NEONGENESIS GRAND PRIX
EVANFORMULA
第7話「Kiss and Bet 『Reason,1-A』」


EVIA本部内テストコースのホテル内で記者会見が始まろうとしていた。
今回の会見は碇ゲンドウが開いたもので、前回のレースでの処分を発表するのでは
ないかというプレスの噂から、かなりの数の記者が集まっていた。
始まりを待っていたプレス関係者が、ドアの方を一斉に見て、フラッシュがたかれる。
ゲンドウと冬月、リツコが会見場に姿を現し、会見席に腰を下ろす。
そして始めにゲンドウが口を開いた。
「今回お集まり頂いたのはみなさんの想像とは異なるものです。あなた方が聞きたい
 事についてはレースの中のことであり、ドライバー内で決着がついてる問題を、
 組織であるEVIAとしてはトラブルを掘り起こして処分をすることはしません。
 そして、今回の発表は私と赤木が持つチームの解体と、新たに私が資本参加する
 チームの体制発表と、そこで使うマシンの披露です」
プレスに動揺が走る。と同時にこれは凄いビックニュース、記者魂が燃え上がる。
「あの、ではレイさんはどうなるんですか?彼女はチャンピオンの可能性があるにも
 関わらずチームが消滅となると・・・」
ゲンドウがオーナーをしていたのはレイが走っていたチームである。
この記者の疑問も当然と言えた。そういう質問が飛ぶ中、横にいたリツコが、
「ご質問は後で受け付けます。ではこれより新体制を発表させてもらいます。
 まず、正式名称はミッシングリングエヴァンフォーミュラレーシング。
 マシンは新型のG-EV-Mを使用します。オーナーは碇ゲンドウEVIA会長、
 監督兼デザイナーはこの私、赤木リツコです。そして1台体制で最終戦からの
 参戦となります。ドライバーについては新人のマックス・ウィンザードを迎えます。
 マシンのプレス発表はありませんが、走行ビデオをこれからモニターに流します。
 ドライバーはマックスが担当しています」
そして部屋の電灯が落とされ、モニターに黒いマシンの走行シーンが映し出される。
そのマシンはEG-Mより明らかに肉付きがなく、見た目にもシェイプアップされていた。
そしてストレートに入り、変形した。プレス一同から驚きの声が上がる。
今までのEG-Mと異なり、形が大幅に変わったのである。いままで変形と言っても
ウイングや空力パーツが沈んだりフラップが動くだけだったが、ウイングが一体になり
フラップが車体に取り込まれる形になった。その変形が早く、無駄がない。
フロントタイヤが車体に寄り、直進安定性を高める。こんな変形は見た事が無い。
G-EV-Mがまるで生き物のようにしなやかな変形をした事に驚きの声が上がる。
高速コーナーが近づき、元の形に戻る際に同様の変形をしてコーナーに入る。
そして、その後でホールのシャンデリアが灯された。が、記者の目はモニターに写る
G-EV-Mに行っていた。シェイプされたボディからかコーナリングスピードは
かなり早く見えた。そしてインフィールドセクションでまた変形する。
リアウイングが跳ね上がり、中からローラーが持ち上がり、それが高速回転を始める。
フロントウイングが上下2枚に分かれ、その間に設置されたファンが回り出す。
(見た目ですら今までのマシンシステムとは明らかに違う・・・)
恐らくここにいた全員がそう感じただろう。全く新しいマシン・・・似ているのは
通常時の外観のみ。
そんなプレスの驚く反応を見、リツコは満足げな笑みを浮かべると、

