------------------ そして、未来へ... Part1 --------------------

 

 

Eva初号機。 エントリープラグ。 最後の使徒を。 カヲルを殺して。

ケージに戻った事までは、覚えている。 しかし、その後どうしたんだろう?

シンジは、自分自身に不安を感じた。 体が、溶けてなくなる感じ。 覚え

がある。 そう、初号機とのシンクロ率が400%を記録した、あの時。

自分じゃない誰かを感じる。 わからない。 でも、懐かしい...。 シンジ

は、Evaに溶けていく...。

 

 

「司令、人類補完計画、どういう事か説明していただけますね?」

「知る必要はない。 始まれば、嫌でも分かる」

「それでは遅い、と言ったら?」

「邪魔をするな」

 

外ン道に銃口を向けるミサト。 でも、わずかに外ン道の方が速かった。胸に

血の花を咲かせ。 ミサトは倒れ伏す。 そして。 外ン道は、ダミーシステ

ムにある司令を打ち込んだ。 そして、レイのもとへ。

 

 

世界各地で、起動するEvaたち。 ダミープラグとダミーのコア。 自分

の意思を持たぬモノ。 それは、Evaでありさえすればよかった。 起動

さえすれば。 初号機から弐号機へ。 そして、リリスへ。 ジオフロント

で、3つの存在が共鳴する。 ジオフロントから、爆発的にATフィールド

が展開する。 使徒に対した時の強さはない。 しかし、これまでにない勢

いで、広く、広く展開する。 そして。 Evaたちはシンクロする。 A

Tフィールドは重なり、さらに広がっていく。 全てを、覆い尽くしていく。

 

ATフィールドは心の壁。 ヒトの心とEvaの心。 心の壁は干渉し、そ

こに小さな穴が開く。 穴はどんどん広がって、すべての心を一つに溶かす。

人類補完計画の、始まり。

 

 

綾波レイ。 せめぎあう3つの心。 3つの体に3つの心。 たった一つの

魂を、バトンタッチで生きてきた。 3つの心の願いは一つ。 無への帰還。

自己の消滅。 でも。 愛する事を知ってしまった。 寂しさが分かってし

まった。 一緒になりたい。 碇くん...。 2人目の、レイの心。 3人目

にも、残った想い。 だから、今は、死ぬのが怖い...。 私は私として、生

きていたい...。 消えるのは、嫌...。

 

 

「行こう、レイ。 お前は、今日この時のために居たのだ」

 

非情な言葉。 碇司令。 望んでいたはずなのに、まだ消えたくない。 で

も、レイは頷く。 それが運命だと...。

 

 

Evaに溶けて。 幻を見るシンジ。 責める幻。 抗うシンジ。 そして

シンジは問われる。 己の価値を。 存在意義を。 幻は問う。 己は何か。

自由は何か。 ...何を、望むか。

 

  朝。 平穏な日常。 毎朝迎えに来てくれる、幼馴染のアスカ。 気の

  強い、でも、ホントは優しい女の子。 ダイニングには、父が、そして、

  母がいて。

 

  学校。 腐れ縁の悪友達。 葛城先生。 カッコよくて、話せるお姉さ

  ん。 そして。 転校生。 アルビノだけど、はかなさなんて少しもな

  くて。 明るくて、元気いっぱいで、少しあわてんぼな女の子。 綾波

  レイ。 ハプニングもあったけど、なんだかうまくやっていけそう。

 

  たわいもない、でも、ずっと欲しかったのは、こんなありふれた日常。

  でも、自分には縁のなかったもの。 気分がいい。 何か、暖かいもの

  に包まれて。 分かってる。 これは夢。 僕の願いが見せたもの。

  でも。 分かってるけど、目覚めるのが惜しい。 もう少し、このまま...。

 

  何かが変わる。 悪い気分じゃない。 優しい何かが染み入ってくるよ

  うで...。 気持ちのいい暖かさ。 綾波...綾波レイの匂いがする...。

 

 

「それでいいのか?」

 

 

甘いまどろみを打ち砕く声。 聞いた事のない、男の人の声。 切迫した響

きに。 シンジは現実に引き戻される。 走り出した補完計画。 あるはず

のない事だった。 そしてシンジの見たものは...。

 

