続・黒猫天使(その6)


原作者:DARU
作 者:齋藤秀幸


さっきから、何と無く、ぎこちない空気が流れている・・・・・


『煽ててる訳じゃ無いよ!!』...僕がつい大きな声を出してしまってから、アスカはすっかり元気をなくしてしまった。
やっぱり気にしているのだろうか・・・・・・

今、アスカは俯き加減に僕のノートを添削している。

・・・・・・
・・・・アスカ・・・・・

 ・・・

「全問正解...6問とも、ちゃんと出来てるわよ。
一番簡単な1問目にあんなに梃子摺ったのに・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・まぁいいわ、今日はこれでお終いね・・・・
・・・・・・・・ノートにいろいろ書いちゃったから、後で書き直しときなさいよ...」

「うん....」


・・・

アスカはノートを閉じると、両肘をテーブルについて両手を組み、その上に頤を載せた。
ほんの少しだけ僕から顔を背けて・・・・・
・・・・・・多分、テーブルの花に視線を向けているんだと思う。

そして、少し間を置いて、小さく、 本当に小さく溜息を吐いた。
・・・・・・・多分、溜息を僕に気づかれたくなかったんだ。

問題が解けたかどうかなんて、どうでも良かった。
そんなことより、アスカの様子が気になって仕方がない・・・

問題を解いている時は、隣に座っているアスカを気にしながらも、それなりに問題に夢中になって解いていたけれど...全部終えてアスカにノートを渡してからは、視線をアスカに合わせないようにしながらも意識だけはずっとアスカに集中させていた。

・・・・・・・・・僕は何故アスカが小さく溜息を吐いたのかに、思いを巡らせた。
わざとらしく大袈裟に溜息を吐くことはしょっちゅうだけれど、こんなふうに溜息をつくところは始めて見た。
こういう溜息が、アスカの本当の溜息なんだろうけど。。。


「・・・・ねぇシンジ............」
アスカは静かに顔を上げて僕の方を向き、僕の目を見詰めた。
・・・・・・・見詰めたといっても、何だか弱々しい視線だ・・・・・・・

思わずアスカを見詰め返すと、アスカはスッと視線を外してしまった。

・・・・・・・・・手の上に載せていた頤が少し赤くなっている・・・
本当にアスカは色白だから・・・

また・・・鼓動が早くなって来てしまった。
こんな事でいちいちドキドキしてしまうなんて・・・・本当に自分が情け無くなるよ。

添削を終えた僕のノートを、アスカは意味もなくパラパラと捲っている・・・・・・・・・

・・・・・・ミサトさんは『欧米人は目を見て話す』なんて言っていたけれど......

 ・・アスカ・・・・

・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
今、アスカがどんな気持なのか、何と無く察しがつく。
・・・いくら僕が鈍感でも、それくらいの事はわかる・・・・

「・・・・・なに?」
緊張しながらも、なるべく優しい言い方で・・・・・・泣きべそをかいている子供に話し掛けるかのように、そっと、アスカを促した・・・・・・

「・・・・・・・・・・・・シンジ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アタシのこと・・・・煽ててないんだったら...」
アスカは手を止めてノートを閉じると、そのままノートを丸めて両手で握り締め、軽く自分の胸を叩いた。

そんなアスカの仕種を見詰めながら、握り締められた僕のノートに、僕自身を重合わせてしまった。
・・・・アスカはわざと僕のノートを握り締めているのかな・・・・それとも無意識のうちに握り締めているのだろうか・・・・・・・

・・・・・
 ・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・   ・       ・
とにかく、アスカがそのことを聞き返してくるって事は、やっぱり僕の気持ちを確めたい訳で...それは、つまりアスカも僕のことを好きだという事なんだ......
・・・・・・・それとも、ここまで引張っておきながら、さっきみたいに土壇場で茶化すつもりなんだろうか...