「では、御質問等ありましたらどうぞ」
「あの・・・G-EV-Mのあの変形システムは一体・・・」
「状況で分かれます。エアロ、ノーマル、コーナリングの3タイプです。
 それはモニターを見てお分かりですね。サーキットタイプを選ばないマシンで、
 全てのモードにおいてEG-Mを圧倒しています。それは最終戦で証明されるでしょう」
「では、レイさんはどうなるんですか?トップと1ポイント差で3位の彼女の
 チームが消滅して新チームのシートも決定となると・・・」
その問いにはゲンドウが口を開く。
「レイは彼女の願いにより引退します。今後はEVIA内での研究に携わる事になります」
いきなりのレイの引退を聞かされたプレス一同は驚きの声を上げる。
まさか考えもしなかった事がいきなり発表された。
「何故いきなりここで引退なのですか?あと1戦走ってから引退でも良いのでは・・・」
「先程言った通り、彼女の意志によるものです。私からは何も言えません」
ゲンドウにこう言われては、プレス関係者は何も聞けなかったし、意味もなかった。
「では、新人のマックス・ウインザードの事を教えてもらえますか?
 これだけの面子の揃ったチームなのですからなにも新人を入れなくても・・・」
これにはまたリツコが答える。
「それも最終戦で分かるでしょう。彼の実力の程をご覧下されば分かります。
 簡単にプロフィール紹介すると、彼は碇シンジや惣流・アスカ・ラングレーと
 同じ17歳で、国籍はイギリスです。私がお教え出来るのはこれ位です」

衛星放送でその会見をベットの上で見ていたシンジ。容態は良好で3日後には退院
出来る予定であるが、マヤは既に日本に帰ってマシンの修復にかかり、アスカは
直ったEG-Mのテストの為に、日本に帰って行った。今イタリアにいるのは
シンジだけであったし、イタリア語も英語もチンプンカンプンのシンジは
退屈この上なかったから、衛星TVが唯一の友達だったのだが、
付けた所がこの放送を流していた。
(ニューチーム、ニューマシン・・・こんな時期に何を考えてるんだ・・・父さん)
激動の日が暮れ、次の日の新聞には昨日のチームの事、マシンの事、レイの事が
大々的に報道されていた。


秋風が吹きすさぶ日本の11月の風はもう冷たい。
あの会見から6日後の鈴馬サーキット、2週間後に迫った最終戦の舞台である
そのサーキットにテストチームが来ていた。
『ピピピピピピピピピ』
ヘッドアップバイザーにレベルメータが立ち上がる。ヘルメットをかぶったその男は
そのレベルゲージを横目で見ながらマシンが機能停止するのを待つ。
バイザーディスプレーに次々と文字が並び、浮かんでは消える。
全てを把握しているのかその男はある文字が出た時に、スイッチを押した。
LCLがマシンに戻り、キャノピーが開く。
『ご苦労さん!続きはメシの後だ。アベルも休んでいいぞ』
そう通信が届くとコクピットの中からテスト走行を終えたドライバーがヘルメットに
繋がった3本のコードを引き抜くと、漆黒のG-EV-Mのコクピットから出てきた。
彼は、ヘルメットを脱ぐと、輝かんばかりの金色の髪を掻き上げて、
深い緑の瞳で今さっき着いたばかりのアスカの新EG-Mを見て傍らにいたメカに訊ねる。
「あの赤いカラーのマシンは?」
「あれはTEAMラヴェンドのマシンだよ。去年のチャンピオンの
 惣流・アスカ・ラングレーのぶっ壊れてたマシンだ。やっと直ったみたいだな」
「では今日ここに来るのか?」
「あぁ、今日午後からテストが入ってるよ。オーナーの親心かな。
 お前に自信をつけてやろうってんだろうな」
アスカのマシンはキャノピーが開いており、コクピットが見えていたので、アベル・・・
いやアベル・ルドルフ・ウエールズ、新チームミッシングリングのドライバー。
その彼がアスカのマシンのコクピットを見て驚く。
「彼女はバイザリンクシステムを使ってないのか?」
「ああ、これは旧式でリンクシステムは規格外だし、大体お前専用のシステム
 みたいなもんだろ。常人にあれだけの情報を処理しきれるもんじゃないよ」
マックスはそのEG-Mタイプのコクピットを覗き込みながら
「ほう、システムが簡単になってるだけで後は変わらないようだ。
 まあこのコクピットに慣れている分、こっちの方が早く走れるかもしれないか」
そう言っている時に、栗色の髪を秋風に靡かせて彼女が入ってきた。
「ちょっとアンタ、私のかわいいマシンにさわらないでくれる」
アベルの緑色の深い瞳にその人影が映る。と同時に彼女の目の前まで歩を進める。
「な、何よ」
彼女は目前まで迫った彼の姿を見てドキッとした。美しい金髪、緑の深い瞳、
モデルの様に整った顔の彼に見つめられたら大概の女性はクラッと来る。
そしてアベルは彼女の左手を取り、手の甲にキスをして挨拶がわりにした。
アスカに彼のさらりとした薄い唇の感触が伝わると同時にアスカの頬が赤く染まる。
以前の彼女なら問答無用で張り倒していただろうが、今の彼女は少し女性に近づき
つつあったので、このような反応が出たのであろう。
彼はアスカの手を優しく離し、彼女の青い瞳を見る。
「いきなり失礼しました。これが我がルドルフ家の挨拶の方法なものですから。
 旧時代的な挨拶で私も止めようとは思ってるのですが美しい女性を見るとつい・・・」
アスカは何も言わなかった。彼の深い瞳に吸い込まれるように見入っていた。
だが、言葉は耳に入っていたので、
「ルドルフ?あのドイツの名門の?」
「名門という程ではありません。今は万民が平等の時代ですからね。
 ただ、しきたりがうるさいだけの古い人間の集まりですよ。
 そう言えばまだ自己紹介が済んでませんでしたね。私はアベル・ルドルフ・
 ウエールズです。最終戦からグランプリに参戦します。どうぞよろしく」
「ふうん。私は惣流・アスカ・ラングレー、去年のチャンピオンよ」
アベルがそれを聞いて彼女に微笑む。
「で、ウエールズってイギリス王家の縁戚筋よね。ホントに名門中の名門家系なん・・・」
そう言うアスカの口を、アベルは人差し指で止めた。
「失礼、でもそんな事は分からない人には分からない方がいい。変に構えられるのは
 嫌いなんです。だからレースでは偽名を使います。あなたのように身内には本名で
 応対しますけどね。だが、あなたの様にお詳しい人にはすぐばれてしまうので、
 この事は分からない人の為にどうかご内密にお願いします」
「そうね。絶対イギリス王家の事なんて分かりそうもない人、私も知ってるから」
『ブエックショィ』
イタリアの病院内にくしゃみの音が響きわたった。

