Here comes the ...(1)

第八話 「告白(上)」




 「アスカ、おはよう」

 すっかり春模様となった今朝。

 僕は、一振りの桜の枝を手折ってきた。

 すぐ散ってしまう、はかない運命の花だから。

 アスカは好きだといっていた。

 今、その瞬間が最高に美しければ、それでいいと。



 そうなのかな。

 本当は、そうじゃない。

 最高に美しいと思える時に、いくらでも巡り会えるのが人生。

 現に、僕は毎日アスカの健やかな寝顔を見る度に、幸せを感じてきた。



 窓の外は、一面の桜の杜。

 悲しいほど鮮やかな桜吹雪。

 桜の根の元には人が埋まっていると、昔の人は言ったけど。

 ここでは嘘ではなかった。

 あの桜の花びら一枚一枚に、折々の人生が込められて、地面に敷き詰められている・・・。



 外の景色の美しさ。

 運命の儚さ。

 アスカが寝ているのが不思議なほど、この世は美しいものだった。

 生きていることが馬鹿らしくなるほど、世界は美しかった・・・。








 「アスカ・・・いいかげんに起きてよ・・・」



 「一人じゃだめなんだ。アスカがいないと、だめなんだよ・・・」



 「何が不満なの・・・。世界はこんなに美しいのに・・・」



 「僕がこれほど、アスカを欲しているのに・・・」



 「僕に、何が出来るんだ・・・お願いだから、その口で僕に伝えてよ・・・」



 「アスカの為なら、毎日だってご飯を作ってあげるよ。バカって言われても、僕は気にしないよ。いつまでも、僕がアスカ為に生きるから。お願いだから、起きてよ!」



 「一人は・・・苦しいよぉ、アスカ。みんな、僕を離れてっちゃうんだ」



 アスカの顔に、僕の涙が落ちる。



 透明な液体。



 それすら、アスカの為になるのかどうか、僕にはわからない。



 「アスカも、一人じゃ辛くないの?この世界が嫌なの?」



 「この世界が嫌なら、僕がアスカの世界に行かせてよ」



 「僕は、アスカ無しじゃだめなんだよぉ・・・・」



 毒リンゴを食べた白雪姫のように、僕の切望にも答えない彼女は、完璧な美しさ。



 すべてを拒絶する、純潔さ。













 彼女の頬に伝った僕の涙をぬぐい。



 両手で彼女の頬を包んで。



 静寂が制したこの部屋で、二つの影が重なり。



 僕は、アスカに、キスをした・・・。














 「・・・・ゴメン・・・ゴメン、アスカ・・・」



 「結局、僕の一人よがりなんだ」



 「僕がしてたのは、迷惑だった?」



 「嫌な男だ、僕は・・・」



 「ごめん、アスカ・・・。もう来ないから」



 「ゆっくり寝ていていいから・・・」



 「だけど、最後に、もうすこしだけ・・・」






 「アスカを、見つめさせて・・・」


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