前回までのあらすじ

 

デスザウラーによる帝都ガイロスの破壊

そして帝国・共和国両軍、アスカとマユミの駆るブレイドライが―の特攻によってデスザウラー殲滅

帝国宰相であり、そして簒奪を企てたゲンドウの死

皇太子ルドルフの皇帝即位と皇太子暗殺及び皇位簒奪未遂事件の発覚

たった一日で起こった帝国上層部の激変

その結果ゲンドウに特に近しい者達は失脚、左遷

さらには拘束されるものまで出始めた。

そして、デスザウラー復活の研究者やそれに携わったもの

皇太子暗殺にかかわったシンジ達はそれまでとは一転して帝国から追われる身となった。

アスカのブレードライガーとの闘いに敗れボロボロのジェノザウラーと研究所に逃げ帰ったシンジ

彼は自分を取り巻く環境の激変を知らなかった。

敗北と逃走の屈辱に震えていた彼はそこで蒼い髪とルビーの瞳の不思議な少女、レイに会う。

レイからゲンドウの死と現在の自分達を取り巻く環境を知ったシンジ

しかし、彼の決意を待つまでも無く研究所からの脱出準備は着々と進んでいた。

準備が八割方終わった頃

帝国のレドーラを中心とした航空戦力による先遣隊が、研究所のある基地を襲撃した。

レイが用意した共和国軍空戦ゾイド・ストームソーダに乗りこみ、シンジは迎撃のため大空へと飛び立った。

 

 

 

「ZOIDS STORY IF」

第壱話

旅立ちは撤収から

 

 

 

シャドーが融合した影響で漆黒にそまったストームソーダを突っ込ませる。

エヴァとの融合は、ただでさえ最速の誉れ高きストームソーダを更にレベルアップしており当然パイロットに求められる技量も体にかかる負荷もハンパではない。

しかし、シンジは多少左右にふったり旋回などしただけで慣れ始めていた。

敵が空域に到着したときには、ベテランパイロットに充分対抗できるほど正確に機体を操って見せる。

 

「・・・・・・・・さて、準備運動は終わった。そろそろ行こうか」

 

不適に笑い、ストームソーダを接近してくる敵レドラーの編隊に向ける。

数は六十機

二十機編隊で三隊に分かれこの空域に突入してくる。

黒い影が凄まじい速度でもっとも近くにいた正面の編隊に襲いかかった。

 

 

 

「あぁあぁ〜〜〜! あんなハリキっちゃってまぁまぁ。ホント闘いが好きなんだなあれは」

 

一方

エヴァ・スペキュラーによって同じゾイドとは思えないほど進化を果たした蒼いサラマンダーは空域上空に滑空していた。

悠々と風を受けるその姿は、ホエールキングによる撤収準備完了まで後少しになり必死に作業を続ける地上の面々。

そして常識はずれの速度で接近してくる漆黒のストームソーダに慌てて対応を始めるレドーラの編隊の様子と比べ、あまりにのんきだった。

 

「さてと、さすがにこんなにのんびりしてると頑張っているシンジ君に悪いし、ボクも行こうか」

 

そう言って、チラッとレーダーの反応を確かめ、シンジが向かったのとは別の方向にサラマンダーを進める。

すでに一体には味方による強力なジャミングがしかれているが、サラマンダーに積まれた高性能レイダーはなんとか敵影を捕らえることができた。

向かう先には、最寄の軍基地からの地上部隊一個師団が向かってきていた。

さらに向こうに、帝都から来る帝国、共和国軍混成の高速ゾイド部隊が向かってくる。

 

「レドラーはシンジが片付けるだろうし、ちょっと地上部隊をからかってこよ♪ 」

 

近所に遊びに出かけるような気楽さで、レイはサラマンダーを向かわせた。

ちょうどすぐ後、本格的なジャミングによりレーダーがまったく機影を写さなくなった。

 

ルビーの瞳が爛々と輝いていた。

 

 

 

 

一方

こちらは基地上空まで二百キロの地点

M・4以上のとんでもないスピードで飛びこんできた黒いストームソーダに正面の編隊は慌てて左右に展開し、左右の残りの編隊も泡を食う。

その様子を嘲笑うように、シンジはすれ違いざまに二連装パルスレーザーガンの精密射撃で六機のレドラーを打ち落とし、急旋回して後ろからミサイルの斉射を浴びせる。

完全に出遅れた正面編隊はこのミサイル攻撃もまともに避けることが出来ず

打ち出されたミサイルの半分、六機が落ちていく。

残る八機にウイングとトップのソードを展開したストームソーダ―が襲いかかる。

 

「―――――――ここにもゾイドの扱い方も知らないクズばかりがいる・・・・・・」

 

