新世紀エヴァンゾイド

第八話Bパート
「 The Yoke of Children 」



作者.アラン・スミシー



 「しかし、シンジの奴どないしたんやろ?」
 「そうだな。リツコさんから作戦内容を聞いたときは驚いたけど、結局誰をパートナーに選んだんだろうな。」
 補習帰りで珍しく制服姿のトウジとケンスケが、シンジを訪ねてマンションのエレベーターに乗っていた。
 会話の内容は作戦開始と共にもう二日も休んでいるシンジについてである。
 「惣流も綾波達も休んでもう二日。
 ・・・誰をパートナーにしたか、賭てみないか?」
 「ええ考えや。ワシは・・・先言えや。」
 「なんだよそりゃ・・・同時に言おうぜ。」
 「わーった。」
 ニヤリと笑って頷き会う2人。

 「「・・・三人とも!」」

 2人揃って男の夢を口にする。その後、思わず互いの顔を見合わせ苦笑い。
 「賭にならんやないか。」
 「ま、しょうがないよ。あのお子さまシンジに選べるわけないしね。どうせ惣流あたりが無理矢理パートナーをやってんじゃないのか」
 「・・・そんなとこやろな。」
 トウジが少しだけ羨ましそうに、天井を見上げて呟いた。

 エレベーターが目的の階に到着し、軽快なチャイム音と共に扉が開く。
 彼らが一歩踏み出すと同時、横のエレベーターから出てきた人物に気が付く。

 「なんや、イインチョに山岸やないか。」
 「へっぽこコンビ。・・・どうしてここにいるの?」
 「「碇君の様子見。」」
 「私もシンジ君の様子を見に来たんですけど・・・。」
 先の件からシンジを名前で呼ぶようになり、少し明るくなったマユミが答える。ケンスケはそんな彼女に嬉しい反面、明るくしたのがシンジということに渋い顔。なかなか彼も複雑なようだ。
 「イインチョは?」
 百面相をして悩むケンスケに怪訝な目を向けながら、トウジがヒカリに質問する。
 「アスカにプリントを届けようと思って・・・。」
 滅多に見られないまともな格好のトウジに今朝から少しどきどきするイインチョ。
 わいわい話しながら4人とも碇家の玄関に到着すると、同時にインターホンに指を置く。

ピンポーン♪

 「「「はぁ〜い」」」
 中から聞こえるシンジとアスカ、レイかレイコか判別不明の声(二人の声はそっくり)に一同の顔が強張る。

プシューーー。

 エアの抜ける音と共にドアが開いた。瞬間、トウジ達の顔がこれ以上ないくらいに強張った。
 てっけて、と擬音が聞こえそうな感じでシンジとレイが色違いでお揃いのTシャツとレオタード姿で出てくる。その後ろから揃いでこそないが、これまたレオタード姿のアスカとレイコが顔を出す。
 全員の動きが止まった。

 「う、裏切りもん。一人だけならともかく三人まとめてとは・・・」
 「男の夢、ハーレム!!いや〜んな感じ!!」
 トウジとケンスケはいや〜んなポーズ。
 「不潔!不潔よ!!四人とも!!!」
 ヒカリは叫んでいやんいやん。
 「「「ご、誤解だよ(わ)!」」」
 レイ以外の三人が顔を赤らめて、言い訳をする。
 「そんな!シンジくんの嘘つき!!」
 「誤解も六階もないわーーー!!!私達まだ中学生なのに、そんな乱れたこと・・・。四人同時だなんて・・・いやんいやん」
 泣き顔のマユミの横で、ヒカリは顔を手で覆ってますます激しくいやんいやん。なんかブツブツ危ない事を呟いている。

 「これは日本人は形から入るものだって、無理矢理ミサトさんが・・・。」
 ヒカリの狂乱にレイは無表情で無反応なのでシンジだけが言い訳をする。その後ろでムッとした顔をするアスカ達。ケンスケとは比べ物にならないくらい複雑なようだ。
 「あら〜みんな。どうしたの?」
 呆然とする彼らの背後からあっけらかんとした声がかかる。トウジ達が振り向いた先にはにこやかな顔をしたミサトと加持、リツコがいた。
 「これはいったいどういうことですか?」
 トウジはいやんいやんするヒカリと、泣き崩れるマユミを見つめるシンジ達を指さしながら聞いた。


<数分後、碇家リビング>

 あははははははは♪

 笑い声の響く中、簡単な説明をしたミサト達の周りでヒカリ達が談笑している。ペンペンはヒカリが気に入ったのかおとなしく彼女に抱っこされていた。何が気に入ったのかは分からないが、赤木家の猫はマユミにゴロにゃんとじゃれついている。リツコは自分に懐かない猫達を見てちょっと渋い顔。
 何とも微笑ましい光景だがアスカは加持がいるにも関わらず、凄く不機嫌そうな顔をしている。
 彼女の視線の先では、リッちゃん製作のツイスターゲーム改良型ユニゾン訓練装置(仮名)で特訓しているシンジとレイの姿があった。

ププーー、パパーー、ピピーー、ペペーー、パポーー。


 二人の動きは見事に揃っており、三日目の時点ですでに平均95点をマークしている。だがここから先は何かが足りないのか、どうしてもパーフェクトを達成することができないでいた。それ故、ミサトは急遽対策を講じる為加持達を呼んだのだった。
 ほとんど揃った動きをするシンジとレイを見ながらケンスケが呟く。
 「それにしても、シンジがパートナーに綾波を選ぶとはね〜。意外な組み合わせだよ」
 「そうやなぁ。ワシはてっきり惣流をパートナーに選ぶかと思ったんやがな」
 トウジの発言を聞き、ビクッとするアスカと、それを心配そうに見るヒカリ。ヒカリはアスカの醸し出す雰囲気にまるで気づかないトウジに非難の目を向ける。しかし鈍感トウジはヒカリの視線にも気がつかなかった。
 ヒカリの厳しい視線に気づかないまま、今度はレイコに話題を振る。
 「・・・綾波の妹も惣流も難儀なことやな。シンジと綾波のユニゾンがうまくいかないときの交代要員なんてなぁ」
 「あら?私は別にそんなこと強制した覚えはないわよ。二人の自己判断なんじゃないの?
 ま、予備があって困るワケじゃないから許可したんだけど」
 トウジの言葉にリツコが答える。そろそろ自分たち好みの展開になってきたことを感じ、彼女はぺろっと舌なめずりをした。
 「なんやそうやったんですか?だったら二人ともユニゾンうまくいっとるみたいやし、別におまえら練習せんでもええんやないか?」 
 トウジの何も解っていない発言を聞いて照れた笑いをするレイコと、これ以上ないくらいにうつむくアスカ。
 場が少し暗くなるが、加持がそれを取りなそうとする。
 「そんなこと無いさ、不慮の事態という物はいつ起こるか分からないもんだよ」
 「そんなもんでっか・・・。そんならシンジ、それいっぺんワシらにもやらせてくれんか?なんや面白そうや」
 「あんまり邪魔しちゃダメよん♪」
 ミサトはそう忠告するが、止めるほど野暮じゃなかった。
 装置から離れたシンジ達に代わってユニゾンをしようとするその他のチルドレン。







