京都の家の、一度目の襲撃で大切な人達

自分達に体術を少しずつ教えてくれた護衛の人達を失った後

兄妹は必死になって鍛錬に明け暮れた。

毎日からだがボロボロになりそうになるまで苛めぬき、そして幾度も無く戦いのスタイルを考案し、ためし、調整する。

剣術などを始めたのもこの頃からだった。

忌まわしい力が技の習得を早め、さらに体力を幾何数的に上げていく。

ながく己を護ってくれていた大切な人達を無くしたとき

兄妹は力を手に入れ、振るうことに躊躇しなくなった。

 

忌まわしい力を受け入れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、この辺りも結構緑が残っているんですねぇ」

 

シンジは林道を抜けた後、ようやく到着した飛天神社の前まで来た。

近くにあった飛天神社専用の駐車場にバイクを止めるシンジとレイ

(ちなみに慶一郎の愛車・米軍払い下げのジープもここに有る)

シンジはなんだか大人しくなってしまった涼子の降りるのに手を貸す。

 

「あ、アリガト・・・・・」

「どういたしまして」

 

ヘルメットを脱いでなんとなく赤くなっている涼子に、シンジはいつもの薄笑いで無い屈託ない様子で笑微笑む。

ちなみにシンジが誰か他の女性とこんな雰囲気になると必ず機嫌を悪くするレイが

何故か先程から今回まるで首を突っ込ま無かった。

そのレイは、なにやらげっそりしているひとみに手を貸し、ゆっくりと歩き始めている。

そして無造作に新品のバイクを止めたまま、四人は神社正面に向かう。

 

予断だが、この駐車場から何かを盗もうとしたもので無事に済んだものは今はもういない。

そのような不心得者は天狗の面を被った飛天神社神官、鬼塚鉄斎に“大変良く似た”誰かに木刀で天誅を加えられたり

お腹にポケットのある青い猫方ロボットの御面を被った

アーミーパンツに登山用のごついブーツの二メートルの筋骨隆々巨漢に“粉砕”された。

よって住民は安心してここに車などを駐車できるのだった。

 

『飛天神社』と刻まれた石塔

上に続く階段は五十段ほどあり、ケヤキやヒノキの大木が両脇に並ぶ。

苔むした階段を上がりながら、木と土の匂いを微かに感じる。

境内に入り、イイ感じに古びた本殿を横切り裏手の神主の家に向かう。

堂々とした造りの純和風の建物は最近人の出入りが激しくなったせいか

以前より明るく感じられるようになっていた。

 

「ごめんくださ〜い」

 

『鬼塚』と表札のかかった玄関の引き戸を開けながら、涼子は何時もの如く元気に挨拶し

そして早速入りこんだ。

 

「失礼します」

「おじゃまします」

「・・・・・・・」

 

残りの面々(ちなみにうえからひとみ、シンジ、レイ)も各々違った反応を見せ躊躇無くあがっていく。

ちなみに当然ながら碇兄妹はに来るのは始めてだが、まったく物怖じせずに上がり込んでいった。

 

 

 

 

「お、来たか御剣」

「先生、ご飯は?」

「ちょうど支度が出来たところだ」

 

そのまま涼子は居間まで進み、するとこの家の住人達

家主・鬼塚鉄斎

孫娘・鬼塚美雪と3匹の飼い猫達

そして、帰ってきた居候の南雲慶一郎が、ちょうど料理を運んでいた。

慶一郎はシンジとレイを見た瞬間、一瞬鋭い視線を向けるが

しかし二人は受け流し、何事も無かったように食卓に向かう。

 

「あ、はじめまして、碇シンジといいます」

「碇レイです」

「うむ、ご丁寧に痛み入る、鬼塚鉄斎だ」

 

シンジは静かに鉄斎の横に正座すると、隣に座ったレイ共々軽く頭を下げて挨拶する。

それにこたえて、座っているので判りづらいが、身長百八十以上の長躯の姿勢正しい老人

長く伸ばした銀髪と同じく白い顎鬚も渋い鬼塚鉄斎も、向かい合って頭を下げた。

どうやら最初は好印象らしい。

ちなみに、その一人弟子はというと、

 

「あ、美雪ちゃん、こんにちわ、御邪魔するねぇ」

「ええ、こんんにちわ・・・・・・・・・」

 

薄茶の髪をショートボブにした寡黙で可憐な少女に軽く挨拶すると

 

「さて、ご飯ご飯♪」

 

ただひたすら目の前に並べられていく昼食に集中していた。

そして、ようやく思い出したのか挨拶をする。

 

「あ!師匠、こんにちわ」

「うむ」

 

今の今まで挨拶を忘れていたのにまるで悪びれた様子も無く

鉄斎も何故か特に気にした様子は無い。

 

「・・・・・・・・鉄斎師匠、アナタの弟子はとうとう師匠の挨拶よりご飯を先に気にするようになりましたよ」

「これも担任たるお前の教育が悪いからだ」

(あんたの弟子でもあるだろうが!!)

