2021年10月20日(Wed) 曇

シンジがフランスへ渡って、1ヶ月が経っていた。


アスカはコンフォート17マンションのエレベータに乗っていた。

アスカはシンジが居なくなって以来、体の調子を崩していた。

仕事の方は順調だったが、大事を取って毎日定時に帰宅した。


アスカは日本に作られた遺伝子工学研究所の所長として勤務していた。

この研究所はアメリカ合衆国が建造したもので、

敷地から半径100m以内は、治外法権として存在した。


研究所の職員は100名足らず、全ての人選はアスカが行った。

職員への待遇は、本国の倍以上も支給され優遇された。

また、職員は全て本国から来た人で占められていて、日本人は居ない。


大枚を叩いてまで日本に研究所を作ったのは、アスカが研究所を辞める事が、

アメリカ合衆国、UNにとって、大きな損失になるからだった。


職員にはコンピュータが1人6台支給された。

1台はスーパーコンピューター。

研究所内のスーパーコンピュータと連携処理が出来るようになっている。

ノートパソコンが2台、これは、自宅に1台、職場に1台持ち、移動時に持ち歩く。

デスクトップパソコンが3台。1台は自宅、2台は職場に。

職場用のパソコンは、1つの筐体にパソコンが2台格納されていて、

OA用と業務用を区別して使っていた。

自宅にパソコンがあるのは、職場と自宅に光ケーブルが巡らされていて、

常に仕事が出来る環境にするためだ。


アスカの研究室は、1つの階全てがアスカ専用として存在していたので、

誰も立入り出来ない。


アスカの研究は、UNから委託されたものが多かったが、

秘密裏に独自でも研究をした。


アスカの秘密裏の研究とは、自分のDNAやシンジのDNAの研究である。

何故、人間では考えられない、自己修復が出来るのかを調べていた。

しかし、もしその原理が解明しても、アスカは公表する気はなかった。

人類は弱く死していく生物であっても・・・


アスカは11−A−2号室の自動ドアの前に立ち、カードキーを挿し込んだ。

ドアが開いた。


アスカ:ただいまー

レイが走ってやってきた。

レイ  :おかえりなさい。

        お兄ちゃんから、DVMが届いてるわよ。

その言葉を聞いた途端、アスカは元気になった。


アスカはお風呂から上がり、DVMを再生した。

レイは紅茶を持ってアスカの隣に座った。


画面は何処かのバーだった。


いきなり何かの演奏が始った。

バッハの無伴奏チェロ組曲だった。


演奏が終ると、シンジがビデオカメラに向って、

シンジ:アスカ、元気ですか?

        僕は日々精進しています。

        今日は、10月17日 日曜日です。

        この頃、ホームステイ先の人の影響で、楽器を再びやるようになりました。

        チェロ、ピアノ、サックス、トランペットとかもやっています。

姿は見えないが、フランス語が聞えた。

レイ  :何ていったの?

アスカ:シンジ、そろそろ始めようって。

アスカはビデオを見た。

シンジ:演奏する前に紹介しておくよ。

        僕のホームステイ先のミワさんとヨウコさん。

シンジがビデオカメラを持って2人の女性を映した。


見た目はフランス人だが、ハーフらしい。

ミワ  :bonjor!

ヨウコ:Wie geht's?(ご機嫌いかが)XXXXXXX

ビデオを見ていたアスカの顔が険しくなった。

レイ  :何ていったの?

アスカ:むかつく。あいつ私に喧嘩売る気だわ。

アスカは携帯を取って電話した。

電話  :プルールルッ。ガチャ。はい、加持です。

ミサトの声

アスカ:ちょっと、ミサトどういう事!

        なんでシンジのhomestay先が若い女なの!

        しかも美人じゃない。

        おまけにヨウコって女、私に宣戦布告までしたのよ。

        ねえ!何とか言いなさいよ。

ミサトの声は楽しそうに

ミサト:あれ〜?アスカ焼餅?

        アスカ、シンジ君の浮気、公認したんじゃないの?

アスカ:なんで焼餅なんか焼かなきゃいけないのよ!

        妻としての当然の権利よ。

        相手の馬鹿女について、知る義務があるのよ!

        あいつ、何者なのよ!

