新世紀エヴァンゾイド

第壱拾話Bパート
「 Uplift 」



作者.アラン・スミシー



ゴォォォォォォォォォォォォォ・・・

 翼長が軽く300mを越えるくらい大きな三角形の輸送機が飛んでいる。
 その翼が目指すは浅間山。



 ネルフ本部発令所で冬月がぼんやりと腰掛けていた。発令所はユイもキョウコも浅間山に行っているためとても静かだった。音と言えば同じく居残りの青葉と、名無しのオペレーター達がわずかに作業する音が聞こえてくるのみ。本部待機のチルドレンも、せめてもの憂さ晴らしと、遊びほうけておりここには居ない。
 「暇だな・・・」
 いつもはユイ達にこき使われまくって忙しいなんて物じゃないが、今日の彼は暇だった。だが、すっかり仕事の虫となった、彼にはかえってたまの休息も苦痛なようだ。ぼんやり座ることに飽きたのか、きょろきょろ周囲を見回すとちょうど加持が本部に入ってきたのが目に入った。冬月の頬がニヤリと歪む。
 居残りの加持は実戦部隊の指導等をしないといけないため、暇と言うことはないのだが、今は休憩でもしているのか体の力を抜いて暇そうだった。
 「休憩かね。どうかな加持君、一局?(鴨がネギを背負ってきおったか)」
 冬月が手に持った将棋盤を見て、ニヤリと笑う加持。
 「いいですよ。でもせっかくだから何か賭けませんか?(何を考えているかわかりますよ、副司令。しかし、俺も中学の頃シミュレーションゲームのリョウちゃんと呼ばれた男。簡単には負けませんよ)」
 「自信があるようだね?青葉君は弱くていつも退屈していたが、久しぶりに楽しませてくれそうだ。
 いいだろう。ネルフ食堂の食券でどうかね?」
 あまりのせこさにちょっと加持は引きそうになるが、そこは男。受けて立つことにしたようだ。
 「しょ、食券ですか・・・。わかりました。それで良いです。俺が負けたら昼飯おごりますよ」
 「よし、勝負といこう」

 20分後

 「そう来ますか・・・。ではここにこう行くとどうします?」
 「なかなかやるな。むぅ、これは・・・
 時に君は葛城一尉とつきあっているそうだね?」
 「そ、それがこの勝負となんの関係が!?」
 「いや、別に・・・おっと、王手」
 動揺した加持の隙を付いて、王手をかける冬月。そのニヤリ笑いが彼の元上司の笑いに酷似しているのは気のせいだろうか?
 「ちょっと、副司令、加持さん・・・」
 さすがに(一応)勤務時間中だというのに遊んでいる2人に青葉が声をかける。だがその声が終わる前に彼らの上方からヒステリックな怒鳴り声がとんできた。
 「冬月先生!それに加持一尉!まだ勤務時間中で昼休みではないんですよ!!」
 いつにもまして化粧が濃い信濃ナオコ博士(旧姓:赤木)の声だった。
 「やれやれ・・・くじに負けて居残り食らったからといって、八つ当たりせんでも良かろうに」
 「聞こえますよ。どっちか言うなら旦那さんが仕事でアメリカ支部に戻ったからじゃないですか?
 旦那と言えば、副司令は独り身なんですよね?」
 「そ、それがどうかしたのかね?・・・ああっ、そんな所に!」
 「これで金成りと。その飛車もらいましたよ」
 浅間山と違って平和なネルフ本部だった。





 『ゾイド各機到着しました』
 「わかったわ、レーザー撃ち込み急いで」
 『了解』

 マヤの報告に、先に現場に到着していたミサトが返事をする。
 使徒捕獲の準備は着々と進みつつあった。


 捕獲作戦の準備が開始され浅間山火口に中心に運ばれるD型装備のアクアドン。本来はミイラになった蛙のようにガリガリにやせた蛙といった姿をしているのだが、ARMSユニットをつけ、更にその上からD型装備を装着しているため、だるまガエルのようにまるまるとした姿を周囲にさらしている。要するに直径20mほどの手毬から、その直径に比べれば小さい手足がはえているといった状態である。結構、いやかなりシュールかも知れない。

 『レーダー作業終了』
 『進路確保』
 『D型装備異常なし』
 『アクアドン、発進位置』

 そうこうするうちに、火口上に用意されたクレーンのケーブルに結びつけられるアクアドン。それと共に最終チェックが行われる。そして、最終チェックもクリアーされたことがミサトに報告される。ミサトは通話モニターを開き、カヲルの様子を見ることにした。
 「了解。・・・カヲル準備はどう?」
 「シンジ君、シンジ君、シンジ君、シンジ君・・・」
 ミサトがアクアドン内で待機するカヲルに向かってたずねるが、カヲルの返事は不気味にシンジの名前を連呼するのみ。その呟きを聞いたミサトの顔が凄まじいばかりに引きつる。
 (こ、このガキャ〜〜!!私を無視するとはいい度胸ねぇ!問答無用で突き落としてケーブル切り離すわよ!!)
 本気でそう命令を出したくなるミサト。
 だがそう言うわけにもいかないので、内心の葛藤を完全に隠しながら、シンジにお願いする。
 「シンジ君、お願い・・・」
 「あ、はい。・・・カヲル君、準備できた?」
 「シンジ君!?・・・もちろんだよ!君の声を聞いたおかげで僕の元気は400%増しさ!待っててくれ、君のために必ず使徒を捕まえてみせるよ!!
 葛城一尉、いつでもいいですよ♪」
 「(地獄に向けて・・・)発進!」
 怒りを押し込めるかのように足を踏みしめるミサトの号令と共に、火口上に据え付けられたクレーンから、徐々にアクアドンが降ろされていく。


