マウント・ブルー

 

広大な峡谷、レアヘルツ・バレーのある山岳地帯の一角

ウィンドコロニーとは反対方向の、大半が氷に閉ざされた高く広い山

ここにも下界からは認知されていない、コロニーが存在した。

ヤギなの放牧と充実した設備を利用した穀物や野菜の栽培で生活を続ける、嘗て存在した国の、末裔達の隠れ里

光学迷彩によって上空からはただの氷の谷間にしか見えないそこに、逃避行を続けていたシンジ達は到着した。

そんな、極寒の地

夜な夜なシンジは防寒具を身につけるとまたコロニーの外に出る。

地熱の恩恵で比較的暖かいコロニー周辺を離れ、何故か谷の尾根に向かう彼を、レイはまた付いて行くのだった。

共に己のエヴァを従えて

レイは、どこか孤高のシンジに感じるものがあって彼を気にかけていた。

さそれは寂しさからきたものかもしれない。

自分では気付いてはいなかったが

 

 

 

 

 

ZOIDS STORY IF

第9話

その2

 

 

 

 

 

 

自分達が止まりこんでいる民家を飛び出し

雪の降りしきる中、他人には無い闇を見通す紅い瞳でシンジの姿を探す。

しかし、見当たらない

 

「なんで、こんなに早いかな。この降り積もり降りしきる雪の中で」

グゥオ!!(私ジが追おうか?)

「頼むよ、スペキュラー」

 

すでにかなり離れているので、さらに鋭い感覚を持つ、己のエヴァ・スペキュラーに頼むことにした。

しかし、コロニーを外れたところから、次第に深く積もった雪に脚を取られ始める。

 

(こっちよ)

「ん、分かった、っと」

(大丈夫?)

「大丈夫だよ、このぐらい………」

 

くるぶしまで雪に埋まってしまい、思う様に前に進めないレイ

十三程度の彼女にはきつい道行きだ。

 

(乗って、私が歩くから)

「え、スペキュエラー、いいよ。シンジだって歩いてるんだし、僕にも出来るさ」

(無理ね)

「ぐっ!でも、跳んじゃダメだからね、静かに歩いて行くんだよ」

(静かに行っても、あっちにもシャドーがいるからばれるわよ)

「いいの!気付かれないわけ無いけど、でも雰囲気壊したくないから」

(はいはい)

 

結局スペキュラーに背負われて、一人と一匹の足跡を追い始めた。

 

『ねぇ、僕は君の側にいていいかい?』

 

レイの心にそんな言葉がよぎる。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

シンジは尾根に立ち、空を眺めていた。

未だ雪はチラチラと降りつづけている

しかし、幾分その勢いは弱まり、余り空を覆っていない雲の向うに星が

なにより、月が、この銀で覆われた山を照らす

蒼銀の輝きの中、シンジはただ、夜空を眺めている。

 

「あの星の海の向うに………か」

 

星を眺めて思い浮かぶのは、ホトンド覚えていない母のこと

遠い記憶の彼方

まるで思い出せない霧の向うに、ただその情景だけが浮かんでは消えるのだ。

 

(シンジ………………)

 

何時もの鋭気に満ちた、黒く美しい獣の如き彼の姿からは想像も出来ないほど

その後姿は儚げで、そんな主人をエヴァ・シャドーは気遣う。

 

「大丈夫さ、シャドー」

 

何時もより柔らかい返事

 

(………………………)

 

しかし、それが余計にシャドーを不安にさせる。

何時もならそもそも返事などしないか、いらぬ気遣いだとばかり機嫌を悪くするのだ。

この気高い黒獣、彼の主人は

それが、未だ嫌悪を感じているだろう自分に優しく語り掛けるなど

 

シャドーは彼が毎夜ここに来るたびに、その姿に気が気で無かった。

 

 

 

 

 

 

(シンジを見つけたわよ)

「ホント?どこどこ?」

(あの尾根の上)

 

しばらく進んで、すでに人の目では足跡が判別つかないくらい

ゆっくり積もる雪がそれを隠した頃

ようやく、スペキュラーが目的の人物を発見した。

 

「ん〜、やっぱ見えないね、僕には」

(それはしょうがないわ、ただの人間よりは目が良くて夜目が利いても、距離あるもの)

「しかし、よくここまで来れたね、やっぱり歩いてる」

(ええ)

「どんな脚してるんだろ?」

 

まったく前に進まなかったレイとしては極めて疑問だ。

 

(ところでシャドーすでに気付いてるわよ、特に主人に注意するわけでもないけど)

「そ、じゃぁそのまま進んでよ」

(ええ)

「ちょっとからかってやろうよ。なんでこんなところにいるのかって」

(はいはい)

 

確実な足取りで、レイを乗せたスペキュラーは尾根を登っていく

 

『何をしてるんだい?そんなところで』

 

ただ、気になる、シンジのことが

だから聞きたい、様々なことを

 

そして、話したい

 

 

 

 

 

 

その少し前

困惑していたシャドーの

そのエヴァ特有の極めて広い知覚範囲に接近するものを発見した。

 

自分と同じエヴァと子供一人

 

(レイ、あなたに任せることにします)

 

普段なら余り近づけたくない、未だ得体の知れない相手だが

しかし、このときはそれにすがるしかない

 

シンジの後姿を心配げに見つめつつ、シャドーはそんな風に感じていた。

 

 

(つづく)

 

 

 




櫻さんの部屋に戻る/投稿の部屋に戻る