Neon Genesis Evangelion SS.
The Cruel Angel.
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episode - 4.
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write by 雪乃丞.
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シンジの不審すぎる点を報告されたゲンドウは、少し悩む素振りを見せていた。
「司令! 彼は危険です! 即刻、エヴァから降ろして拘束するなり処分するべきです!」
そう進言したミサトに、冬月は顔をしかめていた。
「葛城君、君は碇に自分の息子を殺すように命令しろというのかね?」
「そっ、それは・・・」
いくらゲンドウが冷酷非道な鬼畜男だ何だと酷評されているとはいえ、流石に、それは親として出来ないだろうし、それ以前に、人としても間違っているのであろう。 いつの時代でも、親近者殺しは最大の罪なのである。 そんな言葉に勢いをなくしたミサトに、リツコが助け舟を出した。
「彼が碇シンジ本人である可能性は50%です」
「・・・半々という意味かね?」
「はい。 遺伝子を自由に操作できる様な相手に、遺伝子検査は通用しません。 つまり、我々には彼が本人であることを確認する術がないということです。 ですが、私には彼がサードチルドレン本人である可能性が高いと感じられています」
確かに、検査の時だけ自分を人間に見せかけるのは容易いことであろう。 しかし、それでもリツコはシンジがシンジのままだと感じるというのだ。 それは、どういう意味だったのであろうか?
「どうすれば、はっきりと答えが分かるのかね?」
「いっそのこと、殺そうとしてみては?」
「・・・どういう意味だね?」
「彼が偽者なら、身を守る必要に迫られればATフィールドを張るでしょう」
「・・・彼が、使徒だというのか?」
「その可能性が、今のところ、もっとも高いと考えます」
そう答えると、リツコは間髪入れずに言葉を続けた。
「それに次ぐ可能性として、彼が人間本来の姿、使徒リリンとして目覚めている可能性もあります」
「!!?」
それは、ミサトにとって驚くべき言葉だった。
「ちょっと、リツコ! なによ、それ!?」
「ミサト。 アナタ、人間と使徒が同じ系統の生き物だって言われて信じられる?」
「・・・そんなの、ありえないわ!」
「そうね。 確かに、そう簡単に信じられることではないわ。 でも、それが真実なの」
その言葉が相手に納得されないまでも、一応は理解出来ていることを見て取ると、リツコは話を続けた。
「なぜなら、人間は18番目の可能性だから」
「18番目の可能性?」
「人間以外の使徒の数は17体だと予測されているわ。 ただし確証があるわけではないから、もしかするともっと多いかも知れないし、もっと少ないのかも知れない」
「だから、黙っていたの?」
「ええ。 最初から17体だって決め付けて作戦を展開するのは危険でしょう? 17体目を殲滅した後に、もう使徒が来ないからといってネルフを解体して、エヴァを解体して・・・そんな中で18体目が襲来したら? そうなると、もうどうやっても対応なんて出来ないわ」
「・・・だから黙ってたのね?」
「ええ」
そうはっきりと理由を聞いたことで、一応は不満も収まったのか。 ミサトは大人しく話を聞き始めた。
「人間を含めて18の使徒は、その一つ一つが異なる可能性を極めるために存在するの。 各々が、独自の進化の道を選択することを役割付けられているのね。 その方法と進化の道を模索しながら、最終的にどういった進化の方法が、自分達にとって正しかったのかを決めるための戦いが、この戦いなの。 生き残った種族だけが、次の段階に進めるのかも知れないわね」
なぜ戦う必要があるのか? それは、これが生存競争であるからだ。 そして、闘争という環境は、もっとも学習の成果を生かせる環境であり、進化を促進させる原動力と理由付けになるからであろう。 戦いの中でこそ、人類の科学と知識が洗練され続けてきたように。 自分に何が欠けているか、何が必要か、どのような能力が必要になるか? それを知る方法として、使徒は、同系統の生命体でありながら異なる道を選択した生命体を、闘争の相手として選択したのかも知れない。
「人間も・・・使徒なの?」
「ええ。 群体という形質を得る代償に、もっとも弱い力しか持てなかった使徒リリン。 それが人間よ」
無数の自分と同系統の生命体を作り出し、まったく異なる思考パターン、嗜好、行動パターンを持たせることにより、最良のパラメータを模索し続ける種族。 時として手を結び、互いが互いを敵対視し、闘争によってのみ、より高みを目指し合うことで互いの能力を高め合っていく種族。 それが、使徒リリンだった。
「でも、私達はATフィールドを展開できないわ」
「使っているわよ?」
「え?」
「人の体を・・・その形を決定するのがATフィールドなの。 つまり、私達は微弱なATフィールドによって、この体の形を得ているということね」
世界と自分を区切り、自分という形を維持するための力。 それがATフィールドなのであろう。
「でも、盾みたいに使えないじゃない」
