第5話Bパート「HEAT,2!」
「駄目か・・・さっきのスピンでホイルアライメントが狂ってしまっている。
・・・これでは攻めて走れない。
それにタイヤにもフラットスポットが出てきてバイブレーションが酷い」
カヲルは次の周にピットに入った。
どの道このタイヤで走っていってもタイヤは持たないと考えての決断。
とりあえずタイヤだけは新品にしておこうと考えた。
「あの車、いなくなったみたい・・・」
レイは執拗に追いかけてきていたマシンが消えた事に少しホッとした。
カヲルは素早くピット作業を済まして3位のまま復帰できている。
トウジがいなくなっていた事はカヲルにとっては幸運だった。
「シンジ君とは50秒差・・・やるしかないか・・・」
カヲルは持てうるシンクロパターンを最高の点まで上げて走り始める。
「最後まで持ってくれよ・・・ボクの体」
「やったね、オバさん。あの嫌なヤツさえいなくなったらシンジ優勝間違いなし!」
アスカはマヤにそう暴言を吐いた。マヤは当然いい気はしない。
「オバ・・・って・・・。
アスカ。せめてお姉さんとか呼びなさい。そうね・・・一番良いのはチーフね」
「だって私から見たら十分オバさんだもの。他に呼び方なんてないわ。
チーフ?私にそう呼ばせるのは千年早いわよ。オバさん」
マヤは立ち上がってアスカにつかみ掛からんばかりに迫る。
「アスカ!アンタって子は・・・私の堪忍袋の緒もそんなに太くないのよ!」
そう[いきり立つ]マヤを横にいたマネージャーが必死で止めている。
アスカはジト目でそんなマヤを見て1言。
「嫌ね〜これだから年は取りたくないわ。オバさんもう少し心に余裕を持たなくちゃ」
〔ブチッ〕
嫌な音がマネージャーに聞こえた。
マネージャーは知っている・・・マヤからそ〜っと離れた。
「くおらぁ!アスカ〜!え〜加減にしいや〜!
ガキが私をオバさん呼ばわりなんて1万年早いぜよ!!」
アスカはマヤの余りの変わりように閉口した。
マヤは切れるとこうなってしまう・・・ふだんが大人しくて冷静なだけに、
ギャップも大きい。アスカはこの変わりように冷や汗が流れ出るのを感じ、
少し彼女を見誤っていた事をこの時初めて後悔した。
(マズイわね・・・まさかこんな人だったなんて・・・挑発したのは失敗かも・・・)
マヤはこうなってはそこいらの酔っ払いよりもタチが悪い。
「ガキィ!そこに座ったらんかい!!」
「あ、あのぉ・・・」
「早くせんかい!バチキかまされたいんか!!」
「あ、いや・・・マ、マヤさん?冷静に・・・」
だがマヤは止まらない。
「いいからそこに正座しやがれ!なめてると許さへんからなぁ!!」
アスカは言われるまま正座をした。今下手に逆らうとどうなるか分からない。
「大体なんやねんな!ガキ!ガキでもプロなら・・・」
・・・・この後5分に渡ってマヤのお説教が続けられた。
しかもこれは全世界に放送されていた。マヤとアスカはレース後に後悔する事になる。
2人とも全世界に大恥をさらしてしまった。
しかしマヤは切れているので周りが見えてない。しかしアスカは気がついた。
「あっ・・・アイツ・・・」
「何!言いたい事があったらハッキリ言わんかい!」
「・・・あ、いや・・・あの・・・渚が・・・・・・・その」
「渚?!渚がどうしたっていうんや!え?!」
「・・・ファステストラップ・・・シンジより2秒も速い・・・」
マヤはこの時我に帰った。
「2秒?!シンジ君より?!」
その言葉で我を取り戻したマヤは身を乗り出してモニターの目を向けた。
1、シンジ−17秒差−2、レイ−27秒差−3、カヲル
4、ミサト
今現在シンジは28周目に入っている。残りは17周、十分過ぎるリードだった。