 パパーー、ピピーー、ププーー、ペペーー、ポポーー、パピーー。






 その結果のプリントアウトを見ながらリツコとミサトが面白そうに会話する。
 「へぇ〜、意外と鈴原君と洞木さんってユニゾンしてるのねぇ。初めてなのに70点を超えてるじゃない♪」
 「こっちもなかなかよ、ミサト。
 洞木さんと山岸さんのユニゾンは65点。平均以上だわ。
 何より凄いのは鈴原君と相田君よ!なんと82点を記録しているわ!!男同士なのにいや〜んな感じね!!」
 リツコの言葉にヒカリはかなり渋い顔。射殺さんばかりにケンスケを睨み、ケンスケは恐怖のあまり腰から下に力が入らなくなった。
 「意外なのはレイとレイコね。双子だからもっと良いかと思ったけど、42点よ。やっぱり双子のシンパシーって迷信なのかしら」
 「それより、肝心のシンジ君とのユニゾンはどうなんだい?」
 二人の会話に加持が口を挟む。それが一番大事なのだから、脱線されてはたまらない。そう思ったのだろう、ちょっと彼の声は焦っていた。
 そんな加持にリツコがデータを見ながら返事をする。
 「そうね、そっちの方が大事だったわね・・・。えっと、レイコとシンジ君のユニゾン結果は、77点よ。なかなか良い数値だけど、これならレイの方が上ね。まあ、交代要員としては十分だわ。
 で、鈴原君が44,相田君が45,洞木さんが51,山岸さんが59点よ」
 「アスカはどうだい?」
 加持の言葉に耳をそばだてるアスカ。もっとも彼女には結果は分かっていたのだが、それでも聞かずにはいれなかった。
 「28点よ。最低の数値ね。二人ともまったく相手に合わそうとしないからよ。
 アスカ、無様ね」

ガタンッ!

「どうせ私は最低点よ!だいたいシンジとユニゾンするのなんてファーストがいれば十分よ!!」
 リツコの冷たい言葉を聞いた瞬間、アスカは勢いよく立ち上がり外に飛び出した。
 「あ、アスカ!」
 ヒカリが立ち上がり声をかけるが、その呼びかけを完全に無視するアスカ。ヒカリの伸ばされた腕が所在なげに空を掴む。
 ヒカリはキッと目をリツコに向けると命知らずにも怒鳴りだした。
 「リーツーコーさん!追いかけて!!女の子を泣かしたんですよ!!責任とるべきです!!」
 その発言にリビングにいた一同が目をパチクリとさせる。
 「え・・・私が?」
 間抜けな返答をするリツコに思いっきりうなずくヒカリ。リツコ達の背中に、おんぶお化けでも取り憑いたかのようなどろりとした汗が流れる。
 「し、シンジ君。何してるんだ?ここは君が追いかけるんだ」
 何とか話をまともな方向に戻そうと加持がシンジを促す。がんばってくれ加持。
 「え、僕がですか?でも・・・」
 ヒカリの精神汚染で少しぼんやりしていたシンジが、不思議そうに加持に問い直す。その問いに加持は笑顔でやんわりと答えた。
 「これも君の仕事だよ」
 その笑いと言葉に不思議とシンジは納得していた。すぐにうなずくと慌ててアスカの後を追いかける。
 (やっぱり、加持さんの言うこともっともなんだよな・・・。なんかお兄さんて感じがするし。
 頼りがいがあるってのかな?
 アスカが加持さんのことを気にするのも何となく分かる)
 シンジの後ろ姿を、レイが少し悲しそうな顔で見ていた。



