邂逅 第壱話

 

 これは、新世紀エヴァンゲリオンのもう1つの局面を描いた物語。

 ひょっとしたら有り得たかもしれない、もう1つの物語。

 

 

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          新世紀エヴァンゲリオン外伝

 

              『邂逅』

 

 

             第壱話「転校生」

 

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               *

 

 大阪府八尾市立高文中学校。

 セカンドインパクト以前、戦後に創立された中学校である。セカンドイ

ンパクトの影響で一度は廃校となったが、近年になって復興され、校名を

改め再出発することになった。総生徒数は僅か200人弱、生駒山地を背

後にした小さな田舎中学校だ。

 その校舎を眺めている、1人の少女がいた。澄み渡った青空の下、肩口

で切った栗色の髪を風になびかせ、強い決意とも憂いとも取れるような表

情を浮かべていた。

「山南(やまなみ)さん、こっちですよ」

 初老の教師が少女を促した。少女は固い表情で頷き、後に続いた。

 

「今日、転校生が来るんだってよ」

「へぇ〜、男?女?」

「職員室でちらっと見たけど、スッゲー可愛い子だったぜ」

 “2年B組”と書かれた教室の端で、男子が集まってわいわい話していた。

2年生は全部で3クラスあった。1学年平均60〜70人程、1クラスの生

徒数は20人を少し上回る程度だ。男女比はほぼ同等と言っていいだろう。

「その子何処から来たんだろうな?」

「さあ?でもひょっとしたら、静岡の方からかも知れねえな」

「ああ、第3新東京市か?」

 少年……名を井波司というが……は頷いた。

「何か変なバケモンが海の彼方から襲ってきてるみたいだし」

「知ってる。インターネットとかで情報流れてた。確か……軍は“使徒”

 とか呼んでるんじゃなかったか?」

「そうそう。その被害できっと……」

 そこで司の言葉は切られた。担任が教室に入ってきたのだ。

 

「山南ユキです。よろしくお願いします」

 ぱちぱちぱちと拍手が上がる。担任はにこにこしながら、彼女に空いて

る席に座るよう奨めた。

(……おい、メッチャ可愛いやん)

(山南さんか〜)

 友人とこそこそ話しながら、司の視線は“山南ユキ”と名乗った“美少

女”に釘付けになっていた。

 不意に、司は転校生と目が合った。一瞬逡巡したが、司はぎこちなく微

笑んだ。すると、彼女もにっこり微笑みかえした。

 

 昼休みには、転校生はもうすでにクラスに溶け込んでいた。性格が根っ

から明るい為だろう、誰に対しても非常に好印象を与えている。普段あま

り女子と話をしない男子達だが、隙あらば転校生仲良くなろうと先を争う

かのように、前に前にしゃしゃり出ていた。

「山南さん、どっから来たの?」

「えっと、静岡県の北の方」

「何ていう所?」

「辺鄙な村だから……名前聞いても分かんないよ、多分」

「第3新東京市じゃないの?」

「うん、あんまり街は好きじゃなくて、ね」

「このへんも大分田舎だし、丁度良かったね」

「こら男子!べたべたくっつくんじゃない!!」

 男子の笑い声が教室に響く。女の子は引っ付き虫な男子共をユキから引

き剥がそうと必死になっている。

 あまり異性と付き合い慣れていない司は遠巻きにユキの姿を見ていた。

ユキは自分の周囲で繰り広げられる喜劇に、楽しそうに笑っている。だが

司には、それが何処か不自然な笑いのように感じられた。何故?と自問す

るが、答えは得られなかった。

 

               *

 

 キーンコーンカーンコーン………

 のんびりとした鐘の音が校舎内に響いた。教室はもう赤く染まっていた。

「さて帰るか……」

「井波君、ちゃんと黒板消して帰りなさいよ!」

「アデュー!!」

 そう言い残すと、罵声を尻目に司は脱兎の如く教室を飛び出していった。

「全く、日直なんかやってられ………ん?」

 下足所に目をやって、司は身体を強張らせた。

「山南……さん」

 司は呟いた。下足所では、山南ユキが靴を履き替えて出ようとしていた。

「や、山南さんっ」

 司は無意識の内にユキに声をかけていた。

 いかん!俺は何を考えてるんだ!!山南さん、頼むから無視してくれ!

