第12話「それぞれの想い」


天井は青一色、雲一つない晴天。
そして地上には、人の情熱が作り出した巨大なレールが敷かれている。
そのレールに人生を賭ける人間達の通過点の最終章の舞台、鈴鹿サーキット。
決戦の始まりの地。

秋の色が濃いここ日本が舞台。ピット裏にはテントが立ち並び、ドライバーや
チームスタッフはそこで休息を摂る。
戦う人間全てが落ち着ける場所、それがこのモーターホーム代わりのテント。
シンジはそのテントが立ち並ぶ中を一人歩いてゆく。
周りの人間から激励の声を浴びせられながら、
ピット裏の1コーナーに最も近いテントにシンジは入っていった。
全体が黒く塗装され、入り口付近にチームエンブレムと【Missing Ling】と
書かれたテントに。
彼は安らげる場である筈のテントに緊張の面もちで入っていき、
中で偶然父親と会った。だがシンジは目の前の父親に臆することなく尋ねる。

「アベル・・・いやマックスいますか?」
ゲンドウは言葉を出さない。視線をを奥のテントに向けるにとどまった。

「そうですか」
シンジはこれ以上、ゲンドウと話すことはない。
足早にアベルのいるテントへと向かう。
そんなシンジをゲンドウは無言でサングラスの奥の瞳が彼が視界から消えるまで、
ずっと見守っていた。
少し進むと白いレーシングスーツが見えた。
執事が立っている横で、モータースポーツのテントにはまるで似合わない
クラシックチェアーに腰を下ろし、紅茶に舌鼓を打っているアベル。
シンジはいきなり声をかけるのも気が引けた。
テントの壁代わりのビニールをバンバンとノックの代わりに叩く。
ようやく存在に気が付いたのか、アベルはこちらに向かい入ってこいと手招きをした。
応じ、近づきつつアベルの顔をのぞき込んだシンジは思わず目が点になった。

「な・・・どうしたんだよその顔?」
アベルは左目の周りに出来た青アザを撫でながら、

「これか?・・・君も知ってるだろ?あのキスの代償がこれさ。
 おかげでルドルフ家主催のパーティーはみんなキャンセルだよ」
悪いとは思ったのだが、シンジは笑ってしまった。今まで完璧過ぎるアベルを目の前で
見ていただけに、この間抜けな顔と彼の言葉にはおかしくて仕方なかった。

「なんだ、失敬なヤツだな。だからゴーグルは欠かせないのさ。
 本当は正体を悟られないように作っておいたのだが、思わぬ所で役に立ったよ。
 それよりヘルイカリ、何か用があったんじゃないのか?」
そう言いながら、彼はゴーグルを顔につける。
シンジにしても用件の話になり、顔が引き締まる。
なにより、アベルの顔が見えなくなったのが大きいだろう。

「アスカ・・・君の所に来ただろ?」
アベルは頷く。

「アスカは賭けの内容を変えてくれって言っただろう?
 だけど賭けの内容は変えないで欲しい。
 僕が君に勝ったら・・・で勝負して欲しいんだ」
それを聞いたアベルは残っていた紅茶を眺めていた。

「やれやれ・・・君たちのお熱いところを見せつけられてはたまらないな。
 先程確かにフロイラインアスカは来た。賭けの内容も変えていったし、
 それを僕も了承した。悪いが君の申し出は受けられないね」

「頼むよ、この通りだから!」
同時に深々と頭を下げる。

「やめてくれよ、恥ずかしい。しかし、君ほど羨ましいと思ったヤツはいないよ。
 フロイラインアスカは心底君に惚れているようだな。
 僕も昨日の君の走りを見て君は敵じゃないと思った。
 それは彼女とて同じだったそうだ。
 だが、賭けの内容は変わったが、彼女が僕に勝ったらって条項を付け足しただけだ。
 訳を聞いたよ・・・なぜヘルイカリが勝ったらって条件をまだ残すんだ、ってね。
 そうしたらなんて答えたと思う?」
シンジはマックスの言葉をじっと聞いていた。

