『・・・シンジ君。シンジ君!』

 発令所、そしてぼんやりと突っ立っていたゴジュラス初号機のエントリープラグ内部に、ミサトのせっぱ詰まった声が響いた。その声で、シンジの意識が徐々に覚醒していく。ただ意識ははっきりしても、なぜ自分がその場にいるのかはわかってはいないようだった。

 「・・・は、はい」

 シンジのどこか投げやりな言い方にミサトが声の調子を少し強める。なにぼんやりしているのよ!?そう心の中で付け加えながら。

 『何やってるの?敵は目の前よ!』

 「敵?」

 昨夜徹夜して、ユイやアスカ達と一緒にセカンドインパクト前の怪獣映画と熱血アニメ映画を見ていたシンジは、ようやく自分がどこにいるのか、そして今何をしなければいけないのかを思い出した。そうだ、今僕は戦っているんだ。
 眠気も吹っ飛び、慌ててメインモニターに見言えるシンジ。シンジの、ゴジュラスの眼前には奇妙な形の使徒が立っていた。

 頭のない人型。かつてアフリカに居たと信じられていたヘッドレスピープルに凶悪な爪、そして爬虫類のような、植物の蔦のような長い尻尾をつけた姿。あるいは無垢な、汚れを知らない、これから知る白子の天使。そんな風にも見えた。

 シンジの背中に言いしれぬ使徒への恐怖の汗が、ミサトの背中にはシンジがズタボロにされたとき、ユイがどんな理不尽なことを命令するか恐怖の汗がじっとりとにじむ。

 『シンジ君!何をぼんやりしてるのよ!? (あなたに何かあったらとばっちりが来るのは副司令と、私なのよ!!!)』
 「す、すみませんミサトさん。眠くって・・・(母さんが怪獣映画メドレーなんかするから・・・)」
 『眠いって・・・。だからあれほど、12時までには寝なさいって言ったのよ!(夜中過ぎてもギャオーンギャオーンって五月蠅いったらなかったわ!!!)』
 「だ、だって、母さんが・・・(ぼ、僕は寝たかったんだ。でも母さんが最後まで見ろって、だから逃げちゃダメだって思ったんだ)」
 『酷いわシンジ!母さんのせいにするなんて!私はあなたをそんな子に育てたつもりはないわよ!!(って、育てたのは父さんだったわね)』

 使徒を目の前にして始まるミサトとシンジの言い合いにユイが加わった。顔を真っ赤にして、自分は悪くないとだだっ子のように主張するユイ。ミサトは唖然と口を開き、ユイの横ではキョウコとナオコが顔を手で覆って、馬鹿な親子漫才をするシンジ達に呆れ返っていた。岡目八目とはよく言ったモノだ。

 『ユイ・・・。それより、しなければいけないことがあるでしょう?』
 『そ、そうだったわねキョウコ。とにかく、アイアンコングとサラマンダーは現在修理中で、戦えないんだから、シンジだけが頼りなのよ!』

 そう、ユイの言葉通り今現在第三新東京市とネルフは先の第五使徒との戦いで、実戦可能なゾイドが限られていた。小型ゾイドでは使徒の相手にはならない。あくまで使徒に勝てるのは大型ゾイドだけなのだ。そして今動ける大型ゾイドはゴジュラスのみ。

 「と、とにかく使徒、・・・使徒を倒さなきゃ!」

 発令所とシンジの会話が聞こえていたわけでもないだろうが、使徒はシンジが気を取り直すまで全く動こうとせず、ゴジュラスの様子をうかがっていた。余裕を見せているようで、ミサトは気にくわない。何かある。ミサトの直感はそう告げていた。

 『そうね。でも気をつけて!やつの能力は未知数よ!』

 「はい!」

 シンジがレバーを握りしめると同時にゴジュラスは兵装ビル、トウジやムサシ達、小型ゾイドの援護射撃を受けながら使徒に飛びかかった。第三新東京タワーを一撃で粉砕できるゴジュラスの剛腕が使徒の胸めがけて打ち付けられた。
 だが使徒は素早くゴジュラスの攻撃を右手で受け流してかわすと、しなやかな尻尾をゴジュラスの首に巻き付ける。
 ギチリと軋みが上がり、シンクロしていたシンジは呼吸が一瞬止まる。たちまちのうちにシンジの顔色が紫色に変化した。チアノーゼを起こしたのだ。

ーーーン!!

 その時、ゴジュラスの眼光が赤から青色へと色を変えた。
 半ば意識を失ったシンジに代わり勝手に動き出し、使徒の尻尾を掴もうとするゴジュラス。ただの暴走なのか、それとも・・・?
 ゴジュラスのカギ爪がゆっくりと開かれていく。使徒の尻尾を、その本体を引きちぎるために。
 だがそれは果たされなかった。
 次の瞬間、使徒はゴジュラスを思いっきり投げ飛ばしたのだ。
 ビルをなぎ倒しながら倒れるゴジュラス。衝撃と呼吸が戻ったことでシンジの意識が覚醒し、ゴジュラスの眼光も元に戻る。

 「シンジ君!?
 鈴原君、何とかシンジ君を援護・・・」

 ミサトがゴジュラスの暴走の危機が去ったことにほっとしながら叫んだその時、使徒は両手を広げた。エントリープラグのモニターが真っ白に焼き付いていく。

 「うわあああああああ―――――っ!!」

 激しい閃光。
 シンジの意識がミキサーでかき回されたように混沌としていく。土中に潜って姿を消す使徒。それが碇シンジに残ったこの戦い、最後の記憶だった。

 『シンジ君!シンジ君!返事をして!!シンジくーん!!!!!あなたに何かあったら私もそっちに行くことになっちゃうのよ!!!お願い、シンジ君返事し・・・いやああああ、司令!止めてぇ!助けてぇぇぇぇぇぇぇぇ・・・・・・』


















 (僕は・・・誰だ・・・?)








































 (僕は・・・僕は・・・僕は・・・)



































 (そう、俺は碇シンジ。いや魂の名前、天王 散っ!!!)





1st Impression?

