Here comes the ...(2)

第九話 「告白(下)」




暗い夜が終わり、窓に朝日が射す頃。

いつものように、彼はこの病室に現れた。



わたしは、彼を知っている。

いつもいつも、わたしの顔を見詰める彼の顔は穏やかで。

その目の端に光る涙も、枯れることはなかった。



あの戦いで、わたしは、すべてを置いてきた。

誇りも、プライドも、憎しみも、悔しさも。

心も、愛も。



彼はいつも、わたしに語り掛ける。

わたしは彼の問いに答えることは、許されない。

それでも、彼は止めることはなかった。



雨が降っていても、雪が大地を覆う日でも。

笑顔を絶やさず、訪れる彼。

無関心を装って、わたしの瞼は貝のように閉ざされたまま。



いつもいつも、わたしを見ていてくれる彼。

でも、わたしは彼を直視できない。

自分で自分を許せない。



ここは寒い。

わずかなともし火すらない。

わたしはいつも、震えている。



死への恐怖。

死への羨望。

人形でも感じることはあった筈。



弐号機と一緒に戦った時、私が感じたあたたかみは。

幼いころの思い出。

母さんとの死別。



わたしの首を絞める力強さ。

生きる希望を持った、命の激しさだった。

死への回帰の果てに、その火も消されてしまった!



あの日、わたしに不可欠だったモノまで、捨ててしまったから。

今はまだ、自分が分からない。

わたしにあるのは、シンジの笑顔だけ・・・。



あれは、そう。

ずいぶん昔のことだった。

まだ、この世界にシンジがいた時。



世界中の人々が、原始の海へと還っていった。

わたしとシンジは二人きりだった。

ファーストさえ、そこにはいなかった。



彼は、わたしの首を絞めながら泣いていたわ。

何故、わたしを殺さなかったの。

何故、わたしを置いていってしまったの。



ここには誰もいない。

何もないの。

一人は寂しい・・・。



わたしから近づいても。

どれほど近づいても、彼の心は遠すぎて。

近くにいる気がしない。こんなに近くにいるのに。



ああ・・・。

まるで、とても悲しい夢を見ているようだわ。

何一つさえ、自分の自由にはならない。



嫌な女。

こんな女なんてほっといてくれればいいのに。

わたしは素直になれない。



ほら、その手は何。

わたしを殺す、その手は何。

瞳に浮かべた、その涙は何・・・。



あたたかい手。

あたたかい涙。

あたたかい唇。



―――あたたかい心。







シンジ、もう行ってしまうの・・・。

ここからも、永遠に遠ざかってしまうの。

ああ、わたしはもう一人は嫌・・・。



シンジは、わたしに、何を望むの。


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