続・黒猫天使(その4)
原作者:DARU
作 者:齋藤秀幸
タオルと着替えを持って浴室に向かうと、ダイニングにミサトさんが座っていた。
ミサトさんは風呂から上がったばかりのせいか、ポニーテールで露になった肌がさっきのアスカほどでは無いけど微かにピンクに染まっている。
なんだか色っぽい。
・・・ミサトさん・・・・・・なんだか、湯気が立ち昇って来そうだ。
「ゴメン、シンちゃん! 牛乳飲んじゃった!」
ミサトさんは僕が入って来た事に気が付くと、振り向きざまに両手を合わせてそう言った。
そう言えば、牛乳が入ったタンブラーがミサトさんの目の前に在る。
缶ビールは・・・一つも・・・・無い・・・・・・?
「・・・・・・いいですよ、別に。 でも、なんで牛乳なんか飲んでるんですか?」
「明日ね、定期検診があるのよ。 さっきお酒飲んじゃったから。 オレンジジュースもダメなのよ、だから牛乳。 すっかり忘れてたわ。」
「はぁ・・・でも、僕に謝る事なんかありませんよ。」
「だって、いつもアスカが飲んでるじゃないの、牛乳! シンちゃんも飲みたいのかな〜と思って。」
「別に牛乳くらい・・・・・・」
「そう? 良かったっ。 『別に牛乳くらい』なら許してくれるのねぇ? シンちゃん!」
ミサトさん、しつこい。
「・・・・・あんなに飲んで、明日の検診は平気なんですか?」
「う〜〜ん、尿蛋白とGOT、GPT、それからガンマGTPあたりは特にヤバいかも・・・ダメだったら再検診ねぇ。」
だったら、あんなに飲まなきゃ良かったのに・・・
「ね、そんな所に突っ立ってないで、こっち来なさいよ、シンちゃん!」
ミサトさんはニコニコしながら自分の隣の椅子を何度も指さした。
僕は向かいの椅子にタオルと着替えを置いてからミサトさんの隣に腰を降ろした。
今日は酒くさい息を掛けられずに済みそうだ・・・
・・・・・・・
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・すぐ隣に座っているミサトさんの胸に目が吸い込まれてしまった。
やっぱり、でかい・・・
でかいのは分かっていたけど。
ミサトさんが着ている紫色のTシャツ越しに、下着は・・・・・・無い?・・・
・・・・・・ノーブラ・・・・・・・・・?
それに、やっぱり風呂上がりのミサトさんもいい匂いだ。
なんか、生々しい匂いがむわっとする・・・・・
・・ ・ ・ ・ ・ ・
「あらぁあ! シンちゃ〜〜ん、どうしたのかな〜〜ぁ?」
ミサトさんは一瞬両手を当てて胸元を隠したかと思うと、逆に手を広げて僕に体ごと顔を寄せてきた。
「ひゃ、ひゃい!」
「もぉ・・・シンちゃんってば・・・・・・・・・・・・・あのね、明日なんだけど・・・」
「・・・はい。」
顔が火照って来てしまった。
呼吸も・・・荒くなって来てしまった。
体温が伝わって来そうなくらいにの距離にミサトさんは居る・・・・・・いや・・・確かにミサトさんの体温が、ミサトさんと僕の間の空気を通して伝わってくる・・・・・・
・・・・・・・・・・ミサトさんて、いつも無防備な格好をしているよな。
そんなにギリギリまでカットしたジーンズを穿いて。
どうせ自分で切ったんだろ・・・そんなに大胆なカットオフジーンズなんて、絶対売っているもんか。
・・・そんなに太股を出して・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・
・・・・見えそうじゃないか・・・・・
ミサトさんは脚を組み直してクスッと笑うと、言葉を続けた。
・・・気づかれていた・・・・・・・・・・・・・・・・僕は然り気なく視線をテーブルの花に移した。
「・・・・明日、新箱根プリンスに8時頃来れる?」
「え、新箱根プリンスって・・・ホテルですか? 何かあるんですか?」
? 全然見当がつかない。
そんな事より、僕はミサトさんを避けるように少し離れた。
・・・・・・・・・・・
だって、風呂上がりのミサトさんの匂いが・・・・・・・・・
それに、ミサトさんの胸元か太股の付け根にどうしても目が向いてしまう。
・・・・・・・・・それに、ミサトさんの酒くさい息はイヤだけど、ちょっと牛乳くさい息は、なんか・・・こう・・・・・・・・・・・・・・・
「うん。 先月新しいお店が入ってね、明日リツコ達と食事に行く約束だったの。」
「・・・食事、ですか?」
「そ。言わなくてゴメンねぇ・・・・・・でも、やっぱり一緒に行きましょ! ね、シンちゃん!アスカと一緒に来て頂戴!」
「どうしたんですか・・・今更急に。 黙って行けば良かったじゃないですか。」
「うっ・・・・・そう怒んないでよ、シンちゃん。 全部あたしが奢るから!」
「でも、食事に行く事を今まで黙っていたなんて言ったら、アスカが怒りますよ。」
「まぁ・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そこはシンちゃんが上手く誘うのよ!