 だがユキは、司の祈りも空しく彼の方を振り向いた。

「貴方は確か……」

「い、井波司っていいます!」

「井波…君?」

 そう言うと、ユキはしげしげと司の顔を見詰め、くすっと笑った。

「何でそんなに畏まるの?同じクラスメイトじゃない。

 あ、ひょっとして転校してきたばっかりだから、私を警戒してる?」

「そ、そんなことないって!」

 司は慌てて頭を振った。その様がまた滑稽だったのか、ユキはまたくす

くすと笑い出した。

 

 司は、自分の顔が耳の先まで真赤になるのが分かった。

 

 

「井波君って、3人兄弟なんだ」

「うん。下に口煩い妹が2人いるんだ」

 帰り道が一緒だと分かり、司はユキと一緒に歩いていた。

「山南さんは兄弟、いないの?」

「うん……いいね、兄弟って」

「煩いだけだよ。手も焼けるし悪戯するし」

「でも、いなくなると寂しいでしょ?」

 そう言われて、司は押し黙ってしまった。

「気付かないものなのよ、自分の大切な人って。いなくなって、初めてそ

 の人がどれだけ大切だったかが分かるの…………両親や兄弟、友達……

 皆そうよ」

「……山南さん?」

 司は驚いてユキの顔を眺めた。ユキは何時の間にか沈んだ顔をしていた。

何か触れてはいけないことに触れてしまったような気がして、司は自責の

念にかられた。謝罪しようと思ったが、その前にユキが口を開いた。

「あ、私の家、そこよ」

 ユキの指す方向を見ると、そこには最近新築された団地らしい建物が見

えた。

「私の部屋、あそこの2階なの」

「へ〜、両親は?」

「いないの」

「え、じゃあ独り暮らし?仕送りしてもらってるの?」

「ううん、そういう人、いないから……」

 司はまた「しまった!」と思った。またも自責の念にかられる。

 彼女は静岡県から転校してきたんだ。多分、あの“使徒”とかいうバケ

モンのせいだろう。両親がいないってことは、きっと戦闘中に……

「それじゃあ、また明日ね、井波君」

 司が勝手に想像を膨らませている内に、ユキは自宅に向かって走ってい

た。司はただ、手を振ってそれを見送るしかなかった。

 

 ユキと別れた後、司は近くにあったごみ箱を思いっきり蹴飛ばした。

 司には今はっきり分かった。昼休み、彼女の笑いが何処か不自然だ

と感じられた訳が。

「何て無神経なんだ……俺は!!」

 

               *

 

「ふう……」

 自宅に帰り、ユキは一息ついた。

 ユキの家には小さな台所とシャワー室、ベッド等のある部屋の3部屋し

かなかった。もし彼女が見たことがあるなら、綾波レイの部屋にそっくり

だと思ったことだろう。

「何か飾る物買っておかないと、気が滅入っちゃうな……」

 ユキは自室を見回し、鞄を机の上に置いてベッドの上に転がった。と、

その途端、机の上の携帯電話が鳴り響いた。

 ユキはゆるゆると手を伸ばし、携帯を取った。

「はい、山南です」

『ユキちゃんかい?』

 その声に、ユキは飛び起きた。

『久し振りの学校、どうだった?』

「悪くないと思います。あの、その節は……」

『ああいや、礼なんか言われる筋合いじゃないよ。ところで、今誰かと一

 緒にいる?』

「いえ」

『ちょっとそっちに行っていいかな。すぐ近くまで来たんだ』

「はい!待ってます!」

 

 携帯を切ってから10分程して、ドアベルの鳴る音がした。

 ユキは覗き口で相手を確認しドアを開けた。そこに立っていたのは、く

たびれた感じのワイシャツを着た、中年の男。無精髭を剃らずに伸ばして

いる。

「久し振りだね」

「はい、上がって下さい、加持さん」

 ユキは満面の笑みを浮かべ、男……加持リョウジを迎えた。

 

 

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                               続く

 

<後書き>

 はじめまして、「CREATORS GUILD」の作家の皆さん。

 そしてこのホームページを訪れて下さった皆さん。

 「NIFTY-Serve居酒屋豊泰・創作厨房」の皆さんと「NIFTY-Serveヤマト

会議室」の皆さんは御久し振りです(^_^;)

 

 私は淵野明というものです。

 通信ネット「NIFTY-Serve」で、短い間ですがエヴァンゲリオンの創作

小説を書いていました。NIFTYを退会するにあたって、何処かエヴァやオ

リジナルの小説を掲載させてもらえるホームページはないかと相談した

所、ここ「CREATORS GUILD」を紹介してもらいました。

 これからどんな作品を書けるか分かりませんが、今後ともよろしくお願

いします(^_^)。

 ただ、私は今年で高校3年生になります。受験を控えているので、元々

遅筆な人間がもっと遅筆になる可能性があります(^_^;)。それでも、応援

して頂ければ幸いです

 

 さて、私が書いた「新世紀エヴァンゲリオン外伝『邂逅』」第壱話如何

でしたか?今後はシンジ君やミサトさん、綾波もちゃんと出てきます。本

編及び映画版ときっちりリンクさせていく予定です。

 一応、長編です。初めて書いた長編をHPに載せるなんて無謀だ!と友

人に言われましたが(^_^;)

 

 

 もし何か感想ありましたら、HPの感想掲示板か、私宛に直接メールで

お願いします。メール等は御気軽に送って下さい。叱咤激励、何でも有り

なのでお待ちしております。

 

 それでは。

 

                   ★淵野明(t-ak@kcn.or.jp)★

 

*この第壱話は、誤字等を訂正した物です。第2版のようなものですが、

 内容は一切変更されていません。

 


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