 「ふふふ・・・熱そうだねぇ。でも僕のシンジ君への想いとどっちが熱いかな?愚問だったね。なぜって僕に決まってるからさ!」
 煮えたぎるマグマをを楽しそうに見つめながら、汗ひとつかかずにカヲルが1人ボケとつっこみ。
 それを聞いたミサトの額に大粒の汗が流れた。それだけ見てるとどっちがマグマに潜るのかわからない。
 『アクアドン、溶岩内に入ります』
 「見てくれシンジ君!」
 「なに?」
 とある理由でクレーンの根本に待機していたシンジのゴジュラス(通常装備)がのそのそと火口をのぞき込む。
 「ジャイアント・ストロング・エントリー!」
 「どこが?」
  口ではそう言っているが、土左衛門のように四方に手足を広げてお腹からマグマに進入するアクアドン。シンジのつっこみを聞くまでもなく、どっから見てもジャイ(略)エントリーには見えない。
 「それは言わない約束だよ、シンジくーん!!」
 沈んでいくアクアドンを見送りながら、シンジは深い、深〜いため息をついた。



 「や〜っと行ったわね」
 アクアドンの姿がマグマの中に完全に隠れたとき、ミサトが呟く。もうとにかく疲れた表情になっていた。
 「ぼやかない、ぼやかない。とにかく今は彼の活躍に期待しましょう」
 ミサトをまあまあとリツコがなだめていると、急にアスカから通信が入ってきた。スクリーンに映るその表情は、狐につままれたかの様に不思議そうな顔をしている。
 「ねえ〜ミサト〜。何で私達、こんなのを握ってなきゃいけないの?」
 彼女の言葉どおり、クレーンの根本をゴジュラス、アイアンコング、アロザウラー、ディバイソン、マンモスがしっかりと保持していた。
 「万一のためによ」
 「何でこのクレーンはこんな形をしてるのよ?」
 彼女の言葉どおり、それはクレーンのアームと言うより、とある目的に使う道具にそっくりだった。
 「その方が気分でるっしょ?」
 「何で、リールが付いてるのよ?」
 彼女の(略)、取っ手が付いたリールが取り付けられていた。リールにはアクアドンの命綱が繋がっている。
 「ケーブルを巻き上げるために決まってるでしょ♪」
 「何で、こんな所に『垂直式使徒キャッチャー』って書いてあるのよ?」
 彼女(略)・・・と書いてあった。
 「それはクレーンであると同時に、垂直式使徒キャッチャーだからよん♪」
 「それって結局どういう事?まさか、カヲルを餌に・・・」
 さすがに彼女も気づいた。
 「その通りよん♪」
 ミサトは実に楽しそうに答えた。場所が場所なら一本エビチュを空けかねないくらいに。
 アスカの顔も歪んだ。心底嬉しそうに。
 「大丈夫なんですか?」
 さすがにシンジが心配してたずねてきた。それに少しだけムッとした顔をするアスカとマナとミサト。ミサト達を呆れた目で見ながらもリツコが答える。やっぱりリツコさんはお姉さんて感じがする。
 「大丈夫よ。材質はオリハルコン合金の一種、カーボニウム製よ!
 通常のオリハルコンに比べて硬度では劣るけど、柔軟性では遙かに上を行くわ。おかげで急に獲物が暴れてもしなるだけで決して折れない、曲がらない、逃がさない!と三拍子揃ってるわ!ネルフ技術部が開発に成功した夢の新素材よ!
 人間サイズのものが一本45000円で(株)ネルフより大好評発売中!今ならセットでフィッシンググローブと帽子が付いて、お得になっております!」
 途中から商品説明になっていた(実は宣伝係兼任のリツコさん)が、とりあえずシンジは納得した。そうしないと後が怖いと思ったからだが。
 「そ、そうなんですか・・・」
 「おかげさまで好評を博しておりま〜す♪」
 「ま、マナ?」
 シンジの呟きに何故か営業スマイルでマナが答えた。


