「碇君て、愛想はいいけど、ホントは何考えてるかわかんないよね」

「碇さんて、綺麗だけど話さないし、なんか余所余所しい感じがするね」

 

これが、転校してから五日目にしてすでに定着しつつある

二年B組生徒の碇兄妹に対する認識だった。

正直、あまり良い評価ではない。

 

「「なにより、怖いよね、ちょっと。強いだけ出なくて冷たい感じがして」」

 

ここまで来るとかなり印象が悪かったと言えるだろう。

 

大門高校の構成員は、生徒から教諭までおおよそ“多様性”寛容な部類にはいる。

と、言うより個性的過ぎるな生徒並びに教師が集まり過ぎているこの高校ではやっていけない。

さらに、このクラスの生徒は、よい意味で(多分)一般常識にとらわれない。

 

それはなにより、南雲慶一郎をはじめとした極めて個性的な(一部ではある)教諭達と特に縁が深く

草薙静馬といった暑苦しくトラブルメーカーでひょうきんで人気者といった強烈なキャラ 

アイドル的な容姿と面面は良いがその実強かで草薙以上にトラブルメーカーな神矢大作

さらに御剣涼子といった普段はクールでストイックな、ハンサムな美人でも

彼らと交わるとストッパー的で、ツッコミの相方のような役目担うもの等など

かなり個性的な面々・・・・いわば際物がそろっている。

いくら極めて硬質な、近寄りがたい雰囲気を醸し出す美貌の持ち主とはいえ

はっきりとアルピノとわかる特性が神秘的、あるいは人外のようで恐ろしく近寄りがたいとはいえ

それはこの際、問題にならない。

結局のところ、当人達がまるで周りに気を許そうとしないのが問題なのだった。

 

唯一互いにまったく壁をつくらず話しているのが涼子ぐらいで

その関連で大作、結城ひとみなどとはそれ相応には会話をしていた。

 

もっとも大作に関してはシンジは表面だけの歓迎

レイは明らかに非好意的だったが・・・

 

シンジはそれ相応に話をするし、表面上愛想もいいのだが

ともかく妹のレイが極めて無口、無表情であり

シンジも絶えずそんなレイを優先しているので、会話らしい会話が続かないのだ。

だから、転校初日に奇跡的にも仲が良くなった涼子とひとみのみが

二人と互いに隔意なく話しているくらいだった。

 

さらに、もともと涼子自体、静馬といつもドツキ漫才に講じてクラスをにぎわすものの

大作以外のクラスメイトとは大したつながりもなく

この三人の会話に大作が警戒しながら入って行き、時折はじき出され

そして休み時間には隣のクラスのひとみが来るのがこの二,三日の定番となっていた。

 

ちなみに、その大作は何故か比較的おとなしかった。

せっかく極めつけの美人兄妹が入ったのである。

大門高校の様々な怪しい部と競合して策謀し

二人を生け贄に話題を作り上げてもおかしくないのだが

ほとんどそのような行動をとろうとしなかった。

 

それは、散々兄妹をカメラに収めようとし、その度に涼子から制裁を加えられ

最後にはカメラを破壊されたこととは・・・関係ない・・・・と、本人は否定している。

ただ、大作が表立って前述のような行動することを躊躇さるほど影響力のある人物は

涼子だけだとはこの高校の誰もが認識していた。

 

いい具合かどうかわからないが、草薙静馬はその間一度も登校しておらず

慶一郎は夜中、極道の屋敷で見たシンジとレイの行動が忘れられず、始終様子を伺っており

ガス抜きも出来ず不完全燃焼でどこか妙な空気がクラスに漂い始めた頃

 

 それが転校三日目の土曜日であった。

 


 

ふ・た・り

第六話

 

『鬼塚神社で社交デビュー?』

 

 


 

 

「・・・・・・と、いうことだ。とりあえず今日の伝達事項は以上だ。記載については提示版を各自読むように、では終わる」

 

それだけ言うと、礼の合図もなく慶一郎は教室から出ていった。

 

四時限目も終わった土曜の昼

退屈な授業も全て終わり、ホームルームで担任である慶一郎が様々な伝達事項を伝えていく。

基本的に長話の“大”嫌いな慶一郎のそれは、極めて短く簡潔に、しかも要点を伝えるもので

さすがのものぐさクラスもおおよそ無駄話、爪の手入れ、枝毛のチェックその他はしていない。

特に土曜となると慶一郎は下宿先の鬼塚家、その昼食の支度が気になって仕方が無い。

だからいつもよりさらに、さっさと終わるので、生徒たちに文句があろう筈が無い。

そして、号令も省いて終わるのも休みでない土曜の常だった。

 

 

 

 

「ねぇ、今日これから、ヒマ?」

 

とりあえずホームルームも終わって、帰り支度をしていた碇兄妹に涼子が声をかける。

二人はちょうどバックに荷物を詰め終え、顔をあげた。

 

「まぁ、特に用はないですが・・・・」

「じゃぁさ、今日の午後私と付き合わない?」

「はい?」

「だから、ちょっと来て欲しいところがあるの」

 

いきなりの発言にシンジが面食らい、レイが微かに瞳を細める。

そして

 

「「「「「「「「おおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!???」」」」」」」

「ついに涼子ちゃんも草薙君を見捨てるのね」

「思えば時間の問題だったよなぁ」

「しかし碇君狙いなんて・・・涼子って面食い?」

「そういやぁ、身長差もあるし、けっこう御似合いかな」

「そうだよな、御剣が女に見える・・・・・・・」

 

沸き立つクラス

なにやら盛大に勘違いしているらしく、口々に的の外れたことを口走っている。

そして、その度に涼子の非大尉太い血管の筋が浮かぶ。

そのうち静脈から血でも噴出しそうにまでなったとき

 

「で、涼子さん、なんで静馬さんから碇兄に乗り換えようなんて思ったんですか?」

ブツっ!!

 

涼子の頭の中で何かが音をたてて切れ、反射的に手が動き

 

バキッ!

