前回までのあらすじ

 

デスザウラーに半ば意識を乗っ取られたゲンドウの暴走

その敗北と死により、長きにわたる帝国・共和国両国の戦争と動乱の日々は幕を下ろした。

 

暗殺されかけたルドルフ皇太子が皇帝の座についたことにより帝国支配階級では地殻変動が起こる。

ゲンドウの養子であり、ルドルフの捕縛を手伝ったシンジは間違いなく反逆者とされるだろう。

やはり犯罪者として追求されかねないデスザウラーなどにかかわった極秘研究チーム

彼等は帝国からの脱出をはかる。

 

しかし、すでに帝国共和国両軍から討伐隊がおくられてきた。

自分達の捕縛あるいは殲滅の為に送られた来た部隊の迎撃のため

シンジとレイは各々ゾイドで出撃した。

数では圧倒的に勝る敵を、機体性能と問題外というべき実力差でカバーし蹴散らすシンジとレイ

シンジは経験の無い空中戦で多少戸惑うものの持ち前のイ抜群のセンスで六十機ものレドラーの部隊を退ける。

レイは己のエヴァ・スペキュラーの能力によって進化したサラマンダーを使って敵地上先遣隊一個師団をつぶし、帝都ガイロスからの遠征軍を強襲する。

レドラーをあらかた始末したとき、エヴァ・シャドーから自分に敗北の屈辱を味あわせてくれたアスカがブレードライガーが来ている事を知るシンジ。

 

夕暮れ時

黄昏行く空

 

思いのほか早く訪れた復讐の時に、シンジは己の闘争心の赴くまま、黒い翼の死神を羽ばたかせた。

 

 

 

 

「ZOIDS STORY IF」

第二話

再戦、制限、ようやくの出発

 

 

 

 

正面画面に遠方にいる共和国ゾイドの群れを映し出す。

クローズアップされたそれには、目に焼き付いて離れない一つのゾイドがいる。

 

シールドライガー

憎んでも憎みきれない、己に敗北の屈辱を味あわせた赤き百獣の王

 

「アスカ!

 

シンジはスロットルを入れてストームソーダを一挙に加速させた。

目標はブレードライガーただ一つ。

 

 

 

 

「さぁさぁ、いつまでそんなところでもたついてるんだい? 」

 

一方帝都ガイロスから来た共和国、帝国軍そうほうの合同部隊

その第一陣である部隊はレイの操るサラマンダーたった一機に押されていた。

リツコは敵の逃亡阻止を諦め揮下の部隊を防戦に徹底させ、弾幕を貼っている。

さすにレイも簡単には手出しできない。

 

結果、レイは帝国正規地上軍は権勢にとどめ、分かたれてしまった一方を攻めた。

いまだ諦めきれないアスカ、トウジ、ハーマン、日向といった共和国軍主体の正規ではない混合部隊のほうがレイに弄ばれることになった。

 

「早くしないとシンジが来ちゃうよ?ボクと違って彼は容赦無いと思うよぉ?」

 

高々度からの急降下と砲門の一斉射

そして地面すれすれからの急上昇と爆撃

 

サラマンダーは多少のバリエーションを加えながら同じような攻撃を繰り返している。

さすがにこちらはパイロットそのものの腕も良く、高性能のゾイドで構成されているため殲滅は諦めて時間稼ぎに徹することにしたレイ

 

「弱いね、弱いよ。気味達ホントにシンジやデスザウラーを倒したのかい?」

 

巨大な体躯にもかかわらず驚くほど俊敏に、そして小回りの利くサラマンダー

その動きにもともと対地上用しかいないアスカ達のゾイドでは付いて行くことが出来ない。

 

幾度も繰り返される攻撃の基本は先ほどもあるように急降下と急上昇

降下時の六連装キャノン砲の斉射と平面飛行時の火炎放射

上昇時の爆撃だった。

直前のサラマンダーによる攻撃で、ブレードライガーだけが吹き飛ばされ、蹴飛ばされて他のゾイドから離れていた。

 

「コンチクショ―――――!! 降りて来て戦いなさいっ!」

「何をいってるんだい? 飛行ゾイドが何が悲しくてわざわざ地上に降りて戦うのさ? 」

 

ちなみに今現在も通信回線は相互ともに全開状態

相互回線が完全にオープンになっている。

これだけ近づいていればジャミングの影響もなく互いの声は充分聞こえる。

だから・・・・・・・・・

 

「な、なんですてぇ〜!? 正々堂々と戦おうってゾイド乗りの心意気ってものが判らないの!? 」

「知らないよ、なにそれ? 何人の言葉?」

「ムッキィィィィィー―――――――っ!!?? 」

「サル?」

 

