NEONGENESIS GRAND PRIX
EVANFORMULA
第3戦 「唇」
「シンジ君、どうしたの。14位なんてタイム、あなたの力で出る筈無いわ」
「すいません・・・」
「マシンに変な所あるの。あれば言ってね、そのために私達がいるんだから」
「はい・・・」
マヤとシンジが話しながら歩いていると、1人の男が現れる。
「無駄だよ。シンジ君はビビっている。壁にクラッシュするのを恐れてね」
加持リョウジ、1発屋と言われる男。やる気になった時の彼は恐ろしい。
「そんな事ありません!シンジ君は一生懸命走ってます!!」
反論するマヤだが、加持がすぐに切り返す。
「でも君も言ってたろ?こんなタイムのはずがないって」
「それは・・・」
「彼は恐いんだよ。後ろにいれば良く分かる。クラッシュを恐れる奴は終わりだ」
「そんな事無いです!シンジ君には才能があるわ!」
それを聞いた加持は「参ったな」という表情を浮かべる。
「シンジ君、君だってもう乗りたくないんじゃないのか?」
「シンジ君、どうなの?本当にそう思ってるの?」
「・・・・・」
シンジは何も言わない。
マヤもシンジの返答がない事の意味を理解した。
「ほらみろ。無理矢理乗せて結果が出るものか。こんな奴のマシンを
いじってても無駄なだけだ。その代わりにどうだい?今夜一緒に食事でも」
加持は馴れた手つきでマヤの肩に手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと。やめてください」
マヤはシンジの事が気にかかって強くは拒めなかった
加持はそんなマヤの反応を見て、強引にキスをしようと顔を寄せる。
その時シンジはマヤを加持から半ば強引に引き剥がした。
「いけないな、シンジ君。人の恋路の邪魔をするなんて」
「何が恋路ですか。無理に迫ってるだけじゃないですか。マヤさん嫌がってますよ」
「分かってないな、シンジ君。女性は一度は拒む物なんだよ」
それを聞いたシンジがマヤを見る。
マヤは首を横に振っている。
「あなたの一人よがりの馬鹿な妄想にはついていけませんよ」
シンジはそう言うとマヤを連れて歩き出した。結構きついセリフだ。
加持はそんなシンジの腕をつかむ
「言ってくれるね、シンジ君。なら賭けをしないか?」
(何言ってるんだ、この人?)
賭けなんかする理由がない。
「君と俺で勝負をしよう。どちらが決勝で先にゴールするかで賭けをしよう」
(何一人で決めてるんだ、この人)
シンジは思う。その時マヤが
「わかりました。その勝負受けて立ちます。そのかわりシンジ君が勝ったら
シンジ君に謝って下さい。それと私に付きまとわないで下さい」
「いいだろう。そのかわり俺が勝ったら君は俺の好きにしていいんだな?」
マヤの顔が硬くなる。が
「ハイ。もちろんです」
シンジは驚く。
「な、なに言ってるんですかマヤさん。そんな事駄目ですよ」
とシンジが言っているにもかかわらず
「ほう・・・それは楽しみだ。じゃあレース後にまた」
話は一気に進んでいった。が・・・
「!!!!!待て!!!!!」
とこの3人に声をかける男がいた。
「その話!俺も混ぜてもらうぞ!!」
誰あろう青葉だ。彼はマヤを密かに狙っていた。
しかし加持は彼を見て見ぬフリをして
「じゃあシンジ君、レースで会おう」
と言うと加持は消えていった。
「あっ、あの・・・加持さん・・・」
青葉は去りゆく加持を目で追いかけながら声をかけたが、無視された。
「マヤさん、今からでも遅くないですよ。謝りにいきましょう」
マヤはシンジを見て微笑む。
「どうして?シンジ君が勝てば問題無いじゃない」
と言葉を返すと加持とは反対方向に1人で歩き出した。
「ちょ、ちょっと待って。マヤさん!マヤさん!!」
シンジとマヤも行ってしまう。
「あ、あの・・・ちょっと・・・シンジ君、マヤちゃん・・・」
5月の冷たい風が青葉に吹き付ける。
「行くか・・・」
=第3戦
モナコGP 決勝83周=
シンジは苦戦していた、抜けない。
恐怖もあるが、このサーキットはまるでオーバーテイクポイントが無い。
シンジは1回目のピットストップで7位まで上がったものの、
それからは1つも順位は変らない。ここで順位をおさらいしよう。
1、アスカ 2、リツコ 3、ミサト 4、加持
5、レイ 6、トンマ 7、シンジ
である。トウジは早々にミサトに弾き飛ばされリタイアしていた。
日向も青葉も既にサーキットを後にした中でケンスケは16位・・・最下位である。
ミサトは先ほどから後ろに付いていた加持をブロックする。
