NEONGENESIS GRAND PRIX
EVANFORMULA
第2戦 「熱き思い」
「ヒュウウウン」
1台の黒いマシンがピットに戻って来る。
漆黒のボディに白い稲妻が横に流れているカラーリングのマシンから出てきたのは鈴原トウジ。
今さっき予選3番手のタイムを叩き出した今年二年目の期待のレーサーである。
マシンから出てきたトウジにタオルを差し出したのは彼のチーム監督の洞木ヒカリ。
「どう、マシンの調子は?」
「まあまあやな。この前は最後でタイヤがスローパンクチャーのお陰で勝てたレースを落としてもうた。
今回は絶対に負けられへんで」
「・・・そう。でも無理はしないようにね」
「アホぬかせ。無理せんで金が稼げるかいな。ワシは金が欲しいんや」
その言葉を残し、彼はモーターホームへと消えていった。
モーターホーム内にあるトウジの部屋には写真がある。
彼の妹の写真が。トウジはその写真を手に取り、しばし眺めた後で呟いた。
「金がいるんや。こいつの為に金が」
シンジはマヤとピットで話をしていた。
今のシンジは12位、いまいちタイムが伸びて来なかった。
「シンジ君、コーナーはもっと突っ込まなきゃタイムは出ないわよ」
「わかってはいるんですが・・・」
シンジはこの前のクラッシュで恐怖を感じていた。
それが彼のドライビングにも影響していた。
その事をマヤも分かってはいたのだが、
こればかりは自分でどうにかしないといけない問題なのは分かっていた。
「まあいいわ。それより明日は初めてのレースなんだから、ビデオ見て研究する事」
「分かりました」
シンジは落ち込み加減の顔を引きずりながらモーターホームに向かう。
モーターホームに戻ると真面目にもビデオを見る。
だが頭の中では先ほどマヤと挨拶に行った時のことを思い出していた。
アスカの意地悪そうな顔がモニターに重なる。
「周回遅れになる時は右から抜かれたい?それとも左からかしら。
その前にリタイヤかなぁ?」
赤いマシン・・・アスカ・・・気に入らない奴
青筋を立ててひきつった笑顔の人・・・
「あぁら。この前はどーも。次あんなお痛したら分かってるわねぇ・・・」
青いマシン・・・ミサト・・・恐い人
睨み付けられた・・・
「・・・用はそれだけ」
白いマシン・・・レイ・・・・良く分からない人
唯一相手にしてくれたな
「そんなに堅くなることはないわ。リラックスしないと力を発揮できないわよ」
黄色いマシン・・リツコ・・・冷静な人
・・・やくざか?
「挨拶なんかどうでもえぇ。今忙しいんや」
黒いマシン・・・トウジ・・・鋭い性格の人
・・・何も言えない
「嬉しいね。マヤの方から会いに来てくれるなんて」
「え?あ、いえそうじゃなくて・・・」
派手なマシン・・加持・・・・Hな人
これが挨拶に行った際の第1印象であった。
=第2戦
イギリスGP シルバーストーンサーキット
決勝64周=
早くもスターティンググリッドに全車が並んだ。
隊列の先頭でシグナルを待つのはリツコ。
彼女は目の前に誰もいないサーキットを眺めながら口元をゆるませる。
「フフフッこの日の為に開発したトラクションコントロールの威力見せてあげるわ」
リツコの親指がスイッチを押し込む!
グクゥゥゥゥゥゥン!プスン!!シューー・・・・
リツコのマシンから白煙が上がる。
しかしグリーンフラッグは既に振られ、ツリーにランプはついている。
そして赤から青へランプが変った。
一斉にスタートを切る。が、白い煙を吐き出すリツコだけが動けない。
「・・・失敗?・・・無様ね、私・・・・・」
ミサトはリツコをバックモニターで眺めながら呟く。
「馬鹿ね、良く分からない物を無理してつかうからよ」
ミサトはトップで1コーナに入ろうとしていた、しかしその時!