「私はあなたを好きになれそうだ。私の素性を知っても変に自分を飾ろうとしない。
 もしよろしければ今度お友達と日本にある私の別荘にいらっしゃいませんか」
アスカにしてもこの彼が気になる。仲良くもなりたいと思っていたし、
誰かさんを誘う口述も出来る。悪い話ではなかった。
「いいわね、ちょうどどこかに誘いたい人がいたんだ」
アベルは懐から名刺を出して何やらメモを始める。アスカが覗き込もうとすると
その名刺を彼女の前に差し出した。そこには電話番号が2つ書かれていた。


「その後の様子はどうかね?」
ゲンドウは傍らでG-EV-Mのデータ解析に追われるリツコに向かい訊ねた。
リツコはその曖昧な問いに対し、思いつく数種の答えの中から1つを選ぶ。
「流石に会見で発表を見た瞬間、落ち込んだ様子だったそうです。今はただ天井を
 眺めているだけという報告を受けています」
ゲンドウはその問いに言葉を返してこない。彼女は更に続ける。
「いくら何でもやりすぎではありませんか?あれでは如何にレイとはいえ・・・」
彼女の口を遮るようにゲンドウが口を開いた。
「これで終わるようなら、我々にレイは必要ない」
「しかし、せめて道くらいは示しておいた方が良いのではありませんか?」
そう言うリツコの横を通り過ぎ、ゲンドウは無言で会長室から出ていった。
(こういう形でしか想いを伝えらえれない。そういう人なのね・・・会長は)

1つ、2つ、3つ、4つ、5つ・・・天井の模様の中のシミが1つ、2つ、3つ・・・
あれから3日、何も食べさせてもらえない。昔と同じ・・・
初めてモノを口に入れた2年前のあの時もそうだった。
普通の食事に慣れるまで、体が対応するまで訓練を受けた。
そして今の私の食事は再び点滴・・・
味を知った2年前のあの時と同じく、点滴による栄養補給の体の対応を待ってる。
これに慣れたらまた・・・あの生活に戻らなくてはならない。
何もない・・・今にして思えば人形の私・〜・に戻らなくてはならない。
ただそこにいるだけの、私的な事は一切許されない弄ばれるだけの生活・・・
過去のイヤな記憶が浮かんでは消える。その狭間にこの2年間の日々が写しだされる。
色々な思い、感覚、感情、人を知った2年間、あの日々は全てが気持ち良かった・・・
その前の生活と感覚に比べれば全ての事が心地よかった・・・
『シュウゥゥン』
ドアが開く。眼球のみを動かしてドアから入ってきた人を見る。
見慣れた眼鏡、髭。これまでの3日間は入ってくるのは白衣を着た人だけ。
この人とは3日ぶり。目のピントが合ってきた。この人は私の・・・何?
信じられる唯一の存在である筈の人・・・だけど・・・
「レイ、調子はどうだ。準備は進んでいるか」
この目、冷たい眼差し。今までとは違う冷たい視線が私に刺さる。