さっきから僕の鼓動は速くなる一方だ・・・
顔も熱い。もう・・・真っ赤になっている筈だ。

とにかく・・・今が、言うチャンスだ。
・・・・・・・・・アスカは、僕に『好き』と言わせようとしているのかも知れないし・・・・・・・・・・

ミサトさんも、アスカは僕の言葉を待っているんだって言っていた。
・・・このことは、僕に少し自信を持たせてくれている・・・


アスカから顔を背けて、鼻を鳴らさないように注意しながら、ゆっくりと深呼吸した。
・・・・・息が荒くならないように意識してしまったせいか、深呼吸は逆効果で、クラクラしてしまった・・・・・

・・・でも、こういう時に深呼吸をするのって、本能なんだな、きっと・・・


あの・・・・・・・煽ててなんかいないよ・・・・・・・アスカ、本当にかわいいし・・髪も、とても綺麗だし・・・」
なるべく優しく話し掛けた。
緊張して言葉が上擦らないように、息を荒げないように、気を付けながら・・・・・
相変らず、僕の顔は真っ赤なんだろうけれど・・・・・・・・・・・・・・・・

「アスカ...かわいいよ・・・・・・・・・・・・」
優しく・・・努めて優しく僕はそう言った。
・・・『想いを篭めて』と言いたいところだけれど、吃ったり上擦ったりしないように言うのが精一杯だ・・・

・・・・・
何か言い掛けたまま、アスカは下を向いて黙り込んでしまった。

顔が長い髪に隠れて、表情が見えない・・・・・・・

・・・・今日のアスカは何と無く弱々しくて、なんだかいつもより小さく見える。
そんなアスカを前にして息が荒くなるのを堪えている僕は、きっと傍から見たら変態みたいに見えるだろうな・・・・・

さっきから、アスカを抱きしめたい欲望がムラムラと沸いてきている。
アスカを抱きしめて、頬擦りしたい。
そして、さっきみたいにアスカの髪を優しく撫でてあげたい。

アスカ・・・・・
・・・抱締めたいよ・・・・・・・・・・

 ・・・・・・ ・  ・
・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・
再び、深呼吸をした。
アスカに気づかれないように・・・・・・・

「ぁ・・・・・・・・・・・アスカの事、かわいいと思ったから『かわいい』って言ったんだ。
煽てたわけじゃないよ..本当に....僕なんかに言われても嬉しくなんかないかも知れないけれど、アスカは本当にかわいいよ・・・・・本当に、何て言ったらいいんだろう・・・・・とにかく........あの・・・・・かわいいって言ったら失礼かな・・・アスカは美人だよ・・・・・・ホントに、モデルみたいだ............あの、上手く言えないけど..........とにかく...」

自分の鼓動を耳の後ろで感じる。 顔を真赤にして、引き攣らせている・・・・緊張のあまり、どうしても顔が引き攣ってしまう。
こめかみの辺りの生え際が脈打っているのが分かる。
おまけに呼吸は荒くなる一方で、アスカに息が荒いのがバレないように押え込むのに精一杯だ。
呼吸音がアスカに聞こえないように注意しながら胸と肩と腹を最大限に活用して大きく息をしている自分が、何だかとても間抜けに思える。

本当は優しく微笑みながら言いたいところだけれど・・・・

しどろもどろになりながらも、声が上擦ったりしないように気を付けるのに精一杯だ。
・・・・何を言っているんだか、自分でもよく分からなくなってきた・・・・・・・・・・

・・・・・『モデルみたい』なんて言ってもあんまり喜ばないんだよな・・・欧米の女性は・・・・・・加持さんから聴いていたのに・・・・言ってしまってからそのことに気づいた・・・・・・

・・・・・・・・・・心臓をバクバクさせながら、息を殺しながら、そんな事を考えながらも、アスカをとてもいとおしく感じていた。
自分の隣でこんなにしおらしくなっているアスカを見詰めていると、ますます自分の感覚が分からなくなって来た。
    ・・・・・・・半分意識を失いかけているような、妙な感覚だ・・・・・・

アスカ・・・・
今迄、口が悪くて態度のデカイところしか印象がなかったのに・・・・・・

・・・他の同級生の女の子と比べて圧倒的に華奢な体付き・・・・寝そべってスナックばっかり食べているのに・・・体質なんだろうか・・・・
造形美術には疎い僕でさえ、純粋に『美しい』と思ってしまうような、均整の取れた顔立ちや身体の線。
所々に微かな傷跡があるけれど、白くて肌理の細かい肌。澄切った青い瞳。・・・・・僕も男のくせに変に肌が奇麗だってよくからかわれるけど・・・・
それに、栗色の豊かな髪・・・・・アスカは平均的な日本人より、何万本だか忘れちゃったけれど、とにかく髪の毛の本数が多いらしいんだ。
・・おまけに運動神経抜群で14歳で大卒、しかもトライリンガル・・・・・・・・・・

