− 開幕 『もしもし』 −



 天井と床に奇妙な模様、セフィロトの樹が描かれたネルフ司令室。その異様に広い部屋の中に一人の女性がいた。彼女は今電話で誰かと話している。その顔は慄然としており、とても大事な話をしていることが伺えた。


 「またあなたに借りが出来たわね」
 『どうせ返すつもりもないんでしょう?
 彼らが情報公開法をタテに迫ってきた資料ですが、ダミーも混ぜてあしらっておきました。政府は裏で法的整備を進めてますが、近日中に頓挫の予定です。ざまあみろですね。
 で、どうです?例の計画の方もこちらで手をうちましょうか?』
 「いいわ、あなたの資料を見る限り、問題はないみたいだし」
 ユイはロボットの様な物が写っている写真を見ながら答えた。
 『・・・では、シナリオ通りに。くれぐれも葛城には余計なこと言わないでくださいよ』


カチャ。


 「・・・まったく、政府も馬鹿なことばっかりするんだから。いいじゃないの、ネルフの運営資金は全部私達の個人資産と善意のカンパから出してるんだし。
 それにしても、やっぱり彼、葛城さんに未練があるのかしら〜?」
 誰かに説明でもするかのような口調でユイはつぶやいた。



− 第壱幕 『くぅ〜〜〜〜!朝はやっぱこれよねぇ!』 −



 シンジが朝食の用意をしている。目玉焼き、トーストといった簡単なメニューである。彼としてはもうちょっと豪華な和食にしたかったのだが、時間も材料もなかったので断念した。ちなみに碇家にすむ五人の内、和食派はシンジとアスカ。洋食派はユイとキョウコ。ミサトはビールさえあればどっちでもいい。という状況である。正確に言えば、アスカも元々は洋食派だったのだが、まあ、乙女心は色々と複雑なのだ。
 食事の用意を終えたシンジがペンペンと食事を食べていると、ミサトが起きてきた。
 「・・・おはようございます」
 「ふぁぁぁ〜・・・。おふぁよほぅ」
 髪はぼさぼさ目は虚ろ、下着同然の格好をしたミサトは挨拶もそこそこに冷蔵庫へ歩み寄ると、おもむろにビールを取り出した。シンジはミサトの行動にジト目になっている。
 そんなシンジをペンペンが目をクリクリさせながら見上げていた。
 シンジをまったく気にせずにミサトはビール缶のプルを開けると、一息に飲み始める。ますますシンジの目つきが悪くなった。
 「ぷっはぁぁぁ〜〜〜っ!!くぅぅ〜〜〜っ!!朝一番はやっぱコレよね〜〜〜!!!」
 「・・・コーヒーじゃないんですか?」
 少し苦かったのか目に少し涙を浮かべながらミサトが叫ぶ。おかげですっかり目が覚めたといった顔をして。便利な体を持ったアル中女、葛城ミサト。
 シンジの目つきがさすがに気になったのか言い訳を始めるミサトだが、それが言い訳になると思っているんならたいしたもんだ。


 「日本人はね。昔から朝はご飯に味噌汁。そして、お酒って相場は決まっているのよ」
 「ミサトさんが、でしょ・・・。その歳でいまだに独りなの、わかった様な気がします」
 「悪かったわね!ガサツで!!」
 「ズボラも、でしょ・・・」
 ミサトが気にしていることを言われて思わず大きな声を出した後ろで、妙に冷静な声が聞こえた。シンジに図星を指されてイライラしていたミサトは、相手の確認もしないで思わず怒鳴り返した。でも、相手をもっとよく確認するべきだっただろう。もしかしたら、アルコールが脳に来ていて、ダメだったのかも知れないが。
 「うっさいわねぇ〜!! って、碇司令!?」
 「碇司令!?じゃないでしょう。朝っぱらからビールなんか飲んで、アルコール漬けの体で仕事する気なの?そんなことでは、減棒三ヶ月・・・いいえ、禁酒一ヶ月を命ずるわよ。
 それから、家では碇司令なんて堅苦しく言う必要ないわ」
 一見しっかりしたことを言っているようだが、彼女もまた頭はぼさぼさで寝崩れた寝間着を着てたりする。これではせっかくまともなことを言っても効果半減。結局ミサトの行動はこの後も改まることはなかった。おまけに・・・。
 「か、母さん。ちゃんと顔を洗って着替えてから出てきてよ」
 「分かったわよ・・。もう、シンジも細かいわね。それより、私にもビール一本ちょうだい」
 やっぱり彼女はミサトの上司だった。
 「母さん、さっきと言ってることが違うよ・・・」
 「あのね、シンジ。そんな堅いこと言ってると女の子にもてないわよ。
 それにね、日本には『それはそれ、これはこれ』と言う名言があるの」
 「母さんが何を言ってるのか、僕には分からないよ。それになんか昔と性格変わってない?昔はもっと早起きだったような・・・」


 シンジがトホホとした顔で話していると、もう1人の同居人のキョウコが起きてきた。
 「おはよ〜シンジ君。ユイ、葛城さん。・・・まだアスカちゃんは起きてないの?」
 「ええ、まだ起こして・・・ちょっ、ちょっとキョウコさん!なんて格好してるんですか〜!?」
 「あら、何か変かしら?」
 「いいから早く服を着てください!!」
 シンジがうろたえた声をあげているが、まあ無理もない。キョウコはシルクのネグリジェだけを着ていたのだ。もちろん透けまくっていてなまじ裸よりタチが悪かったりする。やめてと叫ぶシンジは顔を逸らしているが、目はちらちらキョウコを見ているため説得力ゼロ。まあ、ほとばしるような熱いパトスを持つ14歳の少年なんだからしょうがないっしょ(by ミサト)
 もちろん、キョウコもそんなことはしっかりわかっている為、ますます調子に乗るのだが。