どうせ明日も家でゴロゴロしてるんでしょ? それとも何か企んでたのぉ? あたしが居ないと思ってぇ!?」
「別に・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・僕がアスカに言うんですか?」
「イヤなら別にいいのよ・・・あなた達をわざわざ食事に御招待しているのよ。あたしの奢りで。」
「別にイヤだとは・・・・」
「シンちゃん、ちゃんと人の目を見て話しなさい。ドイツ人は目を合わせて話さない相手は信用しないわよ。」
僕はその言葉を聞いて、思わずミサトさんから顔を背けてしまった。
・・・勿論、ミサトさんがそれを見逃す筈は無かった。
「ふふ、ドイツ人に限らないし、アスカはアメリカ人だけどねぇ・・・・・・・・・ね! シンちゃん、アスカと二人っきりにさせてあげるわよ!」
「え!?」
「んもぅ、シンちゃんったら、判りやすいわねぇ。」
「そんな訳じゃ・・・」
「実はさっきね、席を二人分予約しといたの。」
「ええっ!?・・・・・・ふ、二人分って・・・ミサトさんは?」
そんな・・・勝手に予約するなんて・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・
ミサトさんはクスッと笑うと、話を続けた。
「あたしはリツコ達と一緒のテーブルを先週から予約済み。さっき言ったでしょ? 明日はそのままリツコのところに泊まるの。」
「はぃ」
「ね、シンちゃん! アスカのハートを掴むのよ!! もう、ば〜っちり良い席取れたんだからぁ!! 勿論あなた達の邪魔はしないから安心してね。 ふ・た・り・っきり! あたしに感謝しなさいよぉ。」
「・・・・・・・・」
「シンちゃぁん? アスカの事、好きなんでしょお?」
「・・・」
「ねぇ、シンちゃん! まだ『好き』って言って無いんでしょ??!」
「・・・・・・・・・・・・・あの、どんな店なんですか?」
「話題を逸らすつもりね・・・・・・
・・・まぁいいわ・・・・・・もっちろん素敵なお店よ!」
「素敵なお店・・・・・ですか」
「そよ。 でもTシャツにジーンズでもオッケーだから。」
「Tシャツにジーンズでもオッケーな素敵なお店ですか?」
「・・・・さっきからヤケに突っ掛かるわねぇ。せっかくあたしがシンちゃんとアスカの為にセッティングしてあげてんのに。イヤならいいのよ。」
「済みません・・・」
「行くの?」
「・・・はい」
「じゃ決定ね! アスカはあなたが誘いなさい。」
「はい。」
「もぅ・・・・・もうちょっと、シャキッとしなさいよ・・・・・・・・・・・・
・・・・・・アスカねぇ、さっきも言ったけど、あたしにもセントポーリア買って来たのよ、あのアスカが。
あたしがドイツに居た頃、あたしの部屋に在ったのを憶えてたみたいだけど・・・・
・・・・シンちゃんにはゼラニウムでしょ、ダイニングにはフリージアでしょぉ、それから洗面所にはポプリでしょぉお。 本当にどうしちゃったのかしら、アスカ? ねぇ? シンちゃぁん??」
ミサトさんの目、好奇心に満ち満ちている。
アスカが花を買ってきた訳なんて・・・そんなの僕が知りたいよ。
・・・・・・それに、そんなに大きな声で喋ったら、アスカに聞こえるじゃないか・・・・・・
ミサトさんは微かに笑うと、話を続けた。
「・・・・・・あのね、シンちゃん、ドイツ人はね、お花が大好きなのよ。
ドイツってね、前にも話した事あるけど日曜にはお店がみんな閉まっちゃうのよ、法律で決まってて。 でもね、ケーキ屋と花屋は店を開けて良いの。午前中に閉めちゃうけどね。あと店を開けてるのはキオスクとか、そのくらいかしらね。
