NEONGENESIS
GRAND PRIX
EVANFORMULA
第6話Bパート「死神の咆哮」
シンジはトウジのマシンに乗り上げ宙に舞い上がった。
しかし、リヤタイヤに接触したのは不幸中の幸いだった。
ハイスピード下で接触したため、勢い良くマシンは弾き上げられたが、
そのままの体制で地面に戻ることができた。が、その際フロント周りの空力パーツは
地面に削り落とされて無くなり、接触したリヤタイヤが曲がってしまったが、
ドライブシャフトは何とか生きていた。
マシンはそのままの体勢で着地は出来ていたが、その様な状態のマシンが普通に
走行できる筈もなく、
シンジはそのままカーブを曲がりきれずにサンドトラップに突っ込んだ。
『ちょっと、シンジ?!大丈夫なの?!返事しなさいよ?!』
彼の耳にアスカの悲痛な叫び声が入り、何が起こったのか分からずに呆けていた
彼を我に返らせる。
『シンジ?!ちょっと・・・シンジってば・・・』
彼女の声は次第に生気がなくなってきていた。シンジはそんなに心配してくれてる
彼女に声をかけようと無線のスイッチを入れた。
『・・・僕は大丈夫だから・・・心配しなくていいよ。
アスカはその声を聞いただけでホッとして肩の力がドッと抜けていくのが分かる。
と同時にアスカの目に涙が・・・アスカはシンジに話しかけようとインカムのマイクを握る。
『シン・・・』
それよりマヤさん、マシンの状態のチェックどうですか?』
アスカはいきなり話しを変えられて、しかもマヤに問いかけているシンジに腹が立つが
そんな事はシンジの無事に比べれば些細な事。今は早く元気な顔を見たかった。
そんな目を潤ませているアスカの横ではシンジのマシンがサンドトラップで
停止した瞬間から冷静にキーボードを叩いていたマヤの検査結果が出た。
『シンジ君、EG-Mの中枢機能はダメージなし。ただフロント周りとリヤのアームが
ボロボロだから戻ってこれそうなら戻ってきて。無理ならレースは諦めなさい』
シンジはマシンを動かし始めた。何とかサンドトラップからは抜けだし、走り出すと
思ったよりダメージがある事に気がついた。
(今回は駄目かな・・・でも最後まで諦めはしない。それが僕のレースだから・・・)
そんなシンジの脇をカヲルとトウジが通過する。
「僕は幸運だね。シンジ君がいなくなってくれればチャンピオンがグッと近くなるよ」
「アイツ・・・生きとったとはな。運のええやっちゃ。
・・・まあええ。今回のレースはEVIAへの復讐にあるのや。とことんまで潰したる」
この事をヒカリはインカムで聞いていた。ヒカリは一気に不安になった。
(鈴原・・・さっきの碇君への攻撃もその一端?あれは碇君を殺そうとしたの・・・
鈴原まさか・・・このレースで自分も死ぬ気じゃ・・・)
ヒカリは先ほどのトウジの走りを見て彼のシンジへのアタックが
余りに危険な行為だった為にそんな不安を抱かずにはいられなかった。
彼女はこの次トウジが危険な行為をしたら、マシンを強制的にストップさせる事を
ここで決意した。
トウジはカヲルに追いついた。カヲルはセーブして走っている。
片やトウジは全開でカヲルに迫っていく。
「彼は何も考えてないのか?あんなペースで走っていたら最後までは持つ訳がない」
カヲルは後ろに迫ったトウジを先に出そうと道を譲る。
シンジを葬ったコーナーでの事だった。
その時、トウジがニヤリと薄笑いを浮かべていた事を、カヲルは知る由もなかった。
シンジのマシンがピットロードに入ってきた。
正にマシンはスクラップに近い状態、シンジはマシンを頭からピットに突っ込んだ。
メカニックはそこでフロント周りリヤ周りをチェックしている。
「チーフ、行けます。パーツのジョイントは飛んでません」
マヤはそれを聞いて作業を急がせる。
シンジはコクピットの中で横に座るマヤを見ていた。
忙しそうにキーボードを叩くマヤに見とれていたと言っても良い。
そのマヤと目が合って一瞬ドキッとした。とはいってもマヤからシンジは見えないから
マヤはシンジが自分を見ていたなんて事は全く知らなかった。
『シンジ君、このまま走る気よね?』
『あ・・・、もちろんです。最後まで諦めません』
『ちょっとかかるからマシンから降りたかったら降りていても良いわよ』
