すっかり春模様となった今朝。
僕は、一振りの桜の枝を手折ってきた。
すぐ散ってしまう、はかない運命の花だから。
アスカは好きだといっていた。
今、その瞬間が最高に美しければ、それでいいと。
そうなのかな。
本当は、そうじゃない。
最高に美しいと思える時に、いくらでも巡り会えるのが人生。
現に、僕は毎日アスカの健やかな寝顔を見る度に、幸せを感じてきた。
窓の外は、一面の桜の杜。
悲しいほど鮮やかな桜吹雪。
桜の根の元には人が埋まっていると、昔の人は言ったけど。
ここでは嘘ではなかった。
あの桜の花びら一枚一枚に、折々の人生が込められて、地面に敷き詰められている・・・。
外の景色の美しさ。
運命の儚さ。
アスカが寝ているのが不思議なほど、この世は美しいものだった。
生きていることが馬鹿らしくなるほど、世界は美しかった・・・。
「アスカ・・・いいかげんに起きてよ・・・」
「一人じゃだめなんだ。アスカがいないと、だめなんだよ・・・」
「何が不満なの・・・。世界はこんなに美しいのに・・・」
「僕がこれほど、アスカを欲しているのに・・・」
「僕に、何が出来るんだ・・・お願いだから、その口で僕に伝えてよ・・・」
「アスカの為なら、毎日だってご飯を作ってあげるよ。バカって言われても、僕は気にしないよ。いつまでも、僕がアスカ為に生きるから。お願いだから、起きてよ!」
「一人は・・・苦しいよぉ、アスカ。みんな、僕を離れてっちゃうんだ」
アスカの顔に、僕の涙が落ちる。
透明な液体。
それすら、アスカの為になるのかどうか、僕にはわからない。
「アスカも、一人じゃ辛くないの?この世界が嫌なの?」
「この世界が嫌なら、僕がアスカの世界に行かせてよ」
「僕は、アスカ無しじゃだめなんだよぉ・・・・」
毒リンゴを食べた白雪姫のように、僕の切望にも答えない彼女は、完璧な美しさ。
すべてを拒絶する、純潔さ。
彼女の頬に伝った僕の涙をぬぐい。
両手で彼女の頬を包んで。
静寂が制したこの部屋で、二つの影が重なり。
僕は、アスカに、キスをした・・・。
「・・・・ゴメン・・・ゴメン、アスカ・・・」
「結局、僕の一人よがりなんだ」
「僕がしてたのは、迷惑だった?」
「嫌な男だ、僕は・・・」
「ごめん、アスカ・・・。もう来ないから」
「ゆっくり寝ていていいから・・・」
「だけど、最後に、もうすこしだけ・・・」
「アスカを、見つめさせて・・・」