「ZOIDS STORY IF」

エヴァでゾイド

 

 

シャワー室 ノズルから出る湯 乳白色の壁と床のタイル

身長と顔つきから十二,三歳と思われる少年が一人

引き締まりバランスのとれた体を打つ湯の音

 

「クッ! 」

 

ドン!

 

右頬に紅い刺青のある、まだ幼いが秀麗な顔は険しくゆがみ 彼は強く壁を殴りつけた。

うつむいたままの彼を湯煙が覆う。

しばらくの間、湯煙の向こうに水の撃つ音が流れた。

 

三十分ぐらいたっただろうか?

少年はシャワールームから出てくると置いてあったバスタオルでおざなりに体を吹き

手早く動きやすそうな黒を基調とした衣服を身に着けた。

長く艶やかな黒髪はまだ乾いておらず

雫が肩に落ちるのもまるで気に求めず脱衣所を出て行く。

 

「あ! ようやく出てきたね」

 

一回だけ曲がったところで出る通路 そこに蒼い髪の、多分一つか二つ下の少年がいた。

綺麗な顔立ちだが、どこか生気が無く表情に嘘がある。

大きなルビーの瞳でまっすぐこっちを見つめている。

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

スタスタスタスタ・・・・・・・・・・・・・・

 

「ちょっと! 待ちなよ君!! 」

 

スタスタスタスタスタ・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「ああもう! 」

 

しかし、黒髪の少年は一瞥をくれると 興味が無いらしくそのまま立ち去ろうとする。

呼び止めても振り返りもしないので、額に大きく丸い刺青のある少年も後を追って歩き出す。

身長のさもあるが、歩幅もペースもまるで違うため、蒼い髪の少年はとうとう小走りに駆け寄る。

 

「きみねぇ、人が話し掛けてるんだかチャントとまって話し聞きなよ」

「・・・・・・・・・・・・・邪魔なガキだな・・・・」

「ガキ!? 君だってたいして変わらないじゃないか・・・て、待てってば!」

「・・・・なんだ」

 

そのまま追い抜いて前に立ち

ちょっと怒ったのか顔を近づけていいつのる蒼い髪の少年に黒髪の少年はめんどくさそうにたずねた。

 

「どこに行くんだい? シンジ」

「関係無いだろ」

 

ふあたびその横をすり抜けるようにしてシンジは歩き出す。

蒼い髪の少年は今度は少し後ろからついて歩き出す。

「まぁ、関係は無いけどね、でも君のゾイドはボロボロで到底まだ出れないよ」

「別に、他ので出ればいい」

「でも、ゲンドウも死んだみたいなんだけどなぁ〜」

 

紅の瞳を楽しそうに揺らめかせながら言ったさりげない一言に

黒髪の少年・シンジは驚いて立ち止まり、降りかえる。

驚き目を見開いていた。

 

「だから、これからどこに行くにしても、君は多分反逆者の協力者、反乱分子ってことになる」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「多分ジェノザウラーも取り上げられるんじゃないかなぁ」

「――――――なにが言いたい? 」

 

目の前の得体の知れない少年を警戒しながら尋ねるシンジ

服装からは女、男どちらでもとれそうだが男の子にしては少し華奢過ぎる

女の子にしてはまるでそれらしいところが無い上、一人称も『ボク』だ。

 

「だから、ボクについてこないかい? ボクの名前はレイ。多分楽しいと思うよ」

 

少年(?)はそう言ってくすくす笑っていた。

 

 

 

 

 

「―――――――――しかし、お前口数が多いな、男の癖に」

「なんだって? 」

「男の癖に口数が多いと言ったのだ」

「だ、だ、だ、誰が男だって!?」

「お前」

「ボクは女だ!!」

 

そう言われてもシンジは信じられなかった。

 

「お前がか?」

「どういう意味だい、それは? 」

「いや、見えない」

「――――――――そうかい。そんなに言うんなら見せてやる」

「お、おい!? 」

「付いてきなよ」

まったく信じていないシンジの正直な発言に腹を立てたレイは

ちょうど通りかかったレストルームにシンジを引っ張っていく。

 

「おい、貴様やめろ! 待てって・・・・・・・」

 