「―――――――――――――ッゥゥゥゥァア!!!」

 

最後に態々小型の録音マイクまで持ち出して聞いた大作の頭に見事涼子の特殊警棒がヒットする。

 

「「「「「「「「「―――――――――――――」」」」」」」」

「りょ、涼子ちゃん?」

「フ、悪は滅びたわ・・・・・」

「悪って・・・・・・・(涼子ちゃん単に苛苛したから手近な神矢君にやつあたりしたんじゃぁ?)」

「――――――――――――!!―――――――――っ!???」

「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)」」」」」」」

 

一罰百戒とでも言おうか、

殴られた頭を抱かえて、声にならない悲鳴を上げながら床を転がる神矢大作の悲惨な最後(笑)を見て

そいて右手で特殊警棒を弄びながら不適に微笑む涼子を見て

以後みんな青ざめた顔をして黙ってしまい、そしてただ一人友人の結城ひとみが彼女にツッコむ。

ちなみに、シンジは何時もの目を細めた微笑を浮かべたまま

レイはあいも変わらない無表情で、まったく動揺した様子も無く、ことの推移を見守っていた。

 

「で、どうする?」

 

打って変わって零れるような笑みを浮かべ、聞きなおす涼子

 

「ええ、行くわ」

「そうだね、今日は特に用事も無いし・・・・・」

「じゃ、このまま行かない?時間もったいないし・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・すみませんが、やはり着替えたりしたいので、一度家に戻ります」

「じゃぁ、私も御邪魔するわ」

「ちょっと涼子ちゃんそんなぶしつけな・・・・・・・・」

「何言ってるの?ひとみも来るのよ」

「え?私も?」

「そう♪」

「それでは、そろそろ出かけませんか?時間もありませんし」

「ええ」

 

そして、碇兄妹、そして涼子にひとみはそれぞれの荷物をもって教室をでる。

シンジはいつものごとく目を細めた微笑を浮かべたまま

レイは涼子の話しに相槌を打ちながら、少し楽しそうに

ひとみは時折教室を降り返り、そして小さく溜息をついて首を左右に振りながら

 

『『『『『『『『『いったいどこに行くんだぁ〜〜〜!?』』』』』』』』』

 

と、これはクラスメイトの全てが思ったことであるが、誰も聞けなかった。

とっつきにくい(と、感じている)碇兄妹

先ほど不用意な発言のご褒美に大作を殲滅した涼子

特に涼子が

 

『コレ以上ゴチャゴチャ言ったら・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

なんてレイに笑いかけながら時折そんな視線を向けるので、なにも聞けなかった。

 

 

後には涼子達が去って気が抜けたように座りこむクラスの面々と、床でのた打ち回る大作が残された。

 

 

 

 

 

 

六月

梅雨にふさわしく、ドンヨリとした曇り空

風も少なく、正直ジトジトしていて

そんな中、涼子は随分とご機嫌に水溜りのある歩道を歩いていた。

 

「じゃぁ、ボク達はちょっとスーパーに寄りますが、どうします?先に行って待ってますか?」

「シンジ君何買うの?」

「ちょっと昼食の材料など、涼子さんとひとみさんがいらっしゃるなら買って来ないと足りないので・・・・」

 

冷蔵庫や倉庫の中身を思い出しながら答えるシンジ

そして、横ではいつも手伝いをしているレイがうんうん頷くなど、珍しくリアクションしている。

思わずその仕草に見惚れてしまう涼子

 

(ああ〜〜〜、レイちゃんなんでアナタはそんなにカワイイのォ!!!て、違う私は私はそんなんじゃっ)

「「??」」

「だ、大丈夫!ご飯はコレから行くところでご馳走になればイイからっ!だから着替えたらすぐに行きましょっ!」

(涼子ちゃん・・・・・・もう、手遅れなの? サムライフリークと同じで、戻って来れないの?)

 

涼子が何故かほんのり頬を赤くしてレイを見つめている様に、シンジとレイはどうしたのかと首を傾げ

その内心を正確に把握した親友のひとみは悲しげに首を振る。

そして、すでに涼子が碇兄妹をどこに連れていくのか理解したひとみ

己の予定のためにも、この計画の問題点を指摘しようとするのだが・・・・・・・

 

「で、でも涼子ちゃん・・・・・涼子ちゃんはともかく私は着替えが無いんだけど・・・・・・・」

「あら?ウソはいけないわ、ひとみさん?」

(ダメよひとみ、ネタはあがってるのよ)

「え、私ウソなんて・・・・・・」

(涼子ちゃん、そんなに顔近づけないで、私をソッチの趣味に引き込まないで)

「アナタ、ホントは何時も使う駅のロッカーに着替え置いてあるでしょ?」

(ダメよ、そんな私の目は誤魔化せないわ)

「え、そんなこと・・・・・・・・・」

(だから、そんな息かかるほど顔近づけないで・・・・・・・そんな事は学校の涼子のファンの娘達にやってあげてぇ!!)

「ひとみ・・・・・、あなた今日ホントはあのバイパーズの生徒会長的優等生とデートだったでしょう?」

「え?」

 

途中までまったく内心かみ合わない会話をしていたのだが

涼子が自分の予定の意外な部分を知ってることに、ひとみは始めて涼子の話し自体に注意を向ける。

 

「ど、どうして知ってるの?」

「私に不可能なんてないのよ!!」

「・・・・・・・それで、本当は何故?」

「あ、レイちゃん、本当はね、あっちの優男・氷室那智っていうんだけどね。ひとみの彼氏たるアイツを呼び出すさいにそんなことイイワケにして断ろうとしたから知ってるわけ」

「りょ、涼子ちゃん!?」

(な、なんでレイさんだとそんな風にアッサリ答えるわけ?それになんで氷室サンのことばらすの?それ以前になんで涼子ちゃんが氷室さん読んでるわけ!?)