 「シンジ君たら、何をそんなに照れてるの〜?」
 「・・・うわああ!だ、抱きつかないで下さいぃ!」
 調子に乗ったキョウコに抱きつかれて悲鳴をあげるシンジ。だがそれがうれしい悲鳴か驚きの悲鳴かはわからない。もしかしたら、この後待ってることに対する漠然とした予感でもあったのかもしれない。
 シンジの悲鳴とほぼ同時に、声が聞こえた。その声はミサトとユイが思わず抗議行動をとろうとするより早くリビングに聞こえてきた。
 「・・・・・・・・・・何ですってぇ〜〜〜〜〜〜!!!!」
 叫び声が響いたかと思うと、いきなりとある部屋の戸が乱暴に開き、豊かな赤みがかった金髪を振り乱した少女が飛び出してきた。
 「ちょっと、ママ!何でシンジに抱きついてるのよ!!しかもそんな格好で!!」
 「あら、アスカちゃん。おはよう」
 「おはようじゃないでしょ!?何でママが私のシンジに抱きついてるのよぉ!?」
 「「「私の?」」」
 「え、あ、いや、・・・こ、この馬鹿シンジ!いつまでそうしてるのよ!!」


 唐突に現れてけたたましく騒ぐ一人の少女は、墓穴を掘ってあっという間に沈黙した。リトマス紙以上の速さで顔を赤くすると、今だキョウコの腕の中で幸せ気分と未来への恐怖を器用に味わうシンジをかっさらい、照れ隠しでもするかのようにヘッドロックを彼にかけた。ヘッドロックをどういう技か知らない御仁は居ないと思うが一応説明しておくと、相手の頭を脇の下に挟み込み、そのまま締め上げるという技である。
 照れ隠しでアスカはシンジにその技をかけたのだが、その体勢は周りから見たらただの自爆にしか見えなかった。要するにシンジの頭をアスカが自分の胸に押しつけているようにしか見えないんである。
 なんとも間の悪いことに彼女たちの友人達が迎えに来た。あと彼女の天敵達も。やはり神はいるようだ。ユイ達はあまりの間の悪さに、そう思わずにはいられなかった。
 「「おっはようございま〜す。ミサ・・・」」
 「おはよう、あす・・・」
 「シンちゃ〜ん♪おっは・・・」
 「・・・・・・・・・・・#」
 彼らが見たのは、リビングと玄関を結ぶ廊下近くでアスカの胸に顔を押しつけているシンジと、はだけた寝間着姿で真っ赤になったアスカ。ちなみにキョウコやミサト達はとっくに隠れていた。
 「いやーーー!!アスカ!碇君!!私達まだ中学生なのよ!!不潔!!不潔よーー!!
 朝からそんなこと、・・・あ、でも鈴原なら私。・・ううん、いいの。でもね、私初めてなの。だから・・・」
 「う、うらぎりもん。・・・ところでイインチョ、大丈夫か?」
 「朝早くから同棲相手といちゃいちゃ・・・。いや〜んな感じぃ!」
 「シンちゃん・・・。何をやってるのかな〜?レイコとっても興味あるんだけど?」
 「・・・碇君(怒)」


 いやんいやんしながら、だんだん変な想像を始めるイインチョ。一足先に大人になった(想像)友人に怒りを感じながらイインチョを少し不気味に思う似非関西人。妙なポーズをでキメゼリフの眼鏡オタク。表情を変えないまま怒りのオーラを背中にうかべる美人姉妹。
 この後何が起こったかは省略させてもらうが、学校についたシンジの頬には見事な紅葉がついており、アスカは少し怒りながらも機嫌が良くて、綾波姉妹は笑いながら怒っていた。



− 第弐幕 『ネルフの役割』 −



 碇シンジはぼんやりと外の景色を眺めていた。空には白い雲が浮かび、太陽があたたかく照り輝いている。そんな気持ちのいい環境でしかも休み時間だというのに、今彼の周りには誰もいない。一部を除いた男子生徒は彼の方を少し嫉妬と憎悪の混じった目で見ており、その他の人間は抜け駆けしやがってといった目で見ていた。朝の出来事をトウジとケンスケがいろいろ脚色をつけて皆に話したせいなのだが、アスカもシンジもついでにレイコも否定することに疲れ切って、もうどうでもいいという気分になっていた。もっともアスカは、あまり否定する気はなかった。まあ、トウジ達も本当にシンジが抜け駆けしたと思ってるワケでないことを知っているからだが。
 それよりも彼の周りにだれも近づかないのは、彼の持つ雰囲気のせいだったりする。
 彼は悩んでいた。これからどんなことが起こるのかわかっており、その結果自分を見る周りの目が変わることを心の底から恐れていたのだ。そのため彼は限りなくブルーだった。
 そんな彼をアスカとレイコはやれやれと言った感じで見つめ、レイは無表情に横目で見ていた。


