比較的両親が忙しくなかった頃
そして、双子の兄妹が四歳を過ぎたころ
二人はよくいじめられていた。
決して弱いわけでもなかったが
基本的に色白でほっそりしていて、相手を傷つけようとしない優しい兄
そして、体が弱く人見知りも激しい、ほとんど無口な妹
家が豊かであること、基本的に人がイイこと
ついでに凶悪な顔をした父親にはまったく似ず、母親似の綺麗な顔立ち
おおよそ悪ガキの目に留まりやすい条件全てが揃った二人はよくいじめられていた。
妹の方は、兄にかばわれて、いつも身体に傷をつくることもなかったが
悪ガキの無思慮な悪口に傷つき、無口なため同性の友達が少なく
兄の方は、いつも体中傷だらけになりながらも
自分からなかなか手を出すことなかった。
そんな訳で、悪ガキ達は一層調子に乗ることになる。
そん中、いつも助けてくれたのが、同い年の少女だった。
赤金の髪に、負けん気のあふれるような蒼い目をしていた彼女は二人の幼なじみで
仕事の同僚であった親からの付き合いであった。
非常に気が強い彼女は、同年代の子どもたちの間ではとても強く、恐れられ
彼女が来ると、悪ガキどもはいつも逃げていくのであった。
口が悪く二人も悪ガキも分け隔てなく罵倒する彼女だったが
根はとても優しいことを兄妹は知っていた。
7歳のとき
親の都合で彼女は引っ越していった。
その後、兄妹はある事故をえて自分を守れる強さをもつようになるが
心のなかで、彼女は変わらない親友だった。
引っ越した後にも、二人の寝室には三人の子どもの写真がある。
茶色の髪と瞳の、非常によく似た双子の兄妹と
並んで座った二人の頭を後ろから抱いて二人の間に顔を並べた赤い髪の少女の写真
シンジとレイの掛け替えの無い
そしてあるいは取り戻どせないだろう思い出
ふたり
第二話
友人
「碇シンジです。よろしくお願いします。」
「・・・・・・碇レイです・・・・・・・・」
あまりにも素気ない挨拶だったが
クラスの面々はそんな理由で絶句していたのではなかった。
草薙静馬、御剣涼子、神矢大作、そして担任の南雲慶一郎と
強烈な印象をもつ錚々たるメンバーがそろったこのクラスは
他のクラスが例え悲鳴を上げそうなことでも冗談で受け流せるくらい耐性ができていた。
そのはずだった。
が、会ったばかりの涼子と、職員室ですでに会っており並の神経をしていない慶一郎はともかく
その他の生徒はただ絶句していた。
まず、その容姿
絶世の美少女とも言って良い二人
片方は男性の筈だが、まったくそのような匂いを感じさせない。
これが同性なら・・・・・・その顔立ちからいって二人とも女性なら
間違い無く一卵性双生児だろうが、あいにく二人は男と女だ。
兄弟としても、一六歳になっても二人はとてもよく似ていて
そしてなにより蒼銀の髪とまっしろな肌、紅の瞳が強烈なインパクトとなっていた。
生徒達はその類い希な容姿に度肝を抜かれ魅入られ、ぼんやりしていた。
慶一郎も、努めて生徒達を現実に引き戻そうと想わないのか何もしない。
だか、例外とはいるもので
「しつ〜ん、二人は兄妹ですか? 」
どこか間延びした
妙にかわいらしい声が響く。
「あ、僕は神矢大作っていいます」
呆気にとられてしまった生徒たちの中では、最も早く立ち直ったのは、
大門高校のデータ・ベースで草薙静馬と御剣涼子のおっかけ
可愛い顔して頭の中には悪巧みがいっぱい
基本的に面白ければそれで良い性格
別名(厚顔の美少年)こと神矢大作である。
すでにその手にはしっかりとデジカメが握られており
一見無害の笑みを浮かべながら
二人のたぐい希な美貌を逃すことなく写そうと虎視眈々とねらっている。
カメラを見たとき、一瞬、かたちの良いレイの眉がぴくりと跳ねるが
彼女が決定的な行動に出る前にシンジが出た。
相変わらず目を細めて、小さく笑みを浮かべたままで
「はい、そうです。よく似てるでしょう? 」
「ええ、ほんとそっくりですね」
丁寧な
しかし中身の無い空虚な会話が交わされる。
「しかし、随分とお二人ともお綺麗ですね」
「ありがとう、他に質問のある方はいますか?」
完璧な態度で当たり障り無く答えながら
大作がなかなかやっかいな人物であることを見破ったシンジは