シンジは忌々しげに吐き捨てる。

一キロも離れていないところで展開していた別の編隊が追いつくまでに、正面編隊は全滅していた。

 

「弱いんだよ! お前達は!!! 」

 

たちまち目標を変えたシンジが哀れなレドラーの群れに襲いかかる。

空中を赤い炎の花が彩り、煙がたなびく。

 

「・・・・・・・つまらない、そんなものなのか!? 」

 

相手の技量に不満げなシンジ

しかし、不意を付かれた先ほどの部隊と違って残ったものは熟練したパイロットらしい訓練された動きでストームソーダーを追いこもうとする。

 

「ちっ!!」

 

最初は慣れない空中戦と、やはり初めて扱うゾイドに戸惑うシンジ

しかし、確実に敵の攻撃を避け、更に有利な位置を取ろうとずば抜けた機動性を生かしてアクロバット飛行を続けていく内にそのコツをつかんでいく。

「――――――――さて、そろそろ仕上げの時間だ」

 

ストームソーダを一回包囲から抜け出させ、上空から一挙にばらばらになった四十機の群れに飛びこむ。

機体に慣れ始めたシンジは獰猛な笑みを浮かべてて生贄の羊達を見定めた。

 

 

 

「あぁあ〜派手にやってるねぇ〜シンジは、そう思わないかい?スペキュラー」

ウォ! (確かにね、でもそれが気に入ってるんでしょ?)

 

ショートカットにした蒼銀の髪をいじりながら、レイの問いかける。

サラマンダーに融合したままのエヴァ・スペキュラーは、律儀に答えた。。

シャドーに比べると多少高い鳴き声がコクピットに響く。

 

ちなみにエヴァの声はその主人にしか言葉として伝わらない。

 

「ま、ボク達も負けずに敵を倒さないとねぇ、行くよ、スペキュラー! 」

グォ!(ええ!)

 

レイの叫びと共に地上先遣隊の上空にいたサラマンダーは一挙に降下する。

一個師団相当の部隊は、おもにレブラプターとモルガ

さらに三体のレッドホーンに一体のダークホーンである。

レイはいきなりほぼ真上から急降下して本来対空用の六連装キャノンで正確にモルガを打ちぬき

真正面の空間まで下りたところで急制動をかけて地上十メートルのところで水平飛行に移る。

そのまま先遣隊に突撃し、キャノン砲と火炎放射でレプラプタ―の群れを薙ぎ払った後

レッドホーン二体を蹴飛ばして再び急加速で上昇する。

ダークホーンを上回る大型ゾイドであるサラマンダーによって引き起こされた爆風は、モルガやレブラプタ―といった比較的小型なゾイドをそれだけでなぎ倒していく。

 

それでも、一度目の突撃にろくに反応出来なかった帝国軍の部隊も、さすがに体制を立て直し、上空に向けてあらん限りの火器を叩き込む。

しかし、もともと凄まじい勢いで上昇している上、シールドを展開しているため、すべてがむなしくはじかれる。

 

「ヒヤぁー――――! 初めてあんな無茶したけど、やっぱり気持ちイイヤ、もう一度いこう!」

 

随分とご機嫌になったレイは太陽を背にしてサラマンダーの翼を折りたたみ、直下降しながら攻撃を仕掛ける。

今度は部隊の背面におりて、やはり低空飛行のまま襲いかかり、今度は旗機であろうダークホーンを蹴飛ばす。

 

「アハハハハハハハ♪ イイ気味イイ気味」

 

心の底から楽しそうに笑い上昇した後、積んでおいた爆雷を投下した。

 

 

 

「急げ、アスカ! さっさと行かないとマジで逃げられちまう」

「判ってるわよ!! それより馬鹿ジャージこそ遅れないでよ! 」

「ぬかせ!!!」

「アンタ達! 少しは緊張感というものが無いの!? 」

「ミサト大尉、落ち着いて・・・・」

「日向君!? でもこの子たち・・・・・・・」

シンジがレドラーの一編隊二十機を落とし、レイが地上先遣隊を半壊させた頃

帝都ガイロスから来た帝国・共和国軍の混成部隊がようやく戦域に入ろうとしていた。

彼らは先に到着した友軍のたどった運命を知らない。

未だホエールキングが飛び立とうとしている基地までは三十分の距離があり

敵のジャミングのため先についているはずの見方部隊とは連絡が取れない。

編成は上からコマンドウルフ・カスタム、ブレードライガー、シールドライガーDCS−Jそして重装備タイプのガンスナイパーである。

さらにパイロットは鈴原トウジ、アスカ・ラングレー、、ミサト大尉、日向少尉とここまで正規軍であるか否かを問わず、共和国側のゾイドである。

 