 「・・・ん?なんだ、あれ?」
 それまで今だその残骸を残す第5使徒をビデオで撮していたケンスケが声をあげた。その声にびくっとするシンジ。
 第5使徒の向こう側の青空に、ぽつりと小さな点が浮かんでいる。はじめは小さな点にしか見えなかったが、だんだんと大きくなっていく。こっちに近づいてきているのだ。
 素早くビデオカメラを最大望遠にするケンスケ。程なく彼は叫び声をあげる。
 「おおっ!あれはネルフのVTOL!!それも、1,2,3,・・・全部で5機も!!」
 はじめはケンスケが何を言っているのか判らなかったその他の生徒達も、だんだん近づいてくるローターの音や、その機影に気づき窓に鈴なりになる。シンジは顔面を机に押しつけて、何も聞こえないふりをしていた。
 その正体をすでに知っていたシンジは頭を抱え、ネルフのマークを確認したアスカとレイコは口をぽっかりと開ける。レイですら、少しばかり驚いた顔をしていた。大騒ぎをする第壱中学の生徒教職員達をよそに、グラウンドに着地するVTOL。まず、護衛らしきVTOLから没個性の黒服達が出てきて、周囲の警戒をする。
 そして、どうやら安全らしいことを確認すると中央のVTOLから一人の女性が現れた。一流ブランドの服をスキなく着こなし、優雅に校舎に向かって歩き出す美女。


 「カッコイイー!誰あれ?」
 「お、おばさま・・・」
 「「「「「「えええええええええええええええぇぇぇっ!!!!!!!」」」」」」」


 一人の名もない生徒の質問にアスカがつぶやきで答えた。それを聞いて生徒達がいっせいに叫ぶ。やかましいったらありゃしない。もちろんその中にはユイの正体を知っているヒカリやトウジ達は含まれていないが、彼らもまた唖然としていた。そのあまりにも派手な登場の仕方に常識が崩壊したらしい。
 (ユイおばさま・・・たしかネルフって一応、秘密組織なんですよね?サンダーバー○ドみたいな・・・)
 口元の黒子がチャームポイントの眼鏡っ子がそんなことを考えていた。
 「惣流がおばさまって言うことは・・・碇のお袋ぉ!?」
 「なに!碇の母親ってあんな美人で若くて、アレなのか!?」
 最後のアレがちょっと気になるが男子生徒達はなぜか大喜び。足を踏みならしてスタンディングオペレーション!その振動に下の部屋の一年生達は大迷惑。
 もちろんそんなことに気づかない2−Aの男子生徒達は、ユイに向かって手を振ったりしている。それに向かって律儀に手を振り、にっこり笑い返すユイ。


 「「「「「うおおおおおおぉぉおぉ!!!奥さーん!」」」」」


 地鳴りのような声をあげて興奮する男子生徒。なぜか一部教師も混じっているのがご愛敬だ。
 そんな彼らを冷めた目で見る女子生徒達。
 「バカみたい」
 「お姉さまって呼ばせてくれるかしら?」
 「ちょっと、何言ってるのよ!?あなたそんな趣味があったの!?」


 「母さん。・・・何で進路調査でこんな派手な登場の仕方をするんだよ?恥ずかしい・・・。」
 「まさか、ママもこんな登場の仕方するんじゃないでしょうね?」
 他の生徒達が好き勝手に言ってる中、シンジは頭を抱え、アスカはキョウコがどんな登場の仕方をするか想像をめぐらせて暗い顔をしていた。






<ネルフ本部発令所行きリフト>

 リフト上にはミサト、リツコ、マヤ、マコトが居る。実験が終わって発令所に戻る途中のようだ。
 「サラマンダーとアロザウラーの生体部品はどう?」
 リツコが先の戦闘(第五話参照)の損害を確認する。いつ使徒が現れるかわからないため、今日も彼女は徹夜で居残り。ちょっぴり不機嫌デンジャラス♪
 「サラマンダー1号機は生体部品にかなりの損傷を受けています。今のペースのままでは修理にはかなり時間がかかるようです。アロザウラーも同様ですが、どちらかというならパイロットの方が重傷です」
 「ゴジュラスとアイアンコングは?」
 「ゴジュラスは特に大きな損傷もなく、一両日中には右腕の修理も完了します。アイアンコングは元々重装甲なこととATフィールドを張っていたことで生体部品にほとんど損害はありません。装甲もすでに換装は終了しています。」

 マヤの報告を聞き、ため息をつくリツコ。ここが、自分の部屋ならたばこを吸っていただろう。それくらいうんざりした顔だった。やっぱり三十代になったからだろうか?
 「不幸中の幸い、かしらね。でも早いとこドイツから強化パーツと向こうで培養した生体部品を持ってきてもらわないと大変ね。いくら自己修復できるとはいえ、タダじゃないんだしね」
 なぜか理不尽な怒りを感じだしたリツコに、脳天気にミサトがたずねる。『あんたと私の間には決して越えられない壁があるのよ♪』そんなことを考えてるかのような声だった。
 「でも、こんだけ派手にやったんだから追加予算、通ったんでしょ?」
 リツコのこめかみがわなわなと震え出す。
 「・・・・・もちろんよ。でも、かなりの額だしねぇ。どれぐらいこっちに回せるかしら。いいわね、作戦部の人は。そんなことなんにも考えてない極楽とんぼでも務まって」
 「ち、地上の使徒の後始末にもかなり予算がとられてるみたいですからねえ」


 喧嘩にしてはまずいとマコトが疲れた顔をして言う。彼女たちから漂う険悪なオーラに当てられただけでなく、使徒の残骸処理を担当しているため、最近は残業ばかりで家に帰れないのだ。おかげでかすかに臭うし、目の下の隈も気持ち悪い。確実にミサト達からの好感度ダウン!
 がんばれマコト!青葉ともども応援してるぞ!
 ともあれ、彼の努力により彼女たちからのオーラが少し消える。マヤが感謝の目でマコトを見る。ちょっぴりマヤからの好感度アップ!

