リリカルな想い出は、

 幾つもの後悔と懺悔の海に沈む。

 

 誰かが問いかけている。

 

 それは本当の願いだったのか、と。

 

 


 

 少女、少年  <挿話(2)>

 


 

 

「手、もう痛くないの?」

 

「痛くないよ。」

 

「何考えてるの?」

 

「嫌なこと。」

 

「でも、シンジが人殴るところ、初めて見たわ。」

 

「初めて、殴ったからね。」

 

「そう、なんだ・・・。」

 

「日向さんに、悪い事したとは思ってる。日向さんのせいじゃ無いのに・・・。」

 

「あの人、逃げなかったね。甘んじて殴られてたわ。」

 

「だから余計に後悔してる。頭の中が真っ白で、気がついたら手が出てた。」

 

「訳がわからなくなっちゃったもんね。」

 

「再考の余地無し、って言われた辺りから、先あんまり覚えてないんだ。」

 

「マヤのヤツが泣きながら電話してきたわよ、さっき。」

 

「そうなんだ、なんて言ってた、マヤさん?」

 

「ごめんなさい、って。」

 

「結局、何も変わらないんだね、」

 

「えぇ、それだけは間違いないって。もう一度、戦争は出来ない、って。偉くなったもん

よね、私も。」

 

「嬉しい?」

 

「本気で聞いてる?それ、」

 

「聞いてない。」

 

「馬鹿、」

 

「”馬鹿”は耳にたこができるくらい聞いてるからね、承知してるよ、もう。」

 

「大馬鹿、ちょっとくらい”悲しい”とか”辛い”とか”嫌だ”とか言いなさいよ。ムー

ド出してるんだから、」

 

「落ち着いてるね、アスカ。」

 

「泣き叫んでる方が良い?」

 

「どっちでも良いよ。アスカが泣いたら、僕も泣くだろうけどね。」

 

「でしょ、気を遣ってやってんのよ、馬鹿シンジの為に。空元気も疲れるんだからね、」

 

「後悔、しない?」

 

「別に・・・、シンジはどう?」

 

「しないと思うよ、多分だけど。」

 

「多分、か。まぁいいわ、それで。」

 

「そっか、じゃあ、そろそろ死ぬ?」

 

「そうね、最後にもう一度抱いてくれたら、一緒に死んであげても良いわよ。」

 

「えぇ条件付きなの?でも、最初に言い出したのアスカだよ。」

 

「だからあんた馬鹿なのよ。こういうのは女が恩を着せるものなのよ。」

 

「そうなの?」

 

「多分ね、」

 

「なんだかよく分からないけど・・・、別にいいや、もう、それで納得するよ。」

 

「自暴自棄?」

 

「精一杯の強がりだよ。」

 

「正直ね、」

 

「嘘つきなんだよ、ほんとは、」

 

「怖いから?」

 

「どうだろう?もう怖いものなんて無いかもしれないね、」

 

「一人になるのは怖いでしょ?」

 

「そうだね、それだけは嫌だ。」

 

「何かやっておきたいことある?」

 

「アスカを抱きたい。」

 

「スケベ、」

 

「抱いてくれって言ったのも、アスカだよ。」

 

「あれ、そうだったっけ?」

 

「ミサトさんみたいだね、それ」

 

「あんな大酒飲み女と同じにしないでよ。」

 

「ごめん。」

 

「直ぐ謝る、内罰的、」

 

「今のは普通の謝罪だろ、」

 

「今日は特別な日だから、そう言うことにして置いてあげる。」

 

「特別、か。」

 

「凄くリアルでしょ?」

 

「色々な意味でそうだね。」

 

「やっぱり、最後は好きな人の腕の中で死にたいじゃない。」

 

「・・・恥ずかしいよ、それ。」

 

「ぐっ、分かってるわよ、そんなの。」

 

「はは、顔真っ赤だよ、アスカ。」

 

「あんただって人のこと言えないでしょ!」

 

「う、ごめん。」

 

「馬鹿、」

 

「・・・、ねぇ、あすか、もう一度言って?」

 

「は?」

 

「馬鹿、って。」

 

「何言ってるの、あんた、ひょっとしてマゾ?」

 

「良いから言ってよ、」

 

「何言ってるのよ?」

 

「良いから、言って!」

 

「はぁ・・・良いわよ・・・・、えっと、”馬鹿、馬鹿シンジ!”」

 

「もう一回、」

 

「馬鹿シンジ!」

 

「もう一回、」

 

「馬鹿シンジ、」

 

「もう一回、」

 

「馬鹿、シンジ、」

 

「もう一回、」

 

「馬鹿シン、きゃ、突然抱きつかないでよ、」

 

「・・・」

 

「シンジ?」

 

「・・・」

 

「シ、ン・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」


つづく


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