 マンションの近くのコンビニにアスカはいた。無意味に冷蔵庫の扉を開け、冷気を浴びながらうずくまっている。彼女の青い目は暗く虚ろで、泣いてでもいたのかわずかに潤んでいた。
 そんな彼女の後ろにシンジがすっと立った。
 後ろを振り返りもせずにそのことに気づくアスカ。
 追いかけてくれて本当は嬉しかったのだが、意地っ張りの彼女はシンジが辛くなるような言葉を彼にかける。
 「何しに来たのよ?」
 「何って、アスカが心配だったから・・・」
 「あんたが心配しないといけないのはパートナーのファーストでしょ。だいたいパートナー選びの時、私だけは絶対に嫌だなんて言ったシンジが、どうして私の心配なんかするのよ?」
 アスカの静かだがそれ故に重く感じる言葉に、シンジは言葉を失う。アスカはそのまま本心に逆らって辛辣な言葉をぶつけた。本当はイヤなのに、止まりたいのに。だが、彼女の誰にも負けないという、かたくなな心の呪縛は、本心を覆い隠し、自分を、シンジを傷つける言葉を吐き出させる。
 シンジは打ちのめされたような衝撃を心に受けたが、踏みとどまった。決めたからだ。他人から、何より自分から逃げないと。そして、自分の力で助けることができる存在は必ず助けると。だからシンジは逃げずに、アスカの心とと真っ正面から向き合った。
 「あの時は、アスカと喧嘩していたし、それに何となく綾波と組んだ方がうまくいくような気がしたんだ」
 「へえ、そう。
 ・・・・・・どうせ私とファーストを比べたらファーストの方が好きなのね。あんたは」
 「そんなこと言うなよ。・・・アスカ、もっと自分に素直になった方がいいよ。
 加持さんの前でばかり良い子ぶったりするの、疲れるだろう?もっと肩の力を抜いて普通にしなよ。
 ・・・そんなふうに自分の事を特別に思ったり、背伸びしたりしない方がいいよ」
 シンジに本音をつかれたアスカの顔が、怒りと恥ずかしさで赤くなる。彼女はそのことに怒りのあまり気づかず、彼に向き直ると自らの魂を引き裂くような大声を上げた。自分の本心をごまかすかのように。
 「あんたなんかにそんなこと言われる筋合い無いわよ!いったい何様のつもり!?」
 「ごめん・・・でも、僕も昔そうだったから、わかる気がするんだ。
 いつも本心を隠していた。周りから嫌われないようにしようと偽っていたんだ。
 なんだか今のアスカは、昔の僕に似てるんだ・・・」
 「あんたと私は違うわよ!!」
 「ごめん・・・」
 シンジは最後にそう言うと、そのままじっとアスカの方を見つめていた。逃げ出したい、彼の体はそう叫んでいたが、彼の心は踏みとどまった。ここで逃げたら、何も言わない方で放って置いた方がましだからだ。勇気を振り絞ると、シンジはじっとアスカお目を見つめ返す。やがて、その心の底までのぞき込むような黒い瞳と雰囲気に耐えられず、アスカが再び怒鳴った。そうしないと泣き出しかねないくらいに彼女の心は乱れていた。
 「何よ!もう用は済んだんでしょう!!さっさと私の目の前から消えてよ!!」
 「いやだ。戻るなら一緒だよ」
 シンジの迷いのない言葉にアスカの心は殴られたように激しく動揺する。だが彼女の意固地な心は再び本心とは違う行動をとらせた。
 「だったら、私の方から消えてやるわよ!」
 アスカはそう叫ぶとシンジを押しのけ走り去る。シンジは後を追おうとするが、アスカが買っていたジュースの代金を請求されて後を追うのが遅れてしまう。
 お札を突きつけ釣りはいらないと言って外に出るが、すでにアスカの姿は見えなかった。
 慌てて周囲を見回すシンジの目が、少し離れた坂をかけ登る金髪をとらえた。アスカの足はかなり速いうえだいぶ差を付けられていたが、その髪は夕日の光を浴びてキラキラと輝き、走り出したシンジにはたやすくその後を追うことができた。
 「アスカ!」
 「うるさい!ついてくるな!」
 シンジが走ると、アスカはますますスピードを上げた。シンジがスピードを上げると、アスカは更にスピードを上げる。
 そのまましばらく追い駆けっこをする二人。
 しばらく走り続けていたが、疲れたのかアスカは、シンジがミサトと夕日を見た高台まで来るとそこで足を止めた。
 追いついたシンジは背中からそっと声をかけようとするが、彼女の肩が激しく上下していることに気づき動きを止める。疲れているからではない。直感的にシンジは理解した。

 アスカは泣いていた。
 「アスカ・・・泣いているの?」
 「泣いてなんか・・・泣いてなんかいないわよぉ!!
 泣いてなんか・・・」
 シンジはいつも強気なアスカが泣いていることに動揺していた。アスカがしゃくりあげるたびに、自分が何か悪い事をしたんではないかと、そんな気持ちになっていた。

 (アスカが泣いてる・・・。アスカが泣いているのを見るのは、これで3回目・・・だったかな。昔の記憶でもいつも怒ってばかりで、泣く事なんてないんじゃないかって思ってたっけ。
 でも、アスカは・・・気の強いところや自信過剰なところに隠されているけど、本当は普通の子以上に弱い子なんだよな・・・)

 「アスカ・・・その、ごめん。
 君のこと何も考えてなかった。この前のことも僕が言い過ぎたのが悪かったんだ。ごめん。
 謝るからもう泣くのを止めてよ」
 「今更何よぉ・・・。馬鹿。馬鹿馬鹿!私の居場所をとったあんたなんかに、あんたなんかに・・・・・・・。
 私、どうしてあんたなんかを・・・」
 「アスカ・・・」
 シンジはアスカを振り向かせようと肩に手をかけるが、勢いよく振りほどかれる。そして振り向いた彼女の顔はくしゃくしゃだった。シンジへの、そして自分自身への怒りに満ちた目は赤く充血し、顔をこれ以上ないというくらいに紅潮させて嗚咽していた。
 「触らないで!・・・同情なんかまっぴらよ!
 嫌い!嫌い!あんたなんか大っ嫌い!!さっさと消えてよ!!あんたの顔なんか・・・んっ!?」
 シンジは暴れるアスカを落ち着かせようと押さえつけたが、彼女は抵抗を続ける。シンジは無意識のうちに彼女を落ち着かせる最大にして、ある意味最悪の方法を使った。


 シンジはアスカにキスをしていた。
 強引に両肩を掴み、無理矢理のキスだったがアスカの動きは止まった。
 目を見開きシンジを見つめるアスカ。抵抗が無くなり、肩から力が抜ける。
 それでもシンジは彼女の体を、唇を離さない。それどころかより強く彼女の体を押さえつける。
 アスカは呆然としながらも、目を閉じ腕をシンジの背中にまわした。シンジもまた目を閉じ彼女にかける手の位置を、肩から腰とうなじに変える。
 そのまま二人はじっと動かなかった。
 夕日が半分ほど姿を隠した頃、ようやく二人は唇を離す。
 お互いを赤い顔で見つめながら、そのままくたっと力つきるようにベンチに腰掛ける。

