第X話
※ごめんなさい。この話は壊れています。
外伝1と2をメドレーで読んでいる方は注意しましょう。作者と読者の君との約束だぞ!(キラーン)
「・・・スキャンでは、外的損傷は見当たらないわ。脳挫傷も脳内出血もなし。ほとんど無傷といっていいわね」
ネルフ本部のリツコの私室兼、研究室兼、第三新東京市の捨て猫達が集まり、MAGIの総力をあげた検索によって新しい飼い主が見つかるまでの間の仮の住まいで、心底から疲れ切った声でリツコは言った。足にじゃれつく生後三週間ぐらいの子猫の愛くるしい仕草も、彼女の心を癒す事はできない。
彼女の顔はお肌かさかさ、潤い全くなし。三日貫徹したときよりももっと疲れたって顔をしている。
「・・・・・・・・・・・じゃ、何が問題なの」
リツコの言葉を受け取ってミサトがリツコと甲乙つけがたいくらいに情けない声を出した。目の下に隈ができ、更にユイから受けたお仕置きの名残か絆創膏を顔中に貼り、肩から右腕を吊っている。だがそんなことは彼女の心を被う精神的苦痛に比べれば、蚊が刺したようなモノだった。
「記憶喪失ぅ?」
制服のスカートから形のいい足をぶらぶらさせながらアスカが人ごとみたいに言った。場所はミーティングに使われる待機室。ここにシンジと怪我で入院しているマナ以外の全チルドレン(カヲルをのぞく)が集められ、先の戦闘の結果と使徒の謎の攻撃より意識を失ったシンジの様態についての報告会を行っていたのだ。
皆一様に心配そうな表情をしていたが(レイも)、アスカだけは興味なさそうにあさっての方向を見つめていた。その姿は仲間をないがしろにしているようでミサトには少し腹立たしかったが何も言わなかった。彼女は一応わかっているつもりだったからだ。アスカは本当はとても心配しているのだが、意地っ張りな性格故に、それを表に出せなかったことを。
それはともかく、
「もっとタチ悪いわ」
アスカの疑問にミサトが吐き捨てるように応えた。
「じゃあ、どうすんのよ。シンジは、これでお役御免って・・・・・・・もっとタチ悪いって?」
「・・・・・・・・見ればわかるわ」
そう言うとミサトは背後の扉に目を向けた。リツコも同時に嫌そうに目を背け、リツコの後ろで太鼓持ちのように立っていたマヤは泣きそうな顔をした。チルドレンも大人達の異様な雰囲気になにがしか感じるものがあったのだろう。ミサトの見つめる扉を檻から逃げ出した人喰いトラでも見るような目で見つめていた。
気のせいかどんよりどよどよと重苦しい気分にさせるような音楽が聞こえてくる。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シンジ君、入って良いわ」
シーン。
ミサトの言葉にドアは開く気配が全くなかった。
ミサトとリツコは胃液がざぶざぶ出てくるのを感じて顔をしかめ、チルドレンは疑問符を頭の上に浮かび上がらせた。
ミサトが深呼吸の後数字を1から10まで数える。その後改めて扉を、その向こうの存在を睨み付けた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・散くん、はいってちょうだい」
ドドドドドドドドドドドドドドッ!
ミサトの苦虫を千匹くらい噛みつぶしたような言葉と共に、扉の向こうからどたどたと何かが走る音が聞こえてくる。改めてワケわからないといった顔をするチルドレン。
がちゃっ!
勢いよく扉が開け放たれ、何かが勢いよく室内に飛び込んできた。
ためらいのない力強い踏切と共に、空に舞い上がるしなやかな体。その体が捻りを加えながら空中で一回転。まさに完璧とも言える一回捻り宙返りだった。
着地点にミサトが用意したパイプ椅子がおいてなければ。
グシャッ!ゲキョッ!ドゴゴゴゴッ!グッシャアアアアアアッ!!!
足が椅子の隙間にはまりこみ、立つことはもちろん、勢いを殺すこともできず愉快な音と共に顔面から前のめりに地面を転がる謎の人物。転がっていった先には無意味に堅くて重いスチールデスクの角があった。周囲に何か堅いモノと堅いモノがぶつかる鈍い音と、赤い飛沫が飛んだ。美しくもワケの分からない光景を目撃したミサト達の顔を朝焼けのような光が照らしだす。
呆然とみなが見守る中、そいつは机にしがみつきながらなんとか身を起こした。血がどくどくと流れ落ちるが皆一歩として動くことができない。
「お、俺の名は碇シンジ・・・た、魂の名前、天王 散(てんのう はらら)。き、記憶を失っているらしくて、皆のことは覚えていないが・・・俺は俺だ。・・・これからもよろしく頼・・・む・・ぜ・・・」
それだけ言うと妙に眉毛が濃く太くなったシンジは前のめりに倒れた。
(失敗か・・・・・・。あれほど練習した熱い空中回転の後の自己紹介・・・。まあすんだことはくよくよ振り返らないのが漢だ。いまはそれよりも・・・・)
「きゅ、救急車を・・・・・・・・ふっ、ジャイアントさらば・・・」
「まずい!これは本格的に洒落にならないわ!マヤ!」
「救護班!?すぐに来て下さい!急患です!!シンジ君が色んな意味でやばいんです〜!!」
「うげっ!?脈が止まってる!リツコ、電気ショックよ!!」
シンジがやばい領域に旅だったことを確認した瞬間あわただしくなるミーティングルーム。ミサトの絶叫、マヤの悲鳴、リツコの高笑い、シンジのうわごと。そしてどたどたと救護班やミサト達が走り回ったあげく室内から消えた後、さっきから一歩も動くことができず固まっていたチルドレンを代表してレイが呆然とした顔のまま呟いた。
「いまの・・・・・・・・誰?」
新世紀エヴァンゾイド
外伝3 「 結成? 地球防衛バンド 」
作者.アラン・スミシー
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