エヴァでゾイド
前回までのあらすじ
自分を引き取り養育した帝国宰相ゲンドウの暴走と死によって帝国での立場を失ったシンジ
まだ十二・三歳という若さで帝国のエースだった彼はゲンドウの裏仕事にも関わりがあり
拘束は免れない立場だった。
そんな彼の目の前に現れた謎の少女・レイ
蒼銀の髪の彼女はシンジに自分との逃亡を薦める。
彼女の用意した要塞ゾイド・ホエールキングによって身を寄せていた研究所の資料とジェノザウラーが運び出される。
その間、帝都や周辺基地から自分達の捕縛あるいは殲滅のためにきた舞台を迎撃するため
シンジとレイは自分達のエヴァ・シャドーとスペキュラーによって進化した飛行ゾイド
ストームソーダとサラマンダーを駆り出撃した。
そこには、シンジに敗北の屈辱を味合わせたアスカもいたが、二度の奇跡的な勝利に調子付いていたアスカをシンジは簡単に撃退することが出来た。
そして、ホエールキングの発進準備も整い、二人は大空の彼方へと飛び去っていった。
「ZOIDS STORY IF」
第3話
銀と蒼の月達
相変わらず、逃走を続けているホエールキング
その巨体を今は雲の上まで上昇させ、滑空している。
その環境でブリッジ要員は黙々と作業を続けていた。
しかし、良く見れば要員いずれもが顔を青ざめ、微かに震えているものもいる。
先ほどから流れるオープンになった通信からの声
それが、過酷な訓練を受けたはずのクルーを震え上がらせていた。
「ぐぁぁああああああ!」
「やめて!ヤメテくれェー―――――」
「イヤだ、来るな来るなァ」
「死にたくない、死にたくない、ぐっ」
通信回線fが悲鳴でいっぱいになる。
そしてモニターからそとの、空の様子が見える。
幾多の爆発が生まれ、炎の塊が落ちていく。
紅蓮の華が雲の上、下、そして中で華開く。
「フン!弱すぎてろくに楽しめさえしない」
大量虐殺の主犯は、その秀麗な顔を歪ませそうのたまう。
やく十分で敵は壊滅した。
帝国の飛行ゾイド・レドラ―の大部隊は、今宵またたった一機のストーム・ソーダにつぶされていった。
仕事を終えた黒き翼竜はゆっくりと己の母艦
逃走を続ける巨大な飛行ゾイド・ホエールキングに戻っていった。
「やぁ、ごくろう様。相変わらず見事な腕だね」
蒼銀の髪の美少年・もとい少女ことレイは、何時もの明るい調子で帰ってきたシンジを迎える。
ハッチに固定された黒きストーム・ソーダは早速研究者・技術者たちのチェックを受け始めていた。
身軽な動作でコクピットより飛び降りたシンジ
そして融合をといて現れるエヴァ・シャドー
一人と一匹はそんなレイを一度視界に止めると、そのまま立ち去ろうとする。
「ホント、君の強さには恐れ入るよ。ボクとボクのサイコ・サラマンダーには出番無かったねぇ」
だが、レイはシンジのつれない態度にも気にした風もなく、横に並んでついていった。
幾ら無視しようがまるで気にした風も無く付いてくるレイに、最近ではシンジも半ば諦めて
ただ彼女が話すにまかせていた。
陽が沈み
銀と後の二つの月が明るく照らす雲の海
その白い海面を滑る様に進むの巨大な影
シンジとレイ、そして奥の研究資料とジェノザウラーなどのゾイドを搭載した巨大ゾイド:ホエールキング
大型ゾイドを幾多も搭載可能な大きさを誇りながらも、音速にちかい巡航速度を持つ空海両用の要塞ゾイドは今は帝国を追われる身となった乗員を乗せて逃亡のさなかであった。
厚い雲の層も下にあれば、空は冴えわたる輝きの二つの月と星々が彩り、息を呑むまでに美しかった。
もっとも、ツイ先ほど絶え間無くやってくる追っ手を打ち払い降りきっていた乗員達に
夜空をめでる余裕のあるものは少なかったが・・・・・・・・・・
「・・・・・・・星だ・・・・・・・・・・・・・」
そんなうちの一人
飾り気の無い普段着と防寒用のマントを羽織ったシンジがテラスに佇んでいた。
その秀麗な顔には珍しく愁いに満ちていた。
何時もの凶悪な強い意思を宿さないその瞳。
普段の彼を知るものなら驚愕したであろう、その様子は儚げでさえあった。
つい先ほど、帝国より追いすがってきた飛行ゾイド・レドラーの大部隊をたった一人で片付けてきたものと同一人物とはとうてい思えなかった。
グルルゥゥゥ
(大丈夫?)
