第8話「Relience 『Reason,2-B』」


カヲルは眼前に置かれたカプセルに走り寄ったが、何が入ってるのか分からなかった。
埃が被り、中が見えない事に苛立ったカヲルは自らの手でその埃を払いのける。
「ちっ」
カヲルはカプセルのケースが黒く塗装されて中が見えない事を知らなかった。
それを知ったとき、織田に踊らされたという思いが彼に舌打ちさせる。
「フハハハ、焦ってはいかんよカヲル。お楽しみはこれからだからね」
織田が手元のリモコンの中心にある赤いボタンを押す。
『ブシュウゥゥ』
カプセルの上蓋が少しスライドしてから上蓋が上に上がっていく。
カヲルは中を凝視して扉が開くのを待つ。
扉は開ききったが中の液体は墨のように真っ黒でカヲルからは何も見えない。
「いよいよ感動のご対面だよ、カヲル」
織田がリモコンの横に付いているスイッチを押すと黒かった液体が
オレンジ色の液体に変化したと同時に彼の瞳にカプセルの内部が描きだされる。
そこには一糸纏わぬ女の子1人が入っていた。カヲルはその娘の側に走り寄り、
顔を舐めるように見る。カヲルの目に映った少女はカヲルと髪の色が同じ。
セミロングヘアーの少女で、目は閉じているが顔の形は綺麗に整っている。
そんな彼女を見て彼は穏やかな笑顔を浮かべる。
(変わったな・・・大人になってる。でも面影は間違いなくユキだ・・・会いたかったよ)
『ゴボボッ』
彼女が大きな気泡を吐き出した。カヲルには何でだか分からなかったが、
「おやおや、この液体は私が性質変化を起こさせた段階で酸素供給機能は
 停止してるんだった。カヲル、早く液体から出さんと彼女は窒息してしまうぞ」
カヲルは愕然と織田を見る。ここまで卑劣な男だったとは想像だにしなかった。
カヲルは抱きかかえるように彼女を液体から引きずり出した。彼女は2、3度
せき込み肺や気管に入っていた液体を体外に出しながら、酷く苦しんでいるようだった。
しかしそれが収まると彼女は息はしているがこれといった動きはまるで見せなかった。
「やはり意識が止められているのか・・・」
カヲルはだらりとした、力の抜けている彼女を抱きかかえて呟く。
「当然だよカヲル。彼女の時間は止まったままさ、君が走り出したあの時からね。
 もちろん約束通り君がチャンピオンになれれば元に戻してあげるよ」
その時、ユキの目が開いた。カヲルはその反応を見た。
「目が!開いた?!」
そして瞬きを始める。カヲルは話と違うのでどういう事か分からなかったが、
瞼が活動を始めた事を嬉しく思う。しかし相変わらず体の方は力の抜けたままである。
「織田さん、どういう事なんだ?」
カヲルは電話でどこかに連絡している織田に向かい訊ねる。
「簡単なことさ。彼女の時が動き出したんだよ。止まっていた中枢神経機能も元に
 戻ってるんだ。今まではあの液体から肺に直接空気を取り込ませ、心臓もこちらから
 コントロールしていたんだよ。しかしその呪縛が解かれた今、彼女の体の時は
 動き出しているんだ。後は脳のある機能を戻せば君の念願が叶うということさ」
カヲルは妹との再会を望んでいた。そして今その願いが叶ったわけだが、
目の前にいる彼女を見ると願望が叶った満足感よりも彼女を何とかしたい、
その想いがより増幅される。そして全てが織田の描いたシナリオだった。
そうこうする内に数人の研究生が入ってきて彼女を車椅子に座らせるようにとカヲルに
言ってきた。カヲルにしてもこのままでは仕方ないので座らせることにしたのだが、
「カヲル、お前も少し彼女と一緒に居たいだろう?30分だけ時間をやろう。
 兄妹仲良く目で語り合うんだね」
そう言うと彼らはその部屋から退出していった。カヲルはユキに彼らが置いていった
服を着せると、彼女の顔を感慨深そうに眺める。ただ瞬きを定期的に繰り返す彼女の
顔は無表情で目は真正面にいるカヲルを見ていた。
「覚えてるかい?このブレスレット。今はめているのは3年前にユキに貰った物だよ」
そう言ってシルバーのブレスレットを彼女の視界に持っていった。
更にカヲルはポケットから同じデザインの白いブレスレットを出して、ユキに付ける。
「これを付けたユキの姿が見たかったよ。今日それが叶った。そして・・・
 次に会う時には、ユキと笑いあいたいね」
そう言うと彼女の額にキスをした。
その場を去るカヲルは決意も新たに歩き出した。
(もうすくさ、あと少しで全てが終わる。チャンピオンになれば
 またあの頃の穏やかな日々に戻れる。僕らの幸せは・・・もうすぐそこだ)