何故か振りほどくことの出来なかったシンジを引っ張っていたレイが向かったのは、女性用のほうだった。

レイの怒りを耐えたような笑いが怖かった。

 

 

 

 

 

しばらくして、シンジは顔を真っ赤にして服と髪が乱れ

何故かレイが満足したような顔つきで出てきた。

 

 

 

 

 

プロローグ

敗北・屈辱・共闘

 

 

 

 

「今更エヴァと合体したところで間に合うものかっ! これであの世に送ってやる」

「ブレードは荷電粒子砲に耐えたのだもの。一かバチかっ! 」

 

ナオコ准将率いる部隊に強襲を受けたルドルフ達を助けるために

デスザウラーの復活を行っていた研究所から街へ急いでいたアスカとマユミ

そこにシンジが駆るジェノザウラーが現れ、今まさに決着がつこうとしていた。

 

「死ねぇ!! 」

 

すでに満身創痍ながら紅いブレードライガーをハイパーキラークローで捕まえ

至近距離からの荷電粒子砲を浴びせるシンジ

しかし

 

「ウォォォォォォォォ!! 」

「なにっ! 」

 

ブレードの特殊な振動派とEシールドぼ併用で完全に荷電粒子砲を耐え

ジリジリと距離を詰めるブレードライガー

そのブレードの切っ先がジェノザウラー口部に届こうとしたそのとき

 

「ウァァァァァァァァァ!? 」

 

戦場に出てから初めて、恐怖に引きつった叫び声を挙げたシンジは

とっさにストライククローを一挙に蒔き戻し

片手の力でシールドライガーを投げ飛ばす。

ブレードによって荷電ジェノザウラーの口の一部と粒子砲が切り裂かれ

恐怖に引きつった表情のまま、シンジはこれまでの記憶に無い行為

プライドもなにもかなぐり捨てて逃走に移った。

ジェノブザウラーの手には、少し前に折ったライガーのブレードが握られていた。

 

「ぐっ、! クソ、待ちなさいシンジ! 」

「アスカさん待ってください! 今は一刻も速くルドルフ達を助けに行かないと 」

「チッ! こんなチャンス二度とこないかもしれないのに」

 

後にはエヴァ・ジークとマユミの力によって完全な姿に回復したブレードライガーが、アスカたちとともに残された。

 

 

 

 

 

場面をつぶさに説明して見せる妖しい美少年、もとい美少女レイ

一方のシンジは平静を装うものの握り締められて手からは血が滲む。

正直思い出しただけでも眼が眩むほどの屈辱だ。

二人はまた歩き出し、今度はレイが前にでて先導している。

この話しが始まってからは二人の様子がまったくかわってきたのだ。

 

「それで、結局君はジェノザウラーの整備の為にこの研究所に戻ってきた」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「ほっといても折れた足や斬り飛ばされたパルスレイザー砲、なにより主武装の荷電粒子砲は治らないからねぇ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「あら、だんまりかい? まぁ、いいや」

 

レイはからかうような瞳で黙り込んだシンジの顔を覗きこむ。

が、シンジは大した反応も見せずに止まったままだ。

 

「せっかくゲンドウにブレードライガーのブレードの特性・荷電粒子砲を拡散させる性質を話そうと思ったんだろうけど、おあいにく様」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにがだ? 」

「時すでに遅くゲンドウはデスザウラーと共にお亡くなりになったのさ」

「デスザウラー? 」

「そ、死と破壊をもたらす古の最強ゾイド。君のジェノザウラーもその復活作業の仮定で偶然出来た代物さ」

「・・・・ほう? 」

「知らなかったの?」

「ゾイドは使えればそれでいい」

 

そう、シンジにとってゾイドの出自などどうでも言い。

ただ、使えるか否かが問題なのだ。

しかし

 

「ま、淡白だね。まぁ、ゾイド嫌いの君なら当然かな? 」

「それより、その最強ゾイドとやらを使ってもゲンドウは負けたのか?」

「そ、敗因は君と同じブレードライガー。もともと大して腕の無いゲンドウはデスザウラーに半ば意識をのっとられたんだけどね」

「馬鹿だな」

「まぁね、油断しているところに帝国・共和国双方から総攻撃を浴びて、身動き取れないところでシールドとブレードを併用したブレードライガーに荷電粒子砲を破られ負けたのさ」

