いつものように、彼はこの病室に現れた。
わたしは、彼を知っている。
いつもいつも、わたしの顔を見詰める彼の顔は穏やかで。
その目の端に光る涙も、枯れることはなかった。
あの戦いで、わたしは、すべてを置いてきた。
誇りも、プライドも、憎しみも、悔しさも。
心も、愛も。
彼はいつも、わたしに語り掛ける。
わたしは彼の問いに答えることは、許されない。
それでも、彼は止めることはなかった。
雨が降っていても、雪が大地を覆う日でも。
笑顔を絶やさず、訪れる彼。
無関心を装って、わたしの瞼は貝のように閉ざされたまま。
いつもいつも、わたしを見ていてくれる彼。
でも、わたしは彼を直視できない。
自分で自分を許せない。
ここは寒い。
わずかなともし火すらない。
わたしはいつも、震えている。
死への恐怖。
死への羨望。
人形でも感じることはあった筈。
弐号機と一緒に戦った時、私が感じたあたたかみは。
幼いころの思い出。
母さんとの死別。
わたしの首を絞める力強さ。
生きる希望を持った、命の激しさだった。
死への回帰の果てに、その火も消されてしまった!
あの日、わたしに不可欠だったモノまで、捨ててしまったから。
今はまだ、自分が分からない。
わたしにあるのは、シンジの笑顔だけ・・・。
あれは、そう。
ずいぶん昔のことだった。
まだ、この世界にシンジがいた時。
世界中の人々が、原始の海へと還っていった。
わたしとシンジは二人きりだった。
ファーストさえ、そこにはいなかった。
彼は、わたしの首を絞めながら泣いていたわ。
何故、わたしを殺さなかったの。
何故、わたしを置いていってしまったの。
ここには誰もいない。
何もないの。
一人は寂しい・・・。
わたしから近づいても。
どれほど近づいても、彼の心は遠すぎて。
近くにいる気がしない。こんなに近くにいるのに。
ああ・・・。
まるで、とても悲しい夢を見ているようだわ。
何一つさえ、自分の自由にはならない。
嫌な女。
こんな女なんてほっといてくれればいいのに。
わたしは素直になれない。
ほら、その手は何。
わたしを殺す、その手は何。
瞳に浮かべた、その涙は何・・・。
あたたかい手。
あたたかい涙。
あたたかい唇。
―――あたたかい心。
シンジ、もう行ってしまうの・・・。
ここからも、永遠に遠ざかってしまうの。
ああ、わたしはもう一人は嫌・・・。
シンジは、わたしに、何を望むの。