 

さも当然とばかりに決め付ける鉄斎に慶一郎は内心そう叫ぶ。

が、しかし態度には決して出さず料理を並べていく。

この家で生きていく処世術である。

 

「ご飯ご飯♪」

「涼子ちゃん・・・・・・・」

 

鉄斎の孫娘、中学二年生の美雪が不思議そうに眺める中

涼子は慶一郎の言葉も内心も

となりで少しオロオロしているひとみも関係ないとばかりこれからのオイシイご飯にウキウキしている。

 

「・・・・・・・御客サン?」

「ええ、はじめまして、南雲先生のクラスの生徒で涼子さ、いや(汗)涼子とクラスメイトの碇シンジといいます」

「碇レイ・・・・よろしく」

「・・・・よろしく」

 

シンジは美雪の正面にすわりつつ挨拶し

美雪の右隣に座ったレイは片言に挨拶するとそのまま手を差し出し、答えた美雪と握手をする。

華奢で無口で表情に乏しいのはレイも美雪も似ていたが、みゆきのほうは身長も低く

いっそう儚げで、その分可憐である。

そんな美雪がレイと握手しながら、嬉しいのか少し頬を紅潮させている様子はレイとは違った魅了があった。

 

 

(ほう、ほんと今回レイが凄く積極的だな・・・・・・イイ傾向だけど、何故だろう?)

「あ、そこにいるのが美雪さんの飼ってる猫ですか?」

「ええ・・・・・ラウール、ジェラ―ル、バルタザール、挨拶・・・・」

ニヤァ

にやあ

NYAAA!

「ルパンの偽名ね・・・・・・」

「・・ええ・・・・・・・そう・・・」

 

レイにネコの名前の由来を言い当てられて少し驚いた後、はにかみながら答えた。

しかし、サラリと流したがこの猫たち、美雪の言葉を理解しているのか?

ひとみはしばらく唖然としていたが、ここでそのぐらいで驚いていてはやっていけないと思い

賢明にも気にしないことにした。

残りのものは始めから流している。

 

(おや、美雪ちゃんがああんなに初対面で打ち解けるなんて珍しいな、これがあの碇兄妹で無ければ素直に喜べるのだが・・・・・・・・)

「さ、挨拶もそのへんで、用意が出来たので食べましょう」

 

慶一郎は美雪の様子に驚き

人見知りの激しい美雪が初対面の人間に心を開いている様子が嬉しかったが

相手が水曜の晩にあったシンジとレイなのが複雑な気分だった。

ともあれ、この家のシェフとして食事の用意が終わったことを継げた。

 

「「「「「「「「いただきます」」」」」」」

 

ちなみにこの日は大皿の上にドンと鎮座した、今川焼きの親玉にも見えるスパニッシュオムレツで

慶一郎が手際良く切りとって皿に盛り、昼食が始まった。

 

 

 

 

 

 


 

 

ふ・た・り

第六話

『鬼塚家で社交デビュー』

後編

 

 


 

 

 

 

「いやぁ!」

ブン!

「はっ!」

ブゥン!!

「せい!」

ザッ!

「は、は、せい!!」

シュ、シュ、ブゥン!

 

境内に響く掛け声

広い板の間で、木刀が降られ、様々な型が繰り出される。

食事も終えたところで、涼子は早速胴着に着替えると、神社境内にある道場で修練を始めた。

 

「二の型に入るとき、右手首が利いていない、それでは・・・・・」

「はい!」

「五の型の最初の踏み脚が遅い!!」

「はい!!」

 

傍でマンツーマンで教える鉄斎の声が響く

が、道場は絞めきられていて練習の様子は滅多に見せてくれない。

だから、シンジとレイはひとみとともにネコをじゃらしたり抱いたりしながら縁側で

 

チリ―――ン!