その追撃をかわそうと話をそらし
次の対象を見出そうとする。
「はい、二人はもとはどこに住んでいたんですか? あ、私は御剣涼子っていいます」
「ええと、京都に住んでいました。一条のあたりです、御剣さん」
すでに面識のある同士だが、そんなことは大作は知らない。
大作の性格をよく知っている涼子は、シンジの隣で黙り込んでいるレイのためにも
シンジを援護するべく口を出した。
「あぁ、とりあえず質問その他はあとの休み時間にでもするように」
やはり、あまり面白くない雰囲気に気づいていた慶一郎が
そこで一旦区切りをおいた
適当な頃合を見計らっていた慶一郎が言葉を挟み
質問を進めれなかった大作が恨めしそうな目を涼子と慶一郎に一瞬向け
そんな代作を一瞥した後
一応担任たる慶一郎はホームルームを進める。
「それで席だが、御剣の右隣から最後列ががあいてるからそこに座るように」
二人の生徒を倉庫に送って机と椅子を運ばせた。
しばらくまった後、二人はそのまま席に向かった。
ちなみに涼子の席は最後列の窓際から二番目である。その右隣は席が無く
そこにレイ、シンジと並ぶことになった。
「それでは今日の連絡事項だが・・・・・・・」
相変わらず、兄妹に目を奪われている生徒たちに軽く溜息をついたが
処置無しとして簡単にホーム・ルームを終えた。
「どこに引っ越したんです?」
「この近くのマンションですよ」
「趣味は、ボクはチェロができるし、レイはビオラが弾けるよ。あとピアノとバイオリンは二人とも少しずつできます」
「前の学校で、付き合ってる人はいたの? 」
「いいえ、いないわ」
「ボクもいませんでした」
「こんなに綺麗なのに、どうしてぇ? 」
「さぁ、でも綺麗と言ってくれるのは嬉しいです」
その後、休み時間の度に様座な質問を二人は受けたが
その度にうまく受け答えをするのはシンジの方で、レイのほうはほとんど口を開くことなく
シンジは休み時間の度にレイのすぐ側にきたので
かなり人見知りをするレイが答えることはほとんどなかった。
とはいえ、もともとイベント、お祭り好きの大門高校の面々
シンジとレイの情報は、瞬く間に広まったらしく、休み時間の度に野次馬は増えて
三時限終わりの休み時間には廊下側の窓に他クラス、他学年が鈴なりになるほどだった。
シンジは相変わらず当たり障りのない返答を、かんぺきな笑みのまま答えていたが
レイのほうはかすかに苛立ちが見えてとれ
隣で集まる生徒に鬱陶しいと感じていた涼子は心配そうに見ていた。
「ねぇ、お弁当持ってきてる? 」
「・・・・・・・もってきてるわ・・・・・・なに? 」
四時限目の途中、涼子が隣にしか聞こえないほどの小声で話しかける。
「ここで昼御飯となると更にたくさんの生徒に囲まれて御飯どころじゃなさそうだし、私と一緒に屋上にいかない? いい具合に晴れてきたし」
「・・・・・・・・かまわないわ・・・・・」
「・・・・・あの、それって一緒に行くってこと? ここで良いってこと? 」
「あ、」
涼子はレイの片言でしかない言葉に、いまいちどちらの意味かつかみかけて問い返し
レイはさすがに悪かったと想ったのか、サっと青ざめる。
「ごめんなさい、屋上に行くわ・・・・・」
「ん、それで私の友達が一人一緒になるけど、いい? 」
休み時間の度に大勢の生徒に囲まれ
さらに増える一方となり、シンジはともかくレイが困惑しているように見え
涼子はちょっと誘ってみようと考えていたのだ。
レイの素直な様子に、かすかに曇った涼子の表情も笑顔になる。
「ええ、シンジが一緒で良いのならかまわないわ・・・・・・・」
「もちろんいいわ。じゃぁ、シンジ君にも伝えておいて、授業が終わったらそく出るから」
「わかった」
「お願いね」
「ん・・・・」
レイはシンジにそのことを伝え、何事もなかったように授業に移ったのだった。
そして、チャイムが鳴ると同時に三人は席を立ち上がり即座に教室を出ていった。
教師が終わりを告げる直前で、おまけに三人揃って最後列の席なので
誰にもつがめられることなく出ることに成功したのだった。
「あれ、碇さんは?」
「碇君もいないわ」
「どこいったの? 」
「せっかくお昼一緒にと思ってたのに」