ベッドの布団からモゾモゾと1本の手が出てきて、
けたたましく鳴る電子音の元である電話の受話器を取り、布団の中にまた戻っていく手。
『・・・ふぁい。惣流でしぅが』
シンジはそのアスカの寝起き声であろう声を聞いた。
覚悟はしていたが、いざ彼女と話すとなると声が詰まった。
一瞬の間の後にシンジは意を決して口を開く。
「あ、あの・・・アスカ?えっと・・・シンジ、碇シンジだけど」
これに対しアスカからの返答はなかったが、シンジは切られてない事にホッとする。
「聞こえる?もしもし?」
その後でようやく向こうからの声が返ってくる。エラく不機嫌そうな声で。
『・・・なんか用?』
この時のアスカは既に寝起き声ではなく普通の声に戻っていた。
シンジにしてはレイを待たせる訳にも行かないので、いきなり本題に入った。
「アスカ、今暇かな?」
アスカの方からはすぐに返答が返ってこない。さっきからそうだった。
『・・・だったら何なのよ』
不機嫌さは相変わらずだった。まあ無理もないだろう。
「あのさ、今から僕の部屋に来て欲しいんだ。アスカに頼みがあるんだ・・・」
『ガチャン』
いきなり切られた。
(はぁ〜まあ仕方ないか。昨日の今日だもんな)
シンジは仕方なくレイを服のまま風呂に入れることにした。暖まった後なら服も
着れるだろうというのがシンジの考えだった。

「馬鹿にすんじゃないわよ。あんな事言ってくるなんて信じらんない!」
アスカは布団にくるまって声を荒げていた。
「冗談じゃないわ!舐めるのも大概にしなさいよ馬鹿!」
あまりに腹に据えかねたアスカはもう眠れなかった。
実際昨日眠れたのは午前4時を回ってからだった。
やっと訪れた安らぎの時を壊されただけじゃなくてその原因が
全てシンジであることがアスカを更に憤慨させていた。
「ったくぅ!もう目が覚めちゃったじゃないのよ!」
そう言いながらベットから飛び起きるアスカだが、
『プルルル・・・プルルル』
また電話がかかってきた。アスカの額に青筋が立つ。アスカは受話器を取って一喝、
「くおの馬鹿野郎!いい加減にしなさいよ!」
そう言いながらもアスカは自ら受話器を置かなかった。
アスカは彼がまた誘ってくるのを期待したのかもしれない。
『おはようございます、フロイラインアスカ。朝からずいぶんお元気ですね。
 アベル・ウエールズです。いきなりのお電話失礼しました』
「あっ・・・いえ・・・」
アスカは顔から火が出る思いだった。
そう言えば昨日彼に泊まっているホテルを教えていたことを忘れていた。
そして今日彼の別荘に行く予定だった。
昨日の事がなければシンジと行くつもりだった彼主催のパーティー。
アスカは電話であるからアベルには姿が見えていないのに、
無意識の内に髪の毛を自らの手で整えながら、
「でもなんで部屋番号までわかったの?普通ならフロントの人が確認するのに」
『はは、このホテルは我がグループのホテルなんですよ。私がフロントに電話を
 入れて疑われる事はまずありません。それよりどうでした?彼は誘えましたか?』
「あ・・・いえ・・・あの、私一人じゃ・・・駄目・・・かな?」
『いいえ、全く問題ありませんよ。
 それでは今日の午後4時にお迎えに上がりますのでそれまでおくつろぎ下さい』
「ありがとう。じゃあ4時ね」
『はい。それでは楽しみにお待ちしていますね』
それを聞いた後でアスカは受話器を置いた。
「4時か・・・まだ時間が有り余ってるわね」
アスカはその時シンジの顔を思い出した。そして受話器を眺めて呟く。
「そういえば・・・アイツから誘ってきたの・・・初めて・・・」
アスカはそのまま立ち上がると、ぼさぼさに乱れた髪を掻きながらバスルームに消えていった。