 

気の早い風鈴をききながらボンヤリしていた。

少し湿気があるものの、風がそれを飛ばしてくれて

穏やかな昼下がりの時間が流れていく。

 

しばらくして

石段から鳥居を超えて、一人の青年が上がってきた。

 

「ごめんください」

「氷室君?」

「あ、結城さん、今日は約束が果たせずにゴメンね」

「いいの、涼子ちゃんに言われて来たんでしょ」

「それだけじゃないんだ、なんか鉄斎先生にも呼ばれたんだけど」

 

銀縁のめがねをかけた、身長174センチの細身の青年

おとなしい感じの優等生っぽい雰囲気を持つ氷室那智

彼は池袋で繰り広げられるストリートファイト・“バイパーズ・レイブ”の草薙静馬に継いでNo,2だが

しかし、そのすっきりした顔立ちの、大人しそうな様子からはまったくその印象を受けない。

ちなみに、実家が剣術の道場をしており、彼の父は鉄斎の弟子でもあって呼び出されれば到底断れないのだった。

 

「ホントは事前に連絡とるつもりだったんだけど、御剣さんがどうしても黙っておけって言われて」

「いいの、そんなに自分を責めないで・・・・・・・」

「ごめんね、なんか逆らえなくて」

「仕方ないわ、涼子ちゃんが相手だもの・・・・・・・・」

 

二人は話ながら沈んでいく。

 

「なんか私がすごい悪者みたいじゃない、その言い方・・・・・」

「涼子ちゃん!」

「御剣さん!」

「だいたい、仮にも剣を志すものなら機械が与えられたんだから喜びなさいよね!」

「勝手に決めないでくれ・・・・・・・」

「はぁ・・・・・・・」

 

涼子の高圧で偉そうな物言いに二人はただため息をつく。

しかし、涼子は一向に気にしない。

 

「あ、シンジ君、レイちゃん、ちょっと来て、それからNo.2君も」

「へ?」

「ひとみも見る?ちょっとやってもらうことがあるの、師匠も待ってるから早く来てね」

((悪者“みたい”じゃなく悪者だよ、ほとんど))

 

ほとんど絞め切られた道場の戸をあけてそれだけいうと、涼子はすぐに道場の中に戻っていたった。

氷室那智、結城ひとみは警戒しながら、あるは不安そうに

シンジとレイは少し期待しながら、油断なく

そして表面上はまったく気にした様子無く道場に入っていった。

 

 

 

 

 

外からの風が、古いながらも木の匂いの立ちこめていた道場の空気を入れ替えていく。

いまは幾らか残った鎮守の森の、雨で匂う木と草と土の香りで満たされる。

 

先程からは打って変わって開け放たれた道場

そこにこの道場の主・飛天流の継承者・鬼塚鉄斎

そしてその一人弟子御剣涼子

さらに、家が剣術を教えていて、父親が鉄斎の弟子の氷室那智

気になって来てみた結城ひとみ

そして何故か呼ばれた碇兄妹

最後になんとなく来てしまった道場主の孫娘・鬼塚美雪はペットの黒猫3匹連れて眺めている。

 

「いきなり呼び出してすまない、碇シンジ君、レイ君」

 

上座で粛然とした様子で座っていた鉄斎が話し出す。

はりと力のある良い声が道場に響く。

 

「実は弟子から君が剣術をやると聞いて、是非とも手合わせしたいそうだ。受けてもらえるかね」

「はい?」

 

しばらく、表面には出さないまでもその声に聞きほれていたシンジは

そのいきなりの話しに面食らう。

何時もの薄笑いが消えて、本当に驚いた顔になっている。

 

「だが、弟子はまだこの飛天の道場に入門してわずか」

 

そんな様子を気にもせず、鉄斎はさらに話を進める。

 

「よって剣術を収めて長い氷室の息子とまずは手合わせして欲しい」

「はい?そ鉄斎先生、そのために僕を今日ここに呼んだんですか?」

「そうだ・・・・・・・」

「はぁ・・・・」

 

脱力する那智と気遣わしそうに見つめるひとみ

そして心底楽しそうに見える鉄斎と涼子の師弟コンビ

そんな面々を一瞥し、調子の戻ったシンジは静かに言った。

 

「いいですよ、ただし氷室サンにはボクでなくまずレイと戦ってもらいます」

 

レイは意外そうにシンジを見た後

微かに、しかし今まで見せたことの無い獰猛な笑みを浮かべた。

 

「やるわ・・・・・・私」

 

そして静かに那智のほうを見る。

その紅の瞳に魅入られて、那智はうなづくしか出来なかった。

そして、なし崩し的にレイ対那智の剣術勝負が決まったのだった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・ここにあるの使ってイイの?」

「ああ、どれでも好きなものを使ってくれ」

 

レイはしばらく道場の脇にかけられた大量の木刀や長刀、棍棒などを見ていたが

やがて小太刀ほどの木刀を何本か選び、左右に何度か振ってみてためす

そして、黒塗りの、やはり小太刀サイズの木刀に決めた。

 

