NEONGENESIS GRAND PRIX
EVANFORMULA

第5話Aパート「HEAT!」


エヴァンフォーミュラ第5戦の舞台、ブラジルはインテルラゴス。
熱く照りつける太陽だが、カラッとした空気のお陰で心地よい暑さが包むサーキット。
長く続くストレートと、コーナーセクションの連続する
インフィールドセクションで構成されているサーキット。
今回のレースも渚の名前が掲示板の頂点に立った。
ストレートエンドのMAXスピードはシンジらに及ばないものの、
インフィールドセクションでのマシンコントロールが抜群だった。
だが、今回のポールにも、カヲルは我関せず。
特に歓びも見せないまま、彼は報道陣から逃げるようにピットを後にすると
ヘッドホンステレオを手にピット裏の緑地に寝ころんでいた。

「渚カヲル君ね」
リツコがカヲルに向かい話しかけた。
カヲルは聞いていたヘッドホンをはずしながら彼女の方に振り向く。
「あなたのマシンの事で相談があるの」
カヲルは芝の上に寝転んでいたが、彼女に向けた視線はそのままで起き上がった。
「相談?」
「他でもないわ。あなたのマシンにこの天才科学者特製の
 トラクションコントロールを装備してあげようと思ってね」
それを聞くとヘッドホンを再び付けて寝そべる。
「ちょっと!カヲル君!」
「そんな物いらないよ。今回はスタートで出遅れても構わないんだ」
リツコは視線を斜め横に落とすと心のなかで呟く。
(駄目か・・・あわよくば実験台にして運悪く・・・
 いや運良く壊れてくれればカヲルも葬れたのにね・・・)


ブラジルグランプリ決勝。すでにマシンはグリットにつき、メカニックは最終調整に、
ドライバーはコンセントレーションを高めるために使用されるわずかな時間。
シンジは2番グリッドに置かれたコクピット内にいた。
「ほら、シンジ」
アスカがドリンクボトルを差し出して彼のマシンのサイドポンツーンに腰を下ろす。
シンジはそんなアスカのどこに目線をやったらいいのか未だに分からなかった。
シンジの目の前には座ったアスカの足がすぐそこにある。
すこし上にはおヘソが・・・。
健康な男子には嬉し・・・いや酷な状況といえる。
シンジは前を向いたままでアスカに対する言葉を言う。
「ありがとう、でも良く分かったね。喉カラカラだったんだ」
アスカはシンジに耳打ちするために顔をシンジに近寄らせる。
「私はワールドチャンピオンよ。こういう時のシンジの状態くらい分かるわよ」
シンジは顔が真っ赤になった。目線はアスカの・・・
(胸が・・・足が・・・すぐそこに・・・)
それを横で傍観していたマヤだが、さすがにアスカの態度は気に入らない。
「ちょっと!あなたも元チャンピオンでしょ。レース前にシンジ君を惑わさないで」
アスカはそんなマヤを無視してシンジと話している。
「アスカ!いい加減にしなさいよ。シンジ君を集中させてあげなさいよ」
マヤは半ば強引にアスカをマシンとシンジから引き離した。
「何するのよ!私はシンジをリラックスさせようとしてるの。邪魔しないでよ」
いきなりのマヤの行いに憤慨するアスカ。
「何がリラックスよ。シンジ君は困ってるじゃない。自己満足もいい所ね」
アスカの行動はシンジのマイナスになるから排除しようとしたマヤ。
「何て言ったの!もう一度言ってみなさいよ!」
「アスカはシンジ君に色香で迫って惑わせてるだけよ。シンジ君も嫌がってるわ。
 大体何?その派手でいやらしい格好は。よく着てて恥かしくないわね。
 あなたを見てるいやらしい視線に気がつかないの?
 不潔だわ!ピットクルーなんだからもう少し配慮してしかるべきよ!」
シンジは自分の事を言われたようでドキッとした。
「なんですってぇ・・・ふん、どうせオバンにはこのコスチュームは着れないもんだから
 妬んでるんでしょう?。恥っずかしー。それにシンジはリラックス出来てるし、
 嫌がってなんかないわよ。単なる妬みで文句を言って欲しくないわねぇ!!」
流石のマヤもこれには切れた。
「シンジ君!この淫らな不潔少女に本当の事を言ってやりなさいよ!!」
「シンジ!このオバンに説明してやってよ!!リラックス出来てるって!!!」
「え・・・あ、あの・・・」
シンジは大事なレース前の大切なひとときを有意義に過ごせている・・・。