 「・・・・・・落ち着いた?
 あの、ごめん。無理矢理こんなコトして、最低だよね・・・。アスカが僕のことを嫌いになるのも無理無いよ。
 ごめん、この戦いが終わったらもうアスカの前に姿を現さないから」
 そう言ってその場を離れようとするシンジの腕をアスカが引き留める。顔をうつむけ表情はわからないが、シンジには彼女がもう泣いていないことがわかった。
 「・・・どうして?どうして、そんなに優しくなれるの?こんな我が儘で自意識過剰な嫌な女に、好きでもない相手に・・・」
 「アスカは嫌な女の子じゃないよ。・・・それに、僕はアスカのこと嫌いじゃないよ」
 「嘘よ」
 「嘘じゃない!」
 「・・・本当?」
 そう言って上目遣いにシンジの顔を見るアスカ。彼女の普段見せない気弱な一面にどぎまぎするシンジには、その言葉を否定できるはずもなかった。だいたい否定する気もない。重力に引かれるまま、彼はこくんと頷いた。
 「う、うん・・・僕はアスカのこと、嫌いじゃない」
 「そう。・・・ありがと、シンジ。
 ・・・変なの。どうして今は素直になれるのかな?この前は加持さんとシンジを比べて嫌な思いをさせたのに。
 謝ることもできなかったのに・・・。
 あれ、あれれ・・・なんか涙が・・・止まらないわ・・・あれ?・・・変なの。
 ねえシンジ、涙が止まらないの・・・どんどん涙が・・・」
 ぽろぽろと真珠の様に涙をこぼすアスカを見るシンジは、切なさのあまり胸を締め付けられるような苦しさを感じていた。その切なさを止めるためにシンジはアスカの名前を呼ぶ。それに答えるアスカ。
 「アスカ・・・」
 「シンジ・・・」
 再び抱き合ってキスをする二人。
 そのままお互いを強く求める二人の背後から、突然声がかかった。

 「・・・何をしてるの?」

 冷や汗をだらだら垂れ流し、蝋人形のように硬直する二人にとことこ近づいてくる少女。
 その正体は空色の髪の毛とルビーのように赤い目を持つおとぎ話のお姫様、綾波レイ。
 恐る恐る振り返るシンジの目には、彼女の姿が陽炎のようにゆがんで見えた。
 「あ、あ、あ、あ、あ、綾波ぃ・・・」
 「・・・碇君、何をしてるの?」
 無表情に怒る器用な少女に腰をぬかさんばかりのシンジに代わって、先ほどと180度違って喜びと勝利感いっぱいのアスカが答える。
 「なによファースト。あんたキスも知らないの?」
 「キス・・・。接吻。口と口を合わせる行為」
 「あんた何言ってるのよ?
 知らないんなら教えてやるわ。キスってのはね、愛し合う男女がする愛の儀式よ!」
 「(ムカッ)そうなの?でも、あなた達、愛し合っていないんでしょう?あなたが好きなの、加持さんでしょう?碇君のことは嫌いだったんじゃないの?」
 「違うわよ!加持さんは・・・ただの憧れの人よ・・・好きなワケじゃないわ」
 「この前と言ってることが違うわ」
 「前と今は違うのよ!今の私はシンジのことが大好きなの!!」
 そこまで言って照れのあまりシンジの方を向けなくなるアスカ。シンジの方もなんだか気まずくなって足元を見ている。レイはいつもと違って本音丸出しのアスカに少し驚きながらも反撃する。

 「セカンド・・・あなたは碇君のことが好きなのね。・・・わかったわ。じゃあ、あなたは敵ね。惣流さん。
 私も、たぶん碇君のことが好き。
 碇君に話しかけられると鼓動が速くなるし、心が沸き立つようになる。碇君があなたや他の人と話すのを見ると不快な気分になるわ。
 碇司令は私の感情がなにか教えてくれなかった。
 でも頑張りなさいと言ってくれた。
 だから私は頑張る。あなたにだけは負けないわ」
 レイのいつもと違う熱い発言に、アスカもシンジも塩の柱と化した。だが炎の女、惣流アスカラングレーは素早く復活するとレイを睨み付ける。
 「ファースト・・・言うじゃない。唯々諾々と命令に従うだけの人形女かと思ったら、そんなことを考えているとはね・・・。
 良いわよ、ファースト!いえ、レイ!!
 今日から私もあんたのことをライバルと認めてやるわ!!そしてシンジを賭けて正々堂々と勝負してやるわよ!!!」
 ぴしぃっと胸を張りレイを指さすアスカ。
 横で『僕の意見は?』と情けないことを言ってるシンジは綺麗さっぱり無視。
 そのままレイと睨み合っていたが、ふっと二人ともシンジに視線を向けるとニヤリと笑う。その爬虫類のような笑みを見たシンジの背中に、ワケの分からない鳥肌が立った。彼の本能は、全力で逃げないと人生の墓場の予約切符を確実に手にしてしまうと警告を発するが、シンジの腰から下にはまるで力が入らない。
 そのまま身動きできないシンジに向かってとことことレイが歩み寄る。
 決して速い動きではなかったが、完全に虚をついた動きにアスカは反応できなかった。シンジにいたってはいきなり目の前が暗くなったな、とまるで分かっていなかった。

 「ファ、じゃなくてレ、レイ!?」
 「碇君。・・・んっ」
 「あ、あやな・・・んんっ・・・#$%&*@+〜〜〜〜〜!?」
 シンジの顎を掴むといきなりミサトが裸足で逃げるようなディープキスをするレイ。お子さまシンジにその大人のキスは刺激が強すぎた。声にならない悲鳴をあげると、一気に脱力する。
 まあろくにキスもしたことのない様な少年が、舌を吸われたり、歯茎を舌でなぞられたりしたらたいがい驚くわな。 
 脱力したシンジからレイは唾液の橋を架けつつ唇を離す。その顔はどことなく嬉しそうだ。そのまま2回目のキスをしようとするレイを慌ててアスカが押さえつける。
 「・・・ちょっとレイぃ!!!あ、あんたいきなり何するのよ!!!!?」
 「あなただってキスしたわ」
 濃厚なディープキスを見せられて、放心していたアスカが慌てて二人を引き剥がす。美少女2人が興奮してもみ合っていやらしい。それでも何とかレイを引き離す。
 「まったく油断も隙もあったもんじゃないわね。それにしてもファ・・・じゃなくてレイ。
 あんたどこであんなキスを覚えたのよ?」
 「? 碇司令が教えてくれたわ。これならどんな男の子もいちころだって」
 レイのさりげない発言にアスカの額に汗が浮かぶ。
 先ほどのレイの行動に対する怒りも忘れ、めまいを感じていた。
 (お、おばさま・・・いったいレイに何を教えているのぉ!?恋愛感情もろくにわからないレイになんてこと教えてるのよぉ!!)
 そんなアスカの葛藤を不思議そうな目で見ながらレイが声をかける。
 「もう帰りましょう。暗くなるわ」
 「わかってるわよ!
 ほらシンジ!さっさと起きなさい!!・・・って、駄目ねこりゃ。しょうがないわね〜。
 ファ・・・じゃない、レイ!そっち持って!この馬鹿、担いで帰るわよ!!」
 「・・・碇君は馬鹿じゃないわ」
 「ああ、もうわかってるわよ!言葉の綾よ!!それより早くして!!」