「いいんですか?ホントに」

「何がです?」

「妹さんを戦わせてです、剣術の経験あるんですか?」

 

一方の那智はささっと袴着に着替え

早々に一本の赤い樫の、スタンダードな長さの木刀を選び、シンジと話していた。

 

「いいんです。この間、高校であった騒ぎでボクだけ戦いましたからレイは欲求不満でしょうし」

「そんな理由で!?」

「ま、そう言わずに、それからレイと対するときは本気でやってください。でないと一瞬で負けますよ」

 

シンジは再び戻った薄い笑みで終始穏やかに那智に語りかけ

そしてレイのほうも、羽織っていたべスパジャケットを脱いで道場の真中に行った。

 

「知りませんからね」

 

まるで捨て台詞のような言葉を残して那智も位置につく。

そして那智は目礼し、レイはただ静かに立って

 

「始め!」

 

鉄斎の一言で剣術勝負が始まった。

 

レイは鉄斎の合図があってからも、まったく構える事無く

ただ自然体で立ち、右手に黒塗りの小太刀サイズの木刀をぶら下げている。

 

(なんだ?隙だらけじゃないか?それともさそってるのか?)

 

那智はまったく闘気も何も感じず、構えも見せないレイの様子に戸惑う。

しかし、すでに勝負は始まっている。

 

(ええい! まずは様子見だ)

 

そう、踏ん切りをつけると、那智はスッとすべるように間合いを詰め

いきなり右側頭部に向けて上段から打ち下ろす。

かなり素早い一撃

しかしレイは素早く右手の木刀を掲げ、そのまま左に流してしまう。

 

(おっ!?)

 

那智は少し驚きながら、しかしそのまま攻撃を続けようと

流された勢いのまま体をくるりと一回転させ、旋風のごとくレイの右手を打とうとする。

しかしこれも短い木刀に止められる。

 

那智はもはや侮らず、続けざまに脚払いを仕掛けるがレイに滑る様にさがって避けられ

追い討ちに繰り出した突きはいなされ、そのままの勢いで当身で鳩尾にいれようとした肘を取られ

合気道の要領で投げられてしまった。

 

たいしてダメージの無い那智は、投げられた勢いのまま回転して立ちあがり、距離を取る。

 

「へぇ、レイさん強いんだ・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

ひとみは感心したように呟き、美雪は少し目を見張る。

シンジは何時ものように目を細めていている。

が、涼子と鉄斎は先程までの様子がウソのように極めて真剣に動きを追っていた。

 

「・・・・遅い・・・・・・・」

 

レイが微かに不満そうに呟く

一瞬目を剥く那智だが、すぐ平常心を取り戻す。

そして那智が再び距離を詰めて仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

「おや、なんか今日は御剣の気合を入れる掛け声が聞こえないな」

 

その頃

慶一郎は皿洗いを終えて、買い物も済ませ、夕食の支度に取りかかっていた。

グツグツと煮える大きな鍋の前で英字新聞を読みながら、たまに脇に置いた御茶をすすりつつ

のんびりした午後を過ごしていた。

 

 

 

 

 

ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・

「・・・・・・もう終わり?」

 

那智が息を切らしながらレイと対峙する中

一方の当事者たるレイはまったく手合わせの始まったときから変わらない様子で

構えることも気合を入れるわけでも無く、ただ静かに立っている。

相手はろくに討ちこんでもこないのに、たった十分の攻防で八つも反撃を食らい

何度も連続技を放った疲れでと併せて、那智のほうはフラフラだった。

 

スー――――――――

―――――は―――――――――

 

那智は息を整えると、姿勢をただし、変形中断に構えていた木刀をさやにもどすように脇に構える。

人目で判る居合の構え

 

ダンッ!

 

那智が最後とばかり再び大きく踏みこんで、今度は抜き打ちを放つ。

居合の要領で素早い斬撃でレイと討とうとする。

しかし、レイの左の胴めがけて放たれた一撃目はすぐさま小ぶりの木刀で下に流され

再び旋風の如く回転し

しかし冒頭のときより遥かに早い斬撃で右脇を狙うもこれは下に払われ

木刀を離しての正拳突きもレイの右に流され

さらに右上段右中段左下段と繋いだ、得意の古流骨法の連続攻撃も全て受け止められ

接近したところで入れようとした膝は逆の脚を払われ

仰向けに倒れる所を上から後頭部を強打され、床に叩きつけられ

倒れたたところで、脚で簡単にひっくりかえされ鳩尾に一撃くらい、那智は意識を失った。

 

