2021年8月31日(Tus) 曇のち快晴

僕とトウジは喫茶店に居た。

プロムまで、まだ2時間あるからだ。


トウジ:今日で高校生活もおさらばか・・寂しゅうなるで。

僕    :そうだね、でも僕達は何時でも会えるよ。

トウジ:シンジの出発は何時になるんや?

僕    :9月10日、15時だよ。

トウジ:寂しゅうなるな。

        からかう相手が居らん様になるからな。

        ・・・・・

        今日はプロムがあるな。

        ええな、シンジは相手が居るから。

僕    :洞木さんが居るじゃないか?

トウジ:一人しかおらへん

        お前は全学年の女共が狙っとるがな。

        シンジはモテモテやないか。

僕    :アスカは今、アメリカに行っていないんだよ。

トウジはストローの入っていた袋に、水を垂らしながら

トウジ:なんや、早くも惣流に愛想突かれたんかいな。

僕    :向うの家の売却と、帰化するための手続をするみたいだよ。

トウジ:家?帰化?

僕    :アメリカに家を持っていてそれを売却するんだ。

        それと国籍をアメリカから日本にするんだ。

トウジ:なんでまた。

僕    :こっちに新築するから資金が必要なのと、

        子供の事を考えて国籍を日本にするんだ。

        アメリカと違って閉鎖的だからね。

トウジ:賢い奴はする事がちゃうな。


西暦2020年、日本国籍を取得するための条件は、若干改善された。

今回、アスカの帰化に関しては、政府の特例処置がなされた。


僕とトウジが無事卒業で出来るのも、それぞれの彼女の力のお陰である。

僕達は何時もの事で、赤点で卒業も危なかった。

洞木さんはトウジ宅に泊り込んで、マンツーマンで指導をした。

僕は、綾波とアスカによる指導を受けた。

綾波の指導は優しいのだが、アスカは容赦なく僕を小突き回した。

アスカは、鞭を惜(お)しむと亭主は駄目になると言った。

飴と鞭は使いよう、ではないのかと質問すると、喧(やかま)しいと殴られた。

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午前10時。プロムが始った。


僕は去年の末にアスカが買ってくれた、ブレザーを着ていた。


校庭は飾り立てられ、会場にはjazzが流れていた。


トウジは洞木さんと踊っていたが、時々 洞木さんに蹴飛ばされていた。


みんなカップルになって踊っていた。


僕は空を眺めていた。

カップルの居ない男子でも積極的な子は、女の子にアタックしていた。

僕の様に消極的な人間は会場の隅っこで眺めるしかなかった。


女生徒:碇君どうしたの?

女生徒が何人か僕の前に来た。

僕    :え・・こうゆうの苦手なんだ。

女生徒:惣流さんは?

僕    :今、アメリカに居るんだ。

女生徒:じゃ、一緒に踊ろうよ。

        そうやって一人で黄昏て空しくならない?

僕    :え・・僕、踊り方知らないんだ。

女生徒:教えてあげるから。


レイ  :お兄ちゃーん!

綾波が傍に来た

レイ  :こんな所で何やってんのよ。

        みんなごめんね、お兄ちゃんを貰って行くから。


僕は綾波に引かれて、校庭の中央に向った。


女生徒達は、ちぇっと嘆いた。


綾波は赤いドレスを着ていた。

レイ  :お兄ちゃん、曖昧な返事は、相手に希望を与えるから駄目よ。

        お姉ちゃんが来るまで、私が相手になるから。


この頃、綾波はアスカを義姉と呼ぶようになった。


僕と綾波は踊った。

僕は殆ど踊方なんて知らないのに、綾波がリードしてくれた。


しばらく踊って、綾波は僕の耳元で

レイ  :お兄ちゃん、今から言う事は、二度と言わないから聞流してね。

え?何?

綾波は僕に密着して来た。

レイ  :私ね、お兄ちゃんの事が好き。

        兄弟じゃなくて異性として好き。

        もし、私達が兄弟じゃなかったら、私はね、間違いなくお兄ちゃんを選んでる。


        でも、今はこれでいいの。

        私、お姉ちゃん好きだし、

        私達、兄弟だから、

        私はお姉ちゃんが好きで、お兄ちゃんも好きで要られる。


        お兄ちゃんがフランスに行ってる間、お姉ちゃんは私が守るから。

        心配しないで修行頑張って!

        私、お姉ちゃんと一緒に暮す事に決めたの。

僕    :レイはそれでいいの?