レイがミサトのインに切れ込んで来る。まさにカミソリのような切れ味。
「邪魔や!どかんかい!!」
トウジもアウトに並びかける。
(だめね。ここは引いた方が得策か)
ミサトがそう判断し、減速しようとした瞬間!
「往生しいや!葛城ミサト!!」
トウジの黒いマシンがミサトの目の前を鋭く横切り、ミサトのフロントウイングに
黒いEG−Mのリヤホイルが接触する。
同時に吹き飛ぶ青いウイング。
(なっ!)
ミサトはフロントのダウンフォースを一気に無くし、
1コーナーを曲がり切れずにそのままなすすべなくコースアウトしていった。
サンドトラップに捕まり、ミサトのマシンのリヤタイヤが空回りする。
ミサトはレース続行を諦め、キルスイッチに手を伸ばす。
マシンが停止したのを確認すると、トライビングポジションから腕を抜きとる。
彼女は悔しさから思い切りインパネを殴りつけた。
(クッソォォォ。アイツウゥゥゥゥゥゥ)
1コーナーへはレイがトップ。2位トウジ、3位にはアスカが続く。
シンジは8位、なかなかのスタートであろう。
トウジは前を行くのがレイと知っている。後ろにはアスカが見える。
「なんぎやなー。前は下手に行けば飛ばされる。
後ろはブロックしたら後でうっさいしなあ」
とりあえずトウジはこのまま様子を見るつもりだ。
後ろでイライラし始めたのはアスカだ。トウジはいつまで経っても動かない。
(仕方ない。私が早目に行くか)
アスカはsin・Bに切換え、トウジを追い始める。
トウジもアスカのペースが変ったのがわかった。
彼は無用の勝負を避け、アスカを先に出した。
「ふふ、良い心がけね。ようやく分かってきたじゃない」
トウジの行動に彼女は上機嫌だ。
アスカの次のターゲットはレイ。だがレイは並んでも押し出してくる。
一気に抜かなくてはならない為、E−S・Cを使いたい。
アスカはレイの後ろで待機した。
彼女は抜く機会を探りながらシンクロモードをSin・Aに戻していた。
トウジも抜かれたとはいえ、彼女たちの後ろに続く。
27周目、シンジは前を行く日向を追っていた。なかなかの強者で、のらりくらりと
シンジをブロックする。シンジにしても接近するのが恐くて並びかけられない。
そんなシンジにマヤからの通信が入る。
「シンジ君、あと2周したらピットに入りなさい。このままじゃ時間のロスよ」
「わかりました」
シンジはマヤの言う通りにする。レース初心者のシンジに口出し出来よう筈もない。
同じ頃、トップ集団の3台はまだ順位は変らない。
「そろそろね、一気に行くわよー」
アスカは今までセーブして走ってきた為、まだEG−Mに余裕がある。
ここで飛ばしてピットアウトしても首位をキープしようとする魂胆だ。
トウジもこのアスカの作戦は読んでいる。彼は別の作戦を立て、実行に移した。
トウジは予定よりも3周早くピットレーンに向かった。
それをモニターで見た監督ヒカリはすかさずインカムのスイッチを入れた。
『ちょっと!鈴原?まだ早いわよ!』
『心配あらへん。全て計算ずくや』
トウジは問題無く作業を済ませてピットを後にする。
「さあて、これからやな。ぼちぼちいくで」
トウジはsin・Cに切り変えて、見えないトップを追撃し始める。
アスカはE−S・Cを使う。もうピットイン寸前だ。今しかない。
レイだって馬鹿ではない。アスカと同時に使った。
レイはアスカ同様の加速をして抜かせない。しかし・・・
「駄目ね。これ以上は」
レイのEG−Mのタイヤは限界に来ていた。ここでこれ以上の抵抗はレイに不利だ。
「でも、ただでは行かせないわ」
レイはマシンを右に寄せ、アスカに進路を譲るフリをした。それを見たアスカ。
「はん、無駄なあがきだったわね」
無警戒でレイのインに入っていく。
しかしコーナー手前でいきなり開いていたドアを締めた。
「なっ、何すんのよ!!」
アスカは接触を避けようと車体を半分、コース外にはみ出していた、が
