ネルフ司令塔裏、士官食堂。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
重い沈黙と、倦怠感が、その場を包んでいた。
マコトが沈黙を破る。
「あれで・・・・良かったのか」
「いまさら・・・・」
おれは短く答えた。
だけど、やりきれない気持ちがあるのも、確かなことだ。
おれたちはオペレーターだ。
情報収集と報告、状況確認と報告、その繰り返し。
あとは命令に従ってコンソールを叩くことしか許されていない。
それがおれたちの職分だからだ。
「一個の機械に!」
極論すれば、それがおれたちの、暗黙の了解だった。
「もっと他に、やりようはなかったのかな・・・・?」
「何がだよ!」
おれの言葉は、我ながら刺々しい。
隣にいたマヤが、びくっと体をすくめた。
無駄と分かりつつも、おれは言葉を続ける。
「お前だって言っただろ? ああしなければみんな死んでいたって」
「ああ、だけど・・・・・・フォースチルドレンは・・・・」
おれは舌打ちした。
「パイロットが怪我をすることで人類が救われるのなら、おれは間違いなくそ
っちを選ぶね。仮に彼らの命がかかっていてもだ」
自分でも信じていない言葉だった。
いや、おれはそう信じたかっただけだろう。
そう思いこむことで、この、ともすれば体中を覆い尽くしそうな罪悪感から、
ただ逃れたいだけなのかも知れない、いや、きっとそうだ。
「おれたちは軍隊にいるんだぜ?」
そう言うと、マコトも下を向いてしまった。
後味が悪いったらない。
「わたしの・・・・責任です・・・・」
マヤが、唐突に言った。
「ああなる前にダミーシステムを停止させることはできたはずなのに・・・・。
わたしは・・・・わたしは、目を背けて・・・・逃げて・・・・・・」
君のせいじゃない、と言ってやりたかった。
だけど、マヤがシステム操作を行っていたのは事実だ。
そして、もたらされる結果から目を伏せていたということも・・・・・・。
おれも、マコトも、何も言えなかった。
ああしなければ、みんな死んでいた、シンジ君もだ。
それは事実だし、現にマヤもマコトも、シンジ君にそう言った。
彼は納得しなかった。
自分の意思ではないとはいえ、友人を半死半生にしたのだから、それは当然だ
ろう。彼は別に、人類を救うためにエヴァに乗っているわけではないのだ。おれ
にも、そのくらいは分かっていた。
『あれでいい。ああしなければ、お前が死んでいた』
おれの中に、忌まわしい記憶がよみがえった。
その後の経緯は、周知の通りだ。
碇シンジは、ふたたびチルドレンの登録を抹消され、みたび登録された。
たぶん死ぬ、と覚悟したとき、彼の乗る初号機が救世主のように現れ、悪魔の
ように使徒を屠った。
そして彼は、エヴァンゲリオン初号機と融合した。
技術部は、必死でサルベージを敢行している。
だが、おれは思うのだ。
あるいはこのまま戻ってこない方が、彼にとっては幸せではないのか?
彼は、エヴァに乗るということ以外に自己の存在意義を見出していないし、
おれを含めた周囲の人間は、それ以外の価値を認めようとすらしていない。
といって、エヴァに乗ることは、これからも、彼に苦痛以外の何者ももたらし
はしないだろう。
だから・・・・このままでいるのが、彼にとっては至上の幸福かも知れない・・・・。
それから数日。
おれは自宅で、あるいは職場の控え室で、気が狂ったようにギターばかり弾
いていた。親父が好きだった曲を。おれが嫌いだった曲を。