書いた人 秋月 和至
2020年 3月1日
“最後の決断”より5年。シンジとアスカはミサトの元を離れ、同棲生活を始めていた。もちろん、らぶらぶな関係なのですが………同棲生活も、もうすぐ1年。
これはそんなある日の出来事………………。
アスカが投げつけた枕は、きれいに裂け、羽を撒き散らす。そして、激しく扉の閉まる音。
何度も喧嘩はしてきた。家を飛び出すのはアスカの意志表示。シンジに構って欲しいから。
だが、今夜はいつもと勝手が違った。理由はアスカの手の中にある。
(バカ、バカ、バカ、バカ。シンジのバカ!…人の気も知らないで!………………でも一番バカは私かも………。)
アスカの手の中には銀色のプレート型液晶目覚まし時計。“実は生きていた!”霧島マナから、シンジに送られて来たもの。
あの事件←(わからない人は鋼鉄のガールフレンドやって下さい。お願いします。)から一ヶ月後、シンジに小包が送られて来た。中身は時計とメッセージカード。アスカは、そのメッセージカードに何が書かれていたのか知らない。でもその日、シンジが部屋から出てこなかった。時折聞こえるシンジの嗚咽が私を苦しめた。だからこの時計は嫌いだった。
アスカは家を飛び出したときは、いつも同じ公園に行く。今日もそこに向かう。
シンジを待つために。
アスカが飛び出した部屋に残されたシンジは………
枕が裂け、中身の羽が飛び散った部屋で佇んでいた。やがて顔を上げ、アスカの後を追いかけた。部屋に散らばる羽根が勢いよく舞い上がる。
(あの公園に違いない。)
シンジは駆け出した。服や髪に付いた羽根を撒き散らして。道路にはアスカとシンジ落としていった、羽根が風になびいていた。
アスカは公園のベンチに座る。時計は相変わらず手の中。朝の日差しが木々の間から優しく照らす。
(シンジ……なんで、あの女から貰った時計をずっと使ってるの。私のあげた腕
時計は滅多にしないのに。)
少々問題の観点はずれているが、アスカのシンジを想う気持ちは間違いなく愛だと言えよう。
だが、アスカは、この時計を見る度に、引っ越す時大事そうに時計をしまうシンジの顔を思い出す。一緒に住もうと言ってくれた時も、引越した後も、何度この目覚ましを使うなと言っても、ずっと使うのをシンジはやめなかった。頑なにそれだけは拒み続けた。
だからだろうか、突然あの霧島マナが現れて、シンジを自分から奪い去るのではないか?シンジの心は5年たった今でも霧島マナを忘れられない?など次からから次と嫌な事を考える。アスカはそんな自分が嫌になった。公園に一人で居るのが酷く寂しかった。
(シンジ、早く探しに来てよ………………)
(アスカ、アスカ、アスカ、アスカ!)
シンジは心の中で愛する人の名を連呼していた。冷静になればなるほど、今日のアスカはおかしかった。
(そう、アスカがあの時計を、ずっと気にしていたのはわかってた。なぜ今もマナから貰った時計をずっと使ってるか教えてなかった。最初は、アスカに嫉妬して欲しい僕の意地悪だった。でも本当は…………………。)
5年前のあの日、シンジはマナから送られて来た小包をひも解く。中には正確に時を刻む時計と、二つ折りになってある、メッセージカード。
“この時計の時が進めば進むほど私はシンジを忘れていきます。裏切り者、嫌な女だと罵ってくれても構いません。でもこれだけはわかって。私はアスカさんに負けないほどシンジが好きです。それでも最後にシンジはアスカさんを選ぶでしょう。だから思い出が奇麗なうちに、身を引きます。もし私を許してくれるなら…アスカさんの想いに気づいてあげて。”
p.s.時計の中の写真あげます。
シンジは、慌てて時計の裏蓋を見た。四隅を止めているネジの一本が外れていた。
慎重にそれを両手で左右に広げて、中身を上から覗き込む。
中には一枚の写真。シンジは時計を逆さまにし、写真を振り落とす。
足もとに落ちた写真を拾う。シンジは少し複雑な笑みを浮かべる。そして、写真を時計の中に戻した。でないと涙が溢れそうだった。そして、さっきから襖のわずかな隙間から覗き込んでるアスカに、心配をかけたくなかったから。