 上でとんでもないことが話されていることも知らず、アクアドンはマグマの中をどんどん沈んでいく。
 「なんにも見えないね・・・。CTモニターに切り替え」
 モニターが切り替わり、プラグ内部の映像が変化する。
 「それでも透明度は120だね・・・」
 モニターの映像が切り替わったが、相変わらず赤と黒の絵の具をぶちまけたような光景しか見えない。
 その映像が下から上にどんどん流れていくのを見ながら、膨れ上がっただるまスーツを着たカヲルが楽しそうに鼻歌を歌っている。
 「ふんふんふんふん、ふんふんふんふん、ふんふんふんふんふ〜ふふん♪
 ・・・それにしても暑いね。汗が出て気持ち悪いよ。これがシンジ君とかいた汗なら最高なのにね」
 「寝言は寝て言いなさい!カヲル、そろそろ目標予測地点よ。何か見える?」
 「モニターに反応なし。何も居ないようですよ」
 その報告にリツコが答える。まるで大したこと無いとでも言うように。
 「予想より対流速度が速かったようね」
 「再計算始めます」
 「そう・・・日向君、再度沈降よろしく」
 ミサトはその報告を真面目な顔をして聞くが、すぐさま沈降命令を出す。その命令を聞いた日向が慌てた声を出してミサトに反対する。
 「葛城さん!今度は人が乗ってるんですよ!」
 「日向二尉の言うとおりだよ!僕を殺す気かい!?」
 すでに限界深度を突破し、外殻がきしむ音を聞いていたカヲルが慌てた声を出した。やっぱり笑い顔だが、暑さとは違う汗をだらだら流しLCLと混ぜている。その様子を見て、ミサトは小気味よさそうに笑った。
 「・・・シンジ君に良いところを見せるんじゃなかったの?」
 「そうだった!シンジ君に良いところを見せてそのハートをがっちり掴む予定だったんだ。動転してすっかり忘れていたよ。ありがとう葛城一尉、僕に思い出させてくれぇて♪」
 「戯言はいいから早く潜りなさい」
 「やれやれせっかく誉めたというのに・・・。どうしてこんな短気なリリンが僕の上司なのかわからないよ」
 ミサトの小皺を更に増やす言葉をカヲルが言ったときだった。
 突然モニターに黒い影が映ったかと思うと、アクアドンめがけてつっこんできた。
 「なんなんだい、これはっ!?」
 日向が慌ててそれを分析する。

 「これは・・・パターン青!使徒です!!」

 「なんですって!?」
 「予想より羽化が早かったわ。もう完全体に成長していたのよ!」
 「作戦変更!使徒殲滅を最優先、カヲル!!」
 「わかってるよ。こんな気持ち悪い奴をシンジ君の目にさらすわけにはいかないからね」
 ミサトのせっぱ詰まった声に返事をして、カヲルが滅多に見られない真面目な表情をして使徒に向き直った。
 「プログクロー装備!
 ・・・でも、これは厳しいね」
 カヲルの言葉と共に、アクアドンの腕からカギ爪が飛び出る。
 高温のマグマ内では魚雷や大砲のような飛び道具は使用できない。それ故カヲルは絶対不利な接近戦を行うことを余儀なくされた。
 それより何より大きさが違いすぎるのだが。



キュゥオオオオオオ!!!

 そんな叫び声をあげながら、深海生物のような涙滴型の胴体から海星の触手状の腕を生やした使徒、サンダルフォンがアクアドンめがけてつっこんできた。マグマ内だというのに、その動きは速く、アクアドンがのたのたと向きを変えた時にはすでにアクアドンの目と鼻の先に迫っていた。
 「くっ!速い!」

あんぐり

 「えっ!?」

パクッ!!

 そのまま体に突き立てられる爪を意図もたやすくはじき返しアクアドンを呑み込む。


 「冗談だろぉぉぉぉ!!」
 「まさかこの状況下で口を開けた!?」
 「信じられない構造ですね」
 「よっしゃ!思った通りだわ!霧島さん、任せたわよ!」

 カヲルやリツコが驚きの声をあげる中、ミサトだけは嬉しそうな声をあげるとマナに連絡を入れる。


 「わかりました葛城さん!作戦開始します!」
 ミサトからの命令を受け取ったマナの目が妖しげな光を浮かべてキュピーンと輝く。通信モニター越しにそれを見たシンジ達の背中に言いしれぬ不安がよぎる。

 「惣流二尉!直ちにケーブルリバース!!!わかってるでしょうけど、モーター厳禁!!機械に頼っていたら大物を逃がしてしまうわ!!!魂の叫びを指先に込めて慌てず騒がず、慎重にそこはかとなく大胆に巻き上げるのよ!!!!碇軍曹はロッドの保持!合図と同時に一気にアップリフト!!!鈴原、洞木両名は跳ね上がらないようにロッド末端をしっかり支えて!!」
 突然いつもの雰囲気が雲散霧消し、まるで、いやまるっきり勝負師のような口調でちゃきちゃき指示を出すマナ。そのあまりの変わり様に思わず皆一斉に口を開く。

