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「シンジ?」
「うん。 ご飯、すぐ作るからちょっと待っててね」
「ん、ねぇ、シンジ」
「何?」
「あのさ、、、きょ、今日の夕飯何?」
あぁぁ、チガウーー!
「ん、今日はアジだよ。 何かアジが美味しそうだったから買ってきた」
「そ、そう・・・」
き、、、聞かないと・・・
「どうしたのさ? 座って待ってて良いよ?」
「ん、うん。 わ!ホント、美味しそう」
キー!ちゃんと聞きなさいよ!アスカ!
「でしょ? たまに食べたくなるんだよね、何でだろうね」
「何言ってんのよ、アジなら先週も食べたじゃない」
確か、先週の水曜日ぐらいにアジだった気がする・・・覚えて無いの?
「えぇー、そうだっけ?」
「アンタ、最近やけに物忘れが激しいわね・・・もう、年?」
つい、この間も前に私と喧嘩した事の内容すっかり忘れてたわ。
ホント、ボケボケしてるんだから・・・喧嘩の内容なんて忘れても良いけど・・・。
「そんな分け無いだろ。 アスカの勘違いだよ、もちろん、僕のも有るけど・・・」
絶対勘違いじゃ無いと思うんだけどなー・・・ま、いっか。
それより、ちゃんとシンジに聞かなきゃ・・・
何て聞こう・・・困った・・・
後ろから、振り向いてくれないかな〜と視線を送っていると
ふと、シンジが振り向いた。
何て顔してんのよ。 私が話し掛けたいのが分からないわけ?
「どうしたの、アスカ?」
「ね、引越し、何時?」
「ん、3日後だよ。 学校の反対側に有るマンションなんだ
今日、マヤさんと行ってきて、決めてきた」
「そっか、本当に行っちゃうんだ・・・」
「うん。 何時までもここに居るわけにはいかないしね、
僕の居る部屋荷を物置き場に使えば、広くなるよね」
「何で、そういう発想になるわけよ!!」
「!?何怒ってるのさ?」
「バッカじゃないの? 勝手に一人で納得しちゃって」
「何だよ! 部屋が狭くてしょうがないって、いつも言ってるのアスカだろ?」
「うるさいわねえ、あんたって本当、最低ね。自分勝手」
「何だよ、アスカの言ってること、無茶苦茶だよ!自分勝手はそっちだろ?」
「あんたに人の気持ちなんて理解出来ないんでしょうね」
「そのまま、そっくりアスカに返してあげるよ」
「はぁ? あんたと居ると、不快指数が上がるわ」
「後3日の辛抱だよ、すぐに消えるから」
「くっ・・・この・・・馬鹿シンジ!!」
「はいはい、僕はどうせ馬鹿ですよ」
「3日も我慢出来ないわ、今日から3日ヒカリの家に泊まる」
「あっそ、勝手にしてくれよ」
はぁあ・・・
どうして、シンジと話すと、ああなっちゃうんだろう・・・
最近はあんな風に怒ったりしない様にしてたのに・・・
馬鹿は私・・・
我侭なのも私・・・
自分勝手なのも私・・・
あぁ・・・自己嫌悪・・・
すれ違う人や、たまたま目が合ってしまった人達から、『お前が悪い』と言われている
様な気がする。
悪いのは私。 それは良く分かっているんだけど・・・。
ピンポーン
「はーい」
「ヒカリ? アスカだけど・・・」
「アスカ? ちょ、ちょっと待ってね、今開ける」
プシュッ
「どしたの? こんな時間に・・・ってアスカ?」
「う・・・うぅ、、くっ・・・」
ヒカリには少しうつむいていたせいも有り、前髪が鼻先までかかって居てアスカの顔は見えなかった。
でも、すぐに泣いている事が分かった。
嗚咽にならない、押し殺した声がより一層、その嗚咽を感じさせる。
理由も聞かず、ヒカリは泣きそうになる。
「アスカ・・・何泣いてるの?