後には、二人の転転校生と少しでもお近づきなろうと集まった生徒たちが残された。
ただ、大作だけは何を考えているのか、かすかに笑って席を立ったが・・・
「うまくいったわねぇ」
「もう、涼子ちゃんいきなり教室に来るなり有無を言わさず引っ張っていくんだもの」
「・・・・・すみませんねぇ、いろいろと」
「いいのよ、結構楽しんでるし」
一方、屋上に出シンジ、レイ、涼子の三人プラス涼子の親友ひとみは
屋上にて早速部弁当を広げ、ランチタイムへとしゃれ込もうとしていた。
雲の間から青空がのぞき
三時限目ぐらいからしっかりと日光が降り注ぎ初めて
少し強い風が湿気を吹き飛ばして、屋上は思ったよりずっと過ごしやすかった。
この屋上は本来しかり鍵がかかっているはずの場所なのだが
多少ゆがんだ扉は、引き方によって鍵の閉まったまま開いてしまう。
昔、屋上に逃げ込み鍵を閉めた静馬を追いつめたとき気づいたことだ。
「あ、そういえば挨拶がまだでした。碇シンジです。よろしく」
「碇レイです」
「あ、結城ひとみです。よろしくね」
四人の共通点と言えば、揃って弁当を用意してきているということであり
なによりひとみはまたく面識さえなかったが、そこは人徳というものか
攻撃的な雰囲気のない優しい空気を持つひとみにシンジも仮面でない笑みを浮かべ
レイもまた涼子の友達だということもあり、人見知りしなかった。
「でも、随分と綺麗な弁当よねぇ、それに美味しそう、シンジ君とレイちゃんのお母さんがつくってくれるの?」
「・・・・・・れ、レイちゃん・・・・?」
弁当を広げ終わった時、兄妹の弁当の見事さに目を奪われた涼子が言った自分の呼び方にびっくりするレイ、あさのホームルームから一貫して崩れることの無かった無表情が崩れる。
「ああ、ごめんごめん、何となく可愛くて思わず呼んじゃった。駄目?」
「・・・いい」
もともと人なつっこいところもある涼子である。
おまけに自分の背が高いことにコンプレックス上がり、逆に可愛い感じの娘が大好きで
同じくらいの身長の笑うと類い希なまで可憐なレイがよほど気に入ったのか
(このことに関しては、前々から密かにコッチの趣味があるのではと思われていた涼子だが、ここで指摘されもめいいっぱい、力をこめて否定するだけだろう)
普段めったに浮かべることのないまったく無邪気な笑顔を浮かべて聞いて
けっこう涼子には最初から心を開いているレイは、かすかに頬を染めて頷いた。
そんな様子に、涼子もまた、少し頬をそめて嬉しそうで
(涼子ちゃん、まさかそっちの趣味があるんじゃぁ)
親友のひとみはかなり心配そうだった。
「それで、レイちゃんとシンジ君の弁当は誰がつくってるの? 二人の母親?」
「いや、ボクがつくったんだ、レイも手伝ってくれてね。時間が無くてちょっと失敗したから恥ずかしかったんだけど」
「「こ、これで、失敗!? 」」
実際、シンジとレイの弁当は全く同じ内容だが見事なもので
とても失敗とは思えなかった。
やはり自分で作ってきているひとみはともかく
あまり料理が得意とは言えない涼子には結構ショックで悔しいらしく
その負けず嫌いな性格もあって、多少ひきつった顔をシンジに向けてしまう。
「ふ、ふ〜ん、シンジ君料理上手なんだ。それなら南雲先生と話も合うんじゃない」
「へぇ、あの先生も料理をするんですか? 」
「ええ、あんなデカい図体して、エプロンして料理してるの。結構笑えるわよ」
「涼子ちゃん、それはひどいんじゃぁ・・・・・」
「そう? ひとみだってこの間鬼塚家に来たとき見たでしょ? 」
「ま、まぁ、違和感はすごかったかも・・・・・・・・」
さすがにここで笑いものにされる慶一郎が哀れでフォローしようとするが
しかし、自身も見たあの筋骨隆々とした大男のエプロン姿を思いだし
嘗て見たスーツ姿までではないものの、その似合わないことこの上ない姿を想いだし
ひとみも結局なにも言えなくなる。
「まぁ、本場で修行でも積んだみたいで、イタリアン、フレンチはプロのシェフもびっくりってところよ。最近和食も慣れてきたみたいだし」
「へぇ、すごいですね」
「さすが、毎週土日に昼、夕食とたかってる人は違いますねぇ」
「誰!? 」
カン!カン!!カン!!!