「勝負あったようだな」

 

鉄斎が静かに言い放つ。

そして今度は涼子が立ちあがり、レイの前に立つ。

手には何時も使っている赤樫の木刀とレイと同じ小太刀サイズの黒い木刀を握る。

 

「セェイ!」

 

涼子は始めの合図も無くいきなり赤樫の木刀で横に払う。

レイは素早く下がってその払いを避ける。

が、そこに涼子の小太刀の突きが襲い、右にステップして交したところで涼子はそのままの勢いで古代の柄でレイの喉をつこうとする。

今度は交すことが出来なかったレイは左手で涼子の右手首を弾いていなすが

涼子はそのままの勢いでレイに突っ込む。

 

ガツンッ!

「痛っ!」

 

いきなり頭突きをかまされたレイは思わず後ずさり、さらに涼子は追い討ちをかけようと左から赤樫の木刀で切り上げようとする。

しかし予備動作もなく突然きたレイの左回し蹴りが来て慌てて右手でガードした涼子をフッとばす。

レイの瞳に危険な光が宿る。

よろめいた涼子に今度はレイが始めて攻撃に転じて右膝を入れようとするのをすんでで交し

そのまま追い討ちをかけようとするレイから一挙に離れて、壁際に行く。

そして、そこにあった練習用のクナイを取ると、続けざまに四つ投げた。

レイは短い木刀でそれを弾き、さらに接近して左肘、木刀の打ち下ろし右膝、右裏拳

さらに左変形三角蹴りと続けるが急所から少しずらされ、最後の右回し蹴りもクロスガードされる。

 

「ツゥ!」

 

再び吹っ飛ばされた涼子に、今度こそと詰め寄ったところ

涼子が倒れたまま赤樫の木刀を無いでレイのすねを打つ。

 

「くぅっ!」

 

叫びそうになるのをこらえながら、レイはそのままうつ伏せに倒れた涼子の背中に乗り

さらに首に手を回そうとする。

そのとき!

 

「それまで!!」

 

それまで静かに見ていたシンジが鋭く静止の声をかけ、レイははっと我に帰り涼子の上からのく。

レイは多少脚が痛むようだが、特に問題は無いようだ。

一方の涼子は

 

「まだよっ!」

 

痛む体を叱咤しながら涼子は立ちあがり、もう一度長短二つの木刀を構えようとする。

が、

 

「そこまでだ御剣・・・・・・」

「師匠?」

「今、シンジ殿が止めなければ、レイ殿はそのままお前の首を絞め、最低でも落としていた」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「・あ、・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

涼子が悔しそうに押し黙り俯く。

一方レイは心配そうにみるが、ナンと声をかけてよいかわからず、やはり黙っている。

しばらく気まずい雰囲気が道場に流れる。

 

「さてとレイ殿、見事でした」

「いえ・・・・・・」

「ワシの弟子にもちょうど良い勉強になった」

 

言われて、ようやく顔を上げた涼子は顔をしかめながらレイに近づく。

 

「涼子さん、ゴメンなさい・・・大丈夫?」

「大丈夫大丈夫、しかしレイさん強いのね・・・・・」

「ゴメンなさい、途中から熱くなってしまって・・・・それで」

「イイのイイの、真剣勝負だったんだからこれぐらい当然よ!でもまた勝負してもらうわよ」

「・・・・良いわ、でもいつまで」

「もちろん、勝つまでよ♪」

 

涼子はそう言うとレイに右手を差し出す。

レイも木刀を左に持ち、手を握って握手した。

微笑み会う二人

 

「いや、いいこといいこと」

 

そんな二人をシンジは手を組み、何度も頷きながら見ていた。

ちなみにレイに気絶させられた那智はひとみに引き摺られて道場の桟で寝かされていた。

 

 

 

 

「さて、ではシンジ殿にも私と手合わせしてもらおうか・・・・・・」

「はい?」

 

レイと涼子が道場のすみにさがり、涼子がひとみに、レイが美雪に手当てを受け始めていると

いきなり鉄斎がそういって木刀を一つ取り出した。

またしても、面食らって座ったままのシンジに向かって滑る様に一挙に詰め寄る。

 

ブンッ!

