それは、ある深夜
レイは、ふと夕方のニュースを思い出し
それまでキーを叩いていた手を休めた。
椅子の背に掛けてあったカーディガンを羽織って、テラスへと足を運ぶ。
大門街の夜
高台の、しかも高層マンションの最上階から見る夜空は、意外と星が近かった。
外は身を切るような寒さ
吐息が薄く白い蒸気に変わる。
身体を震わせながら空を見上げれば
そこは目を見張る程の無数の星達の踊る夜空
それだけでも溜息の出る位美しい光景
でも、今夜の目的はそれとは別の空
『ふ・た・り』
外伝
「二人で見上げた星空」
「―――起きてたの?」
ベランダの手摺に寄り掛かって夜空を見ていると
少し離れた場所から声が聞こえた。
視線を移すと、同じ様に自宅のベランダで空を見上げる彼がいた。
これまで生きてきた十七年
同じ空の下
同じ屋根の下で暮らす同居人
碇シンジがいた。
「仕事もあったし、ついでにね」
裏、表ともども、ここに来てからそれなりに忙しいシンジ
最近は遅くまで仕事をしてるときも多かった。
だから、ついでに起きていたのだ。
二人はすぐに視線を戻して、意識を空へと向けた。
通常より鋭い視覚はより多くの星々を捉えていた。
深い藍色の空に白い光が一筋、瞬く間に流れて消えた。
「あ………っ」
また一つ
少し離れた星が小さく流れた。
「こう早いと、願い事なんて言い終わる前に流れちゃうね」
珍しくセンチなことを呟くシンジ
先程から何か小声で呟いては、失敗して溜息をつく。
容姿は多分に女性的
アッシュブロンドの髪と紅蓮の瞳という神秘的な容姿とはいえ
身長196にもなる十七の青年がいうと少し妙である。
そんな彼をレイは呆れながら見ていた。
「―――欲張って沢山願いすぎると
叶う願いも叶わないわ」
「ボクは一つしか言ってないよ。
レイはなにか願わないの」
「ワタシはアナタと違って手早くお願いしたわ」
「ふ〜ん」
苦笑し、頭を掻くシンジ
「でも、三回言い切る前に消えるんだよね……」
諦めの悪い彼は、再び願い事を呟く。
ここからは聞えないけれど、余程叶えたい願いらしい。
「そうだ!ちょっと近くの山いって見ない?
ここよりはよく見えるかもっ」
願い事を中断して彼が言う。
たまにこんな突拍子の無いことを言うことがあるのだ、彼は
レイはまたかと呆れる。
「今から?構わないけど………明日学校よ?」
「大丈夫、大丈夫。
これからすぐに行こう!
ボク達の愛車で夜中のツーリングだよ」
彼は彼女の返事も聞かぬまま
部屋の中へと戻って行った。
二人が己の髪の色をカラーリングにした愛車
アッシュブロンドと蒼銀のKLE400を飛ばし山を上って行く。
深夜だと言うのに、頂上公園にはあちこちに人が見受けられた。
「皆考える事は同じなんだね…………」
ベンチは全て埋まっている。
二人は公園の隅にある電波塔の天辺に座った。
見れば涼子やひとみなど、大門高校の面々もいる。
でも、今は声をかけなかった。
そのまま人ごみから離れて行く。
鉄条網付きの三メートルは有る鉄柵を飛び越え、さらにはしごも無い天辺に上る。
さすがにここは誰もいなかった。
しかも丁度人々が向いているのとは正反対にその電波塔はあった。
だから、誰も見咎めない。
「こんな所に昇るなんて………」
「いいじゃない。特等席だよ」
「なんか、行儀悪いわ」
「まぁ、文句言わあい。一番いい場所だよ、多分」
確かにここなら人影も視界に入らないし、空にも近い。
座り心地、居心地はともかく
ある意味確かに『特等席』かもしれない。
二人背中を並べる様にして、再び頭上の空を見た。
先程よりもずっと開けた世界に映る満天の星達
幾筋もの光線を引きながら流れ落ちていく。
短かく
長く
儚く
強く
隣で座っている彼が、何かを口にした。
始めは聞き取り難かった
だが、何度も繰り返している内に私の耳にもハッキリと届いた。
「次の流星群も、一緒に見られますように……」
少し照れながらも、何度も呟く彼
急に隣にいる事を意識してしまって
彼の顔を見るのが恥ずかしく思えた。
レイも心の中で、何度も願いを唱える。
どうか、このままずっと供にいられますようにと………
ps・涼子は願っていた。
『剣の腕が上達しますように
そして、悪人をもっともっとなぎ倒せますように』
ひとみは説に祈った。
『涼子ちゃんが少しは大人しくなるように
できれば涼子ちゃんの犠牲者になる前にみんな改心してくれますように・・・・・・・』
と、
そして、レイとシンジはまた願った。
『――――涼子(ちゃん)が欲しい……………』
―――――――趣味でも一致している二人だった。
まだ、手は出していなかったが