ミサトは涙を拭い、時田に向き直る。
「EVA初号機もアダムもリリスも、倒せるのはEVAに乗った子供達だけ。」
「でもその前に、ゼーレが襲撃をかけてくるわ、量産型EVA9体を用いてね。彼らの計画に欠かせないEVA初号機とマギシステムを奪取するために。」
「戦力比は2:9。このままではとうてい太刀打ちできないわ。いくらあの子達、シンジ君やアスカが戦い慣れしていてもね。」
「だから少しでも戦力になるものが欲しいの。」
時田が後の言葉を引き取る。
「だからジェットシリーズですか。」
「ええ、EVA以外で唯一対使徒用に造られた兵器。私にはこれしか思いつかなかった。」
「じゃあ、JBとJCを見に行きましょう。」
話がまた湿っぽくなりそうなので、この手の雰囲気が苦手な時田は急いで会話をうち切り、JBとJCが納められている倉庫に向かった。
JBとJCの2体はともにEVAと同じくらいの大きさがあった。しかし、その姿には大きな違いがある。JBは比較的JAと似た姿を持っている。横の壁に掛けられているややボリュームのある長槍と盾はそれぞれJBの装備品らしい。時田が説明を始めた。
「使徒はATフィールドを持っています。これをどうにかしない限りこちらの勝ち目はありません。幸い、第五使徒ラミエルとの戦闘、および第十五使徒アラエルとの戦闘の際、ある程度のエネルギーがあればATフィールドを撃ち抜くことが可能であることがわかりました。さすがに日本全国の発電量を出力できるジェネレーターはないので、運動エネルギーでATフィールドを貫通する武器を、JBとJCで採用しています。」
「JBはJAをベースに格闘能力の向上を目指して開発されました。装甲がやや薄くなったぶん動きは俊敏です。装甲を減らしたぶんは盾で補います。」
そして長槍に目を向ける。
「この長槍は、先端部が電磁コーティングにより保護されています。そして使徒の持つATフィールドと接触した瞬間、槍の先端部が爆圧により加速されてそのATフィールドを貫きます。その貫通力は、少なくともラミエル程度のものは軽く打ち抜けます。ですが、あまりに大きい運動エネルギーを作り出すため、使用制限が5回なのがネックです。」
ついでJCに目を向ける。ミサトから見て、この機体は下半身に比較的ボリュームがあり、より安定なように思えた。そしてなんといっても右肩に背負われた巨大なキャノン砲。長さは 30 m 近い。この2点のせいでJA、JBとは全く別物に見える。再び時田が説明を始めた。
「JCは長距離支援を目的として開発されました。武装として大和改型戦艦『信濃』に採用されている50口径46 cm砲を用い、砲弾としては2012年に開発された十二式徹甲弾を対使徒用に改良したものを用います。この運動エネルギーは非常に大きく、8,000 m離れたラミエルのATフィールドでさえも撃ち抜きます。実際には8,000 mも離れていると、砲弾が到達するまで約8秒かかりますので、もっと近距離で打たないと当たらないでしょうが。」
と言って肩をすくめる。そして続ける。
「これだけの砲ですと反動も非常に大きなものとなりますので、機体のほうも、特に下半身はほとんど再設計されました。だからJAやJCとは別物に見えます。そのぶん、使用回数は搭載砲弾数、つまり20回分とJBと比べて大きく向上しています。」
ミサトにはJCのほうが良いように思えた。もともとEVAはATフィールドを展開、中和して戦うために接近戦に向いている。特に格闘能力は非常に高く、JB程度では即座にやられてしまう可能性が高い。しかしJCならば接近戦を行うEVA2体を効率的に支援することが出来る。うまくいけば、アウトレンジ戦法も夢ではない。だからミサトは、迷うことなくJCを選択した。
「JCのほうが有効そうね。」
時田が肯く。
「私もそう思います。」
それから懸念を口にする。
「ですが、この機体は間接操縦で5人、直接操縦でも3人の搭乗者を必要とします。あともう一人はいないと…」
その一人にミサトは心当たりがあった。
「大丈夫、あと一人なら確保できるわ。」
「でしたら、あとはJCをこっそり持ち出して訓練しておかないと。一朝一夕に扱えるものではありませんから。」
「持ち出すほうは何とか出来るでしょう。所長という身分は結構便利です。社長は私の父ですし、納得させる自信もあります。残る問題は隠匿場所ですね。」
「大丈夫。箱根にはこの程度のものが入る穴ならいくらでもあいているわ。」
時田が安心して声を返す。多少の不安は残っていたが。
「じゃあこちらで輸送車とシュミレーター、砲弾および整備器具を準備します。あなたはもう一人の搭乗者をお願いします。こいつは操縦者、砲手、機関士を必要としますから。では明日の夜にでも。」
ミサトが肯く。
「ええ、2日後の午前1:00に作戦開始ね。」
翌翌朝午前1:00、JCとミサト、時田、そして日向を乗せた巨大な輸送トラックが国立第3研究所をでたまま消息不明となった。この件については時田工業社長から直接箝口令が敷かれ、一般には広まることはなかった。
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JCの隠密輸送に成功した3人は、ミサトが見当をつけていた洞穴の中に輸送トラックを隠した。中でドーム球場が作れそうなほど巨大な洞窟。早速役割分担を決める。時田が最初に発言する。
「私はどれでも一通り出来るから、残ったものをやります。」
日向が次に口を開く。
「僕はゲーマーだから砲手が向いてそうですね。」
ミサトが最後に言う。
「私は大型免許は持っているけど、リアクターは扱えないわ。だから操縦手が向いてそうね。」
時田が締める。
「じゃあ私が機関士をします。」
「操作方法は………。」
一通りの説明を受けた後、3人は電源をJCのリアクターからとったシュミレーターを用いて訓練を開始した。
ミサトの心の中に炎が走る!
(もう子供達を死なせやしない!)
(人類補完計画、叩きつぶしてやるわ!!!)
第三話へ
お待たせしました(えっ、誰も待っていないって。ごめんなさい)。
今回かなり趣味に走っています(^^;)。
信濃ですけど、実際の歴史では大和型戦艦3番艦として建造されながらも、その途中で空母に改装され、最期には米潜水艦から魚雷4発を受け、熊野沖で沈んでいます。ですがエヴァンゲリオンの歴史は、実際のものと若干異なるうえに戦艦が重視されているようなので、大和改型戦艦として建造され、かつ太平洋戦争を生き抜いたことにしました(作者は横山信義氏の八八艦隊物語が大好きなんです。趣味まるだし(^^;))。
それにこのままではネルフ側のEVAが圧倒的に不利なのは明白。有能な戦闘指揮官たるミサトならばこれぐらいの打開策は考えるだろうということで、ジェットアローンシリーズが登場します。納得していただければよいのですが…。納得できない方は、yamada88@venus.dtinet.or.jpまでメール下さい。カミソリ付き可です(^^;)。
今回、ミサトがかなり頑張ってます。多分本編でも、この子達を一番大切に思っているのがこの人だと思うので。
今後もよろしくお願いします。もし楽しんで下さる方がいらっしゃいましたら、作者感謝感激です!
最後に、こんなお話(もう小説じゃない)を掲載して下さいましたDARU様に、深く感謝いたします。
(文責 MACA-1)