僕は・・・・・・・・・・・
・・・・僕には不釣合いかも知れないけれど・・・・
でも、どうしようもなくアスカを好きになってしまったんだ。

どうしようもなくアスカが好きなんだ。

今度もし、アスカの身になにかあったら・・・・
・・・・・もし弐号機がピンチになったら、僕は自分の命に替えてでもアスカを守りたい......



・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
アスカは微かに鼻を鳴らして笑った。
「シンジ、随分と冗舌になったわねぇ....」

「だから!」
頭に血が上っていたから、ついさっきみたいに語気を荒げてしまった。
・・・・『命に替えてでもアスカを守りたい』なんて、僕の頭の中で勝手に飛躍していたアスカへの想いが、見透かされてしまったような気がして....

「ごめん・・・・アンタがそんな事を言うなんて、思わなかったから・・・・・・

・・・・・

アスカは自分が座っている椅子の脚を掴むと、椅子ごと僕に向けて座り直した。
「ねぇ・・・・・・じゃあさ、シンジはアタシの事、どう思うの? かわいいだけじゃないって、言ったでしょ? だったら・・・アタシの事どう思うの・・?」

今度は僕の目を真直ぐに見詰めて、アスカはそう問い掛けてきた。
からかっている訳でもなく、怒っている訳でもなく、姿勢を正して...

「・・・・・」

その真摯な視線に、僕は思うように言葉を返せなかった。
真赤になっているに違いない自分の顔を想像して、なんだか自分が腹立たしく・・・・・悲しくなってしまった。
自分の胸が心臓の動きに合わせてドクン、ドクンと上下しているのまで分かる。
思いっきり深呼吸をしたくて仕方がない。

・・・・・・・
つい、口をパクパクとやってしまった。

さっき語気を荒げた勢いで『好きだから』って言い掛けたのに・・・・
本当にその言葉が咽まで出掛かっていたのに・・・・・・・・・

こんなに・・・・・アスカに面と向って『好きだから』なんて、言えない。
...こんなに緊張してしまうなんて。。。。

さっき、勢いで言っちゃえば良かった・・・・

「・・・・・・・・・・」


・・・・・・・



・・・



「・・・・・・・・・・・・・・・・さ、もう寝ましょ。
・・・・・・・・・・・・夜更しはね、美容の敵なのよ........」
アスカは物憂げに小さく笑うと、椅子を引いて立とうとした。

・・・・・・・
 ・・アスカ・・・・・
・・・・・・・・・・・・・ ・  ・   ・    ・
ぁの・・・アスカ!」

「うん?!」

アスカは、今度は打って変って幼子のように無邪気にニコリと笑うと、ちょこんと椅子に座り直して、僕の方に身を乗りだした。
アスカの髪がサラサラと揺れて、ほんのり温かくてなんとなく甘い匂いが、僕の鼻腔をくすぐった。
・・・・・・アスカの髪の匂いに、アスカの体臭・・・・というか石鹸の匂い・・・・も混じっているような気がする・・・・・・・
にっこりと眩しいほどに輝いた笑顔と、僕の煩悩と股間を刺激する匂いで身を乗り出して迫ってくるアスカから逃げるかのように、思わず僕は身をのけ反らせてしまった。。。


       ・

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<続・黒猫天使(その7)へつづく>


作者コメント:予告編を読んでメールを下さった皆様、本当にどうもありがとう御座いました。m(__)m
予告編の分は次回に廻します。ちょっち話が長くなってしまったので・・・・(汗)
最後まで書き切りますので、請う御期待(^^;)

それはともかく、小説としての完成度は低いので、感想はくれなくてもいいです・・・・・
それでも、感想書いてやる!・・・と仰る方は、[こちら]に書き込んで下さいぃぃ。。。

December 7,1997

原作者より:シンちゃ〜ん、歯磨いたぁ? お風呂入ったぁ?(byミサトさん風)


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