第8話「Relience 『Reason,2-A』」
青く澄み渡った空に一本の鉄塔が伸び、その塔の周りには緑と水が溢れる憩いの場所。
その穏やかな光景の少し奥まった所にある立派な建物の中にゲンドウと冬月はいた。
静かに時を待つ彼らには緊迫した空気が漂い、2人は微動だにせず椅子に座っていた。
「どうするのだ、レイの処遇。 逃げられた、
ハイそうですか、で済むとは思えんがね」
沈黙の時を冬月が破ってゲンドウに問いかける。
「逃げられたものは仕方あるまい。実際FISA
(Federation Internationanale du Sport
Automobile=国際自動車スポーツ連盟)
の諜報網ですら探し出せていない。我々にはどうする事も出来なかったのだよ」
「それでいいのか?自分の首を絞めることになりかねんぞ」
ゲンドウはそう言っている冬月の横をすり抜け、
ブラインドを自らの指で押し開けると眼前に見えるエッフェル塔を眺める。
「時期会長に推されるのは私ではない。あの織田という男が会長に就任となれば
EVIA全てが変わるだろう。レイも同様にな」
「だから今の内に・・・か?レイに行く所すら用意しないのではどうなるかわからんぞ」
その問いに、ゲンドウは口を開かなかった。
『ココン』
ノックの音と共に1人の男が入ってきた。
「碇会長、冬月副会長、そろそろ連盟会が始まりますのでよろしくお願いします」
そう言って一礼した後、ドアを閉めて行った。
「さあ、行くか碇」
「ああ」
いきなり泣きだされた。何故泣いてるのか分からない。一体何が・・・
「好きなら・・・キスして・・・」
何言ってんだよアスカ?なんでそんな事いきなり言い出すんだよ。
僕は・・・アスカの事好きだよ。でもその好きとキスしたりする好きとは意味が違うし・・・
今の僕にキスしたい気はある。でも何か・・・したくない。と言うよりアスカじゃなくても
良い感情・・・それがある。僕はただ女の子とキスしたいだけ、それがアスカじゃなくて
洞木でも、綾波でも良い。そんな気持ちしか、ことここに至ってもアスカをそんな風に
しか見れてない。しかし・・・僕はアスカにキスしようと寄っていった。
理由は簡単、据え膳くわぬは男の恥。これに当てはまる。
でもいいのか?こんな気持ちで本当に?特定の相手としてキスするんじゃない。
ただ女の子としてキスする事をアスカは望んでるのか?・・・違う!
少なくともアスカは僕に対してのアクションを起こしている。
僕とキスしたがってるんだ。自惚れかもしれないが、彼女の気持ちをそう受け取った。
だとしたら・・・僕がこんな気持ちで・・・こんないい加減な気持ちでキスするなんて・・・
駄目だ!!
僕にはこの女の子を侮辱する行動は取れなかった。いやこの場合は理性が欲情に勝った
と言えるだろう。その結果、彼女は地面に向かい悲しそうな視線を投げかける。
彼女の横顔から涙がこぼれ、彼女の肩に置かれた僕の手の甲にそれが落ちる。
・・・涙の粒が落ちた瞬間、僕の手に針を突き刺された感じだった。
どう思ったのか、どう感じたのか、どういう気持ちだったのか分からない。
でも彼女を傷つけてしまったのは確かだろう。
「・・・・・・・・・・ッ」
彼女は細い路地に駆け出していた。追いかけようと思った。
とっさに僕も駆け出した。ところが無意識に踏み込もうとした僕の左足が動かない!
バランスを崩した僕の目に歩道の舗装が迫る。
受け身を取ろうと手を動かそうとしたが腕も僕の意志を受け付けない!