「誰がアンタなんか前に出すもんですか」
このレース、ミサトは冷静さを欠いていた。感情的になっている。
「いやはや、恐いね」
加持も諦め顔だ。前にいるのは天下のミサト、そうそう抜けるものではない。
(仕方ないな)
加持はレイに進路を譲り、白いマシンを先に行かせる。
「頼むよ、お嬢ちゃん」
レイのマシンが正面に映ると、
加持は2人から少し離れて彼女たちの観察にはいった。
シンジはトンマの真後ろ、加持から19秒遅れ。
シンジはトンネル出口でかわそうとするが、壁が気になり思いっきり攻められない。
「シンジ君、やはり駄目なの・・・」
そんなシンジをモニターで見たマヤは落胆の色濃い顔を浮かべていた。
「アスカ、悪いわね。この新兵器、あなたで試させてもらうわ」
リツコはビラージュ・カジノを抜けたところで左手の人差し指でスイッチを押した。
『ヒュウウウウゥゥゥゥン』
コクピット裏のディスクが高速回転し、光ディスクの模様が次々に変わる。
同時にリツコのEG-Mの後部にあるコアが怪しく輝き出す。
「うっ!」
リツコのマシンが鋭い加速を見せ、アスカを一気に抜き去る。
いきなり目の前に現れたリツコのマシンを見て2,3度瞬くアスカ。
「う、嘘!さっきまでモニターに米粒程度にしか見えなかったのに・・・」
抜かれたアスカは信じられなかった。
こんな事はありえないのだ、アスカのマシンでは・・・
「フッフフフフフフフフッ、フハハハハハハハハハハッ!!!!!」
「見た!この私の技術力を!思い知ればいいのよ、このマシンが最強なのよ」
高らかに笑い出したリツコだったが、次の瞬間コアが妖しく光りだした。
有頂天の彼女はその事に気づかずに、コーナ出口でいつも通り加速しようとした。
が、命令をマシンは受け付けなかった。
「???どういう事???」
その時EG-Mのコクピット前方のエアダクトから
「ウウウウゥゥゥ・・・ゴオオオオオオォォォォォォ・・・」
という『うめき声』が聞こえた。
「まさか・・・・」
リツコの脳裏に一抹の不安がよぎる。
「暴走!」
というや否やリツコのEG-Mは壁に向かい急加速、壁が一気に彼女の目の前に迫った。
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
リツコのEG-Mは壁にクラッシュしたが、リツコは幸い無傷だった。
「まさかダミーが暴走するなんて・・・」
ミサトはリツコを見て思う
(馬鹿ね、良く分からないものを無理して使うからよ)
その時ミサトに隙が出来た。
「行ける」
レイがES−Cにしてミサトに一気に並びかける。
「しまった!でもアンタなんか死んでも前に出すもんですか!!」
ミサトはレイを加持と勘違いした。
マシンカラーまでは、よそ見をしていたミサトにはわからなかったのだ。
もはや完全にインを固められ、どうする事も出来ないミサトだが、
アウト側から強引に被せる。
『ギャギャギャッ』
ミサトのフロントタイヤがレイのサイドポンツーンにヒットした。
こうなってはレイも黙ってはいない。
そのままミサトのマシンをアウト側の壁に押し出す。
ミサトを押しだしたレイのインコースが開いた瞬間、
金色のEG−Mがその隙間をすり抜けていった。
「しまった!」
その時ミサトは自分のミスを認識した。と同時に2台に抜かれた事を悟った。
更に右フロントアッパアームが曲がってしまった事に気づいた。
(くっ、私としたことがとんでもないミスしたわね)
彼女はこれ以上走る事は出来なかった。
レイにしてもその周にピットに入る。
メカニックがサイドカウルを引き剥がすと、左ラジエターが完全に潰れていた。
一目見てもすぐ直せる損傷ではない。
レイはメカニックが首を横に振るのを横目で見ながらポツリと呟いた。
「あのバアサンのせいで・・・」
シンジは苦悩する。トンマは速くはない。
が、壁とバトルが恐くて激しくプッシュできない。
すでに加持は遥か彼方に行ってしまった。
もうこれ以上トンマには付き合えない。
トンネル出口、シンジはスリップから出てインに入る。ここまでは今までと同じ。
シンジは左に壁、右にトンマ、正面にはガードレールと木々が迫ってくる。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁ!!!」
シンジはかなり早くに制動を駆ける。
そのシンジのマシンをトンマがアウトからかわしていく。
こんなシンジを見てマヤは思う。
(駄目なの?シンジ君。走る理由があっても恐怖には勝てないの?)
