---------------- そして、未来へ... 裏Epilogue ------------------
「ちくしょう、ちくしょう!」
私は叩く。 シンジのベッドを。 もう二度と、還る人のないベッドを。
初めて聞かされたのは、病院のベッドでだった。 ミサトが、リツコが死ん
だ事。 そして...シンジが、ファーストが、二度と還らない事。 加持さ
んが、殺されてた事...。 ミサトの、目の前で。
だから、覚悟してたはずだった。 ううん、弐号機の中で、ホントは知って
たはずだった。 でも。 悔しいけど、涙が止まらない。 どうしてもっと
早く気付かなかったの? こんなに、シンジのことが好きだったって。 バ
カにしてたはずなのに、こんなに甘えていた事に。 今なら分かる。 加持
さんには、ただ憧れてただけだって。 大人になりたかった私の心が、憧れ
させてただけだっていう事に...。
ばかシンジ...どうして、私を選んでくれなかったの? なぜ、私じゃなく
てファーストなの? ママと、同じだから? 私じゃ、駄目だったの?
ファーストと、初号機と、一つになったシンジ。 神様になってしまった、
シンジ。 そして...その力ゆえに、人を滅ぼさないために、封じられてし
まったシンジ。 シンジは、還ってくる。 でも、それは56億8千万年も
先のこと。 ミロク...それが、今のシンジの名前。 そして、ファースト
の名前。 56億8千万年先の、救世主。 そのシンジを封じた人は...も
ういない。 司令と、ユイの目の前で消えてしまったんだって。 司令の、
友達だったんだって。 信じられないな、あの司令に友達なんて。
ユイ...。 シンジのママ。 司令の奥さん。 10年前、生きたままEva
初号機のコアに取り込まれてしまった人。 ファーストと、生き写しの人。
お見舞いに来てくれたユイに初めて会った時は、唖然として言葉も出なかっ
たわ。 私、何年寝てたんだろう、って思っちゃったわよ、ホント。 ま、
色違いだから変だな、とは思ったけどね(^^;。
後で聞いたんだけど、ファーストは、ユイの遺伝子をアダムの細胞に植え付
けて作ったクローンだったんだって。 そっくりなはずよね。 でも、アダ
ムの細胞はメラニン色素を合成できないから、ファーストはアルビノになっ
た。 あの女、普通じゃないとは思ってたけど、まさか使徒もどきだとは想
像つかなかったわ。 使徒になっちゃわなかったのは、ユイの遺伝子を使っ
たからね、きっと。
私...いつも、ファーストを見る度に、たまらない苛立ちと...時々、嫌悪を
感じてた。 でも。 同じ顔でも、ユイだとそんなこと全然感じない。 ど
うしてかな、と思ったら...そうか、表情が違うんだ。 ファーストは、い
つも人形みたいに無表情で...それが私をたまらない気持ちにさせたけど、
ユイは、いつも笑顔を絶やさない。 優しい、あったかい笑顔。 でも、そ
の笑顔に時々淋しげな影が落ちるのを、私は知ってる。 そうよね。 11
年もおあずけで、やっと還ってきたと思ったら、今度はシンジが...抱きし
める事も、触れあう事さえできないまま、消えてしまったんだもの...。
あ〜ぁ、いいかげん泣くのも疲れちゃったな。 もう、やめよう。 でも、
やっぱりもうここには住めない。 一人で暮らすには...思い出が多すぎて。
泣き暮らすなんて、性に合わないもの。 でも...まだ、ドイツには帰りた
くない...ううん、行きたくない。 今はまだ、その時じゃない。 ...やっ
ぱり、ユイに甘えちゃうしかないな。 ヒカリもまだ戻って来ないし、他に
転がり込むところなんてないもんね。
ユイは、今、司令と別居中だって。 心の整理がつかないからって。 だか
ら、一緒に暮らさない?って、誘ってくれてるの。 お互い、一人は寂しい
でしょ、って。 ...私も、ユイになら、甘えられそうだしね...。 だって、
ユイって、骨の髄まで「お母さん」してるんだもの。 ホント、シンジって
バカ。 あんなステキなママをおいていっちゃうなんて。