眼前に黒い舗装路が広がる。
「うあぁぁぁぁぁぁぁ!」
シンジはベットの中で目を開ける。ホテルで用意された寝間着はびっしょりだった。
「夢か・・・」
そう呟きながらシンジはベッドから起きあがった。
「4時半・・・か。少し早いけどもう起きようかな・・・またあの夢を見そうだし・・・」
実際シンジが目を覚ましたのはこれで3度目。いい加減疲れてきた。
あの行動で良かったのかという思いがシンジにあったのだろう。
夢の中で自分を非難しているとシンジは思うと苦笑を浮かべる。
(何故僕はあの後でアスカを追わなかったんだ・・・傷ついてるのは分かってたのに。
結局僕は彼女から、理解できない彼女から逃げただけだ・・・それに・・・
何も変わってないよ・・・ここに来る前から面倒な事には背を向ける・・・卑怯な奴)
シンジはしばしもの思いにふけった後で、着替え始める。
まだ朝の5時、辺りはまだ暗く闇夜が広がっていた。
だがそろそろ日が上ってくるだろう。毎朝欠かさず続けるランニング。
彼は黙々と走る。
今日のシンジは特に決めたコースを走ってはいなかった。
と言っても遠征先でコースを決めて走れるほど地理に詳しくもなかった。
ランニングは基礎体力をつけるにはもってこいだとマヤに言われて始めたのだが
楽しいと思ったことはない。確かに走ってみて体が軽くなる感じは覚えたが、
それ以上は特にない。ただ言われたからやってみただけ、続けただけ。
シンジにすればその思いしかなかった。
ホテルからしばし走ると例の電話ボックスが見えてきた。
街灯に淡く照らされた電話ボックス。
シンジは無性に行きたくなった、アスカが走って消えた方に。
足は既に進路を変えている。心の赴くままシンジは脇の路地に入っていった。
彼が辺りを注意深く眺めながら走っていくと、
ホテルの公園内に作られた並木道に行き当たった。
既に葉が落ちていて、ほとんど裸の木がそこに並んでいた。
シンジは足下に無数に落ちている葉を手に取った。
(椛か。じゃあこれは楓の並木道)
シンジは彼女がこっちに来たがった理由が分かった様な気がした。
この葉が落ちずにまだ木に飾られていたらさぞ綺麗だっただろう。
そう思うと昨日の彼の行動は・・・
シンジもここで昨日の行動を悔いた。何故あの誘いを断ったのか。
シンジはこれらの木々が、裸の木がアスカの心を代弁しているように受け取れた。
彼は比較的濡れてなく、綺麗な赤い葉を選んでジャージのポケットに入れると
再びあてもなく走り始める。
『ガタタンガタタン』
頭の上から聞こえる凄い騒音。耳を覆うばかりの騒音で幸運にも目を覚ますレイ。
彼女がうずくまる上には鉄橋があり、始発電車が走り去っていく。
「う・・・寒い・・・」
レイは既に冷え切って動かない指を見ながら呟く。そして無駄と分かっていながらも
それらの体のパーツを重ね合わせて少しでも暖まろうとした。
だが次第に意識がもうろうとしてくる。寒くて辛い状況に立たされているレイだが
次第にそれらの苦痛が和らいでいく。レイの瞼が次第に重くなり・・・
(気持ちいい・・・今までの痛みが、苦痛が、苦労が幻のよう・・・このまま・・・ずっと・・・)
レイはその感覚に囚われ、自らを深く底のない穴に落とすように瞼を閉じた。
その5分後、河原を走っていたシンジの前に鉄橋が見えた。
(よし、あそこまで言ったら折り返そう)
シンジはそう決めると鉄橋を目指して走り出した。その足取りはまだまだ軽かった。
あと200m、150m、100m、50mと近づくにつれて鉄橋はシンジの視界に
大きくなってくる。と同時に明るくなり始めている空に太陽が姿を現し、辺りに