シンジはどうしても恐怖を捨て切れない。その時マヤから通信が入る。
「シンジ君、ピットに戻りなさい」
「えっ、でもまだ予定のピットストップじゃありませんよ」
「これ以上走る事はないわ。リタイアしなさい」
「な、何故ですか?そんなことしたらマヤさんが大変な事になっちゃいますよ」
「このまま走っても結果は同じよ。シンジ君が苦しんでるのにほっとけないでしょ」
「・・・・・」
「次の周で終りにしましょう。最後くらい楽しんで走って来てね」
それだけ言うとマヤは無線のスイッチをOFFにして無表情でモニターを眺め始めた。
シンジはマシンの中でモナコの流れる町並みの中を走っていた。
建物とガードレールが現れては消える。消えないのは目の前のトンマのマシンだけだ。
トンマのマシンを見つめ、シンジは唇をかんだ。
(なにやってるんだ僕は。マヤさん一人の力にもなれないのか。何が恐いんだ?
こんなもの。恐くなんかない。今の僕はただ逃げているだけだ。恐怖から。
逃げたら駄目なんだ。終りなんだ。逃げちゃ・・・駄目なんだ・・・)
またトンネルに入る。がいつもと違う。
何もしない。
マヤはそれを見てヘッドホンを置いて、ピット内へ入っていった。
『プー』
シンジがピットに入ってきた。
マヤはシンジを出迎えようと、
フロントジャッキを持ったメカニックの横で彼の帰還を待った。
シンジのマシンが所定の位置に着いた瞬間からメカニックは忙しく作業を始める。
マヤはそれを見て
「いいのよ、もうそんな事しなくても」
とメカ達に声をかけるがそのまま作業は続き、
GOのサインが出るとシンジはレースに戻っていった。
「えっ?どういう事?」
マヤはボックスに戻ってヘッドホンを付けるとシンジにコンタクトを試みた。
「シンジ君!何してるの!もういいのよ!無理はしないで!」
「マヤさん、どうしたんです。さっき通信出来なかったんで焦っちゃいましたよ。
だからメカAさんに勝手にピット作業頼んじゃいました。
・・・いけますよ、やります。誰のためでもない、僕自身のために。
ついでにマヤさんのためにもね」
とシンジは言うと通信を切った。
マヤは何も言わない。が嬉しそうにモニターに向かって微笑んでいた。
上位がごっそり消えてしまったモナコグランプリ。
もはやトップグループで走ってきたのはアスカは一人。
赤いマシンは独走態勢にはいっていた。現在の順位は
1、アスカ 2、加持 3、トンマ 4、シンジ
5、レンドル
となっている。2回目のピットストップを終えているのはシンジだけである。
その時モニターにファステストラップの更新が写し出された
碇シンジ 1分34秒327
かなりのハイペースだ。シンジのシンクロ率はかなり高い。
この位のタイムは当然出てもいいタイムである。
アスカと加持は同一周にピットに入り、順位は変らずにコースに戻った。
アスカと加持の差は16秒開いている。続いてトンマもピットへ急いだ。
トンマがピットを後にするとシンジに抜かれていた。
だがシンジにとってはそんな事どうでもよかった。
サインボードの加持との差だけを見ていた。
「あと18秒。詰めてみせる。
・・・あの人を捕らえる事が出来れば・・・僕にも出来る事が証明されるんだ」
残り10周、加持に追いついたシンジが加持のバックモニターに写し出される。
現在のシンジのラップタイムは予選のアスカのタイムより速かった。
「もう追いつくとはね。少し馬鹿にしてたかもな」
その周、加持のペースが上がった。シンジとほぼ同タイムまで上げてきた。
「そ、そんな。加持さんがこんなに速かったなんて・・・」
シンジはトンマとはまるで違う加持の速さ、上手さに脱帽した。
次の周の加持のタイムは1分32秒830。
ここまで来て昨日のミサトのポールタイムより速いタイムで走っている。
しかしシンジもそれに付いていっている。
当然、ペース的には劣るアスカに彼らは追いついていった。
あと4周で加持とシンジはアスカを射程距離に捕らえる。
「な、何なのよこいつら?私だって本気で走ってるのに・・・」
アスカは確かに本気で走っている。