「君を信頼しているんだってさ、シンジならきっと勝ってくれる・・・って言ってたよ。
 で、なら賭けの変更は必要ないだろって言ったら・・・保険だってさ」
マックスはシンジに向かい微笑んだ。
シンジにしてもアスカがまだ僕のレースを信じてくれていることが嬉しかった。
マックスとシンジ、お互いの間に流れる空気は今までの物とはこの時に質が変わる。

「羨ましいよ。そこまで人に信頼されて・・・。
 そこまで信頼してくれる人間は僕にはいない。僕には地位でしか人を動かすことが
 出来ないからね。君たちの関係は羨ましい限りだ」
シンジは何となくマックスのことが理解できた気がした。

「だから君らに負ける訳にはいかない。その関係を僕がぶち壊してやる。
 君のその態度で・・・また楽しみが増えたよ。
 彼女は、僕が貰う」
マックスのゴーグルの奥の瞳がシンジに向かい注がれる。
だがシンジは、その視線が敵意に満ちている物ではないと分かった。

「僕だってそうだよ。チャンピオン争いだけじゃなく、賭けまで出来るんだ。
 こんなエキサイティングなレースをするのは初めてだよ」
2人はお互いの顔を見合い、握手を交わした後でシンジはテントから引き上げていく。

「楽しませて貰えそうだね、ヘルイカリ。
 何のために大金をつぎ込んでエヴァンフォーミュラに参戦してきたと思っているんだ。
 負ける訳にはいかない・・・特にイカリシンジ・・・君だけには・・・」
マックスは去り行くシンジに背中に向かい、
自分のみに聞こえる程の小声でそう呟いていた。

所は変わってコントロールタワーのすぐ横のピット、
昨年度ワールドチャンピオンであるアスカのピットでは2つの声が交差していた。
「だぁ〜から!サスはハード!ギアは7速マックスで良いんだって言ってるでしょ!」
しかし、チーフメカもプロの端くれ、そう簡単には譲ろうとはしない。
「確かに、高速道だけならそれでも構いません。でもサーキットも走るんですよ。
 そんなセットアップじゃサーキットで遅れることは目に見えてますよ!」
アスカにしても自分の考えが正しいと信じている。
以前の彼女ならここで1発どついていうことを聞かせるところだが・・・。
「・・・あっそ、じゃぁどういうのが良いわけ?」
メカはテレメーターのデータを取りだしてアスカに分かってもらおうと説明を始める。

そしてその2つ先のピットにゲンドウはいた。
「どうだ、レイ。今日のレース、行けそうか?」
レイは自分のマシンを整備しているメカニックをさっきから見ている。
「問題ありません・・・それに・・・今は走るのが楽しい」
ゲンドウはレイを優しい眼差しで眺めている。
レイは父親となったゲンドウには、徐々にだが会話を交わせる話せるようになってきていた。
「それに、一生懸命働いているみんなを見てると嬉しい。
 みんなの為に・・・という感じが・・・」
ゲンドウのサングラスの奥に見える瞳が少し艶やかになる。
彼も所詮は人の子。子供の成長は嬉しいものである。ましてやそれが娘で、
今まで苦労のかけ通しだった少女・・・彼にもグッとこみ上げる物があった。
その時、監督に抜擢された日向マコトが彼に挨拶するため、近づいてきた。
「オーナーおはようございます」
1礼する日向の顔にも監督としての重責を任された気合いがみなぎっていた。
ゲンドウはそんな日向にレイの調子とマシンの具合を聞く。
「マシンは絶好調ですよ。
 レイちゃんの調子も良いですし、恥ずかしい結果にはなりませんよ」
「そうか、では後は任せる。期待しているぞ」
「はい、任せて下さい」
そしてゲンドウはレイの方に向き直り、
「ではレイ、精一杯やって来るんだぞ」
レイは少しこわばった笑顔を返す。これが彼女の出来うる最高の笑顔だった。
それを見たゲンドウも少し口元を緩ませたが、
日向が見ていたのでその場は程々に、サングラスを上げるとピットを後にした。
残された日向がレイに対し、にこやかに話しかける。
「やっぱ会長もパパなんだな。レイちゃんの前じゃいいお父さんだ」
日向は無表情ではあるが、どことなく嬉しそうなレイを見て、少し微笑む。
「でも、いいのかな。シンジ君には話してないんだろ?
 シンジ君はレイちゃんのお兄さんって事になるんだからなぁ」
レイはその汚れのないつぶらな瞳で日向を見る。
「おにい・・・さん?」
日向は笑顔で彼女に答える。
「そうだろ?君のお父さんはシンジ君のお父さんなんだから」
レイは作業を続けるメカニックに視線を移した。自分のためにオイルで汚れながらも
整備してくれる彼らを見ているだけで、心が満たされる思いだった。
それに加えて碇シンジ・・・優しくしてくれたシンジ。
その存在だけでレイを落ち着かせてくれる存在の彼が兄だと知ったレイは
どう思ったのか。少し頬を染めてじっと彼らの作業を眺めていた。
「言わなくていいのかい?レイちゃんが妹だってこと」
「・・・うん」
「どうして?」
「今言ったら・・・碇君がレースに集中できない。私とはライバルだから。
 だから言えない・・・でも終わったら・・・」
日向はレイの晴れ晴れとした表情に、微笑ましく思う。
「・・・レイちゃんらしいな」
そんな2人の表情を、ゲンドウはピット裏から見つめていた。