シンジはレイをそのまま浴槽に入れていた。
それでも彼女は暖かい湯の感触が身震いさせるほど気持ちの良いものだった。
目を閉じてその幸せを噛みしめるレイに
「じゃあ綾波、僕ちょっと出てくるけどすぐ戻るからね」
「わかったわ」
シンジはその反応を受けた後に彼女の服と暖かい食べ物をオーダーするために
フロントに向かおうと廊下に出た。そこで青い目の少女と鉢合わせ・・・。
(あ・・・・・・・・・・・)
2人ともこう思った。アスカは先程まではシンジが何を言うのか聞いてやろうと
思っていたのだが、顔を見ただけで気まずくてうつむいてしまう。
そんなアスカにシンジは出来るだけ優しく声をかける。
「や、やぁアスカ。来てくれたんだね、ありがとう」
そのシンジの声にアスカは過敏に反応する。
「そ、そんなこといいから早く用件を言いなさいよ」
シンジはいつもと違い、落ち着かない様子で彼の目を見ながら話しかけない彼女を見て、
まだ昨日の事を引きずっていると分かった。
ただここでその話題は出したくはなかった。また逃げられてしまうと今はまずい。
とりあえず今はレイのことが絶対優先事項だった。
「そうだね。その前に部屋においでよ」
そう言って一旦閉めたドアを開けてアスカを招き入れようとする。
彼女は今までにないシンジの行動に正直戸惑う。
少なくとも自分から女の子を部屋に連れ込もうとはしない男だから真意を測りかねた。
「アンタ・・・まさか部屋に連れ込んで変なことするつもりじゃないでしょうね」
「そ、そんなことする訳無いだろ」
それを聞いたアスカはドアを開けて彼女に進路を譲るシンジの横まで歩を進めて、
「そうね。そんな女好きなら昨日の時になんかしてたわよね」
と言いながらシンジをにらんで軽く牽制した後で彼の招きに応じて部屋に入る。
「で、頼みって何よ」
シンジはアスカの立っている横、浴室のドアまで行くと、
「綾波入って良いかい?」
そんなシンジの問いに浴室内から
「ええ」
という答えが返ってきた。アスカは何が何だか訳が分からない。
(綾波?しかも今の声・・・ここシンジの部屋よね。なんでアイツがいるのよ)
そしてシンジに続いてアスカも浴室に入った。
「!!」
アスカは凍りつき、瞬間目を疑った。
そこには綾波レイが気持ちよさそうに風呂に入っていた。
シンジの部屋にレイがいて、あまつさえ風呂に入ってる。
しかもシンジはズカズカと風呂場に入っていってレイもそれを許すどころか
気持ちよさそうに風呂に入ったままでいる。
誤解されて当然のシチュエーションであるが、彼女が1つの不審点に気づいたのは
シンジにとっては幸運だった。
「ちょっと、なんで服着たまま入ってるのよ。えっ・・・」
アスカも浴槽から投げ出されているレイの足の怪我に気づいた。
よく見れば髪の毛も泥が跳ねていて汚れている。
シンジは事の成り行きをアスカに話した。
彼女にしてもこのレイの状態を見せられては疑う余地はまるでなかった。
嘘を言ってるようには見えなかったし、レイのこの状態と話の辻褄が合う。
シンジの話に納得はしたがアスカは相変わらず
不機嫌そうな口調でシンジの胸に向かい話しかける。
「・・・そういう事。まあアンタが私に用なんて言うから気の利いた事とは
 思ってなかったけどね。・・・分かったわ。この姿見ちゃったら断れないわね」
シンジはホッと胸を撫で下ろした。これで悩みが一つ解決した。
「ありがとうアスカ。助かるよ」
そう言うシンジをアスカは浴室の外に引っぱり出すと
「いい。これはアンタのタメじゃなくてあの女の為にやるのよ。
 勘違いはしないで。それにアンタは早く用を済ましてきなさいよ」
「分かったよ」
シンジのそのセリフを聞く前にアスカは浴室のドアを勢い良く閉める。
(まだ怒ってるな・・・でも来てくれたって事はある程度は許してくれてるのかな)
シンジはそう思いながらフロントに食事と医者を頼みに、また衣服も買わなければ
ならなかった為に急いで部屋から出ていった。
「・・・さて、どう?調子は」
アスカはレイの着ていた服を全て脱がして、
肌に直に湯が触れて顔が少し紅潮してきたレイに向かって訊ねる。
レイは手を握ってみて、ほぼ違和感なく動かせるとアスカに答えた。
「じゃあとりあえず頭を洗うわよ」
アスカはシャワーを手に取り、レイの頭にお湯をかけはじめた。
そしてしばらくするとシンジが帰ってきてドア越しに話しかける。
「綾波、アスカ、服を買ってきたよ。あとお医者さんも来てもらったから」
そう言うと浴室からアスカが出てきた。シンジが心配そうにアスカを見ると
「かなり暖まったみたいよ。もう平気だって。あと体もみんな洗ってきれいに
 なってるから心配無用よ」
それだけ言うとアスカはシンジから服を奪い取ってまた浴室にはいっていった。
アスカは浴槽からレイを抱きかかえて出すと、
足に負担がかからないようにトイレに座らせる。
後はレイがタオルで自分の体を拭いて、アスカが足を拭いた。