 「ほーんと、お金に関してはセコイところよねえ・・・・人類の命運を賭けてるんでしょ?ここ」
 「仕方ないわよ・・・全部司令達の個人資産から出てるんだから」
 「仕方ないって言っても、司令達の資産総額って某国の国家予算より多いんでしょう?これくらいの予算なら大したことないじゃない」
 「いくら何でも、全部現金でもっているワケじゃないのよ。土地、資本、株、貴金属、いろいろな形で保有しているのよ。それをすぐに切り崩したりしたら、市場経済が大混乱に陥るわよ。それくらいミサトでも判るでしょ」
 「はい、はい、どうせ私は経済についてなんにも知りませんよーだ」
 リツコの先生みたいな言い方に、ミサトはプイッとそっぽを向いた。別の時だったらリツコも笑って可愛いリアクションを返しただろうが、あいにく彼女は徹夜で疲れている上、人生の山場を越えた直後だった。
 「まったく、無様ね。それでよく作戦部部長なんてやってられるわ。その前によく大学卒業できたわね。友達思いの友人に感謝しなさい」

 愛想も何もないリツコの十八番を食らったミサトの額には、隠しようもない青スジが数本浮かんでいた。







<ネルフ第三会議室>

 今、この部屋には動けるチルドレンが全員集合していた。全員が椅子に並んで座り、教室で授業を聞くような状態になっている。彼らの前には、猫の着ぐるみを泣きながら着ているリツコの隣には、白衣を着たナオコが立ち、プロジェクターに記録映像を映しながら解説をしていた。その説明を聞いて、アスカが疲れきった顔でもっともな質問をする。


 「・・・隕石の落下じゃない?」
 それに答えるナオコ。
 「そうよ・・・歴史の教科書なんかでは大質量隕石の落下による大惨事となってるけど。事実は往々にして隠蔽される物なのよ。
 ナオコお姉さんがさっき説明したとおり、15年前、人類は最初の使徒と呼称される人型の物体を南極で発見したの。でもね〜、その調査中に原因不明の大爆発が起こったの。・・・・それがセカンドインパクトの正体よ♪」
 「じゃあ、ファーストインパクトはなんやったんですか?アレも使徒が起こしたゆうんですか?」
 今度はトウジが前を見ないようにして質問をする。前を見たら、精神が壊れるとでも言いたげな表情だった。
 「うん、良い質問ね♪あれは、ゾイドが安置されていた遺跡が起こしたのよ。南極の使徒に呼応してね。どうやら、このゾイドを作った種族と、使徒を作った種族は敵対関係にあったようなの。なぜ争いを始めたかは、お姉さんの調査不足でわからないの。ごめんね〜♪で、それぞれが、光、すなわちエネルギーを物質化させた生物兵器を作り上げたのよ。
 使徒側はスーパーソレノイドと呼ばれる永久機関を搭載しATフィールドを操る多種多様な生物兵器。

 ゾイド側は、オリハルコンと呼ばれる精神感応金属でできた金属生命体。
 その戦いは凄絶を極めたモノだったらしいわ」
 「それで、その戦いはどっちが勝ったんですか?」
 ケンスケがもっともな質問をする。滅多に見ることができない、と言うか一生かかってももう見る機会がないリツコを隠しカメラに収めながら。
 「相田君、ナイスクエスチョ〜ン♪あのね、いくらか残っている記録から判断すると、ゾイド側が負けたようね。ただ勝った使徒側も、その後暴走した使徒によって滅ぼされたらしいわ。爪が甘いと最後でとちるっていう見本ね。みんなも注意するのよ!
 でも、タダではやられなかったみたいよ。ゾイド側と和解して共同戦線を張って戦ったらしいわ。昨日の敵は今日の敵!・・・あら?
 えっと、その戦いで使徒はほとんどが滅び、残ったモノも体を粉々に砕かれて、長い眠りについたらしいわ。
 そして、いつか復活する使徒に対抗するため、ATフィールドをはれるように改良を施したいくつかのゾイドが封印されたの。使徒が目覚めるとき同じく目覚めて戦うようにってね。
 ファーストインパクトは、その時にゾイドにシンクロできる人間を作るため、特別なナノマシンをばらまくため起こったモノだったのよ」
 「じゃあ、ゼーレもどこかの遺跡からゾイドを見つけて使用しているんですね。でも、なんの目的でなんでしょうか?」
 少し遠慮がちにマユミがたずねる。これ以上この空間にいたら、脳が腐ると言いたげな感じだった。
 「目的は今だ不明。はじめは世界征服かと思われたけど、使徒を操っている事から違うと思われるわ。ただ言えることは、使徒はサードインパクトを起こしかねないということよ」
 その衝撃の発言に沈黙が部屋を支配する。ついでに、なぜこんな方法で説明をされにゃならんのかさっぱりわからないチルドレン達の疑問も。そのまま1分、2分と時間が過ぎていく。
 ほぼ全員から肘でつつかれて、シンジが口を開く。その顔にはじっとりと汗が浮かんでいた。
 「じゃあ僕らのやってる事は?」
 「予想されるサードインパクトを未然に防ぐ・・・その為のネルフとゾイド戦隊チルドレンなのよ」



