ある日

written on 1996/4/10


 

 /青葉シゲル(SHIGERU AOBA)

 /ネルフ本部中央作戦司令室付オペレータ

 /階級:二尉

 /担当:通信・情報分析

 /趣味:ギター

 /現在独身。特定の彼女なし

 

 

 ネルフ本部

 第三食堂(別名:さんしょく)

 正午過ぎ

 

 

 食堂は早速込み合っていた。

 いつもなら早めに仕事を切り上げて込み合う前に食事をとり終えるのだが、

今日はマコトのちょんぼでシミュレーションが大幅に長引いたのだ。

 

 葛城一尉に小言をくらっているマコトを残して、青葉がいつもの食堂へたど

り着いたところから話は始まる。

 

 

 日頃は会うことのない他の部署の同期や、以前在籍していたグループの先輩。

 外国の支部から訪れた見学者、そしてときおり見かけるおえらいさん。

 妙な熱気に溢れたいつもの食堂。

 

 青葉は食券売場の長い行列に混じってうんざりしていた。

 

 ――――そういえば。

 

 と、青葉は、思う。

 

 碇司令の姿をこの食堂で見かけたことがない。

 冬月副司令が時々ざるそばを食べにここに来ることはあっても、碇司令が自

室以外で昼食をとっている姿を見たことがない。

 

 青葉は三度ほど碇司令と昼食をともにしたことがあった。

 もちろん打ち合わせを兼ねての昼食会で、当然副司令も同席していた。

 一度だけ白いプラグスーツの少女が一緒だったこともある。

 

 それは全てあの司令室だったような記憶がある。

 好物のハズの鰻重の味が見事に感じられなかったのを思い出して、青葉は苦

笑した。

 

 先に空席を探しておこうと食堂の奥をのぞき込んだ青葉の目に、プラグスー

ツの赤い色と青い色が飛び込んできた。

 今日は定例のハーモニクス試験で、チルドレンは朝から学校を休んで本部に

勤務する日だった。

 遠目に見ても、青いプラグスーツが赤いそれに振り回されているのが見て取

れる。

 そしてその姿をほほえましく見ているネルフの職員たち。

 傍目には何気ない日常の一コマとしていい時間のように見えるが、純粋にそ

う思っているものはほとんどいないだろう。

 

 作戦上は道具として扱っている彼らに心を和ませられるとは、何とも因果な

商売だ。

 どこか自嘲的な笑みが浮かぶのを青葉は止められなかった

 

 青葉の姿を見つけたのか、青いプラグスーツがぺこっと頭を下げた。

 それに気づいた赤いプラグスーツの手が、こちらに向かって元気よく振られ

る。

 二人のチルドレン。

 青葉はその二人に向かって片手をあげかけたが、途中ではたと動きをとめた。

 

 ――――何とはなしにひらめいた思いつき。

 

 二人のチルドレンに向かって両手を合わせた青葉は、急ぎ足でその場をはな

れた。

 心の中でわりぃと言いながら。

 

 

 

 プシュウウウウ

 

 売店の袋を前後に揺らしながら、青葉は最後のAランクセキュリティの扉を

通りぬけた。

 そしてある部屋の前にたどり着くと、インターホンのボタンを押し、所属と

名前を告げる。

 数秒後、音もなく部屋の扉が開いた。

 

 「どうしたの、お昼休みにこんな所にくるなんて」

 机を背にして、椅子に座っている金髪の女性がけげんそうに口を開いた。

「突然おじゃましてすいません」

 青葉は奥のベッドにチラリと目をやった。

「もう検査終わってますよね?」

 金髪の女性はマグカップからコーヒーを一口すするとうなづいた。

「えぇ、さっき終わったばかりだけど」

 

 タイミングの良さに感謝しながら青葉は言葉を続けた。

「レイちゃん、ちょっとかしてもらっていいですか」

「別にいいけど・・・碇司令の指示なの?」

 金髪の女性の返事に、急に冷たい響きが混じる。

「いえいえ。私のプライベートな用事ですよ」

 青葉はできるかぎり茶目っ気たっぷりに振る舞った。

 金髪の女性の表情がわずかにゆるむ。

「まさか・・・口説くつもり?」

 

 シャッ

 

 突然ベッドのカーテンが開いて紅い瞳が表れた。

 