間にはレイも入っている。
・・・だが、
〔カチッ、カチッカチッ、カチカチカチッ〕
「そんな!馬鹿な!!」
そう言う間もなくシンジのマシンが1コーナー手前でスライド。
明らかにオーバースピードだった。
「何で・・・どうしてだよ!」
そう言いながらシンジは手元のボタンを押し続けている。
マヤもそのシンジのマシンを確認した。がインカムは外したままであったので、
急いで付けるとシンジから交信が入っていた。
『マヤさん!マヤさん!どうしたんですか!マヤさん!!』
シンジの焦りの声がマヤに聞こえる。
マヤはインカムの通信モードが受信モードになっていたのを忘れていた。
すぐに戻そうとピットBOXに向かっていく時に
『シンジ、どうしたのよ!何かトラブル?!』
マヤが出るより早くアスカが先に出ていた。
『アスカ?何でアスカなんだよ!マヤさんは?マヤさんどうしたのさ!』
アスカは正直ムカッとした。
『何よ、私じゃ駄目だってぇの』
アスカは少し不機嫌そうに「わざと」言ったのだが
『当たり前だろ!早くマヤさんに変わってくれよ!!』
シンジには今、余裕がない。アスカに構っていられなかった。
アスカはそんなシンジの態度に少しブルーになる。
(何よ・・・ばかシンジ・・・そんな言い方って・・・
私は心配して言ってるのに・・・・・・)
マヤがようやくスイッチを切り替えて、シンジと通信する。
『どうしたの?何かトラブル?』
シンジはこの声を聞いただけでこの状況下でも気が落ち着く。
『ギアが落ちないんです。6速でスタックしたまま下に落ちないんだ』
『何ですって・・・セミATのスイッチは押せてるのね!』
『はい。問題ありません。でもミッションがまるで反応してこないんだ』
マヤの手元は忙しくキーボードを叩いて現在のマシンの状態を調べていた。
『シンジ君!このコースなら6速だけでも走れるわ。
こっちでも対処してみるからとりあえずそのまま走れるわね!』
『はい。やってみます』
そう聞くとマヤからは話すのを止めた。
シンジをドライビングに集中させる為に。
この一連のやり取りを聞いていたアスカは俯き加減で拳をきゅっと握りしめていた。
(私は何なの?シンジの為に来たのに・・・邪険にされて邪魔者扱いじゃない・・・・・)
シンジのペースがガクッと落ちた。とはいっても6速のみで走っていて普段のタイムの
2〜3秒落ちのタイムだから大したものではあるのだが・・・。
マヤは原因を究明する為にキーボードを叩いていた。
「ねぇ、マヤさん。私に出来る事ない?」
アスカが聞いてくる。マヤは手を忙しく動かしながら返す。
「サインボードを出せばいいでしょ。
レイとカヲルとのタイム差をシンジ君に教えてあげなさい」
「そうじゃなくて!・・・困ってるシンジの手助けをしたいの。何かない?」
マヤはこの状況下でアスカの事までは気にかけられない。言葉も自然と乱暴になる。
「あなたにはできる事なんかないわよ。何かできる?できないでしょう。
いいからアスカはサインボードだけ出してなさい」
そう言うとマヤはシンジに無線で交信する。
『シンジ君、ソフト関係は問題無し。今度はこちらでできるハード調査をするわ。
その間ブースターとシンクロ変動システムは使えないから注意して』
『わかりました』
忙しくキーを叩くマヤの横で、
アスカはサインボードの数字を一人寂しそうに組み付けていた。
残り8周の時点でレイがシンジに追いつく。
そしてカヲルはもう彼らの20秒後方にまで詰め寄っていた。
シンジもこの頃には6速走行にも慣れてきて、普段の1〜2秒落ちで走れている。
が、レイのマシンよりは見た目にも遅かった。
「前の車・・・問題ありそうね」
シンジは押さえ切れるとは思っていない。が、道を譲る気もない。