「そうか・・・・・」

「あれ? もしかして君悲しんでるのかい? そんな感情が君にあるとは驚きだな」

 

話しを聞いてどことなく沈んだ様子なシンジに、レイは大げさに驚いて見せる。

一方のシンジは・・・・・

 

「それで、一緒に来いとはどういう意味だ? 」

「あ、それ? そんな訳でゲンドウは死亡、皇太子ルドルフが即位。そして君は反逆者で戦犯。ここにいたらつかまるよ」

「奴らに僕が捕まえられるものか」

「まぁ君なら逃げられるだろうけど、ボロボロのジェノザウラーはどうするのさ? まだ使うでしょ」

「ぐっ、」

「だから、ボクが用意したホエールキングでジェノザウラーと研究資料ごとここから脱出するのさ」

 

そして目の前の扉を開くレイ

 

 

ゴーーーーーーーーー!!

 

 

風の音、そして巨大なエンジン音が響いてくる。

 

 

 

この研究所のある基地の空港でありホエールキングの巨体があり

続々とゾイドや研究資料が詰め込まれ始めている。

 

「ああ、やってるやってる。中々仕事が速いじゃないか」

「すでに準備を始めていたのか・・・・・」

「そうだよ。君の説得を待っていたら間に合わなくなりそうだからね」

 

レイは悪びれも無く答える。 ここで、シンジは決意した。

 

「いいだろう、お前に付いて行く、だが」

「だが? 」

「お前の黒幕が知りたい。お前は誰の命令で動いている? だれがこの指揮を取っているんだ? 」

「あ、ボクが誰に命令されてこんなことをしているかってことだね。それは違う」

「なんだと?」

「これはボクがやりたいからやってるだけ。ホエールキングはかっぱらってきたんだ」

「それで、この部隊の指揮を取っているのは? 」

「あぁ。それはアレ」

 

レイが指差すところには、軍服に身を固めた妙齢の美女がいた。

 

「赤城准将か・・・よくまだ生きてるな」

 

赤木ナオコ

武門の名家赤城一族の中で唯一ゲンドウになびいていた女将軍

一方娘のリツコは良くて中立

あるいは反対派だった。

 

「そ、彼女ルドルフを支援しに来た共和国軍にズタボロに負けて自分の乗機のアイアンコングを破壊され気絶してたのを拾ったんだ」

「いや、あの女のことだからゲンドウが死ねば殉死ぐらいすると思っていたが」

 

シンジはよく知っている金髪の美女が指示を下している様子をみて不思議に思った。

 

殉死もせず、そしてあまりに溌剌というかキビキビしていて迷いも戸惑いも無い。

首をかしげるシンジを得意そうにみながら笑うレイ

 

「ん、それはちょっとね」

「なんだ? 」

「ま、これは内緒だよ。それより君には乗ってもらいたいゾイドがあるんだ」

 

レイはいかにもなにかあるといった様子でごまかすと

そのままシンジを空港の目的の場所に連れて行く。

腕を引っ張られながら、シンジはなぜ自分がコイツに振り回されねばならないのだろうと、理不尽に思っていた。

 

「これだよ。このゾイド」

「これは・・・・・・・・」

 

作業を続けるホエールキングの脇、レイに案内された場所 そこにはシンジの見たことの無い一つの飛行ゾイドがあった。

 

「ストームソーダ、共和国がレドーラに対抗するためエヴァシステムを応用して開発した最新鋭のゾイドだよ」

「どうやって手に入れた」

「ナイショ、まぁ今のところ空中戦では最強かな? 」

「ほう・・・・・・・」

「帝国のホエールキングだけじゃぁ帝国・共和国両空軍の攻撃を支えきれるか心もとないからね」

「お前は乗らないのか? お前もゾイドに乗るのだろう? 」

 

得意そうに話すレイに、シンジは先ほどから感じていた疑問をぶつける。

 

「どうしてそう思ったんだい? 」

「お前のゾイドを見る目、説明、どれもゾイドをよく知っている、しかも熟練というほど乗ったことのある者のものだ」

「ふ〜ん、思ったよりずっと鋭いんだね、誉めてあげるよ」

 