「それは、その力を使うために必要になる動力源自体が弱いせいか、そういった使い方を忘れてしまっているか。 もしくはスイッチが入っていないのか。 その、いずれかだと思うわ」
「スイッチって・・・人間は、機械やロボットじゃないわよ?」
「単なる例えよ。 でも、コツさえ掴めば、使えるようになるかも知れないわね」
「だから、スイッチなのね?」
「ええ。 あのシンジ君のようにね」
その言葉で、4人の視線はスクリーンの中で大きく口をあけて欠伸をしているシンジの顔へと向けられた。
「彼は、自分でも知らないうちに使徒としての力を覚醒させてしまった人間である可能性があるわ。 もちろん、未知の使徒がシンジ君の振りをしている可能性もあるのだけどね」
「・・・どっちのなの?」
「わからないわ」
それを聞いて、睨むようにして険しい視線を向けているミサトを横目に、三人の首脳部は話を続けていた。
「確かめる方法は、それしかないのかね?」
「ATフィールドを展開出来るのであれば、彼が人間でなくなっているという事が分かります。 ですが、分かるのは、そこまでです。 正直、私には、確実な方法というものが思いつきません」
「・・・それで本当に死んだら困るぞ?」
なにしろ、今、エヴァを運用できるパイロットはシンジ一人しか居ないのだから。 ファーストチルドレン綾波レイは、起動実験中の事故のために重傷を負っているし、セカンドチルドレンは、まだドイツにいる。 しかも、セカンドチルドレンはドイツにある弐号機しか運用できないパイロットなのである。 つまり、今、シンジを失えば、ネルフは全ての力を失うという意味である。 それは、余りに危険な賭けだった。
「今までの経緯を見る限り、彼はATフィールドの使い方を知っているはずです」
「確かなのかね?」
「それでなくては、パーソナルパターンを自分の意思で変更は出来ないでしょう」
そう、自分の意思でATフィールドを展開できると結論付けたリツコに、ゲンドウが待ったをかけた。
「それは、どうだろうな」
「司令?」
「アイツの表情を見る限り、自分の意思で何かをしていたという風には見えなかった。 ・・・無意識のうちに、機体に自分を合わせていったという可能性はないのか?」
結局は、どんな結果となっても確実な答えは出ないということなのかも知れない。
「赤木博士」
「はい」
「君の判断に任せる」
それは、リツコの意見で、シンジの運命が決まるという意味だった。
「よろしいのですか?」
「君に判断出来ないのであれば、他の誰にも不可能だ」
「・・・司令」
その言葉に、わずかに頬を赤くして照れた様子を見せたリツコの姿に、幸いというべきかシンジを睨むのに忙しいミサトは気がついていなかった。
「どうかね? 判断がつくかね?」
「・・・」
そう重ねて問われたリツコは、即答を避け、ミサトと同じようにシンジを見つめていた。 そこにはミサトのような感情の色はなかった。 感情ではなく理性の光だけが、そこには宿っていた。 先入観をなくし、今、自分の中にある情報だけで、真実のシンジの姿を捉えようとする。 それは、人ではなく、科学者の目だったのかも知れない。
「私は・・・」
科学者の目で見たとき、そこには人間でない生き物の姿しかなかった。 シンジは使徒だろう。 その想いが、ますます強くなった。 特異な力、怪しい言動。 不可解な態度。 その全てが、不自然な存在。
『彼は、危険な存在なのかも知れない』
そんなとき、リツコの中でシンジと交わした言葉が蘇る。
『僕は、碇シンジですよ。 人より、ちょっとだけ物を知ってる。 それだけが取り柄の人間なんです』
シンジは、自分のことを人間だと言っていた。 それを信じて欲しいと。 そして、自分達がどんな態度で接しようとも、常に笑って、それを許してきた。 独房に叩き込まれた時でさえ、特に文句は言っていなかったのだ。 そんな自分達に寛大な相手が、果たして使徒なのであろうか?
「私は・・・」
小さく俯き、顔を上げ、また俯く。 理性と感情と直感のせめぎ合い。 それは、亡き母の残したシステムの思考方法に似ていた。 幾度か、それを繰り返し、幾度となく自問と自答を繰り返す。
「私は、彼を、シンジくん本人だと思います」
そう僅かに額に汗を浮かべて答えを出したリツコに、ゲンドウは、小さく安堵した表情を浮かべて答えた。
「その根拠は?」
「彼が、何の行動も起こしていないからです。 使徒としての本能に目覚めているのなら、独房への拘束中にでも、まず行動を起こしていたはずです。 しかし、彼は、言動こそ怪しいですが、何の抵抗もしませんでしたし、独房の中でも大人しくしていたようです。 そして、私達が頼めば、ああして私達に協力もしてくれる。 そんな相手が、使徒であるとは、どうしても思えません」
それは、人間にしか見えないほどに大人しかったシンジの態度が決め手となったのだろう。 もっとも、死にかけている昆虫と涙ながらに会話するという奇妙な行動はとっていたが。
「結論は出たな。 アイツを、碇シンジ・・・サードチルドレンとして運用する」
その決定に、ミサトは何処か不満そうではあったが、それでも従うしかなかったのだった。
── TO BE CONTINUED...
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