どうしても手に入らないもの・・・
・・相田ケンスケの場合・・
「フン、フン・・・はっはあ〜!やったよ!おい!!」
人ごみの中を嬉しそうに飛び跳ねている青年。
道ゆく人々は不思議そうに、あるいは迷惑そうに彼を見ている。
ここは第三新東京市のとある商店街。
お昼時と言うこともあり、けっこうなにぎわいを見せている。
疲れているような表情をしているサラリーマン。
食事でもしに来たのだろうか、幸せそうに笑うカップル。
メモを片手になにか考え事をしている主婦。
アーケードゲームにたかる子供達などといったたくさんの人々が行き交っている。
だが、一人だけ異色の表情をしている人間がいる。
先ほどの青年だ。
相変わらず、意味不明なスキップをしながら、人の間をするすると抜けて行く青年。
急いでいるようにも見えるが、そうでもないようだ。
急に走り出したかと思えば、次の瞬間には脇に抱えた箱を大事そうに眺めている。
箱には会社名らしき『N○KON』とかかれたラベルがはってある。
知る人ぞ知る有名カメラメーカー
彼の軽い足取りの理由はその箱にあるようだ。
次の瞬間ピタリと彼の足が止まる。
彼の目の前には大きな高層ビルがそびえたっている。
大きく『情報株式会社ネルフ』と書かれた不思議な白いドーム型のビル。
にやりと意味深な笑いを浮かべると彼はそのビルの中へと消えて行った。
コツ・・・コツ・・・コツ・・
先ほどの軽快な足取りで歩く青年。
そこへ、向うからもう一人の彼と同い年くらいに見える青年が走りよってきた。
「・・・はぁ・・はぁ。遅いよ・・ケンスケ!」
「いやあ・・・・ごめんごめんシンジ、ちょっとさ・・」
そう言うとケンスケと呼ばれた青年は自分をよんだシンジという人物に箱を見せている。
「・・・なにこれ?」
「ふふふふふ!驚くなよ!そら!」
自慢げに箱の中身を取り出すケンスケ。
「ジャジャーン!みろ!シンジ!ついに手に入れたんだよ!」
「・・・なにこれ・・・ただのカメラじゃない・・・しかも、今時、液晶とかも付いてないの?」
シンジの問いに肩をすくめて見せるケンスケ。
「・・・はあ・・・これだから素人は・・・
あのなあ、シンジ。これは、そこいらにはもう売ってない、すんごいカメラなんだぞ!
みろ!この磨きぬかれたレンズ!この高級感溢れるボディ!たまらんね、まったく!
・・・おい、こら!シンジ、どこ行くんだ!」
付き合ってられないよ、とばかりにカメラに狂っている友人に背を向けるシンジ。
「ケンスケ・・・カメラに熱心なのはわかったけど・・・今日なんの日か覚えてないの?」
「えー、と・・・うーん・・今日かあ・・・誰かの誕生日だったっけ??」
はあ、と思わず溜息をつくシンジ。
「あのねえ・・・今日は大事な会議の日・・・リツコさんや、ミサトさんにグチグチ言われるの僕なんだよ・・・おまけに、アスカにもさ・・・」
「はっはっは!!わりい、わりい!でも、ま、そのためのパートナーなわけだし!
ま、とりあえず行こうぜ!」
ケンスケは相変わらずの笑顔でしゃきしゃきと階段を上っている。
そんなケンスケをみてシンジは再度深い溜息をつくのだった。
◇
「おっはようございます!!相田ケンスケ、ただいま到着いたしましたあ!」
何を勘違いしてか、警察官のように額にピッと手を当てているケンスケ。
そこへツカツカとかかとを鳴らして近づいてくる一人の女性。
一目みればいらいらしているのがわかる。
その証拠に形のよい眉毛がきりきりと上がっている。
「相田・・・・今・・・何時だか、わかるかしら・・・」
「えーと・・・丁度お昼の時間かな?」
「そう。良くできました・・・」
穏やかな口調とは裏腹に彼女のコブシはフルフルとふるえている。
それが何を意味するのかそこにいるすべての人間はわかっていた。
・・・たった一人、ケンスケを除いて・・・
丁度そこへ、シンジがのろのろとやってきた。
張り詰めた空気が前方に立ち込めている。
長年の経験からシンジはそれが誰のものであるかすぐに察した。
見ると、ケンスケの背中の奥に・・・案の定例の人物がいた。
「・・・・あ・・・あの・・・「じゃあ、今日が会議だったってことも・・・知ってるわねえ・・」
シンジの声はすぐにかき消された。
「ん?会議?ああ・・・さっき、お宅の旦那から聞いたよ。」
「・・・・そう・・・・なら・・・話は早いわ・・・」
思わず耳を塞いで準備するシンジ。
「あんた!!何考えてんの!!今、1時よ!1時!!