 「・・・母さん。何で今頃になって私達にそんな大事なことを教えるの?もっと早く教えてくれてもいいじゃない」
 ねこタン・・・失礼、着ぐるみリツコが目にたゆとう様な光を浮かべながらナオコに迫った。
 「あ、ごめんね、リツコ。とっくの昔にユイ達が説明してるとばっかり思ってたから♪」
 今頃になって、こんな重大なことをさらっと教えられるネルフ技術部最高責任者。
 「母さん・・・。私、女としての母さんは軽蔑してたけど、科学者としての母さんのことは尊敬していたわ。でも、そんな大事なことを黙っているなんて・・・。マッドサイエンティストにあるまじき行為ね・・・。
 後、保母さんになりたかったって言うんなら、こんな形で夢を叶えるんじゃないわよ!嫁入り前の娘になんて格好させるのよ!!!」
 「り、リッちゃん、嬉しくないの!?私があなただったら、泣いて喜ぶのに!」
 「(ぷち)・・・・・・・・・・・・・母さん!!一緒に死んで頂戴!!」

 チルドレンはともかく彼女が今まで知らなかったのは確かに問題だろう。額に青筋を浮かべながらナオコに歩み寄るリツコ。その凄まじいオーラにミサトの髪が乱れる。
 それを見て、ミサト、チルドレン、オペレーター三人衆は急いで退散した。その直後悲鳴が聞こえてきたがたぶん幻聴だ。もしくはちょっと過激な親子のスキンシップだ。シンジ達はそう思うことにした。赤木親子に幸せの幸あれ。




新世紀エヴァンゾイド

第六話Aパート
「人の造りしモノ」




作者.アラン・スミシー




− 第参幕 『シンジ君のいつもと違う朝』 −



 唐突だが碇シンジの朝は早い。
 朝、6時ちょうどに起きるとさっさと着替えて6時半まジョギング。帰宅すると7時25分まで朝食と、自分と家族達のお弁当の準備をする。元々は購買のパンやコンビニの弁当を食べていたが、赤毛の同居人の命令により弁当を作らされるようになった。すると、その他の同居人のみならず隣人達まで弁当を要求するようになったのだ。おかげで彼の朝は非常に忙しい。
 だったら、ジョギングするなという意見もあるだろうが、身に付いた習慣というモノはなかなか消えないモノである。とにかく食事の準備がすむと次は同居人を起こす作業にはいる。実はこれが最も彼にとって一番大変だったりする。彼の母親や、お姉さんのような存在はなかなか起きないが、声をかければ一応ちゃんと起きてくる。だが、もう一人の同居人は違う。部屋の外から声をかけても決して目を覚まそうとはしない。そうなると部屋に入って肩を揺するとか、より直接的な手段で起こさないといけないのだが、彼女の部屋の入り口には、


 『勝手にはいったら殺すわよ!!』


と、実に物騒なことが下手くそな字で書いてある。はじめは冗談かと思っていた彼だが、決して冗談ので書いてあるわけでない事を、初めて部屋に入ったとき思い知らされている。それならばと彼女を起こさないで学校に行ったら、後でもっとひどい目に遭わされた。一度赤毛の同居人の母親に頼んで起こしてもらおうとしたが、寝ぼけた彼女の母親に情熱的に抱きつかれてからは、彼は決して頼もうとはしなかった。
 よって彼は毎朝起こすべきか起こさないでおくべきかと、どっかのボケた王子様のようなことを考えていたりする。まあ、結局毎朝覚悟を決めて起こしているのだが。彼がもう少し気が利いて朴念仁でなければ、彼女が寝たふりをしていて、彼が起こしに来るのを待っていることに気がついたかもしれない。
 何とか全員を起こした頃には7時40分になっている。それから8時まで食事をして、学校まで走る。そして、途中でクラスメートに出会い、そこからゆっくり歩いていく。そして、始業ぎりぎりに教室に到着。

 だいたいこんな感じである。
 聞いていてとても大変そうだが彼はあまり苦にはしていないようだ。元々家事に才能があり、嫌いではないからだ。しかし家事は交代制だったはずなのに、今ではほとんど全て押しつけられていることだけは不満に思っている。
 そのせいか彼は同居人達を、母親以外はズボラでがさつな人たちだと認識していた。そしてこの日、11月も終わりに近づいたある日の朝も、あいかわらずズボラな家族達を苦労して起こさないといけないんだろうな、と思っていた。
 だが、


 「ミ、ミサトさん。いったいどうしたんですか?そんな格好して・・・」
 「そんな格好とは失礼ねぇ。これネルフの正式な礼服なのよ。それに私が早起きするのがそんなに驚くようなことなの?」


 彼は大変驚いていた。ついでにペンペンも。
 シンジの前には髪をぼさぼさにして寝ぼけ眼にしたいつもの葛城ミサトではなく、きりっとした顔、ぴしっと決めた黒色の制服を着た葛城ミサトが居たのだ。彼がいつもどおり起こそうと部屋の前に立ったとたん、ふすまが勝手に開いて彼女が出てきたのだ。そのいつもと違う雰囲気に彼はすっかりのまれていた。ペンペンはおびえながらシンジの足にしがみついている。
 彼らが固まり、ミサトが怪訝な目をしていると、彼の母親、碇ユイの部屋の戸が開いた。