ケーキ屋が開いているのは午後のお茶の時間にケーキを食べる為。花屋が開いているのは誰かの家を訪問した時に花束を持っていく習慣がある為なの。
どんな小さな田舎の町や村でも、駅前には必ず花屋さんがあるの。日本人は花束なんて恥ずかしがるけど、ドイツ人にとっては当たり前の事なの。窓や庭先にいっぱい花がある家も多いしね・・・花はドイツ人の生活に溶け込んでいるの。
アスカだってずっとドイツで暮らしてたから、やっぱりお花は好きなのよ。」
えっ?・・・・・・
・・・・・・・なんだ・・・・・・・・・・・・・・そうだったのか・・・・・・
・・・・・・・・・そっか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうなんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「シンちゃん、随分残念そうねぇ・・・? ちょっとガッカリしちゃったかしら? 何か期待してた?」
「・・・別に、何も期待なんか・・・・・・」
ミサトさん、しつこいよ・・・
「でも、やっぱり変よねぇ・・・・・日本に来てからは全ぇん然お花なんか買わなかったのにね、アスカ。 どうして今日になって急に買ってきたのかしらぁ?」
「・・・・・・・・・」
「しかも、自分の分だけならともかく、シンちゃんやあたしの分まで買って来たのよぉ・・・・・ま、あたしの分はアレだけどねぇ。 」
ミサトさんは、又もやニヤリと笑った・・・・
「やっぱり何かあるわよね! シンちゃん!?」
僕はミサトさんのまとわりつくような視線に絶えきれずに、ミサトさんから視線を逸らしてしまった・・・
「もぅ、さっきっから煮え切らないわねえ! 少しは女の子の気持ちを解ってあげなさい!!」
ミサトさんは僕の手首を掴むと、いきなり自分の胸に押し当てた・・・
いきなり腕を引っ張られた僕はその勢いでミサトさんに倒れ込みそうになり、空いていた手で辛うじてテーブルに手を着いて体を支えた。
「うわぁっ!!!」
・・・気が付くと、僕の手はしっかりとミサトさんの胸を掴んでいた。勿論、そんなつもりは全然無かったけど・・・・・
「ねぇねぇ、シンちゃんってば女に目覚めたぁ? 違うわね、アスカに目覚めたのね! ・・・ねぇシンちゃん、初恋???」
ニヤニヤ笑いながらそう言うと、ようやくミサトさんは手を離した。
・・・・・・・・僕の掌には柔らかな感触がありありと・・・・・・・
「ミ、ミ、ミ、ミサトさん・・・・・・・・か、からかわないで下さい!」
「からかってなんか、いないわよぉお! アスカからシンちゃん奪っちゃおうかしらぁ・・・」
「ミサトさん・・・」
「ウ・ソ・よ! こんなおばさんじゃイヤでしょ! シンちゃん、もっと積極的になんないと、アスカに愛想を尽かされちゃうわよぉ。」
「・・・・・・」
「アスカに『好き』って言いなさいよ! ね、シンちゃん!」
「・・・・・・・・・」
「シンちゃぁん? そういう事はねぇ、男の子から言うもんだって昔っから相場が決まってんの!!」
・・・そんな事、ミサトさんに言われなくても分かっているよ・・・・・・・・・・
でも、どうやって言えば良いんだよ。
只のクラスメイトならまだしも・・・・あのアスカに・・・
それに、もし言って駄目だったら、作戦にだって影響が出るぞ・・・・・・・・・・・・。
「・・・シンちゃん、余計な事は考えなくてもいいの。自分の気持ちを隠さず素直に言えばいいのよ・・・・アスカはね、あなたのその一言を待っているの。大学出てたってね、あなたと同じ14歳の女の子なの・・・・・
・・・・・・・・・・アスカもね・・・・・・初恋なの・・・・・・・・・」
初恋なんて嘘だ。
