2020年9月10日(Thu) くもり

学校に行くと、アスカは始業時間ぎりぎりまで姿を見せなかった。

担任  :今日は一日、授業はありません。

        恒例の映画鑑賞があります。

***************************************

僕達は映画館へ向った。

途中、アスカに話掛けようかと迷っていると、

洞木さんと綾波が、僕の傍に来て

レイ  :お兄ちゃん!

        しっかりしなさいよ!

洞木  :碇君!

        今、仲直りしとかないと、後悔するわよ。

トウジは僕の耳元で

トウジ:叶わぬ恋に心を尽くすより犬猫を飼え、と昔の人は良い事言ったな。

僕    :・・・・


電車の中で僕はアスカの傍に行き

僕    :アスカ・・昨日は済みませんでした。

        あのう・・メールの件なんだけど、断って欲しいんだ。

それを聞いていた綾波と洞木さんが、アスカにVサインをした。

アスカは表情を変えずに、窓の外を眺めたまま

アスカ:何故?

        アンタ、下僕の分際でこの私に指図するの?

洞木さんはアチャーと頭を抱えた。

僕   :あ、あのメールでは、僕に対しどうするかの問があったから、

       その問に対する答だよ。

アスカは僕を睨み付けて

アスカ:そう、よかったわね!

        このヴァカ!!!!

列車がタイミングよく停まると、アスカは走って出て行った。


僕達は駅に降りた。


洞木さんと綾波が、僕の傍に来た。

レイ  :お兄ちゃん!!!!

        どうして馬鹿な返事するの!

        どうして断って欲しいか、自分の気持をどうして言わないの?

洞木  :碇君、本当にアスカの事を想ってるの?

        呆れた。

二人は走ってアスカを追いかけた。


僕はトウジと並んで歩いた。

トウジ:シンジ、お前も業(ごう)なやっちゃな。

        端(はた)で見てたら、ほんま業を煮やすで!!

僕    :・・・・・

***************************************

映画館に入った。

映画館は貸切りで既に満席だった。


アスカを探した。

既にアスカの周りの席は埋っていた。


僕とトウジは、入り口近くに空いている席に座った。


映画が始った。

後で感想文を書かないといけないのに、トウジは寝てしまった。


僕はアスカにどう切り出せばいいか考えていた。

無論、映画なんか頭に入るわけない。

***************************************

そのころアスカは、

以前、アメリカで見た事がある映画だったので詰まらなかった。


立ち上るアスカに向って

ヒカリ:アスカ何処行くの?

アスカ:用足しよ。


アスカは入口に向った。

入口近くの席にはトウジとシンジがいて、

トウジは熟睡中。

シンジと目が合った。

アスカはプイと横を向いて扉の外に出た。

***************************************

僕    :な・・・・


アスカが外に出てしばらくすると、映画館が揺れた。

使徒・・・


3分後、警報ベルが鳴りアナウンスが流れた。

放送  :火災発生です。

        速やかに非常口へ向ってください。


僕達は外に出た。


映画館から300m離れた公園に全生徒が集った。


先生が点呼を取り始めた。


僕の隣にはトウジがいる。

少し離れた所に綾波と洞木さんがいる。

アスカは・・どこ?

僕は辺りを見渡した。

見当らない。


綾波と洞木さんが傍に来た。

洞木さんが心配そうに

洞木  :アスカが見当らないんだけど。


トウジがクラス担任から情報を貰って来た。

トウジ:惣流だけが見当らんみたいやで。

        なんでも50tonトレーラーが、

        映画館のトイレのある方に突っ込んだそうや。

洞木さんが両手を口元に持って行き真青な顔をして

洞木  :どうしよう、アスカ、トイレに行ったの!!


サイレンの音がした、

音の鳴る方角を見ると、映画館から炎が轟々と上がっているのが見えた。

トウジ:ヤバイんとちゃうか?


