「だめね、これじゃあ。ただの嫌味にしか見えないわ」
「これもだめね、全然思っていないもの。 ああー、面倒くさいわね。計画はもう完璧なのに」
「こんなこと書いても信用する筈ないわね。 お互い立場ってものもあるし、向こうはこっちを敵視してる筈だしね」
「またネルフが何か企んでいると思われるだけね」
「これはちょっとくさいセリフね。柄じゃないわ」
「これは、下手をすると検閲にひっかかる、か。 希望っていう言葉もまずいわね」 「どうしよう。いっそこんな手紙書くのもやめて、 全部忘れてしまおうかしら」 後に「オデッセウス計画」と呼ばれることになる太陽系内惑星探査計画は、この一人の女性の力だけで立案されたといっても過言ではなかった。 発想のきっかけは、マヤとシゲルが交わしていた何気ない会話の中にあった。 「でも、日本重化学工業共同体って一体何を考えてるんですかね」 「さーね。所詮、政治屋とつるんだ金儲けしか考えていない連中だからね」 「あのJAの格好って最低ですよね。センスのかけらもないんだから。 少しは先輩のデザインを見習って欲しいですよね」 「ま、格好はともかくとしてさ、いくら長時間動くって言っても、 弱けりゃしょうがないし。使徒を倒すための兵器なんだから」 「リアクター内臓の格闘兵器なんて信じられませんよね」 「ああ。危なくって見てらんないよ。 今回だってミサトさんがいなけりゃどうなっていたことか」 「いっそ、どっか人のいないところでやって欲しいわ」 「そうだな、宇宙でなんかならいいんじゃない。 さすがにエヴァを宇宙に持ってくことはできないから」 突然、後ろからかけられた声に、コーヒーブレークの気楽なひと時は終わりを告げた。 「あら、それいいアイデアね。いただいとくわ」 「せ、先輩。いつからそこに?」 「たったいま帰ってきたところよ」 「マコトと葛城一尉は御一緒ではなかったんですか?」 「ミサトはちょっと一人で考えたいことがあるって残ったわ」 「じゃ、マコトはその付き合いってわけですか」 「そうよ。よくわかったわね」 「それで先輩。エヴァを宇宙に持っていける様に改造するんですか?」 「あら、違うわよ。JAの方よ」 「と、言われますと?使徒迎撃用宇宙兵器として採用するんですか?」 「いえ、それも無理ね。弱すぎるもの。 エヴァじゃないと使徒には勝てないわ。 でも戦闘以外になら意外と使えるかもしれないわ」 「うまく行っても特許料は請求しませんよ。安心してください」 「あらそう。ありがとね、青葉君。 そうね、宇宙に持って行くにはちょっと大きすぎるわね.....。 JAの長所を最大限生かせる計画。ああ、こんなのどうかしら.....」 「あ、せんぱーい。どこ行くんですかー。待って下さいよー。せんぱーい」 結局、時田への手紙は出されなかった。 従って、この計画は日の目を見ることはなかった。 赤木博士の存命中は。 マギの解体作業中に、リツコの個人用記憶領域にあったシュミレーションプログラムを見つけたマヤが、記憶と残された断片を頼りに計画を再構成して公表したのだ。 計画は惑星の相対位置の変化を計算しなおすだけで、ほとんど手直しすることなく採用された。 人々は、改めて故赤木リツコ博士が天才であった事を認識したのだった。 |