「こんなのが、我々の共和国侵攻を邪魔していたの? 私達はこんなのと戦争していたの? 」

 

そんな連中を後ろからアイアンコングMK―Uに乗ったリツコ中佐がレブラプタ―の一個師団を率いていた。

前方の嘗ての敵に呆れ、そして少し深刻に悩んでいた。

 

やがて余りにも御茶らけた連中にそのうち我慢できなくなって・・・・・・・・

 

「アナタ達!! いい加減にしたらどうなの!? 先ほどから友軍との連絡が取れない。そしてあそこには“あの”シンジがいるのよ!! 」

とうとう無線を通じて怒鳴ってしまった。

 

「も、申し訳ありません!! 」

「・・・・・・い、いや、ゴメンナサイ中佐。ついこの子達との口論に夢中になってしまって」

「あ〜、ワイ等に責任伸しつけるつもりやな」

「なによ! 口の減らない子ね!!」

「ホラホラ、トウジもミサトも落ち着いて・・・・・・」

「ガキは黙ってなさい! 」

「ガキってなによ! ミサト」

 

しかし、ミサトや日向といった職業軍人はともかくトウジやアスカがこの程度で根を上げたり素直になるはずも無く、再び漫才が続く。

ちなみに、戦域全体に先ほどからジャミングがかかっており、敵も友軍の状態も現在の戦況もわからないのである。

出来るのは短距離でも無線のみ

 

「大丈夫! あんな戦いの途中で逃げ出すような奴、ゾイドに乗ってきたところで敵じゃないわっ!」

「そうやそうや、それにアスカの話しだとジェノザウラーは相当なダメージを受けたらしいで」

「そうね出てこないだろうよ」 「ええ、アスカさんなら大丈夫です」

グウォ! (大丈夫、大丈夫!)

 

どこまでも楽観的なアスカとトウジ

そしてそれはアスカともにブレードライガーに登場しているマユミや融合しているエヴァ・ジークまで同じ事だった。

さらにはミサトや日向といった正規軍の間でも楽観的な空気が漂っている。

ジェノザウラーにデスザウラー 二つの強敵を葬ったことで全体に楽観的な空気が漂っている。

 

『あのシンジが一度の敗退で音を上げるわけないでしょ!? 確かに屈辱は感じているだろうがそれだけ全力で当たってくるはずよ!! 』

一方シンジのことをよく知る唯一の人物であるリツコはとてもではないがそんなふうに楽観できなかった。

そんな時、アイアンコングMK―Uのレーダーに一つの敵影が移る。

 

「空っ!? 全軍上空に向けて一斉射撃! 狙いは打ちながらつけろ、弾幕を張れ!! 」

 

即座に揮下の部隊に指示を出す。

訓練された部隊は忠実に命令を守り、手持ちの火力を全て上空に向けて発射する。

 

「へぇ! 反応イイじゃない。あれは赤城リツコ中佐の部隊か、あの若さでドンドン出世するだけのことはあるね」

 

先遣部隊を早々に片付けて来たレイは、相変わらず急降下しながら六連装キャノン砲で打ち抜こうとしていたが、急に現れた雨あられというべき弾幕に咄嗟にシールドを張る。

そのまま火線をしのぎながら、目標を先行している共和国のゾイド達に移した。

 

「げっ、こっち来る!? 」

「アスカさん、シールドを張って!」

「日向君、間に合う!? 」

「間に合いません」

「ちくしょぉ!! 」

 

口々に愚痴りながら、ミサトとアスカはシールドを張り、トウジと日向は回避行動を取る。

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

 

全開にした通信から心底楽しげな笑い声を響かせるレイ

アスカ達の直上十メートルぐらいまで急降下しながらキャノン砲を乱射し、そのまま限りなく鋭角に近い形で再上昇する。

火線の着弾と逆制動と、飛び立つときのジェット噴射で凄まじい爆風が生まれる。

比較的軽量な日向の重装備ガンスナイパーとトウジのコマンドウルフが横倒しになる。

 

「なんだぁ!? 」

「うわぁ」

「ミサト! 日向さん!! 」

「サラマンダー!? なんであんなものが」

「データとは違いすぎる、ミサト、共和国軍は新型のサラマンダーでも開発したの? 」

「いいえ、そんなはずはないわ。すでに一線を退いて久しいゾイドだもの」

「それにあの機動性、性能が違いすぎます」

 

一方、比較的ゾイドと両国の兵器事情に詳しいミサト、リツコ、日向は、相手のゾイドの異様さに驚く。

 

「ハイハイ♪そんなのんびりしてる場合かな? 次はこんなのはどうかな? 」

 

上昇を終えたレイは、今度は大型のミサイルを八発地上に向けて放つ。

それは非常に速度が遅く、やってきた比較的機動力の高いゾイド達なら充分よけきれるものである。

 

「なに考えてんの? あんな遅いミサイル簡単に打ち落してあげるわ! 」

「なっ、ちょっと待ちいな、ミサトはん」

「へっ? 」

 

ドン! ドン!

