|
||
最近、一人になって思う
どれだけ、自分が他に依存しているかというのを
最近、一人になって思う
どれだけ、自分が我侭であるかというのを
誰かと比較して成り立つ自分の位置
誰かを貶めて手に入れる快楽
誰かを悪者にして感じる正義
ありとあらゆる事で他人と勝負する事に疲れていたあの頃
心底疲れていた
それを救ってくれたのは・・・
間違った道に進んでいる事を教えてくれたのは・・・
私の真の価値を見てくれたのは・・・
「ただいま!アスカ!」
「お帰り!ヒカリ!」
あの最後の戦いの後、第三新東京市民は一度疎開を強いられた。
市民が疎開した後、Nerv は残った情報、危険な物を撤去し、証拠を隠した。
きっと、人類にとって今回の戦いは『戦い』であって『使徒との戦い』であってはならないと思ったのだろう。
無知は幸せという判断だと思う。
事実、忘れたい過去は私にも多かった。
多すぎたかもしれない。
「元気だった?碇君は元気?」
「見ての通り元気よ。シンジは相変わらずノロノロしてるけど、体は何ともないわ」
「相変わらず、やり合ってそうね」
そう言って、彼女は微笑んだ。
シンジとあたしの事になると、何故ヒカリはいつも微笑むのか・・・。
分かっているけど、敢えてその話には突っ込まない。
「向こうの生活はどうだった?」
「寂しい所だったけど、皆同じ場所に集められたから退屈はしなかったわよ」
「鈴原は・・・」
「・・・元気よ・・・やだ!何聞くのよ!」
そう言って顔を赤くするヒカリも変わりなく元気そうだ。
「ら、、来週から前の様に学校が始まるのね。アスカは来れそうなの?」
「もちろん行くつもりよ。」
「そう。それなら良いの。私たちが疎開している間に何かあったらどうしようかと思ったわ」
「上手く話をそらしたつもりでしょ?でも、無駄よ。ちゃんと白状しなさい」
「・・・・」
「ま、良いわ。ヒカリと鈴原が私の見てない3ヶ月でどうにかなるとも思えないしね」
「それ・・・ちょっと酷い・・・」
「ま、良いでは無いか。じゃ、来週ね!」
「うん。また来週」
私・・・ | ||
鈴原の事・・・ | ||
どうしたら良いのかしら・・・ |
「ふふっ どうしたら良いのかしら・・・って青春よねぇ・・・」
まったく、シンジも男なら私の事押し倒すぐらいの事しなさいよね!
いつまでも待ってる私も馬鹿だけど・・・
相当大馬鹿ね。二人とも・・・いや、馬鹿はアタシか・・・。
- 第三新東京市 生態化学研究所 第三実験室 -
約5平方メートルの部屋がLCLで一杯になり、僕はその中で静かに呼吸をしている。
使徒との戦いの後、Nervは政府と合併という処置に落ち着いた。
表向きには弱った軍事力の強化となっている様だが、実質Evaの存在が怖かったのだろうと思う。
僕の役目は、「LCLの医学への応用」の研究を手伝うこと。端的に言えば実験体だ。
ミサトさんやアスカに凄い勢いで止められたのを覚えている。
けど、僕は実験体になる事自体に抵抗は無かったし、嫌だとも思ったことは無かった。
「100%安全では無いわ」と、リツコさんに説明された時も何故か不安は無かった。
「医学への応用」という形で少しでも世の中に貢献したかった・・・等と言い訳したけど、本当はそうじゃない。
理由は、良く分からないんだよな。なんでだろ。
母さんの入った器・・・初号機はその昔ターミナル・ドグマと呼ばれていた所に安置している
二号機は大破が酷く、パーツは残っているもののその姿は原型を留めていない
零号機・・・綾波は・・・あの後消えてしまった
誰もその話に触れなかった
皆言わずとも「死」という事で頭の中を整理したに違いない
僕も同じように綾波の死を受け止めた・・・
綾波が居ない現実にもっと苦しむかと思っていた・・・
けど・・・びっくりする程、その事実は僕の中で正当化された
綾波 レイはもう居ない・・・
「ピッ」
作業ランプが赤から黄色になり、そして青に変わった。
部屋から水が流れ落ち、僕はいつもの様に出迎えてくれるマヤさんからタオルを受け取った。
「シンジ君、お疲れ様」
「お疲れ様でした。マヤさん」
「順調だったわね」