・・・所変わって。
「だから現行セットアップじゃアクティブサスが路面についていけないんですよ。
 藤岡ならこれでも問題ありませんが、ここ鈴馬では路面がバンピー過ぎるんですよ。
 トランスミッションについては5速まではクロス、それより上はマックス。
 これにしたらどうですか?全部マックスじゃ勝負になりませんよ」
アスカは彼の説得を全て聞き入れた後に、決断を下した。
「分かったわ。ギアはそれで良いわ。
 細かいレシオは任せるけど、7速だけは一番小さいヤツ使ってよ。
 それとアクティブのモードは私の意見では極論だったわね。
 私の意見より3モード落としてセットして」
メカは手元のノートパソコンを叩き始める。
そしてすぐに解析結果がディスプレーに出てきた。
「・・・了解。早速作業に入ります」
そう言うと待っていたメカニック達に作業内容を伝えようと立ち上がったとき、
「あ!ちょっと待った」
アスカは彼を引き留めていた。アスカを説明した際に散乱したテレメーターの紙を
丸めていた彼は、少し不安げに彼女を見た。
「あと1つ、私に作戦があるんだけど・・・」


「今日は辛い戦いになる」
赤い瞳と、グレーの髪を持つ少年は、
同じく赤い瞳と、茶色い髪の少女に向かい呟いていた。
「だが、これがラストチャンスなんだ」
彼女は彼の方向を眺めていたがその焦点は、はるか後方にあった。
「見ていてくれ。必ずチャンピオンになって、またユキの側に戻ってくるよ」
彼は動くことがない彼女の手を握りしめる。
その後で、足早にサーキット間のレース機材輸送用の
コンテナジェットヘリから出ていこうとした。
「もういいのかカヲル。これが最後かもしれんのだよ」
コンテナの角にいた男が彼に声をかけた。彼にとっては話したくもない相手。
「織田さん、約束だけは守ってもらう。いいね」
その声と彼女ををコンテナ内に残し、彼はピットに戻っていった。