と、、取り合えず入って!」
部屋に入ると、アスカはすぐに洗面所に篭ってしまった。
彼女に限って早まった事はしないだろうと思っていても、ほんの2分、3分の静寂にヒカリはそわそわと不安を隠せない様子だ。
暫くすると、スッキリした顔で出てくるアスカを見て、ホっと胸を撫で下ろす。
「どうかしたの?」
「ん・・・喧嘩、しちゃった」
「ふむ。 理由・・・聞けた?」
「ううん。 聞こうと思ったんだけど・・・」
「だけど・・?」
「聞く前に喧嘩になっちゃって・・・」
「ふむ。 電話・・・しようか?」
「良い」
「どうして、心配してると思うよ?」
「心配なんて・・・してないよ」
「絶対してると思うけどな」
「あの、シンジが?」
「あの、碇君だからしてるんじゃない」
「・・・」
そんな碇君だから好きになったんでしょ?と言いながら、電話帳をパラパラとめくるヒカリ。
バツが悪そうに視線をあらぬ方向へ向けて黙るアスカ。
「ん、あ、碇君? 洞木だけど、うん、そう」
「んーと、アスカ・・・来てるから」
「ん? うん。 そうね、取り合えず今日は遅いから今日はうちに、うん、分かった」
「うん・・・うん・・・」
「碇君、アスカと話す?」
「うん。 ちょっと待ってね」
自分の名前が出た途端、混乱してしまい、ついさっき喧嘩した事の弁解をあれこれと考え始めた。
核心は聞けない・・・
と、、取り合えず謝ることかしら・・・
でも、そんな風にしたら気持ちがバレちゃうじゃない!
ぐるぐると考え始めてしまったアスカの意識をヒカリの大きな声が遮る
「アスカ! 出ないの? 切っちゃうよ?」
「........って、ぁああ、待って! 出る!」
「出るって、うん、代わるね」
「し、、シンジ?」
「うん。 うん。」
暗い顔が一転して明るくなったのを見て、ヒカリはやれやれと言ったゼスチャーをする。
視界にそのゼスチャーは入っているハズだが、まったく見えてない様にアスカは頷いている。
何だか、自分がこんなに心配しているのに勝手に解決しちゃって、
少し腹立たしいので、紙飛行機を作って投げてみる。
命中!.......が反応は無し.......
「そうよ! 私みたいな良い女に向かって言う言葉じゃ無いわね。 反省しなさい、ふふ」
「じゃ、今日は泊まるから。 明日買い物付き合いなさい、良いわね」
「よろしい、じゃ」
電話を切って振り返った笑顔がやけに晴れ晴れしているのに、更に腹が立ったヒカリは
無言で枕を投げつける。
「いたっ、ふふ、向こうから謝られちゃった」
「あら、そう。良かったわね」
「な〜に、怒ってるのよ?」
「別にぃ?