 「はあ〜?あんた何言ってんのよ?」
 「マナいったいどうしちゃったのさ!?」
 「き、霧島さん?」
 「な、なんなんや霧島!?いきなりわけわからんこと・・・」
 「うるさい!口答えするなぁ二等兵っ!!上官の命令には絶対服従するのよっ!!!!」
 「「「「は、はいぃぃぃ!!!」」」」
 完全に目を座らせて怒鳴り返すマナに全員が下手なことを言ったら殺されると直感する。それでも律儀に言われたことを守りながら、シンジがおずおずとマナに話しかける。
 「あ、あの、マナ?なんでそんな・・・」
 「上官に口答え!?貴君は言われたとおりにロッドを保持していなさい!!」
 「は、はい!!すいません、ごめんなさい、もう口答えしません、もう言いません、だから許して下さい!!」
 だが、まるでケンスケが乗り移ったかのように凄まじい剣幕で言い返すマナに完全に腰砕けにされる。いくら普段見れない一面が見れたと言ってもこれじゃ嬉しくなかろう。そのままいつもの【逃げちゃダメだ大明神】への念仏を唱え始めるが、アスカに止められる。彼女もまたマナの変わりように目を見開いていたが、それでもシンジよりは立ち直りというかコツを掴むのが速かった。
 「馬鹿っ!あんた黙ってなさいよ。下手なこと言ったらマナに何されるか分かんないわよ!あいつネルフに来る前は戦自に居たって話だから・・・」
 「惣流二尉!言いたいことがあるならハッキリ言いなさい!それよりケーブルゆるめて!!あまり一気に巻きすぎると釣り糸が切れちゃうわよ!!あなたそんな基本も知らないの!?」
 口答えするなと言ったり、言いたいことがあるなら言えと、前後と矛盾したことを言うマナにアスカの額にぷつぷつと血管が浮き上がっていく。そのままアロザウラーを握りつぶしたいという欲求に駆られるが、深呼吸しながらそれを何とか押さえ込む。使徒が羽化していた場合の作戦指揮官はマナに決められていたから、今のマナは彼女の上官。逆らうわけにはいかないのだ。ま、だからといってはらわたが煮えくり返るような怒りが紛れるわけないが。
 「(こ、このアマぁ・・・。黙って聞いていればいいたい放題好き勝手に・・・。後で絶対殺してやるぅ!!)わかったわよ!」
 「上官への返事は『了解しました』でしょ!!あなたそんなことも知らないの!?使えないわね!!」
 「(殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやるぅ〜〜〜!!!!!
 後で、絶対殺して・・・それよりシンジと2人で教会に立つとき(ポッ)、最前列の席に招待してやるわ。ふぅっふっふっふっふ。レイと一緒に悔しがりなさい)・・・了解しました♪」
 「・・・・・・・(はっ、しまった〜ついムキになっちゃったぁ。シンジ、呆れてないかな?そ、それより、アスカさんなんで笑ってるの〜〜!?)」
 途中で物騒なことから薔薇色の未来(彼女主観)を想像し直して、にこやかに返事をするアスカ。その何とも言えない笑顔にマナも一瞬正気に返って押し黙る。
 「あれがアスカとマナの本当の姿・・・」
 シンジが夢から覚めたようにぽつりと呟いた。


 「ちょっとミサト・・・霧島さん一体どうしちゃったのよ?」
 リツコは呆然としながらシンジ達に命令をとばすマナを見ていたが、ふと隣でこそこそしているミサトを目に留めると、ゆぅっくりとその肩を掴んだ。その顔は笑っているが目は笑っていない。その美しくも歯茎から血がほとばしりそうなくらい恐ろしい笑顔にミサトは観念した。それでもごまかそうとして歯切れが悪い。
 「んん?あ〜ちょっちね・・・」
 「ちょっち何を吹き込んだの?」
 リツコの質問を受けて周りを見渡すが、日向でさえも目を合わせようとしない。ミサトに助けはありませんでした。
 「霧島さんがさぁ、これ以上アスカ達に負けたくないってこの前悩んでたから、ちょっち催眠術の実験台になってもらったのよ。
 とりあえず、昔の強かった自分を取り戻したいって言うから・・・。サンダース軍曹の意識を、ちょっちね。
 いや、まさか本当に効果があるなんて思わなくってさ〜。それに何か害があるわけでもないし良いじゃない。どうせこの作戦の間だけだし」
 「あなたって人は・・・どうせ加持君の浮気を治そうとか考えてたんでしょう?」
 「あはははははは、まさかそんなわけないじゃない。
 ・・・まあ、それもあるけどリツコも興味ない?男らしいシンジ君とか、お淑やかで泣き虫なアスカ、けたたましいレイとか・・・」
 「無いわよ。それより、コールが入ってるわ。司令からよ(もう今の会話をかぎつけるとは・・・。やはり司令は甘くないわね)」
 まるで感情のこもっていない誤魔化し笑いをするミサトに、心底から呆れ返った声でリツコは受話器を渡した。笑いが凍り付いたミサトには、そのクリーム色の受話器が何故か骨の色に見えたという。
 「はい・・もしもし。一応使徒殲滅は順調・・・」
 それでも勇気を振り絞って後方(旅館)に待機しているユイに報告するミサト。だが返ってきた答えはある意味ミサトの期待をまったく裏切らない、冷たい南極の方がましな声だった。
 『・・・減棒3ヶ月+禁酒1ヶ月。子供達が1人でも怪我したら減棒6ヶ月+禁酒3ヶ月だから。これ以上つまらないコトしたら、左遷じゃすまないわよ』
 「ええええっ!?」
 「無様ね」





