2020年9月2日(Thu) 快晴 お昼が終り午後の授業が始るのを待っている。 始業開始のチャイムが鳴って既に15分が経過していた。 前の席に座っているトウジが、僕の方に振り向いて トウジ:今日は実習やろか? と嬉しそうに話かけてきた。 このクラスには、トウジ、洞木さん、綾波がいる。 僕とトウジは、中央の列、洞木さんと綾波は、窓側の席にいる。 ケンスケはJSSDF(戦自)の士官学校に入隊した。 今や綾波は、学校中の男子や女子の憧憬(どうけい)の的であった。 高校生になってからの綾波は、囂(かしがま)しいほど明るくなった。 昔、アスカは綾波の事を、陰気、朴念仁とか言って嫌っていたけど、 今の綾波を見たら驚くだろうな。 トウジは洞木さんと交際している。 綾波はあんなに持てるのに、彼氏を作ろうとしない。 僕はというと・・ 高校生になって何度か女の子とデートした事あるけど、 只、それだけ。 僕に彼女はいない。 女の子とデートしていても、何時もアスカの事が、頭から離れなかった。 未練がましいね・・・・ 始業チャイムから30分経って、クラス担任が教室に入って来た。 担任 :今日は、先生の都合で実習とします。 それから昨日手続で、このクラスに来れなかった生徒がいるんだけど、 今から新しい仲間を紹介するわね。 トウジ:何や、別嬪(べっぴん)やったらええな。 と僕に向って言った。 洞木さんはトウジを睨んでいた。 担任 :入って! 僕 :・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ トウジ:げえっ!! 青い瞳。 黄金(こがね)色の髪。 懐かしい匂い。 担任 :惣流・アスカ・ラングレーさんです。 アスカ:よろしく。 僕とトウジは、固まった。 担任 :碇レイさん、手を挙げて。 レイ :はい。 と綾波が手を挙げた。 担任 :惣流さん、碇レイさんの隣に座って下さい。 アスカ:はい。 アスカは綾波の元に歩き出した。 途中トウジが、ヨウッ!と手を差し出すと アスカ:生きてたの? とトウジの手と軽く合せた。 僕は微笑みながらアスカに話掛け様としたが、 アスカは僕を見向きもしないで洞木さんに アスカ:ヤッホー と手を洞木さんと合せ、綾波の隣の席に座り アスカ:レイ、久しぶりね。 レイ :アスカさんも元気そうね。 と話し始めた。 担任 :惣流さんは、アメリカの大学院で博士号を取得して、 国立遺伝子工学研究所で・・・・ 僕は担任の言葉も耳に入らなかった。 ショックを隠し切れず、足が震えていた。 終了のチャイムが鳴った。 僕は意を決し、アスカの元に行こうと席を立った。 綾波の隣の席にアスカが居ない。 僕は綾波の傍に行き 僕 :レイ、アスカは? レイ :あ、お兄ちゃん・・アスカさんなら手続きがあるとかで帰ったよ。 僕 :・・・・ レイ :さて、今日はこれで御仕舞(おしまい)。 お兄ちゃん一緒に帰ろう! と微笑みながら僕を見る。 僕は苦笑いしながら 僕 :鞄とってくるよ。 *************************************** 僕と綾波は、学校からの帰宅の途を一緒に歩いていた。 綾波は僕の事を兄と呼び、僕は綾波の事をレイと呼ぶ。 でも心は何時も綾波と呼んでしまう。 学校では仲のよい兄弟として通っている。 僕と綾波の事を知っているのは、トウジと洞木さんだけ。 中学生の頃の級友は、疎開したままや、第3新東京市の消滅で、皆、帰らぬ人となった。 レイ :お兄ちゃん! 僕 :えっ? 慌てて綾波の方に振り向いた。 レイ :もう、人の話し聞いてるの? 綾波は少し拗ねた様に言った。 僕 :ちょっと考え事をしてたんだ。 今日さ、遊びに行ってもいい? レイ :あー、やっぱり聞いてないね。 今日は、ヒカリさんに料理を教えて貰う日なのよ。 綾波は洞木さんをヒカリさんと呼ぶ。 戦後、綾波は劇変している。 お肉を食べ、料理を作り、お洒落をし、男の話をし、ドラマの話をし、カラオケに行き、 失われた青春を取戻す様に楽しんでいた。 青春を謳歌していた。 僕 :そうだったね。 レイ :お兄ちゃんも来る? 僕 :遠慮しとくよ。 トウジに悪いからね。 僕は綾波と別れて、スーパーに行った。 今日はミサトさん宅に行かなくていい日だ。 食材も適当に買って家路に向った。 戦後、4年。 少しは街も復興したとはいえ、この街は元々、使徒迎撃要塞都市として開発された為、 Nerfが解体された今となっては、何の産業もない街。 この街で曾(かつ)て生活していた人の殆どは、Nerfに関係のある人だった。 僕の住むマンションは郊外に位置した為、爆風による影響も免れた。 けどマンションの周りに在った税務署、市立医療工学試験所等は、何時の間にか解体されて、 今は竹林となっている。 マンションのエレベータに乗った。 ミサトさんと同居を始めた頃、僕は6畳で生活していた。 それがアスカの来襲により、隣の納戸に押込まれた。 今、一人で生活する様になって、ミサトさんが居た7.5畳の部屋で寝ている。 掃除が大変だったけどね。 でもアスカの居た部屋は、悲しくなるので4年間襖を開けた事がない。 この頃は居間で寝る事も多く、一人で辛い時は、 ミサトさんの部屋に入れてもらい、子供達と寝ている。 週3回、ミサトさん宅にお邪魔する時は、そのまま泊っている。 友達も沢山できたけど、やはり夜一人は寂しい。 ミサトさんが結婚した時、 このまま僕も一緒に暮さないかと言ってくれたけど、 3人で生活した部屋から出るのが嫌で、僕一人ここに残った。 アスカが居た部屋から離れるのが嫌なんだ。 ミサトさんが1階に降りたのは、 お腹に子供がいて、11Fまで行くのが大変だからだった。 18歳。 親にしては、給与から扶養手当が打切られる年になるのだが、 やはり普通の子供は、親と一緒に生活している。 僕は父も母もなく、唯一の肉親といえば綾波。 家族の様に接してくれるミサトさんと加持さん。 とても感謝している。 でも満たされない。 アスカが居た頃は、料理、掃除、洗濯と扱(こき)使われていたが、 こんなに心が痛い事はなかった。 アスカ・・・ 久しぶりに見たアスカ。 でも・・・あんなに近くに居たのに、 アスカの心には僕が居ない様で、遥か遠くにアスカが居る感じがした。 また明日、学校でアスカを見れる事が、嬉しい反面、辛い。 僕は11−A−2号室の自動ドアの前に立ち、カードキーを挿し込んだ。 ドアが開いた。 /* 襲来 I miss you! & Asuka's attack */次回、復讐