かすかに小鳥の鳴き声が聞こえる。
目を空けると、薄っすらと明るい部屋
いつもシンジ達が寝ていた部屋
そして、もう見ることも無いだろう天井
目が覚めると、すぐ横に愛しい人の寝顔がある。
誰よりも大切な女性、自分に最も近いところにいる少女
半身ともいえる双子の妹
シンジは起こさないようにそっと唇を重ねた。
しかし、遥か昔の御伽噺のころから決まっている。
眠り姫は王子様のキスで目を覚ます
童話と違うのは、この古い古い屋敷という城には、二人がずっと住んでいたこと
そしてもうこのお城には二人は住まないということ
ふ・た・り
第
1話外伝「旅立ちの朝」
横でなにかが動く気配に、少女は次第に意識が覚醒して行く
そんなところに、唇に柔らかい、濡れた感触が触れる。
毎朝感じている、馴染み深いもの
しかし、今日の朝はいつもと違って一層心地よい気がした。
下腹部に鈍い疼きがあって
身体中の彼の印が少し火照る
「レイ」
「ううん・・・?」
レイはは眠そうな目をシンジに向けて、寝ぼけ眼に微笑む。
「レイ、体・・・平気か?」
「大丈夫・・・だと思う」
「だと思うって・・・腰は痛くない?」
「大丈夫、ワタシ達回復早いから……」
「まぁ、そうなんだけどね、ちょっと気になって」
「アリガトウ」
「ん」
心配無いといわれながらもなんとなく気になって、シンジはレイの腰の辺りを優しくさする。
そこにはいやらしさも性的なものもなく、ただ労わりと少しでも癒そうという真心と愛情がある。
「とても気持ち良かったの。これまで何度も一緒に寝て、何度も互いに絡み合い、高みに進めてたのに」
「そうだね…………これまでとはまるで違ったよね」
今までとは違う、一線を超えたこと
初めて彼女の全てを知った夜
それは、嬉しくもあり
恥ずかしくもあり
暖かくもあり
離れた今はもどかしく
どこか複雑な想いがある。
今までぬくもりを分け合っても決して越えなかった一線
それを越えてしまった二人
もう戻れない
何故かそんなふうに思える。
ともに共通の友人である赤毛の少女を思い出していた。
けれど、この愛おしさは限界を知らない
互いを求める心は尽きることが無い。
ただ二人になってしまった今、もはや戻ろうという思いも無い。
ボクは一体
ワタシ・・・どこまで
「シンジ」「レイ」のことを好きになるのだろう?
「私、ちょっとびっくりしたの………」
「ん、なにが………?」
「いろいろと……」
レイの意味ありげにクスクス笑う声が耳元で聞こえて、シンジは少し照れてしまい
「そう、でもどんな?」
逆に反撃に出ようと聞き返す。
「たとえば、シンジは実は結構情熱的だったんだとか……」
「そ、そうかな?」
「ええ、あとけっこうガムシャラで、優しくもしてくれるけど、こっちが大丈夫と分かったら加減してくれないとか」
「あれ?そんなにひどくした?ボク」
「いいえ、ひどくは無かったわ。ちゃんと気持ち良かったの………でも、初めてにしては強烈だったわ」
「そ、そう?」
「ええ、もしこれまでの情事でワタシの肢体が慣れていなかったらきつかったと思うの」
「それはよかった。ボクの御かげだよね」
「そうね、これまでも変質的なまでにワタシの肢体を、しかもこれまで女にすることなく開発してきたシンジのせい」
「あうっ」
どうも、こんなときは女性のほうが強いのか?
果てまたレイとシンジの関係がそうなのか?
どうにも押されてばかりのシンジ
しかし、どこかぼんやりしていて
何故か何時もより二人が近くかんじて、とても愛しくて
まだ夢の中にいるような感覚は続く。
「もう、朝なんだね……」
「ええ、今日が出発の日」
「まだ、ここでこうしたい?」
甘えた声で言う彼女を抱きしめる。
腕の中のあたたかなぬくもり、彼女の柔らかな身体、そのかぐわしい香り
蒼銀の髪に顔を埋め、堪能する。
広い胸に顔を押し付け
その逞しい腕に抱かれ、彼の心臓の音を聞いていると、こころがホントウに穏やかになる。
愛しい人
朝の光がカーテンの隙間からもれ。乳白色の光は優しげに部屋を色鮮やかな空間へと変えてゆく
「どこでもいいわ。アナタとこうしていられるなら」
「レイ」
「アナタがいることが大事、だから……」
「ん、絶対離さないよ。もう、たとえレイがボクをいやがっても」
「ん」
再び唇を合わせ、深く深く舌を交え唾液を交換し
互いの口内を味わう。
「そろそろ起きないと」
腕をほどこうとするシンジにレイは抵抗してみる。
まだ、このままでいたいから
「もう少しだけ」
「う〜ん・・・」
彼の胸にしがみつき、あたたかい肌に頬を寄せる。
彼の困った顔も好きだと気づく
どんな顔もどんな仕草も
その生き方も
彼の全てが
「シンジが大好きなの」
だから
ワタシを見せたかったのかも知れない
初めて彼の全てを知った夜
シンジのことが・・・これまでより頃の何百倍も、何千倍も好きになった
どこかこれまでより甘えるようになったレイ
それまではどこか遠慮があったのに………
でもそれが嬉しかった。
初めて彼女の全てを知った夜
ボクはレイが、これまでの何百、何千倍も大事に、愛しくなった。
「愛してるじゃなくて?」
「大好き」
「なにそれ?」
そして、三度目の口付け
「目、閉じないの?」
「いいの、見たいから」
ずっと見ていたいから
「そうだね」
大好きな互いを
勢いよくカーテンを開くと窓から飛び込む朝陽で光があふれる
その眩しさに目を細めて
さあ
もう一度キスしよう