双子の兄弟が四歳から七歳の間
その期間だけ、碇の古くて巨大な
暗い歴史が染みついたような屋敷が、子供達の声で賑わっていた。
兄妹の幼なじみの、赤の少女
彼女は度々碇家を訪れていた。
多分七歳までの間、赤い少女は誰よりも二人の兄妹と長くいた。
そして共通の友人
黒ジャージの関西弁少年
カメラを片時も離さないミリタリー・オタクの少年
そして、彼らのお目付役と兄妹と仲良くすることを名目に
黒ジャージの少年に付いてきたクラス委員のソバカスとお下げの少女
彼らがやってきては、いつもいた赤い少女と兄妹は広い庭で鬼ごっこをし
屋敷全体を使ってかくれんぼをした。
そんなときだけは、どこか住人すら威圧するような古い屋敷も
ゆるやかな温かな空気にみたされるようで
使用人達にも自然に笑みが浮かんだりした。
なにより、普段おおよそ大人しすぎる所のある兄妹が
使用人達が見たことがないほど、たしかにはしゃぎまわったりしていたのだ。
時折、子供達が足を引っかけて転んだり
角に小指をぶつけたりして泣き出したりもする。
そんな子供達をあやし、宥め、あるいは遠くで見ている屋敷のもの達も
小春日和の暖かさを感じていた。
短かった
しかし、今も兄妹の心の中で柔らかな暖かさを伝えている過ぎ去った日々
それは兄弟の胸の内に昔と変わらず大切にしまわれていた。
ふたり
第四話
『家』
しばらく降り続けていた雨も午後になると止んでおり
僅かに強い風が雨上がりの湿気を程良く追いやって
雨の後の澄んだ空気を楽しみながら、一行は時折水たまりをよけながら歩いていた。
「それで、これからシンジ君とレイちゃんのお家に行くわけだけど・・・・どのくらいになるんだっけ? 」
「ここから歩いて三十分ぐらいになりますよ、すでに見えてるはずですが・・・・」
そう言ってシンジは自宅の方角・・・・・向いて探す。
転校初日そうそう、一対多数によるデスマッチ
しかも武器使用無制限というKファイト史上初の試みを提案し
おまけにあっさり勝利して見せたシンジは、本日お客になるべく二人
御剣涼子、結城ひとみを案内していた。
一方妹のレイのほうはといえば、ゲストの二人に挟まれて
人見知りの激しい彼女にしては珍しく、すでにかなり打ち解けており
その紅玉のごとき紅の瞳は和らいでいた。
「ああ、あれです。あの一際高い赤い煉瓦造りのように見えるビル」
「え? あれ? 」
シンジが指したのは丘の傾斜に立つ一際高い建物
造りは立派でおまけにかなり新しく、珍しく残った緑の中にある。
「家ってマンションなの?」
「いえ、あそこは丸ごとボク達が所有する物件だったんですが・・今はほとんどの部屋が売れて、屋上のペントハウスが我が家ですよ」
「ペントハウスって・・・・・・・二人って実は結構お金持ち? 」
涼子とひとみは、金銭的な感覚がかなり自分たちと異なると知り、唖然とする。
「大したことありあませんよ。それにどうせもとは親の金だったんですから」
「そう、たまたまあっただけなの」
「そうですか・・・・・」
「あ・・・・・・そうね・・・・・・」
おおよそ自分たちの資産に頓着している様子のない二人に
涼子とひとみは、もはやなにもいうことができなかった。
(むぅ・・・・・・・・・・あれって億ション? だったら一部屋売っただけで・・・・・・・・・・ああ、伝承の業物や新刀が何本買えるのかしら?)