マヤはシンジがこのコクピットが好きになれてないのは知っていた。
だからこそ出た言葉だった。
『分かりました。そうします』
シンジはキャノピーを開くと、マシンから降り、そこで初めてアスカを見た。
アスカが目に涙を溜めて彼を見ていた。そんな彼女にシンジは声が詰まる。
その目が彼に向けられているのも、彼は理解した。
そうしている間もなく彼はアスカの腕の中に包まれた。
「ちょっと、アスカっ。いきなりどうしたんだよ?」
「・・・心配したんだから・・・これ位させてよ・・・」
アスカの声で本当に心配してくれてるって理解する。
シンジはしばしの間アスカの望む通り抱かれていた。
アスカは彼の温もりを感じることであの時の不安を恐怖を忘れようとしていた。
そして暫くした後にアスカはシンジから離れる。
シンジはまだ彼女の目に涙が溜まってるのが見て取れたが、
その溜まったものが頬を伝わり、粒となったものが地面へと落ちた。
「シンジの気持ちが分かっちゃった。この前のシンジの気持ち・・・心配で・・・不安で
・・・もしこのままシンジとさよならなんて事になったら・・・
そう思っただけで目が熱くなるのね。こんなの初めて・・・
私・・・レーサーの奥さんにはなれないかな。
こんな思い・・・2度としたくないもの・・・」
シンジは彼女が心配してくれる事が嬉しかった。
と同時にあの時アスカが彼に心を開いてくれた訳が分かった気がする。
(アスカも・・・あの時こんなに嬉しかったのかな)
でもシンジは彼女の将来の心配の種をここで植え付けてはいけないと思い、
「大丈夫だよ、アスカなら。何も好き好んでレーサーなんかと結婚しなくたって
他にもっといい仕事のいい相手が見つかるよ」
シンジは我ながらいい答えだと思った。
これでアスカも元の元気なアスカに戻ってくれると信じていたが・・・
【ブワチィィィィン】
アスカにいきなりビンタを食らわされた。
「馬鹿!!鈍感!!」
アスカは口を動かしながらドリンクボトルを彼に手渡す。
そんな彼女の表情は微笑みを讃えていた。
シンジは殴られた事に不満はあったが、
アスカが立ち直ってくれたようなので、アスカに微笑みながらそれを受け取った。
「おあつらえ向きにこのコーナー・・・死にたいのやな」
トウジはこのサーキットで最高速をマークするビルニューブコーナーでカヲルが
譲ってきた事を心の中で笑う。
「ふふ・・・望み通りにしたる・・・」
トウジはカヲルの横に出たが、抜かそうとしない。
トウジは前後のブレーキバランスをずらしてトサのブレーキングのポイントに来た。
「どうして彼は先に出ない?ボクはバトルをする気はないんだし、
君ならボクの前に楽に出れた筈なのに・・・」
「さいなら」
トウジがブレーキを駆けた瞬間、トウジのマシンのリヤタイヤがロック!
リヤタイヤがカヲルに襲いかかった。
「馬鹿な!!」
カヲルは瞬時に次の彼の行動を読む。
「まさか!!」
カヲルはシンジの時のトウジを思い出した。
だがその時トウジのマシンがカヲルのフロントウイングを飛ばした。
そのままトウジは全てのタイヤをロックさせてフルブレーキを駆けた。
しかしカヲルはこれを予測していた。
カヲルもトウジのマシンを交わそうとマシンを動かす。
シンジの時のように乗り上げたらダメージが酷くなってしまう。
このやり取りでマシンのスピードはガクッと落ちていたお陰で
カヲルはトウジのマシンを避けきれずに接触はしたが、
シンジの時のように大事故にはならなかった。
カヲルのマシンのダメージはウイングを吹き飛ばされただけに留まった。
「君は・・・何を考えているんだ?・・・分からないよ」
カヲルはトウジの走りに怒りは沸いては来なかったが、
何でこんな事をするのか理解に苦しんだ。
カヲルだけにこういう行動を取るのならまだ話は分かるが
シンジにも同様の事をやってるだけに、全く分からなかった。
どちらにしろカヲルはウイングを直すためにピットに入ることを余儀なくされる。
「これでまずは2台か・・・流石にここいらを走る連中は上手いで。
死なん程度にマシンを持っていける巧さがある。
だが・・・次の獲物はあの女や。わいらと共に来てくれそうなやっちゃで」
そう呟きながらバックモニターに映る白いEG-Mを見て、