が、加持の方がアスカよりも1周で2秒速かった。
「前が遅い、行くなら今しかない」
アスカが聞いたら怒りそうなセリフだが、
シンジはビラージュ・カジノで勝負を賭けた。
シンジのマシンとリツコのマシンのみに付けられている新兵器、
ハイパーブースターのレバーに手をかけ、一気にレバーを引き寄せた。
「行くぞ!ハイパーブースターON!!」
シンジのマシンのブースターが立ち上がり、
爆発的な加速で加持はおろかその前のアスカに並びかけた。
「な、何だ今のは?」
加持は驚く。ブロックする前にシンジにあっという間に抜き去られた。
アスカはバックモニターに写りもせずに並びかけた紫のEG−Mを見て
「えっ?加持さんじゃないの?」
と信じられない面持ちで見ていた。
「いけぇ!」
シンジは叫びと共に、限界まで我慢していたブレーキを思い切りかけた。
このコーナーを抜けた時、
モニターに向いていたマヤの目に、一番最初に飛び込んできたのはシンジだった。
『や、やった。やったよ!!マヤさん!!!』
シンジは大喜びだがレースは終った訳ではない。
「やるじゃないかシンジ君。でもまだ負けた訳じゃないからな」
「・・・何なのアイツ・・・この私が手も足も出ないなんて・・・」
意気消沈したアスカを加持が抜くのにさして時間はかからなかった。
アスカを抜き去ったシンジと加持は一気にアスカを引き離して行く。
「この私が・・・本気で走ってるのよ・・・なんで・・・どうして・・・」
残り2周。シンジが最終コーナーのビラージュ・アントニー・ノースで
パワーを駆けた瞬間、マシンがパワースライド!。辛うじてマシンを立て直した。
「うわっ!危なかった・・・」
加持達よりも早めにピットに入ったせいで彼のタイヤ性能が落ち始めていた。
しかしシンジは加持を押え込んだままファイナルラップに突入する。
「ラストチャンスはトンネル出口だな」
加持はそこに賭ける。それまではシンジの後ろでマシンを温存させた。
その事はシンジにしても百も承知である。ヌーベルシケインでシンジが呟く。
「もう1回・・・行けるよね・・・母さん」
シケインの立ち上がりでシンジはもう1度叫ぶ。
「行くぞ!ハイパーブースターON!!」
シンジのマシンは鬼のような加速をするが、
タイヤがついてこないために威力は半減していた。
それを見て取った加持は
「よし!チャンスはある!!ES−Cオーバーロード!!!」
加持もここで決めるつもりだ。一気にフルパワーで勝負をかける。
シンジはブロックラインをトレースする。加持もインには入れない。
しかしアウトにマシンを振るとシンジに並びかけ、そのまま少しだけ前に出た。
「負けられない。負ける訳にはいかないんだ!。マヤさんの為、僕の為にも!!」
ガードレールと木が迫る。シンジは目を見開きそれを凝視する。
(恐くない。逃げたら負けだ。恐くなんてない。ギリギリまで待つんだ)
「シンジ君、ここまでだ!」
加持はギリギリまで我慢した後、制動を駆ける。同時にシンジも制動を駆けた。
両者のマシンからタイヤスモークが上がる。2人とも限界まで我慢した結果だ。
「止まれ!止まれ!!止まれー!!!」
シンジは叫んだ。シンジのマシンは加持よりも先にコーナーに入れたが、
明らかにオーバースピードだった。当然マシンは外に膨らんだ。
加持はその隙を見逃さず、スペースにマシンを滑り込ませた。
が、ここはモナコ・モンテカルロ。
ギリギリで次のコーナのインをシンジは取っていた。
コントロールライン、チェッカーフラッグが振られる。
碇シンジ初優勝の瞬間だ。シンジは無線を使い
「やったよ!マヤさん!!僕が優勝だよ!!!」
「よくやったわ!シンジ君!!」
マヤも興奮気味だ。モナコは伝統の1戦。
ここで勝つのは他レースの3勝に値する。
マヤの目にも涙があふれてくる。
マヤはその涙を人知れず拭うと、モーターホームに消えていった。
シンジは初めて表彰式の舞台に立った。
トロフィーをモナコ王室の人から受け取ると、それを高々と掲げた。
観衆から拍手がわき起こり、皆が祝福してくれる。
シンジは彼らに向かい、笑顔で応えた。