「あ、危ないじゃなですか! 涼子さん!? 」
とりあえず馬鹿話のネタにするのも飽きて慶一郎の肉体とエプロンのミスマッチさから
実際の料理の腕の話に映ったとき、四人の後方
丁度、この屋上の入り口より声がかけられ、話の腰を折られた涼子は
相手の頭のすぐ上に向かって飛天流手裏剣術の応用で割り箸を投げる。
「りょ、涼子さん、酷いですよ・・・・・・・・」
「あ、ごめんねぇ〜、大作君、なんか聞き捨てならない言葉が聞こえて、反射的に投げちゃったのよ」
「・・・・・・・まったく、凶暴なんだから」
「????なんですって? 」
「いいえ(汗)なんでもありません。それより僕もご一緒させてもらっていいですか? 」
手に午後の紅茶のミルクティーとアメリカン・サンドイッチを持った大作は
それだけ言うと、返事を聞かずに涼子の左隣に座った。
「ちっ、ぶつけてやればよかったかしら・・・・・・」
最初から相手が誰かわかっていた涼子は、相手の変わり身の良さに舌打ちする。
ちなみに、涼子の右隣に座っていたレイはといえば
自己紹介の時や休み時間、度々自分たちにカメラを向けてきた大作にかなり警戒している。
そして、予想を裏切らず食事に手を着ける前にカメラを取り出そうとした大作
「・・・・・っ、」
「ちょっ・・・・!」
レイはとうとうかなり嫌悪を顔に出して睨み付け
見かねたシンジが大作に注意しようとしたその時
ドカッ!
「?????っ、痛ゥゥゥ・・・・・、て!? あわわわわわ!」
どこからともなく特殊警棒を取り出した涼子に頭を叩かれ、カメラを落としそうになる大作
前のめりになって慌てて受け止め、しっかりカメラを抱きしめ安堵の息をもらすと
涼子に向かって猛然と抗議する。
「・・・・・なにするんですか!?涼子さ・・・・・ん」
と、言ってももともと立場が弱いので尻窄みではあったが
「なにするってねぇ、あんた人に断りもなくカメラ向けるんじゃないわよ! 」
「そんなぁ〜、美人やおもしろい人たちをとるのが、僕のライフワークの一つなのに」
「みょうなことに生涯捧げてると、今度は本気で頭割るわよ」
「りょ、涼子ちゃん落ち着いて」
「そうですよ、だから静馬さんに凶暴女とか言われるんですよ」
「あの赤サルがなんと言おうと、しったこっちゃないわよ、それより大作君〜」
またしてよけいなことを言った大作に涼子が警棒片手に再びにじり寄る。
今度はしっかりと特殊警棒の先を延ばしており、目は殺るきに満ちていた。
「な、なんですか? 」
「今、なんて言ったかしらぁ〜? 」
「あ(汗)、碇君、随分と料理が上手なんですねぇ、南雲先生も相当なものですし、僕も話が合うと想いますよ。今度、本場の料理について教えてもらったらどうです」
「まぁ、考えときます」
「あ、この卵焼きなんかおいしそうですね、一ついただいても良いですか? 」
生命の危機に必死に話を逸らそうとした大作は、シンジには話を振った後
そのまま涼子の右隣に座っていたレイの弁当箱をのぞき込み、卵焼きを奪おうとする
「だめ」
「大作君! なに静馬みたいな恥知らずなことしてるのよ」
レイの弁当をガードしての拒絶と
涼子の振り下ろした特殊警棒の柄の一撃が大作の後頭部に決まるのはほぼ同時であった。
幼なじみの彼女が去るまで
小学校では、兄妹はいつも彼女の他数名と屋上で昼食をとっていた。
メンバーは幼稚園のころからのつきあいで
ジャージ姿の、本場が近いのになぜか妙に怪しい関西弁を使うスポーツ刈りの男の子
眼鏡をかけ、いつも体に比して大きすぎるカメラを持ちあるいている少年