ドイツにボーイフレンドが居たって言っていたじゃないか。
・・・・・・・それに・・・加持さんだって・・・・・・・・・
加持さんはアスカの事なんか何とも思っていないのかも知れないけれど、アスカは加持さんに夢中じゃないか。
「・・・・・・・シンちゃん・・・女の子の気持ち、分かってあげて・・・ね。
女の子から男の子に『好き』なんて言えないのよ・・・・・・・特に初恋の人が相手じゃね。
・・・・あんな性格だから、なおさら言い出せないのよ、アスカは・・・・・・・・・・
今までシンちゃんを散々バカにしてたから、尚更ね・・・・」
ミサトさんは襖の方にチラリと目を向けると、少し僕に近づいてから声を抑えて話を続けた。
「今から言う事はアスカには絶対内緒よ・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・アスカの周りには今まで同年代の男の子が居なかったのよ。女の子もだけど・・・分かるでしょ? 年上ばっかりだったの。
だからいつも背伸びしてたの。あたしが第3支部に配属されてた頃は、アスカはまだ本当に小さかったのに恐いほど大人びてたわ、冷めてたと言ったほうがいいかしら。『アタシは子供じゃない』が口癖だったの。
訓練と勉強に明け暮れる毎日で、見ているこっちが辛かったわ・・・・・・エヴァのパイロットに選ばれたエリートだってプライドだけで生きていたのよ。
小学生くらいの女の子がよ・・・・・
アスカはね、5歳の時にエヴァのパイロットに抜擢されてから同い年の子供と遊ばなくなったの・・・・・・・・・・・・同年代を嫌ってたのよ。『子供には興味無い』とか言ってね。強がって。
もうその時からアスカはエヴァのパイロットである事、エリートである事にプライドを持って、それにすがっていたのよ。そしてひたすら勉強したの、エリートであり続ける為に。
アスカはね、小学校は飛び級で2年で終えちゃったの、本当は4年のところを。
本来は毎日午前中で授業が終わる筈のところを午後も特別に授業を受けて、周りの子が長いバカンスを取っている間もずっと勉強してね。
あたしが第3支部に居た頃は、丁度アスカはギムナジウムに通ってて、その頃からもう年上に囲まれていたの。ギムナジウムって日本で言えば中学高校を一緒にしたような9年制の学校。
そこを卒業してアビテューアっていう試験に受からないと大学に入れないの。
そこを飛び級で4年で終えちゃったのよ。小学4、5年生が、中学生や高校生と一緒に勉強しているようなものね・・・周りの生徒と話が合うわけないわ。
・・・しかも同時にネット上で大学の講義も受けながら、毎日ネルフの訓練を受けながらよ。
アビテューアに受かって11歳で大学に通い始めた時は、周りの大学生は24、5歳ばかりだったのよ。徴兵か社会奉仕があるから、大学生は若くても20歳過ぎだし、5〜6年掛けて卒業するのもドイツでは全然珍しく無いしね。
しかもアスカはギムナジウムの時に受講した単位が認められて、いきなり本課程に入っちゃったから。
・・・アスカは勉強ばっかりしていたから他に話題も無いし、ネルフの機密を口にする事も出来ないから、大学では本当に無口だったのよ。
今からは想像も付かないでしょうけど・・・・・・・・・・
大学を早く終える事に必死になってたらしいから、4学期で卒業しちゃったの。2年間で。
早く卒業して自分の天才ぶりを世に知らしめる為だなんて言ってたけど、本当のところは大人びた学生に囲まれて大学に通うのが辛かったのよ。
只でさえドイツの学生は大人びているんだから・・・
想像してみて・・・・・・・・・・・そんな環境で気の置けない本当の友達が出来ると思う?