「そう、彼氏なのね・・・・・・・」

「レイさんまで・・・・・・」

 

レイが聞くとあっさり涼子は答えてしまい、さらに彼氏との関係をばらされ

その彼氏はどうやら涼子に呼び出され、そのせいで今日の予定がばれたらしい。

レイまでそんなこと言われて涼子は少し沈んでしまった。

 

「ま、ひとみもそんなに沈まないの・・・・ちゃんとあの優等生には会えるんだからさっ!」

「そうなの・・・・・彼氏にはちゃんと会えるから心配しなくていいの」

「二人とも・・・・・・・・・・・」

 

なにやら自失しかけているひとみを余所に、涼子とレイは楽しそうに笑っている。

 

「ま、こんなのもいいかな・・・・・・レイがあんなに笑うの久しぶりだし・・・・・・・」

 

その少し後ろから3人の様子を眺めていたシンジは何時もの有るか無きかの笑みでなく

目を見開いて、しかし穏やかな表情で見ていた。

 

「ま、ちょっとひとみさんが可哀想だけど」

 

最後は少し苦笑していた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、結局

ひとみは肝心な予定の御相手が涼子に捕らえられていることも有り

四人でも目的地に向かうことにした。

ひとみのにもつを駅のロッカーまで取りに行くと、そのまま碇兄妹のマンションまで向い

そして手早く着替えて出てきたのである。

 

ちなみに目的地で別の服装に着替える涼子は大門高校のセーラー服のまま

ひとみも結局着替えることをせずに、碇宅でシャワーだけ浴びた。

どうも着替える気がうせたらしい・・・・・・・

 

そしてレイとシンジはペアルックで決めていた。

お揃いのキャタピラーブルーのベスパジャケットに ダークブルーのヘリーハンセン ハーフジップシャツ

そして コロンビア エルクリバーパンツ にスニーカーと決めていて

 

「お、御二人さんお揃いですね・・・・・仲いいじゃん」

「・・・シンジといっしょ・・・・・・・」

 

涼子がからかい、レイはお揃いでご機嫌だった。

 

「で、どこ行くんですか?」

「ふふ〜ん、飛天神社よっ!」

「・・・・・もう、そこの人は行くこと知ってるの?」

「大丈夫。あらかじめ伝えてあるから」

「涼子さんの剣術の先生の家ですか・・・・・・なんか悪いですね」

「いいのいいのっ!!南雲先生がご飯つくって待ってるから、はやく行きましょっ!」

「涼子ちゃん、涼子ちゃんの家じゃ、ないんだから・・・・・・・・・・」

 

仮にも師匠と担任の教師の家を我が家同然に扱う涼子にひとみがためらいつつも注意しようとするが

 

「ここからだとあの通りを下って・・・・・・・・」

「あ、そこを右にまがるんですか・・・・・」

「ちゃんと覚えておくの・・・・・」

 

まったく聞いた様子も気にした様子も無く、シンジ達に道順を説明していた。

 

「ちょっと遠いですね」

「そうね、歩いて一時間あるかしら?」

「まさに大門高校挟んで反対側ですか・・・・・」

「最初から直接行った方がよかった?」

「大丈夫・・・・」

「さてと、ちょっと玄関で、待っていてくださいね」

 

シンジがそう言って、レイと二人で地下へと向かった。

しばらくして静かなエンジン音とともに二台のスマートな

カワサキのミドルツアラー・KLE400が二台来た。

シンジが乗っているのは鈍いシルバーボディー

レイのものは髪の色のままの蒼銀のボディーだった。

 

「お待たせしました!」

 

待っていた二人の目の前に止まり、シンジがメットをはずして声をかける。

 

「ちょっとこれで行くの!?」

「ええ、早くてイイでしょ?」

「そりゃ、そうだけど・・・・・・」

「じゃ、ヘルメット被ってくださいね」

 

さすがに面食らっている涼子にシンジはさも当然とばかりに言い切る。

そして兄妹は涼子とひとみにヘルメットを渡す。

 

それぞれバイクにまたがった碇兄妹に続き、涼子はシンジの後ろに

ひとみはレイの後ろにまたがった。

 

 

『じゃ、行きますからね』

『へ?』

『ヘルメットにイヤホンとマイクが付いてますから、話しが楽に出来ますよ』

『そ、そうなんだ』

『じゃ、涼子さん、ひとみさん・・・・改めて行きますよ!!』

 

いつもより溌剌としたシンジの声で、二台の美しいバイクが出ようと・・・・・・

 

『ちょっと、待った!!』

『わ、』

『な、なに涼子ちゃん』

 

出ようとしたのだが、涼子がいきなり叫んだので発車を見送る兄妹

 

『なんですか?涼子さん』

『それそれ!! 私のことは涼子って呼び捨てで読んでって言ったでしょっ!』

『はぁ〜〜(涼子ちゃん・・・・・)』

『・・・・・・・・・・』

『判りました。行きますよ、涼子、ひとみさん、レイ』

『それでよろしい』

 

気を取りなおして、出発した。

 

 

 

 

 

二人乗せていることなどまったく関係ないように滑り出す二台のKLE400

順調に加速し、高速で道路を過ぎる。

が、極めて静かである。

 

『ねえ、なんでこんなに静かなの、このバイク・・・・・』

『はい?』

『バイクって走るとうるさいくらい音がでるものじゃないの?』

 

前に草薙静馬のバイクに乗せてもらったとき、とんでもなく五月蝿かったことを思い出した涼子は

それが疑問で聞いてみる。

 

『ああ、あの走ってて爆音を轟かせるバイクは、態々そういうマフラーとかを使ってるのが多いんですよ』

『そうなんだ?』

『まぁ、バイクはそれがいいんだってよく乗ってる人はいうけど、ボクは五月蝿いの嫌いですから』

『へぇ』

『だから逆に、ボクとレイのKLE400はエンジンとマフラーに走るのに邪魔にならない程度に消音装置をつけたんです。ちょっと高くなったですけどね。音が大きいほうがいいですか?』

『ううん、静かなほうがイイ、でも速いね、走るの・・・音が無いから余計そう感じる・・・・・・』

『怖いですか?』

『・・・・・・・・・・・・ちょっと・・・・・・・・』

 

音が無いので目立たないが、シンジは常に八十キロ近くで走っている。

これでバイクに乗るのが二度目の涼子は、さきほどから口数が妙に少なく何時もの勢いが無い。

そいてシンジの胴に回された腕は微かに震えていた。

 