僕達は映画館に向って走った。

途中、生活指導員に綾波と洞木さんが捕まった。

僕とトウジは制止を振り切り、映画館に向って走った。


映画館には消防車が5台と化学消防車が2台。


もの凄い・・

劫火の如く炎が上がる。

トウジ:ほんまにやばいで・・


僕は炎を見ながら震えていた。

どうしよう、どうしよう・・・

僕は無意識のうちに炎の中の映画館に飛び込んだ。

トウジの叫び声が微かに聞えた。

中は灼熱地獄。


隊員:何やってるんだ。

      早く出なさい。

僕は柱に貼ってある映画館内部の見取図で、トイレの場所を確認すると、

消防隊員の制止を振り切り、白い煙の漂う廊下を走った。

隊員  :バカな!!!

        学生が廊下に行った!

        放水しろ!!!!

放水された水が僕にかかった。

僕の体は全身水浸しになったが、おかげで服が燃える事はなくなった。


途中、煙の中を床を這いつくばってトイレに向った。

トイレの前の廊下は瓦礫の山だった。

きな臭い匂いが辺りを漂っている。


僕    :アスカ!アスカ!アスカ!アスカ!アスカ!アスカ!

僕はありったけの声を上げて叫んだ。

煙の中、アスカの声がした。

アスカ:ここ・・


床にしゃがみ、目を煙の中に凝らすと、

アスカが自動販売機の下敷になっているのが見えた。

重たい自動販売を少し浮かせて、アスカを引っ張り出した。

僕    :アスカ、大丈夫?

アスカ:馬鹿!

        何やってんのよ!

        何で逃げないのよ!

アスカの顔は痛みで引き攣っていた。


僕はアスカを壁に凭(もた)せ掛けた。

アスカの足が紫色に染まり腫れていたので、足を触りながら

僕    :骨が大丈夫か見るから、痛い所を言って!

アスカ:全部痛い!

とわめきながら僕の頭を叩いた。

僕    :骨は大丈夫みたいだよ。

        でも捻挫してると思うけど。


アスカ:シンジ!!!後ろ!!

振り向くと壁が崩れてきた。

僕は無意識のうちにアスカを庇った。


気がつくとアスカが泣いていた。

辺りは粉塵が舞っていた。


僕   :アスカ、大丈夫?

下半身が痺れて動けない。

見ると、瓦礫が僕の腰から下に堆積していた。

僕は体を引き出そうとしたが、痺れていて体がいう事を利いてくれない。


煙も充満してきた、

腕も痺れてきた、

このままじゃ2人とも助からない。

僕    :アスカ、逃げて。

        火が回っちゃうよ。

アスカ:バカ!なんで来たのよ。

僕はアスカを失いたくない、失うぐらいなら死んでもいい。

僕    :・・アスカが心配だもの。

        アスカ、ごめん。

        アスカに他の人と付き合って欲しくないんだ。

        そんなの耐えられないんだ。

アスカ:バカ!

        こんな時に何言ってるのよ。


アスカは僕に伸し掛る瓦礫を、泣きながら退けている。

僕    :僕の気持、知っておいて欲しいんだ。

        ・・だから、逃げて!

アスカ:もういい。

        解ったから黙ってて。

***************************************

アスカは、瓦礫の下から多量の血が流れて来るのが見えた。

真赤な海が広がっていた・・・


地盤が揺れた。

アスカは反動で転げて壁にもたれついた。

その瞬間、天井が崩れて大量の瓦礫と骨材が、シンジの上に振り落ちた。

辺り一面、真っ白になった。

アスカの視界はシンジを見失った。

アスカ:シ、シンジ!!

アスカの声は震えていた。

シンジからの返事がない。

アスカの顔が蒼白になった。

瓦礫は既にシンジの体を覆っていた。


アスカは粉塵の降り積る中、瓦礫を退けようとしたが、

既に手の爪が剥げて血だらけで、瓦礫をまともに持つ事も出来なかった。

アスカ:嫌だ、シンジ死んじゃ嫌だ、

        まだ、シンジに好きって言ってないのに、

        嫌だ、嫌だ、お願い返事をして、

        私を一人にしないで、シンジ・・・

アスカは噎(むせ)び泣いた。

瓦礫と煙の充満する廊下に、アスカの絶叫は、空しく吸収された。

/* 映画館 risk one's life to deal with the critical situation. */

次回、涙

目次に戻る