光が注がれる。そして鉄橋の下まで来たときに不振な物を鉄橋の下の土手に見つけた。
それは水色の丸い物体だった。その物体に動きは見られない。シンジはそれが
気になった。恐る恐る寄っていくと、それが人間だと分かった。しかも・・・
「あ・・・綾波?!、綾波だよね!・・・ハッ!!」
シンジはその物体を揺すったが反応は無い。それどころか彼女の姿を見て驚いた。
びしょびしょの服、濡れた髪、靴も履かずに足は泥だらけの上に赤く染まっていた。
シンジは驚きを隠せない。そしてレイの体が既に冷たくなっていた。
「・・・嘘だろ。こんな・・・綾波!おい!綾波!」
彼はレイの顔を数回叩いたりする。同時に彼女の胸に耳を押し当ててみる。
「・・・生きてる」
彼はレイの胸の鼓動を聞き、とりあえずホッと胸を撫で下ろす。
シンジはとりあえず来ていたジャージの上着をレイに着せるとレイを起こそうと
引き続き顔を叩いた。レイの瞼が微妙に震えた後、
「う・・・」
その瞼がシンジの目の前で開いた。
「あっ・・・」
愕然とシンジを見るレイはしばし状況が分からなかったようだったが、
彼を見る目が恐怖の眼差しにみるみるうちに変わってゆく。
小さく丸まっていた彼女はとっさに逃げる為に立ち上がろうとした。
が・・・足が動かない。彼女はここまで裸足で歩いてきた為に冷え切っており、
ここで止まってしまった為、彼女の足は既に冷たく棒のようになっていた。
何しろ赤い土・・・足に付着している土を見ても酷い・・・
今の彼女が立ち上がれる筈はなかった。
血と土が混じった赤い土だが、もう彼女は痛みすら感じていなかった。
立ち上がろうとした彼女だけにその足の反応に
あえなくその場に倒れ込んだ。
「くっ・・・」
レイは悔しそうに濡れた地面の泥を動かぬ指で撫でる。
10本の線が大地に描き出され10本の溝に昨日の雨の水が流れ込む。
レイの冷えた手が、泥水を更に冷やすように泥水に浸かっていた。
彼女は悔しさから土を握りしめたい衝動にかられたが体がついてこない。
レイはこの男に見つかってしまった事を悔やみ、捕まる事を覚悟する。
ただ幸いにも彼はEVIAの人間ではないのだから
一縷の望みがあるかもしれないとはレイにも分かっていた。
彼ならもしかしたら見逃してくれるかも・・・その気持ちがレイにあった。
「お願い・・・私の事は見なかった事にして」
そう言って立ち上がろうと、もがくレイ。
しかし体が思うようには動かず、彼女は泥水の溜まる水たまりに顔から落ち、
水色の服は既に昨日からの逃避行で薄汚い色に変わり、
彼女自身も泥だらけになりながら立ち上がろうとする。
彼女を見たシンジは声もなかった。あまり彼女とは話したことはなかったが
ここまで感情的に、考えなしで、無我夢中で行動する人物には見えなかったから・・・
今の彼女の姿は彼を驚かせるには十分だった。
彼女は苦渋の表情を浮かべ悲しみに暮れる目線をシンジに投げかける。
「お願いね、この事は誰にも・・・」
シンジはそんな彼女の目線が自分に注がれていることを知り、我に返る。
「え?な、何言ってるんだよ。そんな体でどうしようっていうんだよ」
シンジは彼女を抱き上げようと手を差し伸べたが、
レイは泥だらけの手で彼の手を払った。
「あなたに迷惑はかけない。だからほっておいて」
シンジは彼女の体が弱ってろくな抵抗も出来ないであろう事が分かっていたので
強引にレイを抱き上げた。
「・・・えっ?!!」
そして地面にレイを立たせようとした。が、レイの足は地に立てるだけの力は無く、
その場にへたり込んだ。
「分かっただろ?立てもしないで強がるなよ。
