青葉という男

written on 1996/3/16


 

 /青葉シゲル(SHIGERU AOBA)

 /ネルフ本部中央作戦司令室付オペレータ

 /階級:二尉

 /担当:通信・情報分析

 /趣味:ギター

 /現在独身。特定の彼女なし。


 【シーン:ネルフ本部B-33棟第5休憩室】

 作戦終了後のひととき。

 第一発令所から遠く離れた休憩所へ一人向かった青葉。

 自動販売機で缶コーヒーを買い、ひとくち口に付けたところから話は始まる。

 

 「よっ、青葉君。景気はどうだい?」

 

 休憩所の入り口から突如お軽い声が青葉の背に投げかけられた。

 思いがけぬ人物の声に青葉は一瞬動きを止める。

 「お疲れさまです、加持さん・・・で、よろしいですか?」

 「かまわんよ。階級付きで呼ばれるのは嫌いなんでね」

 と、加持も自動販売機に近づき、同じ「UCG」の缶コーヒーを選ぶ。

 「そうだ、青葉君。以前から聞いてみたかったんだが、君はなぜネルフなんか

に入ろうと思ったんだい?」

 青葉は近くのベンチに腰をおろすと、コーヒーの缶がでてくるのを待っている

加持の背中に視線を飛ばした。

 「唐突ですね」

 吐き出された缶コーヒーを手に取ると、加持は振り返って、青葉を見た。

 「時間は有効に使う主義なんでね」

 「・・・・」

 

 男に対しては本音で話す加持を青葉は嫌いではなかった。

 ドイツ帰りの特殊監察部所属。碇司令からも話は聞いている。

 (同じ種類の人間・・・か)

 「別に大した理由じゃありませんよ。普通の生活を送っていたら、ネルフに入

りたくなった。それだけです」

 「なるほど。自分の存在意義を確かめたいと?」

 「そんな大げさなモンじゃありません。ただ、真実を知らずに死ぬのは後味が

悪そうだと思っただけです」

 「ほう・・・。

  確か君の親父さんは元内閣報道官だったな。それで・・・か」

 「ま、それもありますね」

 

 しばしの沈黙。

 休憩室には二人がコーヒーを喉に流し込む音だけが響きわたる。

 

 「ところで君はリっちゃん派かい? それとも葛城派?」

 飲み終えたコーヒーの缶をゴミ箱に放り込みながら、加持は再び問いかけた。

 (そろそろ本題か・・・)

 青葉は一瞬、3人の上級オペレータの微妙な関係に思いを馳せた。

 私生活では、全く何の問題もない仲がよい3人組だといえる。

 しかしいったん仕事にかかると、その立場の違いから、らしくない駆け引きを

強いられるのも事実だ。

 「さぁ、どうでしょうね。お二人とも尊敬している上司ですし。特にどちらが

ということはありませんが」

 加持はその答えを聞いて笑う。

 「喰えないねぇ、君も」

 「あなたにそう言われるとは光栄ですね」

 青葉の正直な感想だ。

 

 加持リョウジ ―――――魅力的な男。

 

 加持が時計を見上げた。

 次の仕事が待っているのだろうか。

 出口に向かって歩き出す。

 「司令が君を引き抜いたのもわかる気がするよ」

 去り際の一言。

 「きっと扱いやすい人間だからでしょう。あなたと違って」

 尊敬と、そして彼なりの忠告の念を込めて青葉は答える。 

 

 青葉の言葉に、加持は軽く片手を挙げて、そして通路に姿を消した。

 

 しばらくして青葉も出口へと向かう。

 作戦終了後の反省会が待っているのだ。

 

 自らの危機においても、相変わらずお互いを信頼することができない人間たち。

 (何も、かわらないな・・・)

 絶望ではないが、希望も見えない。

 そして、いつ死んでもおかしくないこの状況では、死に対する恐怖感もいつし

か薄れてしまう。

 (俺は、オペレータになってから何人の死を、この地下の巨大なスクリーンを

通して見てきた?)

 そして、生きていることのありがたみも薄れてしまう。

 青葉は頭をふった。

 

 突然サードチルドレンの素直な笑顔が頭をよぎる。

 (そういや今日はシンジ君にギターを教える日だったな)

 とりあえずまだ楽しいことがある。

 少しだけ、青葉の足取りが軽くなった。

 

                             <おわり>

 


 もう1年以上前、私がエヴァの小説を書き始めた初期のころの作品です

 まだちょっと時間がないので、しばらくはこうした旧作がメインとなりそうですけど、案外古い方が出来がよいかも(汗)

 ほんとの設定とは大いに違うでしょうけど、私の頭の中の青葉シゲルはこんな感じかな



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