 中から出てきたのは、これまた普段では見ることのできない少し冷たいアースグリーンの礼服を着た母親だった。もちろん、低血圧で眠いよ〜といった顔ではなく、しっかりと前を見据えた強い目をしていた。顔はちゃんと洗っている上、滅多にしない化粧までしており、ますます年齢不詳になっていた。
 「あら、おはよう。シンジ。今日も早起きね」
 「お、おはよう。かあさん。・・・いったいどうしたの?」
 彼が使徒でも現れない限り見られないような母親の少し厳しい顔と、いつもの家庭的な服ではないそのピシッと決めた格好に驚いていると、彼にとってサードインパクトとでも言うべき事が起こった。彼の少し気になる同居人の母親が部屋から出てきたのだ。彼女の格好もまた、普段この時間に見ることができないものだった。彼女の赤毛とお揃いになるようなワインレッドの上品なドレスを優雅に着こなしている。それは、こうゆう格好をすることに慣れた人間のみが持つ気品を感じさせた。

 「おはようシンジ君。アスカちゃんはまだ寝てるのかしら?まったくしょうがない子ね。王子様が来るのを待ってる眠れる森の美女のつもりかしら。・・・・どうしたの?そんな変な顔をして」
 「・・・・・・・いったい何がどうしたんです?」
 シンジは少し混乱していた。自分がどこか別の世界にでも来てしまったんではないか?そんな失礼なことまで考えるくらいに。そんな彼に少し怪訝な目を向けながらユイがシンジに話しかけてきた。ほんのりとローズマリーの香りが漂い、シンジの意識が覚醒する。

 「今日、母さん達仕事で旧東京跡地まで行って来なきゃならないの。せっかく用意してくれたのに悪いけど、朝御飯はいいわ。それと帰りは遅くなるから、晩御飯はアスカちゃんと二人分だけでいいわ」
 「わ、わかったよ」
 「ユイー!キョウコー!準備できたー?」
 彼が、なぜ母親達が早起きした上にこんなにきちんとした格好をしているのか納得していると、玄関から声がかかった。
 そこにいたのは、信濃ナオコ(旧姓:赤木ナオコ)と赤木リツコの科学者親子だった。二人とも心持ち化粧が濃い。5mは離れているシンジの所までかすかに臭いが漂ってくる。普段はいつも白衣の二人だが、今日はそろいの青い礼服を着ていた。さすがにシンジも今度は驚かなかった。
 二人を確認したユイが話しかける。いつもの気安い友人同士と言うより、会社の部下と上司と言った感じで話している。
 「あなた達はもう準備できた?」
 「こっちはもう準備できたわ。それじゃそろそろ行きましょうか。」
 「そうね、早く行かないと間に合わないわね。・・・あ、シンジ君おはよう。どう、似合う?」
 「え、・・・似合いますよ。ナオコさん。」
 シンジがむせっかえりながらも律儀に答えた。ナオコから漂う化粧品の臭いに少しくらくらしている。シンジはあまり濃い化粧の女性は好きではないらしい。
 「ありがとうシンジ君。お世辞でもうれしいわ。」
 ナオコがシンジの返答に嬉しそうな顔をした。彼女は図々しくもシンジに『私のことはナオコさんと呼んでね』と言っていた。
 「母さん。無駄話はいいから急いでよ。ほら、ミサトも。それじゃシンジ君、猫ちゃん達のことよろしくね。」
 「あ、分かりました。いってらっしゃい。」
 「「「「「いってきまーす♪(シンジ、シンジ君*3、シンちゃん)」」」」」
 少し唖然としているシンジを残してユイ達5人は仕事に出かけた。少し(一部かなり)とうが立っているとはいえ、美女5人がそろって歩くのはなかなか壮観である。
 「私達がいないからってアスカちゃんと変なことしたらダメよ〜♪まだ私おばあちゃんにはなりたくないからね〜♪」
 そんなことを言ってシンジを真っ赤にした後、ようやくユイ達は姿を消した。
 「母さん達もあんな格好できるんだ。なら、何でいつもあんなにがさつでズボラなんだろう?」 
 もちろんそのシンジの問いに答える者はいない。だが心配はないだろう。彼がもう少し大人になれば自ずと分かることなのだから。でもそう言うことはあまり口に出さないように。
 ところでその時の時間は7時35分。アスカを起こすには普通10分を要する(すなわちアスカは10分間シンジとじゃれあう)のだが、アスカは遅刻しかねないからかすぐに起きた。幸い遅刻はしなかったが彼女はなぜか一日中不機嫌だった。



− 第四幕 『はあ、めんどうくさい。シンちゃんの朝御飯食べてないからお腹空いたわ』 −


 ユイ達を乗せたネルフ専用VTOLが飛んでいる。目指すは旧東京跡地。空はこんなに青いのに、風はこんなに暖かいのに、はっきり言って全員が面倒くさそうな顔をしていた。あんな穴蔵のような発令所にいるよりはいいと思うのだが、外に出るより嫌なことがこの後待っているかと思えば、誰だってうんざりするだろう。だが全員が黙り込んでるというのもやはりうんざりするような光景である。それを打破するため、とりあえず、そう、とりあえず一番若いミサトが喋り始めた。