 サンダルフォンはアクアドンを噛みつぶそうとするが、D型装備に包まれたアクアドンは簡単には潰れない。それどころか、口内でカギ爪を突き立て、しっかりとしがみつく。これで吐き出そうとしても吐き出せなくなった。なんだかんだ言っても、さすがはカヲルだ。しっかり自分お仕事を理解している。
 カヲルの活躍で、口が閉じなくなったサンダルフォンが困惑したようにその身をよじる。
 その振動が上方で竿を持つシンジ達にも伝わってきた。クレーンを地面に止めていたアンカーがはじけ飛ぶ。
 「なかなかやるわね!シンジもっと竿をたてて!あまり下に向けていると切れちゃわ!」
 「わかったよ!」

ガクンッ!!!

 シンジが竿をたてると同時にサンダルフォンの口が凄まじい力で引き上げられる。慌てて振りほどこうとするが、前述の通りアクアドンは離れない。それどころかますますその爪が食い込んでいく。
 それならばとケーブルを引きちぎろうとするが、これまた傷一つ付けることはできない。ケーブルの途中に描かれた猫マークが使徒には見えただろうか・・・。

キュオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!

 困惑したサンダルフォンがマグマの奥深くに潜ろうとするとそれを上回る力で引っ張り返される。
 使徒と人の壮絶な力比べだ。

 「ほら、もっとアスカしっかりリールを巻いて!!鈴原君、浮き上がってるわよ!気合い入れて踏ん張りなさい!!」
 「わーっとるわい!イインチョ大丈夫か!?」
 「鈴原・・・(嬉しい。私を心配してくれるの?・・・いやんいやん!)」
 「マナー!あんたも見てないで手伝いなさいよ!!」

 マナ達がリールを巻き、竿をたてて頭を上に向かせる。

キュオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

 サンダルフォンは怒りの咆吼をあげた。

 チルドレンと使徒の激闘は続く。
 サンダルフォンは突然浮上し、踏ん張っていたディバイソンとマンモスにしりもちをつかせる。
 はたまた潜行し、竿ごとマグマへ引きずり込もうとする。そのため、ゴジュラスが火口に転がり落ちそうになった。
 一方でマナ達も時としてケーブルを戻し、さんざん暴れさせながらじっくりと上に引き上げていく。ケーブルが切れそうなくらいに張りつめ、竿が折れそうなくらいに軋む。
 次の瞬間リールをゆるめてサンダルフォンに無駄な力を使わせ、体勢を崩す。そして更に上方へと引きずり出していく。

 そしてその戦いは・・・

 「今よシンジ!!」
 「ええええええぃやぁ!!!!」

 シンジがかけ声と共に、一本釣りの要領で竿を跳ね上げられた。
 それと共に一気に空中にその姿をさらけ出すサンダルフォン。見事な放物線を描いた後、凄まじい勢いで大地と激しい接吻をする。
 土煙の中なんとか体を掘り起こそうとしているサンダルフォンを見て、ミサトがすぐさま指示を出す。
 「みんな、陸に出ればあいつはまな板の上の鯛同然よ!距離を取って一斉射撃でしとめなさい!!」
 「了解!直ちに攻撃を開始します!!
 鈴原の攻撃をメインに、アスカと霧島さんがミサイル攻撃!碇君と私はATフィールドの中和よ!!」
 「わかったわ!」
 「まかせて!」
 「了解や!」
 「了解・・・」
 ヒカリの号令と共にチルドレンは行動を開始した。

 「うおおおお!いっくで〜〜〜!!!!」

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ!!!!!!!!!!!!!!

 ディバイソンの背中の瘤に装備された大砲が、使徒の体に雨霰と打ち込まれる。1門でもその威力はビルの一つや二つ簡単に破壊する威力を持つが、ディバイソンにはそれが全部で17門装備されているのだ。たちまちのうちに使徒を中心とした空間に爆炎と爆音が広がる。

 「マナ、外したら承知しないわよ!!」
 「わかってるわよ!」
 アスカと正気に返ったマナが一斉に煙の中心にいるはずの使徒めがけてミサイルを撃ち込む。
 全弾正確に煙の中へと吸い込まれ、これまた大爆発を起こし遠くはなれた梢を揺らす。
 熱と衝撃の地獄が浅間山火口に誕生した。
 「まだまだーーー!!まだ半分も撃っちゃいないわよーーー!!!!」
 誇らしげな顔をして攻撃を続けるアスカとトウジに向かって、いきなりミサトが怒鳴り声をあげた。

 「あんた達カヲルが体内にいること忘れてんの!?」

 その声にハッとした顔をして攻撃を止める一同。攻撃をしていなかったシンジも含めて全員の背中に嫌な汗が流れ落ちる。
 「そういえば・・・な、渚君はどうなったの?」
 その凄まじい攻撃に半ば呆然としながらヒカリが呟いた。リーダーである彼女にすら分からないのだ。聞かれたシンジにも分かるはずがない。答える者はおらず、ただ煙が消えるのを待つのみだった。全員の背中に冷たい汗がしたたり落ちる。
 「カヲル・・・い、生きとるか〜?」
 煙がだいぶ薄れた頃になってようやくおずおずとトウジのディバイソンが近づき始めた。
 一歩一歩ゆっくりと近づいていると、突然全員の通信モニターにカヲルのせっぱ詰まった顔が映し出された。
 「近寄っちゃダメだ!!今の攻撃は使徒の体に当たってもいない!!」
 その警告の叫びが終わる前に煙の中心から一筋の光が放射される。
 「えっ・・・今の?」

ズン!ズシンッ!!

