Kanna-T's Original Short Novel - Never can't get it


隣合せのファンシーフリー
跡垣

Fancy Free in diary life





蛇足章
択一問題






「いくら秀明さんだって、それは酷過ぎますっ!」
「その言葉をそっくりそのまま返すぞ!」
 珍しく、自分達でも珍しいと思うくらいにこの日は大喧嘩をした。近所と言うのが存在しないのを良い事に、恥ずかし気も無く大声で言い合った。
 だが、ご近所さんは居なくても、ちゃっかりその事実を把握してしまう人が約一名居た。偶然にも日本酒を持って参上した香奈子だ。
 そして香奈子が入ってくると同時に、その後暫くは現実の事と認識するまで時間が掛かった事を体感する事になる。
 まさか、生きている内にかの有名な「だっちゃ攻撃」を食らうとは思わなかった。
 当然、香奈子に問い詰める。
「なんだって、あんな装備があるんだよっ!」
「だって、自主防衛手段は必要でしょ?それに、実用化される前に出力の問題で保留されたままだったから、そんなに危険は無いわよ。電圧はあるけど電流は微量だから、まぁ少しきつめのスタンだと思えばいいのよ。」
「…少し火傷したぞ。」
「だから少しキツイのよ。」
 当の柚希菜は香奈子が来ると先にフテ寝してしまった。彼女も少しならばいける口なのだが、今日はそんな気分じゃないらしい。
 俺も別部屋のソファーで寝たい所だが、香奈子がそれを許してくれず、結局付き合わされる事になった。
 そして、柚希菜の左手の問題は解決してくれそうにないまま、これ幸いにと酒の肴にされる話題に、強引に移行されられる。
「そりゃ偶に喧嘩するのも良い事だけど…柚希菜ちゃんが怒るのを見ると、ほんとビックリするわよね。」
「ああ、驚くって言うか…攻撃されるとは思わなかった。」
 お陰でまだ体中が痺れている感じがして、折角の吟醸酒の味すらも分からない。因みに、ツマミになっているのは、急拵えの水炊き鍋と鯛の刺身だ。
「で、何は原因なのよ?…鳥が無くなったわよ、足して。」
「いや、まぁ…他人に話す事じゃない。…自分で好きなだけ入れろ。」
「今更何を。この関係で秘密も何もないじゃない。…野菜も入れるわよ、後でおじやにするんだから。」
「まぁ、な…けど、香奈子が入るとややこしくなりそうだから。…まだ食うのか?夕飯食べてきたんじゃ?」
「失礼ね、過去何度も解決しているじゃない。…食べて無いわよ。今日は飲むって決めたんだから。」
「あれは解決とは言わない。…拘るねぇ。」
 何故か知らないが、香奈子と会話すると時折内容が二重になる。最近ようやく慣れて来たが、悠子はこれが普通だと言っていたので、慣れるしか無いらしい。
「で、原因は何?」
「まぁ、その…お前さんだから言うが…互いの性癖の事だ。」
「へ?」
「いや、その…ほら。この前の香奈子の所為で…」
 殺気。
「…香奈子さんのお陰で、色々あってから、彼女もそこそこ慣れてきたらしい。」
 笑みが怖い。
「で、偶々だがそういう話題になって、この際二人ともハッキリさせておこうと言う運びになって、思い切ってそれぞれ考えている事を明確にする事にしたんだ。」
「…それはそれでどーかと思うよ?」
 笑みが消え、まるで変なものでも見るかの様な目線を寄越している。ちびりちびりやっているお猪口がまた様になっている。
「別にいいじゃないか、二人の問題だし同意の上だ。…兎も角、それで互いにどこかおかしいと思い始めたんで、どっちが余分に変なのかと言う事になり…」
「言い合いになった?」
「もう少しで撃ち合いになったかもしれん…」
「でも、彼女が怒るって…結構凄い事よ?」
「まぁそうなんだが…」
「どんな会話したの?」
「それはだな…」
「言っちゃいなさいよ〜」
 目が据わり掛けてる。酔っぱらい相手だから仕方が無い。
「どっちから行こう?」
「アンタからね。ある程度は男の事を知ってるし。」
 流石、説得力が違う。
「…まぁいい、率直に簡素に言おう。コスプレは嫌いじゃない。どちらかと言うと攻め側。後ろも結構好きかも。摘み癖がある。言葉責めも偶にする。おもらし大歓迎。泣かれると更にレベルアップ。手を縛った事もある。玩具も…実は通販で買ってしまった。」
「……」
「だがそれでもっ!俺はこれでもノーマルだと思うっ!譲ってもノーマルの範疇だと思っている!」
「…で、柚希菜ちゃんは?」
「これがまた曲者でね…。最初は至って普通だったが、回数を重ねる度に確実にレベルアップしている、これはこれで嬉しい事なんだが。」
「まぁ、そうよね。」
「最初は受け側が殆どだったが…」
「攻め側になった?」
「いや、微妙に違う。誘い受けならぬ“受け誘い責め”なんだ。」
「はぃ?」
「つまりな…最初は普通に受けてくれるんだ。だがこっちがペースダウンし始めると、受けながらも巧妙に誘いつつ、最終的には“自分が受ける様にこちらを誘導しつつ、実は攻めている?”と言う感じになるんだ。」
「ふ…複雑ね。」
「巧妙に、何時の間にか主導権が向こうに行ってるんだ。更に…」
「まだあるの?」
「………粘液系が好きらしい。」
「……え?」
「俺じゃなく向こうが、だ。しかも百歩譲って風呂場とかならいいが、それじゃ駄目らしい。基本的には寝室で、出来れば床がいいんだそうだ…。シーツの洗濯だけでも大変なのに、カーペットでは流石に、な…」
「…で、でも…漫画とかじゃないんだから、量って限られるでしょ?」
「そうなんだ。だから、ローションだとか、時には疑似モノ用意しないとならなかったりする。」
「た、大変な懲り様ね…」
「色々とな…。まぁ、そういう話を互いにした訳だ。」
「あ、はは…」
「で、どうよ?第三者から見て、どっちなんだ?」
「む、難しい問題ね…」