『じゃ、しっかりつかまっててくださいね、スピード落としませんから』

『もしかしてスピード狂い?』

『さぁ』

『イジワル・・・・』

『クス・・・・・・』

『あ、笑った!』

『ゴメンゴメン、じゃぁホントにしっかりつかまってください』

 

シンジはさらに加速する。

涼子は思わずシンジにキツク抱きついた。

するとキャピタルブルーのジャケットから、微かにシンジの体温を感じる。

 

(痩せて見えるけど、やっぱり背も高いから背中広い・・・・・それに固い)

 

涼子は鼓動が早くなり、顔が厚くなるのを感じた。

豊かな胸がシンジの背中に押し付けられる。

 

(大きな背中・・・・・静馬より広いね・・・・・・・・)

 

 

ちなみに、レイとひとみのほうは、ひとみが早々に目をキツク瞑ってレイに抱き着いていたので

そしてレイがもともとしゃべらないので、まったく静かだった。

 

 

 

 

そして

十五分かそこらで、二台のバイクは飛天神社のある神社に着くのだった。

 

 

 

 

 

「へえ、この辺りも結構緑がのこってるんですねぇ」

 

シンジは林道を抜けた後、ようやく到着した飛天神社の前まで来た。

近くにあった専用の駐車場(ちなみに慶一郎の愛車・米軍払い下げのジープもここに有る)に止めて

なんだかおとなしくなってしまった涼子の降りるのに手を貸す。

 

「あ、アリガト・・・・・」

「どういたしまして」

 

ヘルメットを脱いでなんとなく赤くなっている涼子にシンジは屈託なく笑いかけた。

ちなみにシンジが誰か他の女性とこんな雰囲気になると必ず機嫌を悪くするレイが

何故か先程から今回まるで首を突っ込ま無かった。

そのレイは、なにやらげっそりしているひとみに手を貸し、ゆっくりと歩き始めている。

そして無造作に新品のバイクを止めたまま、四人は神社正面に向かう。

ちなみにこの駐車場から何かを盗もうとしたもので無事に済んだものはいなかった。

そのような不心得者は天狗の面を被った鬼塚鉄斎に“大変良く似た”誰かに木刀で天誅を加えられたり

お腹にポケットのある青い猫方ロボットの御面を被った二メートルの筋骨隆々巨漢に粉砕された。

よって住民は安心してここに車などを駐車できるのだった。

 

『飛天神社』と刻まれた石塔

上に続く階段は五十段ほどあり、ケヤキやヒノキの大木が両脇に並ぶ。

苔むした階段を上がりながら、木と土の匂いを微かに感じる。

境内に入り、イイ感じに古びた本殿を横切り裏手の神主の家に向かう。

堂々とした造りの純和風の建物は最近人の出入りが激しくなったせいか

以前より明るく感じられるようになっていた。

 

「ごめんくださ〜い」

 

『鬼塚』と表札のかかった玄関の引き戸を開けながら、涼子は何時もの如く元気に挨拶し

そして早速入りこんだ。

 

「失礼します」

「おじゃまします」

「・・・・・・・」

 

残りの面々(ちなみにうえからひとみ、シンジ、レイ)も各々違った反応を見せ躊躇無くあがっていく。

ちなみに当然ながら碇兄妹はに来るのは始めてだが、まったく物怖じせずに上がり込んでいった。

 

 

 

 

「お、来たか御剣」

「先生、ご飯は?」

「ちょうど支度が出来たところだ」

 

そのまま涼子は居間まで進み、するとこの家の住人達

家主・鬼塚鉄斎

孫娘・鬼塚美雪

そして、帰ってきた居候の南雲慶一郎が、ちょうど料理を運んでいた。

慶一郎はシンジとレイを見た瞬間、一瞬鋭い視線を向ける・

しかし、二人は何事も無かったように食卓の上座に向かう。

 

「あ、はじめまして、碇シンジといいます」

「碇レイです」

「うむ、ご丁寧に痛み入る、鬼塚鉄斎だ」

 

シンジは静かに鉄斎の横に正座すると、隣に座ったレイ共々軽く頭を下げて挨拶する。

それにこたえて、座っているので判りづらいが、身長百八十以上の長躯の姿勢正しい老人

長く伸ばした銀髪と同じく白い顎鬚も渋い鬼塚鉄斎も、向かい合って頭を下げた。

ちなみに、その一人弟子はというと、

 

「あ、美雪ちゃん、こんにちわ、御邪魔するねぇ」

「ええ、こんんにちわ・・・・・・・・・」

 

薄茶の髪をショートボブにした寡黙で可憐な少女に軽く挨拶すると

 

「さて、ご飯ご飯♪」

 

ただひたすら目の前に並べられていく昼食に集中していた。

そして、ようやく思い出したのか挨拶をする。

 

「師匠、こんにちわ」

「うむ」

「・・・・・・・・鉄斎師匠、アナタの弟子はとうとう師匠の挨拶よりご飯を先に気にするようになりましたよ」

「これも担任たるお前が悪いからだ」

(あんたの弟子でもあるだろうが!!)

 

さも当然とばかりに決め付ける鉄斎に慶一郎は内心そう叫ぶ。

が、しかし態度には決して出さず料理を並べていく。

 

「ご飯ご飯♪」

「涼子ちゃん・・・・・・・」

 

鉄斎の孫娘、中学二年生の美雪が不思議そうに眺める中

涼子は慶一郎の言葉も内心も

となりで少しオロオロしているひとみも関係ないとばかりこれからのオイシイご飯にウキウキしている。

 

「・・・・・・・御客サン?」

「ええ、はじめまして、南雲先生のクラスの生徒で涼子さ、いや(汗)涼子とクラスメイトの碇シンジといいます」

「碇レイ・・・・よろしく」

「・・・・よろしく」

 

シンジは美雪の正面にすわりつつ挨拶し

美雪の右隣に座ったレイは片言に挨拶するとそのまま手を差し出し、答えた美雪と握手をする。

 

(ほう、ほんと今回レイが凄く積極的だな・・・・・・イイ傾向だけど、何故だろう?)

「あ、そこにいるのが美雪さんの飼ってる猫ですか?」

「ええ・・・・・ラウール、ジェラ―ル、バルタザール、挨拶・・・・」

ニヤァ

にやあ

NYAAA!