(お金ってあるところにはあるものなのよねぇ・・・・・・・・)
心中穏やかではなかったが
「それじゃぁ、丁度近くの通りにコンビニがあるんです。そこでなにか買っていきましょう。ジュースとかお菓子とかはおいてませんし」
「え、あ、そうね! だったら今日はシンジ君とレイちゃんの引っ越し祝いだし、私たちがおごるわ」
「良いんですか?」
「ええ、もちろんよ! ね、ひとみ?」
「あ、ええ。そのぐらい当然よ」
多少ショックが残っていたものの
自分を取り戻した二人は、なにやら気負って請け負った。
もしかすると、なけなしのプライドを刺激されたのかもしれなかった。
「ありがとうございます」
「ありがとう・・・・」
シンジとレイは、様子が少し変なことには気づいたが
自分達の莫大な資産にも無頓着な二人だから、それがひとみと涼子をいかに刺激したかは
当然のことながら全く気づいてなかった。
その後
コンビニに寄った一行であったが
涼子が勢い込んでハーゲンダッツのアイスをバニラ、抹茶をはじめとして
紅茶、イチゴ等々、全種類をそれぞれ人数分買ったことからも
いつもは無茶を止めるひとみが、買い物かごにそれらを入れる涼子を止めもしなかったのも
さらにスナック菓子ではなくプリンなどを物色していったのも
「そんなに買わなくても・・・・・簡単にしましょうよ・・・・」
「いいのいいの! シンジ君は気にしなくても、せっかくのお祝いなんだから!! 」
多少困惑したシンジが涼子を止めようとしたのだが
涼子が強引に押し切ってしまったのも
「ワタシ達もお金だすの・・・・・・」
「いいから、碇さんはお兄さんと待っててね。すぐ済みますから」
申し訳なさそうにしていたレイがカンパを申し込んだのをことわったのも
やはり意地になっていたのかもしれない。
(結局安っぽい見栄にしかならないかもしれないが・・・・・・・)
結局、その他いくつかの飲み物を買ってコンビニを出たのであった。
ちなみに、涼子とひとみ、どちらが払うかさえ
“何故か”自分が払うとしばらく二人が譲らなかったのもまた別の話
しかし、やはりどこか惜しくあったのか
「重そうですし・・・・ボクが持ちますよ、涼子」
「いや、別に大丈夫よ。私も結構鍛えてるんだから」
涼子は何故か買い物袋を離そうとしない。
すでに木刀と竹刀の入った純和風の竹刀袋に鞄にバックを持っている涼子に
鍛えてるとはいえ1,5リットル入りボトルが三本も入った買い物袋は重いはずなのに
シンジの提案を何故か退ける。
「ひとみさんも、・・・・、ワタシが半分持つの・・・・」
「い、いえ、大丈夫ですよ。碇さん。これぐらいなんてこともありませんから! 」
ひとみのほうもアイスとプリンが沢山入った袋
それは丁度半分ずつ二つに分かれていたのに
涼子と違い、体も鍛えていないひとみには結構な重さであるはずなのに
やはり涼子同様妙にはっきりと断っていた。
やはりどこかでかかったお金
自分の手元から去ったうん千円が気にかかったのだろうか・・・・・・・・
喉元過ぎれば暑さを忘れると言うが
しばらく後
自分達の財布の軽さを嘆いた涼子とひとみが、馬鹿なことをしたと後悔したのもまた確か
「さ、ようやくここまでつきましたね」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
買い物も終えて、なにやらハイテンションでここまで来た二人であったのに
なのに再び絶句する涼子とひとみ
何せその建物は、近所の古いたたずまいの家々の奥
珍しい鬱蒼とした森がある傾斜に南向きに建ったそのマンションは
煉瓦を模した壁に覆われてシックな様子で
周りの緑と良く調和していた。
「・・・・・・・・こんなに緑の残ったところがあったんだ・・・・・」
「もともと、この丘一つ個人所有で、屋敷が一つあったのを買い上げて作ったマンションなんです。見ての通り立地条件も良いですからかなり値は張りますが、いいところでしょう? 」
眺めている二人の後ろからシンジは少し誇らしげに話す。
もっとも、ここを見いだしたのはシンジ達兄妹が持っている不動産会社であり
ここにマンションを建てたのも、やはりグループの建築会社
デザインしたのも当然別人
ただ所有しているだけのシンジが自慢するところはどこもないのだが
しかしシンジでも自分の家は自慢したいらしい。
「・・・・・・ほんとうに、いい感じ・・・ね、涼子ちゃん」
「ええ、森があって庭もあって・・・・・すごく落ち着いた感じがする・・・・キレイ」
徹底的に礼儀正しく接していたシンジが、珍しく鼻持ちならぬ態度をとったのも気にならず