綾波は1人で何かしようとしてるみたいだけど、立つこともできないじゃないか」
レイはうつむきながらシンジの言葉を聞く。
確かに彼の言う通りで、レイにはもう歩く力すらなかった。
それがレイにも分かっていたがEVIAには戻りたくはない。
どうせならワタシのままで死のうとまで決意していた彼女だけにその態度は頑なだった。
「構わないのよ・・・ワタシが死んでも替わりはいるもの・・・死にたいのはワタシ」
シンジには訳分からない事だった。が、替わり=マックスと受け取る事にしたし、
死にたいなんて聞かされたらほっとけるわけがない。彼は本気で説得を始める。
「何があったか話してよ。僕で良ければ相談にも乗るし、力にもなるよ。
何でもかんでも1人で背負い込むなよ。そりゃまだ僕とは親しくないかも
しれないし迷惑かもしれないけど・・・今の綾波をほっとけないよ」
そう言ってシンジはレイに手を差し伸べる。優しい視線がレイに降り注ぐ。
その目が凍てついたレイの心をほんの少しだけ溶かす。
シンジはレイに背中を向けながら
「ほら、おぶってやるから僕のホテルまで行こう。取りあえず落ちつこうよ」
レイはまだ決心がつかない。が、彼に付いていっても実害がありそうにない。
けどまだ信頼に足りうる人物には見えない。だが今は彼を頼った方が良いと決断、
「黙っててくれる・・・私の事」
レイのその言葉にシンジは振り返ると優しく微笑みながらゆっくりと頷いた。
それを見たレイの緊張に包まれていた心が少し穏やかになったのか
顔も緩んだ表情にほんの少しだけ変わる。
彼女は手をシンジの肩に乗せてシンジに意志を伝えた。
シンジも分かったのであろう。
「じゃ、行くよ。綾波」
「・・・ウン」
シンジは彼女を背中に乗せて歩き始める。
この時彼女の体が本当に冷たく、ビッショリ濡れていたことが背中越しに分かった。
(これは本当に急いだ方が良いな)
「綾波、少し走るけど、どこか痛くない?気分悪くない?」
「・・・大丈夫」
シンジは小走りに変わり移動速度も速くなった。
揺れるシンジの背中におぶさったレイは、シンジの背中を感じていた。
(暖かい背中・・・暖かい心が伝わる。そしてさっきの暖かい視線・・・
あの人と同じ優しい目、いつもの会長と同じ目・・・この人なら信頼できる気がする)
『プルルルルルルル』
ゲンドウの懐の携帯電話が音をたてる。現在フランスは夜の9時、
ゲンドウ達は連盟会を済まして食事を取っていた所だった。
彼は素早く携帯電話を取り出し受信する。
『ピッ』
「私だ。・・・・・・・・そうか分かった」
『ピッ』
「どうした?こんな時間に」
冬月がゲンドウに向かい訊ねる。
「レイがシンジと接触したそうだ」
「無事で何よりだったな。予定通りか?碇」
「・・・これからだよ、冬月」
「よく言うな、既に計画からは外れているのだろう?強がるところはお前らしいがね」
冬月の言葉にゲンドウはほんの少し嬉しそうに口元を緩ませる。
シンジとレイはホテルの彼の部屋に着いた。
取りあえずシンジはレイを浴室に連れていった。
体を温めるにはやはり風呂だと思ったからであったが、心配事が1つ。
彼女は体の自由がまだ無い。
冷え切って感覚のない手と足ではどうしようもなかった。
今着ている衣服ですら脱げない状態・・・彼は困窮な表情で風呂場を眺めていた。
「あ、あのさ。マヤさんに連絡しちゃ駄目かな」
(マヤ?・・・マヤって確か・・・)
「・・・駄目・・・あの人・・・恐い・・・」
レイは急に不安そうに自らの両肩に手を添えた。シンジは更に頭を悩ませる。
(参ったな・・・マヤさんが恐いなんて本当に何があったんだろうか?
