葬儀には、様々な階層の人々が集まってきた。
参列者は、お互いにその数の多さに驚く事になった。
六分儀老人は、深い付き合いは避けていたので、多くの人は、彼とほんの僅かな時間を接していたに過ぎない。
収監されていたときの傷と後遺症の為、長期の就職は無理だったから殆どパートのような仕事にしか就けなかった。
にも関わらず、接した多くの人間は、その後の人生に大きく影響を与えるような感銘を受けていた。
そして集まった者達は、初めて知る事になる。
彼が伝説のサードチルドレン、碇シンジのその後の姿であった事を。
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政府は、それまで非公開となっていた、チルドレン達の資料を公開した。
これは惣流前総裁の遺志に基づく。
世界は、サードインパクトに際し、人類全体を担った碇シンジが、どのような人生を送ったかを知った。
その人生は、確かに市井に埋もれた変哲も無いものだった。
だが、その全ての記録は彼が驚嘆すべき誠実さで生き抜いた事を示していた。
やがて、彼の人生は一つの神話となった。
それは、優れた者の行状を、自分達と異なるものとして、またしても分離してしまう、愚かしい行為であった。
けれど、ほんの僅かながら、神話の中から命を汲み取るものも現われるのだ。
そうした時、世界は一瞬、人々の上に圧し掛かる重荷を軽くするのだった。
(The End)