お天道様はもうとっくに登ってるわけ!そんで!あんた、昨日何時に来いっていわれた??!!
7時よ!7時!!何時間たってんの!!おかげでうちの科だけ、リツコに叱られるわ!ミサトにからかわれるわ!!
あんたのせいよ、全部!わかってんの!!??」
まさに天まで届くような声。
目の前にいたケンスケはたまったもんじゃない。
「・・・そ・・・そんなに・・・怒らなくたって良いじゃないか・・・」
耳を押さえながらへらへらと言うケンスケ。
「なにいってんの!!アンタが遅れたら、文句言われんのアタシとシンジなのよ!!
それをよくまあ、ぬけぬけと・・・」
またもやアスカの怒りが上昇しはじめる。
シンジが耳をもう1度塞ごうと思ったその時・・・
・・・パンッ、パンッ・・・
軽快な音が部屋に響く。
「ほらほら。アスカ・・・もう、それくらいで良いんじゃない?」
「・・・リツコ・・・」
「・・・リツコさん・・・」
シンジも部屋にはいって挨拶する。
「・・・あの・・・遅れました・・・・赤木副社長・・・」
こんどはきっちりと敬礼するケンスケ。
どうやら、彼にとっても彼女は別格らしい。
「おはよう、相田君。その様子だと、お望みのものは手に入ったようね。」
「・・ははは・・・あのお陰様で・・・」
「ま、いいわ・・・アスカにみっちり絞られたみたいだし・・・仕事を始めなさい。」
年の功と言おうか、なんとも落ち着き払った調子を決して崩さないリツコ。
そそくさと自分のデスクに座るケンスケ。
まだ怒りが収まっていないように見えるアスカもシンジに促されながら席につく。
ここは元特務機関ネルフが解体された後、MAGIを中心に作られた株式会社である。
基本的にはスーパーコンピュータMAGIを使って情報を集めるのがメインになっている。
世界に一台しかないスーパーコンピュータとリツコの力によって、今では毎年うなぎ上りの収益を得ている。
職員にはシンジやアスカなどと言ったEVAに関わった人間が起用されていた。
したがって、ケンスケは正職員ではなくフリーで雇われたカメラマンである。
「・・・さて・・・相田君も着くたことだし・・・もう1度説明をするわ。」
白いボードにずらずらと文字を書きながら説明をしているリツコ。
だが、ケンスケはそんなことは気にもとめず、箱の中を見つめている。
「やっぱ・・・かっこいいよなあ・・・・これを手に入れるために・・・どれほど苦労した事か、うううう・・・」
その行動をじっと見ているものがいた。
「・・・相田君・・・何・・・泣いているの・・・」
昔から変わらないその口調。
元エヴァンゲリオン零号機のパイロット綾波レイである。
昔からのその赤い瞳で不思議そうに彼を見ている。
「・・・ん?いや、なんでもない、ただちょっとな・・・」
「・・・その箱に何がはいっているの?」
「ん?これか?これはな・・・『N○KON F5』っていってな、世界に数個しかない、すんげーカメラなんだよ!」
「・・・そう・・・よかったわね・・・」
思わずカクンとなってしまうケンスケ。
・・・そう、よかったんだよ・・・よかったんだけどさ・・・
なんかこう、もっとさ・・・・・・・・痛ッ!!