「やるだけやってやるさ。綾波だってそうタイムは変わらない」
シンジはインフィールドセクションのコーナーが続く所ではケンスケ並に遅かったが、
高速コーナーはかなり速かったのでタイム的はレイとさほどは変わらなかった。
とにかく加速のラインまでも気にしなければレイにパスされてしまう事は
分かっていたので、彼はいつもの倍は神経を使ってブロックしている。
ストレートに入ると毎周マヤから通信が入ってくる。
シンジの負担を考えてのマヤの気遣いだった。
『シンジ君!こちらでの全てのチェックは凍結するわ。全てのシステムは戻したから
ブースターも使えるから。シンジ君もそのつもりでしょう』
『はい。やれるだけやってみます』
マヤは正直お手上げだった。ここからでは何もできなかった。
苦々しい表情を浮かべながらモニタを見つめるマヤの背後から声が耳に入る。
「マヤ、キーボードを1つ貸してくれるかしら」
振り向いた先にはプラグレーシングスーツの上から白衣を羽織ったリツコが写る。
「先輩・・・どうしたんですか?いきなり・・・」
そう言うとマヤは隣の端末をリツコの為に空けさせた。
リツコはそこに座って何やら始める。手を動かしながら、
「何か役に立てないかと思ってね。マヤには私から頼んでシンジ君のサポート
してもらってるんだし、これ位はやらせてもらわないとね」
マヤはリツコの気持ちが嬉しかった。同時にEVIAの技術研究員時代を思い出した。
リツコがいて、日向、青葉と共に研究してた時代に戻っている気がしていた。
「先輩、私もサポートにまわりますから好きにやってください。
あ、でも今は全開走行のための凍結をシンジ君に指令してるから・・・」
「分かってるわ。まずこっちでm-107コードを調べるからm-207〜507まで展開しておいて
このコードパスなら問題ないでしょ」
「はいっ」
マヤは嬉しそうに返事をする。リツコはそんなマヤを見て少し嬉しそうに微笑んだ。
シンジにはコーナーというコーナーで青旗(主に周回遅れに出す旗)が振られる。
それほどまでにシンジはコーナーではレイより遅かった。
「この人、邪魔」
インフィールドでレイはパワーを駆けてシンジに並ぼうとする。
ここではシンジもスピードが乗ってこない。
しかしシンジは瞬間的にブースターを使って何とか抑えている。
「思ったより手強い。マシンはおかしいのに」
レイは今、自分が通ってきたコーナーを見ると、グレーのマシンがちらりと視界を横切る。
「・・・あの車・・・また来たの」
レイはもうカヲルとのタイムの余裕はないと考えて
シンジを強引にでも抜く決意を固めた。
「このマシンには接触してはいけない・・・そう言ってた・・・会長・・・」
レイは最終コーナーでインに入ろうとした。当然シンジがブロックすると
「でも・・・私達の為にも・・・ぶつけてでも前に・・・」
レイは外に戻って立ち上がりで抜かそうと画策する。
「行くぞ!ハイパーブースターON!!」
シンジは重いミッションをパワーでカバーしようとする。
レイも同様にブースターをかける。
シンジとレイはほとんど互角の加速をした。シンジの方が前にいて、早く加速できていた為だが
レイはアウトから最終コーナーに入り、立ち上がりで膨らんだシンジのインに滑り込む。
ストレート半ばの段階でシンジはインをがっちりとレイに固められた。
「あれじゃ抜かれる!シンジ!」
そう叫ぶアスカの前を2台が通過する。
「ここまでか・・・」
シンジは諦めた。さしたる抵抗も見せずにいつも通りのブレーキングでレイを前に出す。
バックモニタに写る紫のマシンを眺めながらレイは呟く。
「あと6周・・・もう誰も抜かさせない」