 「ここがかつて花の都と呼ばれていた大都会とはね・・・」
 彼女たちは海の上を飛んでいるのだが、その海面の下にはおびただしいビルが沈んでいる。前世紀の人々の墓場として。その不気味さと静けさは聖書に詳しくないミサトにソドムとゴモラの神話を思い起こさせた。
 「なにもこんなところでやらなくてもいいのに。
 ・・・今日お呼ばれしたのは、新兵器開発に対するコメントを求められたからですよね?」
 「ええ。でもそんな丁寧な理由を言っているけど実際は、日本重化学工業共同体制作の新兵器、確か、JAだったかしら。それの自慢話を聞きに行くのよ」
 リツコが本当に嫌そうに答える。彼女はつい最近できあがったばかりの武器の実験をしたくてしたくてたまらないのだ。おもちゃを取り上げられた子供のような目をしながら、化粧直しをしている。おもちゃがだめならせめて、自分の顔といったところか。
 こんなマッドな人の実験につき合わされるチルドレンに幸あれ。
 「それって、戦自の介入はないの?」
 真面目な顔をしながらキョウコがリツコに尋ねた。いくらバックにいるのが国だとはいえ、一企業だけで作るような兵器は恐ろしくもなんともない。だが、戦略自衛隊、すなわち殺しのプロが兵器制作に関わると、とたんにそれは油断ならない代物となる。彼女はそのことを警戒しているのだ。現に未確認だが戦自はゾイドを模した巨大陸戦兵器を制作したという情報がある。彼女の警戒ももっともだろう。
 「その可能性は無いみたいよ」
 キョウコの問いにユイが自信を持って答える。ちなみに彼女は口元で両手を組むいわゆるゲンドウポーズをしている。机まで用意して。周りの人間が少し、いやかなり嫌そうな目で見ているがまったく気にしていない。
 「どうして、そんなことが言い切れるの?また例の彼?」
 ナオコがもっともな疑問を口にする。閉鎖されたVTOL内には彼女の化粧の臭いがこもりすごいことになっているが、これまたまったく気にしていない。ただ、みんな少し離れているのに不満顔。あと紫の口紅はやめろ。いや、やめてください。
 「そうよ。我がネルフが誇る最高のエージェント。ズバット以上の腕利きよ」
 「ああ、彼の事ね。彼もあっち行ったり、こっち行ったりして大変ね。
 ところでユイ・・・。ズバットって何?」
 「ズバットを知らないの?キョウコ、あなた人生を半分以上損してるわね」
 ミサトはユイ達の意味不明の会話を聞きながら景色を眺めていた。眼下のきれいな円形をした海岸線の向こうにだだっ広い広場と、そのすぐ横に立つひょろ高いビルが見えている。目的地である第28放置区画こと旧東京都心部跡地が見えてきたのだ。
 「さあて、いっちょ行きますか!」
 ミサトは自分自身に気合いを入れるようにそう呟いた。




 広いホールのど真ん中のクソでかいテーブルがドン!。ほとんどなにも載っていないその周りに、ユイ達が5人だけで腰掛けていた。周りの料理満載で大勢の人間が張り付いているテーブルとは対照的である。平たく言えば浮いていた。もっともだれも居心地悪そうにはしておらず、不敵な表情で演説をしている人物を見つめていた。
 『祝JR完成披露記念会』と書いてある横断幕の下で、その人物は長々と喋っていたが、そろそろ演説も終わるようだ。

 「本日はご多忙のところ、我が日本重化学工業共同体の実演会にお越し頂きまことにありがとうございます」
 その男こそ、主任開発責任者 時田シロウである。つまり今日のユイ達の玩具だ。
 彼はそう言ってにこやかに笑うと、辺りを見回した。
 「皆様にはのちほど管制室の方にて試運転をご覧頂きますが・・・ご質問のある方はこの場でどうぞ」

 「「「「はい!!!!!」」」」

 間髪を入れずミサト以外が手を挙げる。
 その剣幕にミサトはもちろん、絶対何か言ってくるだろうなぁと思っていた時田も少しひるむ。
 「・・・これは、ご高名な碇博士、惣流博士、信濃博士、赤木博士。お越し頂き光栄の至りです」
 何とか立ち直った時田の、棘を含んだ口調にユイ達の眉間が少し引きつる。ミサトは時田の運命を想像して、ほんのちょっぴり同情した。
 「・・・質問を、よろしいでしょうか?」
 素早いアイコンタクトの後、リツコが代表として口を開く。何かユイに考えでもあるのか、ミサトを交えたその他の人間と目で会話している。その様子に周り中の人間達がいっせいにひく。
 それに満足したのかユイはニヤリと笑う。ほとんど全ての人間がひいた。時田は、彼女たちを招待したことを心の底から後悔していた。かすれるような声でリツコに返答を促す時田。さっさと質問を言わせて、何もかんも終わらせて帰りたくなっていた。

 「・・・ええ、ご遠慮なくどうぞ」
 (遠慮してくれないかな〜。何で彼女たちを招待なんかしたんだろう?絶対なんくせつけてくるに決まってるのに。
 いや、大丈夫だ。私のJAがあの機械トカゲに負けるわけない!頑張るんだシロウ!)

