2021年9月10日(Fri) 快晴/微風

僕はアスカが昨日用意してくれた、朝食を並べていた。


ソファの上のアタックザックには、アスカが作ってくれた折り詰めの御弁当、

綾波のくれたMDと数枚のディスク、アスカのくれたビデオカメラ、

加持さん達がくれたシャトルの搭乗券が入っていた。


その他の荷物は一切無い。

生活用具一式は既に加持さんが手配してくれていて、

フランスのホームステイ先に届けてあるとの事だ。


アスカが風呂場から出てきた。

何時もの様に赤いバスタオルを体に巻いて、冷蔵庫を開けて、

牛乳パックを取出し、腰に右手を当て直接飲み始めた。

アスカは僕の方を振り向いて

アスカ:どうしたの?

僕    :もう、しばらく、アスカのその格好も見れないなと思って。

アスカは一瞬考えて

アスカ:・・しっかり、目に焼付けなさいよ。

        ねえ、いつもみたいに言わないの?

昔は嫌だと思っていたけど・・・

僕    :・・アスカ、牛乳を直接飲んじゃ駄目だよ。

アスカが涙目になった。

アスカ:ふふっ。

        だって、シンジを困らせたいもの。

僕    :もう・・アスカ、バスタオルでウロウロしないでよ。

アスカの声が震えてきた。

アスカ:どうして?

        何時もシンジに見ていて欲しいもの。

アスカは僕にしがみついて号泣した。

僕はアスカをしっかりと抱しめた。


アスカの気持が痛い程、僕に伝わった。

僕もアスカを抱しめながら泣いた。

嬉しい。


壊れてしまいそうな程、華奢な体。

もうアスカとの、日々のやり取りは暫くの間、お預けだ。

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午前8時、迎えが来た。

僕とアスカは、加持さんが用意した1BOXに乗った。


シャトルの発着場まで、リニア列車で行けば、1時間だが、

車だと高速道路でも4時間かかかる。


でも、少しでも皆と一緒に居たい。


1BOXには、運転席に加持さんとミサトさん。

中央列に僕とアスカ。

後部席に洞木さん、トウジ、綾波が居た。


車が発進した。


トウジの開口一番

トウジ:シンジ、どないしたんや?

        目が赤いで。

        おまけに目の周りに隈が出来とるがな。

僕    :泣き過ぎたんだ。

トウジ:ほんまか?

トウジはアスカを見て

トウジ:なんや、惣流も目が赤いで、

        そやけど・・惣流の方は艶艶しとるで・・・

        お前ら何発やったんや。

僕    :と、トウジ!何てこと言うんだよ。

アスカ:12回。

僕    :ぶっ!あ、アスカ!何てこと言うんだよ。

ミサト:へえー!シンちゃん頑張るじゃない。

        お姉さんも聞きたい。

        アスカ詳しく話して!

僕    :み、み、ミサトさん!!アスカ!言うな!

アスカは僕にベーっと舌を出して

それからミサトさん、洞木さん、綾波、アスカで猥談が始った。


僕はトウジを睨んだ。

トウジは涼しい顔をしていた。


3時間して、暫く僕達の会話も途切れていた。


僕は窓の景色を眺めていたが、

アスカは僕の膝に顔を乗せた。

僕はアスカの頬を優しく撫でた。

アスカの肌は、木目が細かく、スベスベして触り心地がいいのだ。

それを見たミサトさん

ミサト:アスカ、いつからそんなに甘えん坊さんになったの?

アスカは僕の膝に顔を乗せたまま、僕を見つめていた。

ミサト:アスカって、とても可愛くなったわね。

アスカ:何よ、いかにも私が嫌な女みたいじゃないのよ。

トウジ:違うんかい?

アスカ:むう!アタシはいつも素直で、良い子なの!

トウジ:何言うてんねん!そりゃあ、シンジの前だけやろ。

        相変わらず、俺には暴力を振るうで。

洞木  :それは、あんたがアスカに失礼な事を言うからよ。

トウジ:・・ほんまの事を言ったまでなのに・・

アスカは堰(せき)を切って泣き始めてしまった。

トウジは一瞬、自分のせいで泣いたのかと焦った。


アスカは慟哭(どうこく)した。

僕はアスカを包み込むように抱しめた。


皆、僕とアスカを優しく見守った。

30程、アスカは泣き続けた。

僕はアスカの柔らかくて小さな手を、僕の手で包み込んでいた。


感慨無量、これ以外にどう表現すればいいのか。


ミサト:シンちゃん、男冥利に尽きるわね。


        アンタ達の事、自分の事の様に誇りに思うわよ。


        シンちゃん、アスカのどんな所に惚れたの?

僕    :アスカは僕の膚に合うんです。


トウジ:肌やて、シンジもやらしいな。

洞木さんはトウジをボコっと殴って

洞木  :気質、気性の事よ!

トウジ:知ってまんがな。

        せやけど、シンジも殊勝なやっちゃな。


僕    :うん、元来、僕は気が弱いから、何事にも直に諦めてしまうんだ。


        でも、アスカはいつも僕に、発破を掛けてくれる。


        アスカは、いつも前向きで、僕に勇気を与えてくれる。


        アスカは厳しいけど、でもとても優しいんだ。


        僕にとって、アスカは元気の源。

        僕がこの世に存在する理由。


        僕はEVAに乗らなくなって、自分を失いかけてた。

        無気力で何もやる気が起らなくて、

        でも、アスカと再び生活を始めて、僕自身、アスカの影響を受けて、

        物の考え方がドンドン変化している。

        それは、良い方へ向っている。

        お陰で僕は、厭世観(えんせいかん)から楽天観へと変った。


        僕にとって、アスカはなくてはならない存在なんだ。

ミサト:ヒュー!シンちゃんも言うようになったわね。

トウジ:冷房入れてくれ〜。

        何や熱うて溶けるわ。


ミサト:アスカ、シンちゃんのどんな所に惚れたの?

アスカ:・・すべて。

ミサト:それだけ?

アスカ:だって、全部好きだもの。

トウジ:どわー!ええかげんにさらせー!よーもまーそんだけ惚気ばっか、

        こっちの身にもなってみ!

洞木  :悔しかったら、やってみなさいよ。

トウジ:わいわ・・硬派や!

僕    :硬派な人は、アスカの体見て、涎(よだれ)出したりしないよ。

洞木さんはトウジの頬を捻った。

トウジ:シンジ!てめえ覚えてろよ。

僕    :もうすぐいなくなるもんね。

車の中が和やかな雰囲気に包まれた。

/* 出発当日 das auto */

次回、出発

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