「あと4、5年たったらそうするつもりですよ」

 どちらに向かって言うでもなく、青葉は笑って答えた。

 

「青葉君は見た目と違って、意外とまじめな人だと思ってたのに」

 笑い声に合わせて、金髪が軽く前後に揺れた。

 その笑いを了承と受け取り、青葉はけげんそうにしている白いプラグスーツ

の少女に向かって言う。

「さ、行こうか」

 わずかに困惑したような顔つき。

 あまりみられない感情の露出に、青葉はすこし楽しくなった。 

 ちょっと格式張って言ってみる。

「これは、命令だよ」

 からかわれているのに気づいているのかいないのか、少女はあいかわらず無

表情なままだが、特に拒否する態度は見せないようだった。

 青葉は少し安心した。

 そして少女を促し退室する。

「それじゃ、失礼します。たまにはコーヒー以外の昼食とった方がいいですよ」

 リツコは軽く片手をあげて答えるだけだった。

 

 

 

 いくつものゲートを越えて二人は歩いた。

 男はとりとめもないことをしゃべっているが、少女の反応は特にない。

 それでも男はいっこうに気にせずしゃべり続ける。

 

 そして奇妙な二人連れはとうとう本部の建物から外をに出た。

 

 スパイラル・トレインの発着音を遠くに聞きながら二人はさらに歩く。

 青葉は売店の袋を手にさげて、レイはそれから半歩下がって。

 

 集光器を通してもたらされる地上の光が穏やかにジオフロント内部を照らし

ている。

 

 10分ほど歩いたところに、木々が密集している『森』と呼んでもいいよう

な場所があった。

 どうやら目的地はそこのようだった。

 森の中の少し開けた空き地に入り込むと、そこで男は足を止めた。

 

 

 キッ

 

 栗色のリスが1匹姿を表した。

 青葉が袋をカサカサと音を立てて振ると、さらに2匹、3匹と。

 

「いつのまにかなついちゃってね」

 

 青葉はまず袋からパック詰めされた野菜サラダと栄養食を取り出すと、レイ

に渡した。

 それが自分の体に最も適している組み合わせだということに気づいた彼女は

不思議そうな表情を青葉に向けた。

 

「可愛い女の子の好きな物はチェック済みってことさ」

 レイのパーソナルデータを知るわずかな人物の一人、青葉は笑う。

 

 そしてパンを一切れちぎってリスたちの目の前に置くと、残りをレイに手渡

した。

 地面に置かれたパンがなくなると、今度はレイの周りにもリスが寄ってくる。

 レイはしばらくの間リスとパンとを交互に眺めていたが、意を決して青葉に

同意を求めるような目つきを送った。

 青葉は笑ってうなづいた。

 

 パンをちぎって、おそるおそる差し出すレイ。

 素早く食料を奪い去っていくリスに、びっくりして手をひっこめる姿がほほ

えましい。

 

 そうだ。今度はちゃんと地上でハイキングに行こう。

 マコトとマヤちゃんを誘って。三人のチルドレンと。

 

 自分らしくない思いつきに青葉はすこし苦笑しながらも、幸せな気分にひた

りながら、自分の食事をとることにした。

 

 ――――たまにはこういうのもいいな。

 

 売店の食べなれたパンも、いつもより美味しく感じられる。

 そして自分の食事をとり終えると、いつものようにすこし目を休めようと瞳

を閉じた。

 

 しばらくして目を開けると、青葉は目の前の光景に少し驚いた。

 

 いつのまにか地面にひじを突いてうつぶせになっているレイと、その周りで

走り回っているリス達の姿。

 

 目の前の光景に青葉は実感する。

 

「こいつらにとっては、俺もレイちゃんも、全然かわらないんだよ」

 

 レイはハッとしたような顔を青葉に向けた。

 

 身を固くするレイには全く関心がないように青葉はリスと戯れ始める。

 

「いててて、それはえさじゃないって」

 

 

 その時ちょっとだけレイは微笑んだのかもしれない。

 

 

                           <おわり>

 


 これまた非常に古い作品ですね・・・いやはや恥ずかしい内容だわ(^^;)

 青葉とレイなんて珍しい組み合わせだけど、書くのは苦労しなかったですね

 いいお兄さんぶりに、こんなの青葉じゃねー! と思われるかも(^^;)



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