何かが彼の頭にぶつかった。
きょろきょろと周りを見まわすケンスケ。
見ると後ろのほうでアスカが何か言っている。
ちゃんと聞け、と言うことなのだろう。
ケンスケは肩をひょいとすくめると、また箱をのぞきこんでいた。
「・・・と言うわけだから、アスカとシンジ君、それに相田君はここに向かってちょうだい。」
「了解。」
すっとたちあがるシンジとアスカ。
「あーあ、またただのCM作りかあ・・・」
退屈そうに伸びをするアスカ。
「それだけ、平和ということよ、アスカ。これも大事な仕事なんだからがんばってね。」
「はーい・・・わかったわ。・・・・ほら、相田!さっさと行くわよ!」
「・・・ん・・・わかった・・・」
まったく説明を聞いていなかったため、どこに行くのかはわからなかったが、適当に返事をするケンスケ。
そして、3人は部屋を出ていった。
◇
いちょうの並ぶ歩道をきょろきょろしながら歩く3人。
「うーん、たしか、この辺なんだけどなあ・・・」
「ほんとに?シンジ、ちょっと貸して見なさいよ・・」
「ほら・・・あってるだろ?」
「うーん、たしかに・・・」
「お〜〜い・・・・はあ・・・・はあ・・・・ちょ・・・ちょっと・・・待ってくれよ・・・」
活発に動き回る二人とは対照的によたよたと歩いているケンスケ。
「・・・アンタねえ!朝も遅刻してきたんだから、ちったあ、誠意見せなさいよ!」
「んなこと言ったって・・・見てくれよ。
このドデカイカメラ・・・一体何キロあんだよ・・・これ・・・」
どうやら、ケンスケの上手く動けない理由はその背中のカメラにあるようだ。
見ると重そうなカメラが彼の背中にどっしりとのしかかっている。
「・・・なあ、シンジ、持ってくれよ・・・ちょっとでいいからさ・・・」
やれやれと言った様子でケンスケに走りよろうとするシンジ。
だが・・・
「ちょっと待ちなさい!」
「え?どしたの、アスカ?」
不思議そうな顔をしているシンジをよそに、ずかずかとケンスケに近づくアスカ。
「・・・惣流が、持ってくれんのか?じゃあ・・・・」
途中まで、言いかけて止めるケンスケ。
・・・ヤバイ・・・・
逆鱗にふれるってこう言うことか・・・
血管をピクピクさせながらコブシを握っているアスカ。
「あんたねえ・・・うちの旦那の優しいのに付けこんで、なにパシリやらせてんのよ!!」
「いや、別にシンジが友人として助けてくれるから俺はそれをありがたくだな・・・
・・・ん?でも、惣流俺ばっか責めんのっておかしいんじゃないか??」
「どう言う意味よ。」
「だから、お前だってシンジに色々やらせてんじゃないか。
メシの用意から、洗濯まで、けっこう辛いんじゃないか?なあ、シンジ。」
「・・・・アタシとシンジは!」
「夫婦だから良いって言うのかい?そんなんじゃ、いつシンジが逃げ出したって不思議じゃないぜ!」
「な!!」
「シンジくらい気立てが良くて、色々できて、おまけに一定の収入もあれば、誰だってよってくぜ!」
「・・・・・・・・・・・」
何も言わず下を向いているアスカ。
肩を震わせている。
「・・・だいたい、惣流は・・・・・・ん?なんだよ、シンジ。」
シンジはケンスケに何か合図をしているようだ。
・・・ん?なんだ、離れろ?
わけがわからないぞとボディラングイッジでシンジに示すケンスケ。
・・・は・や・く!
今度は口をパクパクさせている。
しぶしぶシンジの言うというりにする。
カメラを背負いながら10メータほど離れたベンチに腰を下ろすケンスケ。
ケンスケが離れたのを確認すると、そっとアスカの髪にさわるシンジ。
「・・!!・・・・シンジ・・・・」
「アスカ・・・どしたの?アスカらしくないよ。」
「だって・・・あたし・・・相田の言うことに言い返せないもの・・・
たしかに、シンジだったらどんな女だって結婚したがるわ・・・
・・・そしたら・・・あたし・・あたし・・・」
アスカの目からこぼれた涙が地面を濡らす。
とうりすがる人達がみんなこちらを振り返る。
「・・・アスカ・・・泣かないでよ・・・皆見てるよ・・・
それに・・・僕はアスカを悲しませたりしないよ・・・僕はずっと側にいるから・・・」
「・・・シンジ・・・」
目をつぶるアスカ・・・・そして、その唇に自分の唇を重ねるシンジ。
「おーお・・・街の中でどうどうと・・・よくやるぜ・・・にしも、俺ってなんなんだ??」
皮肉をたれているが、心の中ではうらやましいケンスケ。
ちっと舌打ちをしてたち上がった。
ケンスケがたち上がった瞬間、遠くでワーっと人の声が上がった。
そして、流れるように逆走してくる人の群れ。
おどろいてそちらを見るシンジとアスカ。
「・・・アスカ!こりゃ、泣いてる場合じゃないよ!」
頷くアスカ。
そして、ポケットから携帯を取り出しダイヤルする。
「あ・・リツコ??ちょっと今日はCM作りは中止ね!