 そんな三人を遠目で見つめる三人の大人。
 「か・・・加持。あんたがほっとけって言うから様子を見たけど・・・と、とんでもない事になってるわよ」
 ミサトが冷や汗で服をじっとり湿らせながら呟く。
 「あ、アスカ。いつの間にか大人になっていたんだな・・・。それにシンジ君。羨ましいのか情けないのかわからないぞ」
 加持がいつの間にか大人になっていた妹のような少女の行動と、その想い人の境遇に、汗を負けじとタラリと流す。
 「間違いなく情けないのよ。
 ・・・まったく無様ね」
 ミサトと加持の間で、リツコが冷静にシンジの評価をした。
 「だが、とにかくこれで三人のユニゾンもうまくいくんじゃないのか?」
 「ユニゾンするのは三人じゃなくて二人だけで良いんだけど・・・」
 「ま、まあ、なんにしろユニゾンするってのは戦力アップにつながるさ。二人だろうが三人だろうがそんなに問題じゃないだろ」
 「何か問題があったら加持君の責任だからね・・・」
 「も、問題って何かな?葛城・・・そんな怖い顔して睨むなよ」
 「中学生らしからぬ行いの事よ」
 「大丈夫じゃないか。相手はシンジ君なんだぞ?」
 「ん〜まあ、私も大丈夫だと思うんだけどもさ。でも、シンジ君の父親はあの伝説のヒゲ眼鏡なのよ」
 「そうだったな・・・なんか急に不安になってきたよ」
 「今更遅いわよ!!」
 「か、葛城、首を絞めるな!!ロープ!ロープ!!」
 「まったく二人とも何やってんだか・・・。ホント無様ね」
 「「元はと言えばリッちゃん(リツコ)がアスカをいじめたからだろう(でしょう)!?」」




 その日の夜から碇家の様子は変わった。
 アスカは自身もユニゾンの訓練をすると共に、レイとシンジのユニゾンをできる限りバックアップするようになった。レイも機械のようにシンジに合わせるのではなく、お互いのことを思いやるような動きになり、その日のうちに二人の得点は100点を超えた。
 更にその夜、いきなりシンジの部屋に布団を持ってアスカが乱入してくると無言のまま布団を敷く。そして監視のために敷かれたミサトの布団を蹴りだすとそのまま横になって目を閉じる。
 そんな彼女に風呂上がりのミサトが風呂上がりの一杯も忘れて抗議した。夕方の光景を見て警戒しまくっていたため、勢い声が大きくなる。
 「ちょっと、アスカ!?いったい何するのよ!?」
 「完璧なユニゾンをするために一緒の部屋で眠るだけよ」
 すでに理論武装をしていたアスカは真っ赤な顔を上げずに答える。そんなアスカに歯ぎしりさえもしながらミサトが怒鳴る。
 「私はどこで寝ろって言うのよ!?それにシンジ君のパートナーはレイでしょう!!」
 「自分の部屋にでも戻ればいいでしょ。それともママの部屋にでも行く?」
 「じょ、冗談じゃないわよ!だいたいあなた達だけをここに寝かせて、なんか間違いがあったらどうすんのよ!?」
 「そんなこと起こんないわよ。だいたいシンジもレイもかまわないって言ってるんだし」
 アスカの発言に、ミサトはショックを受けて固まった。恐る恐る、頼みの綱であるシンジに向き直る。彼女の目は聞きたくもない可能性を想像して、暗い光をたたえていた。
 「そ、そんな・・・。シンちゃん、嘘よね?」
 「えっと・・・あの、本当ですけど。
 あれ、ミサトさん?どうしたんですか?」
 「ちゅ、ちゅ、中学生のくせにぃ〜〜〜〜!!!」
 「ミサトさ〜〜〜ん!!!?」
 頼みの綱のシンジにまでつれなくされたミサトは、絶叫をあげながら部屋の外に飛び出していった。
 たぶん、これから加持兄ぃの所に愚痴でもこぼしに行くんだろう。
 それを見送ったシンジが戻ってくると、アスカとレイはシンジを間に挟んで川の字になった。もちろん、三人とも顔は真っ赤である。
 「やれやれ、やっと年増がいなくなったわね。それじゃ寝ましょ、シンジ、レイ。  .・・・い、一応言っとくけど、変なコトしたら・・・殺すわよ」
 「う、うん、わかったよ。それじゃ明かり消すよ」
 「・・・おやすみなさい碇君、アスカ」
 「おやすみ、綾波、アスカ」
 「私を忘れないでよ〜シンちゃ〜ん、お姉ちゃ〜ん、アスカ〜」



 こうして四人の奇妙な生活は新しい局面を迎えた。シンジとレイのユニゾンだけでなく、シンジとアスカのユニゾンもまた急速に高得点をマークしていく。
 はじめのうちは、ろくにユニゾンができないアスカが癇癪を起こしたり、電波的行動を起こしたレイがシンジに抱きついたりして練習にすらならなかったが、シンジの励まし、素っ気ないがレイの気遣いによりアスカはその持ち前の負けん気を発揮しだした。
 ついには三人は、トイレ、歯磨き、食事、寝相までもが完全に一致するまでになったのだ。
 そして、三人揃ってのユニゾンは100点を記録し、決戦の準備は整った。
 「だから私を忘れないでよ〜。だいたいユニゾンは二人だけで良かったのよ〜」


<決戦前夜>

 「アレ〜まだママとミサトは帰ってこないの?
 シンジ何か知らない?」
 風呂上がりで体にバスタオルを巻いただけのドキドキな格好をしたアスカがシンジに訪ねる。
 シンジはS−DATを聞き、雑誌を読んでいたのでそんな美味しい場面に気が付かない。素っ気なく返事を返す。
 「今日は徹夜だってさ」
 「じゃ、今夜は二人っきりってワケね!」
 ウインクしながらとびっきりの笑顔で言うアスカに、さすがのシンジもホケッとした顔をする。ちょっぴり彼の心は今夜のことを想像してどきどき。アスカの肢体を想像してちょっぴり熱膨張。だが、そううまくいかないのが世の常。
 右手をワキワキさせるシンジのそばにとことこ近づく、これまた風呂上がりのレイ。って、事は二人一緒に風呂に入っていたのか!?とてつもなくいや〜んな感じぃ!!