「ルパンの偽名ね・・・・・・」

「・・ええ・・・・・・・そう・・・」

 

レイにネコの名前の由来を言い当てられて少し驚いた後、はにかみながら答えた。

 

(おや、美雪ちゃんがああんなに初対面で打ち解けるなんて珍しいな、これがあの碇兄妹で無ければ素直に喜べるのだが・・・・・・・・)

「さ、挨拶もそのへんで、用意が出来たので食べましょう」

 

慶一郎は美雪の様子に驚き、相手が水曜の晩にあったシンジとレイなのが複雑な気分だったが

この家のシェフとして食事の用意が終わったことを継げた。

 

「「「「「「「「いただきます」」」」」」」

 

ちなみにこの日は大皿の上にドンと鎮座した、今川焼きの親玉にも見えるスパニッシュオムレツで

慶一郎が手際良く切りとって皿に盛り、昼食が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ!」

ブン!

「はっ!」

ブゥン!!

「せい!」

ザッ!

「は、は、せい!!」

シュ、シュ、ブゥン!

 

掛け声と供に木刀が降られ、様々な型が繰り出される。

食事も終えたところで、涼子は早速胴着に着替えると、神社境内にある道場で修練を始めた。

 

「二の型に入るとき、右手首が利いていない、それでは・・・・・」

「はい!」

「五の型の最初の踏み脚が遅い!!」

「はい!!」

 

傍でマンツーマンで教える鉄斎の声が響く

が、道場は絞めきられていて練習の様子は滅多に見せてくれない。

だから、シンジとレイはひとみとともにネコをじゃらしたり抱いたりしながら縁側で

 

チリ―――ン!

 

気の早い風鈴をききながらボンヤリしていた。

すると、石段から鳥居を超えて、一人の青年が上がってきた。

 

「ごめんください」

「氷室君?」

「あ、結城さん、今日は約束が果たせずにゴメンね」

「いいの、涼子ちゃんに言われて来たんでしょ」

「それだけじゃないんだ、なんか鉄斎先生にも呼ばれたんだけど」

 

銀縁のめがねをかけた、身長174センチの細身の青年

おとなしい感じの優等生っぽい雰囲気を持つ氷室那智

彼は池袋で繰り広げられるストリートファイト・“バイパーズ・レイブ”の草薙静馬に継いでNo,2だが

しかし、そのすっきりした顔立ちの、大人しそうな様子からはまったくsの印象を受けない。

ちなみに、実家が剣術の道場をしており、彼の父は鉄斎の弟子でもあって呼び出されれば到底断れないのだった。

 

「ホントは事前に連絡sルつもりだったんだけど、御剣さんがどうしても黙っておけって言われて」

「いいの、そんなに自分を責めないで・・・・・・・」

「なんか私が悪者みたいじゃない、その言い方・・・・・」

「涼子ちゃん!」

「御剣さん!」

「あ、シンジ君、レイちゃん、ちょっと来て、それからNo.2君も」

「へ?」

「ちょっとやってもらうことがあるの、師匠も待ってるから早く来てね」

((悪者“みたい”じゃなく悪者だよ、ほとんど))

 

ほとんど絞め切られた道場の戸をあけてそれだけいうと、両コアhすぐに道場の中に戻っていたった。

氷室那智、結城ひとみ、そして碇兄妹は警戒しながら、あるは不安そうに

そしてまったく気にした様子無く道場に入っていった。

 

 

 

 

 

 

先程からは打って変わって開け放たれた道場

そこにこの道場の主・飛天流の継承者・鬼塚鉄斎

そしてその一人弟子御剣涼子

さらに、家が剣術を教えている氷室那智

気になって来てみた結城ひとみ

そして何故か呼ばれた碇兄妹

最後になんとなく来てしまった道場主の孫娘・鬼塚美雪はペットの黒猫3匹連れて眺めている。

 

「いきなり呼び出してすまない、碇シンジ君、レイ君」

 

上座で粛然とした様子で座っていた鉄斎が話し出す。

 

「実は弟子から君が剣術をやると聞いて、是非とも手合わせしたいそうだ。受けてもらえるかね」

「はい?」

 

さすがのシンジもいきなりの話しに面食らう。

何時もの薄笑いが消えて、本当に驚いた顔になっている。

 

「だが、弟子はまだこの飛天の道場に入門してわずか、よって剣術を収めて長い氷室の息子とまずは手合わせして欲しい」

「はい?そ鉄斎先生、そのために僕を今日ここに呼んだんですか?」

「そうだ・・・・・・・」

「はぁ・・・・」

 

脱力する那智と気遣わしそうに見つめるひとみ

そして心底楽しそうに見える鉄斎と涼子の師弟コンビ

そんな面々を一瞥し、シンジは静かに言った。

 

「いいですよ、ただし氷室サンにはボクでなくまずレイと戦ってもらいます」

 

レイは意外そうにシンジを見た後

微かに、しかし今まで見せたことの無い獰猛な笑みを浮かべた。

 

「やるわ・・・・・・私」

 

そして静かに那智のほうを見る。

その紅の瞳に魅入られて、ナチはうなづくしか出来なかった。

そして、なし崩し的にレイ対那智の剣術勝負が決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・ここにあるの使ってイイの?」

「ああ、どれでも好きなものを使ってくれ」

 

レイはしばらく道場の脇にかけられた大量の木刀や長刀、棍棒などを見ていたが

やがて小太刀ほどの黒い木刀を一つ取り、左右に何度か振ってみて決めた。

 

「いいんですか?ホントに」

「何がです?」

「妹さんを戦わせてです、剣術の経験あるんですか?」

 

一方の那智は早々に一本の赤い樫の、スタンダードな長さの木刀を選び、シンジと話していた。

 

「いいんです。この間、高校であった騒ぎでボクだけ戦いましたからレイは欲求不満でしょうし」

「そんな理由で!?」

「ま、そう言わずに、それからレイと対するときは本気でやってください。でないと一瞬で負けますよ」

 

シンジは再び戻った薄い笑みで終始穏やかに那智に語りかけ

そしてレイのほうも武器を選び、羽織っていたべスパジャケットを脱いで道場の真中に行った。

 

「知りませんからね」

 

まるで捨て台詞のような言葉を残して那智も位置につく。

そして那智は目礼し、レイはただ静かに立って

 

「始め!」

 

鉄斎の一言で剣術勝負が始まった。

 

レイは鉄斎の合図があってからまったく構える事無く

ただし全体に立ち、右手に小太刀の大きさの木刀をぶら下げている。

 

(なんだ?隙だらけじゃないか?それともさそってるのか?)