もっと、スゴイスクープなのよ!詳しい事はまた後で、じゃ!」
電話の向うでは、アスカを静止するリツコの声が一瞬聞こえたが、すぐにツーツーという音に変わってしまった。
「じゃ!行くわよ!」
「うん!!」
人ごみをすいすいとおりぬけて行く二人。
「まってくれよ〜〜〜!」
一人取り残されて、よたよたと歩くケンスケ。
・・・ドカッ・・・
ふざけんな、どこ見て歩いてんだ、小僧!!
邪魔なんだよ!!
ぶっ殺すぞ!!
・・・なんで俺だけ・・・・
その時ケンスケの頬を熱い液体が通りすぎた。
っは・・・これが涙・・・・・泣いてるの・・・私・・・泣いてるの・・・
「・・・相田!!なにやってんの!はやくしなさいよ!!」
「ケンスケ!スクープだよ!はやくしないと!!」
200メートルほど先でケンスケを呼ぶ二人。
だが、ケンスケはその場から進む事はできなかった。
・・・・・バタ・・・・・
そして、彼の意識は遠のいて行った。
っは!!
・・・・俺はいったい・・・・
(・・・・知らないわ・・・たぶん、あなたは三人目だから・・・)
頭の中に不思議な声が響く。
なんだ・・・今のは・・・・
・・・・ん?確かあの人はミサトさんの恋人・・・・加持さん・・・
ケンスケの前方にはじょうろを片手に木のそばに立っている長身の男が立っていた。
「・・・っか、加持さん・・・シンジや惣流は・・・」
「・・・ケンスケ君じゃないか・・・なにやってるんだ?こんなところで・・・」
「か・・加持さんこそ、なにやってるんですか?こんな時に・・・」
さっきからけたたましいサイレンの音が街中に鳴り響いている。
「こんな時だからだよ・・・死ぬ時はやはりここに居たいからね・・・・」
「死ぬって・・・」
「そうさ、使徒がこの地下に眠るアダムと接触すれば人類は滅ぶ事になるだろう・・・・
サードインパクトでね・・・」
「な・・なに言ってるんですか?使徒はもうとっくに・・「ケンスケ君、君には・・・君にしかできない、君にならできる事があるはずだ・・・・
誰も君に強要はしない・・・
自分で考え、自分で決めろ・・・今君が何をすべきなのかを・・・
まあ、後悔のないようにな・・・」
ケンスケの言葉を遮り半分強引に自分の言いたいことを言いきった加持は満足げに去っていった。
「なんなんだ・・・いったい・・・・」
その時、突然自分の肩を誰かが触った。
「ケンスケ・・・やっと見つけた!」
「シンジじゃないか・・・どうしたんだよ、なんだいこのサイレンの音は?」
「実は・・・爆弾テロがあって・・・」
「じゃあ、さっきのは・・・」
頷くシンジ。
「そうか、あれ?惣流はどうしたんだよ?現場に居るのか?」
「アスカは・・・・犯人に捕まった・・・・」
「な!・・・どうして!」
「犯人の顔を取ろうとして、近づきすぎたんだ・・・・
だから、僕が助けなきゃ・・・」
シンジは自分の胸をボンと叩いた。
たぶん、防弾チョッキを着込んでいるのだろう、低い音がする。
「だから、ケンスケ、一緒に着てくれ!」
「なんで、俺が?武装もしてないのに?」
「アスカは捕まってから僕に合図してきたんだ、自分を助けてそれをスクープにしろって・・・」
「じゃあ、俺に写真を撮れって言うのか?」
無言で頷くシンジ。
その目はいつかのEVAの中で見た目と同じ強い意志をおもった目だった。
「・・・わかった、俺も一応プロだ。依頼された仕事はやるよ・・・」
「ありがとう・・・」
二人はがっちりと腕をからませ現場へと走った。
◇
「おらあ!近づくと、この女ぶっ殺すぞ!!」
現場では半狂乱になった犯人がわめいている。
警察が取り囲んで入るが、人質がいる以上手荒な真似はできない。
「・・・アスカ・・・今助けるからね・・・」
「シンジ・・・どうする気だ・・・」