第X話














ごめんなさい。この話は壊れています。
 外伝1と2をメドレーで読んでいる方は注意しましょう。作者と読者の君との約束だぞ!(キラーン)











 「・・・スキャンでは、外的損傷は見当たらないわ。脳挫傷も脳内出血もなし。ほとんど無傷といっていいわね」

 ネルフ本部のリツコの私室兼、研究室兼、第三新東京市の捨て猫達が集まり、MAGIの総力をあげた検索によって新しい飼い主が見つかるまでの間の仮の住まいで、心底から疲れ切った声でリツコは言った。足にじゃれつく生後三週間ぐらいの子猫の愛くるしい仕草も、彼女の心を癒す事はできない。
 彼女の顔はお肌かさかさ、潤い全くなし。三日貫徹したときよりももっと疲れたって顔をしている。

 「・・・・・・・・・・・じゃ、何が問題なの」
 リツコの言葉を受け取ってミサトがリツコと甲乙つけがたいくらいに情けない声を出した。目の下に隈ができ、更にユイから受けたお仕置きの名残か絆創膏を顔中に貼り、肩から右腕を吊っている。だがそんなことは彼女の心を被う精神的苦痛に比べれば、蚊が刺したようなモノだった。







 「記憶喪失ぅ?」

 制服のスカートから形のいい足をぶらぶらさせながらアスカが人ごとみたいに言った。場所はミーティングに使われる待機室。ここにシンジと怪我で入院しているマナ以外の全チルドレン(カヲルをのぞく)が集められ、先の戦闘の結果と使徒の謎の攻撃より意識を失ったシンジの様態についての報告会を行っていたのだ。
 皆一様に心配そうな表情をしていたが(レイも)、アスカだけは興味なさそうにあさっての方向を見つめていた。その姿は仲間をないがしろにしているようでミサトには少し腹立たしかったが何も言わなかった。彼女は一応わかっているつもりだったからだ。アスカは本当はとても心配しているのだが、意地っ張りな性格故に、それを表に出せなかったことを。
 それはともかく、

 「もっとタチ悪いわ」

 アスカの疑問にミサトが吐き捨てるように応えた。
 「じゃあ、どうすんのよ。シンジは、これでお役御免って・・・・・・・もっとタチ悪いって?」
 「・・・・・・・・見ればわかるわ」
 そう言うとミサトは背後の扉に目を向けた。リツコも同時に嫌そうに目を背け、リツコの後ろで太鼓持ちのように立っていたマヤは泣きそうな顔をした。チルドレンも大人達の異様な雰囲気になにがしか感じるものがあったのだろう。ミサトの見つめる扉を檻から逃げ出した人喰いトラでも見るような目で見つめていた。
 気のせいかどんよりどよどよと重苦しい気分にさせるような音楽が聞こえてくる。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シンジ君、入って良いわ」

 シーン。

 ミサトの言葉にドアは開く気配が全くなかった。
 ミサトとリツコは胃液がざぶざぶ出てくるのを感じて顔をしかめ、チルドレンは疑問符を頭の上に浮かび上がらせた。
 ミサトが深呼吸の後数字を1から10まで数える。その後改めて扉を、その向こうの存在を睨み付けた。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・散くん、はいってちょうだい」


 ドドドドドドドドドドドドドドッ!

 ミサトの苦虫を千匹くらい噛みつぶしたような言葉と共に、扉の向こうからどたどたと何かが走る音が聞こえてくる。改めてワケわからないといった顔をするチルドレン。

 がちゃっ!

 勢いよく扉が開け放たれ、何かが勢いよく室内に飛び込んできた。
 ためらいのない力強い踏切と共に、空に舞い上がるしなやかな体。その体が捻りを加えながら空中で一回転。まさに完璧とも言える一回捻り宙返りだった。
 着地点にミサトが用意したパイプ椅子がおいてなければ。

 グシャッ!ゲキョッ!ドゴゴゴゴッ!グッシャアアアアアアッ!!!

 足が椅子の隙間にはまりこみ、立つことはもちろん、勢いを殺すこともできず愉快な音と共に顔面から前のめりに地面を転がる謎の人物。転がっていった先には無意味に堅くて重いスチールデスクの角があった。周囲に何か堅いモノと堅いモノがぶつかる鈍い音と、赤い飛沫が飛んだ。美しくもワケの分からない光景を目撃したミサト達の顔を朝焼けのような光が照らしだす。
 呆然とみなが見守る中、そいつは机にしがみつきながらなんとか身を起こした。血がどくどくと流れ落ちるが皆一歩として動くことができない。

 「お、俺の名は碇シンジ・・・た、魂の名前、天王 散(てんのう はらら)。き、記憶を失っているらしくて、皆のことは覚えていないが・・・俺は俺だ。・・・これからもよろしく頼・・・む・・ぜ・・・」
 それだけ言うと妙に眉毛が濃く太くなったシンジは前のめりに倒れた。

 (失敗か・・・・・・。あれほど練習した熱い空中回転の後の自己紹介・・・。まあすんだことはくよくよ振り返らないのが漢だ。いまはそれよりも・・・・)

 「きゅ、救急車を・・・・・・・・ふっ、ジャイアントさらば・・・」

 「まずい!これは本格的に洒落にならないわ!マヤ!」
 「救護班!?すぐに来て下さい!急患です!!シンジ君が色んな意味でやばいんです〜!!」
 「うげっ!?脈が止まってる!リツコ、電気ショックよ!!」

 シンジがやばい領域に旅だったことを確認した瞬間あわただしくなるミーティングルーム。ミサトの絶叫、マヤの悲鳴、リツコの高笑い、シンジのうわごと。そしてどたどたと救護班やミサト達が走り回ったあげく室内から消えた後、さっきから一歩も動くことができず固まっていたチルドレンを代表してレイが呆然とした顔のまま呟いた。

 「いまの・・・・・・・・誰?」







新世紀エヴァンゾイド

外伝3
「 結成? 地球防衛バンド 」



作者.アラン・スミシー



 時間が変わって再びミーティングルーム。緊急事態と言うことで室内にはミサト、リツコ、そしてユイ、キョウコ、ナオコもいる。話題の中心であるシンジは医務室で絶対安静で眠らされており、血の後や妙な方向に曲がった机と椅子は片づけられている。

 「結局どういうことなの?」

 心の平穏をかろうじて取り戻したアスカが質問をした。他のチルドレンはレイ以外は虚ろな目をしてぶつぶつ呟いているか、他の誰にも見えない肩の上の誰かと話をしていた。どうやらショックが大きすぎたらしく心が壊れる前にあっちの世界に一時的逃避をしたらしい。シンジとは違った意味でやばくなっていた。
 精神汚染寸前の光景を見ないことにして、リツコは用意していた映像を再生させた。モニターが真っ白な光を映し出した後、突然先の戦闘の映像が映し出された。

 「ここを見て。この奇妙な発光現象」

 リツコがスクリーンを指し示した。アスカ達正気を失っていない連中がスクリーンを見る。そこにはあの使徒が写し出されていた。ふざけている場面じゃないと判断したアスカ達の顔に緊張が走る。
 彼女たちが見回る中、映像は進んでいった。
 ゴジュラスに尻尾を巻き付け、ついでコマを回すようにゴジュラスを投げ飛ばす使徒。
 瓦礫の中から身を起こし立ち上がろうとするゴジュラス。
 ゴジュラスの正面に立った使徒の全身がカメラのフラッシュのような光を放った瞬間、スクリーンは真っ白になった。


