CREATORS GUILD 3周年記念
生命保険
書いた人 中川 淳



俺は生命保険が嫌いだった。
せっせせっせと保険料を支払っても、自分では使えないのだからこんなつまらんものはない。
まあ、積立型の生命保険というのもあるらしいが、そんなものに金を使うくらいなら株にでもつぎ込んだ方がましというものだ。
だが残念ながらこの世の中、中々思いどおりにはならないらしい。
妻がやいのやいの言うから、やむを得ず一つだけ生命保険に入る羽目になった。
そしてその時から、俺と保険会社との飽くなき闘争の歴史が始まった。

なにしろ奴らは狡賢い。
俺のような“善良な”一市民に対し、寄ってたかって攻撃を加えるのだ。
あなたは交通事故に遭うかも知れませんよ。
癌になったらこんなにお金が掛かります。あなたは支払えますか?
老後の生活は不安ではありませんか?
あなたに“不幸”があった場合、残された家族の生活はどうなりますか?
多くの“善良な”市民はこの様な度重なる波状攻撃にさらされ、次々と傷つき倒れてゆく。

しかし俺は、そんなものには騙されない。
生命保険とはいえ、あくまで俺に役立つものでなくてはならない。
あきれ返る保険会社、私のことを愛していないの、と喚く妻を後目に、俺自身を保険金の受取人にすることを主張し、ついにそれを勝ち取った。

そして月日が流れ、ようやく俺の元に保険金がやってくる日が来た。
“善良な”一市民として、慎ましやかな生活を送った俺にとっては、目も眩むような大金だ。
不謹慎だが、最近では指折り数えてこの日を待っていたものだ。
この金も、元はと言えば俺の財布から出た金であり、俺がその正統な所有者なのだと、胸を張って言える。
だから俺がこの金をどう使おうとも、文句を言われる筋合いはない。
・・・そうでしょう?
それに、・・・地獄の沙汰も金次第と言うじゃありませんか。ねえ、閻魔様。


おしまい

 




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