にっと勝ち誇った笑いを浮かべるシンジ。
自慢げに銃をふところから取り出す。
「・・・ミサトさんにもらったやつ。
訓練なしの人間でも扱えるくらい軽い反動ですむようになってる。
玉は六発・・・・」
そう言って安全装置をはずし、弾を弾倉に送りこむ・・・が・・・
・・・スカ・・・
いつもの、カチャという音がしない・・・
まさか・・・
シンジの顔が青くなる。
恐る恐る銃を確かめるシンジ。
・・・・やっぱりだ・・・・・弾・・・置いてきちゃった
「シンジ何やってんだよ、こっちは準備万端だぞ!」
ケンスケは今日朝買ったと見える、新しいカメラを構えている。
「あれ?ケンスケそれ・・・」
「ん?ああ、さっきのやつはでっかくて面倒だから置いてきたよ。
これぞ、今日の朝調達してきた『N○KON F5』だ。チタン合金使用のすぐれもんさ!」
シンジの耳にそのカタカナの原料名が響いた。
「チタン合金?・・・それって、ダイヤモンドの次に固いって言う鉱物のこと?」
「ああ、そうだ、シンジよく知ってんじゃないか。
像が踏んでも壊れないってな!」
シンジの暗い顔が見る見るうちに変わっていく。
まるで、何かを確信したかのように・・・
「ケンスケ!やったよ!」
「ん?そうか?なんのことだからわからないけど!じゃあ、作戦実行だ!」
「うん!」
そいって走り出そうとするシンジ。
そして・・・
「じゃあ、ケンスケ!それ借りるよ!」
ケンスケの手からカメラを奪い取る。
すべてがスローモーションのようになる。
振りかぶるシンジ・・・
何かを叫びながら必死にシンジにくらいつこうとするケンスケ・・・
だが、わずかの所で届かず。
シンジの腕が前に繰り出される。
飛んで行くカメラ・・・それを追うケンスケの視線。
身体をよじるアスカ・・・
振り向く犯人・・・
・・・・ドゴッ!!
「今だ!!行け〜!!突撃ー!!」
犯人に詰めよる警備隊。
アスカの元に走るシンジ・・・
そしてケンスケは・・・
「俺のカメラ〜!!!」
ケンスケの目には地面に落ちたカメラしか映らない。
警備隊を押しのけ、野次馬を突き飛ばしただひたすらにカメラの元に向かうケンスケ。
・・・後4歩・・・・
・・・2歩・・・
・・・もう少しだ!!
・・・・あと1歩!!
・
・
・
ガスッ!!
「爆弾テロ及び、窃盗罪で逮捕する!」
気合の入った声と共に警察官に蹴飛ばされるカメラ。
そしてシャーッと音を立て、回転しながら転がって行く。
倒れこみながら視線だけでその行方を追うケンスケ・・・
カン・・・
・・・カン・・・
・・・カン・・・
・・・カン・・・
軽快な音と共に階段を落下して行くカメラ。
そんなケンスケとカメラをしり目に、再会を喜ぶ二人。
「アスカ!!怪我はない?」
「ええ!このとうりよ・・・・・シンジが頑張ってくれたから・・・・」
「・・・いや・・・僕は・・・その・・・・」
アスカの可愛らしい表情に照れるシンジ。
そんなシンジを愛おしそうに見つめるアスカ。
「・・・シンジ・・・ありがと!」
そういってシンジの顔に自分の顔を近づける。
・・・・CHU!!
「ア・・・アスカ・・・みんな見てるよ・・・」
「いいのよ!アタシたちは夫婦なんだから!!」
うろたえるシンジから離れようとしないアスカ。
周囲から野次が飛ぶ。
・・・・・ヨッ!熱いねお二人さん!
・・・・お幸せに!!
・・・・アンタ得だよ!そんなべっぴんさん奥さんにもらって!
ワーと歓声が舞いあがる。
辺りに和やかな雰囲気が戻ってきた。
そこにいるほとんどの人は笑顔を見せている。
無事事件終了ということだ。
だが、ただ一人まだ事件を追いかけている物がいた。
そして、彼の叫び声。
みんな一斉に振りかえる。
・
・
・
ドボォーン!!