ひとみと涼子は、この大門の街では滅多に見られないような光景にびっくりしていた。
「さ、ともかく入りましょう。立ち話もなんですし・・・・」
シンジはそれだけ言うとさっさと二人の脇を通り前に出て
先ほどコンビニで買ったものが入った買い物袋をようやく涼子とひとみから受け取ると
片手に担いで、正面玄関にまわる。
そこでカードを通してロックをあけると、振り返って言った。
「さ、どうぞ」
二人は促されるままに入っていき、その後ろからレイがついていった。
マンションの一階は他の階よりさらに天井が高くなっており
基本的には住民達の憩いの場と言った感じが強かった。
馬鹿みたいに広い空間がとられた正面玄関に続くホール
その両脇には壁越しに様々な店が並んでいる。
美容院、エステ、喫茶店、薬局、内科に歯科、ブティック、ジムにプール
DCに、当然ながら各の郵便受け
託児所まであるのは実は見たときシンジも驚いていた。
ほかにも警備員の詰め所の一つや簡単なブリーフィングルームなどなるのだが
しかし四人には今はたいして関係ないので、そのままホールを突っ切り
そしてなんとなくボタンがおしたかった涼子は案内するシンジの前に出ると
そのまま正面のエレベーターの上へのボタンを押そうとする。
「あ、涼子さん。そこは違うんですけど・・・・」
「へ? 」
シンジが呼びかけたとき
すでに涼子の手もとのボタンは緑から赤に色が変化していた。
更に言えばエレベーターは二つ並んでおり、しかも涼子はその両方を押していた。
「あら、押してしまいましたね。そのエレベーターは最上階までは繋がってないです」
「嘘!? 」
涼子は振り向いて赤く変化したボタンのランプと
その上にある表示がどんどんエレベーターが下がってくるのを見て
ちょっとマズったかなと顔を引きつらせる。
「こっちの奥に、専用のエレベーターがあるんです。非常階段もありますが使います?」
「最上階って何回?」
「十五階です」
「エレベーターで上がるわ・・・・・」
もう一度、バツの悪そうに数字が減っていく表示を見上げた後
涼子はシンジ達についてそこを去った。
ちなみにその直後、14階の住人が二つとも一階まで降りていくエレベーターに
多少いらいらしながら待っていたのは完全な余談
「ここです」
四人はホールから横にそれた細い廊下を通り
涼子やひとみが物珍しそうに店を見て
たまにシンジやレイに説明を求めたりして
そしてすぐに突き当たりのエレベーターと階段についた。
「今度は押して良いんだよね」
「ええ・・・・」
涼子はすでに押してから嬉しそうに笑みを浮かべてレイに聞く。
レイは特に何とも思っておらず、なんとなく涼子に微笑み返したが
しかし、親友のひとみは少し違った。
(涼子ちゃん・・・・そんな姿普段クールでストイックな涼子ちゃんしか見てない学校のファン達が見たら・・・・・)
ひとみはひそかにかなりの数に上るであろう
涼子の同性のファン達がこの様子を見たら幻滅するか喜ぶが考えたが
(絶対喜ぶだろうし・・・・・ああ・・・・別の意味でファンが増えそう・・・・・)
黄色い悲鳴を上げる女の子達と、新たな一面に今度は異性のファンも増えそうで
そんな連中が大挙して涼子にファンコールをしている姿を想像し、ひとみは頭が痛くなった。
しかもその想像は野太い声も混じるのだから気分が悪くなる。
ひとみがあっちの世界に行っている間に、エレベーターは早々と到着して
「ひとみ? 行くわよ」
顔を上げれば自分以外の三人はみなエレベーターに乗っていて
涼子が『開』のボタンをおして扉を開いている。
なにやら下を向いてぶつぶつ言っているひとみにどうしたのかと涼子が声をかけたのだ。
見れば、シンジもレイもこちらを怪訝そうに見ている。
「あ、はい!行きます行きます!! 」
やたら元気良く返事をしてひとみは慌てて自分もエレベーターにのった。
「上にまいりまぁ〜す(はぁと)」
涼子がご機嫌でエレベーターガールを演じている。
(涼子ちゃんが原因なんだよ、妙に浮かれてる涼子ちゃんが・・・・)
ひとみは心の中でため息をついた。
専用のエレベーターであるだけにどこかに止まったりせず
静かに昇ったエレベーターがそのまま四人を最上階まで送り届けた。
音もなく扉が開くと、正面に重厚な造りの、重い木の扉があり
そこは小さなホールになっていて、左の大きなガラス窓から大門の街が一望でき
そして右には小さなテーブルに花が添えられていた。
「やっぱここもすごいわねぇ」
「そうねぇ」
さすがに慣れてきた涼子とひとみはそれだけ言うと前を行くシンジについて扉の前まで来た。
ちなみにレイは先ほどからずっと二人の後ろをついて歩いている。
