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久しぶりに集まった旧ネルフのオペレータ達に囲まれて盛り上がっていたが、時間を見ると既に5:00を指している。
時間が来た事を知ると、一斉に静まり返ってしまう。
「あの、今日は凄く楽しかったです」
シンジが立ち上がり、そう言うとシゲルは無言のままシンジに近づくと堅く握手を交わす。
それを見たオペレータ達は次々とシンジの前に歩みより、握手を交わした。
「さよならは言いません」
「・・・」
「帰ってくるつもりでいますから」
そう言ってシンジが微笑む。
そんなシンジを出口まで見送ると、最後にシンジが深くお辞儀をした。
シンジの姿が見えなくなるまでオペレータ達はただ、そこに立ち尽くしていた。
「・・・行っちゃったね」
「・・・」
「リツコさん」
「何?」
「俺達、どうする事も出来ないんでしょうか・・・」
「・・・」
「いつになったら、あの子達は救われるのでしょうか・・・」
「・・・」
「すいません・・・言っても始まらない事は分かってます・・・」
「・・・良いのよ」
シゲルはそこまで言って項垂れた。
そんな様子を後ろから見ていたマコトがシゲルの肩を叩く。
「さっ、行こうぜ」
「・・・ああ・・・」
「俺達に出来る事が何も無いわけじゃないだろ?」
「え?」
「シンジ君を忘れないで居る事だよ」
「・・・そうだな・・・」
またも黙ってしまったオペレータ達に向かって冬月が声を掛ける。
「青葉君」
「はい」
「実は君にはそれ以外の役目が有る」
「・・・?」
「辞令は来週出す予定だったが、ま、今でも良いだろう。 アメリカに出張に行って欲しい」
「え?」
「アメリカとここに有るMAGIシステムのコピーをここのMAGIシステムとネットワーク的に直結し、更に効率の良いシステムを作ろうと思っている」
「はい」
「そこで、伊吹君」
「は、はい」
突然声を掛けられたマヤはびっくりして目を大きく開いている。
「青葉君と二人でアメリカ支部に移転だ」
「はい」
冬月はこの二人の関係を知っているのか、そうでは無いのか、軽く笑みを零すと堅い表情に戻り言葉を続ける。
「それだけじゃ無い」
「と、言いますと?」
「幾ら戦争が終わったとは言え、Evaのパイロットをアメリカに送るのは少々怖い」
「はい」
「何が起こるか、何をされるか分かったもんじゃ無いからな」
「そう・・・ですね」
「そこで、今はドイツに行っている加持君に密着にガードをして貰う」
「加持さんに・・・ですか?」
ちらりとミサトを見るシゲルとマヤ。
その表情はいつもの通りだ。
もしかしたらミサトは既にその事を知っていたのかもしれない。
「葛城君」
「はい」
「ドイツの戒厳令はいつまでだったかな?」
「来月一杯で終わる予定です」
「では、再来月から加持君と合流しUNと共にアメリカ支部を守る迎撃システムの完備を頼む」
「はい」
「赤木君と日向君は、日本にて彼らのサポートを頼む」
『はい』
「それ・・・と」
「・・・」
緊張した面持ちで冬月の言葉を待つオペレータ達。
冬月は苦笑いしながら黙っている。
暫く沈黙が続いた。
催促する様にリツコが声を掛ける。
「副指令?」
「赤木君」
「はい」
「アスカ・・・なんだけどね」
「はい」
「赤木君が面倒見てくれ」
「は!?」
「葛城君もドイツからアメリカに行ってしまうし」
「でも・・・」
「そういう事だ、頼む」
「副指令!」
「ふふ、私はもう副指令では無いよ」
副指令という呼び名は満更でも無いらしい。
軽く笑みを見せると冬月はその場を後にした。
突然の辞令の嵐に一同唖然としていたが、時間と共にようやく頭が回り始めてきた。
「て・・・分けで、アスカの事よろしく」
「・・・」
「センパイ、よ、、良かったじゃないですか」
「・・・何が?」
「さ、、、さぁ・・・」
「はぁあ・・・この私が保護者になるとはね・・・」
「まぁまぁ・・・良いじゃないの」
「あなた、知ってたでしょ」
「ん? ん〜・・・」
「副指令に保護者の役私に押し付けるように言ったのね!」
