「しっかし、ここん所何しとったん?」

「え、あ、うん」

「シンジも惣流も居なかったしな」

「そや、そや」

「ちょっと、色々有って・・・」

「ま、ええわ、今日から学校来れるんやろ?」

「・・・」

「シンジ?」



シンジは立ち止まると、俯いた。

そんなシンジを見て、アスカが口を挟む。



「ま、そんな話は良いじゃん、早く行かないと遅れるよ」

「そやな、行こか・・・」



再び歩き始めた後、アスカはそっとシンジの横に来ると小声で話し掛ける。



「ちょっと」

「ん?」

「どうすんのよ?」

「何が?」

「何が、じゃないでしょ?」

「ああ、トウジ達にどう説明するかって事?」

「そう」

「・・・どうしよう」

「はぁあ・・・どうしようって・・・」

「素直に話すしか無いかな・・・」

「うーん・・・」

「取り合えず、夜話すよ」

「うん・・・」



暫く歩いた後、アスカはニヤリと笑うとシンジの前に滑り込む。



「ねねねっ」

「ん?」

「やっぱ、アレだよね?」

「何が?」

「私達、裸で寝た仲だよね?」



シンジはそれを聞くと、途端に顔を真っ赤にする。

アスカが声を上げて笑うと、早足になってトウジ達を追いかける。



「ちょっと、待ちなさいよ」

「うるさいなぁ」

「うるさいってどういう事よ!」

「朝から騒ぐなよ」

「き〜! シンジの癖に!」

「何や、また夫婦喧嘩かいな・・・」

「ちっ、、違うよ!」

「はい、はい」



必死になって弁解するシンジを見て、アスカは更に怒りのボルテージが上がった様だ。

こめかみを引きつらせながら、シンジの耳たぶを引っ張る。



「いててててっ」

「ちょっと、あんた!」

「何すんだよ!」

「何、必死に弁解してんのよ」

「はぁ?」



そんな様子をビクビクしながら見つめるトウジとケンスケ。

アスカはシンジの前に立つと腰に手を当てシンジを指差す。



「アンタっ!」

「何だよ!」

「夕べ私と一緒に寝たんだから、夫婦喧嘩って言われても良いじゃん!」

『えぇぇぇぇえっ!!??』



トウジとケンスケは頭を抱えながら固まりついている。

シンジはアスカを指して口をパクパクさせている。



「何、固まってるのよ?」

「そ、、そんな事ここで言わなくたって良いじゃないか・・・」

「シンジ・・・お前・・・」

「な・・・な、、、何もしてないよっ!!」

「何もしてへんって、アホかお前・・・」

「う・・・」

「今日分かったわ」

「な・・・何が?」

「シンジは裏切り者の上に、女とイチャつく理由で学校まで休む奴だったって事や」

「そ、、そんなぁ・・・」

「ばっかじゃ無いの?」

「何がやねん!」

「良いじゃん、好きな人と一緒に寝たって」

「えぇぇぇぇえっ!!??」



アスカの気持ちを知らないケンスケはショックの余り倒れそうになっている。

かろうじてトウジはアスカの気持ちを知ってたので、ショックは最小限だった様だ。



暫くショックで立ち止まったまま声も出せずに居たが、時間が無い事に気づくとトボトボと歩き出す。

歩き出した途端、アスカがシンジの腕に自分の腕を絡めてくる。



「えへへ〜」

「や、止めろよ、恥ずかしいだろ」

「良いじゃん」

「何や〜・・・出来てもうたんか・・・」

「で、、出来たって・・・」

「まぁね」



そう言ってアスカは絡めた腕とは逆の手で小さくVサインを出す。

相変わらず、ケンスケは表情が固まりついている。



「ん、トウジはアスカの気持ち知ってたの?」

「あ〜・・・ま〜・・・」

「な・・・、アスカ?」

「んー・・・ま、ちょっとだけ話しててね」

「・・・そうなんだ・・・」

「ま、良いじゃん、気にしなくたって」

「いや、良いけど・・・」

「ま、そういうこっちゃ、ケンスケはショックがでかすぎて放心しとるけどな・・・」

「ははは・・・」



暫く歩くと、ヒカリが路地で待っていた。



「おっす、イインチョ」

「おはよう、あれ、アスカと碇君」

「おはよう」

「学校、行けるの?」

「うん、今日からね」

「そっか、連絡無しで休んでたから心配したのよ?」

「ゴメン、ゴメン」

「って、アスカ・・・・」

「ん?」

「その腕・・・」

「ああ、うん、ま、そういう事・・・かな」

「へええ、上手く行ったんじゃない」

「あれ、委員長も知ってたの?」

「まあ・・・ね」

「トウジも委員長も知ってたんだ・・・」