「・・・・・も・・・・・い・・・・・・・せ・・・・・・・す・・・・・・・・・」
言葉が出ない。話そうとしても声が出ない。でもこれは2年前なら普通の事。
たぶん今、私に繋がってる点滴の内のどれかの副作用。
立ち上がりたい・・・この前までのように会長の顔を見ながら喋りたい。
会長の優しい顔の側で話したい。でも恐い・・・今の会長の顔を側で見るのは・・・
でもどうせ見れない。今の私は手の指を震わせるのが精一杯。これも薬・・・。
体を動かしたい、でも動かない。この感じ・・・視界が滲む。これは・・・何?
会長が私の腕に手を伸ばして、手を握ってきた。私も握り返そうとする。
でも・・・動かない・・・更に視界が滲んだ。分からない。この感じはあの時に似てる・・・
会長に見限られた3日前のあの時の感じに・・・。
(痛ッ)
右手に痛みが走る。会長が点滴の針を2本抜き、その後で会長は握っていた手を
離し、代わりに何かを私の手に差し入れる感触が伝わる。そして白衣の人が
入ってくる。見慣れた人が見慣れた注射器を出して、いつもの通り私の腕に
針を刺した。その後で何も言わないで2人は私の前から姿を消した。
何を置いていったのか見たかった。でもまるで体が反応しないまま、瞼が重くなる。
この・眠りから・・・醒めたら・・・・・私は・・・・・・どうなって・・・・・・・・・


赤いEG-Mがホームストレートを走り抜け、そこにいた全員の目がそのマシンを眺める。
フライングラップに入ったアスカのマシンは滑るようにコーナーを駆け抜けていく。
「どうかね、アスカの調子は?」
黒のタキシードに身を包んだ白髪の男は横にいたチーム監督に訊ねる。
「流石に改良型のEG-Mだけあってフットワークが軽いですね。それにアスカも
 一時期の不振が嘘のようです。今では去年よりもシンクロ率は高いですよ」
白髪の男は冬月コウゾウ。EVIA副会長であり、アスカのTEAMラヴェンドのオーナー
である彼はアスカが走るモニターを見ていた。
赤いEG-Mはバックストレートに進入する。
「さあ行くわよ。久しぶりの・・・ラベンダーウイング!」
アスカのマシンの左右にそれぞれマウントされたウイングが垂直に立ち上がり、
カウルのエアポッド横のコアフィンが起き上がると同時に爆発的な加速をする。
「うっ・・・」
強烈な加速力にアスカは一瞬顔を歪める。
(これが本来のブースターの力か・・・あの頃はホントに私が駄目だったんだ)
アスカはクラッシュした時のブースターとは比べモノにならない今のマシンに
自らの落ち度を確認する事になる。
(フフッ、シンジやカヲルの言う通りだった訳だ)
130Rが迫り、ブースターを落とす。ウイングが元に戻ってフィンがたたまれる。
「そろそろ行くぞ、アベル」
ヘルメットを被っているアベルがゲンドウに頷く。と同時にG-EV-Mのコアが動き出す。
鈴馬サーキットのスタッフ駐車場に止まっていたトレーラーから出てきた
黒く輝くマシンは、サーキットでコアの作動音がする方に走り去った。


(ここは・・・ここは何処?この模様・・・変わってない天井の模様)
レイは目を開けた。起きたばかりで霞む目を手でこすりながら部屋全体を見まわす。
(??えっ!!)
レイは起きあがり両手のひらを見て、2回ほど握って開いてみる。
「動く・・・私の意志で手が動く」
そして足も動かしてみる。思う通りに動いてくれる事にレイは喜びを感じたのか、
「こんな気持ち、勝った時以来・・・」
そう言いながら体を何度も確認するように動かす。そんな彼女に聞き覚えのある声が
隣の部屋から聞こえてきた。レイは壁に張り付き、隣の会話に聞き耳を立てる。
「赤木博士、新しいコアの準備はどうかね」
「後は彼女を埋め込めば全て完了します」
「そうか、ご苦労。では後はレイをコアに埋め込めばG-EV-M-PTは完成か」
「はい」