トウジは口元を不気味につり上げていた。
『ピットインする。ウイング交換、タイヤはハードタイプ、時間はかかっても良いから
フルチャージしてくれ』
カヲルはこの余分な1回のピットインを出来るだけ挽回しようと考え、
出来るだけ次で延ばす選択をとる。
トウジはペースを落とした。
今は他のドライバーがセーブして走っているために彼の計画には不向きな時間帯と踏んだ。
彼も終盤に彼の勝負を賭けることにし、マシンの温存に入ってゆく。
その頃シンジのマシンはピット前に出されて最後の調整をしていた。
「シンジ君、あと少しで終わるわ。準備しておいて」
シンジはボトルをアスカに渡してプラグスーツをフィットさせる。
「しっかりね、シンジ」
アスカはまたコクピットに収まろうとするシンジの背中を見て、
先程の心配と不安な気持ちが彼女の心を支配する。
(もし・・・さっきみたいな事がまたあったら・・・これがシンジの最後の姿だったら・・・)
嫌な想いは一気にアスカの中で増幅する。
「いけるわね。マシンは完全に直ってるわ。とにかく堅実にね」
シンジはマヤに向かい少しの笑みで返した。
「じゃあ、頑張って」
そう言うとマヤはキャノピーを閉め始めた。
アスカの視界からシンジがどんどん消えていく。
「シンジィ!!」
アスカは閉まりかけていたコクピットに潜り込んで
シンジの唇に自らの唇を押し当てた。
マヤはアスカのそんな態度に驚き、慌ててキャノピーを一時停止させた。
「アスカ!!危ないじゃ・・・」
マヤは彼らがキスしてるのを見て言葉を失い、
マシンに繋がっていたノートパソコンのジャックを引き抜くと、
インカムを取りにピットBOXに急いだ。
シンジは視界一杯に広がるアスカの顔とその感触に固まっていた。
アスカは長い一瞬をシンジと共有した後、シンジから離れた。
頬を赤く染めた少女は、
「絶対、戻ってきてね。これはそのおまじない・・・」
シンジの顔は固まっていたが、アスカに向かい
「うん、ありがと・・・」
アスカは切なげな目でシンジを見ながらマシンから離れた。
と同時に、マヤがその光景を見ながらキャノピーを閉め始め、
『シンジ君、アスカの気持ちを裏切らないようにね』
と無線で交信した。
『何ですか?それ?じゃあ行って来ます』
シンジの問いにマヤは何も答えなかった。
そして時は流れ・・・
現在86周目、トップはレイに変わっていた。3度のピットストップを堅実に
終えていた彼女がトウジに6秒差をつけて1位、2位にはトウジ、3位にカヲルが
ついていた。カヲルはトウジとはほとんど差が無く続いていた。
現在の順位をおさらいしよう。
1、レイ 2、トウジ 3、カヲル 4、ミサト 5、日向 6、加持
・・・12位シンジ 最下位ケンスケ・・・となっている。
シンジはトップと同等以上の走りをしていたが、いかんせんタイムロスが大きかった。
トップのレイからは7周差だ。もう優勝はないが、シンジは走り続けた。
己のため、ここまでのみんなの努力を無駄にしないために。
「彼は危険だ。だがもうピットインもない・・・行くしかないのか。
前に綾波レイがいるのはマズイ。彼女に勝たれると後がキツくなるからね。
シンジ君がいない今、彼女を勝たせる訳にはいかない」
カヲルはどうしてもトウジを抜かなければならないポジションに置かれてしまった。
一番嫌な奴が前にいる。
「でも・・・行かなければね。チャンピオンの為、ユキの為に・・・
・・・いざとなったら彼を弾き飛ばしてでも・・抜くしかない」
カヲルもここに来て覚悟を決め、トウジを消してでも前に出る決意を固めた。
「来よったなカヲル。ここからお前を潰して次は綾波や」
トウジにも目的がある・・・この組織を潰すこと。政治力は皆無の彼に出来るのは
レースをめちゃくちゃにしてやるのがトウジの目的であり、
彼に唯一出来る復讐だった。
そして・・・87周に入った瞬間、死神の砂時計から再び砂が流れ始めた。
次回予告
カヲル、トウジ・・・2人の意地がぶつかり合い、
ペースの上がった2人がレイに追いつく。
レイに追いついた2人が彼女をターゲットにタンブレロカーブを
通過していった。トウジはここをポイントに決めた。
次回「死神の咆哮 Cパート」