シンジは手早くカードキーをスロットに通して鍵を開けた。
「さ、どうぞ」
両手で扉を開き、片手で片方をささえ、ホテルのボーイのごとく軽く会釈をしながら促す。
「ありがとう!」
「あ、ありがとうございます・・・・・」
慣れないことをされてとまどいながらも、二人はまんざらでもないようで
軽く顔を赤らめながら、涼子は喜色満面で
ひとみはすこし恥ずかしそうに入っていった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・(ムゥ)」
レイはいつもは自分一人が独占している家でのシンジを見られて少し不満だった。
その唇は微かだが尖って、分かるものにしか分からないだろうがシンジを軽く睨んでいた。
「・・・・・プ・・・・ククク、レイ、レイ」
そんなレイを見てシンジは小さく笑いながら昔を思い出す。
「ちょと、バカシンジ! さっさとこっち来なさいよ」
赤い少女はいつも兄妹を
特に兄の方を振り回していた。
少しでもためらったりすると、その青い瞳を怒らせて容赦なくたたくほど
「センセもなんぎやな、こんなキョウボウ女に目ェつけられて」
「ホント、男ならだれでもどうじょうするよ」
そしてありがたいのか分からないコメントをくれる悪友の二人
「・・・・・・お兄ちゃん」
「まったく、スズハラもアイダもなにやってんのよ・・・・」
そんな様子を
特に兄が何をされるかはらはらしながら見守ったりして
ジャージの少年をぶつくさ文句を言いつつ目でおっているおさげの少女と過ごしていた。
そして、寂しくなると双子の兄にしか分からないくらい、茶髪の少女は拗ねたりしていた。
(レイがまた・・・・こんな表情をするようになったんだ・・・)
シンジは目を細めながら
そして拗ねたレイの手を取って部屋に導きながら
しばし考えていた。
その後
玄関、リビングと様々な場所で「キレイ」「すごい」を連発した涼子とひとみが
さらに見ようと兄妹の寝室や書斎まで覗き込もうとして止められたり
天井と壁の三面がミラーガラスで、外から見えなくとも中からは街が一望できる風呂とか
そこにあるサウナ・プールを見て涼子が「入る」と言い出したりと
なかなかにぎやかではあったが、結局四人はリビングに落ち着くことにしたのだった。
さすがに学校帰りで時間もなく、泊まり込むには準備をしていなかったから
それでも、涼子は随分と不満そうで
「今度はここに泊まりに来ることにするわ」
「・・・・・・・・涼子ちゃん、いきなり図々しいって」
もうすっかりここがきにいった涼子はまるで我が家にいるかのように
鷹揚に振る舞い、ひとみはそんな涼子を思わずたしなめる。
もっとも、たしなめているとはいえ、ひとみもまた兄妹の家に妙に惹かれていて
実は今日泊まれないのが随分と残念だったりした。
「いいんですよ。気に入っていただけて嬉しいです。是非今度は泊まりに来てください」
「・・・・・でも、部屋とかないじゃぁ・・・」
「大丈夫・・・・・・・・。客室が五つ開いてるの。また、書斎や寝室に入り込もうとさえしなければかまわない・・・・・・・・」
「す、すみません! 」
さりげなく、レイに自分達がしてしまったとてつもなく礼儀知らずな振る舞いを言われて
ひとみは恥ずかしさに顔を真っ赤にしながら謝る。
いつのまにやらちょっと意地悪が出来るほどに打ち解けたレイは
そんなひとみの様子に目尻を下げて楽しそうだ。
「そういえば、ここには誰が住んでるの? シンジ君とレイちゃんと・・・後ご両親? 」
すでに持ってきたアイスとプリンをほとんど平らげ
(実は四人揃って甘党で、涼子とひとみにいたっては祝いとして奢った手前もって帰るわけにもいかず、絶対に鋸隙がなかった)
リビングのど真ん中で、絨毯の上にクッションを置いたりして座り込んでいた四人は
ジュースを飲みながらこの街のことについて、そして東京の街について
あれやこれやと話していた。
そして、シンジとレイが住んでいた京都の話に移ってしばらくして
涼子がふと、そんな話題を振ったのだ。
「ああ、両親はついこの間亡くなりました。お手伝いさんも基本的に通ってますから住んでるのはボク達だけです」
なんのためらいも変化もなく、淡々とシンジは言ってのけた。
レイの方も変わりなくジュースの入ったコップを両手で添えて持ってぼんやりしている。
「「へ? 」」
だからこそ、涼子とひとみは最初何を言われたのか分からず呆然としたが
しばらくしてその意味を理解して慌てだした。
「あ、ゴメン! 無神経なこと聞いて・・・・・・・・・・・」
天敵というか自分の管理責任対象である“赤ザル”こと草薙静馬とその他数名以外には