...でも、このマンションはそのままにしておこう。 そして...落ち着いた
ら、ユイと一緒に来よう。 この...シンジの部屋を、見せてあげるの。
ここが、シンジの住んでた部屋よ、って。 シンジ愛用のエプロンとかも。
シンジの匂いが消えないうちに、きっと...。
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ユイと暮らしはじめて、もう半年経つ。 いまだに、司令とは別居中。 ま
だ、当分は許してあげないんだって。 私は、いいんだけどね...。 まだ
当分は、ユイのお料理が食べられそうね(^^)。 おいしいのよね〜、ユイの
お料理って。 シンジのとよく似た味付けなんだけど、ハッキリ言って数段
上。 レパートリーも桁違いだしね。 最近、私も手伝いながらいろいろ教
えてもらってる。 普段やらないだけで、お料理には自信あったんだけど、
勝ち目がないわ。 ...言っとくけど、その気になれば、シンジになら負け
ないわよ...って、誰に喋ってるんだろ、私(^^;。
そうそう、NERVは、いまだ健在。 しこたまため込んだ技術や、粒ぞろ
いのスタッフを生かして、世界の復興のために動いているの。 司令は、今
も暗躍中(^^;。 妙な事を考える国が出ないように裏工作をしてるっていう
話だけど、どこまで本当やら、だわ(^^;。 私も、なぜかまだセキュリティ
カードを持ってる。 ちゃんと、マヤが新しいのを定期的に持ってきてくれ
るの。 ユイのと一緒にね。 私もユイも、行かないけど。 そういえば、
今日は更新日ね。 ユイは、出かけちゃったけど。
...大ニュース! マヤってば、すごい!
あの日、MAGIに紛れ込んでたデータ。 仕事の合間に解析してたんだっ
て。 そしたら! そしたらよ、シンジたちを呼び戻せるかもしれないって!
そのヒントが書いてあるんだって!
司令に報告したら、解析を進めてもいいんだって! でも、手が足りないか
ら、マヤ以外は正規のスタッフを使っちゃダメだって。 司令のケチ(--;。
でもでもっ! NERVの機密を守れる人なら、正規のスタッフ以外でも使
っていいって。 チャンスだわ。 あたし、いまだに弐号機パイロットの登
録は生きてるけど、実質的に仕事はないから、ばんばん手伝っちゃう! こ
れなら、きっとユイも手伝ってくれるはずよ。 なんたって、シンジを取り
戻せるんだもん!
よ〜し、萌えてきたわ!、もとい、燃えてきたわ! 覚悟してなさい、ファ
ースト! 今度は、あたしがシンジをもらうんだからね! あんたから、奪
ってやるんだから。 負けないわ。 ユイのコピーなら、シンジのママじゃ
ない。 あたし、そんなの認めない。 遺伝子適合は完璧? はんっ! そ
れがなにさ! シンジにふさわしいのはあたし!
さぁて、これからが大変だわ。 予算だって、いくらかかるか分からないし、
だいいち、あたしがオバサンになっちゃう前に、何としてもカタをつけない
と。 もう、ファーストには負けられない! そう、5年! 5年以内に何
とかしてやるんだから! こないだ15になったから、5年後はあたしは20
歳。 まだまだお年頃よ! シンジとは...6歳違いになっちゃうのか(--;。
でも逆に、ユイは歳の差を6年分取り戻せるんだし、ハタからみてもう少し
お母さんらしく見えるようになるわね。 今だと、「歳の離れたお姉ちゃん」
にしか見えないもん。 Evaに取り込まれた時のままで帰ってきたからね。
見掛け、27歳よ、27歳! リツコやミサトより若いわ(^^;。 マヤより
は、かろうじて上に見えるかな。 だから、「おばさま」じゃなくて、名前
で呼んじゃう。 ついつい、ね(^^;。 シンジのやつ、外見は徹底して母親
似だから、余計に「お姉ちゃん」にしか見えないのよ。 やっぱり、5年後
くらいが妥当な線か(^^;。
5年...難しいけど、やるしかないわ! 天才美女が3人がかりよ! でき
ないはずがないわ! よ〜〜〜し! 気合を込めて...
「アスカ、いくわよ!」