないのだ」
「何言ってんだよ!出来るわけないだろ!」
「説明を受けろ」
「そんな、見た事も聞いた事もないのに出来るわけないよ!」
「そうか。わかった」
あれ、いやに諦めがいいな。前もこうだったかな?とシンジは思う。
ゲンドウは再び冬月に合図をし、ある箱を持ってこさせた。
彼はその箱を開けると、中から2枚の写真を取り出す。
そして、その写真をシンジの前にスッと差し出した。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
その写真を見たシンジは凍りついた。
「シンジ、乗らないならこれを明後日の決勝レースの前に
スタンドにばらまいてもいいのだぞ」
シンジは何も言えない。
「どうするのだ。この写真が公表されてもいいのか」
「・・・・わかったよ。乗るよ!乗ればいいんだろ!!」
ここにまた一人のレーサーが誕生した。
−予選2日目−
エヴァンフォーミュラ第一戦の舞台。ホッケンハイムサーキット。
ピットではメカニックが慌ただしく新しく搬入されたシンジのマシンをいじっている。
「じゃあシンジ君、これに着替えて」
シンジの目の前にビニールに包まれたレーシングスーツを差し出したのは伊吹マヤ。
彼女は彼のチームのチーフスタッフである。
シンジはそれを見て、なんだかなーと思う。青い変な服・・・
嫌々ながらそれを着込んで、ボタンを押すと「シュッ」と体にフィットした。
「よく似合うわ」
「ありがとうございます」
気のない返事。もうシンジは覚悟を決めていた。
いいさ、やってやるさ。死んだって別にいいさ。と投げやりな思いでいた。
「じゃあ、そろそろ行くわよ。シンジ君」
「わかりました・・・」
シンジはシートに腰掛け、教えられた通り、
「えっと。手はここに入れて・・・足はここか」
と言いながら手足を動かした。所定の位置に手足を入れた瞬間、シリコンのような物が
手足を入れた部分に流れ出し、一瞬にして固まった!腰にもベルトが巻き付く!!
「な、何なんです!これ!!」
しかしその声に気がつかないのか、
マヤはエントリーコクピットを締めるボタンを押した。
シンジの頭上のキャノピーが
『シュゥゥ』
という音とともに閉まる。
中は真っ暗だ。さすがにシンジは不安になった。
その時LCLがエントリーコクピットに注水された。
「な、何だよこれ!!!どうなってるんだよ!!」
シンジはパニックに陥った。その時横のサブスクリーンにマヤが写し出された。
「大丈夫。溺れたりはしないわよ。肺から酸素は取り込んでくれるから」
しかしシンジは溺れかけた。
(冗談じゃないよ、これじゃ死んじゃうよ)
とシンジは思う。
先ほどの意気込みはどうした、シンジ。
そしてエントリーがスタートした。「LCL電化」「A10神経接続開始」と
聞きなれない言葉が飛び交う。
そしてメインモニターに外の景色が映し出される。
「・・・・・」
シンジは驚きを隠せない。
「すごい・・・」
ちなみに自転車以外の運転はした事のないシンジだけに、不安は腐るほどある。
「行けるわよシンジ君。いつでも出ていっていいわ」
いつでもって・・・
周りを見ると自分が注目されているのが分かる。
新人の彼は必要以上に目立ってしまうし、どうしても注目されてしまう。
下手にはピットアウト出来ない。そう思うと余計に色々考えてしまう。
「へえ、これが新しい子の車。紫色なんてなんか暴走族みたいね」
ミサトがシンジのマシンを見ると、一緒に新人を見に来たリツコに顔を向けた。
「そうね。不良より始末が悪いかもね。何しろ彼は碇会長の・・・」
その時!シンジは何を思ったのかフルパワーでマシンを発進させた。
当然ホイルスピンを起こし、車体がミサト達の方にスライドしてきた!
「ええっ!」
「ちょっと!」
ミサト達は無意識のうちに叫んだ。
シンジは何とかマシンを立て直し、そのまま無事にピットレーンを後にすることが出来た。
ピットには呆然とへたり込むミサトとリツコ、
彼が残したタイヤスモークを唖然として見つめるマヤが取り残されていた。
サーキットに出たシンジは気持ちよくサーキットを走っていた。
タイヤ、エンジン、サスペンション全てが自在に意のままに操れるし、
全てを感じる事ができる。操縦方法を覚える必要がなかったのは幸運だった。
あとはサーキットを走る感覚を養うだけで良いのだが、
この辺りは不思議とすぐ順応した彼だからこそ
「これは楽しいや!」
と感じることが出来た。もはや不安なぞ彼の頭にはない。
今の彼はサーキットの風が気持ちよくて仕方なかった。
そのシンジの前に赤いEG−Mが見えた。
ドイツの英雄、チャンピオンのアスカだ。
しかしシンジはそんな事は知らない。
「ようし」
シンジは速度をあげてアスカをコントロールラインの少し前で追い抜いていった。
アスカも特にシンジのマシンを気にせずに道を譲る。
しかし彼はアスカを追い抜いた場所が悪かった。
アスカはこの周回でタイムアタックをしようとしていた為、
1コーナーを曲がった所ですぐにシンジに追いついた。
しかしシンジは遊びのつもりでアスカの進路を塞ぐ。
いきなりブロックを仕掛けるシンジのマシンに苛々したアスカ。
「ちょっと!!何してんのよ!!どきなさいよ!!!」
怒り心頭で文句を言ったがシンジに届くことはなかった。