(初めてだな・・・ここに来て、こんなに自然に笑えたのは・・・)
そしてトロフィーを掲げていたシンジにシャンペンを手渡したのはゲンドウだった。
「よくやったな、シンジ」
その一言を残し、彼はシンジの前から消えていった。
(父さん・・・)
シンジはより嬉しさが膨らんだ。ゲンドウから誉められたのは、
初めてといっても良かった。嬉しくないわけがあろうか。
受け取ったシャンペンを勢い良く上下に振った後、
『バシュゥッ』
勢い良く吹き出すシャンペンシャワーを観客に向けるシンジ。
彼に続くように加持がシャンペンを噴射させると、シンジにその口を向ける。
表彰台で加持とシンジのシャンペンをかけあう姿を突き刺すように見る少女。
彼女は右手に持った3位のトロフィーをギュッと握りしめ、
幸せそうな姿の2人の姿に舌打ちを浴びせた後、その場を足早に去っていった。
シャンペンを置き、トロフィーに手をのばしたシンジに
「シンジ君、昨日は失礼した。今日の君の走りは尊敬に値する。
素晴らしい走りだった・・・優勝おめでとう」
「加持さん・・・ここまで来れたのもあなたのおかげです」
「いや、彼女に感謝するんだな。俺は何もしてないよ」
シンジの肩を2回程ポンポンと叩くと、彼はその場を去っていった。
「マヤさん!マヤさん!!」
シンジはモーターホームに駆け込んできた。
マヤは息を切らしているシンジを見て、にこりと微笑むと
「おめでとうシンジ君。今日はパーティーね。シンジ君の初勝利だもの」
「ありがとうございます。マヤさんのおかげです」
「そんなことないわ。シンジ君が頑張った結果よ」
「でもマヤさんが加持さんとの賭けを受けなければこんな結果にはならなかったです」
「そう思う?」
「はい、もちろんです」
「でもシンジ君は賭けに勝ったから私を好きにしていいのよ」
とマヤはシンジに悪戯っぽい笑みを浮かべながらシンジの反応を待つ。
シンジの顔がみるみるうちに赤くなり、その反応を見たマヤは一歩シンジに近寄ると
「フフッ、冗談よ」
と言うとシンジの頬にキスをした。
「な、な、なにするんですか?マ、マヤさん」
「ご褒美よ、それにシンジ君は弟みたいな気がするの。他人とは思えないのよね」
この言葉を言い終わると、彼女は向きを変えてピットの方に歩いていった。
そこには赤くなり呆然と立ちつくすシンジが取り残されていた。
その頃コントロールタワーではゲンドウとリツコと冬月が話していた。
「今日のシンジの優勝は君のお陰だな」
「いえ、実験的に乗せたシステムが上手く作動したに過ぎません」
「そうだな。事実、君のマシンでは耐えられずに暴走した」
「はい、やはりダミーでは耐え切れません。それなりのコアの準備が必要です」
「と言う事は今の大半のドライバーには供給不能というわけか・・・」
「しかし、トップレーサーを限定する上では役立つシステムです。シンジ君の様に」
「今、それに耐えうる者は何人いる」
「シンジ君を含めて4人です」
「そうか」
「次から奴がくる。それまでに何とかするんだ」
「例の少年か?委員会が送り込むくらいだからな」
「ああ、EVIAとしてもすんなり勝たせる訳にはいかないだろう」
「コアの準備は万全です。後はシステムチェックをすれば終了します」
「わかった。あとは任せる」
と言うとゲンドウは窓から見えるサーキットに目を移し、その場を後にした。
第4戦 カナダGP
ジル・ビルニューブサーキットに1人の少年が降り立つ。
彼の手にはシンジの写真が握られていた。
「ここが僕の新しい仕事場、楽しくなりそうだね」
と言いながらシンジの写真を見る。
「君には期待しているよ、碇シンジ君」
彼は写真に軽く微笑んだ後、ピットに向かって歩き出した。
=第3戦
モナコGP 決勝リザルト=
1、碇シンジ
2、加持リョウジ
3、惣流アスカラングレー
4、アルベルト トンマ
=ポイントランキング=
1、惣流アスカラングレー 13P
2、鈴原トウジ 12P
3、碇シンジ 11P
4、葛城ミサト 10P
5、綾波レイ 6P
加持リョウジ 6P
7、アルベルト・トンマ 1P