おさげの、少しそばかすのある責任感のある女の子
そして、兄妹と幼なじみの赤い髪の少女が常連のメンバーだった。
このころの兄妹の弁当は、まだそれほど忙しくなかったっは親が作っており
二人の母の料理の腕はとても良かったので、弁当も一級品といって良く
よく食い意地のはったジャージの少年がつまみ食いしようとした。
その度に、幼なじみの赤の少女がその手と頭を叩き倒し
そして、お下げの少女が文句をいいつつ、うれしそうに少年にに弁当を分け
眼鏡の少年がその様子を写していた。
それはかつての輝くような思いでの中のほんの一幕
「さぁ、ちょっとまだ時間があるし、学校を案内するわ」
とりあえず四人は食事が終わった頃
休み時間はまだ半分以上あり、いくらお腹いっぱいとはいえ、昼寝と決め込む気にもならず
(涼子ひとり、あるいはひとみはつきあっている那智と、レイとシンジはお互いだけならそうしたかもしれないが)
まだろくに校内をしらない兄妹のために案内することにしたのだ。
ひとみは、妙なほど転校生(特にレイ)に優しい親友が、ほんとうに心配になっていた。
(涼子ちゃん、たとえ涼子ちゃんがアッチの趣味なひとでも、私たち友だちだよ)
勘違い?に基づく悲しい決意とともに、ひとみは張り切って先頭を歩く涼子の後ろ姿を見守っていた。
(でも、私をそんな目でいたりしたら、すぐ逃げるから・・・・・)
一方で、見捨てるタイミングも計っていたりしたが
そして、後には気絶したままの大作が一人
屋上の真ん中、そこだけ残った水たまりに突っ伏していた。
「ここが図書館、私はよくここで図書委員として仕事してるの」
「そ、ついたあだ名が『図書館の主』ほんと、好きよねぇ」
「そんなこと言うんだったら、『新撰組血風録』帰ってきても教えてあげないよ」
「そ、そんな、ちょっとした冗談よ(汗)ひとみ。だから許して♪」
特殊教室が並ぶ南棟をまわり、図書室に来ていた四人
ようやく生徒達が食事を終えたか終えないかのこの時間
図書室の机もほとんど開いており、生徒の陰は見えず
普段、静かにすつよう注意する側のひとみも珍しく涼子と一緒にじゃれ合っていた。
しかし、さすがこの新世紀にサムライを目指す少女である。
涼子のほんの趣味は、この他、影武者、宮本武蔵など、かなり偏っている。
「お、御剣に結城に碇兄妹? どうした? 」
しばらく涼子とひとみが案内を忘れてじゃれていると
本棚の向こうから本を抱きかかえた2メートル強の大男が出てきた。
「碇さんたちに校内を案内してるです、先生こそどうしたんです? 」
「俺か? 俺はちょっと猫の本を探してたんだが・・・・・」
「それですか?・・・でも何故」
ひとみが慶一郎が抱きかかえた本を指さして訪ねる。
単純に慶一郎と猫というのはいかにもミスマッチだ。
「いや、美雪ちゃんが飼っている三匹の猫に、鉄斎師匠が芸を仕込めないのかと聞いてな、それで調べものというわけだ」
「お師匠が!? 」
「涼子ちゃん、いくらほとんど人いないとはいえ、あんまり大きな声ださないで」
「あ、ごめんひとみ、でも本当ですか? 」
自分の剣の師の妙な行動に、涼子は思わず絶叫する。
美雪、鉄斎はともに慶一郎が下宿している鬼塚家の住人で、家は神社であり
そして、涼子の通う飛天流の剣術道場がある。
ちなみに、美雪の飼っている黒猫は三匹で
それぞれラウール・シェザール・バルタザールと結構な名前が付いている。
慶一郎はなにかと14歳の美雪に弱く
涼子は鉄斎という師匠にしっかり傾倒していた。
その尊敬する師匠が事もあろうに猫に芸を仕込もうとしているっ!?