レイの様子が変わっていく どこかうそ臭い表情が消えて危険な微笑が宿り

その華奢な体からはっする狂気に近い感情が毒々しく美しく彩る。

たぶん、これも本性の一つなんだろう。

 

「いらん」

「そう、ボクも今回ゾイドで出るのさ。ボクが乗るのはアレ」

「なんだ、サラマンダーか。落とされに行くのか? 」

「別に、単に君にエヴァの使い方について少し教えてあげようとともって、まぁ見てろよ」

 

いいながら、レイはサラマンダーに近づいていく。

それは、戦闘用の飛空ゾイドにしては随分巨大で、その小回りの利かないことから最前線のゾイドからはずされたものだ。

しかも、後から取り付けられたらしく空対空と対地ミサイルだろうか、八連装のミサイルポットが胴体に四つも付いていて重そうだ。

おまけに背中についているあの巨大で不恰好なパーツはなんだ?

 

そんなものを何故? 

 

そんなシンジの心中を性格に読み取ったレイはタラップを上りながらシンジに話し掛ける。

 

「ちょうどいいんだ。この古いゾイドで、君のエヴァの使い方がいかになっちゃいないか教えてあげるよ」

「何!? 」

「スペキュラーーー!!!」

 

レイの叫びと共にどこからか彼女の髪と同じ真っ青な色のエヴァが飛んできてサラマンダーに融合する。

すると、サラマンダーは翼を大きく広げ、全体が淡い蒼に染まっていく。

翼に左右二門付いた回転式ビーム砲座は六連装のものにかわり

寸胴だった胴体はすっと引き締まり幾つかのノズルとエンジンが付け加えられ

地面に降り立つ脚がはるかに立派なものに変わる。

空対空ミサイル対地ミサイルポットも今はもとからそこにあったかのようなし全差で胴体の脇についている。

背中のパーツも、今は完全に機体の一部としてしっくりときている。

 

「これでこのサラマンダーはマッハ3をだせるし、小回りがきいてしかも強力なE・シールドが張れる」

「ほう・・・・」

「ボクのエヴァ・スペキュラーはゾイドのコアに眠る潜在的な戦闘能力を限界以上に引き出せるんだ。エヴァにはそんな使い方もある」

「フンっ! 」

「君がシャドーをただの戦闘のサポートにしか使わないから態々教えてあげたんだよ」

「それはそれは、ありがたいことで」

「君って長くしゃべれるのは嫌味だけかい? 」

 

レイはせっかくエヴァの可能性を教えたのに、まったくおざなりにしか聞いてないシンジに腹を立てる。

そんな時

 

 

ウ――――――――――――――ッ!!  ウ―――――――――――――――っ!!!

 

 

基地に警報が響き渡る。

 

「どうやらさっそく敵がかぎつけて着たみたいだね。君も・・・・・て、いないし!!」

 

サラマンダーを見上げながら話すレイが振り向くと、すでに底にシンジはいなかった。

 

「まったく人のは話しは聞くものだよ、シンジ。でも君といいれば楽しそうだ」

 

レイは無邪気にたのしそうに笑う。 そして急に眉を寄せ

 

「絶対カヲルのところには戻ってやんないんだから!! 」

 

天高く叫ぶレイ 喧嘩でもしてきたのだろうか? 

 

 

 

 

 

 

「ゲンドウ、死んだのか・・・・・・・・・」

 

自分の名目上の保護者の死を考えてみるシンジ

シンジはレイのことはほっておいて、先ほどのストームソーダでさっそく出ようとしていた。

すでにコクピットに乗りこみ装備などを確かめる。

機械的に発進準備と装備の把握をしながら、ゲンドウのことを思い出していた。

 

特別愛情があったわけではない。

自分を引き取ろうとしたダンとかいう男を殺したのもやつだ。

だが、その後引き取ったのも戦う術とゾイド、そしてシャドーをくれたのもコレまで保護してくれたのもゲンドウだった。

 

「馬鹿なやつだ・・・・・・・・」

 

短い間、シンジはその死を傷むためにか? 

静かに目を閉じる。

そして、開いた瞬間、力強く叫んだ。

 

「シャドー――――っ!!」

 

黒いエヴァがストームソーダに融合する。

新たな主の名前の通り、漆黒の鳥は凄まじい加速で飛び立った。

 

 

 

(つづく)

 

 




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