* 愛と爆炎の聖誕祭 *
吉田
終章
1 1 1
終
りなき戦い
1 1 1
The forever war.
1
この12月24日から25日にかけての出来事は、関係者一同が怨嗟の念を込めて『イブの惨劇』 『血と欲望と惨劇の聖誕祭』と呼ぶことになる。 また、後に第三新東京市の全市民が《第三次SI争奪戦争》と呼ぶ、永きに渡る闘争の発端でもあった。 しかし、NERVこの事件をひた隠しにし、政府もそれを黙認した。 この大暴動はただ『原因不明の暴動』として全国のお茶の間に知らされた。 その裏に二人の男女の自衛官の姿が有ったことは極少数の者しか知らされていない。 彼らは、暴動が一時鎮静化した時期に第三新東京市に原因究明の為にやって来た国家の役人達の前に 突如姿を現わした。 そして、彼らは驚くべき証言をした。 『この暴動の原因は防衛庁情報本部の命令により、自分達が扇動したものだ。』 『情報本部の命令はNERVのエヴァパイロット、暗号名《サード》を捕獲しろということだった。』 『しかし《サード》のガードと監視は固く、その監視の目を逸らす為の陽動として暴動を引き起こした。』 その証言が虚実であることは明白だった。 情報本部もそれを否定した。 だが、二人の自衛官は情報本部からの正式の命令書と『任務遂行の全権委任』を証明する委任状を提示した。 これには防衛庁は浮き足立った。 責任のなすり合いが始まった。 結果、それから二週間後に開かれた統合幕僚会議において陸上戦略自衛隊幕僚長が辞任し、作戦を 命令した二等陸佐情報本部副部長が一尉に降格となった。 だが首謀者と見られていた一等陸佐情報本部長は無傷、NERVの処分も有耶無耶のうちに忘れ去られた。 真実を求めた勇敢なマスコミリポーターが幾人も消息を絶ったことなどは取るに足らない。 このすぐ後に渚カヲルの生きた体細胞のサンプルが盗まれたと言う話も、まして、実行部隊の生き残り である二人の首筋に二つの噛み跡があったなどと言う話や、身柄を拘束される寸前、コウモリと霧に姿を 変えて消えたなどと言うふざけた話は考慮するにも値しないだろう。 事件の全容を知る者達は皆、けっして口を開かなかった。 誰のせいでこれが起きたのか、それを論議するのは時間の無駄。 管理能力の欠如を理由に市長が解任されたが、それが根本的な解決に至っていない事は誰もが知っている。 いつまた、このような事件が起こるとも限らないのだ。
今回の暴動による被害総額は120,000,000,000円を超えると予想される。 家屋の火災2065件。うち全焼152、ほぼ全焼243、半焼425、小火は1277件。 大雨による床下浸水252件、床上浸水29件。 地盤沈下による被害は家の半壊が12件、全壊が4件。 湖や河川の氾濫による家屋の半壊が36件、全壊が22件。 巨大竜巻の発生による家屋の半壊52件、全壊4件、重傷33名。 原因不明の大積雪により生き埋めに有ったもの38名。 落雷による重傷9名、軽傷3名、行方不明者25名。 原子力発電所の暴走事故で、避難させられた住民681名。 停電は25時間36分に及んだ。 器物、車両、道路、上下水道、公共物、河川、山や森に及んだ被害はいまだに調査中だと言う。 今日も《第三次SI争奪戦争》の爆音や銃声の合間に、年末から続く突貫工事の音が響いている。 この日の怪我人の総計、重傷者311名、軽傷者4082名、行方不明者55名。 だが、これだけの大騒動の中、驚くべき事に死者は一人もいなかった。 少なくとも、死者はいない、と発表された。 どのような重傷者も1ヶ月ほど面会謝絶の入院をするだけで、五体満足で、その上、傷跡が一つもない、 完璧な健康状態で戻ってきたのだ。 暴動以前につけられた古傷も消えていた事にみな首を捻ったが、その事を深く追求する者はいなかった。 なぜなら、その日を境にこんな噂が聞こえてきたのだ。 『夜、セントラルドグマから、大勢の人間がくすくす笑う声が聞こえてくる・・・・』 真相は全て、闇に葬られた。
暴動が一段落した25日の早朝、碇ゲンドウはボロボロの格好になってNERV本部に戻って来た。 そして彼は、フレームがひん曲がり、ひびの入った眼鏡をかけ直しながら宣言した。 『NERV内で活動している非公認のサードチルドレン後援団体を即時解体せよ。徹底的に。』 一連の暴動騒ぎで最も大きい被害を受けた『SI公平分割機構』は度重なる抗議も虚しく、翌年1月1日 に強制解散させられた。 第三新東京市最強を誇っていた『公平分割機構』の突然の解体はその他の団体にも大きな影響を及ぼした。 流出する器材、兵器、車両の奪い合い。 行き場を失った人員のヘッドハント。 NERV内部での解散に納得しない『公平分割機構』のゲリラ化。 NERV、および碇ゲンドウに対するテロ行為。 そして勢力の空白地となったジオフロントへの侵入、etc・・・・・ それらは《第三次SI争奪戦争》に油を注ぐ結果となった。 毎日のように第三新東京市では爆発が、銃撃戦が、捕虜交換がなされた。 《オメガ条約》にある、争いに部外者は巻き込まない、という条項は通用しなくなった。 