ミサトは笑いながら

ミサト:まあまあ、そんなに怒ると皺になるわよ。

アスカ:余計なお世話よ!

ミサト:シンちゃんが世話になってる2人は、UNの特殊部隊の隊員よ。

        彼女達は、シンちゃんの護衛と通訳が主な任務。

        後は、シンちゃんを煮るなり焼くなりするのは自由だわ。

アスカ:ミサト!あんたも私に喧嘩を売るの?

ミサト:まあまあ、シンちゃんなら大丈夫よ。

アスカ:うー・・


        でもあの女、シンジは私が貰うからって言ったのよ。

        何考えてるのよ。

ミサト:シンちゃん、もてるからね。

アスカ:もういい!馬鹿!

アスカは電話を切って、携帯をソファーへ投げつけた。


ビデオはシンジ、ミワ、ヨウコがJazzを演奏していた。


演奏が終ると、画面が変った。

シンジはベットに居た。

画面は部屋の中をパンした。

シンジがビデオカメラに話しかけた。

シンジ:独りになって、アスカの存在の大きさが良く解るよ。


        アスカ、ちゃんと朝ご飯食べてる?

        納豆嫌ってたけど、食べないと駄目だよ。

        大豆は畑の肉と言ってね、体にもいいんだよ。


        この頃は何時もアスカの夢ばかり見るんだ。

        僕達が夫婦になってからの夢より、中学生の頃の夢を見るんだ。

        あの頃を良く思い出すんだ。

        あの頃、僕はレイの事が気になっていた。

        でもアスカと同居する様になって、少しづつ心がアスカに傾いて行った。

        一緒に戦う内に、僕はアスカに対し戦友として信頼を持つ様になり、

        最後の戦いでは、僕の身が滅んでも、アスカを守りたいと思う様になっていた。

        アスカは相変らず僕の事は眼中に無かったけど、

        何時もアスカに構って欲しくて、扱使われても苦に思わなかった。

        だからアスカに弁当を作ってあげられる事が嬉しかった。        

        でも、アスカに告白する勇気は僕には無かった。


        だから自分が傷付か無い代り、何も得る物が無く空しかった。



        アスカ、覚えている?


        初めてキスした時の事。


        アスカさ、僕の鼻摘んでキスしたよね。


        今思うと可笑しい。顔を少しずらせばいいのにね。


        それからキスした後、嗽(うがい)したでしょ。


        あれ、傷ついたんだよ。


        アスカが何故、急にキスしようって言ったのか解らないけど、

        でも初めてのキスした相手がアスカで良かった。


        それから高校3年生になって、アスカと再び暮せる様になって嬉しかった。

        アスカは男子生徒に人気があって、何時も手紙やプレゼント貰ったり、

        交際申込まれたりしてたね。

        アスカがバレー部のキャプテンから交際申込まれているとメールが来た時、

        僕は目の前が暗くなった。

        だってバレー部は全国大会へ毎年出場してるし、

        外観、性格、頭脳とどれを取っても僕に叶いっこないもの。

        けど決心したんだ。

        僕はアスカが好き。

        アスカに告白して断られるかもしれない。

        でもこのまま何もしなければ、アスカは誰かと交際するかもしれない。

        そんなの僕は耐えられない。

        僕は覚悟してアスカに告白した。

        アスカとキス出来た時、僕は嬉しくて嬉しくて、だから・・

        何言っていいか解らなくなってきたな。



        アスカが入院していた時の夢を見た事があるんだ。


        アスカに何も出来ずにいる僕が立っていて、

        僕は必死に、立ち尽くしている僕に呼びかけているのに、何もしない。

        とても辛かった。


        アスカごめんね。

        でも今は、僕はアスカの糧になるから。


アスカの瞳から大粒の涙が零れ始めた。

もうビデオを見ることも出来ず、アスカは、レイに身を預けた。

レイはアスカをそっと抱しめ、背中を摩ってあげた。


シンジ:アスカと一緒に生きて行ける僕は幸せです。

        アスカを幸せにする為に僕は頑張るし、アスカを守る為に僕は心も体も強くなるよ。

        アスカ、僕はアスカを愛している。

        この気持は永久に変らない。

        ではお休みなさい。

        早く寝るんだよ。

ビデオはシンジがお休みの言葉を残して終った。

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次回、思いを馳せる

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