何度目かの急降下、急上昇と攻撃を終え、繰り返しその攻撃を受けたブレードライガーの遥か上空を旋回するサラマンダー

余裕綽綽といったレイの声が全開の通品回線から流れ、アスカが食って掛かる。

 

「アスカさん、挑発にのっちゃダメ! 」

「ねぇ、マユミ・エレシーヌ・リネ、そんなにアスカが大事?」

「誰ですか? 私の昔の名前を知っているのは? 」

「さぁ、誰だろう?呪われた古代ゾイド人の末裔さん? 」

「・・・・・やめてください・・・・・」

「いいねぇ、そうやって守ってもらって」

「・・・・・・・・・・」

 

熱くなり過ぎたアスカを注意するマユミ

しかし、それはレイにマユミの存在を喚起させた。

その間にもサラマンダーの対地攻撃は続いている。

レイに嘲るような哀れむような

そして、妬むような感情が、想いが

複雑な光を宿した紅玉の瞳に浮かんでは消える。

 

「でも、いつまでアスカも守ってくれるかなァ、それよりいつまでアスカが生きてられるかなァ? 」

「やめてください、やめて・・・・・・・」

「そのうち死んでしまうんじゃないのかい? 君が呼ぶ不幸のため」

「イヤ・・・・・・」

「古代ゾイド人の呪われた宿命のため・・・」

「やめてェ!!! 」

「デスザウラーの時は単に運がよかったんだ。完全でないアイツなら倒しようがあったからね」

「ウゥゥ・・・・・・・・・」

「でもいつまでも奇跡は続かない」

 

レイの言葉に、ブレードライガーの後部座席で震えるマユミ

自分という存在がアスカに危険をもたらす。

アスカを不幸にする。

マユミにとっては考えたくもないことである。

 

「やめなさいよ!!! 」

「・・・・・・・・・・・・・・・・アスカさん・・・・」

「さっきから訳のわからないことをベラベラベラベラ、ゾイド乗りならなら黙って勝負しなさいよ!!」

「・・・・・・・・・・・悪いけど、君と勝負するのはボクじゃない」

 

アスカが会話に割って入りマユミを庇う。

驚きと安堵

そして歓びの入り混じった表情を浮かべるマユミ

忌々しげに顔をゆがめるレイ

桜色の小さな唇から漏れた、冷たい最後の言葉

 

そして、闇の翼をもつ者はすぐ近くまで迫っていた。

 

黒塗りのストームソーダでサラマンダーの遥か上空に向かう。

そこから戦場を見下ろすシンジ

その先には帝国の一部隊と雑多なゾイドで構成された共和国の部隊がいる。

そして、共和国軍の部隊の中に、己の目標がいた。

 

「行くぞ!アスカ」

 

黒い翼を折りたたみ、ストームソーダは一挙に降下していく。

垂直に落ちる先はブレードライガーの真上

先程の高度と地表のちょうど中間に位置していたサラマンダーの脇を抜け、二連装パルスレーザーガンを乱射する。

 

「新手!? 全員あらたな目標に手中砲火! 近づけさせないで」

 

部隊に弾幕を張らせ、防御に終始していたリツコがいち早く新たな敵の存在に気づき、攻撃を加える。

火線こそ多いものの、直撃コースの少ない攻撃の中、シンジは必要最低限の動きで攻撃をかわしながら、降下をやめようとしない。

 

「今の声!? 」

「シンジっ!?」

 

気づくのが遅かったため回避も間に合わず、アスカは慌ててシールドを展開する。

レーザーそのものはブレードライガーのシールドを打ちぬけるような威力は無い。

しかし、わざと周囲にばら撒くように打たれたそれは地面を融解させ小さな爆発をいくつも起こす。

棒立ちになったブレードライガーの上ギリギリで、黒のストームソーダは水平飛行に移る。

 

「ぐっ!? 」

「キャァーーー! 」

 

減速無しの高速機動の余波

レイのサラマンダーのときとは比べ物にならないソニックブームを受けて、ブレードライガーは更に吹き飛び、仲間から離れる。

そして、シンジ向かう先にはトウジやミサトなどの共和国のゾイドがいた。

 

「目障りだよ、お前達は!! 」

 

音速を遥かに超える速度でありながら、地表すれすれにまでさらに下りて水平飛行に移り両翼のウイングブレードを開く。

「うわっ!?」

「何だコイツ!?」

「おのれ! 」

 