まあいい、詮索は後だ)
シンジはとにかくレイを風呂に入れるために浴槽にお湯を入れ始める。
「綾波、1人でお風呂に入れそうかい?」
レイは浴槽に腰掛けていたので、その体制のまま服のボタンを外そうとしたが上手く
行かない。指が動かなかった。
「ボタン外して」
シンジはレイのその言葉に固まる。
「え?!ええっ!!な、何言い出すんだよ綾波!!」
「だって私じゃ外せない」
レイは湯気の立ち上る暖かそうなお風呂に早く入りたかった。
今も彼女は凍えるほどの寒気に襲われていたのでその思いは尚更だった。
今シンジの頭はパニック状態に陥っていた。
「だ、駄目だよ、そんな・・・そうだ!取りあえず手を浴槽で暖めよう。
その後で 動くようになってから服を脱げばいいよ。
でもその前に足を洗った方がいいね」
シンジはお湯のラインを半分シャワーに切り替えて、レイの足にかけ始めた。
レイの冷たい足に暖かい湯が降り注ぐ。これだけでレイは凄く気持ちよかった。
(まるで生き返るよう・・・気持ちいい・・・)
ほんの少し満足げなレイの顔を見てシンジも嬉しくなる。
「どう?足くらいなら手で洗えそう?」
レイは手にかかるお湯に幸せを感じながら足を洗い始める。
シンジも彼女が大丈夫そうなのでほっと胸を撫で下ろした。
彼はレイの足に湯をかけ続け、彼女は手で泥を落としながら足と手を暖める。
ただ泥が落ちていくと足に刻まれた傷が姿を顕にする。シンジは泥を落としきった後で
シャワーを止めた。これ以上続けたら恐らく彼女に痛みが走るだろう。
余計な感覚がないのはむしろ幸運と言えた。
「綾波、とりあえず手を暖めてお風呂に入った方が良いよ。
ただ足の膝から下は絶対にお湯に入れないようにね」
レイは手を軽く握りしめる。先程お湯をかけたお陰である程度動くようになっていた。
レイはぎこちない手つきでボタンを外し始める。
「!!あ、待って!じゃ、じゃあ何かあったら呼んでね。外にいるから」
「どうして?」
「え?ダッテ・・・」
「まだ立てないのにどうやってお湯に入るの?碇君が手を貸してくれないと入れない」
シンジは、頭の中で妄想にかき立てられるが以外にも冷静に、
「で、でも・・・じゃあ服着たままでもいい?」
しかしシンジはどうせ風呂から出たら着替えさせなければならない事を悟る。
(どうしよう・・・どうしよう・・・どうしよう・・・どうしよう・・・どうしよう・・・)
シンジは一つの結論に至り、口を開く。
「あ、綾波。アスカになら綾波のこと話しても良いかな?」
(アスカ?惣流さん?)
「彼女だけになら・・・・・構わないわ」
シンジはその言葉を聞き、複雑な心境ながら
「そう・・・じゃあちょっと待ってて。連絡してみるから」
シンジは昨日のことがあってアスカと話しずらくはあったが、この際仕方なかった。
いや、むしろ話すいい機会だったのかもしれない。
シンジは受話器を取り、アスカが宿泊している部屋に電話を入れた。
「ああ、分かってるよ。綾波レイが消えたんだってな。来シーズンに用意している
マシンのEG-M-PTのコアにはどうしても彼女と魂が必要だ。
既にEVIAのダミーシステムは我々の管轄、遠慮はするな。頼むぞ」
彼の名前は織田ユウイチ。先日のFISAの連盟会で来年からEVIAの会長の就任が
決まった男であり、カヲルのいた組織ZEELEの技術者だった男だ。
「待たせたね、カヲル」
織田は傍らで待っていたカヲルに声をかけた。カヲルは冷めた目線を織田に投げかける、
「織田さん、綾波レイをどうするんだ?」
ソファーに座るカヲルはデスクから自分の目の前に来て
ドッカリと腰を降ろした織田を目で追っていた。
そんなカヲルに織田は機嫌良くココアを勧めながら
「彼女はコアになるのさ。彼女の体はダミーに使われている物と同一の物・・・
それにシンクロした魂・・・彼女こそコアの能力を最大限に引き出せるのさ。
そして彼女ならコアと融合して生きたままマシンを動かせる。後はそこいらの
へボレーサーを座らせておくだけで最強マシンの出来上がりだよ。
来年私はチームを持つから 負けたくないのだよ。会長の私のチームだからね」
カヲルはココアには一切手をつけずに
「そうか・・・ボクと同じ宿命というやつか。そういう事なら彼女の力も理解できる。
まあ裏事情はどうでも良いよ。それより6戦優勝の副賞を早く見せてくれないか?」
織田は薄笑いを浮かべながら立ち上がると、デスクから鍵を取り出して部屋の奥の
鉄製の扉に鍵を差し込む。そしてカヲルを呼び寄せるとキーを回してロックを解除し、
ドアを開ける。その先には10畳ほどのスペースに機械が乱立し、部屋の
中心にカプセルが置かれている薄暗い部屋。
「このカプセルに置いてあるよ。君の妹の個体がね」