初号機を、いや、そうではなく、その中のシンジを見つめる紅い瞳。 綾波

レイ。 ほっとしたような、寂しいような、複雑な表情。 今は、ただシン

ジだけを見つめる瞳。 繋がった心が、想いを伝える。 暖かく、優しい。

静かなのに、深く、激しい想い。 そのレイの胸を。 背後から槍が貫く。

聖槍。 月軌道に消えたロンギヌスの槍と対を成す、ヒトのための槍。 そ

の力で。 レイの体は弾け散る。 そして。 シンジを優しく包み、染み渡

ってくる「綾波レイ」。 「綾波レイ」が溶けてゆく。 シンジに溶けて、

一つになる...。

 

「綾...波...」

 

呆然として、言葉も出ないシンジ。 涙を流す事さえ忘れて、凍りつく魂。

 

「このまま行けば、君と彼女は一つになる。 完全体に。 全き『神の子』

 に。 君は、『神』への道を選ぶのか?」

 

「嫌だ...嫌だ! 嫌だ!!! ぼくは、こんな事望んじゃいない! こんな

 ふうに綾波と一緒になるなんて、嫌だ! ぼくは...ぼくは! 2人目とか

 3人目とかなんて関係ない! みんな、同じ綾波じゃないか! ぼくは...

 綾波が好きなんだ! 生きた綾波に、側にいてほしいんだ!」

 

「ならば、君の為すべき事を為せ。 あの娘の体だったモノと魂を結ぶ糸が

 消えないうちに! 今なら、やりなおせる。 今の君には、その力がある」

 

「でも、どうやって? わからないよ!」

 

「ATフィールドは心の壁...でも、それ以前に、生命のカタチを作る力だ。

 ...分かるだろう?」

 

シンジの脳裏に、『ATフィールド』の『意味』が伝わる。 その力も。

紡ぎ方も。

 

「そうか! それなら!」

 

ATフィールドが変質する。 シンジの中から。 周りから。 レイの要素

を押し戻し、四散した肉体を集める。 レイのコア。 外ン道が、リツコが

隠し通してきたもの。 レイの魂とともに、ただ一つ、生まれ来たもの。

そのコアのもと。 魂を戻し、カタチを戻し。 「綾波レイ」が再生する。

レイのコアに火が灯る。 新たなイヴの誕生。 そして。 シンジの中で発

動するコア。 かつてアダムだったもの、そのエッセンス。 幼いシンジを

見出し、溶け込み、今ではシンジの一部となったもの。 それは、シンジに

新たな力を与える。 次なるアダムの覚醒。

 

呼応する様に。 初号機の中で、SS器官が始動する。 Evangelion...旧

きEvaの力の象徴。 新たなアダムとイヴ...その福音の伝道者。 真の

力が覚醒する。 封ずる槍は、天空へと消えた。 抑えるものは、何もない。

 

槍の力は逆流し。 その使い手を消滅させる。 シンジは見た。 微かに寂

しげな、そして何故か満足げな笑みを浮かべて消えていく父を。 シンジは

知った。 父の心に開いた深い穴を。 ユイを失った心の傷を。 でももう

遅い。 父は消えた。 シンジには、取り戻せない。 生まれて後に「洗礼」

を受けたヒトには。 古き世代には。 シンジの力は届かない。 ただ、心

を交わす。 できるのは、それだけ...。

 

 

そして。 シンジはEvaを降りる。 母の腕の中から、新たな半身のもと

へと。 新たなるアダムとイヴの接触。 肉体を離れ。 二人のコアが一つ

になる。 起こるのは、サードインパクト。 暴走する巨大な力。 抑えよ

うとする二人。 間に合わない! そう思った時。 二人を支える力。 余

人はおらぬはず。 なのに、人の気配を感じて、二人は振り向く。

 

そこには、一人の男。 外ン道と同年輩だろうか? しかし、どこかで遭った

ような顔。 なぜ、知ってる?