寂しかったのよ、アスカは。
・・・小学生の頃からずっと。
アスカはね、5歳の時から両親と離れて生活していたの。アスカ自らの希望でね。アスカの本当のお母さんはその頃亡くなっていて、継母とは上手く行って無かったらしいの。父親も好きじゃ無かったみたいね。
家庭に自分の居場所が見つけられなかったのよ。
アスカがどんなに寂しい思いをしていたのか・・・・・シンちゃんにしかアスカの気持ちは分からないかも知れないわね・・・
でもね、アスカのプライドが寂しいって気持ちを許さなかったの。
世界に自分の才能を示すんだって。自分は才能があるからエヴァのパイロットにも選ばれたし、飛び級で小学校やギムナジウムを卒業して11歳で大学に入る事も出来たんだって・・・
寂しいなんて感情は弱い人間のものだから、自分には無縁なんだ、自分は一人で生きていける強い人間なんだって・・・・・・・・・・・
もちろん、大学生の友達は居たのよ・・・でも、彼等にしてみれば、まだ本当に子供のアスカが一人で寂しい思いをすると可哀想だと思ってアスカに付き合っていたの。まぁ、天才と謳われたアスカに興味もあったんでしょうけど。
でもね、やっぱり本当に対等な立場では話なんか出来ないのよ。人生経験がアスカとは余りにも違い過ぎるんだから。
・・・それにね、大学時代はまだ良いとして、ギムナジウムの頃は本当に友達が居なかったのよ。無理もないけど・・・
周囲に子供だと思われたくないからって、アスカはギムナジウム時代も大学時代も必要以上に感情を押さえていたの。
ギムナジウムの頃は周囲の生徒が年上ってだけで恐かったみたいだし。
大学に入ってからもね、ドイツの大学生は大人しくて人の話を良く聴くから・・・アメリカなんかと違って・・・だからアスカもそうしていたの。
6年間ずっと感情を吐き出す事を堪えていたの。自分を無理矢理に押さえ込んでいたの。
でも、大学を卒業してからは急に喋り出す様になったのよ。感情を剥き出しにして・・・反動かしらね・・・・・・・・あたしもそうだったから。
アスカの感情の起伏が激しいのは、そのせいなの。
・・・日本に来たばかりの頃は、つくり笑顔を振りまいて明るく可愛い女の子を演じていたのよ。かなり無理してたみたいね・・・・・・シンちゃんも良く知ってるでしょ?
つくり笑顔は大学時代に覚えたらしいわ。処世術の一つだとか言って。
・・・・・・今は洞木さんみたいに本当の友達が出来たみたいだけど。
本当に良かったわ・・・・・・アスカに同い年の友達ができて・・・・・・・・・・・
大学時代はボーイフレンドが何人もいたなんて言ってたけど、いくらアスカが可愛いからって、健全な大学生の男の子が小6や中1くらいの女の子をまともに相手する訳ないのよ。下手したら犯罪だしね。 彼等にしてみれば天才少女に対する知的好奇心の方が大きかったんでしょうね。
そもそもドイツの学生は異性を意識させるような付き合いは余りしないで、いつも男女ごちゃ混ぜで行動するしね、日本と違って。
勿論、恋人となれば話は別だけど。
でも、20歳過ぎの男の子が11、2歳の女の子を恋人にする訳ないでしょ? 少なくとも、まともな男なら。
アスカは同年代の男の子は相手にしていなかったし。
・・・シンちゃんの事、ガキだ何だって始めはバカにしていたけど、やっぱり同年代の男の子の方が安心できるのよ。等身大に感じる事ができるしね。それに、大人に混じって突っ張って生きる事に疲れちゃったのかも知れないわ。
それから加持の事だけどね・・・あれは単なる憧れよ。ちょうどアスカが大学に入る頃に加持が来て、いろいろ面倒を見てあげてたから・・・懐いちゃったのよ。
家族と離れて生活していたから、やっぱり寂しかったのね。いくら強がっていても。
・・・加持を本気で好きだったら、他にボーイフレンドなんかつくらないわよ。
まぁそれに、サスガの加持も中学生に手は出さないしね。安心しなさい!
・・・・・アスカはね、加持をお兄さんみたいに見ているの。あなた達の年代の女の子にはブラザー・コンプレックスの子が多いのよ。精神的にも肉体的にも女の子の方が男の子より成長も早いしね。同年代の男の子は物足りなく感じちゃうのよ・・・勿論、一般論としてよ。
でもね、アスカはシンちゃんの側に居る事で安心していられるの。始めは優越感に浸っていただけかも知れないけど、今はそんなんじゃないわ。
それにね、何だかんだ言ってもやっぱり気になるのよ・・・・・
本当に数少ない戦友として。
プライドを脅かすライバルとして。
初めての家族として。
最も身近な異性として。
ライバルだと思う事以外はシンちゃんも同じでしょ?