第三新東京市に住んでいる、というだけで部外者ではなくなった。 争いは続いている。 これは『戦争』と言っても公式な戦争ではない。それは暴動でもなく、革命でもなかった。 だから、学校が閉鎖されることはなかった。 だから、会社が休みになることもなかった。 だから、商店街が休業することもなかった。 だから、彼らはいつものように出勤し、登校し、店を開けた。 良識的で無関係な一般人も、自分の身を自分で守らなくてはならなくなったのだ。 各学校ごとに『碇シンジ対策委員会』が設立された。 各会社ごとに『労働維持管理委員会』が設立された。 各商店街ごとに『《―――――(商店街の名前)》自警団』が設立された。 各PTAごとに『教育改善審議委員会』が設立された。 暴動時、婦人警官達により内部より機能を破壊された市警察は大幅な内部改変の後、『第三新東京市治安 維持委員会本部』を設立し、常時、防弾チョッキや散弾銃などで武装強化した『治安維持部隊』がこれに あたっている。 NERVも事態を把握する為に『市内および近傍の教育関連施設の監察委員会』を設立した。 町中に『委員会』『対策委員会』『自警団』が乱立した。 これらもまた《第三次SI争奪戦争》の激化に拍車をかけた。 どの『委員会』も自らが治安維持の主導権を握る為にお互いの足を引っ張り合っている。 だから戦争は今日も続いている。 恐らくは明日も続くだろうし、その次の日も、その次の次の日も続くだろう。 しばらくは争いが激化することはあれ、鎮まることはないだろう。 しかし、その『戦争』は戦争で在りながら戦争ではなかった。 本物の部外者、第三者がこれを見たらなんと言うだろう?
そういえば、この暴動のどさくさで、誰もが忘れてしまった事があった。 暴動から数週間が過ぎ、その苦い記憶をやっと皆が忘れはじめ、暴動の後始末に奔走していたNERVの 職員達がやっと一息つけられるようになった頃、誰かがそれを口にした、 「『賭け』はどうなったんだ?」 と・・・・・・・・・・・・・・・・・ 結果―――碇ゲンドウ。 MAGIに任せたのが悪かった、と言う職員の主張にも耳を貸さず、『愛の鞭』委員会はこれを確定した。 理由はいくつか考えられる。 一つに、各人のシンジとの心理的距離の相対を測る、ということはつまり対象者全員がシンジから嫌わ れたり失望されたりした場合、自動的に、全く接触を持たずに対象となった人間が最もシンジに近づいた、 という事になってしまう。 二つ目に、碇ゲンドウは自分を苛めて喜んでいる、という認識を持っているシンジが、この機に乗じて 自分に手を出さなかった、という理由だけで、碇ゲンドウにプラスイメージを持ってしまったとしても 詮無いことだろう。 更に、ゲンドウ=NERVという印象が強いのだから、NERVが自分を助けるために奔走したとなれば・・ もっとも、碇ゲンドウはいまだに碇シンジが嫌いな人間の首位を独走していることに代わりない。 正解者は2人しかいなかった。 いや、2人もいたというべきか。 しかし、その正解者の名は本人の希望により、二人とも公開されていない。 その理由はあまりに理不尽な結果に怒った賭けの参加者を避ける為だとも、ゲンドウを指名したという 負い目からだとも、ただ恥ずかしいからだとも言われている。 また、その一人は碇ゲンドウ当人ではないかという噂も流れて来た。 『賭け』が再び行われたかどうかは知られていない。
碇シンジは25日の午後に、何故か加持リョウジと共に帰宅した。 どこか様子が違っていたとも言うが、どこが違っているのか、その時は誰一人として気付かなかった。 また、その時、あのアスカが頭を下げると言う極めて信じ難い事象が発生したとも言うが、信じている者は 余りにも少ない。 葛城ミサトは自宅に在りながら無傷でいた。 相田ケンスケも気が付いたら擦り傷だらけになって森の中に倒れていたが大きな怪我はなかった。 鈴原トウジも無事に帰宅した。 ブラボーこと別所ナツミも気が付いたら自分の家の布団で眠っていた。 ただ、太陽の光を極端に嫌うようになったり、時々目が紅く光ったり、無性に人の血が吸いたくなったり、 風呂に入ると身体が硬直して危うく溺れそうになったり、月の出る夜は妙に生気に満ちていたり、朝になると 非常に眠くなってしまうなどという症状を訴えたが、原因は不明とのことだった。 そんなこんなで、主要な人々はそれなりに平和に暮らしている。 しかし、その中でただ一人、洞木ヒカリは逝ってしまった。 彼女は鈴原トウジの証言をもとに、ホウキが墜落(?)したとおもわれる森の中を捜索して発見。 収容先の病院で内臓をひっくり返してのカレー大洗浄手術が行われたが少し遅かった。 彼女の意識は戻らなかった。 これも運命と言えるのかもしれない。 なぜなら彼女は既に、悪魔に魂を売り渡していたのだから・・・・・・・・・ ――――――――――――――以上、名もないNERV職員がここに記す そして、今日もドラマの溢れる街、第三新東京市に悲鳴が響き渡る・・・・・・・・ 『神威ちゃん・・・』 『誰が神威かぁぁぁっ!!!!』
<The End>
半強制的に
あとがき
へ行く