滑るように公園に駆け込むシンジ。
「アスカ!」
シンジは、ベンチ座るアスカを見つける。アスカの元へ駆け寄ろうとするが、あと十メートルほど手前で足を止めた。それは、アスカの姿が、迷子の子供の様にはかなく頼り無いものだったから。
「アスカ。」
シンジの優しい声が風に乗る。
アスカはハッとなって、顔を上げる。一瞬だけパッと笑顔になるが、すぐにうつむいてしまった。
「アスカ、あの、じ、実は…………」
シンジを遮って、
「シンジ。」
アスカはすっとベンチから立ち上がって。他人行儀みたいにお辞儀をしてみせた。
呆気にとられるシンジ。
「ねえ、シンジ。わたしは、あんたの何?」
「………………恋人。大好きな人。何者にも代え難い愛するひと。」
真っ直ぐな瞳でアスカを見つめるシンジ。
「だったら、だったらなんで、この時計、わかってるんでしょ。わたしの気持ち。」
顔を上げるアスカ。蒼い瞳が揺れている。
「だったら、その時計捨てるよ。今ここで。」
抑揚のない言葉を放つシンジ。今度はアスカが呆気にとられる。
「シンジ、あんた何言ってるかわかってんの!?この時計あたしが何度使うのを止めてって、言っても。一緒に暮らす事になった時も。そう、今朝だって…………大事にしてたじゃない、なのにシンジ。」
こらえきれないアスカの気持ちと涙が溢れ出す。
「もういいんだ、アスカ。君をそんなに苦しめてるなら、そんな物僕は要らない。
アスカを泣かせるぐらいなら、時計なんか無くなってしまえばいい。」
シンジは一気に駆け寄りアスカを抱き寄せる。アスカは一瞬何が起こったか理解できず、瞳を瞬かせた。
「ごめんね、アスカ。もう二度と泣かせたりしない。」
シンジがアスカの耳元でささやく。熱を帯びたシンジの吐息に、赤面してしまうアスカ。
「シンジ……」
アスカは両腕をシンジの背中にまわし、シンジに答える。アスカは顔をあげ、シンジとみつめあう。シンジの瞳にはアスカが、アスカの瞳にはシンジが、お互いはっきり解るくらい近づいて……………………
「ん?」
シンジは予想とは違う感触が唇に触れる。
「ば〜か。あたしの唇は安くないのよ。」
シンジは時計に口付けしていた。慌てて飛びのくシンジ。
「あ、アスカ。何するんだよ。せっかく…」
アスカとのキスなのに。とはシンジは言えなかった。
「ん?せっかく、どうしたのかな?シンちゃん。」
ニヤニヤと意地悪く笑うアスカ。
(わかってるくせに。)
苦笑いを浮かべ、心の中でため息を吐くシンジ。
「シンジ。本当に捨てちゃっていいの?後悔しない?」
さっきシンジが飛びのいたせいで、3歩ほどの距離がアスカとの距離ができた。
「うん。後悔しない。って、ちょっとまって。」
慌ててアスカから時計を奪い獲るシンジ。あまりの素早さに唖然となるアスカ。
シンジは後ろを向いたまま、何故かしきりに時計を揺すったりしている。
(あ、怪しい。怪しすぎる。)
アスカは、シンジの後ろ姿に、疑惑の眼差しを向ける。
「ごめん。もういいよ。」
シンジは出来る限り平静を装ったが、振り向き様にジーンズのポケット仕舞い込んだ左手が、怪しすぎた。
「まあ、いいけどね。」
つぶやくアスカ。
「ん、なに?」
シンジは小首をかしげさわやかな笑み。さすがにアスカもこの笑顔にはクラッときた。
「いいから、時計かして!」
シンジの返事よりも早く時計を掠め取るアスカ。顔はもちろん耳まで真っ赤だった。そして次の瞬間。
「とんでけー!!」
アスカは力いっぱい腕を振り上げた。時計は朝の光を二、三度照り返し、いやに美しい放物線を描き公園のごみ箱に吸い込まれる。
それを誰かを見送るような笑みで見ていたアスカに、シンジは胸が痛かった。
もうすぐ日の光が真上から降り注ごうとしている。ベンチに座り他愛もないことを話すアスカとシンジ。
(やっぱり気になる。どーしても気になる。)
アスカは身を乗り出して、