「・・・レイ」
レイがゲンドウを見てマシンを降りる。
「どうだ、調子は」
「はい、問題ありません」
「そうか、もうルールも大丈夫だな」
「会長のお陰でもう大丈夫です」
「そうか・・・だが無理はするなよ」
レイが無言で頷くと、ゲンドウは二コリと微笑む。と、レイも少し微笑み返す。
そしてゲンドウはレイの側を離れてオフィシャルタワーに歩を進める。
そのゲンドウを目で追っていたシンジに生き残ったアスカの声が聞こえる。
「何見てんのよ。シンジ」
マヤはこの場から消えていた。が、負けずに無線で交信して来る。
『そんな女の言う事は無視しなさい。いいわね』
マヤがシンジに向かい、ピットBOXから話す。
シンジはマヤの方を見たが、遠目からでも顔は明らかに怒っているのが確認出来た。
(まいったな・・・マヤさんに逆らうと嫌われそうだし・・・アスカは無視したら今が怖い)
「ちょっと聞いてるの、シンジ」
もう無視は出来そうもない。シンジはマヤの強烈な視線を後頭部に感じながらも
「な、何だいアスカ」
「なんだじゃないわよ。さっきから呼んでるのに」
アスカの声と重なって響くマヤの声。
『シンジ君!キャノピー閉めるわよ!!』
そう言うか言わないかの内にキャノピーが閉りだす。
「ちょ、ちょっとマヤさん!まだスーツを着てないよ!」
と言いながらも慌ててきちんとプラグスーツを直す間にも、LCLが注水されてくる。
間一髪でボタンを押すと[シュッ]という音とともに
体にフィットしたスーツを見て、安堵の声を上げるシンジ。
「くそぉー。あのオバンわざとやったわね」
アスカはマヤの方を見るとマヤはアスカに微笑みかけた。
(ぐっ・・・今に見てなさいよ)
アスカはすたすたとピットBOXに歩いていきマヤの隣りに無言で座ると、
自分のインカムがない事に気がついた。
「ちょっと!私のインカムは?!」
「ないわ」
「な、何でないのよ!私だってチームスタッフなのよ!」
「あ〜らごめんなさい。でもあなたはサインボーダと雑用係だからいらないのよ」
(くぅーこの女ぁ。あくまで私とシンジを話させないつもりねぇ)
アスカは隣りにちょうど来たメカDをふんずかまえて
「あんた・・・その耳に付いてるのいらないわよねぇ?・・・必要ないわよねぇ?」
「え・・・あ、いやぁ・・・そんな・・・」

=第5戦 ブラジルGP インテルラゴセ サーキット 決勝45周=

P.Pは前と同じくカヲル、2ndにシンジ、3rdにトウジ、4thにレイが
並んでいる。そして7thのリツコは含み笑いを浮かべながらカウントダウンを待った。
「行くわよ。見てなさい!私の科学力を全世界に知らしめてやるわ!!」
ツリーにランプが灯り、赤から青になった瞬間、
ついにリツコのトラクションコントロールが性能を発揮!。
ミサトとレイ、トウジにシンジまでかわしてゆく。
カヲルはスタートでまたも出遅れ、既に8位まで落ちている
「フッ・・・フフフッ・・・フハハハハハッ見た!私の!見た!これが私の技術よ!
 最高の技術は最高の科学者から生まれるのよ!思い知るがいいわ!私の技術力を!」

「リ、リツコ?ど、どうして?あの改造バカの新兵器が機能したの?」
ミサトはリツコの数々の失敗にある種の喜びを感じていたので、
このポテンシャルには信じられない。信じられないのはシンジ達も同じであった。

「碇・・・あの赤木博士がトップだぞ」
「ああ」
「いいのか、シンジ君を優勝させた方が私達にとっては都合がいいのだろう」
「問題無い。見ろ」

リツコはトップで1コーナに入ったが、立ち上がりでシンジに抜かれた・・・
「な、なんで?この私が!この私のマシンが加速で遅れを取るなんて!!」
そして次のコーナーの入り口でレイ、トウジにかわされた。
「馬鹿な・・・この私のマシンがブレーキングで遅れを取るなんて・・・」
そしてそのコーナーの出口でミサトにかわされた
「そ・・・そんな・・・ダミーORTマシンのミサトにまで・・・
 ・・・・・・・・・・ありえない・・・・・・・・・・・ありえないわ」

「・・・リツコ・・・レースから離れ過ぎたわね・・・遅いわ」
リツコはその事には気が付いていなかった。

「そういう事か・・・碇」
「ああ」
「だがカヲルはどうするのだ?」
「レイがいる」
「大丈夫か・・・本当に」
「問題無い、その前には予備もいる」
「予備?シンジ君がか?」
「そうだ、今回はカヲルの押さえはレイがメインだよ」
「シンジには逃げてもらう」
「そう上手く行けばいいがな」