「そう・・・ですね。」
「何か引っかかるの?今回の実験は・・・」
「あ、いや、実験の事じゃ無いんです」
「ん? はは〜ん、お姉さんが相談に乗ろうか?」
「い!!いえ!良いんです。これは僕の問題ですから」
「ふふっ。分かったわ。」
「は・・・い。ちょっと引越しをしようかと思ってまして」
「え・・・今の家を出て行くの?」
「ええ。そのつもりです」
「アスカは?」
「・・・アスカは・・・関係の無い事ですから・・・」
「そう・・・」
「じゃ、また来週ですね。帰ります」
「ええ、お疲れ様! いつでも相談に乗るわよ」
「はい。ありがとうございます。何か有ったら相談に乗ってください!」
どうせ、来ないと思うけどね・・・あなたは・・・
困ったら何時でも来るのよ・・・シンジ君・・・
コツ・・・コツ・・・コツ・・・
研究所から家の近くまでまでは専用バスで送ってもらっている。
下ろして貰った場所から家までの10分の道のりを一人で考えられる時間として有効に使っている。
少し冷たい風が心地良い。
月が・・・綺麗な円を描き、少しかかった雲がより幻想的な雰囲気を醸し出す。
「こういう時、トウジなら迷ったりしないんだろうな・・・」
誰にも聞こえない声で、独り言を呟く。
本当にミサトさんの家を出る決心が僕に有るのか・・・
『なんや? また夫婦喧嘩かいな?』
違う・・・アスカと喧嘩した分けじゃ無い・・・
『しかしやで、シンジ、お前惣流の事・・・』
違う・・・アスカは僕の事なんて見てない・・・
『アホ、惣流がどう思ってるかやアラへんがな。お前の気持ちの問題やねん』
僕は・・・きっと・・・
涼しい風が僕の頬を撫でた。
マンションのドアの前で立ち止まり、静かに深呼吸する。
わずかに力の入った頬を両手でパチンと打つと、いつもの様にドアノブを回す。
「ただいま」
「お帰り、シンジ」
「すぐご飯にするから待ってて」
「早くしてよ!お腹ペコペコ」
「はいはい。座って待っててね。今日はハンバーグだよ」
「やったね! 今日あたりハンバーグが食べたかったんだよね!良く分かったじゃない?」
「偶然に決まってるだろ? アスカお風呂沸かしておいてよ」
「え〜・・・しょーがないなー」
「それぐらいやってよ・・・」
「何?」
「何でもないよ・・・(地獄耳め・・・)」
「怪しいわねぇ・・・何隠してるわけ?キリキリ白状しなさい!」
知らない人が聞いたら、仲の良い夫婦の会話に聞こえただろう
事実、僕たちは夫婦の様だ
一緒の家に住み、一緒のお風呂に入り、一緒にご飯を食べて、一緒の家で寝る
ミサトさんは今ドイツ支部に行っている様で、家には僕たち二人しか居ない
ミサトさんが居ない寂しさは・・・無いな・・・
部屋が汚れなくて済むから・・・本音は心の中だけにしよう・・・
時々、自分でも充足してると感じる事が有る
『満たされてる』感じ
でも・・・・でも、気づいてしまった
悲しい事実に・・・そう、あれは半年ほど前の事・・・
『あんたバカァ?』
『何がだよ!』
『あたしの部屋勝手に入るってのはどういう了見よ!』
『しょうがないだろ?アスカがTVのリモコン部屋に持ってっちゃったんだから!』
『に、してもよ?女の部屋にノックもせず入るなんてサイッテイ!出てって!』
『何だよ!僕たち一緒の家に住んでるんだから、家族だろ? ちょっとは我慢しなよ!!』
『はぁ?馬鹿じゃないの?一緒の家に住んでたってアンタは他人。
わかる?タニンなのよ。分かったら出てって』
『タニン・・・タニンなんだね・・・』
僕は思った
この充足感は、作られた充足感なんだって。
アスカと一緒のカンジ・・・悪くない。
むしろ気持ち良い。
でも・・・・でも、この充足感はきっと偽者だ・・・
このままだと、僕は駄目になる。
そう思ったとき、僕はアスカと家族じゃないと悟った。
だから、この家を出ようと思った。
この充足感に漬かっていたら、きっと駄目になると思った。
でも、僕には出て行く勇気が無かった。
時間が経てば、嫌な気持ちは薄れると思った。
でも・・・駄目だった・・・
だから・・・・
「ねえ、アスカ」
「ん?」
「僕さ・・・」