 

那智はまったく闘気も何も感じず、構えも見せないレイの様子に戸惑う。

しかし、すでに勝負は始まっている。

 

(ええい! まずは様子見だ)

 

そう、踏ん切りをつけると、那智はスッとすべるように間合いを詰め

いきなり右側頭部に向けて上段から打ち下ろす。

かなり素早い一撃

しかしレイは素早く右手の木刀を掲げ、そのまま左に流してしまう。

 

(おっ!?)

 

那智は少し驚きながら、しかしそのまま続けようと流された勢いのまま体をくるりと一回転させ

レイの右手を打とうとする。

しかしこれも短い木刀に止められる。

那智はもはや侮らず、こんどは脚払いを仕掛けるがレイに滑る様にさがって避けられ

追い討ちに繰り出した突きはいなされ、そのままの勢いで当身で鳩尾にいれようとした肘を取られ

合気道の要領で投げられてしまった。

 

対してダメージの無い那智は、投げられた勢いのまま回転して立ちあがり、距離を取る。

 

「へぇ、レイさん強いんだ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ひとみは感心したように呟き、美雪は少し目を見張る。

シンジは何時ものように目を細めていている。

が、涼子と鉄斎は先程までの様子がウソのように極めて真剣に動きを追っていた。

 

「・・・・遅い・・・・・・・」

 

レイが微かに不満そうに呟く

一瞬目を剥く那智だが、すぐ平常心を取り戻す。

そして那智が再び距離を詰めて仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

「おや、なんか今日は御剣の気合を入れる掛け声が聞こえないな」

 

その頃

慶一郎は皿洗いを終えて、買い物も済ませ、夕食の支度に取りかかっていた。

グツグツと煮えるな弁前で英字新聞を読みながら、たまに脇に置いた御茶をすすりつつ

のんびりした午後を過ごしていた。

 

 

 

 

 

ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・

「・・・・・・もう終わり?」

 

那智が息を切らしながらレイと対峙する中

一方の当事者たるレイはまったく手合わせの始まったときから変わらない様子で

構えることも気合を入れるわけでも無く、ただ静かに立っている。

相手はろくに討ちこんでもこないのに、たった十分の攻防で八つも反撃を食らい

何度も連続技を放った疲れでとあウェア瀬手那智のほうはフラフラだった。

 

ダンッ!

 

那智が最後とばかり再び大きく踏みこんで、今度は抜き打ちを放つ。

居合の要領で素早い斬撃でレイと討とうとする。

しかし、レイの左の胴めがけて放たれた一撃目はすぐさま小ぶりの木刀で下に流され

冒頭での攻撃に繋げる間の左手での正拳突きもレイの右に流され

さらに右上段右中段左下段と繋いだ連続攻撃も全て受け止められ

接近したところで入れようとした膝は逆の脚を払われ

仰向けに倒れたところで、鳩尾に一撃くらい、那智は意識を失った。

 

「勝負あったようだな」

 

鉄斎が静かに言い放つ。

そして今度は涼子が立ちあがり、レイの前に立つ。

手には何時も使っている赤樫の木刀とレイと同じ小太刀サイズの黒い木刀を握る。

 

「セェイ!」

 

涼子は始めの合図も無くいきなり赤樫の木刀で横に払う。

レイは素早く下がってその払いを避ける。

が、そこに涼子の小太刀の突きが襲い、右にステップして交したところで涼子はそのままの勢いで古代の柄でレイの喉をつこうとする。

今度は交すことが出来なかったレイは左手で涼子の右手を弾いていなすが、涼子はそのままの勢いでレイに突っ込む。

 

ガツンッ!

「痛っ!」

 

いきなり頭突きをかまされたレイは思わず後ずさり、さらに涼子は追い討ちをかけようと左から赤樫の木刀で切り上げようとする。

しかし予備動作もなく突然きたレイの左回し蹴りが来て慌てて右手でガードした涼子をフッとばす。

レイの瞳に危険な光が宿る。

そしてよろめいた涼子に今度はレイが始めて攻撃に転じて右膝を入れようとするのをすんでで交し

そのまま追い討ちをかけようとするレイから一挙に離れて、壁際に行く。

そして、そこにあった練習用のクナイを取ると、続けざまに四つ投げた。

レイは短い木刀でそれを弾き、さらに接近して左肘、木刀の打ち下ろし右膝、右裏拳

さらに左三角蹴りと続けるが急所から少しずらされ、最後の右回し蹴りもクロスガードされる。

 

「ツゥ!」

 

再び吹っ飛ばされた涼子に、今度こそと詰め寄ったところ

涼子が倒れたまま赤樫の木刀を無いでレイのすねを打つ。

 

「くぅっ!」

 

叫びそうになるのをこらえながら、レイはそのままうつむけの涼子の背中に乗り

さらに首に手を回そうとする。

そのとき!

