幸せとともに
第壱話 疑惑
ミーンミーン・・・ジージー・・。セミの泣き声が異常に多いこの国の日常。
そして、ごく平凡な中学校の朝。
ガラガラ・・
「起立!礼、着席」
「おはよ〜ん・みんなぁ、今日も元気かなぁ?」
「ハーイ!(うっす、てぃーす、いぇい 等々)」
すかさず大音量の返事が教室に響く。
葛城ミサトは1週間前、ネルフからここ第三新東京市第一中学校に送り込まれた。
そして、もう今や学校中にも名前が知られるほどの人気を得ていが、
もちろんミサトがネルフの職員である事は誰も知らない。
ちなみに伊吹マヤもこの学校に入っている。
「よし!みんな元気ね。んで、宿題は♪?」
どでーん
教室がそんな雰囲気に包まれる。
「まぁ、そんなもんじゃないかとは思ってたけどね。さぁ、気分を切り替えて、
・・みんなぁ、いい事があるんだけど・・知りたい?」
全員が首を縦に振る。
「あのね・・突然だけど、転校生がうちのクラスに・・って、話を聞いてね。」
”転校生”の言葉を聞いた時点で、教室はえらい騒ぎだ。
「せんせー、女子ですか、男子ですか?」
女子生徒の一人が興味津々に聞く。みんなも耳を大にしている。
「ふふふ・・・喜べぇ女子ぃ、男子よ〜!しかも顔よし、せ・・」
性格もよし、といいかけて言葉がつまった。シンジの性格はいい方だろう。
だがミサトの見た限りでは、少年の活気というものが感じられなかった。
「..と、とにかく、入ってきて〜!」
ミサトはその思いを振り切るように言った。
そこまで、ミサトのテンションの高さを半分呆れて見ていたシンジは自分が呼ばれた
のに気付いて、トコトコと歩き出した。
教壇に立ったシンジは、黒板に出来るだけ大きく自分の名前を書いたが、実際の所
後ろの生徒には見えないような大きさだった。
もともとこういうのが苦手なシンジは、視線にたえきれず
「はじめまして、碇・・シンジです。よろしくお願いします。」
とだけ言うと、ミサトに聞いた席にとっとと座ってしまった。
そしてそのままミサトの授業にはいってしまった。
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ミサトは教科書片手に授業を進めている。
「次、この問題は・・シンジ君・・シンジ君?」
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『これは・・・さっき僕らを助けてくれたロボット!?』
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『シンジ、お前が乗るのだ。』
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『イヤだよ!!!!』
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シュウウウゥゥゥ・・・ドガガガガガガガ!!!
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『乗るなら早くしろ・・でなければ帰れ!』
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『エヴァンゲリオン初号機、発進!』
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ブシュゥゥゥゥ
『頭部破損!損害不明っ!』
ビービー・・
『制御神経断線!シンクログラフ反転!パルスが逆流していきます!』
ビービー・・
『回路遮断!せき止めて!』
『駄目です!信号拒絶、受信しません!』
『初号機、完全に沈黙!』
『!!』
『作戦中止!パイロットの保護を最優先!プラグ強制射出して!!』
『駄目です!完全に制御不能です!!』
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あたたかい・・
しんだのか・・
なんだ、しぬのなんて、なんてことないんだ
あれは?
う
う
うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
るおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん!!!!!
『初号機再起動!!!?』
『何ですって!?有り得ないわ!』
『勝ったな・・・』
『・・あぁ・・・』
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「お〜い、シンちゃん起きましょうね〜。シンちゃ・・」
「うわぁぁ!!ハァ・・ハァ・・ハァ・・」
「シ、シンちゃん・・大丈夫?」
周りは驚き、騒然としている。
ミサトは少し驚いたがすぐに続けた。
「・・シンちゃ〜ん、初日から寝ないようにねぇ。」
ミサトだけが今のシンジがどういう状態かわかっていた。
(仕方ないわね。いきなりエヴァで生死の狭間を歩いて、
それから1週間も経たずに学校でお勉強じゃぁねぇ・・)
「えっ?僕は・・あっ!す、すいません・・」
「はい、この問題よん♪」
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キーンコーンカーンコーン・・
「起立、礼!」
生徒達は、委員長洞木ヒカリの一言で、蜘蛛の子の様に散っていった。
しかし、シンジに話し掛けるものは少なかった。
そして放課後・・・
ミサトは自分の担任している2-Aの前を通りかかった。
そしてミサトは生徒達の密談を聞き逃す程甘くはなかった。
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「なぁトウジ、今日転校してきたあの碇ってヤツさぁ・・どう思う?」
「どうやろなぁ。えろう暗そうやし、なんや取っ付きにくそうやなぁ。」
「だろ。しかもあの未確認物体の騒動の後だよ、転校してきたの。しかも今日の
朝、うなされてたぜ。絶対なんか訳ありだよ、あいつ。」
「まぁ、ああいうヤツとはあんま関わらへんのが一番やで。」
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ミサトはなんとも言えない気分だった。確かにクラス全体がシンジに対して何となく
よそよそしい雰囲気だった。朝からシンジの様子をみればそれは仕方ないだろう。
しかし、命を危険にさらしてこの街を守ったシンジに対する言葉が、こんな物である
事にミサトには何ともしがたい怒りが込み上げてきた。
しかしE計画が、ネルフにおける最高機密である以上、そんな事を言えるはずもない
事もミサトは良く分かっていた。
(・・・・・)
ミサトは暗い気持ちでその場を去った。
-ジオフロント ネルフ本部司令室-
「碇、そろそろ限界だろう・・。」
白髪の初老の男はおもむろに口を開いた。
「何の事だ、冬月。」
その色眼鏡によりまったく表情の読めない男が答えた。
「世界中の政府、いや・・世界中の人間がこのネルフに疑惑を抱いているぞ。」
「なに、疑われるのは慣れた事だ。」
口調をかえずに男は答えた。
「おまえはな。しかしネルフとて一組織だ。世界を敵にはまわせまい。」
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しばらくの沈黙の後ゲンドウが聞く。
「どうしろと言いたい・・」
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次回