 「私のこと忘れないで」
 「ちっ・・・そう言えばあんたが居たのよね」
 「ふ、二人とも、そんな喧嘩腰にならないでよ。ぼ、僕もう寝るから!おやすみ!!」
 物騒な目で睨み合う2人。シンジは慌てて仲介をしようとするが、それがかえってアスカの逆鱗に触れることとなった。
 「待ちなさいよ!聞こう聞こうと思っていたけど、あんたいったいどっちの方が好きなの!?
 あんたがそれをハッキリすれば、私達が喧嘩腰になることもないのよ!!」
 強引にシンジの頭を引き起こすと額がくっつくくらいに顔を近づけ、睨み付けるアスカ。後ろでこくこく頷くレイ。刺激的な格好+体勢だが、質問の内容が内容なだけにシンジの頭の中は氷河時代並に寒くなっている。
 「どっちって言われても・・・そんなすぐにはわからないよ」
 「んなっ!?二股なんて最低よ!!今すぐどっちか選びなさいよ!!
 私か、それともレイか!?もちろんどっちを選ぶかわかっているわね!!」
 とんでもない二者択一を迫るアスカだった。普通こんな事言われて選択できる奴はいない。どっちを選んだにしても辛く厳しい茨の道を歩むことは目に見えている。シンジにだってそれくらいはわかる。
 答えられないシンジに詰め寄る、赤と青の美少女。
 (ふ、不幸すぎる・・・。誰か僕を助けてよぉ)
 誰が助けるもんか。
 結局シンジは午前3時を過ぎても答えることができなかった。結局アスカ達が根負けしてダウンしたのだが、せっかく解放されたにもかかわらず、シンジは安眠することができなかった。
 夢の中にまでアスカとレイが出てきて同じ質問をしたのだ。恐るべきユニゾン。
 「だから、私を無視しないでよ〜!!!」


<ネルフ本部・エレベータ内>

 エレベータの中で男と女の甘い声が響く。
 「んっ・・・やだっ・・・見てる・・・」
 「誰が?」
 男が豊満な肉体を持つ女の背後から覆い被さり、唇を重ねている。女の両手は男の手によって捕まれ全く身動きできない。さらに男の足が女の股の間に挟まり足の動きも封じる。
 完璧に動きを止められた女はまだ抵抗を試みようとするが、全くの無駄だった。
 「誰って・・・んっ・・うっん」
 ついには抵抗をあきらめ力を抜く女。男はそれを確認すると女の体を壁に押しつけ、態勢を変える。そのまま更に濃厚なキスに移行する。
 女は潤む瞳でエレベーターの階数表示の変化を見つめる。
 当分扉は開きそうにない。
 女は体の力を抜いた。

チーーン。

 「いやぁ、今日も残業、徹夜・・・み、ミサトさぁん!?」
 「んっ・・・ふぅん・・・ぷはっ!日向君!?いや、これは違うの!誤解なのよ!!」
 「狭い空間で抱き合いながら、足を絡めながら、キスをしている半裸の男と女の、どこが誤解なんですかぁー!!?
 ふ、不潔!!不潔だぁーーーーーー!!!
 信じていたのに!!葛城さんを信じていたのに!!!
 うおおおおおお!!!!
 アオバーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
 エレベーターに入った早々、とんでもない、信じられない光景を目にしてけたたましい声とともに、エレベーター前から走り去る男。何故走り去ったのかは、謎って言うか哀れすぎて書きたくない。
 その目には照明できらきら光る涙が・・・。

 「えっと・・・。
 もう、加持君とは何でも無いんだから・・・こういうの止めてくれる?」
 ミサトが着衣と髪の乱れを直しながら加持に告げる。気まずいのかその目は壁を見ていた。
 加持は床に散らばった書類を拾い集めながらそれに答える。
 「でも、君の唇は止めてくれとは言わなかったよ・・・」
 その言葉にミサトは息をのみ、穴が開けとばかりに加持を睨む。
 「君の唇と君の言葉。どっちを信用したら良いのかな?
 ・・・だいたいここ数日俺の部屋に入り浸っていたじゃないか。
 さっきも、舌を絡めてくるし途中から妙に積極的だったぞ」
 ミサトに書類を手渡しながらにやける加持。
 「確かにそうだったけど、見られたってのが問題なのよ!」
 書類を引ったくり、怒鳴りつけるミサト。
 そんなミサトに余裕の笑みを向けながら騎士のように恭しく礼をする加持。
 その姿が消えた後、エレベーターの扉に書類の束とミサトの鉄拳がぶつけられた。


<ジオフロント内バーラウンジ>

 ミサトは外の景色眺めていた。
 その目にモノレールの光や、天井都市の光が映る。
 その後ろからゆっくりと歩み寄るリツコ。仕事も一段落し、こざっぱりとした服に着替えている。
 ミサトが恋する少女のような目をして外を眺めているのを、かわいいと思いながら見ていたが、そっとコーヒーカップを手渡した。
 「ありがと」
 「今日は珍しくしらふじゃない」
 「ちょっち、ね」
 言い訳するように視線を逸らすミサトを意地悪く見るリツコ。追及の手をゆるめない。
 「仕事?それとも男?」
 「いろいろ」
 何でもないように答えるミサトの声はいつも威勢が感じられず、別人のようだった。
 リツコはそんなミサトを懐かしい物でも見るかのように、核心をつく言葉をはいた。
 「ふ〜ん、まだ好きなのかしら?」

ブビュッ!!!