リツコがピットに入って来た。テレメーターでは異常なしだったので、
メカニックも慌てて迎え入れる事になったが
リツコはマシンを止めるとさっさとマシンから降りた。
「どうしたんですか?マシンに異常は見当たりません。なにかあったんですか」
チーフメカがリツコに聞いたが
「そうね、テレメーターでは分からなかったかもね。
 途中で右リヤサスの付け根でアポトーシスが始まっちゃってね。
 これ以上の走行は危険と判断したの」
「??何言ってるんですか?アポトーシスが始るわけないじゃないですか。
 こんなとこでそんなモノが発動しませんしエヴァ細胞のDNAだってそんな情報は・・・
「うるさいわね!そうといったらそうなのよ!!分かった!!!」
・・・は・・・はぁ・・・・・・分かりました・・・」
リツコは怒りを露わにしながらモーターホームに引きこもった。

カヲルは意外とトウジに手を焼いた。思ったより速い。
1コーナーではトウジがかなり無理してカヲルを押え込んでいる。
(あの馬鹿!いくら言っても聞かないんだから)
監督ヒカリが仕草もイライラしていて端から見ててもイラついているのが良く分かる。
アスカは新鮮なヒカリを見た気がした。
(こういう視点で見るのも面白いわね)
ニコニコしながらヒカリを眺めていたアスカに、マヤが釘をさす。
「ほらアスカ、手がお留守になってるわよ」
「わかってるわよ。うっさいわねぇ」
その周のピット前、アスカがサインボードを出す前にシンジが通過してしまう。
アスカはシンジのマシンを目で追いながら、
「あぁ〜!あの馬鹿!なんで私がサインボード出す前に通過すんのよ!」
マヤは頭が痛くなってきた。
ゲンドウの頼みとはいえ、いい加減嫌になってきている。
『マヤさん、今ボード出なかったけど、どうかしたんですか』
サインボードが出なかったことに疑問を感じたシンジが無線でピットに聞いてくる。
当然だ、そろそろピットイン。ピットサインには敏感になるからだ。
アスカはこれを聞いていたが恥かしくなってきたので無線を無視した。
『ごめんね、シンジ君。誰かさんが凡ミスしたみたいなの。そのままで大丈夫よ』
(イチイチ勘に触る言いかたしてぇ・・・でも悪いのは私か・・・)


10周目トウジがストレートに来る。
後ろにはカヲルがいるが、トウジのインには入りきれない。
もう7回同じ事を繰り返していた。
「この前より彼は直線で伸びてる。このマシンじゃこれ以上の高速走行は危険だ」
しかしそれでもカヲルは直線でトウジについていく事はできている。
ただコーナーは圧倒的にカヲルの方が速かったのだが、トウジは露骨にブロックする。
「もう行かせてもらうよ。今回はシンジ君と走りたいんだ」
インフィールドセクションでカヲルがトウジに並ぼうとするのだが、
トウジもカヲルの動きを良く見て横に出さない。
「仕方ないね。無理を承知で1コーナーで行くしかないかな」
最終コーナー立ち上がり、カヲルは初めてマシンの機能、ES−Cに切り替える。
と同時に自らのシンクロも少しあげた。トウジもこの変化を素早く察知した。
「いよいよ勝負やな・・・いくでぇ!ブラックブースターオン!!」
トウジは今回からの新兵器、ハイパーブースターを作動させた。
トウジの声を聞いたヒカリは、ピットウオールから半身を乗り出して
彼のマシンを視認しようとした。
ブースターの残像音を残して彼女の前を通過するトウジに罵声を浴びせる。
「馬鹿ぁ!こんな序盤で何やってるのよ〜!!」
彼女の声が届くことはなく、
真後ろに付いていたカヲルがアウトに振ってトウジに並びかける。
トウジもその全ての行動を掴んでいた。
「よっしゃ!よう来たな!そっからどうするのか見せてもらうで!」
「ここからさ。悪いね」
カヲルは目を閉じてシンクロ率を一気に引き上げる。と同時にマシンが鋭く加速した。
「な、なんやて!この状態からなんで加速出来るんや!」
カヲルはトウジの目の前に出て来てフルブレーキを駆ける。
カヲルもトウジも少しオーバースピードで1コーナ進入。
「あかん!!」
トウジはカヲルに接近し過ぎてアンダーステアが酷くなっていた事に気が付いた。
が、時既に遅くトウジはコースアウト。車高を高くしても砂を弾くばかり。
「とんだ失敗やな・・・ま、ええか」
キャノピーが開くのを見ていたヒカリは
[バキッ!!]
という音と共にインカムを握り潰していた。顔については触れるのはやめておこう。