「アンタが引越すって言った時、二人に相談したのよ」

「そっか」

「あ〜!」

「ん?」

「皆さ、今日の夜うちでパーティやるんだけど来るでしょ?」

「パーティって・・・何の?」

「最近、色々有ってさ、ちょっと騒ぎたい気分だから・・・かな」

「ふ〜ん・・・」

「ね、良いでしょ?」

「ま、ワシはええけど」

「ヒカリは?」

「う・・・うん、良いけど」

「相田は?」

「え、あ、うん、行くよ」

「じゃ、決まりね!」



そんな事を話しているうちにあっという間に学校へ到着した。



「しっかし、いつになったら授業らしい授業が始まるんやろ」

「何言ってるのよ、どうせ聞いてないんでしょ!」

「ま、そやけどな・・・」

「トウジの場合弁当食えればそれで良いんだろ?」

「学校最大の楽しみやからなぁ」

「イインチョの作った弁当だし・・・な?」

「あ、、、アホかお前、ワシはただ、残飯処理をやなぁ・・・」

「言い訳は見苦しいぞ、トウジ・・・」



ケンスケの眼鏡が怪しい光を放つ。



「う・・・、あ、、と、ところで」

「ん?」

「今夜シンジの家で何かやるんやっけ?」

「あぁ、朝そんな事言ってたっけ」

「・・・どこでやるんやろ?」

「さぁ・・・イインチョ知ってる?」

「ううん」

「シンジとアスカは・・・おらんか・・・」

「どこ行ったんだろ」

「さぁ、さっきまでおったけどなぁ、カバンも有るし」



丁度、教室にアスカが入ってきた。



「アスカっ」

「あ、ゴメン、ゴメン遅れちゃった」

「どこ行ってたの?」

「ん、ちょっとね」

「お、惣流、シンジは?」

「ん、ちょっと職員室行ってる」

「何か有った?」

「ん、さぁ・・・」

「そか、何かやらかしたんかのぅ・・・」

「んでさ、惣流」

「ん?」

「今夜何かやるんだろ?」

「ああ、うん」

「時間も場所も聞いてなかったからさ、どうしようかって話してたんだよ」

「えっと、時間は・・・6:00からかな、場所はうちね」

「何で6時やねん、今からやればええやんか」

「ん、午後はちょっと用事有ってね」

「そか、ほな、また夜に」

「ん、じゃ、アタシ行くわ」

「あれ、シンジは?」

「迎え行く、カバンは・・・これね」



アスカがシンジのカバンを持ち、その場を去ろうと歩き始めるとトウジがアスカの腕を掴む。



「何?」

「ちょっと、こいや」

「何よ」



トウジは教室の隅までアスカを引っ張ると、小声で話し始めた。

その目は真剣である。



「お前ら、何か有ったんとちゃうやろな」

「何が?」

「突然学校休む、職員室へ呼ばれる、これは何や」

「・・・」

「ワシが・・・パイロットに選ばれた時の感じと似てるねん」

「・・・」

「まさか・・・使徒・・・」

「違うわ」

「ほんなら、何でやねん!」



突然大声を上げたトウジの声に教室中の視線が集まる。

アスカとトウジの視線が交わる。



アスカはゆっくり視線をずらすと、また、小声で話し始める。



「今夜、話すから」

「・・・」

「大丈夫、使徒とかじゃ無いわ」

「・・・そか、分かったわ・・・」

「トウジ・・・ごめん、夜、話すから」

「・・・もう、ええわ」



アスカはシンジのカバンを抱えると、走って教室を飛び出した。

トウジは、皆の所へ帰ると憮然とした表情で立ち止まる。



「ちょっと、鈴原!」

「・・・」

「アスカに何したの?」

「何もしてへんがな」

「嘘!」

「嘘とちゃうわ・・・」

「なら、何で・・・」

「ま、取り合えず夜を待とうか・・・」

「何か有ったの?」

「分からん、夜話すと言ってたわ」

「・・・そう」

「それなら、しょうがないよ、取り合えず帰るか?」

「・・・そやな・・・あ、ケンスケ」

「ん?」

「映画でも見に行くけ?」

「ん、パス」

「何や、つれない奴やのぅ」

「はは、今日はちょっと用事有ってな」

「そか、そんならしゃーないわ、一回帰るわ」

「おぅ、また夜に!」



そう言い残してケンスケは走って教室を後にした。

取り残される形でヒカリとトウジが教室に残る。



「何やアイツ」

「・・・さぁ?」

「最近、アイツおかしいねん」

「何が?」

「最近めっきり軍隊の話せーへんしやな・・・」

「そう言えば・・・そうね」

「それに、やたら早く帰るしやな・・・」

「もしかして・・・」

「あん?」

「相田、彼女できたかな・・・」

「えぇぇえええ!!」