・・・・・・アスカはね、あれでシンちゃんの事を結構気にしてるの。
第12使徒にシンちゃんが飲み込まれた時、始めは散々シンちゃんを自業自得だの何だのって罵ったり、レイに当たって喧嘩しそうになったりしてたんだけど、作戦会議が終わったらね、だんだんおとなしくなってきて、最後には地べたにペタって座り込んで膝を抱えて何も喋らなくなっちゃったのよ。弐号機のリフトの脇に隠れて。
・・・・・・何回も言いたく無いけど、あの作戦はシンちゃんの命より、初号機の機体の回収を優先していたのよ・・・・・
アスカは泣き出さないように感情を押さえていたのね・・・凍り付いたように無表情だったわ・・・
真っ青な顔して。
・・・その後シンちゃんが担ぎ込まれた時も、アスカはずっとシンちゃんの病室の前でウロウロしてたのよ。
病室に入る決心がつかなかったみたいね。
・・・・・意地っぱりね・・・すごく心配そうな顔してたくせに。
レイがシンちゃんの病室に入った時は隠れて居なくなっちゃったけど、直ぐにシンちゃんの病室の前に戻ってきて、またウロウロし始めたのよ、今度はすんごいイライラしながら。
今でもテスト中に、しょ〜っちゅうレイに突っかかって来るしねぇ・・・・・・シンちゃん絡みで・・・・・・
ねぇ、シンちゃん?
・・・シンちゃんが浅間山に飛び込んだのはやっぱり大きいわね。
だってシンちゃんが自分の意志で飛び込んで行ったんだから、アスカを助ける為に!
シンちゃんはアスカの命の恩人なんだから。
・・・・・・シンちゃんがB型装備でマグマに入るって言ったときは正直言って驚いたわ。
でも、すごく格好良かったわよ、シンちゃん!
アスカは、もう借りは返したなんて言ってるけど、やっぱり浅間山でシンちゃんに助けられた事は一生忘れられないでしょうね。アスカは気が強いからそんな素振りはおくびにも出さないけど。
でもね、気が強く無ければ今までやって来れなかったのよ・・・5歳の時から訓練と勉強に明け暮れて、プレッシャーと闘って、親友も出来なくて・・・・・・・・・・・・・
・・・・・ねぇシンちゃん!
今日もねぇ。アスカったら、シンちゃんが片づけをしている所を、暫くじぃぃっと見てたのよ。
あたしと目が合ったら直ぐに自分の部屋に戻っちゃったけどぉ。」
「・・・・・・・・・・・」
「この話は絶対に内緒よ・・・・・・
・・・それにしても、アスカがシンちゃんを見る目は昨日までとは全然違うわ・・・シンちゃんほど露骨じゃ無いけどねぇ。 ねぇ、本当にどうしちゃったの?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・アスカ・・・・・・・・・
・・・・・・・・
「まぁいいわ・・・・・・・・余計なお世話だと思うかも知れないけど、あんた達を見てると放っとけないのよ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・じゃ、あたしはもう寝るわ・・・昨日からあんまり寝てないし。
おやすみ、シンちゃん! 新箱根プリンスは知ってるのよね。姥子駅で乗り換えて駒ヶ岳線で箱根園駅で降りれば分かるわ、降りたらホテルまで歩いて直ぐだから。箱根園ってロープウェイの駅が在る所よ。分かるでしょ? お店の名前はクラブ・ヘヴン、ホテルの地下2階よ。あたしの名前で予約してあるから。時間は8時よ。分かんなかったら7時過ぎに電話を頂戴。」
ミサトさんはそう言うと僕にメモを渡して立ち上がり、キッチンのシンクにタンブラーを置いた。
「あの、ミサトさん・・・」
「なぁにぃ?」
ミサトさんは、待っていました! とでも言いたげな顔を僕に向けた。
「・・・・・・いや、あの・・・冷凍庫に、ジェラートが入ってます・・・」
ミサトさんは、にっこりと優しそうな笑みを浮かべた・・・・・
「それ、アスカにでしょ?」
「・・・ちゃんと三人分ありますから・・・・・・」
「あたしは遠慮しとくわ。」
「遠慮って・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・シンちゃん、あたしがドイツに居た頃からね、アスカ、ジェラート大好きだったのよ。今でもたまにコンビニで買って来てるみたいだし・・・独りで隠れて食べてるみたいだけどね・・・
・・・・・・・・・・ふふ・・・シンちゃんも以外とやるわね。そうそう、自分の土俵で勝負するのよ!」
「・・・そんな・・・つもりじゃ・・・」
「あたしにはフライドポテト作ってくれたしね。また今度作ってね! マジでうまかったわぁ、アレ!!」
「・・・・はい。」