 

「それまで!!」

 

それまで静かに見ていたシンジが鋭く静止の声をかけ、レイははっと我に帰り涼子の上からのく。

レイは多少脚が痛むようだが、特に問題は無いようだ。

一方の涼子は

 

「まだよっ!」

 

痛む体を叱咤しながら涼子は立ちあがり、もう一度長短二つン木刀を構えようとする。

が、

 

「そこまでだ御剣・・・・・・」

「師匠?」

「今、シンジ殿が止めなければ、レイ殿はそのままお前の首を絞め、最低でも落としていた」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「さてとレイ殿、見事でした」

「いえ・・・・・・」

「ワシの弟子にもちょうど良い勉強になった」

 

言われて涼子は顔をしかめながらレイに近づく。

 

「涼子さん、ゴメンなさい・・・大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、しかしレイさん強いのね・・・・・」

「ゴメンなさい、途中から熱くなってしまって・・・・それで」

「イイのイイの、真剣勝負だったんだからこれぐらい当然よ!でもまた勝負してもらうわよ」

「・・・・良いわ、でもいつまで」

「もちろん、勝つまでよ」

 

涼子はそう言うとレイに右手を差し出す。

レイも木刀を左に持ち、手を握って握手した。

微笑み会う二人

 

「いや、いいこといいこと」

 

そんな二人をシンジは手を組み、何度も頷きながら見ていた。

ちなみにレイに気絶させられた那智はひとみに引きづらレて道場の桟で寝かされていた。

 

 

 

 

「さて、ではシンジ殿にも私と手合わせしてもらおうか・・・・・・」

「はい?」

 

レイと涼子が道場のすみにさがり、涼子がひとみに、レイが美雪に手当てを受け始めていると

いきなり鉄斎がそういって木刀を一つ取り出した。

そして座ったままのシンジにむかて一挙に詰め寄る。

 

ブンッ!

 

抜き打ちので払われた一撃を飛びあがって避け

鉄斎が追い討ちにと繰り出した突きを体をひねって交し、次にきた柄での一撃を右手で受け止め

逆に蹴りを放って鉄斎を突き放そうとする。

が、鉄斎はクロスガードして、さらに自分から飛んで勢いを殺し、まったくのノーダメージ

その間にシンジは壁からかなり長い重く黒い木刀を取り上げた。

 

それからは技の応酬だった。

スピードとパワーと隊術で上回るシンジは重い木刀を片手で操り払い受け流しながら蹴りや肘ウチなどを繰り出そうとするが、鉄斎の怒涛の猛攻の前に禄に攻撃にも移れない。

一方鉄斎も様々な技を矢継ぎ早に繰り出すも、シンジの防御を崩せない。

技の応酬は一時間も続き、涼子は自分達の試合より数段上の攻防を細大漏らさず見ていた。

 

一方、ひとみは那智を母屋のほうの風当たりの良いところに連れて行って看病し

レイはジャケットを再び羽織り美雪と猫とじゃれたりなでたりしながら、ボウっと二人の攻防を見ていた。

たまにシップを貼った涼子に払われた足をさすったりして

 

そして鉄斎とシンジの攻防は一時間続き

最後に鍔擦り合いを繰り広げた後

どちらからとも無く離れ、鉄斎は構えを解き、シンジは微かに笑った。

 

「いや、久しぶりに良い鍛錬になった。礼を言う」

「いえ、ボクのほうこそ色々勉強になりました」

 

鉄斎は珍しく心底嬉しそうに笑い

そしてシンジも薄笑いで無い、こころからの笑みを浮かべる。

 

そんな二人を

特にシンジを、涼子は食い入るように見ていた。

 

 

 

 

 

「さすがにその体では今日の鍛錬は無理だろう。風呂に入って体を休めるといい」

 

鉄斎のその一言と、あんいより痛む体から、涼子はコレ以上の修練を諦め師匠の言葉通り風呂に入ることにした。

鬼塚家の湯船は総檜造りで大きい。

いつも湯を張ることが出来ず、残念に思っていたのだが、今回はレイと涼子、おまけでひとみと美雪

さらに後にシンジと鉄斎が入ることもあり、湯を張ることが許された。

 

んん〜〜♪〜〜〜〜〜〜ん〜〜〜♪〜〜〜ん〜〜〜♪

 

湯殿が良い香りに満たされ、涼子は自然と鼻歌混じりになる。

しかし、一緒に入っていたひとみはといえば

 

(なんで女子高生の鼻歌が銭形平次なの〜〜〜?)

 

ひそかに混乱気味であった。

 

「わぁ、レイさん、ホントに白いんですね。それにスレンダー・・・・・・・」

 

ひとみはレイを見て羨ましそうに言う。

確かに、レイは身長こそ高いものの、かなり細身で、でも胸はちょっと大きく

女性であれば羨望を禁じ得ない肢をしていた。

 

「そう、でもひとみさんもキレイ・・・・・・・」

「そうえすか?」

「凄くバランスがイイの・・・・ワタシあh見ようによっては筋肉目立つし・・・・・」

「いいですよ、凄くシルエットキレイなんですから」

「そう?」

「そうです」

 

体をスポンジですりつつシャワーをあびつつ互いを誉め合うふたり

一方涼子は髪を洗った後アップにして、この時始めて鬼塚家の檜風呂を堪能していた。

ふとみると、美雪がなにやら自分の体をみたり涼子やレイを見たりしている。

 

「美雪ちゃん、大丈夫、美雪ちゃんは今でもカワイイし、可憐だし。これからドンドン成長するから」

「・・・・・そう?」

「ホント、ホント、でもそのためには努力も必要よっ!」

「努力?」

「毎日牛乳飲むとか、御風呂の後マッサージするとか、走ったりストレッチしたり筋トレするとか」

「そう、キレイな体になるには努力が必要なの」

 

いつのまにかレイとひとみもきて、美雪にこれからの美容についてそれぞれ話し出していた。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと来るのが遅かったけど、御かげで久しぶりのチャンスかも・・・・・・」

「ちょと神矢君、ホントにやる気かい?」

「ええ、別に静馬さんじゃないんだから、協力してくれとは言いませんよ、だまっていてくれれば」

 

涼子に殲滅されて、少し来るのが遅くなっていた大作

来てみればちょうど女性人が風呂に入っていることを知り

さっそく前回の失敗も踏まえて脚立まで要してきて、風呂場の盗撮をしようとしていた。

那智も止めているのだが、元来格闘いがいでは強く出れなく、また興味が無いでも無く

さらに風呂場近くでは騒ぐことも出来ず、大作に流されていた。

 

大作がさっさく脚立を用意し、カメラを構えて倒錯を開始しようとする。

 

「お、もうすぐもうすぐ・・・・・・・・グェッ!」

 

そのとき、いきなり襟首をつままれ、首がしまり思い切り後ろにのぞける形になった。

 