 光が消えた後、ゴジュラスの体が袈裟懸けに切り裂かれていた。

 「シンジ、大丈夫!?ちょっと返事しなさいよ!!」
 真っ二つにされ地面に崩れ落ちたゴジュラスに、アスカが必死に呼びかけるがシンジはまるっきり応答をしない。
 危険に気づいたゾイド達が慌てて左右に散る中、煙の中からゆっくりとサンダルフォンがその姿を現した。
 全身から蒸気を噴きだし、4本の触手を使って器用に歩く。口からは今だアクアドンのケーブルを覗かせているが、先の攻撃で引きちぎられたのか、ほとんど残っていない。更にマグマの中にいたときとは色が変わっており、禍々しさが増している。
 何より特筆すべき事はその体に触れた地面が凄まじい蒸気を噴き上げて融解していることだろう。
 その威容に一同声も出ない。


 「高温高圧の極限状態にどうやって耐えているのかと思ったけど・・。まさか自分自身が高温だからだとは・・・」
 「どうすんのよ!?」
 「あの使徒の体表面温度は太陽のそれに匹敵するわ。ミサイルを撃っても途中で爆発してしまうし、ディバイソンの突撃砲もあの強固な体と熱量子のシールドの前では効果がないわ。打つ手なしよ!」
 「そんな!
 ・・・アスカ!ゴジュラスを抱えて後方退避!鈴原君と洞木さんはその支援をお願い。霧島さんは・・・」
 ミサトがそこまで言いかけたとき、使徒のキノコのようにとびでた眼が怪しく輝き始めた。
 「なに?」
 リツコが怪訝に見守る中。突然サンダルフォンガラスをかきむしるより凄まじい鳴き声をあげる。

ピィァァァァァーーーーーー!!!!!

 「きゃああああ!?」
 鳴き声と共に眼から一筋の光線が放射され、アロザウラーめがけて突き進んでいく。悲鳴をあげながらもかろうじてかわすが、それた光線は背後の山肌を瞬時に蒸発させ、局所的な蒸気爆発を起こさせる。ミサト達の目が驚愕に見開かれた。
 「熱線の焦点温度、50万を超えています!」
 その測定データを呼んだマヤが悲鳴をあげる。
 「分子共鳴兵器!?」
 「鉄壁の防御、事実上防ぐことができない長距離兵器・・・。いったいどうすれば?」
 リツコが爪を噛んでモニターの使徒を睨み付ける。

 アスカが何とか距離を取ろうとゴジュラスを抱えてひた走っていた。その目は悔しそうに使徒に向けられ、怒りとシンジを心配する感情とが複雑に入り混じっていた。感情の爆発で泣き出す寸前のアスカにゴジュラスが、いやシンジが突然回線を開いて話しかけてきたのはその時だった。
 「アスカ、あれを・・・」
 「えっ?シンジ気が付いたの?良かった・・・」
 「いいから早く・・・このままじゃみんなが危ない・・・」
 ホッとした顔をするアスカに向かってシンジは厳しく言葉を続けた。自分の苦痛は耐え難いが、それより早く使徒を倒さないとみんなが危ないのだ。シンジは自分の苦痛を飲み込むように堪えた。そして彼の言うアレを目で指し示す。
 アスカは嫌々するように首を振ったが、シンジに睨まれると、力無く頷き返した。
 「・・・わかったわ!」
 アイアンコングは、ゴジュラスを優しく地面に横たえるとサンダルフォンめがけて走り始めた。途中、断裂した冷却パイプを掴み、少しでもスピードを速くするためにブースター全開にする。
 突然使徒めがけて特攻するアスカに、指揮所から監視していたミサト達も驚きの声をあげる。
 「アスカ、何をするつもりなの!?」
 「良いから、合図したら冷却液を全部3番にまわして!うおりゃーーーーー!!!!

どかぁぁぁぁぁん!!