「・・・・心配するな、シャドー。俺は何も変わらない・・・・・・・」
いつも斜め後ろに控えている特殊なゾイド・エヴァ・シャドーが語り掛ける。
いつもなら返事を返すことさえ無いだろうシンジが言葉を返してきて、シャドーは余計不安だった。
そんな己のエヴァの気持ちも知らず、シンジはひたすら空を見上げていた。
そして瞳に手をやり何かを取り出す仕草をする。
「・・・・・・・・・・・・・・やはり裸眼でみる夜空は美しいな・・・・・・・・」
再び見上げた彼の手には、黒いコンタクトがあった。
二つの月が照らす彼の顔
その瞳は月の光を受けて蒼と銀の色合いに輝いていた。
「シンジ・・・・知ってる? この星の向こうに私達の故郷があるのよ」
「母さん?」
七・八歳の長い黒髪の子供が夜空を見上げていると
一人の美しい女性が隣に来て話し出した。
母と呼ばれたその女性は、背が高くとても少年と似ていた。
「僕達の故郷?」
「そう、遠い昔。私達はそこからこの惑星へと移り住んだの」
「へぇ? ねぇ、そこには・・・・ゾイドはいるのかなぁ」
「いいえ、ゾイドはこの星独自の機械生命体よ。でもどうして?」
「うん・・・・・」
急に歯切れの悪くなった少女のごとき少年・シンジの様子に
女性は長身をかがめて少年と目線を合わせ
その蒼と銀の瞳を覗いて尋ねる。
「だって、僕・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
人里は慣れた丘の上
二人の母子が住む研究所の傍
親子を二つの月が照らしていた。
「僕は・・・・・・ゾイドが嫌いだ・・・・・・・・・・・」
グルルルルル
(シンジ・・・・・・・・・)
悲痛に
搾り出されるように小さな唇から漏れる微かな言葉
傍に控えていたシャドーが悲しげに鳴く
うろ覚えでしかない少年の日々の記憶
かすみの向こうに見える母の笑顔
しばらく夜空を
星々を
変わらない二つの月を見上げていたシンジは、マントを翻してテラスより中に入っていた。
遅れてシャドーが続く。
一人と一匹が立ち去った後
蒼い小さな光が飛び立っていった。
「“ゾイドが嫌いだ”・・・・か・・・・・・、本気でそうなのかなぁ? 」
百メートルは離れたホエールキングのもう一つのテラスで、レイは神殿風の柱にもたれかかりながら
証明の無いその場所で、雲の海と夜空を眺めていた。
彼女の右肩には手のひらも無いサイカーチスの小型版のような
クワガタの形をした昆虫型ゾイドがいた。
そして、先ほどシンジがいたそれも、レイのもとに戻ってくる。
「傍にいるシャドーは随分とたよりにしてるくせに・・・・・・・いや、まぁ」
ギュォ?
(レイ、何?)
ふと思いついたように意味深な笑みを浮かべたレイに隣に佇むスペキュラーが声をかける。
「いや・・・・・その辺りもシンジの魅力なのかなって?つれないところとか・・・・ね」
ギュルルルルルルル
(レイ、もしかして?)
「さあねぇ?」
レイはスペキュラーの心から心配そうな問いかけに答えず
そのまま中に入っていく。
グルルル!
(ちょっとレイ、まってよ)
置いて行かれた蒼いエヴァ・スペキュラーも慌てて後を追った。
なんどきも変わらない、二つの月が輝き
星々は瞬いた。