何かが水に落ちる音。
その何とかはもちろん・・・・・
「俺のカメラ〜〜!!!!」
◇
かくして、事件終了から一週間が経った。
今回の事件は文句なしのTOP記事となった。
カメラは壊れてしまったが、綾波が駆けつけてくれて一部始終を撮っていたのだ。
できあがった記事には『某有名会社員(24歳)、カメラで凶悪犯から、愛しい妻の奪回に成功!』というコラムがデカデカと記載されていた。
しかも、アスカの要望で顔は隠されていない。
おかげで、シンジ、アスカ夫妻は社内での名声は、はかりしれないものとなった。
事件終了後3日間は社内の内線、外線ともにパンク状態になってしまったらしい。
今ではすっかり落ちつきを取り戻した社内。
今日も1日が始まっている。
「碇さん、赤木副社長がお呼びです。」
リツコに呼ばれ、席からたちあがるシンジ。
途中で妻のアスカが彼に耳打ちする。
「昇進じゃないの?」
「まさか、なんかもっとべつの用だとおもうよ。」
妻といつものコミュニケーションを交わしオフィスに向かうシンジ。
「・・・碇シンジ入りまーす。」
服装を点検し声をあらためてドアをノックし部屋に入る。
「シンジ君、仕事中悪いわね。」
「いえ。それで・・・・なにか・・・」
「あのねえ、この前、雇った相田君の契約期限、今日で切れてるのよ。
連絡したんだけど、どうも上手く捕まらないのよ・・・」
「そうですか・・・・じゃあ、僕、帰りに直接よって来ます。」
「悪いわね。じゃあ、よろしく頼むわ。」
ぺこりと一礼をしてオフィスから出るシンジ。
アスカが微笑みながら彼を出迎える。
「なんだった?」
右手で『O』の形を作っている。
給料UPか、という意味だ。
「ううん。違うよ、ケンスケのこと。今日で契約が切れるんだって。」
「そういえば、あのバカ、あれから見ないわね。」
「だから、今日帰りに寄って見るつもり。」
「っとに!居てもいなくても迷惑なやつ!」
頬を膨らませて腕を組んでいるアスカ。
「ま、僕が雇ったんだしね。仕方ないよ。」
そう言って自分のデスクに戻るシンジ。
アスカもシンジが席についたのを確認するとまた仕事を始めた。
◇
いわゆる田舎道を並んで歩くシンジとアスカ。
「っとに!相田のやつ。こんなとこにすんでんの?」
辺りには腐りかけた木で作られた見るも無残な家のようなものが並んでいる。
「あ、ここだ。」
手に持ったメモと辺りの景色を照らし合せるシンジ。
前には周りと同じ木造のアパートのようなものが、そびえたっている。
アスカを促したが、こんなところに足を踏み入れるのは嫌だと言ってついてこない。
仕方なく一人で中にはいった。
「すみませーん。」
シンジが声をかけると、大家と見られるおばあさんがでてきた。
「碇というものなんですが、ここに相田ケンスケさん住んでらっしゃいますよね。」
「ああ。相田さんのしりあいかね?
残念だけどたぶん、会えないよ・・・ここんとこ、ずっと部屋にこもりっぱなしでね。
たまに、部屋の前とおるとなんかヘンな事呟いてるんだよ。」
「え?どんなことですか?」
「・・・そうねえ・・・なんか、もうもう手に入らないんだ・・とかなんとか・・・
詳しい事は良くわからないんだけどね・・・
ん?どうしたんだい?顔色が悪いよ・・・」
ビューッと冷たい風とともに数枚の枯葉があたりに舞い降りてきた。
「いっ・・いえ!・・・何でもないです。・・・で・・では彼によろしく!!
ほ・・ほらアスカ!!」
そそくさと帰って行く二人。
そんな二人の姿をじっと眺めている人物が居た。
そして、何回目になるかもわからない言葉をボソリと呟いた。
「・・・・・もう・・・どうやったって手に入らないんだ・・・・・・」
完
こんにちは!
八色の姓です。DARUさんのお題に挑戦してみた訳ですが・・・・・
いや〜、難しい・・・そんで、いつの間にやらこんな風になってしまいました。
まあ、たまには、ケンスケも活躍させないとってことで・・・
・・相変わらずの駄文ですが、これから修業して頑張りますんで・・・
長い目で見てやってください。では!
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