大体ねぇ、最後の言葉は何よ」
「最後のって?」
「良い女に向かって言う言葉じゃ無いとか何とか」
「ああ、それね」
「そんなんだから、誤解されたり喧嘩になったりするんじゃない」
「さっきのは、わざとだけどね・・・相手がアイツだと、つい、ムキになるときが有るのよね。」
「悪い事だと思うわ」
「分かってるんだけどね・・・いつも、やっちゃったって思うし・・・」
「で! 人の家の電話でデートの約束まで取り付けた分けぇ、へぇええ」
「こ、、事の成り行きでね、、『何かするから』なぁんて言うから、買い物に付き合わせようと思っただけよ」
「あ、ヒカリもトウジとのデートの約束うちでする?」
ニタァ〜っと笑うアスカを見て、今日買ってきたお客様様の枕を投げつける
そのまま二人は暫く男の子の様に枕投げをやりあい、深い眠りに就いていった・・・
「へ? じゃ無いわよ。だから、私はアンタの事好きになっちゃったのよ」
「何でさ?」
「何で・・・ってアンタ、馬鹿ぁ!?」
「分かんないよ」
「人を好きになるって理屈じゃ無いでしょ?」
「・・・ごめん、そういうの、、、良くわかんないんだ・・・」
「だから、アンタはニブって言われちゃうのよ」
「ほっといてよ!」
「な・・・何怒ってるのよ」
「ニブなんて言うからだろ?」
「・・・ごめん・・・」
「それに僕はアスカの事好きじゃ無いし、
好きって言われても共鳴するかどうかなんて分かんないだろ」
「え?」
「そっちこそ、え? じゃ無いよ。 好きじゃ無いものは好きじゃ無いもの」
「・・・そう」
「僕は綾波が好きなんだ」
「何いってんのよ! ファーストは死んだの! 分かってるでしょ?」
「死んでるか、生きてるかなんて関係無いだろ?」
「大有りよ! 死人に恋してどうするわけ?」
「じゃあ、アスカは結婚した後、旦那さんが死んじゃったら直ぐに再婚出来るって分け?」
「そ、、そうじゃ無いけど・・・」
「死んじゃった人にだって想いは募るし、思いは止めれない物なんだよ」
「でも、、、でも、、、ファーストは死んだのよ・・・」
「知ってるさ」
「・・・んな・・・」
「え?」
「あんな、人形のどこが良いって言うのよ!!」
パンッ!
乾いた音が夕暮れの公園に響き渡る。
小さな子の手を引く親が怪訝そうにこちらを見ているのが分かる。
それも、そうだろう。
夕暮れとは言え、人の居る公園で思いっきり頬を叩かれたのだから。
「何・・・すんのよ・・・」
アスカは泣いていた。
泣くのを我慢しようとすればするほど、乾いた頬を一筋、また一筋と細い線を作っていく。
「お前なんて・・・嫌いだ」
「シンジ?」
「嫌いだって言ってるんだよ」
「な・・・に言ってるの・・・」
「高飛車で、我侭で、料理も出来ない、文句ばかり言う、」
「やめて!!」
「今まで散々ヒトをコケにしてきただろ?」
「してない! シンジをコケになんてした事無いよ!!」
「嘘付くなよ、ついに嘘つきにまでなったのか?」
「・・・最初は・・・そうだったわ・・・馬鹿にした事も有った」
「ほら?」
「・・・だけど! 今は違う!」
「今は違う?」
そういうと、シンジはジワリ、ジワリとアスカに近づき、ゆっくりその両手をアスカの肩にかける。
「ファーストの事は悪かったわ・・・確かにシンジの言う通りだと思う」
「・・・・」
もう、シンジは何も聞く気が無い様に、視線を固定させ、その目は淀んでいた。
アスカの肩にかかった両手は肩で留まる事無く、アスカの細く白い首を締め上げる。
「や・・・めて・・・シンジ・・・」
声にならない声で、必死に抵抗しようとするが、体にまったく力が入らない。
公園の中に居る人も、こちらに気づいているがニヤニヤ笑っているだけである。
「たす・・・けて・・・」
全てが暗闇に溶けていく感触。
何もかもがうっすらとした蜃気楼の様に見え、痛みだけが体を突き抜ける。
「シン・・・ジ・・・」
「ハァッ」
「ハァ・・・ハァ・・・ゆ・・め・・・」
アスカは、夢と気づいていてもその怖さにまだショックを受けている。
何故こんな夢を見たのか。
ゆっくりと深呼吸し、時計を見るとまだ午前4:00だった。
「夢なんて、最近全然見ないのに・・・」
そう呟いて、目尻を指で押さえると溜まっていた涙が指の先を濡らす。
自分の指先に付いた涙を見て、改めてその恐ろしさを思い出し次々と涙が溢れてくる。
もう、何回寝返りを打っただろうか。
ふと、気づくと床を真っ白な光が燃やしている。
「朝だ・・・」
長いトンネルを抜けたような感覚で、横になりながら朝焼けに目を細める。
そして、新しい一日が始まる・・・