 「へ、へ、変なこと言わないでよっ! 誰があんなやつと! 
 ああ、いくら若気の至りとはいえあんなのと付き合っていたなんて、我が人生最大の汚点だわ」
 思わずコ−ヒーを噴き出し、あたりを汚す。コーヒー好きのリツコとしては許し難い行いである。ムッとした顔で言葉を続ける。
 「私が言ったのは加持君が、よ。動揺させちゃった?」
 「あんたねぇ〜」
 「怒るのは、図星を突かれた証拠よ・・・。
 今度はもう少し素直になったら? 8年前とは違うんだから。
 ・・・私たち、認めたくないけど25歳と60ヶ月になってしまったのよ。」
 目を伏せ、自嘲するようにつぶやく。
 それを聞いたミサトの目が雲がかかったようにドンヨリとなった。
 「ふっふふ・・・。
 変わってないわ、ちっとも。大人になってない。私たちはまだまだいけてるわ!そうでしょ!?リツコ!!!」
 「み、ミサト・・・そうね!まだまだ私たち現役よね!!」
 「リツコっ!!!」
 「ミサトっ!!!」
 ガッシとばかりにバ○ムク○スで友情を再確認するネルフのダーティ・ペア、改めサーティ・ペア。
 女の友情はかくのごとく結ばれる。

 「さ〜て、仕事、仕事。明日は決戦だもんね♪」
 ミサトは話題を忘れるかのようにのたまい、意識した明るい笑いとともに去っていく。
 リツコも努めて明るい顔で仕事に戻る。
 リツコさんに加えてミサトさんにも幸せの幸あれ♪



<そして、決戦当日>

 『目標は強羅絶対防衛線を突破!』
 修復を終えた使徒は第三新東京市へと侵攻して来た。
 再び一体に戻り、大地を踏みしめながらありとあらゆる妨害をはねのけて進んでくる。
 その周囲を無数のVTOLが飛び回り、牽制をしているが全く意に介そうとはしない。
 モニターに使徒の姿が映ると、ミサトが不適な笑いを浮かべながら作戦開始を告げる。

 『来〜た〜わ〜ねぇ。今度は抜かりないわよ!
 音楽スタートと同時にATフィールドを展開。後は作戦通りに、みんな良いわね?』

 「「「「了解!!!」」」」

 シンジ、レイコ、アスカ、そしてレイが元気よく揃って返事をする。もっともレイの声はぽそっとつぶやくような感じだったが。
 その後に続くトウジ、ヒカリ、マナ。
 「任せて下さいミサトさん!鈴原、準備良いわね!」
 「わーっとるわい!ほんまイインチョはやかましいわ」
 「なんですって〜!?」
 『喧嘩はそこまでにしなさい!
 ・・・2人とも、初めて乗るゾイドだけど調子はどう?』
 「ちっと違和感がありますけど、大丈夫ですわ」
 「私も大丈夫です。」
 『霧島さんは?病み上がりなんだからあんまり無理しなくても良いのよ?』
 「いえ、大丈夫です。いけます」

 『目標は山間部に侵入』
 赤く目を腫らした日向の報告を聞き、ミサトが改めて号令を出す。
 「そんじゃ無駄話はこれくらいにして・・・発進!!!」


 カタパルトがシンジのゴジュラスMk.2とアスカのアイアンコングMk.2を地上へと打ち上げる。そのまま使徒の頭上高くに舞い上がる2体を使徒が見上げる。
 そのまま空中で姿勢を変えると、使徒めがけてミサイルとビーム砲を打ち込む。
 命中寸前で、6体に分離する使徒。
 触手にあたる小型使徒が、落下中の2体に向かって飛びかかった。

 だが、空中に飛び出した瞬間、衝撃波とともに飛来してきたレイとレイコ操るサラマンダーF2に体当たりされ、一体残らず地面にたたきつけられる。
 その時の傷は一瞬のうちに治るが、地面に横たわっている間にトウジが操る重突撃近接戦闘用バッファロー型ゾイド、ディバイソンに一体が踏みつけられ、動きを封じられる。
 それを助けようと小型使徒の一体がディバイソンに飛びかかった。爪が剣呑な光を帯びる。
 だが、足下の使徒を踏みにじったまま素早く向きを変えたディバイソンの最大の武器、17門突撃砲によって原形をとどめないほどぐちゃぐちゃにされて吹き飛ばされる。ディバイソンはそのまま突進した!
 グチャグチャにされた使徒だったが、地面に激突する前にその傷は全快する。
 猿のように着地すると、顔から閃光を発射した!
 その閃光はディバイソンの装甲を情け容赦なく傷つけるが、その突進は緩まない。

ドドーーーーーーーーーン!!!

 轟音と共に、兵装ビルにぶつかるディバイソン。
 もちろん、その角とビルの間には使徒が挟まれていた。串刺しにされながらも、何とか自由になろうともがいている。
 「ほな、これでトドメや。往生しぃや!!」
 その状態のままで、再び突撃砲が発射され、使徒の残骸の上にビルの上層部分が落下する。ディバイソンは激突寸前にその場を離れるが、使徒は動くこともできずに生き埋めになった。

 「とりあえず1匹や!!!」


 残りの1体は横合いから飛び出してきた赤き五角獣、レッドホーンによって兵装ビルに押さえつけられる。レッドホーンはそのまま使徒に背中のビーム砲を向けると、再生する暇を与えず打ちまくる。
 「お願い!もう起きないでっ!!!」
 パイロットがアスカからヒカリに乗り換えられたレッドホーンだが、そのパワ−は衰えるどころか、増してさえいるだろう。


 レッドホーンとディバイソンが戦っているとき、マナ操るアロザウラーも戦っていた。
 素早く使徒の周りを跳びまわり、口から火炎を放射してその体を焦がす。
 だが、病み上がりのマナの操縦では今ひとつ反応が鈍く、使徒の振り回す腕と顔から発する光線をよけきることができなかった。
 光線の一撃を頭部にもらい、苦痛と視界が閉ざされた事によりその動きが止まる。そして、それを見逃すような使徒ではなかった。
 大きく振りかぶった腕を、アロザウラーの頭部に打ち付ける。
 鈍い金属音と共にその頭がひしゃげ、体液が飛び散った。
 フィードバックしたダメージによりマナの意識が途絶えた瞬間、アロザウラーは再起動した。
 再び振り下ろされる腕を、一瞬のうちにつかみ取ると躊躇せずに握りつぶす。続いて何故か今度は再生できず悲鳴をあげる使徒の顔と、腹部をゆっくりと掴んだ。
 そのまま何の躊躇もなく腕を上下に広げる。
 その細身の腕から信じられないほどの力を発揮し、使徒の体を上下に引き裂いていくアロザウラー。
 プラグ内のマナは何かに憑かれたかの様な顔をし、目の前で暴れる使徒を眺めている。