良子の頭はこの現実に向き合うことを拒否しはじめていた。
「ああ、あの人も時夫も思いつきで妙なことを言い始めるところがあるからな」
慶一郎は頭を抱かえんばかりの涼子に気の毒そうに告げる。
「これもそんな所なんだと思うんだが・・・・ところで結城、なんかよい本はないか? 」
「先生が持っている以上のものは・・・・これといって」
「そうか、じゃぁ、これ借りてくるな」
「ええ・・・・・」
碇兄妹とひとみが、半ば呆れて見守る中
慶一郎はけっこうな数の本をもって、そのままカウンターに向かった。
「・・・・・うそよ、師匠が・・・そんな・・・・・でも・・・・」
そして、涼子はレイが声をかけるまで帰ってこなかった。
「じゃぁ、今日の帰りにひとみと寄るから、いいよね? 」
「ええ」
「是非、来てください。引っ越したばかりで対したことは出来ませんけど」
「いいのよ、そんなこと。それとお菓子とか持って行っていいわよね」
「ええ」
「じゃぁ、ひとみも六時限目が終わったら行きましょう」
「ええ、じゃぁまたとで」
「ーーーーーーーーまた・・・・・」
「はい、また」
最後にレイが勇気を出して告げると
ひとみもやわらかに笑い、そしてレイもつられて花開くように笑い
そんなレイとひとみの様子に涼子は楽しげで
シンジは蒼銀の前髪を弄びながら、相変わらず薄い笑みを浮かべながら
レイが初日でここまで心を開ける相手ができたことに喜んでいた。
そして、ひとみは自分のクラス
ジーパン姿の似合うモンキーパンチ風の教師
小関遼二が担任の二年B組に戻っていった。
結局、あの後しばらく学内を散策して
時間ぎりぎりになって教室に戻ったのだ。
しっかり遊びに行く約束をしているのが、普段大半の生徒の前ではクールに決めている涼子らしくなく
「涼子ちゃん・・・・・・・・・信じていいのよね・・・・・・・・・・・・・」
ひとみはやはり不安だった。
アッチの意味で
教室にはいると、すでに生徒は自分たち以外は全員戻っており
入ってきた涼子とシンジとレイを見たものは、かすかに不満そうな顔をした後
そのまま雑談に戻っていった。
「随分と出歩いてたんですね、涼子さん」
最前列の方から、なにやら恨みがましい様子でこちらを見ているのは
「あら、大作君、ジャージ姿でどうしたの?」
何時の間に復活した神矢大作が何故かジャージ姿で自分の一番前の列の席に座っていた。
彼は首だけ向けて涼子に退治する。
「いえ、“何故か”屋上の水たまりに突っ伏してねていましてね」
「あら、それは災難だったわねぇ」
「えぇ本当に。それで服がびっしょり濡れてしまったので、着替えているわけですよ」
「そうなんだぁ〜、大変だったのねぇ」
大作はことの元凶たる涼子に嫌みをたっぷり含めて説明したが
涼子はどこ吹く風で意地悪そうに見ながら、さらに余裕の笑みまで浮かべる。
しばらく見合っていたが
やがて大作の方が肩をすくめて顔を黒板に戻した。
ほぼ同時に、六時限目の担当教師が入ってくる。
「まったく、静馬さんがいないと、とばっちりが僕だけに来るんだから」
大作は理不尽な仕打ちにただ嘆いていた。
「おもしろそうな学校だね」
「ええ、ホントウ」
「結構、楽しい学園生活になるかもしれないね・・・・」
「うん」
授業中、レイとシンジはそう言い合った。
二人の脳裏に、なにかとトラブルが耐えないがおもしろオカシイこれから生活が浮かんで消えていった。
あとがき
櫻です。
とりあえず、二話まで出しました。
この話、一話とちがって実家の方で書いたので少々使い慣れないパソコンが面倒でしたが
こうやってとりあえず形になりました。
みなさん、どうでしたでしょうか?
とりあえず、後何話かはこうやってキャラクターを紹介しながら話を進めていくと思います。
なんとなくリアルバウトのキャラ、御剣涼子がめだっていますが
これからも彼女にはいろいろ活躍してもらうつもりです。
シンジとレイがあまり目立っていませんが、とりあえずだ転校初日なので大人しくしています。
この兄妹の本性をかけるときが楽しみです。
アスカは・・・・まだ出てくるまでにしばらくあります。
長い目で見てもらえると助かります。
とりあえず、読んでみてください。
それでは、また次回で