------------------ そして、未来へ... Part3 --------------------

 

 

しかし、運命の時は非情にやってくる。 それまで強烈な輝きを発していた

真一の魂が。 急速に力を失っていく。

 

「?! お父さん?!」

 

「真一さん?!」

 

はっと顔を上げるレイ。 駆け寄るシンジ。 そのシンジにレイの体を押し

やり。 寂しげな笑顔を見せる真一。

 

「...ここまでか...タイムリミットだ」

 

「どういうこと?」

 

「俺と同化したアダムの力が尽きる。 アダムに生かされてきた俺の生命も、

 ここまでという事さ...」

 

「そんな! 真一さん!」

 

何とか真一の生命を繋ぎとめようと、力をふるう二人。 でも。 力は、働

かない。

 

「無駄だよ。 俺は、旧き存在だ。 君達の力は、届かない。 ゲンドウと

 同じだよ。 それに、こうなる事は初めから分かっていたんだ。 俺が、

 アダムとしての力をふるえるのは...この生命を維持する以上の力を発生

 できるのは...ただ1回、ほんのわずかな時間でしかなかったんだ。 だ

 から、今まで何もできなかった...するわけにはいかなかったんだよ。

 今日、この時に力を使うために」

 

「お父さん...やっと、会えたのに...」

 

「ごめんよ、レイ。 でも...こうするしかなかったんだ。 選択の余地は

 なかった。 ...でも、後悔はしていないよ。 君達は、神ではなく、人

 の道を選んでくれた。 サードインパクトも...こうしてうまく切り抜け

 た。 そして何より、最後の時を君達と過ごす事ができた。 例え血は

 繋がっていなくても...レイは俺を父と呼んでくれた。 本来なら...ア

 ダムの介入が無ければ、セカンドインパクトの時に死んでいた生命だ。

 こうして...最後を君達に見送ってもらえるんだ...俺は、幸せものさ。

 でき過ぎなくらいに、ね...。 それに、レイにはもうシンジ君がいる。

 俺がいなくなっても...見守っていられなくても...もう大丈夫だね?」

 

「お父さん...」

 

「真一さん...」

 

真一が、崩れていく。 少しずつ。 砂でできた人形の様に。 崩れた粒は、

光となって消えていく...。

 

「なぁ、レイ...もしも生まれ変わりというものがあるなら、今度は本当の親

 子として生まれてきたいな...」

 

涙の止まらないレイ。 喪失感に、言葉が出ない。 ただ、何度も頷くだけ。

 

「さぁ、二人とも、辛気臭いのは無しだ。 笑って、見送ってくれないか?」

 

「真一さん...ありがとう...」

 

「お父さん...今度生まれてくる時は、きっとお父さんの本当の娘になる。

 だから、さよならは言わない...」

 

「真一さん...今度生まれ変わっても、きっとまたレイをもらいに行きます

 からね。 覚悟、しといてくださいよ」

 

真一は消えた。 ただ、最後の想いだけが、二人に届く。 力強い、想いが。

また会おう、と。 二人は、真一の笑顔を見た気がした...。 泣き笑いの

顔の二人。 シンジは、そっとレイの肩を抱いた。 これからは、自分がレ

イを護るのだと、想いを込めて。

 

 

弐号機が、エントリープラグを射出する。 水で勢いを殺されたプラグは、

天上に激突する事なく陸に軟着陸する。 プラグを飛び出すアスカ。 憔悴

しきった体に鞭打って。

 

「ママ!」

 

涙が止まらない。 アスカの目の前で、光となって消えてゆく弐号機。 ヒ

トの作りし物を残して。 装甲が、骨格が、そして光を失ったコアが、沈ん

でいく...。

 

「ママ...気付かなくてごめんなさい...今まで、ありがとう...」

 

補完計画の中で...アスカは、確かに母の想いを受け取った。 弐号機のコア

に刻み込まれた、まだ正気だった母の心のかけら。 死した後サルベージさ

れた、母の魂。 ただ、アスカの事を案ずる、深い想いを...。

 

 

同時に。 初号機もまた、光へと還っていく。 ただ1台の、本物のEva。

生きた魂を宿したモノ。 そのコアが、光を失っていく...。

 

「母さん...ありがとう...」

 

溢れる涙を拭おうともせず。 シンジは、やっと、それだけを口に出した。

シンジは、もう知っていた。 自分のために、幾度も有り得ない奇跡を起こ

して見せた母。 初めて完成した初号機を見た日。 落ちてくる照明から自

分をかばった母。 初戦闘で意識を失った自分を護るため、自ら戦った母。

ディラックの海で息絶えようとした自分を、虚数空間をも引き裂いて救い出

した母。 ダミーシステムに支配されながらも、それを振り切り、爆発する

自分の心に応えた母。 自分にこれ以上辛い思いをさせまいと、新たな力を

得るため、あえて使徒を喰らった母。 ...そして。 極度のシンクロでE

vaと...母と溶け合った自分を、本当は二度と手放したくなかったのに、

あえて自分の望みに...還りたいという心に応えて、現実へと帰してくれた

母。 痛い程に、伝わった想い。 言いたい事はいっぱいあるのに、言葉に

ならない。

 

でも、泣いてばかりはいられない。 シンジたちには、未来がある。 全て

は、始まったばかりだから。 神話は終わり、新たな時代が始まる。 新し

いヒトの、新しい時代が...。


                          <後書きへ続く>


 
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