「ひひひ・・・ま、一人っきりにはできないしさぁ」
「でもねえ・・・」
「じゃあ、マコト君の所にすれば良かった?」
そう言って笑いを堪えているのがやっとのミサトを殺意のオーラに包まれたリツコが睨みつける。
「この借りはいつか返してもらうわよ」
「はは・・・お手柔らかに・・・」
「そうだね、でも、遅れるより良いよ」
「まぁね、ただ・・・」
「ただ?」
「もう少し話してたかったかなって思ってね」
「はは、良いよ、いくら話しても話足りないし、キリも無いしね」
「案外落ち着いてるのね」
「そうかな?」
「わかんない・・・」
それから暫く会話らしい会話も無いまま、並んで歩く二人。
すると、思いついた様に突然アスカが声を掛ける。
「ねっ!」
「ん、ん?」
「買い物しなくて良いのかな」
「あ、そっか、何も無いや・・・」
「じゃ、買い物して行こっ」
「うん」
「何買おうか」
「何食べたい?」
「今日はパーティだしなぁ」
「ん?」
「やっぱり、お鍋かな」
「鍋?」
「そっ」
「良いけど、何の鍋?」
「そうねえ・・・湯豆腐?」
「湯豆腐ね」
「で、良いんだよね」
「何が?」
「んー・・・イメージは有るんだけど、名前が・・・」
「そっか、えっと・・・豆腐と・・・タラと・・・ネギ・・・それに昆布かな?」
「それ、それ」
「へええ・・・湯豆腐なんて知ってるんだ・・・」
「ドイツで1度食べた事有るの」
「へええ・・・」
「加持さんとね」
「なるほど・・・納得」
「はははは」
「ミサトさんの家に鍋なんて有ったっけな・・・」
「さぁあ・・・・」
「有ると思う?」
「絶対無いと思う・・・」
そう言ってアスカは方を窄める。
それを見て、妙に可笑しかったのかシンジも一緒になって笑った。
「大体、あの女は料理の『り』の字も知らないじゃない・・・」
「はは・・・ま、そ、そうだね・・・」
シンジの目は完全にジト目である。
その視線に気が付いたのか、アスカは赤くなるとそっぽを向いた。
「わ、私だって練習すれば出来る様になるもん」
「ま、そうだね」
「でしょ?」
「ミサトさんだって練習すれば・・・いや、あの味覚は駄目かも・・・」
「・・・・あれは異常よ・・・」
「ははははは」
二人は他愛の無い事を話ながら、食材を買いにスーパーへ入った。
「おぅ、今帰ったんか?」
「うん、ゴメン遅れちゃったみたい」
「いや、わしらが早すぎたんや」
「そっか、委員長と一緒だったの?」
「あ、あ〜・・・うん」
様子がおかしいと思いながらも、鍵を開け中に入る4人。
アスカはヒカリの顔を覗き込むと、小さく笑った。
「ケンスケは?」
「アイツは別やったんや」
「ふーん・・・」
「ま、その内来るんとちゃう?」
「そうだね」
「それよか、ミサトさんは今日はおらんのか?」
「ああ、もう直ぐ帰ってくると思うよ」
「そか、そか」
「トウジ、これ持ってって」
そう言って、買ってきたばかりの鍋を渡すシンジ。
それを受け取ると、変な物を見るようにトウジは鍋を見つめている。
「何?」
「いや、わしこういうの初めてやねん」
「へええ」
「テレビでは見たこと有るけどな」
「そっか」
「わしんとこ、妹と二人やったからなぁ」
「そうだね・・・」
「うししし」
「何だよ、気味悪いな・・・」
「何か、ええな、こういうの」
「何が?」
「鍋や、鍋」
「はははは、アスカも2回目らしくてね、喜んでたよ」
「そか、そか、結構憧れてたんや、鍋」
「変な奴・・・」
「うるさいわい!」
食事の仕度をテキパキとこなすシンジを台所に置いて、3人はテーブルを囲んで鍋を見ている。
「委員長はこういうのやるん?」
「何が?」
「鍋やねん」
「ああ、たまーにね」
「そかぁ・・・」
「と・・・トウジは?」
アスカの耳がピクリと動く。
「わ・・・わしんとこ2人兄弟やったからそういうの無かったんや」
「そっか・・・」
「今は一人やしな、こういう機会や無いとでけへんし」
「なら・・・今度うちに食べに来る?」
「え・・・あ・・・そやな・・・迷惑や無かったら・・・」
「迷惑なんかじゃ無いのよ!」
「そ、、そか・・・ほな・・・」