「じゃ、おやすみ、シンちゃん!」
「おやすみなさい・・・」
「ちゃんと言っといてね!」
ミサトさんは笑みを浮かべたまま、僕に向かってヒラヒラと手を振りながら部屋に戻っていった。
・・・ミサトさんか・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・ミサトさん、僕にも気を遣っていてくれているんだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
・・ミサトさんが言っていた事・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・アスカ・・・・・・・・・・・
・・・・確かに綾波が出て行く時、アスカもドアの外に居たけど・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・そういえば、あんまりドイツに居た時の事、話さないもんな・・・・・・アスカ・・・
あの性格なら絶対にベラベラ喋りそうなのに・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・辛かったんだ、アスカも・・・・・・
僕なんか以上に・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・そうだよな・・・
本気で加持さんの事を好きだったら、他にボーイフレンドなんかつくらないな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・
・
・
・
**** 用語解説(^^;; ****
赤ワイン用の少し大きなグラス: 赤ワイン用グラスは白ワイン用よりでかい。赤ワインはグラスに広がるブケを楽しむ為と空気に触れさせて渋みを取る為。
(ワイングラスにも産地別にブルゴーニュ、ボルドー………ワインについて書くと長くなるので割愛(笑))
タンブラー(英): フツーのグラス。通称ヒヤタン。(200〜300ml程度)
リガトーニ(伊): ペンネとの区別は難しい(笑)。トマトソースに合う。因みに『ペンネ』とは『ペン先』の事。
アラビアータ(伊): 『怒った』と言う意味。唐辛子が利いた辛いトマトソース。
アルデンテ(伊): 『歯ごたえのある』と言う意味。芯を僅かに残して茹であげる。スパゲッティーに限らずパスタを茹でる基本。
ジェラート(伊): 単に伊語でジェラートと言えば『アイスクリーム』の事。但、本来はシャーベットとしての意味あいが強い(らしい)。動詞として『凍る』という意味も。
因みに『ワインのジェラート』はシャーベット。
ドイツ語のアイス『Eis』(名詞のみ)には『アイスクリーム』という意味もあるが『氷』が第一義。
勿論ドイツではアイスクリームの事を『Eis』と言うが、少なくとも学生の間では『gelato』とも言うようである。
(但、ドイツ全土で『gelato』と言って意味が通じるかどうかは不明…(汗))。
ドイツ人は大人でもアイスクリームが大好きなようである(^^)。
因みにソフトクリームはフランスが発祥地。
フリージア(英): アフリカ原産の菖蒲科の一。本来は春の花だが、オランダから日本にも通年輸入されている。
(ローズ)ゼラニウム(英): 天竺葵。ローズ以外にも様々な芳香種あり。ドイツを含め、欧州ではメジャーなアフリカ原産の花。勿論日本でも容易に手に入る。真っ赤でアスカ的(笑)・・・何故に天竺(インド)なのかは不明(笑)
セントポーリア(英): アフリカすみれ。ドイツの軍人が発見、ドイツで品種改良されて世界中に広まった。紫色でミサト的(笑)
ポプリ(仏): 花や香料の瓶詰(秤売りの単品を買って来て自分で調合するのも一興(^^))
ギムナジウム(独): 基礎学校(4年)を終えて入る9年制の高等学校。文系、理系、芸術系のコースがある。
アビテューア(独): ギムナジウム卒業試験。これに受かると大学入学資格が得られる。
4学期で卒業: 4ゼメスター(4学期)でディプロム(学士号)を取得したという事。
本来は基礎課程・本課程合わせて最低8ゼメスター大学に在籍しなければ卒業資格を満たさない。
(因みにドイツの大学は夏学期(4〜7月)と冬学期(10〜2月)の年2学期制)
作者コメント:ミサトも応援してくれるのねん。(^^)
June 23,1997
原作者より:はう〜〜〜、ミサトさんカッコイイぜ!!
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