「ありがとうございました」
シンジとアスカが医者を送り出した後にシンジがアスカに話しかける。
「よかった、大したことなくて」
「そうね、最初見たときはどうしようとか思っちゃったけど・・・」
アスカはハッとしてシンジの顔に行っていた視線を素早く部屋の中に移動させると
言葉を止めてそそくさと部屋の中に入る。彼もそれに続いた。
レイの診察結果は外見の酷さにしては大したことはなく、
3日もすれば歩けるようにはなるということだった。
医者が帰った後、アスカはもう帰ると言ったのだがシンジがアスカの食事も
頼んであるという事だったので帰るに帰れなくなった。レイはベッドで横になり、
シンジとアスカは席を並べてレイのベッドの横で座っていたのだが、料理がなかなか
来ないでかれこれ30分以上待ち、もう1時を回っていた。その間話された会話は
「ねえ、そういえばレイとは今まで話したことなかったわね」
「そうね」
「綾波、足大丈夫?痛くないかい」
「平気よ」
こんな感じでアスカもシンジもレイにしか話しかけない。しかもレイは一言で会話を
切るから全く話が弾まない。次第に空気が重くなる。もう今では誰も口を開こうと
しなかった。シンジはこの間右往左往して、レイのために熱い缶コーヒーを買って
きたは良いがアスカには買ってこないで睨まれたり、なかなか来ないルームサービスに
イライラするアスカから逃げるように催促に行ったり忙しく動き回っていたが
もうやることもなくなっていた。シンジにしても、もしレイがいなかったらアスカと
話したいことは色々あった。それはアスカにしても同じだった。
そしてようやく食事が来た。シンジは待ってましたとばかりに飛び上がり、
中にベルボーイを入れる。並べられた食事はパンを主体にしたメニューで
チーズフォンデュがシンジのレイに対する思いやりだろう。
そして針のむしろの食事が終わると、アスカは今まで気にはしてなかったが
既に時間は2時半を回っていた。アスカが腕時計をちらりと見て
「じゃ、そろそろ帰るわ」
そう言って立ち上がった時、
「今日は・・・あ、ありがとう惣流さん」
レイが頬を染めてアスカに礼を言った。
アスカはレイを見つめてニッコリと微笑むと
「いいのよ、別に。それより早く怪我直しなさいよ。
 あ、それから今度からはアスカって呼んでね」
レイが軽く頷くのを見てから
「あ、そうだシンジ、私の分は私の部屋のチェックにしておいてね」
アスカはそれだけ言うと入り口に歩いていこうと足を踏み出したとき、
「いいよ、僕が払うから」
シンジの言葉に彼女は立ち止まってシンジを横目で眺めながら
「いいわよ。『恋人』でもないあなたに払って貰う訳にはいかないもの」
そういって部屋を出ていった。シンジが後を追おうとした時、頬を染めたレイが
「私はいいの?碇君」
「もちろん僕が払うからいいよ。それと綾波、少し出てもいいかな?」
レイが頷くのを見てシンジはアスカの後を追っていく。
部屋には何故か頬を赤く染めたレイが1人だけ座っていた。
(碇君のコイビト?何か分からないけど不思議な感じ)