 「・・・この後、碇君は意識を失った?」
 すでにわかっていることを確認するような口調でレイがたずねる。物覚えと理解力の良い生徒の答えに満足した顔でリツコが頷いた。
 「そう、まるで光に生気を吸い取られたかのように・・・」
 「せいき?い、いやらしい」
 リツコの言葉に何を想像したのか真っ赤な顔のアスカ。すぐさまヒカリがお決まりのセリフを言おうと立ち上がりかけたが、それは寸前で止まった。
 「せい○きぃ?もうアスカったら中学生とは思えないくら・・・おぶぅ!!」
 朝起き抜けのエビチュの影響か馬鹿なことを言ったミサトの鳩尾に、ユイの気を込めた肘がまともに入った。ミサトから数メートル離れていた机に座っていたはずなのだが、ヒカリが『アスカもミサトさんも不潔よぉ〜〜〜!!!』と叫びかけたそのときには、すでにミサトの目の前にユイはいた。完璧な残影拳。枕を殴りつけるような鈍い音の直後、ミサトの目が見開かれ、ついで膝から崩れ落ちて床を転がり回る。その姿を感情のない目で見ながら、ユイはいたずらなガキ大将に言い聞かせるような優しい口調で、全然内容は優しくないことを言っていた。
 「葛城一尉、子供達の前で何を言ってるのかしら?今度そんなことを言ったら、ゴジュラスに踏ませるわよ。って、ちゃんと聞きなさい!」
 「無様ね・・・。でも生気だなんて、リっちゃんのお言葉とも思えない非科学的な意見ね」
 本来ならばミサトの言葉なのだが、ミサトは鳩尾を押さえて床でのたうっているため、代わりにナオコがリツコにその真意を尋ねた。ナオコの少しばかり皮肉っぽい視線に、これまた皮肉っぽい視線を向けながらリツコは言葉を続けた。
 「母さん知ってる?知ってるわよね、こういう言葉。極度に発達した科学は、魔法と見分けがつかないって」
 「なんでっかそれ?」
 「・・・クライ「クライトンの第三法則ですね。昔読んだ本に書いてありました」
 トウジの疑問の声にレイがぽつりと答えかけたが、それより早くマユミが口を開いた。セリフを奪われたレイの眉がピクリと上がり、真紅の瞳が一瞬マユミを睨む。今日のマユミは髪の毛を後ろで束ねて、髪留めをつけているため、線の細さが際だちいつもより強力ないじめて光線がでている。そのためかレイの目つきはいつにも増してムッとしていた。びびるマユミ。リツコは内心でおやおやと思いながらも言葉を続けた。子供達の間で何があろうとそのことで気を悩ますのはミサトの仕事で、直接彼女の知ったことではないからだ。
 「ましてや人間の精神については、私達にはまるで理解しきれていないのよ」
 「で、シンジ君の記憶が吸収されたとして、その目的は?」
 それまで黙りを決め込んでいたキョウコがリツコにたずねる。
 「それがわかれば、苦労しませんよ。いまわかっていることはシンジ君は基本記憶以外の記憶がないことと、人格が変異していることです」
 「これからどうするか・・・・それが私達の問題ね・・・・・」
 まだ床を転げ回っていたミサトを踏みつけたユイが、心の底からため息をついた。





 「聞こえる?シンジ君」
 「ばっちりですよ、赤木博士!!
 ・・・ところでこれはいったいなんなんです?」
 不安そうなリツコの呼びかけに応じて、シミュレーションプラグ内部のシンジが根拠のない自信満々に答えた。だいたい何に対する自信なのか本人にもわかってはいないのではないだろうか?
 ともあれ、リツコがそんなことまで忘れているのかとため息をつきながら説明を開始する。

 「ゾイドのシミュレーターよ。アイアンコングが仮想敵になっているわ。それより私のことはリツコって呼んで良いと言ったでしょ?」
 「ゾイド?シミュレーター?なるほど、訓練装置だな!」
 「(人の話は最後まで聞きなさいよ。そのうち実験するわよ)・・・その通りよ。とは言っても所詮は街をひとつ丸々買えるだけの予算をつぎこんだ程度のゲーム機だけど」
 「これで、俺に何をさせようって言うんですか?」
 それ以上贅沢があるのかという気もするが、熱い漢であるシンジは気にせず元気よく聞いた。否、わかっているが確認のために問い直したと言っていいだろう。その証拠に彼の両手はインダクションレバーをがっちりと握って前後にがちゃがちゃ動かしていた。その姿は早く遊びたくって落ち着きのない子供そのものだ。
 「戦ってもらうの」
 こめかみをひくつかせるリツコに代わって、やけに疲れた顔をしながらミサトが言った。元気が良くなり、積極的に物事をなそうとするシンジの態度の変化は望ましいモノであったが、このテンションの高さと暑苦しさは彼女の理解を超えている。三日も続けばミサトは胃潰瘍になるかもしれない。
 「戦い・・・・・・・・・望むところだ!!!」
 「・・・・覚えてないかもしれないけど、あなたは最初の戦闘でまがりなりにもGで敵を撃退したわ。記憶じゃないの。ようは戦う意志とZとの相性よ。・・・それを見せてほしいの」
 「何を言ってるのかさっぱりだが・・・つまり、俺の実力を示せと言っているんだな!?とにかく良し!」
 ニヤリと笑って親指を立てるシンジにミサトは、違った意味で不安を覚えながらも戦闘開始の号令を出した。

 「いいわね、いくわよ!」

ドカーーーーン!!!



 そして・・・

 「・・・・・」
 「・・・・・」

 ミサトとリツコはシンジとアスカの戦闘結果を息をすることも忘れて見入っていた。オペレータ達は無言。早く忘れてしまいたいらしい。
 数分後ようやく落ち着きを取り戻した2人は冷や汗を流しながら感想を漏らした。
 「ま、まさかここまで無茶苦茶だとは・・・・」
 「いったいどうやったらあんな操縦ができんのよ?」
 メインモニターには激しい戦闘でボロボロになったシミュレーション空間と、ゴジュラスにパワーボムを決めて沈黙しているアイアンコングが写っていた。



 「どうすんのよ、こんなのが相棒じゃ勝てる戦いも勝てやしないじゃない!それより何より暑苦しくってやってられないわ!!」
 シミュレーターから降りるなりアスカはそう言ってミサトに食ってかかった。無理もない。何しろいきなりシンジは絶好調のシンクロ率でゴジュラスを操縦したのだ。しかもただ操縦したのではない。いちいち殴るだけのことに『ゴジュラスパァンチッ!』とか『ゴジュラステールダイナマイッ!!』などと技名を叫ぶのだ。数回攻撃を受け流した後アスカはキれた。
 ゴジュラスの尻尾チョップを真っ向から受け止めると、逆に尻尾を掴んだジャイアントスイング。40回転以上させた後、材木を斧で叩き割るときのように勢いよくビルに打ち付けた。そして目を回してへろへろのシンジを引き起こすと投げっぱなしジャーマンでもう一度ビルにたたきつけ、とどめとばかりに脳天からたたきつけるパワーボム!!そこでシミュレーションは終了した。ゴジュラス共々シンジの意識が途絶えたからだ。

