前回までのあらすじ
マウントブルー
その極寒の地に隠れたコロニーに到着して以来、夜な夜な、夜、雪山へと向かうシンジ
そんな彼に唯一気付いていたレイは、自らのエヴァ・スペキュラーと共に彼の跡をつけるのだった。
何故か気になる彼の跡を
それは寂しさからなのか?
それとも、どこか似た彼に同情しているのか?
自分が何故、そんなことをするのか
レイには分からなかった。
ZOIDS IF STORY
第10話
夜
その3
「何をしに来た?」
「へ?」
よいよ、尾根の天辺まで着いて
しかし、一向にこちらに気付いたように見えない、ただ空を見上げつづけるシンジと
気付いているはずなのに、なんらリアクションを起さないシャドーに
しめたとばかり、雪の積もる中、器用に音無くシンジの後ろに回り込んだレイ
よいよ、驚かそうとしたそのとき
シンジは、淡々と
降りかえりもせずに声をかけた。
「い、いや……その」
その、こちらのことを気にした風でもない
無視の少し手前といった様子のシンジに、レイは躊躇し、どもる。
「や、やぁ、こんな雪の夜に、寒い寒い雪山に登る珍しい人見つけたからさ、何してるのかなと気になって」
「…………………」
「で、まぁ、ここまで来てみたんだよ。君こそどうしたんだい?」
「…………………」
「おい、シンジ?」
「…………………」
「無視するなってば!!」
『君がだまってると辛いいんだ』
取り繕うように早口でまくし立てたレイに
しかしシンジはまったく言葉を返そうともしない
『僕はどうでもいいのかい?』
怒って見せながらも、心の中が拒絶への恐怖でいっぱいにになる。
しかし、それは決して見せてはならない
だから
「ちっ!ホントいやな奴だよ、君って」
「………………」
「ああ〜あ!!まったく、こんな礼儀知らずのことなんて気にせず、暖かい部屋で寝てれば良かった。ホント」
「………………」
「ほ、ほら、スペキュラー、もう帰ろ!シャドーもこんな奴に付き合わされて可愛そうにね」
必死に
取り繕うように憎まれ口を叩く
己を守るため
しかしそれも、まるで反応を示さないシンジにもろく崩れそうで
『なにさ、カッコつけて!君なんか気にした僕がバカだったよ!!』
腹が立つ
だがそれ以上に何故か胸が痛い
レイは、その場から逃げ出そうときびすを返す。
そのとき
「おい………」
「な、なんだい!?」
「その手に持ってるのはなんだ?」
「へ?こ、これかい?さ、さあね?」
歩み去ろうとしたレイの雪を踏む足音に
首だけ後ろに向けたシンジが問いかけ、レイは再び慌てる。
しかし、ここで弱みは見せたくない
「そんなこと、どうでもイイだろう?ともかく僕は帰って寝るんだから」
「マントのようだが?」
「さ、寒かったから上にさらに着ようと思ってたんだ。イイだろ別に」
「ふむ」
「ちょ、ちょっと?」
「貸せ」
しどろもどろに言い訳するレイにシンジが近づき
レイからあっというまにマントを取りあげる。
「な、何するのさ!?」
「来い」
「へ?」
抗議しようとしたら、思いきりてを惹かれた。
溜まらずシンジの、その女の子の如き見かけとは裏腹に、大人になり始めた少年らしい相応に逞しい胸にレイは収まる。
「ちょ、ちょっとなにするのさ!?」
「黙ってろ」
有無を言わさず片手で抱くと、一方の手でマントを上から羽織る
かなり大きめのマントに、二人がすっぽりと納まる。
「ここが良いだろう」
すでに雪はやみ
晴れた空に星々が瞬き
そして月が輝く
「…………………」
つもる雪の上に突き出た岩の上
雪の無いそこにシンジは腰掛け、膝の上にレイを座らせる
頭以外のホトンドは、レイのもってきたマントに包まれたまま
レイはこの突然の出来事に頭がショートしたのか
まったく反応を返せない
「飲め」
「な、何これ」
「酒だ。温まる」
「お、お酒かい?」
「イイから、口当たりは悪くない」
ぶっきらぼうに進められたのは、銀の水筒に入れられた果実酒
その良い匂いに少し落ち着き、軽く口につけると、確かに飲みやすく
しかし度数は高いのか、胃から喉にかけて、カーっと熱くなる。
「………月が綺麗だ、お前……」
「へ?」
「いや……」
『ふ、なんでこいつを見て月なぞ思いついたのか?』
整った容姿だが、どちらかといえば少年じみたその顔に、シンジは内心苦笑する。
それまで、星しか眺めていなかったシンジ
おぼろげな過去の幻影は消え去り
今は明るい月が、二人を
そして雪のやんだ夜の銀世界を照らしていた。