「アスカ!」
シンジは視界に写ったアスカの後ろ姿に声をかける。アスカはその声の主がシンジだと
分かったが立ち止まりはしない。が、走ってきたシンジはあっという間にアスカの前に
立っていた。そこでアスカは立ち止まってシンジを見る。アスカから話しかける事は
なかった。彼女は彼の言葉を待つ。彼は先程の彼女の言葉に弁解したかった。
「あ、あの・・・昨日の事なんだけど・・・」
アスカの肩がピクリと動く。
「昨日言ってたアスカと話したくないとか、一緒にいたくないとか、
 マヤさんが好きとか言ってたよね。その事で・・・」
「あ〜あっ!恥ずかしい奴!」
シンジの言葉の途中でアスカが大声でその声をかき消した。
「バ〜カ!冗談にマジになんないでよね。しょうがないわねぇ」
そんなアスカの態度にシンジは彼女の手を引いてホテルの庭に連れてくる。
「ちょっと!何処まで行くつもりなのよ」
アスカはシンジの腕を振り払って彼を睨み付ける。アスカは彼に出来るだけキツく
当たろうと思った。でないとボロがでそうだった。彼はそのアスカを見て語りかける。
「昨日はゴメン。でも一緒にいたくないとかそんな気持ちは全然ないよ。
 話したくないなんて思ってないし、第一マヤさんとは何でもない。
 それに恋人じゃないって言ったのは嫌いって事じゃないよ。
 アスカは誤解してる。昨日アスカが言ったことは全く違ってるよ」
彼の言葉が彼女の心にズシリと来た。だがもう心は固まっていた。
彼女は出来るだけ興味なさそうに、サバサバとした感じに切り返す。
「あっそ、まあそんな事はどうでもいいわ。それだけ?ならもういいわね」
そう言ってシンジの脇をすり抜けて行こうとするアスカの腕をシンジは掴む。
彼女は彼をキッと睨み付けるがシンジはまるで動じなかった。
アスカが惚れ直していた男らしいシンジがそこにいた。
「アスカは僕の事好いてくれてるよね。僕もアスカは好きだよ。
 だからキスしたりしたくないし、アスカとそんな軽々しい真似はする気もない。
 僕もアスカの事大切に思ってるから」
アスカは彼が言いたいことは分かっていたが、もう彼女の中ではこの恋に
疲れ切っていた。
このまま待ちたい気はあるが、疲れ切った彼女は彼から離れようとしていた。
もう傷つきたくなかったから、もう彼とは終わらせようと思い立つ。
シンジに嫌われるような酷い言葉も用意していた。

「自惚れないでよ!モテない男はこれだから嫌ね。
 1人で盛り上がっちゃってバッカみたい。
 私がアンタの事好きぃ?はんっ、笑わせんじゃないわよ!」

(これを言えばコイツだって私の事を嫌いになるわよ。
 これが最後の一言・・・決別の言葉・・・アスカ、行くわよ)

だがその思いとは裏腹に、彼女から出た言葉は・・・
「確かに昨日は私・・・変だった。何だか私の中で勝手に解釈して・・・
 自己完結しちゃって・・・変な事言ってゴメンね・・・シンジ・・・」
自分が口に出した指令と、耳に聞こえてきた声とのギャップに
彼女自身が呆然と立ちすくみ、目の前で微笑むシンジと視線が重なる。
アスカはこの笑顔を見、目頭が熱くなるのを感じながらゆっくりと微笑み返した。


第8戦Cパートに続く

EVANFORMULAへ