一人娘

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「ただいま。」
奥からレイが出てくる。
「おかえりなさい。」
レイが微笑む。
「これ、おみやげ。重いから、気を付けて。」
細長い箱を手渡す。
レイが箱を眺めている。
「...水...お酒?」
「よく分かったね。」
「...」
レイが、不思議そうに僕を見ている。
「うちのお姫様は、どうしてる?」
「眠ってるわ。」
「そう。」
レイが、僕を見ていた。
スリッパをつっかけ、寝室へ。
レイが後をついてくる。

上着を脱いで、ベビーベッドの脇に腰をおろす。
静かに寝息を立てている黒い髪の赤ん坊。
頬に手を伸ばし、そっと触れてみる。
「だめよ。」
吐息のようなレイの声。
静かに手を引いて、レイの方を見た。
ちょっと睨むようにするレイ。
レイが娘を見て微笑む。
「柔らかいね。」
レイが、僕を見る。
「...ええ。」
レイが微笑む。

音を立てないように着替えて、ダイニングへ。
レイが食事の用意をしている。
テーブルに置かれた箱の包みをといた。

レイが、最初の器をテーブルに置く。
「...」
レイが酒瓶のラベルを見ている。
レイが僕を見た。
レイが微笑む。
レイに微笑んだ。

「はい。」
グラスを僕の前に置くレイ。
「レイは?」
「...じゃ、少しだけ。」
グラスを置いて、僕の隣に座るレイ。
グラスに『一人娘』を注ぐ。

「それじゃ、うちの『一人娘』のすこやかな成長を祈って。」
「「乾杯」」

半分ほど飲んでグラスを置くレイ。
心なしかレイの頬が桜色に染まる。
「レイ...」
「何?」
レイの頬に手をのばした。
「好きだよ。」
レイにくちづけた。
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一人娘 完

 




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