アスカは表情を変えずに、立ち上がると台所へと向かった。
その後もギクシャクしながらトウジとヒカリの会話は続いている様だ。
アスカは台所でネギを切っているシンジに後ろから抱きついた。
「うわっわぁ!」
「へへへ」
「びっくりするじゃ無いか」
「はい、はい、続けて、続けて」
「言われなくたってやるよ・・・」
アスカはシンジに抱きつきながらシンジの背中に頬ずりすると抱きつく腕の力をより強くした。
もちろんシンジは気づいているだろうが、気づかぬ様にリズミカルな包丁の音だけが台所に響いている。
「ねね」
「ん?」
「あのヒカリがね」
「うん」
「トウジって呼んでたよ」
「トウジの事を?」
「そう」
「へええ・・・」
「くっくっくっく・・・」
「何が可笑しいんだよ」
「あのギクシャクした呼び方ったら」
「ああ、そういう事」
「出来たてカップルってのがミエミエじゃない」
「ええぇええ!!」
「何?」
「トウジと委員長が!?」
「はぁあ・・・アンタってほんっとうに鈍いわね・・・」
「・・・」
「そうだったんだ・・・」
「くっくっくっく」
「そんなに笑うなよ、失礼だろ」
「はい、はい」
暫くの間、シンジは料理を、アスカは後ろから頬ずりをしながら時間だけが過ぎて行く。
アスカは幸せを噛みしめる様に時々腕に力を入れた。
そんなアスカを思ってか、何も言わないシンジ。
暫くの後、シンジは包丁を止めると首だけ少し横に向けるとアスカに尋ねる。
「ね、アスカ」
「ん?」
「あの・・・さ」
「何?」
「・・・」
「何よ」
「いつから、トウジの事、トウジって呼んでるの?」
「ん? ああ」
「いや、別に良いんだけどさ・・・」
「ヤキモチ?」
「ちっ違うよ」
「はい、はい」
「いつからかなと思って・・・」
「ヤキモチ?」
「違うって」
「じゃ、教えない」
「何だよ、それ・・・」
「ヤキモチだと認めたら、教えてあげる」
「・・・」
「ねぇ、ねぇ、ヤキモチ?」
「・・・そうだよ」
少し憮然とした態度のシンジ。
くるりと顔を前に向けると、いつもよりも早めの包丁の音が始まる。
そんなシンジを見て、笑いが堪えられないアスカ。
「くっくっくっく・・・」
「何が可笑しいんだよ」
「シンジ、可愛い」
「はぁあ・・・」
「シンジが引越すって言ったとき」
「ん?」
「ヒカリとトウジに相談してね」
アスカは、頬ずりを始めるとゆっくり話し始める。
「うん」
「その時、トウジが私の事からかうから」
「分かる気がする」
「ふふ、友達として聞いてるの!って言ったの」
「へええ」
「友達として相談してるのって」
「アスカにしては珍しいね、そういうの」
「ま、ね」
「で?」
「で、友達として相談してるのに、名字で呼び合うのが変っぽかったから・・・」
「ふーん」
「それだけ」
「ふーん」
「何よ」
「いや、別に」
「隠し事しない!」
「そういうの、アスカも人に相談するんだと思って」
「んー・・・今までのアタシなら絶対しないわね」
「うーん」
「あの時、あの二人に相談しながら思ったもん」
「何を?」
「こんな姿、昔のアタシが見たら自殺するだろうなぁって」
「あははははは」
「そんなに笑わなくたって良いじゃん!」
「ゴメン、ゴメン、何か想像できたから」
「ま、私なりの進歩かなって思えたから良いんだけどね」
「そっか・・・」
「うん」
「ねえ」
「ん?」
「仕度できたから戻りたいんだけど・・・」
「だけど?」
「離してくれる?」
「やだって言ったら?」
「・・・困る」
「ははははは、相変わらず面白いリアクションね」
「うるさいなあ・・・」
そんな会話をしていると、チャイムが鳴った。
「はーい」
「おっす、俺」
「ああ、ケンスケ」
「皆は?」
「ミサトさん以外は全員来てる」
「ミサトさんなら一緒だぞ」
「あれ?」
ドアを開けると、ケンスケとミサトが入ってきた。
「来る途中でミサトさんに拾ってもらったんだ」
「そうなんだ」
「ただいま、シンちゃん」
「だったら、チャイム鳴らさなくて良いのに・・・」
「驚くかと思って・・・」
「相変わらず子供っぽいですね・・・」
「・・・・」
こうしてパーティは始まった。