「!!・・・・・」
レイは驚きを隠せなかった。2年前の彼女なら、特に動揺などしなかっただろうが、
今の彼女は生きることに意義を感じているし、自分の存在が感じられる生活も体験
している。自分という存在を大切に思い始めている。それ以前に彼女は消えたく
なくなっていた。2年前に初めて世界を知ってから今までの体験で2年前以前に
思っていた感情、「もう・・・消えたい」という意識は今の彼女には存在しなかった。
(コアに埋め込まれる・・・このままだと私はこの世から消される。
 私はまだやりたい・・・この目で色々な世界を見たい・・・)
レイはうつむきベッドのシーツを握りしめる。会長であるゲンドウが決めた以上は
もうレイにはどうする事も出来なかった。もうまな板の上の鯉である事は彼女にも
分かっている。何も出来ない。彼女の中に生まれて初めての絶望感が芽生える。
彼女の視界が滲む。液体が頬を伝わり、カードの上に落ちた。
レイはカードの上に落ちた液体を見る。
「これは・・・何?何故、液体が目から流れるの?」
彼女は生まれて初めての体験に困惑する。
「この気持ち、胸が裂かれるようなこの感じ、これは・・・何・・・」

「・・・・・・それにこれは・・・・・」
レイはベッドに無造作に置かれたカードを見るとそれがここEVIA施設の
マスターキーだということが分かる。
彼女は試しにキーロックにカードを通してみた。
『ピピッ』
(・・・開いた)
レイはここで迷う。
今までの全てを捨てるか・・・これからの全てを受け入れるか・・・
だが考えている暇はなかった。決断を今すぐ迫られる状況に彼女は置かれていた。


赤いEG-Mは絶好調でマシンがクイックに反応し、挙動も完璧だった。
「これなら最終戦!勝てるわ!見てなさいよシンジ、カヲル!トコトンまで
 チャンピオン争いを引っかき回してやるわぁ!」
アスカはS字コーナーでのあまりの反応の良さに上機嫌だった。
実際、マシンの挙動は最高だった。その頃1台の黒いマシンがスプーンカーブの
駐車場から出てきてサーキットを走り始める。そしてシケインの手前で進路を
右に急激に変え、サーキットをショートカットして逆バンクに出てきた。
「何?!あのマシン!!」
その黒いマシンはアスカが逆バンクに入ってきた時に、右に現れた。
アスカの右の視界にいきなり入ってきたマシンはそのままアスカの後ろについてくる。
彼女はバックモニターに写る黒いマシンを見て、1瞬トウジかと思ったが、トウジの
マシンなら横に白いラインが入っている筈である。今、彼女の後ろに追随するマシンは
黒一色のマシンであった。しかも形が少し違う。
「あれって・・・もしかして新型?だとしたら乗ってるのは彼?」
デグナーを抜けて立体交差の下をくぐった時にはもう真後ろまで接近していた。
『アベル、我々の実力・・・そいつに見せてやれ』
ゲンドウからアベルに通信が入る。アベルはディスプレーに写る様々な数値データを
瞬時に理解し走りに反映させる。彼にミス、スピン、単独クラッシュの文字は
存在しない。へアピンに進入する二台。アベルはアスカに対し、軽く牽制を入れる。
「やろうってんだ、この私と。面白いじゃない、新型の実力を見るいい機会だわ」
アスカは久しぶりに血がたぎる思いだった。今まで離れていたレース、
そして最高の状態のマシン、彼女が燃えない要素は無かった。
「よし!行くわよ!ついてらっしゃい!」
アスカは立ち上がりで思い切りアクセルを踏み込んでリヤタイヤをスピンさせる。
それが彼への返答であり、そのまま全開で走り出した。アベルは彼女のその行動に
心が躍る。と同時に彼女の走り方をデータ変換し始める。
「君の走り、堪能させてもらうよ」


第7戦Bパートに続く

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