基本的にとても素直な涼子はそういってポニーテールの髪を揺らして謝る。
ひとみのほうも、いきなりとんでもないことをさらりと言われて
遅ればせながらやってきたショックに意気消沈している。
「いえ、別段気にしなくて良いんですよ。もともとここ数年月に一度合えばいい方だったんですから」
「そ、そう・・・・・」
「それに、ここに来るなり涼子やひとみさんといった、とても素晴らしい友人が出来てボクは嬉しいんです」
そう言って、すこし悲しげに淡く微笑んで見せたシンジに
そして、わざわざ睫を揺らして瞳を伏せてうつむいたレイに
涼子とひとみは目を潤ませながら感動した。
特に感情の動きの大きい涼子の反応は顕著で
「シンジ君、レイちゃん!! 」
兄妹を呼びながら並んで座っていた二人をがばっと両脇に抱くと
その同年代と比較して豊かなほうの形の良い胸に二人の頭を押しつけきつく抱きしめ
「私、シンジ君とレイちゃんの見方だからね。困ったことがあったら何でも言って!! 絶対力になるから」
宣言するように言い放つと、こらえきれなくなったのかそのまま泣き出してしまった。
ひとみがそんな涼子を宥める前、兄妹は涼子に抱きしめられたままだった。
「それじゃぁ、また明日学校で会いましょう」
「お休みなさい」
ようやく涼子が落ち着いた頃
良い頃合いだったのでシンジは二人を食尽誘い、二人は家に形態で連絡を入れて
そしてそれまでのように和気藹々といった様子ではないが、打ち解けた雰囲気で食事を楽しめた。
しばし時がたって、お腹も収まった頃
リビングにある大きな柱時計は七時を告げて、ようやく涼子とひとみは暇をつげることに舌のだった。
「本当に送って行かなくて良いんですか? こんなに遅いのに」
「大丈夫大丈夫! 私だって伊達に飛天流の剣術を習う唯一の弟子ってワケでないだから!! そこらのチンピラなんてこの木刀の餌食にしてくれるわ」
「本当は、そんな人たちの健康のためにも送ってもらった方がいいんですが・・・・涼子ちゃん言い出したら聞かないから・・・・・・」
送ろうと尋ねるシンジに、木刀を取り出して構えて見せながら豪快に笑い
そしてひとみは涼子の木刀の餌食になるかもしれないチンピラ達に同情した。
「ひとみ、なんか言った? 」
「ん? なに涼子ちゃん」
「・・・・・・ま、いけど、だから送迎はなくていいの」
「・・・・・・・・そうね、チンピラは徹底的に叩かないと」
「ああ、碇さんまで」
「お、レイちゃん分かってるぅ! 」
レイまで涼子に同意したことにひとみは思わずうなだれて
涼子は我が意をえたとばかりに大いに喜び、頷いた。
ちなみに涼子はおおよそチンピラ、ヤクザやその類の犯罪者あるいはその予備軍に容赦なく
おそってきたりした日には、その哀れな犠牲者は下手すると半身不随にはなりかねない
『剣術は人を切ってなんぼ! 』
と豪語する鬼塚鉄斎という現代のサムライに師事し
にやりと笑いながら
『しかり』
と、答えるぶっ飛んだ弟子こと涼子である。
彼女のことすでにそんなもの達にしっかりと知れ渡っており
滅多なことではそもそも彼女の前に出ようともしれないだろう。
「じゃ、またね」
「今日はありがとうございました」
「また、明日」
「ええ・・・また」
そういいながらマンションの玄関で二人と兄妹は別れたのだった。
「ねぇ、シンジ・・・・・・・・あれ・・・・わざと・・・・?」
しばらくその場で涼子とひとみが行くのを見送っていたシンジに
レイは静かに問いかけた。
「そういうレイこそ・・・・・・・」
逆にシンジも問いかける。
しばし二人は見つめ合い
どちらからということ無く、微かに笑い合った。
そして、もう一度
薄暗い夕焼けの中、もうだいぶ小さくなった二人の影を見る。
「イイ友人が出来たのね・・・・・今日」
「ちょっとあざとかったけど・・・・・・・・」
それだけ言うと兄妹もまたマンションに入っていた。
今日の夕焼けは淡く赤くて暖かかった。
あとがき
なんと四話まででてしまいました。
なのに話の中では一日しか経ってない。
これでようやくオープニングが終了でしょうか?
でも、まだ主要キャラで出て無いのが多すぎます。
彼らを出すまで、ある意味世界観と人物の紹介みたいな話が続くのでは
そんなことを危惧する今日この頃の櫻です。
それから、重ねてお詫びを
現在未だ実家にいます。
間違いなく15日には自分のホームに戻るでしょうが
それまで
abs11@soccer.interq.or.jpのアドレスは返事の出しようがありませんしついたメールも読めません。
こちらに感想など送ってくださった方
もうしばらくお待ちください。
それでは、また次回で