「ぐ・・・・ちょっと那智さん・・・・・は、離してくださいよ・・・・・・」

「残念ながらつかんでいるのは氷室君ではなくボクだ」

「げ、碇君ですか・・・・?」

「そう、悪いがボクはレイの麗しい肢体をそうそう野郎ごときに見せたくないんでね」

「見逃してくださいよ、ちゃんと涼子さん達をとったフィルムとビデオ渡しますから・・・・・・・」

「ダメ」

「減るもんじゃないんだし・・・いいじゃないですか・・・・・・」

「なんですってぇ!!」

「げ、涼子さん!?」

 

まどから涼子が顔を覗かして大作に凄んでいた。

大作の顔が一挙に青ざめる。

 

「大作君、乙女の敵の末路、教えてあげましょうか?」

 

言葉も出ず、首をを横にはげ氏ウ振る大作

しかし、裁きの女神は非情だった。

 

「くらぇ!熱湯攻撃」

「ギャァー――――――!!」

 

熱い御湯をたっぷり浴びて、その後シンジの手から逃れて地面に落ち

大作はもがきまくった。

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、二種類のカレールーに3種類のナン、さらにフルーツヨーグルトか、南雲先生洒落てるわね」

「おいしいです」

「・・・・・ほんとオイシイ」

「そうか?そういってくれると時間をかけて作った甲斐がある、ちなみにこのナンは・・・・・・・」

 

料理を誉められて、慶一郎がご機嫌で説明を始める。

風呂からあがって、涼子はレイに気孔によぷ治療をしてもらい

ひとみは美雪の勉強を大作の代わりに見て

シンジは鉄斎と将棋を討ち

那智は煩悩退散とばなりに瞑想などして過ごしていたが、五時ごろに名って速い夕食にしたのだった。

食卓を楽しく囲む面々

しかし

 

「あ、これ先生が昼間からつくっていたやつですよね、おいしいな、出来ればもう少しほしいなぁ・・・」

「なんで僕までこんな扱いなんだ?」

 

離れた場所には、箱ご膳の上に皆と同じ食卓を置かれた那智と

同じく箱ご膳にチョロっとだけルーとナンのはいった小皿をあてがわれた大作がいた。

 

「しょうがないでしょ、座る場所がもうないんだから」

「だからって神矢君はわかるがどうして僕まで!?」

「だって、一番弱いんだもの」

「なに!?」

 

さすがに弱いと言われて黙っていられない那智

しかし涼子は辛辣だった。

 

「だって、アナタ静馬に負けたんでしょ、そしてレイちゃんにも一太刀も浴びせられなかった」

「ぐっ!」

「それに大作君を結局止めれなかったんだもの、ちゃんとご飯にはりつけただけイイじゃない」

「ぐぅ!?」

「静馬なんて何時もそこが指定席だし、この間は除きしやがったから柱に括り付けてやったんだから」

「那智さん・・・・・・・・ここではコレがルールなんですよ。大人しく従いましょう」

 

涼子が自信たっぷりに言い募り

大作が諦めと溜息と供に那智を諭す。

 

(な、なんて無茶苦茶なんだ!?)

 

那智は余りのことに混乱していた。

 

 

 

 

 

 

「じゃぁ、ちゃんとひとみを送るのよ。送り狼になったら承知しないからね!!」

「するか! そんなこと」

「そ、じゃ、早く行きなさい」

「ぐっ!」

 

夕食が終わってしばらく各々休んでから

今日はこのまま御開きと皆帰路につく。

 

「あ、それから、あした午後、一時から私達をバイパーズ・レイブに案内してね」

「は!?」

「だから明日案内するの!」

「君はもう場所もルールも知ってるだろう?」

「私じゃなくて、シンジ君とレイちゃんを案内するの、やるのやらないの!?」

「・・・・・やります」

「じゃ、ひとみ!また明日よかったら一緒に行こう」

「・・・・・・わかったわ、涼子ちゃん・・・・・」

 

半ば諦め気味に約束するひとみ

那智は訳の判らない迫力に押されて、明日の案内を承諾してしまう。

少し付かれた様子で。那智は自転車の後ろにひとみを乗せて、ゆっくりと去っていった。

 

「さぁ、涼子さん、行きましょうか」

「送ってくれるの?」

「そのぐらいワケないですし、体、まだ少し痛いでしょ?」

「あそうね、じゃぁ御願い」

「ええ、えでゃヘルメット」

「わかったわ」

『レイ、先に帰ってて』

『エエ』

 

レイが滑らかな加速で先に出る。

 

『しっかり掴まってくださいよ』

 

シンジはシルバーのKLE400に涼子を乗せると、そのまま走り出した。

 

 

 

 

「どうでした?碇兄妹は」

「うむ・・・・・・妹のほうは御剣も氷室の息子もまるで歯が立たないようだった。まだホトンど実力を出していなかったな」

「兄のほうは?」

「ワシが半ば全力で仕掛けても一時間まったく防御をくずせなんだ」

「え!?」

「なかなか面白い生徒が増えたな、慶一郎」

 

鉄斎は愉快そうに、あるいは意地悪に笑いながら歩みさる。

のこされた慶一郎は夕日を眺めながらつぶやいた。

 

「いったいなにものなのやら・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

(背中、前はほんの少し香水の匂いがしてたのに・・・・・今は石鹸の匂いと少し汗の匂いがする)

 

再び体をシンジの背中に押し付けて、しがみ付いている涼子

周りの景色がひたすら後ろに流れていき、静かな走りがどこか心をあやふやにする。

 

(でも、イヤじゃない・・・・・・むしろイイかも・・・・・)

 

半ばうっとりしつつ、涼子はシンジの後ろでそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

PS

 

「御帰り、シンジ」

「唯今・・・・・・・やっぱり不機嫌だったねレイ」

「・・・・・・別に・・・・」

「涼子はどう?気に入った?」

「ワタシよりシンジが気に入ってる。シンジ,涼子にかまいすぎ・・・・」

「そう?」

「そう、だから今度はワタシの番なの、今夜は眠らさないの・・・・・・」

「明日はまた飛天神社に朝からいくんだよ」

「大丈夫、なんとかなるわ・・・・・」

 

碇家の一日はコレからのようだ。

 

 

(つづく)

 

 

 

 

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