 「先程のご説明ですと、内燃機関を内臓とありますが」
 リツコのジャブを、時田は用意していた言葉でかわす。
 「ええ、本機の大きな特徴です。連続150日間の作戦行動が保証されており、おかげさまで好評をはくしております」
 だんだんと自分を取り戻したのか、時田の口調がなめらかになっていく。
 「しかし、格闘戦を前提にした陸戦兵器にリアクターを内蔵することは安全性の面から見てもリスクが大きすぎると思われますが」
 「5分も動かない”決戦兵器”よりは、役に立つと思いますよ。」
 「遠隔操縦では緊急対処に問題を残します。・・・それに、ゾイドは半永久的に動きますよ。どうして5分も動かないなんて言うんです?」
 「パイロットに負担を掛け、精神汚染を引き起こすよりは人道的と・・・ええっ!?半永久的ぃ!?」 

 思いっきり驚いた顔をする時田。驚きのあまり机についていた腕の力が抜けてずっこける。
 キョウコとナオコはこいつ今更何を言ってるんだという顔をして時田を見つめ、ミサトはそんなやりとりを傍目で見ながらストローを口にくわえて遊んでいる。ユイはくすくす小悪魔のように笑っていた。

 「・・・あの、どうしました?」
 「いいえ、別に・・・」
 別にとか言いながら彼は焦っていた。流れる汗、荒い息、ついでにずっこけた時強打した赤い額。ユイ達以外の聴衆もだんだん不安になってくる。その雰囲気を感じて、余計に焦る時田。
 (上から回ってきた情報では5分しか動かないし暴走したり精神汚染を引き起こしかねない危ない兵器だったが・・・。彼女たちが嘘を・・・?いや違うな、ってことは情報が間違っていた!?じゃあ、こっちが用意しておいた質問の答えなんてほとんど意味無いじゃないか)
 「それから人的制御の問題もあります」
 「制御不能・・・暴走する可能性も含んだ危険きわまりない兵器よりは安全だと思いますが」
 時田の声は自信がなくなって最後はかき消えるかのようだったが、暴走を起こしかねない危険きわまりない兵器ということは事実なので、リツコも一瞬だけ詰まる。

 「その為のパイロットとテクノロジーです」
 「まさか、科学と人の心があの化け物を抑えるとでも?本気ですか?」
 リツコが一瞬詰まったことに時田はちょっぴり勢いづいた。
 「ええ。もちろんですわ」
 「人の心などという曖昧なモノに頼っているからダメなんですよ、ネルフは。
 ・・・損害の多いあの怪獣もどきに頼る。その結果国連は莫大な追加予算を迫られ、某国では2万人を超える餓死者を出そうとしているんです。せめて、責任者としての責務はまっとうして欲しいものですな。
 よかったですねえ♪
 ネルフが超法規的に保護されていて。あなたがたはその責任をとらずに済みますから」
 「なんと仰られようと、ネルフの主力兵器以外あの敵性体は倒せません。
 それに何か勘違いしているようですが、ネルフの予算は国連から出ているわけではありませんよ。某国で2万人の餓死者が出そうなのは同情しますが、ネルフとは関係ありません。第一、ネルフが超法規的に保護されているのは、ネルフが莫大な援助資金を国連や日本政府に出しているからです」
 リツコのボディアッパーが時田の精神防御をかいくぐり、まともにヒット!
 「ええっ!?そ、そうなんですか!?」
 「私の娘が嘘をついているとでも言うんですか!?だいたいそんなことも知らないで何を偉そうに言ってるんです!
 だいたいどうやって使徒を傷つける気です?」
 髪と色の違う黒い眉をひくひく動かしながら時田を睨み付けるリツコと、目をつり上げて怒鳴りつけるナオコ。周りの人間はユイ達以外、恐怖に震えていた。帰りたい。心の底からそう思っていたが、少なくとも話が終わるまで席を立つことはできそうになかった。それくらい怖いオーラだったのだ。
 幸い(?)時田は離れていたためその背中から立ち上るオーラに気づかなかったが、気づいていたら決してこんな事は言わなかっただろう。

 「ATフィールドですか?それも今では時間の問題に過ぎません。いつまでもネルフの時代ではありませんよ」
 その時田の答えを聞いて、ゆらりとユイが立ち上がる。その顔は笑っていたが心は笑っていなかった。
 「話の途中で失礼します。・・・時田さん達はそのロボットで使徒を倒せると思っているのですね?」
 その物言いに時田の背中に冷たいモノが走った。ユイがこういう顔をしたときのことを知っているキョウコ達は少し恐怖しながらも、その矛先が時田に向いていたため期待に胸を膨らませていた。

 「ええ、もちろんです。私どものJAは決してネルフの機械生命体に劣るモノではありませんよ」
 ニヤリ。そんな擬音が聞こえそうなくらいの笑みを浮かべるユイ。
 「じゃあ、試してみましょうか?」
 「ええ、望むトコ・・・ええっ!?ちょっと待って下さい。試すと言われると実際に戦わせてみると言うんですか?」
 「そうですわ。他にどうすると言うんですか?」
 「他にどうすると言われましても・・・。だいたいそんな大事、私の一存では決められませんよ」
 「そうですか。なら、あなたの上司から許可があったらできるというわけですね。判りました。
 ・・・キョウコ、葛城さん。帰るわよ」
 「ちょっと、碇博士!?あの、ちょっと、冗談ですよね!?待ってくださいぃ!!」

 あっという間に邪悪な笑みを浮かべてホールから姿を消すネルフ一同。その後ろ姿に一縷の望みを託して時田は声をかけるが彼女たちは振り向きもせずに消えていった。いや、ユイが一回だけ振り向いた。

 ニヤリ

 気の弱い人間は卒倒した。倒れなかった人達も腹の底から寒けを感じて、この後無事に起動したJAを見ても全然うれしくはならなかった。



 JAが起動した翌日、日本重化学工業共同体宛に一通の手紙が届いた。
 A4の紙いっぱいに一言、
 『勝負しろ!』
 そう書かれた、これ以上ないくらいにストレートな、ネルフからの正式な挑戦状だった。



Bパートに続く



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