「シンジ、さっき隠した物見せて!」
「えっ。う〜ん、いいよ。」
シンジは少し躊躇したが、アスカにポケットの中身を取り出す。
「これって…………。」
「そう、中学生のころの僕たち。二人とも楽しそうにわらってるんだ。」
「でもなんでこんな写真が、時計の間に挟まってんのよ。」
「それは、マナから貰ったんだ。時計の中に最初から入ってた。あの時計実は写真たてにもなってて、半分に切れたこの写真がはいってたんだ。」
「半分って」
「この写真僕とアスカのところで半分に切れてたんだ。それを僕がラミネート加工して直したんだけど……」
「なんで、あの子この写真を持ってて、しかも、シンジとわたしのところで切ってるのよ!」
シンジを、まくしたてるアスカ。
「たぶん、アスカに嫉妬じゃないかな。僕と一緒にいたのは、アスカが一番多かった訳だし。」
「……………まあ、それはシンジが、あの頃からわたしの事好きだったから仕方なかったけど。」
髪をサッとかきあげるアスカ。
(それは、逆だったんじゃ……。)
その言葉を飲みこむシンジ。
「なんか、言いたそうね。」
「別に…………。」
顔をそらすシンジ。
「ところで、なんで写真が入ってること黙ってたのよ。隠し事はしないって言ってたんじゃなかったっけ、シンジ。」
「あの頃は、アスカとこんな関係になれるとは、思ってなかったし、ちょっとアスカにやきもちやいて欲しかった、ってのもある。でも……」
「でも………」
「今は、アスカと喧嘩するたび、これを見て、アスカをこの写真のように笑わせられるかって事についてまだまだ努力不足だなって思う。」
シンジは照れてうつむく。
「だから、アスカをいつも笑顔でいられる様にできたら、この写真を見せようっておもってた。」
「でも、そんなところに入れとかなくても。」
アスカも、照れてうつむく。
「この中は、絶対アスカに見つからないと、思ってたからね。いくらアスカでもこれだけは、僕のいない間に捨てる事ないだろ。」
「シンジ、その根拠は。」
「あの日、アスカは僕の部屋を覗いてただろ。気づいてないとおもってた?」
アスカの顔が火が点いたように赤くなる。
「あたし、帰る!」
アスカは立ち上がってスタスタと歩きだした。
「ちょっ、ちょっと、待ってよ!」
慌ててシンジが後を追う。
「待たない。自分にやきもちやいてたなんて、バカみたい!」
「一緒に帰ろうよ。」
肩をいからせ歩くアスカと、情けなく後を歩くシンジ。
「部屋の掃除も、今日の夕飯も全部僕がやるからさぁ」
「じゃあ、明日は。」
「僕がやります。」
アスカはくるっと振り返り。やさしく微笑む。
「じゃあ、一緒にかえろ。帰ったらマナから貰ったメッセージカードの事も聞かせてもらうわ。」
「そんな、ひどいよアスカ。」
「わたしを泣かした報いよ。」
走り出すアスカ、シンジも走り出す。
アスカの髪に残っていた枕の羽が風に舞う。
シンジはその姿を見て強く思った。
〜
春の柔らかい日差しが、二人を照らしていた。
後書き
はじめまして、秋月
和至と申します。初投稿です。パソコンで、文章書くのがこれほど大変とは知らなかった。
舞台設定は映画の後の世界となってます。
冒頭の“最後の決断”とは、シンジが人のかたちで、生きることを選ぶという事をさしてます。
この『どうしようもない僕に天使が降りてきた』ですが、同名の歌がありましてその内容を自分なりに解釈しアスカ×シンジにのっけてみたんですが……。
この曲を知ってる人には、タイトルだけでオチまでばれたと思います。
でも僕自身、この曲の内容で、アスカ×シンジを書きたかったんです。
僕の中で曲のイメージが二人にぴったりだったんで。
あまりこう、書きたいことが上手くまとまらず、思考錯誤しながら書いたので読んだ方にイメージが上手く伝わるかどうか、不安でいっぱいです。
まだまだ勉強不足なので、これからも精進していきます。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。