 重い足取りで帰ってきた香奈子を、普段通りに悠子が迎えた。
「あら、どうしたの?」
「博士…量より質で負けました。」
「だから博士じゃないわよ。…どういう事?」
「上には上が居るって、正しく認識しました。」
「…香奈子?」
「…今日は寝ます、おやすみなさい…」
 と、ベッドに転がり込んだが、結局悶々としたまま朝を迎えてしまう。


 香奈子が憂鬱な日が始まる事を覚悟した頃、別荘宅の庭では柚希菜が洗濯物を干していた。
 艶やかな肌をキラキラとさせながら、洗い立ての白いシーツに付いている染みを、悦とした笑みで眺めている。










「フィクションとは言え、悲しいお話です。」
「…ある意味、な…」










おわり




at end of story

跡垣と言う瓦礫の中で




 柚希菜はこんな子じゃありません。
 強いて言うなら、何年経っても羞恥プレイが可能な子、とでも言っておきましょうか…

 3周年記念として描き始めたこの話ですが、既に1年以上も過ぎようとしています。ここまでくると記念とかそういう問題では無くなりますね(泣)
 最初はもっと簡素に、3話構成くらいで、長くても4ヶ月くらいで仕上げる予定だったのですが、様々な事情と言うよりは、私の勝手気ままな性格の所以でここまで長くなりました。自分でも驚異的なスパンの長さです。
 当然、その間にもリアル世界での私の生活は二転三転しており、考え方や感性への影響も大きく、第一章から見るとまったく統一されていない文体になっていたりします。
 これを成長と見るか単なる不手際と見るかは…難しい所です(笑)

 言い訳は兎も角。
 元々のお第は、毎回上に出ている様に、
「決して手に入らないもの」
 から始まりました。
 漠然としていて無理難題をおっしゃる…と思いながらも、脳内補完で「繋がればイイ」と解釈し、こんな話に仕上がりました。
 最初と最後だけを決め打ちして、後は世の流れ水の流れの如し、で進めていったのです。
 私が物語りで伝えたい事は、非常に単純で明確です。それをストレートに受け取られる事は少ないでしょうが、コンセプトとしての「ある程度分かりやすい」と言うのが達成出来ていればなと。
 まったく分からない、全部を伝えきる、と言うのは意に反します。なんとな〜く、伝わればいいかなと。
 なので、今回の作品テーマは「コミカル+ちょい萌え」なのです。
 色々と細かい事も文中にあったりはするのですが、それはテーマに付属させているだけのプラスアルファ程度でしかありません。
 難しい事は嫌いです。これは“作品”と呼べるものかと言うのも読者さん任せです。個人の趣味のレベルなので質だってたかが知れているでしょう。
 だから、物語で“モノ語る”訳でも無く、どちらかと言うと“お話”に過ぎません。
“どっとはらい”
 で終われれば、それでいいかなぁと。

 これだけブランクが飽きつつも、ギリギリで一軍スペースにこんなへっぽこ作品を置き続けてくれたCREATORS GUILDのDARU様、そして最後までお付き合い下さった読者の皆様方に多大な感謝をさせて頂きます。
 こんな私でも、妥協や打算もありつつも、一つのモノを作り上げる事が出来て、更にそれを公開出来る場所があると言うのは、嬉しさと共に有り難みを感じます。
 作品の礎となった、数々の資料と協力して頂いた方々。
 図書館の蔵書。ネットに広がる数々のデータベースサイトや情報ページ。
 Pentium MMX200なのに、Win2kを無理矢理入れてもなお稼働してくれているノートパソコン。
 シェアウェア以上の働きをしてくれるエディタ。
 そして、ネット上で知り合ったのにも関わらず、数年以上もの長い付き合いと、多くの助言を頂いた、主命さん・川瀬さん。
 あなた方の萌えへの多大なる熱意が無ければ、この作品は存在しなかったでしょう(笑)





「萌える君は、儚く切なく、そして何よりも気高く美しい」





 では、また。次の作品でお会いしましょう…





西暦2002年1月18日 遅筆もここに極めり
某所自宅(配線地獄)にて
Writing by 神奈 透@非持続性作家

この物語はフィクションです。
物語中に登場する国家・場所・団体・企業・個人等、
それらを含めた全ては、実存のものとは一切関係有りません。
それらについてお問合せの無い様、お願いします。
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