 ミーティングルームでシンジの意識と、アスカが落ち着きを取り戻すのを待ってミサトは戦闘結果の細かい情報を読んでいた。シンジのシンクロ率、操作能力、ハーモニクスその他諸々。全ての情報を読み終えた後、ミサトは背筋をう〜んと伸ばしながら誰に言うとでもなく呟いた。
 「記憶はなくても体は覚えていると思ったんだけど、人格がここまで変だとあまり意味無いわね〜」
 「変!?俺が変だって言うのか!?どこが!?」
 驚きと憤慨で抗議するシンジ。室内にいたほぼ全員が『全てだっ!』と心の中で突っ込みを入れた。確かに眉が燃える炎の様に濃くなり、暑苦しいことこの上ない。ミサトとリツコはシンジの抗議を聞かなかったことにすると、強引に話題を変えた。責任放棄、投げ出したとも言う。
 「ま、全然良くはないけどいいわ。ひょっとしたらふとしたきっかけで記憶を取り戻すかもしれない。みんな、シンジ君を学校に案内してくれない?」
 「学校?なんでよ?」
 ミサトのあっけらかんとした突然の言葉に、ちょっときつい目をして言葉を返すアスカ。ミサトはアスカの反応を予想通りねと思いながら用意しておいた言い訳の言葉を口にした。
 「しばらく戦いから遠ざかって、日常生活を送ってもらうのもいいかもしれないわ」
 「・・・ようするに厄介払いってわけね」
 「惣流さん」
 半目になったアスカの言葉にマユミがとがめるような口調で名前を呼んだ。とたんにアスカは不機嫌な顔を更に不機嫌にして今度はいじめて光線全開のマユミにくってかかった。
 「なによ、ほんとのことじゃない。それにしてもお優しいわね〜」
 「そんな私そんなつもりじゃ・・・」
 「2人とも喧嘩しないで。今は失われた記憶を取り戻すのが先決よ」
 2人の喧嘩と言うより一方的な言い合いにミサトが割ってはいる。アスカがおざなりにミサトに頷き返した。
 「はいはい」
 「別に俺はこのままでも良いと思うけどな。記憶というか、思い出はまた新しくつくることができる。そう思わないか?洞木ヒカリさん」
 話し合われているのは自分のことなのに、思いっきり人ごとみたいな感じでシンジは言った。初め室内にいた人間はその言葉が何を意味しているのかわからなかったが、数呼吸後全員が目をむいた。視線が自分に集中したこととシンジの言葉が自分に向けられたことに気がついてヒカリがきょとんとした顔をする。
 「えっ?い、碇君今私に話を振ったの?ちょ、冗談でしょ?だって碇君にはアスカや綾波さんが・・・」
 「以前の俺に何があったのか、どんな奴だったのかは知らない。だが今の俺は君を一目見て気がついた。
 君は素敵だよ」
 シンジはヒカリの手を取り、目を見つめながらそう言いきった。周囲に使徒との戦闘とは違った緊張が走る。

 「えっ、えっ、えっ、えええええええええっ!?(そんな困るわ!だって私は鈴原のことが・・・)」
 パニックに陥ってイヤンイヤンするヒカリ。でも内心とは裏腹にちょっぴり頬を染めて嬉しそう。そんなヒカリにいつもと全く違う笑みを浮かべるシンジ。それは、まるで左腕に無敵の銃を持つ男のような微笑みだった。
 「シンジ!?(どうして〜!?なんでいきなりヒカリを口説くのよぉ!?)」
 呆然とした顔でシンジとヒカリを交互に見るアスカ。握りしめた拳がぷるぷると震える。
 「碇君!?(これは何?胸が痛い・・・)」
 こんなときどういう顔をすればいいかわからず無表情に固まるレイ。ただ恨みがましい目でヒカリをジッと睨んでいる。
 「そ、そんな・・・(どうして洞木さんなんですか?どうして私じゃないんですか!?)」
 がくっと膝から崩れ落ち、潤んだ瞳でシンジを見つめるマユミ。自分とヒカリは似たようなタイプのはずなのに、どうして大胆告白が自分ではないのかと世の無常にさめざめと涙を流していた。
 「わぁお、シンちゃん大胆♪」
 シンジの行動に内心は不明だが面白がってあおるレイコ。猫目がクリクリとおもしろそうに動く。
 「そんな、シンジ君あなた何を言ってるの!?」
 なぜ私に『大人の女性って素敵♪』と言わないのと理不尽な怒りにかられるミサト。それは年が離れすぎているから・・・ギャッ!!
 「男と女はロジックじゃないと思っていたけど、ホント、ロジックじゃないわね」
 意外な組み合わせにシンジが誰とつき合うのか、賭がどうなるのかとちょっと心配するリツコ。そんなことをしていたのか・・・。

 「ほぉ〜、センセも大胆やのぅ。皆の前で告白しよったで」
 「と、トウジ良いのか?シンジが告白した相手は委員長だぞ?」
 「なんか問題でもあるんか?」
 「イヤ、おまえがそう言うんなら問題ない。問題ないよ、うん」
 まるっきり人ごとで夕飯のことしか考えていないトウジと、彼の態度に呆れるケンスケ。ケンスケは事が解決してもヒカリとトウジの距離が縮まらないだろう事に内心哀れみの涙を流していた。
 「ねえ、ムサシ。マナが入院していて良かった・・・のかな?」
 「しらん」
 そしてマナが入院しているため出番これだけの鋼鉄コンビ。彼らの影の薄さはどうにも補完できない。
 シンジは変で使徒もどこにいるのかわからなかったが、とりあえずネルフは平和だった。




 翌日、2−Aの一角で女の子達の黄色い声がキャイキャイと響いていた。

 「えーっ、うっそー!」
 「本当の記憶喪失なの!?」
 「なんか、小説みたーい♪」
 「そうなのよ。シンジったら、私と交わした熱いキッスのことまですっかり忘れてて・・・」

 わざとらしく机に泣き伏して、これまたわざとらしい鳴き声をあげるアスカ。これを機会に既成事実でもつくろうとしているのか?その姿に事情を知っているヒカリは冷や汗を流し、幾人かの事情を知っている少女達は猛然と抗議の声を上げた。先手を取られて焦ったとも言う。
 「・・・何を言うのよ」
 「そうです!惣流さんそんな嘘をつくなんていけないことです!」
 何も知らないその他の女生徒達は一斉にはやし立てた。
 「ええっ、そうだったの!?(やっぱり綾波さんと山岸さんも碇君のこと!)」
 「だいたーん!(こ、これは碇君を中心に四角、いえ霧島さんもだとしたら五角関係!?)」
 「でも、そんな大事なことを忘れて、洞木さんを口説くなんて碇くんてさいてーっ!(でも、でも私もこんな恋愛してみたーい!)」


 その時教室の戸が開き、トウジとケンスケがシンジの背中を押す様にして入ってきた。全員の視線がシンジに集中する。さすがに足が止まるシンジ。
 「どうしたんだ・・・?」
 「碇、お前はクラス一のコメディアンで、毎朝みんなを笑わせとったやろ!」
 「お、俺が?」
 「せや!そんなことも忘れたんか?」

 (そうだったのか・・・、しかし・・・・ええい、ままよ!)