余りの速度に咄嗟に反応できず、トウジのコマンドウルフの四本の脚

そして日向の重装備ガンスナイパーにいたっては胴から完全に切り飛ばされた。

一方、更に離れてた所にいたミサトのシールドライガーDCS−Jは咄嗟にシールドを展開し、ビームキャノンで打ち落とそうとする。

しかし、直前にシンジはストームソーダーを急上昇させ、ビームはむなしく空を切った。

 

 

 

「あらら、いきなり二体も切り裂いちゃって〜、だから容赦ないっていったのに」

 

遥か上空から眺めているのはサラマンダー

先程の不機嫌な要すが嘘のように、嬉しそうに話すレイ

 

「さてと、あっちの帝国部隊が邪魔できないよう、ちょっとからかわないとね♪ これまであんまり相手してあげて無いし」

 

そしてそれまで余り近づかなかったリツコ中佐の率いる部隊にサラマンダーを向ける。

そしてリツコは攻撃を近づいてくるサラマンダーに向けざるを得ない。

 

そんな間にも再び降下を始めたストームソーダ

今度はハーマンのシールドライガーDCS−Jを狙った。

 

「く、来ないでぇ!! 」

 

もともと、対空装備など無い機体

背中の大型ビームキャノンを限界まで上空に向けて連射するが、ほぼ真上からくる黒い影にかすりもしない。

シールドライガーの真後ろの空間に降下したストームソーダ

再び水平飛行に移り とっさにかわそうとしたシールドライガーをシールドの影響の無い後ろから左の前と後ろの足をブレードで斬る。

体をささえられなくなったシールどーライガーはそのまま地にふした。

 

「・・・・ああ・・あぁぁ」

「チッ、シンジの奴!?」

 

始めてみたときと変わらない、残酷で圧倒的なシンジの闘いぶり

マユミは目を見開き、震え、アスカは怒りをあらわにする。

闇の鳥は再び大空に駆け上っている。

 

「僕はついているよ、アスカ。こんなに早くお前に復讐できるチャンスがきたんだからねっ! 」

 

シンジは獰猛な笑みを浮かべながら、三度目の降下に移った。

向かう先はもはやブレードライガーただ一つ

 

「くそ、こっちだってブレードはあるのよっ! 」

「アスカさん、ダメ!?」

 

我慢できなくなったアスカはブレードライガーをジャンプさせ、空中で迎え撃とうとする。

 

「バカ」

 

心底蔑ずみ、嘲笑いながら呟いたシンジは軽々とその無謀な攻撃をかわして通りすぎる。

そして再び上昇する際に、空中で身動きの取れないライガーをトップソードで斬りつけた。

腰より下を切り飛ばされて、行動不能になるブレードライガー

 

「なんだ、もう終わりかい? じゃ、もう死んでいいね」

 

シンジがそう言って、四度目の降下に移ろうとしたとき

 

「シンジ、そろそろタイムオーバーだよ」

「何!? 」

「帝都の方角から、さらに増援が近くまで来てるみたい、ここを引き払う準備もできた」

「関係無い」

 

突然割って入ったレイからの通信にそっけなく答えて攻撃に移ろうとする。

が、次の言葉がシンジを止めた。

 

「どうせなら、地上でジェノザウラーを使って倒せばイイじゃないか? 」

「・・・・・・・・・・・」

「あんまり面白くないでしょ、空戦ゾイドで倒しても」

「そうだな」

「それにこれからが御楽しみだよ、これからが」

「ああ」

 

そして、二人は戦場を離れる。

ホエールキングも準備を終え、飛び立っていく。

 

 

 

後には、レイとシンジに散々に破壊されたゾイド達

それらの回収とパイロットの救助に当たるリツコの部隊が残された。

しかも、最初にシンジの相手をしたレドラー達は、全て再起不能。

 

「はァ・・・・・・・派手にやられたものね」

 

他も事故修復では間に合わず、工場での専門的な修理が必要なものばかり

回収及び搬送作業を進めながら、リツコはため息をついた。

帝都が散々破壊されたため、そちらの再建作業、他、軍の再編のこともある。

最近、あまりかまってやってない弟子のマヤを想いだし、少しだけ悪い気持ちになる、

 

「そう言えば、シンジとバンの年齢は近かったな・・・・・・」

 

二人の余りの違いに唖然としたリツコだった。

 

 

そして、腰から裂きを切り裂かれたブレードライガー

 

「――――――チクショウ・・・・・・・・・・」

 

ジェノザウラーとデスザウラーとの闘いの勝利に有頂天になっていたアスカは手痛い教訓を食らうことになり 操縦桿の傍に手を叩きつけ、唸った。

 

「アスカさん・・・・・」

ギュォ・・・・・・・

 

そんな彼女を、マユミとエヴァ・ジークは不安そうい見ていた。

 

 

(つづく)

 

 

 




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