レイは決意も新たに走り出す。シンジは早くも後ろのカヲルが気になった。
「カヲル君がもう5秒後方か・・・この周で捕まるな」
シンジが思う通りカヲルはこの周のインフィールドセクションでシンジに追いついた。
「君と走れて嬉しいよ・・・でも、今回はもう後がない。・・・ボクの体も限界に近い。一気に」
カヲルは苦しい表情に変化させると今まで少し落としていたシンクロ率を引き上げる。
同時に鋭くマシンは加速し、コーナー出口で一気にシンジを抜き去った。
「カヲル君?!馬鹿な!ここでなんであんな加速ができるんだよ!」
カヲルはシンジをモニターで見ながら苦しそうに呟く。
「これで2位。今日はシンジ君がトラブってくれたからある意味ツイてるね。
次は綾波レイ・・・あと5周で抜けるのか・・・彼女を」
もうカヲルの目にはレイのマシンがハッキリと見えていた。
しかしカヲルの目が霞んだ。レイのマシンが3台に見える。
「くっ、もう少し・・・もう少し持ってくれ」
元に戻そうとしたカヲルは首を振る。
再び前を見たときにはなんとか元の景色が彼の眼前に広がり、彼はしっかりと白いマシンを見据えた。
「どうやらEG-Mの機能中枢に異変のようね」
「そうですね」
「ここからではどうする事もできないわ」
「後はシンジ君に頑張ってもらうしかありませんね」
リツコとマヤはシンジのマシンは修復不可能と判断。
あとは彼の腕に託すことしかできずに、モニタのマシンを見つめていた。
「ついに来たの。グレーの車・・・でもあと少しで優勝・・・」
カヲルはレイに遂に追いついた。だが残りは3周しかない。
「・・・何としても抜かなければ」
カヲルが呟く。カヲルは既にかなり無理している。
ホームストレート上でカヲルはレイのマシンをチェックした。
「やはりここでは無理だ。伸びが違い過ぎる。
ES−Cを使ったとしてもさっきの二の舞だ。ポイントはセカンドストレートだね」
そしてカヲルは1コーナーになっている複合コーナーを抜けると、
「行くよ!綾波レイ!」
シンクロ率を上げる。カヲルがレイのマシンに並んだ時、ES−Cに火を入れる。
「行かせない」
レイもハイパーブースターを作動させた。
カヲルは内側を守っていたのでレイは無理を承知で幅寄せした。
「今は譲れない!」
カヲルは避けなかった。
彼はレイに向かって威嚇するようにマシンをレイの方に勢い良く振った。
「はっ!」
レイは一瞬ひるんだ。迫るマシンが「死」「恐怖」という感覚が体に伝えてくる。
その時、ゲンドウの顔が脳裏に浮かび上がった。レイの瞳孔が開く。
その後で彼女の顔がほんの少し悲しい顔に変わった。
「・・・・・・・私が死んでも・・・代わりがいるもの・・・」
レイは決心。そしてカヲルのマシンめがけて自らのマシンを寄せる。
カヲルはその事に一早く気づいた。
「・・・綾波・・・レイ・・・君の心は悲しみに綴られている・・・」
そうカヲルが呟いた瞬間、
レイのマシンは光の壁に包まれたカヲルのマシンに弾かれた。
一瞬だったが、2台の間に光の壁が浮き上がり、赤い閃光を発した。
「そんな・・・何?今の」
レイは今の現象が理解不能だった。
そしてそのままカヲルが呆然とするレイをオーバーテイクしていった。
目の前のグレーの車を見つめながら、レイはぽつりと呟く。
「・・・終わったのね・・・私のレースが・・・」
レイはマシンを止めようとした。
カヲルはレイのマシンをモニターで見ていたが・・・。
「ここまで・・・ATフィールドまで使ったのは・・・ウッ」
カヲルはエントリープラグ内で少量ながら血を吐いた。
限界を超えてシンクロさせ続けた為にカヲルの体が悲鳴を上げる。
カヲルは自らの意志でシンクロ率を自在に操れる希有の存在。