 そのままろくに返事もしないでサンダルフォンに体当たりをするアイアンコング。
 ちょうどその時、サンダルフォンは動きの遅いマンモスに熱線を発射しようとしていたが、体当たりにより狙いがそれ、熱線はむなしく空めがけて発射された。そしてサンダルフォンはアイアンコングに地面へと押さえ込まれ、じたばたと大暴れする。火がついた木が、溶けた石が周囲に飛び散る。
 アイアンコングもたちまちのうちに装甲が融解を始め、下側の生体組織が焦げ付いていく。同時にシンクロしていたアスカの肌に引きつれのような物が出来始めたが、アスカは構わなかった。
 「このぉ〜〜〜!!!」
 体に走る苦痛をこらえながらアスカはパイプを使徒の口にこじいれた。素早くミサト達に合図を送る。それだけで分かってくれると信じて。
 「今よ!!早く!!」 
 「なるほど熱膨張ね!」
 リツコが感心した声をあげる。アスカの意図を読みとり冷却液を全て3番に集中させる。


 「でえぇぇぇぇぇいっ!!」
 体を内側から膨れ上がらせ、鉛色に体を変色させてもがき苦しむ使徒めがけてアイアンコングは拳を叩きつけた!
 殴られたところからひび割れを起こし、更にもがき苦しむ。ひび割れから冷却液が漏れ始め、表面があっと言う間に黒ずんでいく。逃げるように崩れ落ちるアイアンコングからよたよたと後退するが、サンダルフォンの命運もそこまでだった。
 ディバイソンが突撃してきたのだ。

どど〜〜〜〜〜〜〜ん!!!

 角がつきさった所から次々とひび割れが広がっていく。
 さらにアロザウラーがそのカギ爪を叩きつける。
 そしてとどめとばかりにマンモスが巨大な牙を突き刺した!!

フィィオオオオオオォォォォォォ・・・・

 陶器が砕けるような音を立ててサンダルフォンの体は粉みじんに砕け散った。
 砕けた顎の中からアクアドンが転がり落ちていく。



 「やれやれ、ずいぶんと乱暴だね君たちは・・・。でも見事だよ。シンジ君だけじゃない。みんな好意に値するよ・・・」
 数分後、救護班にエントリープラグから助け出されながらカヲルはそう呟き、意識を失った。












 「なぜだい・・・」
 カヲルが温泉に浸かりながら俯いていた。周囲の温度が気のせいか数度下がり、光まで吸収されているかのように暗くなっている。
 「ん?なんやカヲル。気味悪いで」
 すでに体も洗い終わって、頭にタオルをのせてくつろいでいたトウジが気味悪そうに話しかけた。カヲルはトウジの質問に答えようともせず肩を震わせていたが、ついに爆発。
 「何故シンジ君が温泉に入っていないんだい!?」
 「な、何故ってセンセは病院にいっとるからおらんのや」
 「びょ、病院?まさか、シンジ君怪我をしたのかい?ああ、僕を許してくれ、君を守れなかったこの僕を・・・。君の珠のような肌に傷をつけてしまうなんて、もう責任をとるしかないよ・・・あれ?」
 呆れ返ったトウジは風呂を出ていた。



 場所が変わってカヲルが入っている室内温泉から遠く離れた露天風呂。
 アスカとミサト、リツコにキョウコ、あとユイとヒカリ、マナとマヤ、ついでに名無しのオペレーター。つまりこの場にいる女性陣フルメンバーが温泉に入っていた。詳しく描写するとまずいため、音声のみとすることをご容赦願いたい。

 「あら〜アスカちゃんったら、いつの間にか大きくなってるのね〜。ママ嬉しいわ〜」
 「ちょ、ちょっとママ止めてよ!恥ずかしいじゃない!」
 「でも、今から大きいと将来たれるんじゃな〜い?」
 「し、失礼なこと言わないでよ!
 だいたい私みたいな世界の至宝に限ってそんなことあるわけないでしょ!そう言うマナこそ・・・ふっ」
 「何よその笑いは!?どうせアスカさんに比べれば小さいですよーだ。
 でもこれくらいの大きさで、形が良い方が好きって人はたくさんいるんだからね!」
 「負け犬の遠吠えね。それより良いこと教えてあげましょっか?シンジは私ぐらいの大きさが一番好きなのよ!!」
 「な、何を根拠に!?」
 「はい、はい、アスカちゃんもそれくらいにして。他の人も入ってるんだから迷惑よ」
 「あっ、すみませんおばさま」
 「や〜い、怒られた」
 「でも良いな。アスカは胸が大きくて・・・」
 「洞木さんそんなこと言わなくても良いじゃない。それとも大きくないといけないことでもあるの〜?」
 「だって、男の子って胸の大きな人が好きなんでしょ・・・ミサトさんみたいな・・・」
 「あら、洞木さんの好きな人は胸が大きい人が趣味なの?」
 「ち、違います!わ、私は別に好きな人なんて・・・」
 「あらあら。洞木さんはそう言う人が好きなのね♪
 よし!おばさんに任せて!胸が大きくなる方法を教えてあげるわ!」
 「えっ、ちょっと、あっ!やだぁ!いや〜〜〜〜ん!お、おばさま!ユイさん止めて〜〜〜!!!不潔よぉ・・・」
 「(ゆ、ユイ!それは私にだけって・・・)ユイ、止めなさいよ。まったく何考えてるの!?」
 「あいたたた・・・ちょっとした冗談よ。そんなに怒らなくても良いでしょ?」
 「凄いテクですね、先輩」
 「本当ね。キョウコさんが止めなかったらどうなっていたことか・・・司令、恐るべしね!
 ・・・ああっ!?」
 「ここで碇司令はやめなさい。それにしてもリッちゃんもなかなかね。彼氏がいるわけでもないのに、どうしてるのかしら?」
 「ああっ!?そんな!ちょっと止めて下さい!」
 「きゃああああ!先輩、不潔です!!えっ?ああ、あ、あーーーー!・・・不潔じゃないです〜ユイおねぇさまぁ・・・」
 「ユイーーーー!!!!」
 「ヒカリ、逃げるわよ!」
 「待ってアスカさん!おいてかないで!!」
 「ふ〜け〜つ〜よ〜!!」