シンジは順調に周回を重ねる。そして1回目のピットストップを迎える1周前、
アスカがサインボードになにか書いてるのをマヤが見つけた。
「アスカ、何してるの?」
「えっ、だってこんな『BOX』なんて言葉だけじゃシンジもつまんないでしょ」
そう言うとマヤにボードを見せる。
「ねっ、シンジもこの方がやる気が沸いてくるわよ」
マヤは頭を抱えながら、
「・・・・・・・・・・・アスカ・・・お願い・・・もうチームやめてよ」
「あっ、もう来るわ。今回のメッセージはきちんと伝えなきゃ」
そう言うとアスカはサーキットに身を乗り出してシンジを待つ。
(アスカ・・・お願い・・・これ以上トラブルを起こさないで・・・)
マヤの思いはむなしくアスカはサインボードをシンジに向けた。
シンジが来て、そのボードを見る。
(えっ?何?なんか一杯書いてあったけど・・・読めなかった・・・)
シンジはとりあえずマヤに向かい無線でコンタクト。
『あの・・・さっきのボード・・・なんて書いてあったんですか?ピットはどうなんですか』
(見れなかったのシンジ!なんだ・・・ちょっとがっかりだな・・・)
『・・・・・・・・・・・いいのよ、シンジ君。予定通り入ってらっしゃい』
マヤはこの時、学校の先生にだけは絶対になりたくないと思っていた。

シンジもレイもカヲルも23周に入った。順位は変わらずに、

1、シンジ 2、レイ 3、カヲル 4、ミサト 5、日向 6、レンドル 7、青葉

・・・・11、トンマ・・・・最下位ケンスケ

となっている。

そしてカヲルの視界に白いマシンが大きく描き出されていた。
「やっと追いついた。ようやく今回の目的を始められそうだよ」

「碇、ついに来たな。レイは大丈夫なんだろうな」
「ああ、問題無い」
「そうか、期待していいんだな」
「もちろんだ」

レイはバックモニターを振り返り、ぽつりと呟く。
「あの車・・・グレーの車・・・会長の言っていたルールに出てた車」
カヲルはレイの後ろに付くと前と同じく観察する。
そして2周経過、
「なるほど、君は掴み所がないね。何を考えてるのか僕にも分からないよ」
「でも・・・君は僕と同じ・・・。綾波レイ・・・それが走りに出ているよ」
そう言うと現在のレイのシンクロ率に合わせる。そして少し上げる。
「ルールその1・・・グレーの車に抜かれたら失格・・・」
レイがぽつりと言う。
カヲルは軽く牽制をいれた。
「ルールその2・・・グレーの車は過度のブロックをしても違反にはならない・・・」
レイはトウジよりも露骨にブロックする。
それもその筈抜かれたが最後、彼女は自分のレースが終わってしまうと思っている。
「驚いたな。君がここまで攻撃的とはね。少し誤解してたかな」
そう言うとカヲルは更にシンクロ率を上昇させ更にプッシュする。
インフィールドセクションでレイのアウトに並びかけた。
「ルールその3・・・グレーの車が横に来たら押し出さなければ失格・・・」
レイは思い切り幅寄せした。
「!」
カヲルはブレーキを駆けて辛うじてレイのマシンをかわした。
「ふう・・・君は恐い事するね。まるで死に急いでるように見えるよ」
「・・・失敗・・・でも抜かせてないからまだ走れる・・・」
最終コーナーを抜けて一気にカヲルが行くつもりだ。
さっきのトウジを抜いたのと同じ様にする。レイにも分かった。
「失格は駄目・・・あの人に見てもらえない・・・」
レイもハイパーブースターを作動させる。
そしてカヲルは同じようにアウトに出るが、レイは先ほどと同様に幅寄せ。
「驚いたね。こんなハイスピードでこんな事出来るのは君だけだよ」
と言うや否やシンクロ率を引き上げた。
「・・・抜かせない。・・・抜かせたらおしまい」
その時レイのマシンも同様に加速した。
「な、何だって?!そんな事があるのか!」
カヲルは迫り来るレイのマシンが自分と同様に加速して来た事が信じられなかった。
そしてレイのマシンを避ける為にマシンを半分路肩に落とさなければならなくなるまで
レイのマシンは接近していた。しかしこんなハイスピードでのコースアウトは
「まずい!」
カヲルが言う間もなくマシンは回転を始めていた。
「くっ!」
カヲルは必死でマシンを立て直そうとした。
結局ホームストレート上で4回転してなんとかそのまま奇跡的にレースに復帰出来た。
「ここまでしてくれるとはね。正直驚きだよ、綾波レイ・・・」
「・・・君は僕と本当に同じなんだね」


第5戦Bパートに続く

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