マウント・ブルー
ゾイドを狂わせる磁場の支配する広大な峡谷、レアヘルツ・バレーを挟んで
ウィンドコロニーのあるとは反対方向の、大半が氷に閉ざされた高く広い山
その山間の一角、温泉の涌き出る一帯を利用して、ここにも下界からは認知されていない、コロニーが存在した。
地熱によって剥き出しになった山肌に生える草でヤギなどを放牧し
この奥深い山間に似合わないほど立派な設備、ゾイドが無ければ運んでくることも出来なかっただろう、そこで穀物や野菜を作り
ただ静かに生活を続けている人々の場所
嘗て存在した国の、末裔達の隠れ里
ご丁寧に広範囲にわたって光学迷彩がしかけられ、上空からはただの氷の谷間にしか見えない。
帝国から共和国、そしてこのマウントブルーに逃げて来たシンジ達を乗せたホエールキングは近くの湖に着水、地下に建設しておいた基地にもぐりこんだ。
ZOIDS STORY IF
第八話
夜
その1
夜
シンジは防寒具を身につけるとまたコロニーの外に出る。
もう何日も、夜が来るたびに、彼は必ず抜け出すのだ。
「…………ふぅ」
様々な訓練を受け、穏行にも優れたシンジが抜け出すのを止めるどころか
彼がコロニーを毎晩でていることに気付いているのも一人しかいない。
「まったく、このとんでもなく寒い山の夜に、毎晩良く出かけるよ」
彼の日課、いや夜課を知る他だ一人
レイは呆れつつ、宿舎から出ていったシンジと、文字通り影のごとく付き従うもの
竜とヒトを合わせたような姿を持つ黒き翼のエヴァ・シャドーを窓から見る。
幾ら簡易フィールドが村全体に張ってあり、地熱の効果もあるとはいえ
その外の大半は雪と氷に覆われた厳寒の世界なのだ。
これがシンジでなければ正気を疑うところである。
(まったくなにを考えてるんだか?)
(それはレイにも言えると想うけど………)
(うるさいよ、スペキュラー)
そう
何故かレイはそうやって夜な夜な一人で雪の世界に出て行くシンジを追いかけるのだ。
やたらとカンのイイシンジと、極めて能力の高いエヴァであるシャドーに見つからないよう、遠く離れて
(今日も行くの?)
(そうだね)
パートナーたるエヴァとは、互いの心で、ある程度明確な思考を伝え合うことが出来る。
これは、どちらかというと鳥の頭とトカゲとヒトを合わせたような青いエヴァ・スペキュラー
(ちゃんと厚着をしなくてはダメ、レイ。もともとそんなに身体強くないんだから)
(うるさいな、わかってるよ。そんなこと)
幾ら普段の言いぐさや仕草が少年ポイとはいえ、レイもまた女の子
まるで母親のように口を挟むスペキュラーに文句を言う様子は愛らしい。
そういえば、シンジいつも余り着込んでないよね
戦闘服に幾つか重ね着した程度の服装で出かけて行くシンジの姿を思い起こす。
ふと見ると、灰色の大きなマントが壁にかけてあった。
「行くよ、スペキュラー」
身支度を整えたレイはソレを手早くたたむと追いかけるべく飛び出した。
なんでだろう?なんで彼と一緒にいたいと想うのかな?
唯一の同属だったカヲルと大喧嘩して飛び出してから早三ヶ月
彼女は自分では気付かなかったが、寂しかったのだ。
幼い頃、呪われたその血ゆえに虐待を受けて
仲のよい少年は自分を守って殺され
流れ流れて初めてであった同属がカヲルだった。
その彼とも離れて、今は日も浅い仲間たちといる。
決してイヤな面々ではないが、しかし気が許せるほどではない
コロニーの子供達とは、それほど遊びたいとも想わない
もともとなれない世界なのだ。
たとえ、暖かく、心地よく感じでも
そうすぐに慣れるものでも無い。
この平穏な時間が過ぎる場所で、彼女は半ば孤独だった。
だからこそ
自分と同年代で、どこか同じ匂いのする
同属ではないが、どこか似た雰囲気を持つ
誰とも馴れ合わず、孤高を保ち、超然としているシンジに惹かれる。
自分と似ていて
自分に無いものを持つ彼に