「フフフ、約束・・・ね」


アスカは小声でメカに秘策を話した。
「えぇ!そんな無茶な!いくら何でも持ちませんよ」
アスカは間髪入れずに反論する。
「それを何とかするのがアンタと・・・私でしょ」
「しかしですね・・・リスクが大きすぎますよ。失敗したら即リタイアですよ」
そんなチーフメカを、アスカは肩を掴んで自分の方に引き寄せた。
「私には失う物はないのよ。欲しいのは優勝だけ。
 多少のリスクはあっても、成功すればアドバンテージは計り知れないでしょ。
 だからお願いっ、この通りだから」
アスカは深々と頭を下げた。
チーフメカにしても今までこんな事をした彼女を見たことがなかった。
この行動で、彼女の意気込みが彼自身にも伝わってくる思いだった。
「・・・そこまで言うのでしたら、もう何も言いません。それに、面白そうですしね」
メカはアスカに微笑みかける。
「でしたらサスのモードを予定値より1モード上げましょう。
 これでも少しはタイヤに負担が減ります。でも・・・持ちそうもなかったら
 サービスに入ってきて下さいね。一応、準備はしておきますから」
「分かったわ。ありがとう」
メカがマシンに寄っていき、整備をしていたクルーにあれこれ指示するのを
見ていたアスカは思う。
(ごめん。もし私が鈴鹿を出られたらその時は世話になるからよろしくね)


スターティンググリッドに並ぶ色鮮やかなマシン。
それを取り巻くように溢れるチームスタッフやプレス。
今、その隊列の先頭でレースクイーンが5minのボードを上げる。
既にほとんどのマシンは整備完了し、スタートの時を待っていた。
その中でセカンドポジションに陣取っていた赤いマシンのキャノピーを叩く男がいた。
アスカはそれを見ると、いったん閉めたキャノピーを再び開ける。
キャノピーが開くのを待っている時に少し髪の毛を整え、
ノックした男の顔が見えたところで口を開いた。
「なによシンジ、もうスタートしようって時に」
スタート5分前。一番緊張していると言っても良い時間。
そこで訪ねてきたシンジに対し、怪訝かつ嬉しそうに話すアスカ。
「1つ、約束して欲しい。絶対クラッシュしてマックスを止めようとはしないで」
「えっ・・・?」
アスカの瞳が止まる。
「約束してよ。絶対無茶なことはしないって。でないと・・・僕」
彼女の中で思考が走り回る。
「・・・分かったわ。私は自分で自分がかわいいもの。無茶な走りなんかしないわよ」
シンジもそれを聞いてホッとしたのか、顔もにこやかに、
「じゃぁ頑張って、アスカ」
と言うと自分のグリッドに戻ろうとした。
「こら!」
アスカの声が彼を呼び止めた。彼を手招きして側に呼び寄せる。
「なに?」
アスカは近づいてきたシンジの頬に唇を押し当てる。
一瞬だけの接触。すぐアスカは離れた。
「ばか、せっかく来たのに手ぶらで帰る奴がどこにいるのよ、んっ」
そう言ってアスカはシンジに頬を突き出した。
「な、なんだよ」
「お返し」
「こ、こんな所で出来ないよ」
「たかだかおまじないよ。早くしないと他の人に見られてもっと恥ずかしいわよ」
アスカが引き下がることはないと思ったシンジは意を決して頬にキスをする。
これも一瞬の接触。
離れたシンジに満面の笑みで答えるアスカに対し、
「じゃぁ頑張って、アスカ」
頬を少し染めたシンジがそれだけ言うとアスカのコクピットから離れ、立ち上がる。
「うん。シンジはチャンピオン、私はアイツね」
そう言ってアスカは左斜め前にあるG-EV-Mを顎で示した。
「無理だけはしないでよ、アスカ」
アスカに背を向けて、自らのグリッドへと向かうシンジ。
「ありがとう、シンジ」
寂しそうに呟くアスカ。
そして自らを外界から遮断するようにキャノピーを再び閉じる。
「本当に・・・ありがとう」


(お兄さん・・・不思議な感じ・・・)
そう思うレイは彼のマシンに歩いていくシンジと目があった。
(あっ)
シンジはレイに対してにっこりと微笑んだ。
(・・・・・・)
そんなシンジの態度にレイは嬉しくもあったが、思わずうつむいてしまう。
少し頬を染めたレイは、ちょうど視界に入ったキャノピー開閉ボタンを押す。
締まりゆくキャノピーにより暗くなってくる車内でレイは呟いた。
「でも今日は違う・・・碇君は私の敵。
 チャンピオンになるための・・・私のライバル)
レイは耳鳴りがするLCLの中で、後2分ほどの時間をコンセントレーションを
高めるために目を閉じて瞑想に入った。