 

抜き打ちので払われた一撃を飛びあがって避け

鉄斎が追い討ちにと繰り出した突きを体をひねって交し、次にきた柄での一撃を右手で受け止め

逆に蹴りを放って鉄斎を突き放そうとする。

が、鉄斎はクロスガードして、さらに自分から飛んで勢いを殺し、まったくのノーダメージ

このあたりやはり弟子の涼子より数段上である。

その間にシンジは壁からかなり長い重く黒い木刀を取り上げた。

 

それからは技の応酬だった。

スピードとパワーと体術で上回るシンジは重い木刀を片手で操り

払い、受け流しながら蹴りや肘討ちなどを繰り出そうとするが

鉄斎の怒涛の猛攻の前に禄に攻撃にも移れない。

一方鉄斎も様々な技を矢継ぎ早に繰り出すも、シンジの防御を崩せない。

技の応酬が続き、涼子は自分達の試合より数段上の攻防を細大漏らさず見ていた。

 

一方、ひとみは那智を母屋のほうの風当たりの良いところに連れて行って看病し

美雪にタオルを貰い、水に浸して絞り、那智の頭にかぶせる。

美雪はすぐに道場にネコともどり

レイはジャケットを再び羽織り美雪と猫とじゃれたりなでたりしながら、ボウっと二人の攻防を見ていた。

たまにシップを貼った涼子に払われた足をさすったりして

 

そして鉄斎とシンジの攻防は一時間続き

最後に鍔擦り合いを繰り広げた後

どちらからとも無く離れ、鉄斎は構えを解き、シンジは微かに笑った。

 

「いや、久しぶりに良い鍛錬になった。礼を言う」

「いえ、ボクのほうこそ色々勉強になりました」

 

鉄斎は珍しく心底嬉しそうに笑い

そしてシンジも薄笑いで無い、心からの笑みを浮かべる。

 

そんな二人を

特にシンジを、涼子は食い入るように見ていた。

 

 

 

 

 

「さすがにその体では今日の鍛錬は無理だろう。風呂に入って体を休めるといい」

 

鉄斎のその一言と、さすがに痛む体の様子からから

涼子はコレ以上の修練を諦め師匠の言葉通り風呂に入ることにした。

鬼塚家の湯船は総檜造りで大きい。

いつも湯を張ることが出来ず、残念に思っていたのだが、今回はレイと涼子、おまけでひとみと美雪

さらに後にシンジと鉄斎が入ることもあり、湯を張ることが許された。

 

んん〜〜♪〜〜〜〜〜〜ん〜〜〜♪〜〜〜ん〜〜〜♪

 

大の大人が五人は入れそうな広い湯船に湯が満たされて

湯殿が良い香りに満たされ、涼子は自然と鼻歌混じりになる。

しかし、一緒に入っていたひとみはといえば

 

(なんで女子高生の鼻歌が銭形平次なの〜〜〜?)

 

ひそかに混乱気味であった。

 

「わぁ、レイさん、ホントに白いんですね。それにスレンダー・・・・・・・」

 

ひとみはレイを見て羨ましそうに言う。

確かに、レイは身長こそ高いものの、かなり細身で、でも胸はちょっと大きく

女性であれば羨望を禁じ得ない肢をしていた。

 

「そう、でもひとみさんもキレイ・・・・・・・」

「そうえすか?」

「凄くバランスがイイの・・・・ワタシは見ようによっては筋肉目立つし・・・・・」

「いいですよ、凄くシルエットキレイなんですから」

「そう?」

「そうです」

 

体をスポンジですりつつシャワーをあびつつ互いを誉め合うふたり

一方涼子は髪を洗った後アップにして、この時始めて鬼塚家の檜風呂を堪能していた。

ふとみると、美雪がなにやら自分の体をみたり涼子やレイを見たりしている。

 

「美雪ちゃん大丈夫。美雪ちゃんは今でもカワイイし、可憐だし。これからドンドン成長するから」

「・・・・・そう?」

「ホント、ホント、でもそのためには努力も必要よっ!」

「努力?」

「毎日牛乳飲むとか、御風呂の後マッサージするとか、走ったりストレッチしたり筋トレするとか」

「そう、キレイな体になるには努力が必要なの」

 

いつのまにかレイとひとみもきて、美雪にこれからの美容についてそれぞれ話し出していた。

 

 

 

 

 

 

「ちょっと来るのが遅かったけど、御かげで久しぶりのチャンスかも・・・・・・」

「ちょと神矢君、ホントにやる気かい?」

「ええ、別に静馬さんじゃないんだから、協力してくれとは言いませんよ、だまっていてくれれば」

「よしたほうがいい・・・・・・どんな目に会わされるかわからないぞ!」

「あんまり大声出さないでクダサイ。目をつぶっていてくれたらひとみさんの写真渡しますから♪」

「・・・・・・・・・・・・・・あ、そ、そういう問題じゃなく手だねェ〜〜〜〜」

 