 しばし下を向き、トウジの言葉と教室の反応に考え込んでいたシンジだったがやがてグワッと目を見開き、教卓の上に飛び乗った。教室中の生徒達がなんだなんだと驚きの目を向ける。トウジ達ですらシンジが何をするのかと興味津々。皆の注目を集めることに僅かばかりの快感を感じながらシンジは叫んだ。

 「みんな!俺は碇シンジ!魂の名前、天王 散!!この学校を三日で占める!!とりあえずこのクラスからだ!!四六死苦!!!」

 そう言って仮面ラ○イダー変身ポーズを決めるシンジ。
 至近距離で聞いていたトウジとケンスケは塩の柱と化し、キャイキャイ言っていた女子生徒達は何か悪い夢でも見たんではないかと現実逃避した。
 とても寒い風が教室を通りすぎていった。
 シンジ狂乱のニュースは別のクラスにも瞬く間に広がり、色んな意味でシンジの名前が有名になるのだが、それはこの話に関係ないから言わない。






 
 「ええっと、俺の部屋はたしか・・・。それにしても変だな、自分の部屋を探すなんて」
 シンジはそう言いながらドアの前に立った。

プシュー

 シンジがカードキーを刺すと同時にドアが開き、ユイとキョウコ、ミサトが出迎えた。ちなみにアスカとレイはヒカリへの牽制のため(兼たかり)洞木家に泊まり込みで遊びに行っていてこの場には居ない。

 「お帰り〜♪ あら、買い物は・・・?」
 「あ、そう言えばそんなことを言われていたような。すっかり忘れていた。まあ、買ってきたところで俺は料理なんかできないし。
 それはともかくただいま」
 ハッハッハと笑うシンジの言葉に顎がかくんと落ち、ついで滝のように涙を流す三人。シンジは記憶だけでなく、料理の仕方まで忘れてしまっていて今日で三日以上碇家の台所は使用されていない。しょうがなく店屋物の出前ですませている碇家の人間達だったが、シンジの料理の味は忘れ難くすでに麻薬の禁断症状にも似た飢餓感を彼女たちに与えていた。しかしこんな状況になっても自分でつくるというオプションを持ち出さない辺り、彼女たちはかなりいい性格をしている。
 「ただいま、じゃないでしょ!?また出前・・・。ユイさん、牛丼とカツ丼、天丼どれにします?うう〜出前じゃエビチュ美味しくないのよ〜」
 「や、やっぱりシンジ、ご飯今日もつくってくれないの?母さん悲しい・・・」
 「葛城一尉、なんとしてでもシンジ君の記憶を取り戻すのよ!!」
 「もちろんです!おそらく三日もしない内にあの使徒は姿を現すだろうとMAGIは予想しています!!その時こそ必ず・・・!!」
 拳を固めぶんぶん頷くミサト。
 ミサト達はこの時ほどはやく使徒が来ないかと思ったことはなかった。

 そして、ミサトの言葉通り芦ノ湖近くの山の中で人知れず攻撃の機会をうかがっている使徒の姿があった。





 そんでもって翌日。
 「目標捕捉!座標、12−34−00。Kフィールドにて戦自と交戦中!!」
 ネルフ本部発令所に青葉の声が響く。彼の言葉が示すとおり、メインモニターには未確認飛行物体が火を吐き散らしながら、体当たりでVTOLを撃墜している光景が写っていた。
 「やっぱり」
 「例のやつね」
 ミサトとリツコが前回とは著しく形を変えた使徒を見ながら淡々と呟いた。
 「でも、いつの間に最終防衛圏内にまで?」
 「どうやら先の戦いでゴジュラスにダメージを与えた後、地下に潜伏していたようね」
 「地下にだってセンサーは配備しているでしょうに!」
 「万全じゃないわ。その隙をつかれた格好ね」
 責任者のくせに冷静に答えるリツコに、ミサトが少し怒ったような口調で皮肉を言った。
 「『完全武装都市・第三新東京市』が泣くわよ」
 やがて、VTOLを全滅させた使徒は進路を第三新東京市に向けた。戦いが始まることを感じ、ミサトは唇を舐めてしめらせた。胃がかすかに締め付けられたような感じになり、鼓動がかすかに早くなる。それは彼女にとってはどこか心地よい戦場を感じたからだ。
 「目標、最終防衛ライン接近」
 「迎撃シフトを敷いて。ゴジュラスの出撃準備を!」
 のんべの上司ではなく凄腕の作戦指揮者としてすぐに指示を飛ばし、対策をこうじ始めるミサト。
 「シンジ君いけるわ。アレだけど・・・」
 ケージで待機しているシンジを思い出して急に老け込んだリツコの言葉に、ミサトが疲れ切った声で答えた。
 「・・・この際、贅沢はいってられないでしょ」
 その時、映像が代わりモニターには、かなりはっきりした映像で使徒が写し出された。なぜかそれを見たミサトの顎がかくんと落ち、リツコは腰が抜けたのか女の子座りで床に腰を下ろした。オペレーター達が不思議そうに見るが、ミサト達はぼんやりしたままだった。
 「第二・第三機甲部隊、壊滅!(葛城さん・・・どうしたんだ?)」
 「78ブロックのミサイル台艦、沈黙!(なんかアレ知ってるような・・・)」
 「残存兵力、21.5%!(無視よ!アレはただの使徒よ!)」
 「目標の移動速度、依然変わらず」
 「目標、進路変更!ポイントゼロ!」

 「ユイ・・・。あれって・・・アレよね?」
 「ええ、間違いないわ、ガ○ラよ」
 「嘘よ、これは何かの間違いよ・・・。そうでしょ、リッちゃん。だってガ○ラはレ○オンを絶対に許さないから」
 発令所最上段でユイとキョウコ、そしてナオコは火を吐き散らしながら飛行する使徒を見ながらあっちの世界に行ってしまった。





 唐突だがここで使徒の形状について少し説明しよう。
 後ろ足で直立歩行する亀。
 今は両手両足、そして頭と尻尾を甲羅の中に収納し、その収納口から紅蓮の炎を吹き出してぐるぐる回転しながら飛行している。その姿は完全にアレだった。違っているところと言えば、胸部に赤く輝くコアがついていることぐらいである。
 「ふっふっふ。待っていたぜ」
 エントリープラグ内でシンジは不敵に呟いた。その視線は回転ジェットから両手を翼のように広げて高速飛行形態に変形した使徒を見つめている。その目はいつもシンジではなく、まさに戦いを求めて止まない修羅の目をしていた。
 「俺にはわかる、おまえこそ俺が戦いたくて戦いたくて仕方がなかった生涯の宿敵。
 今こそ証明してやる。どっちが強いのかを!!
 ミサトさん、上げてくれ!」

 今、ここに真の怪獣王を決めるための代理戦争が始まった!!