マシンで制御するシンクロモードとは違い自分の能力を最高に引き出せる分、
高いシンクロで走ると体への負担は並のものではない。
シンジがカヲルのシンクロ率で走れたとしても、
5周ともたずに気絶してしまうだろう。
流石のカヲルもここまでの走行で体はボロボロになっていた。
そんなカヲルは一気に集中力が切れてしまい、
その次のコーナーを曲がりきれずにコースアウトしてしまった。
口から流れ出る血を拭おうともせずにカヲルはステアバーを再び握りしめた。
「・・・ここまでか・・・あと3周、何とかゴールまでは・・・」
カヲルはなんとかコースに戻ったが、レイには抜かれていた。
「どうしたのあの車・・・でも結局抜かれてない・・・まだ走っていいの?」
スローダウンしたカヲルをシンジが抜くのにさして時間はかからなかった。
カヲルは強靭な気力だけでマシンを走らせていた。
白いEG−M、綾波レイがチェッカーを受ける。
「優勝・・・初めて・・・この感じ・・・とても心地よい」
レイがウイニングランをしている開始した時、シンジが2位でチェッカーを受けると
そのままマシンを停めた。
チェッカーを受けた今、もう1周だってサーキットを走る気力はない。
シンジはマシンから降りると、後ろからカヲルのマシンがチェッカーを受け、
彼のマシンの後ろに停めたのが見えた。
シンジはカヲルのマシンに寄っていく。
カヲルのマシンのキャノピーが開き、中にいた彼の姿を見た瞬間シンジは言葉を失う。
口から血を流し、目も充血していてうつろ。
「カヲル君!どうしたの?!大丈夫!」
カヲルはシンジに目線を移すと一言呟く。
「大丈夫だよ、シンジ君。少し休めば元に戻るよ・・・」
シンジに手を差し出すと、
彼と握手を交わしながらそのままカヲルを起き上がらせたのだが・・・
「ありがとう、シンジ君・・・」
その言葉を言い終わることなく、カヲルは地面に倒れ込んだ。
「カヲル君!カヲル君!!」
カヲルはそのまま医務室に運ばれたが、
少し安静にすれば問題無いとの診察にシンジはホッと胸を撫で下ろした。
表彰台にカヲルの姿はなく、3位の位置には誰も立っていない。
レイがトロフィーをゲンドウから受け取ると、口元を僅かながら緩める。
そしてそのトロフィーを空に高々と掲げると大きな歓声が沸き起こった。
「どうだレイ、気持ちの良いものだろう?」
ゲンドウはレイに声をかける。
「・・・はい。この感じ・・・とても心地よい」
ゲンドウはニヤリとした笑いではなく、レイに優しい笑顔を送った。
「次も頑張るんだぞ、レイ」
「・・・はい」
その後にゲンドウはシンジにトロフィーを渡す。
「お前も良くやった」
シンジには少し冷たく感じた。でも、もうなれている反応だった。
その後でシンジはレイに握手を求めたが、
【ぱんっ】
レイに手をひっぱたかれてしまった。
「馴れ馴れしい真似はやめて」
「・・・ご、ごめん」
シンジにそう言うとレイはシャンペンを開けて観客にかけ始める。
シンジはレイにシャンペンをかけようとしたがレイに睨まれてしまった。
(参ったな・・・不思議な娘だな、綾波って・・・)
そして表彰台を降りていく時にレイがシンジに向かって一言だけ呟きかける。
「あなたとはこれでポイントは、ほぼイーブンだからもう手助けはしないから」
「えっ・・・それってどういう事?」
「もうあなたの抑えには回らないって事」
「抑えって?」
「次からは本気で行くから・・・それだけ」
レイはその言葉を残し、コントロールタワーに歩いていった。
(なんだよ・・・訳が分かんないな・・・)
レイの後ろ姿を眺める彼の後頭部に、明るい声が響く。
「シ〜ンジ!おめでとう」
声の主はシンジに後ろから抱きつき、彼の顔に笑顔を向ける。