 ドン! ドン! ドン!

 ドン! ドン! ドン! ドン!!

 

見覚えのあるミサイルにトウジが慌てて止めに入る。

が、時すでに遅くミサトは上空のミサイルを正確に打抜いてしまう。

結果、搭載されていた大量のランスが現れる。

トウジが嘗てシンジのサーベルタイガー対策にコマンドウルフに装備し使い、一時的でもその動きを封じたもの。

尚且つデスザウラーも装備していた対高速ゾイド用装備の槍がゾイドを貫く黒い雨となって降り注ぐ。

 

「オワーーー、ミサトはんの馬鹿ぁ」

「馬鹿は無いでしょ馬鹿は!」

「ごちゃごちゃ言ってないでさっさとよけなさいよ! シールドが付いてないんなら」

右往左往しながら、それでも器用に避けて行く面々

そんな様子を呆れながら一瞥して、リツコは貴下のレブラプタ―を援護しつつ退却させ始める。

 

「サラマンダーのような大型ゾイドが飛んでいるのに見方の航空戦力が来ない・・・・・・・すでに落とされたの? 」

 

リツコは最悪の可能性を想いぞっとした。

 

 

 

 

 

「ウアアアアアァァァァァァァァー――――――!」

「化け物だ! 」

「助けて、助けて、助けて」

「ヒィイイイイイイっ!? 」

「イヤダイヤダイヤダァァァァァーーーーーー! 」

「死にたくない、死にたくない死にたくない」

「はいひひひひひひひひひひひひひひひひぃいいぃぃぃっぃいぃぃぃいい」

「くるなぁ!来るなァぁぁ」

 

残り八機となったレドラーは敵・シンジのストームソーダの圧倒的な力に恐れ慄く。

その残虐さに縮み上がり、バラバラになって逃げ始める。

もはやパイロット達には任務もプライドも勇気も無かった。

ただ、黒い翼を広げた死神から逃げることだけが全てだった。

 

「逃がすものか」

 

邪悪に微笑みむシンジ

常識外の加速と共にそのうちの一機の後方に回り、ストームソーダのブレードを開く。

レイ同様通信回線は完全にオープンにして、敵に自分の声を聞かせている。

 

「イヤだ! 御願いだ、見逃してくれぇ〜っ!?」

「ダメだね」

 

しばらく振り切ろうと努力するレドーラの後ろにぴったりとついたあと、更に加速して追いぬき様に切り裂く。

ブレードは機体の真中を通っていき、コクピットとパイロットまで真っ二つになって爆散した。

 

「あ、悪魔だ・・・・・」

「その通りだけどね、無駄口が多いんだよ、お前達! 」

 

その様子を視界の端で確認した今一人のパイロットが呟いたとき、すでに黒いストームソーダは彼の機体の前に回りこんだ。

 

「ウワァぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 」

「うるさいよ」

 

笑みまで浮かべながらシンジはすれ違い様にウイングについたブレードで攻撃する。

片羽を切り裂かれたレドーラはそのまま地上に落ちていく。

 

「さてと、残りはどこだ、シャドー?」

 

すでに視界から完全に消えていたので、変わりにエヴァ・シャドーに聞く。

ジャミングでレーダーが役に立たない今はシャドーの鼻が非常に頼りになる。

 

グゥォ! グルルルルル (シンジ、近くにあいつが来てる!)

「何! どっちだ!? 」

グルゥゥゥ (ここから南に二,三十キロ)

 

しかしここでシャドーは思わぬ獲物を見つけた。

 

「アスカ、早速借りを返してやる!! 」

 

逃げ散ったレドラーを放って、シンジは憎しみが募る相手に向けて黒いストームソーダを駆る。

逃げ惑う帝国のパイロット達に先のアスカの闘いでの惨めな敗走を思い出した彼は歯をかみ締めながら画面正面を睨み据えた。

そこには、クローズアップされたブレードライガー達が写っている。

 

早速の再戦の機会を得たシンジは闇の鳥を心のままに駆り、襲いかかろうとしていた。

 

 

(つづく)

 

 

なお、ゾイドに関してはTV公式ページ・ZOIDS Web Ver.2をご覧下さい。

確か、リンクフリーでしたから大丈夫でしょう。

 

 




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