 ゴジュラスが地上に姿を現したとき、ちょうど使徒はゴジュラスから数キロ離れた地点にまで到達していた。クリクリと以外に可愛い目でゴジュラスがロックボルトに固定されているのをめざとく確認すると、いきなり大口を開けて空気を吸い込み始めた。ミサトとリツコに額にイヤな感じの脂汗が浮かぶ。

ドゥオオーーーーンッ!!
ドゥオオーーーーンッ!!
ドゥオオーーーーンッ!!



 数回喉が発光したかと思うと、使徒の口から超高温のプラズマ火球が三連射された。轟音と共にゴジュラスに飛来する火球。だがゴジュラスは今だアンロックボルトに固定されているため動くことができない。
 「こそくな手を! だが、甘い!」
 シンジの言葉と共にゴジュラスの装甲が一部解放され、腕が伸びた。掌と掌が向かい合うようにまっすぐ腕を伸ばし、ゆっくりと指を広げていくゴジュラス。指が蜘蛛の足のように伸び、かすかな放電が起こりゴジュラスの手が青い光を放つ。発令所の人間がいぶかしげに見守る中、ゴジュラスは飛来した火球に腕を向けた。
 命中した瞬間、発令所の人間は息をのんだ。ゴジュラスが紅蓮の業火に焼き尽くされるのではないかと恐ろしい想像をしたのだが、そうはならなかったからだ。
 火球はゴジュラスの掌からほんの少し離れた地点で制止していた。火球の周囲の空間がぶよぶよと歪んでいく。そして火球はゴジュラスの手に包み込まれるようにかき消えた。同じように次の火球も受け止めるゴジュラス。続いて三発目の火球もゴジュラスは消滅させてしまった。
 「し、信じられない。強磁界を発生させてプラズマを受け止めるなんて・・・」
 「レギオンかアレは・・・」
 リツコとミサトが呆然と呟いた。
 一瞬のうちに飛行形態から陸上戦闘形態へと変形を終えて着地した使徒に向かってゴジュラスが吼える。

 『その程度で我に戦いを挑むとは・・・貴様には失望した!!見せてやろう、地獄というモノを。そして、本当の炎というモノを!!!』
 「今度はこっちの番だ!いくぞ!ゴジュラスファイアー!!」
 これ以上ないくらいにシンクロしたシンジとゴジュラス。シンジがトリガーを押すと同時にゴジュラスの喉の奥が微かに光り、青白い炎の帯が使徒めがけて放射された。
 螺旋を描きながら吐き出される蒼き炎。

ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォーーーーーーーーーッ!!!!

 凄まじい勢いで押し寄せる熱線に吹き飛ばされる使徒。右肩と甲羅の一部が吹き飛び、苦痛の悲鳴を上げてのたうち回る。兵装ビルが誘爆し、使徒の周囲を炎という色に染め上げていく。
 もう発令所の人間達は地上で起こっていることについていけず、口を開けていることしかできない。

 「ウォオオオオオオオオオン!!!」

 周囲のことなどお構いなしに咆吼と共に使徒に向かって飛びかかるゴジュラス。一気にとどめを刺すつもりなのだ。だが使徒も素早く応戦の構えを見せた。肘から鋭い爪が飛び出し、不用意に近づいたゴジュラスの胴体に傷を付ける。斜めに大きな傷が走り、ゴジュラスが苦痛の悲鳴をあげて後退した。そしてお互いにらみ合う二体の巨獣。
 「・・・えっとぉ・・・・・シンジ君、相手は空を飛べるわ。遠距離戦は不利よ!何とか接近戦に持ち込んで!」
 ちょっとあんまりにも常軌を失した展開に呆然としていたミサトが作戦指示を出す。なんだかんだ言っても彼女は作戦部長だ。現状の有利不利と、それに対する策を考えることはお手の物だ。
 「了解!だが戦闘中は俺のことをシンジではなく、魂の名前で呼んでくれっ!!」
 「(それは絶対にイヤ)アスカ達の援護はちょっと期待できないわ!気をつけて!って言ってる側から!」
 再び使徒に飛びかかるゴジュラス。尻尾をバネに大きく空中に跳び上がり、頭上から使徒に襲いかかる。再び使徒が胸一杯に空気を吸い込み始めた。
 バチバチッと使徒の胸と喉が赤い光を放ち始める。

ドッゴーーーーーーーンッ!!!

 尾を引きながら火球が吐き出された。
 今度は使徒はエルボーブレードではなくプラズマ火球で応戦したのだ。空中に跳び上がりかわすことができないゴジュラスに向かって放たれるこれまでで最大の火球。ATフィールドはお互いに中和されているため効果がない。先ほど行った磁界壁もすぐには張れない。このままでは直撃は避けられない。絶体絶命のピンチだっ!!どうするシンジ、ヴェルギリウス!?
 流れが敵に傾いたことに少し顔をしかめながらもシンジは素早くゴジュラスの口を開いた。再びゴジュラスの口から放たれる青い閃光。それは火球と衝突し、大爆発を起こした。

 「きゃああっ!」
 「うわっ!」
 モニターが真っ白に染まり、発令所でモニターしていたオペレーター達が思わず悲鳴をあげた。

ガブリッ!

