7.終劇

 

「幸せがどこにあるのか、まだわからない。

……だけど、ここにいて、生まれてきてどうだったかは、これからも考え続ける。

だけど、当たり前のことに、何度も気付くだけなんだ

自分が自分でいるために」

 

*********

 

時計を見ると5時半を過ぎていた。

伏木は、しばらく止めていたはずの、煙草を取り出すと火を付けた。

脳髄が痺れたような感じがする。

 

*********

(駄目か?!。)

心電図はフラットなままだ。

伏木は、前をはだけさせられた、枯れ木のような老人の体に再びカウンターショックを当てる

「行くぞ!!」

ベッドの回りのスタッフが一斉にあとずさる。

鈍い音がして、老人の体が跳ね上がり、そして落ちる。

喉の奥がひりつく感じ。人の死ぬ時に何時も感じる、あの嫌な感じ。

それは残酷な儀式ににていた。力無く横たわる老人の体に、電気ショックが加えられ、跳ね上がり、落ちる。

(俺は、何をやっているんだ!。これは何なんだ!。)

切迫した状況下で、伏木は処置をしながらも、心の底から空虚さを感じざるを得なかった。

ふと気付くと伏木の目から涙が止めど無くこぼれていた。

 

老人の体は更に数回、跳ね上がり落ち、.....やがて全ての動きがとまった。

 

*********

 

六分儀シンジは、子供のような顔をして死んだ。

これまでにも、安らかな死に顔というものを見た事はある。

しかし、これほど、少年のような清らかな顔は始めてだった。

伏木は、まだ彼がどれほど数奇な運命に翻弄された人生を歩んで来たかは知らなかった。

だが、六分儀氏の最後の数日間は、彼に深い感銘を残していた。

(六分儀さん、良い人生でしたか?。)

 

窓の外は、まだ暗かった。だが、確実に朝が近づいていた。

闇に還ってゆくものたちと、

残されたものたちの朝。

 

*********

当直開けの伏木は、世界統一政府からの職員達が、あわただしく六分儀老人の遺体や遺品を収容に来た事に驚かされる事になった。

警護の警官、用意された霊柩車のクラスから、彼が最後を見取った老人が、国家元首並みの要人であった事を知る。

だが、彼の問いかけに、誰も答える事は出来なかった。「六分儀老人とは何者か」という問いに。

 

*********

ある死亡記事:

六分儀シンジ  2月12日午前4時57分、肺炎の為入院先の第3新東京中央病院にて死去。87歳。

葬儀は先月末病死した前・世界統一政府総裁、惣流・アスカ・ラングレー氏の遺言に従い、

2月15日、第3新東京市聖ミカエル教会にて。

葬儀後遺体は、フランクフルトへ送られ、惣流・アスカ・ラングレー氏と合葬される。

 

(次へ)

 



 
しのぱさんの部屋に戻る/投稿小説の部屋に戻る