しかもシンジはこのバトルを楽しんでいる。道を譲るつもりはない。
マシンの性能が同じなだけに、アスカにしても抜くに抜けない。
テクニカルサーキットならシンジはアスカの敵ではないが、
ここはハイスピードサーキットだ。抜くチャンスはあまりない。
オストカーブでシンジのインに飛び込もうとマシンを移動させたアスカの前に
すっとシンジのマシンが出てきて進路を妨害する。
ここまで非常識なブロッキングをされてアスカの顔には青筋がプチプチと立ち始めた。
「・・・ちょっと・・・いいかげんにしなさいよ・・・」
もうアスカは切れる寸前だ。
そしてまるまる1周ブロックされたアスカは1コーナーで抜こうとしたが
ここでもシンジはスポーツマンシップに反するブロックを続ける。
「この私にケンカ売るとはいい度胸じゃない!!やったろうじゃないの!!!」
そう言うとシンクロモードをDに切換えた。
シンクロモードとはそのマシンのパワーを制限する装置で、決勝はAモードで走り、
いざという時にB・Cと切換える。予選では通常Cで走る。
Dではマシンとドライバーに負担がかかるので通常は使用しないが、
今のアスカは切れている。そんな事は頭からすっかり消え失せていた。
だがおかげでアスカのマシンのストレートでの伸び、加速力が上がった。
アジップ・カーブの入口でアスカはマシンを右に振った。
ブレーキングでシンジのインに入り込んだ。
しかしシンジは天才か。かろうじて外側から被せて押え込む。
アスカはアジップの出口で現れたマシンのテールを見ながら呟く。
「な、何者なの?!こいつ・・・」
その頃シンジのピットにゲンドウが現れ、マヤに向かい一言。
「どうだ」
「見てください。今シンジ君はSIN、Cモードで走ってますが、
アスカを押さえてます」
ゲンドウにモニターを見せる為にマヤは立ち上がった。
そんなマヤにゲンドウは薄笑いを浮かべると、
「後は頼む」
とだけ言うとモニターを見ることなくピットを後にした。
「ウォー」
観客から歓声が上がる。シンジはまだアスカの前を走っている。
無理もない。アスカはもう真剣だ。
コーナーというコーナーでマシンを激しく動かすアスカなのだが、
その事がかえってレコードラインを外してコーナー出口で遅れる原因にもなっていた。
「くそぉ!こんな奴、何で抜けないのよ!」
ワールドチャンピオンで開催地ドイツの国民的英雄でアイドルのアスカだ。
意地でも負けられないし、新人に負けたとあっては彼女のプライドが許さない。
「次のシケイン・ツヴァイン。アイツのラインがあまいわ。インに飛び込めば抜ける」
そう思うと勝負を賭ける。エレクトリックシステムをCモードにした。
エレクトリックシステムとは、EG−Mの動力源の電力の増減を指定するシステムである。
Aは最小、Cが最大であり、Cで走ると最高で2分しか走れない。
「行くわよ!」
システムを作動させると爆発的な加速で一気にシンジに並びかける。
ブレーキング競争でもアスカが勝った。
「よし!いける!」
高速シケインにはアスカのマシンの方が先に入った。
シンジは「あーあ」と残念がったが
「ふん!あんたなんかが私に勝とうなんて1万年早いの・・・」
だが言葉も言い終わらないうちにアスカのマシンの左リアタイヤがバースト!!
「うそっ!!」
アスカは、もはやなにも出来なかった。
グリップバランスが大幅に崩れたマシンはスピンしながら外に弾き飛ばされる。
運悪くアスカのアウト側にいたシンジのマシンに
赤いマシンがノーズから突っ込んでくる。
「うわぁっ!」
シンジのマシンに激しい衝撃が伝わり、2台は絡まってコースアウト。
2台のEG−Mは砂煙を巻き上げてハイスピードでタイヤバリアに突っ込んだ。
「くっ・・・」
初めてのサーキットで初めてクラッシュを体験したシンジ。
あまりの衝撃の強さに頭がクラクラしていた彼は2、3度振ってみた。
その時、アスカは素早くLCLを抜き、シンジのマシンに駆け寄っていた。
そしてシンジのマシンのキャノピーを激しく叩き始めた。
「開けなさいよ!アンタ何考えてんのよ!」
マヤも遠隔操作でシンジのLCLを抜き、よせばいいのにキャノピーを開ける。
目の前に見えたシンジの胸ぐらを掴むと、アスカは激しい剣幕で捲し立てる。
「ちょっとアンタ!どういうつもりよ!!」
シンジにしても巻き添えを食ったので面白くないし、この言われ方にはカチンときた。
「何言ってんだよ。ソッチが勝手にスピンしたんだろ!お陰でこの有様だ。いい迷惑だよ!!」
「アンタ!私のタイムアタック妨害してんのよ!分かってるの!!」
「何言ってんだよ!抜けないのが悪いんだろ!このヘタクソ!!」
「ぬぁ・・・ぬぅぁんですってぇぇぇ!!!」
シンジは2人の敵を作った。1人は惣流アスカラングレー。もう1人は・・・
「アンノガキィ。帰ってきたらただじゃ済まさないわよー」
とシンジのピット前で指を鳴らしシンジを待つ葛城ミサトである。
「そんなにカッカしてるとしわが増えるわよ。程々にしておきなさい」
あとは中立の立場を決める赤木リツコだった。
ちなみにこのクラッシュが原因で、アスカもシンジも決勝までには
マシンは直らず、リタイア扱いとなった。
第1戦
ドイツGP 決勝リザルト
1位・・・葛城ミサト 10p
2位・・・鈴原トウジ 6p
3位・・・綾波レイ 3p
4位・・・加持リョウジ 1p