レイ  :どうしてさ、十分過ぎる程、幸せだもの。


        私ね、自分の体を検査してもらったの。

        するとね、血液型はAだけど、普通には輸血出来ないの。

        お兄ちゃんか、お姉ちゃんの血液以外は、体が受付けないみたい。


        もし、誰かを好きになって、子供を授かるにしても、

        お兄ちゃん以外の人とは子供が出来ないみたい。


        滅入る事なんか無いわよ。

        私はお兄ちゃんのお母さんのクローンなんだら、

        お兄ちゃんの母として頑張るわよ。


        なーんてね、一度言ってみたかったんだ。

僕    :・・・・

        どう言えばいいのか解らないけど、

        レイが一緒に暮してくれるのは歓迎するよ。

レイ  :ありがとう。

綾波は僕を抱しめた。


その時、空気を切裂く音と空気の振動が、体にビリビリと伝わった。

空を見ると、戦闘機が校舎の屋上に垂直降下しているところだった。

レイ  :来たわね。

そう言うと綾波は、「頑張って」と言残し、僕から去っていった。


皆、校舎の屋上を凝視していた。

UN重戦闘機VTOLから誰か降りてきた。


黄金色の髪が風に靡(なび)いた。

辺りにざわめきが起った。

僕    :アスカだ・・・

そうアスカだ。

なんでまた?

アメリカじゃないの?        

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10分後、僕の目の前にはアスカが居る。


首と、髪と、足首には、僕があげた赤いリボン。

クリーム色のドレス。

アスカは微笑みながら

アスカ:ただいま。

僕    :おかえり・・・アメリカじゃなかったの?

アスカは僕の手を持って踊り始めた。


僕たちの周りにいた生徒は、みんな呆然としていた。

トウジ:相変わらず度派手な登場やな。

ポカッとトウジは洞木さんに殴られた。


アスカ:3時間前まではね。

        加持さんが手配してくれて、日本まではspace plane。

        学校までは、ご覧の戦闘機。

        今日は総代言わないといけないからね。

僕はアスカのリードで踊った。


そう言えば昔、第5使徒殲滅の為に、ユニゾンという名目で一緒に住み始めたんだ。

あの頃、僕がどんなに正しくても、アスカは失敗すると僕が悪いとか言って何時も殴った。

でも今はそのお茶目なアスカが、

僕が失敗しても怒らず、優しくリードしてくれる。


アスカは僕の耳元で

アスカ:私、unisonの特訓思い出しちゃった。

僕    :同じだね。

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1時間後、ステージに2年生男子が立った。

マイクをポン!ポン!と軽く叩いて、

男    :Ladies and gentlemen,Welcome to the senior PROMENADE!

        さあ、ダンスも闌。

        本年度のQueenとKingを発表します。

        それでは、発表します。

クラシックの曲が流れた。

男    :さー緊張の一瞬です。

        Queen!碇レイさん。

会場がざわめいた。

男    :まだご静粛に。最後まで傾聴願います。

        今年はもうお一方要られます。

        もうおわかりですね。

        Queen!惣流・アスカ・ラングレーさん。

        そして晴れあるKingは、碇シンジさんです。

        では御参方、ステージへどうぞ。

僕は震えながらステージへ行った。

男    :それでは、新しく決った、QueenとKingに

        卒業後の抱負を言っていただきましょう。

僕は緊張して頭が真っ白になった。


アスカが僕の袖を引張った。

アスカ:アンタの番よ。

僕    :ひえ?

僕は助けてと目でアスカに懇願した。

アスカは優しく微笑んだ。


僕    :は・・初めまして。

        ・・い、碇シンジです。

        ・・その・・どうもありがとうございます。

トウジ:何を訳の分らんこと言っとんのや。

僕    :どうして僕が選ばれたのか解らないのですが・・・その・・

男    :碇シンジさん。そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。

        碇さん達は、この地球を守って下さった英雄じゃないですか。

        今、この町に住んでいる人の殆どは、

        第3新東京市の復興後に引越しされた方が多いと思います。

        でも、それが出来たのは、あなたがたの活躍が在ったからです。

        私達にとって、あなたがたは誇りです。自信を持って下さい。

僕    :あ、ありがとうございます。

        そんなに言ってもらえて嬉しいです。

トウジ:なんや?わいもEVAのパイロットやったで。

ボキッ!と洞木さんはトウジの胸を殴った。


こんな風に皆に祝福してもらえるなんて思わなかった。

僕はいつもEVAの事で、自分を責めていたのだから。

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それから一時間後、卒業式が始りアスカが卒業生総代を言った。

先生方には英語とドイツ語で挨拶し、在校生には日本語で礼を述べた。


卒業証書を貰う時、アスカの名前は、

惣流アスカ

と呼ばれた。


アスカは惣流・アスカ・ラングレーから惣流・アスカに改名した。

アスカが名前を変えた。

色々考えてたのかもしれない。

国籍を捨て、名前を変える。

可也の覚悟が必要だったかもしれない。

そんなにまで決意したアスカの意志


僕はアスカと一生を共有して行こうと強く誓った。

/* 卒業式 the senior prom */

次回、愛する形

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