2021年8月6日(Fri) 晴れ 今日は人類が最も恥ずべき日。 1945年8月6日午前8時15分、広島に原爆が投下された。 でもこの事実も今や爆心地の広島と長崎の人々、 そしてこの第3新東京市の消滅時に生残った極わずかの人々のみが知っていた。 僕はEVAに乗らなくなって、戦争に対して強い興味を持つ様になった。 僕は人を傷つけるのが嫌いだ。 人を傷付けるくらいなら、僕が傷つくほうが善いとさえ思っている。 2番目の綾波は僕を庇って自爆した。 今の綾波は3番目。 過去の綾波の記憶を受継いでいるが、 戦後、綾波は精神的にも肉体的にも開放され、時の経過と共に自我が目覚めた。 僕は綾波を3人目とは見ていない。 生立ちはどう在ろうと、僕と血の繋がりのある妹。 実際には母かもしれないけど、僕には大切な人。 アスカも綾波も共に死線を越えてきた。 共に死線を彷徨(さまよ)っていたからこそ、 今と云う瞬間を、精一杯生きようと努力している。 綾波は今、北海道へ旅行に行っている。 僕に在る物を託して・・・ ミサトさんは子供達に番い(つがい)のハムスターを買ってあげた。 そのハムスターから沢山の子供が産れ、 洞木さん、青葉さん、日向さん、冬月さん、そして綾波に貰われて行った。 アスカは「ネズミは嫌いだ」と言って貰うのを拒んだ。 ハムスターはネズミと違うのに・・・ 僕は綾波から託された、ケージに入ったハムスターを家に持ち帰った。 アスカは怪訝そうに アスカ:鼠の何処がいいのよ! 世話はアンタがしなさいよ。 どうして家に帰ってまで鼠の顔を見ないといけないのよ。 僕は居間で、ケージからハムスターを出した。 僕の片手に収まる小さなハムスターは、生意気にもチクチクと爪を僕の手に突刺している。 体に触れようとすると、後足で立ち上り大きく口を開けてチーチーと威嚇する。 ついでにカプッと噛まれてしまった。 小さな歯なのに、傷痕から血が沢山出た。 アスカはドラマを見ながら アスカ:何時までも鼠と遊んでないで、早くご飯にしなさいよ。 何故か不機嫌なアスカ。 僕 :はいはい。 *************************************** 2021年8月9日(Mon) 晴れ ハムスターを預って3日目、相変らずアスカはハムスターを触ろうともしない。 ハムスターは僕を触れさせようとしない。 綾波の指定した、ひまわり、カシューナッツ、リンゴをあげても見向きもしない。 何も食べずにケージの中の小屋で丸くなっている。 このままじゃ死んじゃうよ。 どうしたらいいんだろう・・・ミサトさんに相談するか。 僕は立ち上り玄関に向った。 アスカ:何処行くの?また浮気でもするの? アスカは腰に両手を当てていた。 僕 :ハムスター、元気ないからミサトさんに相談のってもらおうと思って。 アスカ:ちびすけ一匹に何を梃摺(てこず)ってんのよ。 アスカは居間に向い、ケージを開けて中から小屋を出しハムスターを取出した。 僕 :あ、アスカ、無茶しないでよ。 アスカはハムスターを背中から摘んで頭を撫でた。 いつもなら、チーチーと騒ぐのに大人しくしている。 アスカ:シンジ、林檎。 僕がリンゴの切れ端を渡しすと、アスカはハムスターの口元にリンゴを近づけた。 ハムスターはアスカの指に両手を付けてリンゴをシャリシャリと食べ始めた。 僕 :あ、アスカ、凄いじゃないか! アスカ:こんなの研究所で何時もやってたもの。 僕 :そうなの? アスカ:動物実験でmarmot(モルモット)、二十日鼠なんか扱ってたからね。 嫌なんだよね、情が移ると実験が出来なくなるから。 私だって小動物は好きだもの。 僕 :アスカ・・・ アスカ:シンジ、触ってみる? 僕がハムスターに触るとチーと威嚇された。 アスカ:やっぱり、ちびすけにも使徒ってのが解るんだ。 僕 :あのね・・・ それからというものハムスターは、ひまわり、りんごを食べまくった。 水もグビグビと飲んだ。 綾波は、水は野菜から摂ると言ってたけど、ちびすけは水ばかり飲んでいる。 食べては寝て、寝ては糞をしての繰返し。 アスカは「ウンコ製造機」と言って、ハムスターのシッポを触ってた。 僕が同じようにハムスターのシッポを触ったり、お腹に触るとカプッと噛まれた。 *************************************** 夜、アスカが僕の上に乗っかり、耳元で アスカ:早くシンジの子供が欲しいな。 僕 :にゃはは。 アスカ:シンジは男の子と女の子のどっちがいい? 僕 :元気だったらどっちでも良いよ。 アスカ:私は女の子が良いな。 まあ、シンジはスケベだから多分女の子だろうね。 僕 :スケベと関係あるの? アスカ:acidity(酸性)かalkalinity(アルカリ性)かで決るんだけどね、 多分、女の子だと思う。 僕 :アスカの子供なら美人だろうね。 アスカ:当り前じゃない。 子供は何人作ろうか? 僕 :うん、僕は一人っ子で寂しかったから、アスカさえ良ければ2人は欲しい。 アスカ:そうね、私も一人っ子で寂しかった。 今、シンジとは夫婦だけど、兄弟みたいなところもあるもんね。 喧嘩しても直仲直りして、お互いを思い逢って こういうのは一人っ子じゃ体験できないものね。 僕 :それに親は絶対に両親(りょうおや)必要だよ。 アスカ:そうよ、私に三行半突付けらないように気を付けなさい。 僕 :みくだりはん? アスカ:離縁状よ。 たっく、日本人は外国の文化に憧れても、自国の美しい文化には無関心なんだから。 僕 :はい・・・ *************************************** それからというもの、ハムスターは相変らず僕には懐いてくれないけど、 アスカにはすっかり懐いてしまった。 アスカがハムスターの背中を撫でると、 ペッタンコになって気持ちよさそうにジットしている。 ハムスターがケージの小屋に入っていても、アスカが「ちびすけ」と呼ぶと出てくる。 おまけに、アスカの手から餌を食べてしまう。 夜になると、回し車をクルクルと回していた。 2021年8月15日(Sun) 晴れ 綾波が北海道から帰ってきて、ハムスターを引き取りに来た。 綾波は、ハムスターがアスカにすっかり懐いていたのに驚いた。 綾波はアスカに「飼ってみる?」と言ったが アスカは「寿命が短いから要らない。」 とそっけなく言った。 でも夜、アスカは僕の腕の中で泣いていた。 アスカは泣きながら、ずっとちびすけの話をしていた。 アスカは僕の胸に顔を押付けて泣いた。 僕はアスカを優しく抱しめてあげた。 アスカの優しさが僕の気持も優しくさせた。 /* 小さな命 a tender heart */次回、卒業式