「知らないけど、その話を聞く限りそういう可能性も有るでしょ?」

「ま、そやけど、それは・・・」

「鈴原はそういうの鈍感だから分からないだけなんじゃない?」

「・・・ワシは硬派やねん」

「・・・馬鹿?」

「馬鹿言うな、アスカみたいやで、それ・・・」

「しかし、相田に彼女ねぇ・・・」

「無い、無い、それは絶対無いわ」

「何で?」

「・・・何でやろ・・・」

「分かんないじゃない」

「くはぁ〜・・・シンジに続いてケンスケにまで裏切られたらやってられんわ、ワシ」

「硬派なんでしょ・・・?」

「せや! 硬派や!」

「じゃ、良いじゃん、別に・・・」

「けどやな、そこは男の友情っちゅーもんが・・・」

「ぜんっぜん、硬派と違うのね、、それ・・・」

「やかましい・・・さっ帰ろ、帰ろっ」

「はい、はい」

「ほな、夜に」

「うん・・・ね、鈴原・・・」

「あ?」



ヒカリの視線は在らぬ方向を泳いでいる。



「午後・・・暇なんでしょ?」

「あ〜 ま、そやね」

「じゃ・・・さ」

「何や?」

「映画でも・・・どう?」

「ん? ワシとイインチョが?」

「私も・・・時間余ってて・・・その・・・」

「ま、ええけど?」

「そう?」

「ワシでええなら・・・やけど・・・」

「うん、お願い!」



二人は学校を後にすると、繁華街へと向かって行った。



「遅いー!」

「そ、そんな事言っても・・・」

「で、どうだったわけ?」

「ん、ミサトさんが手配してくれてたみたいで」

「そっ」

「一応、自主退学って事になった」

「・・・ま、仕方無いよね」

「・・・うん」

「さて、と、次はNervね」

「うん、案外時間掛かっちゃったね、急がなきゃ」

「て、言ってもまだ2時にもなってないじゃない」

「そうだけど・・・」

「ま、良いわ、行きましょ」



そう言って、アスカはシンジの手を握る。



「ちょ、アスカ?」

「何よ」

「手・・・恥ずかしいだろ?」

「何でよ」

「だって、人に見られるじゃないか」

「良いじゃない、見られたって」

「良くないって・・・」

「私は良いわよ?」

「・・・」

「アンタねぇ」

「何さ」

「誇りに思いなさい」

「はぁ?」

「アタシの恋人なのよ?」



シンジの目は完全にジト目になっている。

そんなシンジの目を見ると、途端にシンジの手を放り投げて拗ねたポーズを取るアスカ。

そういう風に出られると、男としては罪悪感で一杯になってしまう。

無論、シンジも同じだった。



「分かったよ、手、貸して」

「・・・イヤダ」

「もう、我侭言わないでよ」

「無理してまで握ってほしく無い」



アスカは相変わらずそっぽを向いている。



「無理して無いって、アスカ」

「・・・」

「ね、アスカっ・・・」

「・・・じゃ、仕方ないから手握ってあげる」



そう言ってアスカは振り返ると残った右手で目の下を引っ張り下を出す。



「べー っだ!」

「・・・最悪だ・・・」

「へへへ、『仕方なく』手貸してあげる」

「はい、はい」

「さっ、行こっ」



結局、アスカに引きずられる様にしてシンジは学校を後にした。



シンジ達がネルフへ着くと、旧オペレータ達が部屋で待っていた。

きっと、シンジが来ると聞いて業務を置いて来ているに違いない。

「あれ、皆さん・・・」

「やっ、シンジ君」

「青葉さんに日向さん・・・」

「シンジ君」

「はい、あ、リツコさんこんにちわ」

「うん、ちょっと来てもらえるかな?」

「はい」



シンジとリツコが別の部屋に入ると、オペレータ達は一斉に表情を固くした。

それを見てアスカが一応聞いてみる。



「皆、知っているのね?」



その部屋に居る全員が沈黙を持ってそれに答えた。

アスカは答えが無い事を確認すると、小さく皆にお辞儀をする。



「アスカ?」

「今日は、シンジの為に集まってくれてありがとう」

「アスカ・・・」

「私が言うセリフじゃ無いことは分かってるけど・・・」

「・・・」

「あの馬鹿、きっとここに来てから幸せだったと思うから・・・」



そこまで言うと、アスカの目尻から大粒の涙が零れ出す。

マヤがそっと近づき、アスカの肩を抱いた。



「アスカちゃんも、辛いね」

「私は・・・大丈夫」

「・・・」



今のアスカに掛ける言葉を持つ者はここには居なかった・・・。



「あ、ミサトさん」

「来たわね」