 炎の中、素早く使徒の真っ正面に立ったゴジュラスはそんな音がしそうな勢いで使徒の右腕に噛みついた。ついで両手は使徒の甲羅をしっかりと掴み、何度も使徒の腹に蹴りを入れる。ゴジュラスのスパイクによって傷ができ、緑色の体液をばらまく使徒。

 「ピギャアァァァ〜〜〜〜〜ッ!!!」
 「どうした!おまえの力はそんなモノか!?だったらここまでだな!」
 シンジは別人のような顔つきでなおも執拗な膝蹴りを浴びせ続ける。使徒はたまらず至近距離から火球を吐いた。大爆発が起こり、ゴジュラスも使徒も炎に飲み込まれた。ゴジュラスの装甲が一部真っ赤に溶け、急激な温度変化にさらされた装甲に亀裂が走る。だがそれでもゴジュラスは噛みついた右腕を放そうとしない。

 「ピギャァア〜〜〜〜〜ッ!!」
 苦痛に耐えかねたかのように悲鳴と共に使徒は両足からジェット噴射を開始した。水蒸気と爆煙がふきあがり、凄まじい推進力でゴジュラスごと宙に舞い上がっていく。
 「空中戦に持ち込む気!?」
 「シンジ君、急いで離れ・・・ダメよ!今はなしたら真っ逆様に落ちちゃうわ!絶対に放しちゃダメよ!」
 「望むところだぁっ!!」
 『そうだ!行け、我が主よ!!』
 ミサトとリツコが悲鳴をあげるがシンジとヴェルギリウスはますます調子にのって使徒の体に蹴りを入れた。落ちたらどうなるかなど、ネガティブなことは全く考えていない。そうこうする内に2体は肉眼では見えないところにまで飛んでいく。

 「使徒とゴジュラス成層圏を突破します!!」
 青葉の報告にうつろな目をする2人。
 「ふっふふ・・・・・・ねえ、ミサト・・・帰って寝ていていい?
 マヤここは任せるわ。うふふ、今日もいい天気。ラミエルラミエルるるるるる〜加粒子砲で一撃よ★」
 「ああっ!?リツコ私をおいて一人だけあっちの世界に行かないでぇっ!!いくんなら私も一緒よ!」
 「「だ、ダメだこりゃ・・・」」
 いってしまった直属の上司を見ながら、日向とマヤは呟いた。


 「ナオコさん、アスカちゃんやレイ達に援護させられないの!?」
 ユイが下で逝ってしまった幹部2人の減棒を決意した後、ナオコを振り返った。ナオコはユイの背後で何を言わずにジッとシンジ達の戦いを見守っており、めまぐるしく何かを考えていることは想像に難くない。その頼もしげな姿にユイは一抹の期待をかけたのだ。
 「無理よ。成層圏まで飛行できるようなゾイドはここには『』一体しか存在しないわ。そしてアレは封印されている・・・。第一、空まで行けてもあの使徒はシンジ君じゃないと倒せないわ」
 「どういうこと?」
 「使徒はただシンジ君の記憶を奪ったワケじゃなかったって事よ」
 「つまり・・・?
 !? まさか!!」
 「そう、あの使徒はシンジ君の過去の戦闘の記憶・・・じゃあないわね。戦闘前日、夜更かしして見ていた映画の記憶が生み出したモノよ」
 「あれが〜?」
 思いっきりナオコの言葉に疑いの目を向けるユイとキョウコ。ナオコは視線を無視して言葉を続けた。
 「たぶん、シンジ君の意識の中で最強の存在の形を取ったのよ。そしてそれを具現化させた・・・」
 「だとしたら、アスカちゃんやレイじゃあの使徒には勝てないわね」
 「ええ。みんなの戦い方を知っているはずだから。
 そればかりか・・・」
 「そればかりか?」
 「シンジ君の記憶が生み出した存在なのだとしたら、アレを倒せるのはシンジ君だけよ」



 成層圏まで舞い上がったところで使徒はジェット噴射をやめた。当然大いなる大地の法則によって降下を始める使徒とゴジュラス。2体の全身に摩擦による発熱が起き、流星のように真っ赤に染まった。ゴジュラスの装甲に走る亀裂がますます大きくなり、使徒の体もどんどん削れていく。それでもゴジュラスは使徒の右腕を放そうとはしなかった。
 
 「キシャーーーーーーーーーーーッ!!!」

 ついに使徒は決断した。地上ぎりぎりの位置にきたところで、口からプラズマ火球ならぬ超音波レーザーメスを発射したのだ。

ぞぶり

 生々しい音を立てて切断される使徒の右腕。ゴジュラスは当然とっかかりを失い、真っ逆様に墜落した。ゴジュラスは何とかジェット噴射を再開した使徒にしがみつこうと後ろ足を伸ばし、尻尾を巻き付けようとするが使徒の脇腹からはえてきた触手によってはたき落とされた。

 「ギャ○オスの超音波レーザーメスにイリ○スの触手!?いえ、ビオ○ランテの触手!?」
 「ついに本性を現したわね!」

 ユイとキョウコが変貌を遂げた使徒の姿を見て叫んだ。

 凄まじい地響きと共に地面に激突したゴジュラスに少し後れて着陸した使徒。その姿はユイ達が言うように著しく変貌を遂げていた。基本的な姿はガメ○ラだったが、全身焼かれた木材のようにささくれ立ち、ことさらに凶悪な顔をしていた。それだけでなく胴体には緑色の光を放つ謎の発光器官が現れ、頭には大げさなまでに大きな左右に分かれる角を生やし、背中の甲羅も縁がノコギリのようにギザギザとなって剣山のように棘を無数にはやしていた。おまけに肩からは水晶のような角まではえている。更に翼竜のような羽根をはやし、脇腹からは先端が刃をはやした触手と、先端がワニの口のようになった触手がはえている。とどめは全身金色の鱗に被われていた。まるで古今東西の怪獣をごたまぜにしたような姿に、発令所の人間は生理的嫌悪感を覚えた。

 「・・・・・・・・・使徒の腹部に高エネルギー反応!!」
 「ま、まさか!アルティメットプラズマを撃つつもりなの!?」
 「やばいわ!あんなの本当に撃たれたらいくらゴジュラスでも灰も残らないわ!」
 青葉の報告に悲鳴をあげるナオコとユイ。キョウコはついていけなくなっていたが、大ピンチな事はわかって青い顔をした。
 「シンジ君起きて!このままだとあなたも、ユイも、私も、アスカちゃんも、レイちゃんも、みんなみんな死んじゃうわ!」

ドゴーーーンッ!!