涼子に殲滅されて、少し来るのが遅くなっていた大作

来てみればちょうど女性人が風呂に入っていることを知り

さっそく前回の失敗(前に鬼塚家に来たとき、草薙静馬と共謀して涼子の入浴シーンをデジカメで撮影しようとした)も踏まえて脚立まで用意してきて、風呂場の盗撮をしようとしていた。

那智も止めているのだが、元来格闘以外では強く出れなく

また興味が無いでも無く

さらに風呂場近くでは騒ぐことも出来ず、大作に流されていた。

 

大作がさっさく脚立を用意し、カメラを構えて盗撮を開始しようとする。

すると

 

「お、もうすぐもうすぐ・・・・・・・・グェッ!」

 

そのとき、いきなり襟首をつままれ、首がしまり思い切り後ろにのけぞる形になった。

 

「ぐ・・・・ちょっと那智さん・・・・・は、離してくださいよ・・・・・・」

「残念ながらつかんでいるのは氷室君ではなくボクだ」

「げ!碇君ですか・・・・?」

「そう、悪いがボクはレイの麗しい肢体をそうそう他の野郎ごときに見せたくないんでね」

「見逃してくださいよ、ちゃんと涼子さん達をとったフィルムとビデオ渡しますから・・・・・・・」

「ダメ」

「減るもんじゃないんだし・・・いいじゃないですか・・・・・・」

「なんですってぇ!!」

「げ、涼子さん!?」

 

まどから涼子が顔を覗かして大作に凄んでいた。

大作の顔が一挙に青ざめる。

 

「大作君、もう一度乙女の敵の末路、教えてあげましょうか?」

 

言葉も出ず、首をを横に激しく左右に振る大作

脂汗が流れ、顔は青ざめ、その訴える様子は必死である。

が、

しかし、裁きの女神は非情だった。

 

「くらぇ!熱湯攻撃」

「ギャァー――――――!!」

 

熱い御湯をたっぷり浴びて、その後シンジの手から逃れて地面に落ち

大作はもがきまくった。

 

 

 

 

 

 

 

「へえ、二種類のカレールーに3種類のナン、さらにフルーツヨーグルトか、南雲先生洒落てるわね」

「おいしいです」

「・・・・・ほんとオイシイ」

「そうか?そういってくれると時間をかけて作った甲斐がある、ちなみにこのナンは・・・・・・・」

 

料理を誉められて、慶一郎がご機嫌で説明を始める。

 

風呂からあがって、今度はGパンに着替えた涼子はレイに気孔によぷ治療をしてもらい

ひとみは美雪の勉強を大作の代わりに見て

シンジは鉄斎と縁側で将棋を討ち

3匹の黒猫はそのそばで寝転び昼寝して

那智は煩悩退散とばなりに瞑想などして過ごしていた。

 

そして五時ごろに名って速い夕食にしたのだった。

食卓を楽しく囲む面々

しかし

 

「あ、これ先生が昼間からつくっていたやつですよね、おいしいな、出来ればもう少しほしいなぁ・・・」

「なんで僕までこんな扱いなんだ?」

 

離れた場所には、箱ご膳の上に皆と同じ食卓を置かれた那智と

同じく箱ご膳にチョロっとだけルーとナンのはいった小皿をあてがわれた大作がいた。

 

「しょうがないでしょ、座る場所がもうないんだから」

「だからって神矢君はわかるがどうして僕まで!?」

「だって、一番弱いんだもの」

「なに!?」

 

さすがに弱いと言われて黙っていられない那智

しかし涼子は辛辣だった。

 

「だって、アナタ静馬に負けたんでしょ、そしてレイちゃんにも一太刀も浴びせられなかった」

「ぐっ!」

「それに大作君を結局止めれなかったんだもの、ちゃんとご飯にはりつけただけイイじゃない」

「ぐぅ!?」

「静馬なんて何時もそこが指定席だし、この間は覗きしやがったから柱に括り付けてやったんだから」

「那智さん・・・・・・・・ここではコレがルールなんですよ。大人しく従いましょう」

 

涼子が自信たっぷりに言い募り

大作が諦めと溜息と供に那智を諭す。

ひとみは少し申し訳無さそうにこちらをみているが、

しかし鉄斎を始め、あとの面々はまるで気にしてない。

これが当然といった様子である。

 

「・・・・・・那智さん、静馬さんと一緒に人権侵害、階級制度の復活だとでもいって国連に訴えましょうか?」

「ワシントン条約でほごしてもらおうか・・・・・・・・・・いや、いい・・・・・・・」

「そうですね・・・・・・・」

(な、なんて無茶苦茶なんだ!?)