「何してたのシンジ君、もうあと1分くらいしかないわよ」
マヤが1人だけマシンに張り付いてシンジのことを待っていた。
後のクルーはもう途中のサービスポイントへの移動準備に入っている。
後はこのマシンに命を吹き込むだけだった。
シートに座り、ベルトが彼に巻き付いたのを確認するとマヤは最後に声をかける。
「シンジ君ならもう大丈夫ね。後はあなた次第、しっかり」
マヤはシンジに手を差し伸べる。信頼している、認めているドライバーのマシンに
出来る限りのことをした彼女の気持ちの現れ。
後はまかせたわよ、と言いたかった末の行動。
「じゃぁピットの方、お願いしますね」
彼女は微笑み、頷きながら手を離した。
シンジはそんなマヤを見た後、キャノピーを閉じた。
もう慣れたマシン。瞬時にシンジの体に反応し、オペレーションを開始する。
メインモニターに色とりどりの模様が踊り、その後には外界の景色が映し出される。
既にコース上には人の姿はない。
いや、1人だけ一番先頭でスターターボードを上げる女性だけがいた。
カヲルは腕に巻かれたブレスレットを外し、斜め前にいたシンジを見る。
「今日こそは直接争えそうだね。勝たなければならないプレッシャーはあるが・・・
 その緊張すら心地よい・・・最高に楽しいグランプリになりそうな予感がするよ」
再びブレスレットをはめ直した彼の顔は、微笑みを湛えていた。
「ゾクゾクするよ・・・この感覚・・・」

綾波レイの耳に無線の音が入る。
『レイちゃん、いよいよだ。しっかり』
レイは溜めていたコンセントレーションを解放するように、
ゆっくりとその赤い瞳を露呈させる。赤い瞳は今までになく輝きに溢れていた。
『・・・じゃ、行きます』
そして、先頭の女性がボードを立ち上げる。
レイを始め、各ドライバーが一斉にマシンに命を吹き込む。
彩極まったマシンから咆哮が轟き
決戦の雰囲気が一気にレッドーゾーンまで上昇する。

そしてゆるゆるとマシンは活動を開始する。1周のフォーメーションラップ。
隊列となって並ぶ最後の一周。
そして、低速で走る隊列に並ぶシンジの瞳の先に写るマシン。
(綾波・・・)
そしてバックモニターに写るマシン。
(カヲル君・・・)
チャンピオン争いのライバル達を見て、シンジは思う。
(彼らにとって、チャンピオンとは何なんだろう・・・)
そして、マシンはホームストレートに入り、ポールシッターのマックスの黒いマシンが
一番グリッドに停止する。それに遅れてシンジも自らのグリッドにマシンを止める。
6番グリッドの彼は停止したマシンの中で、直前の加持とその前のアスカを眺める。
そして目線はアスカの斜め前に停止しているマックスのマシンに流れる。
(僕にはあるはずだ。チャンピオンよりも大切な物が。
 今の僕にはそれが分かる。この想いがある限り・・・僕は走れる)
グリーンフラッグが振られ、ツリーにランプが灯る。
目の前に一台もいない。見えるのは斜め前のマックス。
「いよいよね・・・ポイントは決まっている。
 1週目のシケインで全て終わらせる。その高慢ちきな態度もそこで終わりよ。
 ・・・アベル・・・目に物見せてやるわ」
キャノピーに張った楓の葉っぱを優しい眼差しで眺めるアスカの口が無意識に動く。
「・・・シンジ」

一方、コントロールタワーでスタートを見つめるゲンドウとリツコ。
「どうかね、奴の行動は」
「国連、公安への手回し共に予定通り進行しました。
 恐らくレース終了までには決着がついているでしょう」
「ブーストの準備は?」
「こちらも、予定通り・・・」
ゲンドウが見つめる先にはスタートシグナルを受け、
コアの咆哮を臨界まで上げたマシン達が写っていた。
「そうか・・・予定通り、だな」
「・・・はい」

そして、ランプはグリ−ンに変わり、
最終戦の幕は切って落とされた。


第13話に続く

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