 「・・・よくもやってくれたなぁ〜〜〜!!!!殺してやるぅ!!!!」

 マナの別人のような叫びに重なる様にアロザウラーが雄叫びをあげた。
 血を全く流さない使徒の体を完全に真っ二つに引きちぎると、上半身と下半身を別々の所に投げ捨てる。
 更に、それでも蠢く使徒の上半身を踏みつけた。何度も何度も・・・。


 ディバイソンに踏みつけられて動きを止めていた小型使徒が、レイコの強化型サラマンダー、サラマンダーF2によって空中につり上げられる。顔をカギ爪で捕まれた使徒はじたばたと暴れるが、レイコはいっこうに気にしない。
 傷ができることにもかまわず、使徒めがけて機銃を、そして口からの火炎放射を浴びせ続ける。
 再生したそばから蜂の巣にされるエンドレスな攻撃に反撃もできない。

 「さあ、後は本体を倒すだけよ!!お姉ちゃん、シンちゃん、頑張って!!!」


 他4体のゾイドが小型使徒を押さえている間に、ブースターをふかしたアイアンコングとゴジュラスがイスラフェル本体に急速接近する。
 イスラフェルはまったく同じ動きでそれぞれ自分の相手に飛びかかった。
 その突撃を左右対称にスルリとかわすと、アイアンコングは右肩に担いだビーム砲を、ゴジュラスは左腕に取り付けられた4連速射砲を使徒めがけて撃ちまくる。
 その攻撃は両使徒にまったく効かなかったが、注意を引くには十分だった。
 使徒は顔から光線を放つ!
 ブースターをふかせて道路の上をホバリングによって滑るように移動する二人。彼らに一瞬遅れてむなしく地面を砕く光線。
 そしてある地点まで逃げると、道路からシールドが飛び出し二人を守る。素早く、シールドの反対側から、ミサイルや40cm砲を使徒めがけて撃ちまくる。
 その攻撃を跳んでかわすと使徒が二人めがけてとびかかった。
 兵装ビルをも一撃で切り裂くその爪がシンジ達に襲いかかる。

 「今(よ、だ)!! レイッ(綾波っ)!!!」

 2人が叫んだ瞬間、使徒と使徒の間を超高速でレイのサラマンダーF2が通り抜けた。
 そして一瞬遅れて到着した衝撃波が使徒にぶち当たる。翼によって真っ二つに切り裂かれ、衝撃波で傷ついた使徒が合体をしようと一つに重なる。
 肉が溶け合い、コアが胸の中心に向かって移動を開始した、その瞬間!
 全兵装を捨てて身軽になったアイアンコングと、バックパックを捨てて同じく身軽になったゴジュラスが同時に宙に舞った!!

 その肩をレイとレイコのサラマンダーが掴みあげ、更に大空高くへと持ち上げる。その一分の無駄のない動きにミサトが、リツコが、加持が、そしてキョウコと冬月が、モニターしていた全ての人々が、勝利を確信する。
 落下とサラマンダーによる後押しを受けて急加速する二機のゾイド。
 きりもみ回転をしながら使徒めがけて降下する。

 そしてゴジュラスは右脚を、アイアンコングは左腕を使徒のコアめがけてぶち当てる!!

 合体寸前のコアに命中する2機の攻撃。

 そのまま勢いが止まらず背後の山の頂へと突き進む。

 ついに卵を砕くようにコアにひびが入り内側から光り輝く。

 ドドドドドオオオオオオオオオオッ!!!!

 大爆発が起こる中、発令所のスタッフ達の歓声が響く。
 それと同時に動きを止め、塩の固まりになる小型の分身達。


 『ゾイド4機ともに確認!』
 巨大なクレーターの中心部でゴジュラスとアイアンコングをかばうかのように翼でその身を包む2機のサラマンダーがモニターに映る。
 「レイ・・・。爆風からかばってくれてありがと・・・」
 「・・・何を言うのよ」
 まだもうもうと熱風が吹き荒れる中、シンジ達3人はゾイドから外に出て電話で会話していた。
 「ははっ、アスカがレイにそんなこと言うなんて、明日は雨かな?」 
 「ひっどーい!そんなこと言うなんて、シンジいったい私のことなんだと思ってるのよ!!?」
 「アスカはアスカだよ。
 ・・・それよりごめん。最後のタイミング少しはずしちゃって・・・。綾波がフォローしてくれなかったら転んでいたかもね」
 「ま、馬鹿シンジにしてはよくやったわ。レイもね。
 ・・・それより、疲れちゃった。眠い・・・zzz」
 「私も・・・くぅ」
 「ちょっと、2人とも・・・ま、いいか。おやすみ」


 『パイロット、三名とも意識を失いました!』
 「寝たって言いなさいよ。
 いくら何でも意識を失ったなんて言い方無理があるわよ、マヤ。」
 リツコのつっこみにインカムをはずしながらマヤが返答する。どこか眠たそうな声だ。
 「でも〜〜せんぱぁい。これお正月特番に放送するんですよね?だったらここで『寝ました!』なんて報告するの間抜けすぎて・・・」
 「そんなの後でいくらでも編集できるわよ。
 それより今は街の被害状況と、霧島さんの暴走について報告しなさい」
 こちらも少し眠たそうな声でマヤに告げるリツコ。緊張が解けて急に眠くなったのだろう。
 「はい先輩。
 えっと、被害状況は1時間以内に情報部がまとめて報告します。
 霧島さんの状態ですが、今は暴走も停止しておりゾイド生命体の活動反応もありません。霧島さん自身も意識を失っているだけで、命に別状ありません」
 「そう、これで一安心ね。
 ゾイドとチルドレンの回収を指示したら、みんなしばらく休んでも良いわ。私も少し休むから。
 ・・・おやすみ、マヤ」
 発令所からぞろぞろと人が消えていく。

 「だから私を無視するなぁ〜〜〜〜!!!」


 初日の出が第三新東京市を明るく照らす。
 そのどこかはかなく、優しい光景が広がる中にレイコの絶叫が響きわたった。
 それを聞きながら冬月は眉間を押さえていた。
 「とんでもない恥をかかせおって・・・」



第八話完


Vol.1.00 1998/12/10

Vol.1.01 1999/03/20


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