 

那智は余りのことに混乱していた。

 

 

 

 

 

 

「じゃぁ、ちゃんとひとみを送るのよ。送り狼になったら承知しないからね!!」

「するか! そんなこと」

「そ、じゃ、早く行きなさい」

「ぐっ!」

 

夕食が終わってしばらく各々休んでから

今日はこのまま御開きと皆帰路につく。

 

「あ、それから、あした午後、一時から私達をバイパーズ・レイブに案内してね」

「は!?」

「だから明日案内するの!」

「君はもう場所もルールも知ってるだろう?」

「私じゃなくて、シンジ君とレイちゃんを案内するの、やるのやらないの!?」

「・・・・・やります」

「じゃ、ひとみ!また明日よかったら一緒に行こう」

「・・・・・・わかったわ、涼子ちゃん・・・・・」

 

半ば諦め気味に約束するひとみ

那智は訳の判らない迫力に押されて、明日の案内を承諾してしまう。

少し付かれた様子で。那智は自転車の後ろにひとみを乗せて、ゆっくりと去っていった。

 

「さぁ、涼子さん、行きましょうか」

「送ってくれるの?」

「そのぐらいワケないですし、体、まだ少し痛いでしょ?」

「あそうね、じゃぁ御願い」

「ええ、えでゃヘルメット」

「わかったわ」

『レイ、先に帰ってて』

『エエ』

 

レイが滑らかな加速で先に出る。

 

『しっかり掴まってくださいよ』

 

シンジはシルバーのKLE400に涼子を乗せると、そのまま走り出した。

 

 

 

 

 

「どうでした?碇兄妹は」

「うむ・・・・・・妹のほうは御剣も氷室の息子もまるで歯が立たないようだった:」

「あの二人が剣で相手をしてもだめですか!?」

「うむ、まだホトンど実力を出していなかったな」

 

慶一郎は気になっていた碇兄妹の様子を聞く。

しかし、その内容は驚愕に値した。

 

「・・・・・・・・・・・・・兄のほうは?」

「ワシが半ば全力で仕掛けても一時間まったく防御をくずせなんだ」

「え!?」

「なかなか面白い生徒が増えたな、慶一郎」

 

鉄斎は愉快そうに、あるいは意地悪に笑いながら歩みさる。

のこされた慶一郎は夕日を眺めながらつぶやいた。

 

「いったいなにものなのやら・・・・・・・・」

 

敵でないにしても、不可解過ぎる生徒二人の担任となり

慶一郎は戸惑いを隠せなかった。

 

 

 

 

 

銀の軌跡が道路を滑っていく

静かであるため速度を認識しずらいがかなり速い。

(背中、前はほんの少し香水の匂いがしてたのに・・・・・今は石鹸の匂いと少し汗の匂いがする)

 

再び体をシンジの背中に押し付けて、しがみ付いている涼子

周りの景色がひたすら後ろに流れていき、静かな走りがどこか心をあやふやにする。

 

(でも、イヤじゃない・・・・・・むしろイイかも・・・・・)

 

半ばうっとりしつつ、涼子はシンジの後ろでそんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

PS

 

「御帰り、シンジ」

「唯今・・・・・・・やっぱり不機嫌だったねレイ」

「・・・・・・別に・・・・」

「涼子はどう?気に入った?」

「ワタシよりシンジが気に入ってる。シンジ,涼子にかまいすぎ・・・・」

「そう?」

「そう、だから今度はワタシの番なの、今夜は眠らさないの・・・・・・」

「明日はまた飛天神社に朝からいくんだよ」

「大丈夫、なんとかなるわ・・・・・」

 

碇家の一日はコレからのようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと設定

 

KLE400

 

取り回しの良さや快適なライポジを優先させて、オフロードスタイルを取り入れたミドルツアラー。

エンジンはGPZ900Rの技術を活かした水冷DOHCツイン

走行風を取り入れてシリンダーヘッド周りの冷却を促進するK-CASを採用

高速巡航時の性能安定性を高めている。

41φ正立フォークにリンク式モノショックで前後ディスクで足回りも万全

 

レイの香水

 

ローズ・カメリア

シャネルの香水

バラのノートをメインに花束のように様々な花々を思い起こさせる。

それでいて過剰に女らしさをアピールする事無く

あくまでも爽やかで凛とした女性のイメージのフレグランス

 

レイはコレを匂うか匂わない程度に良くつける。

 

(つづく)

 




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