 いったい何がおこっているかは謎だ。
 だが、後日ユイは周りからしばらく白い目で見られたことを追記しておく。しつこいようだがその理由は謎だ。
 更にキョウコはしばらく英雄視されたことも追記しておく。分かっていると思うがその理由も謎だ。詮索してはいけない。





 浅間山にほど近い病院の一室。そこの住人となったシンジは青と黒、2人の天使に囲まれとても嬉しく、かつ困っていた。
 睨み合う2人を前に、冷房がしっかり効いているにもかかわらず汗がダラダラ。さすがの加持もこう言うときの対処法を教えてはいないらしい。
 「あ、綾波。お見舞いに来てくれてありがとう・・・」
 「ありがとう、感謝の言葉。碇君に言われた・・・。23回目の感謝の言葉。
 こういうときどんな顔をすればいいのか分かってきたわ(ぽぽぽぉっ!!!)」
 何とか状況を改善しようとするシンジの何気ない言葉とオープニング最後の様な笑顔に耳まで赤くなるレイ。2人とも1話の頃とは大違い。シンジは凄まじく明るくなり、レイは(限定的に)かなり感情を表に出すようになっていた。
 ふとお互いの目が合い、動きが止まる。
 「綾波・・・」
 「碇君・・・」
 2人の距離が、10,9,8,7,6・・・

ずいっ

 そしてそんなラブラブな2人の間に無粋に差し込まれる1枚の皿。
 「シンジさん、リンゴが剥けました。どうぞ!(綾波さん、ずるいです!)
 はい、あーんして下さい。それにしてもシンジくん、大変でしたね。(今度は私の番です!)」
 顔はにこやか、心は鬼と化したマユミだった。
 なぜか急に積極的になって、話す機会が増えたマユミにシンジも悪い気はしない。素直に彼女の好意に甘えてあ〜んする。
 「もぐもぐ・・・ごっくん。山岸さんもありがとう。でも入院するほど大したケガじゃないんだよ。
 母さんが大げさに騒いだから・・・」
 「いいえ!やけどを甘く見ると大変です!一生消えない跡が残るかもしれません!」
 「そう?心配かけてごめん」
 シンジはマユミの優しさに嬉しくなった。この手の優しさと気配りができるのは彼女くらいだから、こういう状況になったシンジは半ば独占状態・・・のはずだが、相手が相手だから・・・。
 それでもマユミはめげずにシンジに恥ずかしげに微笑みかける。眼鏡をほんの少しずらすようにしながら、シンジの顔をのぞき込むマユミ。素顔が見えそうで見えない状態に、シンジはじれったくなって思わずのぞきこんだ。その時ちょうど顔を動かしたマユミと、至近距離で目があい、共に真っ赤になってしまう。彼女は自分の、眼鏡ッ子の魅力を引き出す方法を良く心得ていた。
 「いえ、良いんです。シンジくんの為ですから・・・」
 「山岸さん?」
 「シンジくん、今だけはマユミと・・・あっ!?」
 良いところを邪魔された上に、シンジの心を持っていかれたレイの顔が険悪になる。シンジ用の顔を普段用の顔に変え、マユミを強引に振り返らせると真っ向から睨み付ける。
 「・・・どうしてあなたがここに居るの?」
 「綾波さんこそ。本部待機じゃなかったんですか?」
 マユミは一瞬ひるむが、背骨がガタガタ言いそうになるくらい恐ろしい視線を真っ向から受けきり、逆にその目をにらみ返す。この娘もいつの間にか成長しているようだ。喜んで良いのか悲しむべきなのか。
 「レイコに任せたわ。だから私はここにいても良いの」
 「わ、私も相田君に任せたからここにいても良いんです!」
 「・・・・・・あなた要らないわ。私が守るもの」
 「要らないなんて、勝手に私を決めつけないで下さい」

バチバチッ!

 何故か2人の目と目の間に火花がとんだ。
 (逃げちゃダメだ、逃げちゃダメなの?、逃げちゃおうかな、逃げちゃおう!)
 外道な事を考えるシンジだったが、彼は逃げられなかった。
 「「シンジ〜〜〜!!お見舞いに来たわよ〜〜!!」」
 新たな天使達が乱入してきたのだ。
 この後、アスカとマナ、レイとマユミの壮絶な抗争により、病室は先のガギエル戦後のエントリープラグ以上にしっちゃかめっちゃかになるが、怪我人は1人しかでなかったらしい。
 以下その怪我人のコメント。

 「誰か僕に優しくしてよ・・・」

 「「「「優しくして(るわよ!るわるじゃない♪ます!)」」」」



第壱拾話完

Vol.1.00 1999/01/10

Vol.1.01 1999/03/20


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