 

「カヲル君? ...そうか、カヲル君に似てるんだ」

 

「渚カヲルは...アダムの細胞に俺の遺伝子を植え付けて創られた子供だよ。

 遺伝子の提供者は違っても...レイくんと同じさ。 本当は、気付いていた

 んだろ? レイくんが何者か。 ...でも、認めたくなかったんだね」

 

ただ、うなづくだけのシンジ。

 

そう、男は、渚カヲルと同じ顔をしていた。 ただ、年齢と、色だけが違う。

肌も、瞳も、髪も。 典型的な、日本人の色。

 

「まぁいいさ。 俺は、綾波真一という。 君の父の、古い友人だよ」

 

「綾...波?」

 

「そうだよ。 ...でも、話は後だ。 今は、このエネルギーを何とかしな

 くてはね。 今は俺が抑えているが、そろそろ限界だ」

 

「でも、どうやって? こんなエネルギー、取り込むのは無理だよ!」

 

「俺のフィールドの紡ぎ方をよく見るんだ。 そのとおりやれば、とりあえ

 ず抑える事はできる。 ...だが、それだけだ。 もう、サードインパクト

 は避けられない。 抑えきれなくなったらお終いだからね。 だから、こ

 の力を穏やかに使う事を考えるんだ」

 

「穏やかに?」

 

「そう。 穏やかに、ゆっくりと。 セカンドインパクトの悲劇は、あまり

 にも急激な力の開放のせいだ。 この力は、セカンドインパクトに匹敵す

 るものだ。 うまく使えば、セカンドインパクトで生じた歪みを修正でき

 る。 力を使いきる事はない。 吸収しきれる分は吸収して、残りはみん

 な使っちまえ。 俺も、できるだけの手伝いはする」

 

「それじゃぁ...あやな...レイ、いくよ」

 

「...はい」

 

シンジとレイは、心を重ねていく。 心を合わせて、新たなATフィールド

を形作り。 エネルギーを取り込んでゆく。 力を御するために。 自らを

支えるために。 そして。 サードインパクトの力全てを抑えた時。 二人

は世界そのものになっていた。 二人は『ヒト』の心に触れていく。 Eva

たちの力を借りて。 ジオフロントの『場』を使って。 傷ついた心を癒し。

これから起こるだろう混乱に耐える力を与える。 誰もが持っているATフ

ィールドの意味を。 その使い方を...心と心を触れ合わせ、分かりあう術。

壁を築いて身を護る術を伝えていく。 それは、魂の補完。 旧き世代は、

きっと忘れてしまうだろう。 でも。 せめて一時の安らぎを。 そして、

新世紀を担う新しき世代への理解を願って...。

 

二人は決意する。 歪みの修正を。 歪んだ地軸を修正し。 傷ついた世界

を癒そう。 これ以上、傷口が広がらぬうちに。 一つでも多くの種が、残

っているうちに。 二人は力を解放していく。 少しずつ。 穏やかに。

そして。 二人の気付かないところを。 もう一人が支えていく。 大気の、

マントルの乱れを抑える。 その強大なATフィールドで。 生命を形作り、

支える力で。 二人の力の切れ端が。 ジオフロントの作る場が。 彼に力

を貸していた。 サードインパクトは進行する。 深く、静かに...。

 

『子供達』は共鳴する。 二人の心と響きあう。 二人の力に新たな力を重

ねていく。 意識しての事ではない。 でも、やり方は体が覚える。

 

『子供達』は知る。 絶望の重さを。 『子供達』は感じる。 希望のまぶ

しさを。 重なった心に、希望の光が満ちていく...。

 

 

全てが終わって。 一つになった二つの心は元の形を取り戻す。 しかし...

ここはどこだろう? 体を離れた意識は、どことも知れぬ虚空にあった。

 

「レイ...いるかい?」

 

「はい...」

 

「二人とも、体から離れちゃったね。 ...もう、戻れないのかな?」

 

「私、それでもいい...碇くんが、いるもの」

 

「でも...せっかく、人間として生きると決めたのに。 残念だな」

 

その時。 虚空に二筋の光が射す。 二つの光は、同じ方向から。 それぞ

れに。 シンジとレイを照らす。

 

「この感じ...あったかい...母さん?」

 

「これ...私、知ってる...小さい頃からずっと...いつも私を包んでた...」

 

「レイ、行こう。 母さんが、呼んでる。 こっちだって」

 

「えぇ。 私も、感じたわ...」

 

二人は、光の源へ。 理屈ではなく。 そこへ行けば還れると、二人には分

かっていた。 そして、光に包まれて。 二人は、「現実」へ帰還する。


                             <Part2へ続く>


 
Junchoonさんの部屋に戻る/投稿小説の部屋に戻る