 使徒の腹部が凄まじい光を放ち始めたその時、ゴジュラスが爆炎の中から姿を現した。全身の装甲はひび割れだらけで下側の生体組織が剥き出しになっていた。そして落下したときの衝撃で右腕が失われている。その悲惨な姿に発令所の人間は違った意味で息をのんだ。

 (強い・・・・・間違いなく今まで戦ってきた中で最強だ。俺の恐れや恐怖が生み出してきただけのことはある・・・。だがそれだけじゃない)

 シンクロしているため感じる激痛で意識が飛びそうになりながらもシンジはジッと使徒を睨み付けた。確かにこの使徒の強さは恐怖から生まれたにしては強すぎた。それ以外にも何か強さに秘密がある。シンジはその強さの秘密がなぜかキョウコの言葉にあるような気がしてならなかった。
 キョウコの言葉を聞き、記憶を失ってからの数日間を考え込む。
 なぜかヒカリが心配そうに自分の名前を呼んでいる気がした。いやヒカリだけではない。アスカもレイも、マユミもトウジもケンスケもミサトもリツコもみんなが心配そうに名前を呼んでいる気がした。

 (ふっ・・・絶体絶命のこの時に幻聴か・・・・)

 使徒がゴジュラスの動きを拘束しようと触手を絡ませてくる。かろうじてそれをかわすゴジュラス。

 「・・・・・・・・・・違う」

 使徒の尻尾が龍に変わり飛びかかってきた。左腕で殴り飛ばしながら、どんどん光を強める使徒を睨む。

 「幻なんかじゃ、幻聴なんかじゃない!」

 その時シンジの脳裏にいくつもの記憶が甦ってきた。走馬燈のように次々と。
 あうなりいきなりシンジをひっぱたいて『あんた馬鹿』と言ったアスカ、身を挺してシンジを守り微笑んだレイ、やけに明るくシンジにつきまとうレイコ、トウジと喧嘩したとき心の底から心配して、自分のために涙まで流したマナとマユミ、そして初めてできた親友であるトウジ、ケンスケ、ムサシ、ケイタ・・・。暖かく彼を見守る大人達。

 (そうか・・・そうだ。恐怖だけじゃないんだ。脅えだけじゃないんだ。・・・俺、ううん僕の思い出の中には、かけがえのないものだってたくさんある。
 だから・・・)

 「それを返してもらうんだ!!!」

 ゴジュラスの眼光が赤から緑、そして青へと変化し同時にゴジュラスの口から凄まじい雄叫びが上がった。

 「グゥオオオオオオオオオオンッ!!!」

 空気がびりびりと震え、使徒の触手もおびえたように動きが止まる。

 「ゴジュラスのシンクロ率がこれまでになく高くなっていきます!」
 「使徒のエネルギー臨界点を突破!エネルギー波放射されます!」
 青葉とマヤの報告にミサトとリツコも正気に返って2体の獣を見る。
 「どうなってるの!?」
 「わからないわ・・・。ただこれで決まるわ」

 ゴジュラスが凄まじい勢いで使徒に飛びかかった。同時に使徒の胴体の甲羅が内側に折り畳まれ、凄まじい太さと輝きを持った光が発射された。凄まじい電磁波の乱流。
 それはゴジュラスを粉々に粉砕してしまうのに十分すぎるほどのエネルギーも持っていた。そしてゴジュラスはそれをかわそうともしない。

 「シンジ君!」

 ミサトの悲鳴が上がった。

 「ガアアアアアアアアアッ」

 再度のゴジュラスの雄叫びと共に奇跡が起きた。プラズマの帯はゴジュラスに命中する寸前、ねじ曲がったのだ。そして圧縮されて、物質的な質量を持つと同時にゴジュラスの右腕にまとわりついていく。
 一瞬のうちにそれはゴジュラスの右腕に変わった。炎の輝きを持った右腕に。

 「バーニング・ハンドッ!」

 シンジの言葉と同時にゴジュラスの右腕は使徒の剥き出しになった腹部に、そしてコアに吸い込まれていった。
 激しい閃光が周囲を飲み込んでいった。


 (俺の・・・違う僕の・・・記憶が・・・)



 「シンジ君!」
 「ミサト・・・さん」
 「よかった・・・。もう駄目かと思ったんだから」
 ミサトがまともに戻ったシンジの言葉に涙まじりの声を出した。その裏表のない言葉にシンジはなぜかほっとするのを感じた。いつまでもシンジの注意がミサトに向けられていることにむかっとしたのかアスカが口を開く。相変わらず意地っ張りである。
 「ったく、なにかっていうとあんた今回は気絶してばっかりね!」
 「そう・・・だね。そうだ、使徒は?敵はどこに行ったんですか?」
 「もう大丈夫。あなたが倒したんじゃない」
 「僕が?」
 いぶかしげな顔のシンジにさすがのミサトもちょっと困惑した顔をする。
 「どうしたの、シンジ君?」
 「なんだか・・・頭が痛くて・・・」
 「もしかしたら・・・」
 少し考えてからリツコがつぶやいた。ミサト達がジッとリツコに注目する。その視線に僅かに心地よいものを感じながらリツコはシンジに優しく話しかけた。
 「え?」
 「ねえシンジ君、この数日間のこと、覚えていて?」
 「覚えてって・・・その・・・使徒が出現して、いきなり光に包まれて、それで(リツコさんていい匂いだ・・)」
 ちょっと余計なことを考えているシンジ。ミサトがシンジが黙り込んだのを誤解してことさら優しく話しかけた。
 「覚えていないの?あなた、それから記憶喪失になって」
 「記憶喪失?まさか・・・だってみんな覚えてますよ。使徒の光に飲み込まれて、それで僕はここに運ばれたんでしょ?」
 「だめだわ、こりゃ」
 アスカがあきれたように言い、その後ろでレイもかすかに頷いた。ついでにトウジ達ははっきりと頷いていた。
 「記憶が戻って、記憶が失われた」
 「それが本当に使徒の仕業なのかどうか・・・」
 「謎ね」
 顔を見合わせるミサトとリツコ。何とも複雑な顔だったが、その顔は戦いが終わったことでほっとしているようだった。
 
 (そう言えば、何か大切なことを忘れている気がする・・・はっ!?)

 「音楽祭・・・」
 「「「「「「「「あっ・・・」」」」」」」」



 数日後、音楽祭にて「地球防衛バンド」のステージは、大盛況のうちに幕を閉じた。遅刻寸前で順番を一番最後に回されての演奏だったが、会場にいた壱中生徒達の拍手は演奏終了後も収まらなかった。
たくさんのリボンが投げこまれるステージ上に立つチルドレン。いつのまに練習したのかって?そんなの聞くだけ野暮ってモノですよ。

 演奏終了後の記念撮影。できあがった写真の隅には、バンドメンバーでもないのにピースしているアスカと、次は私と嬉しそうな顔をするマユミも写っていた。




後書き

壊れているなあ。まあ毒抜きと息抜きにはちょうど良い話だったかも。
無理矢理1stの話を混ぜてますけど、やはり蛇足だった気がします。シンジの変異した性格も書き切れていませんし。最後のバンドの話は伏線も張ってなかったから、唐突すぎましたね。ゲームをやっていない人たちはおいてけ堀です。
後半は、趣味丸出しの怪獣決戦になってしましましたが、亀型使徒の元ネタどれくらいわかる人がいるでしょう?あと変身後の姿とか。
・・・・最後に誤解無きように言っておきますと、私は決してゴジ○の方がガメ○より強いと言っているわけではありません。
というわけで、では〜


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