「ちょ、ちょっとアスカ、いきなり何するんだよ!」
隣にはマヤもいたので、いきなりのこの行動に目を丸くしながらアスカに意見する。
「そうよ、アスカ。いくらなんでもやり過ぎよ。
女の子ならもっと恥じらいを持たなくちゃ」
「えっ、だってこれくらいあったりまえよ。私達の仲だったらね」
「僕達の仲ってなんだよ。仲って」
マヤも横で聞いている。
「ベッドで抱き合った仲じゃない・・・冷たいな・・・シンジ」
アスカは頬を染めてそう言ってきた。
確かに嘘ではない。
「な、何言ってるんだよ!アスカ!いい加減なこ・・・・」
シンジはこの時マヤに気が付いた。明らかに誤解している。
「あ、あの・・・マヤさん・・・これはですね・・・」
そう言い終わらない内にシンジはマヤの反応を見て言葉を止めた。
マヤの口元が引きつってる。
「あなた達!14歳なのに不潔よ!!」
そう言うと走っていってしまった・・・。
「待って!マヤさん!誤解なんだ!マヤさん!」
アスカはきししと笑みを浮かべながらシンジに回した腕に力を込める。
「いいじゃん、マヤさんには誤解させとけば」
「そ、そんな〜」
シンジは半ベソでマヤが消えた方を眺め続ける。
結局、アスカに捕まえられて誤解を解きに行けなかった。
「そんな事より今日は2位でもお祝いしようよ。2人で夕食を食べに行こっ。
もちろんシンジのオゴリでね」
「な、何で僕のお祝いで僕がオゴるんだよ」
「私が一緒に食事してやろうって言ってんのよ。それが御褒美よ。ほら行くわよ」
シンジはアスカに半ば強引に連れていかれた。
(トホホ・・・今日はツイてないや・・・)
その頃マヤは
「ハア・・・まさかシンジ君とアスカがそこまで進んでたなんてね・・・最近の若いモンは」
ため息混じりに呟くと、何処からか声が聞こえてくる。
(何?この声?)
「ぎゃぁ〜、悪かった、悪かったって言うとるがな」
「うるさい!今度という今度は勘弁できないわよ!!」
「待て!待ってって言うとるやんか。少しはワシの言う事も・・・」
「聞く事なんかないわよ!!」
[ボカッ!バシッ!!]
「悪かったゆうとるやろ、暴力反対やで」
「何が暴力反対よ!暴力は鈴原の専売特許じゃない!!」
[バキッ!ガツン!!]
「か、堪忍してえな、監督ゥ〜もうせえへんから」
「あっ、待ちなさい鈴原!話は終わってないのよ!!」
マヤの目の前にモーターホームから飛び出してきたトウジが写る。
そして彼と視線が合うと、彼は満面の笑みでマヤに寄ってきた。
「こらええ所に。マヤさん聞いてくださ・・・」
その時ヒカリがトウジの襟を鷲づかみにする。
「こんにちは、マヤさん。取り込んでますからこれで・・・」
「さあいらっしゃい!鈴原!!」
トウジは涙を浮かべてマヤにすがりつくが・・・
「マヤさん!助けて〜な!!マヤさ〜ん!!!」
トウジを強引に引き剥がしたヒカリはそのままモーターホームに消えていった・・・
(ここも夫婦喧嘩か・・・)
そう思いながら、マヤは自分のピットの後かたづけのため、
足を妙に重く感じながらピットに歩を進めていった。
=第5戦 ブラジルGP 決勝リザルト= 1、綾波 レイ 2、碇 シンジ 3、渚 カヲル 4、葛城ミサト |
=ポイントランキング= 1、碇シンジ 23p 2、綾波レイ 19p 3、渚カヲル 13p 3、惣流アスカラングレー 13P 5、葛城ミサト 11P 6、鈴原トウジ 8P 7、加持リョウジ 6P 8、アルベルト トンマ 1p |
次回予告
トウジは妹の弔いのために負ける訳にはいかない。
黒いマシン、黒いプラグスーツ、そして黒い喪章が彼を死神に変えた。
次回「死神の咆哮・前編」 また土曜日にお会いしましょう。