「ええ、あの、何か?」

「ま、座って」

「はい」

「後はリツコから・・・」

「シンジ君」

「はい」

「今後の事なんだけどね」

「ええ」

「シンジ君の記憶が表に出なくなった後、どうしたい?」

「どうしたいって言われても・・・」

「私が用意したプランは二つ」

「はい」

「一つは、このまま日本に居続ける」

「・・・」

「もう一つは、アメリカに渡って治療をしながら過ごす」

「・・・はい・・・」

「科学者としては、アメリカに行くほうが良いと思うわ」

「そうですか」

「向こうには施設も揃ってるしね」

「はい」

「でも、シンジ君が残りたいので有れば残る事も出来るわよ」

「その違いは何ですか?」

「記憶はね、難しいのよ」

「・・・」

「無くなるわけじゃないから、見慣れた所を見るとそれがきっかけで思い出すかも知れない」

「・・・」

「そういう意味では日本に居るほうが良いかもね」

「はい」

「逆に時間を置いてアメリカで治療を受けた方が、もし、記憶が戻らなかった時は成長が早いわ」

「・・・はい・・・」

「どちらを選んでも構わないわ」

「・・・」

「シンちゃん・・・」



シンジは笑顔を見せると力を抜いた。



「考えるまでも無いです」

「・・・」

「アメリカに行きます」

「・・・そう言うと思ったわ」

「・・・」

「じゃ、手続きしておくわ」

「はい」

「話は以上よ」

「あの、ミサトさん」

「ん?」

「リツコさんと二人で話がしたいんです」

「ん、じゃ、外で待ってるわ」

「すいません」

「ほら、すぐ謝らない!」



そう言って3人は屈託無く笑った。

ミサトが出て行くのを確認すると、シンジはリツコと向き合う。



「リツコさん」

「何?」

「あの、ありがとうございました」

「え?」

「リツコさんを苦しめた父さんの事、そして僕の事」

「・・・」

「戦いが終わった後、初めてリツコさんの本当の姿を見た気がします」

「・・・そう」

「今は、その・・・色々と感謝しています」

「こっちこそ、すまないわね・・・助けにならなくて・・・」

「あの・・・色々話そうとしたんですけど・・・」

「・・・」

「いざとなると言葉に出来ません・・・」



シンジは小さく笑った。

それを見てリツコは眼鏡を外すと、悲しそうに会釈を投げる。



「リツコさん」

「何?」

「握手・・・して貰えますか?」

「ええ・・・」



二人は立ち上がると、ゆっくりと手を重ねる。

あの戦いの中から、そしてその後も共に過ごした仲である。

その中で、シンジはシンジなりにリツコを意識していたに違いない。

時に厳しく、時に優しくシンジを気に掛けてくれた事実は変わらないのだから。



「さ、行きましょ」

「はい」



部屋から出てきたシンジを皆で取り囲む様に集まる。

そこへ冬月が現れ、見慣れた旧ネルフ作戦本部全員集合となった。



「今日は、その・・・ありがとうございます」

『・・・』

「来月から、アメリカに行く事になりました」



一瞬ざわめきが起こったが、直ぐに静まった。



「あの、ネルフに来れて良かったと思ってます」

「シンジ君・・・」

「あの・・・」

「ハキハキ物を言いなさい!」



アスカが笑いながらそう言うと、笑いが溢れシンジも力が抜けたようだ。



「あの、もう会う事は出来ないかも知れません」

『・・・』

「でも、でも・・・ネルフの事、忘れませんから・・・」



そこまで言って、シンジは黙ってしまった。

今の自分をどう表現していいのか分からないのだろう。

そんな気持ちを察する様に、ミサトが声を掛ける。



「シンジ君! 元気でね!」



その言葉を聞いて、何かが吹っ切れたかの様に深くお辞儀をするとようやく言葉を出した。



「行ってきます!」



暫くの間拍手が沸き、直ぐに青葉が大声を上げる。



「はいはーい! 写真撮るよー!」



青葉がカメラをセットする。

その前に笑顔で並ぶ面々は青葉の帰りを待つ。



「行きますよー」



青葉がボタンを押し、走って戻るとカメラは眩い光を放った。

シンジがネルフに来て約一年、これが最初になる全員写っての写真だった。

その写真のシンジは優しい笑顔を見せ、その手にしっかりアスカの手が握られていた・・・。


次回 キモチ



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