アクセルはONにしたままだったのでスピンはしなかった。
アスカはレイの前には出たが、サスからバイブレーションが出ているのを発見する。
「くそっあの女。わざとやったわね」
アスカはそれでもSin・Cにして、後ろを引き離そうとペースを上げた。
レイはその周にピットに入った。
そしていざピットアウトしてみると、レイの脇をトウジがすり抜ける。
「いよっしゃあぁぁぁぁ!!!」
トウジはバックモニターに写るレイのEG−Mを見て大喜び。
「・・・・・・・・・・・」
レイは無言だ。
アスカは飛ばしに飛ばし、その後4周走った後にピットに入る。
赤いマシンが滑り込んできて停止位置に止めると、メカ二ックが作業を始める。
「早く、早く、早くしてよー、もぉー」
しかし、なかなか終わらない。サスのチェックをしている。
「よし、Okだ」
アスカは出た時にはトウジはおろかレイにも抜かれていた。
「くそー。あの女。よくもやってくれたわね。許さないわよ」
アスカはレイの後姿を見据えた。その目は明らかに怒りに満ちていた。
シンジはピット作業の巧さから、6位まで上がった。
ちなみに現在の順位は
1、トウジ 2、レイ 3、アスカ 4、加持
5、トンマ 6、シンジ
となっている。加持は今まで4位だったが、45周目にトラブルでリタイアした。
シンジはトンマの後ろまで来ていた。4位は目前である。
アスカはレイのすぐ後ろまで接近してきた。しかしレイもペースは速い。
抜きたくても抜けない。しかも先ほどのように押し出されないとも限らない。
(とりあえず爆弾女が鈴原を捕まえるのを待つか・・・)
60周目、レイがトウジに追いつく。当然アスカも後ろにいる。
「あと4周、譲る訳にはいかへんで」
トウジのEG−Mはレイ、アスカに比べると、明らかに疲労している。
ピットアウト後にSin・Cで走ったのが祟っている。
「次ね」
レイが呟く。と同時にレイのマシンが鋭く左に移動してトウジの真横に並びかける。
「無理や、アウトから抜けるわけないやんか」
トウジは呆れ顔だ。
コーナーが迫る。
トウジはブレーキングを極力遅らせた。
「限界や!」
トウジは減速に入ったが、レイはそのままブレーキを使ってないのか
トウジの前に出る。
「な!無茶や!曲がりきれん!死ぬ気かいな!」
案の定、レイは曲がりきれずにコースアウトした。
が、ショートカットしてそのままコースに戻る。
そしてトウジの前に出てきた。
「な、何してるの?アイツ??」
アスカが呆れるのも無理はない。
「かなわんな・・・あんな走りされたら・・・」
トウジも呆れる。
次の周回でレイにコーナーショートカットのペナルティーフラッグが出る。
10秒のペナルティーピットストップをしなければならない。
「・・・どうして・・・」
レイにはルールなぞ存在しなかった。
そんな落ち込み加減の彼女に通信が入る。
「ピットインしろ、レイ」
「・・・はい」
「でもまあいいわ。1人減ってやりやすくなったからね」
アスカにとっては好都合である。もうあと2周しかない。早めに捕まえたい。
「ここまで来て負けられるかいな」
トウジも気合を入れ、アスカを押さえることに専念する。
既に後ろのレイとはかなりの差があり、アスカを前に出さなければ優勝できる。
「鈴原のマシンはもうヘロヘロね。悪いけど行くわよー」
アスカはSin・B、E−S・Bに切り替えて、トウジを追いつめる。
トウジはSin・A、E−S・Aで走っている。
残り1周トウジは前にいる。いたる所でアスカはプッシュする。
トウジは辛うじて押え込む。トウジのマシンは悲鳴を上げコーナーではタイヤがスライドする。
疲弊したマシンを必死で操るトウジ。
「負けられへん・・・アイツのためにも・・・絶対に負けられへんのや」
トウジの気持ちが言葉になる。
それをインターカムでヒカリが聞いていた。
(鈴原・・・頑張ってね・・・勝ってきて・・・)
祈るように目を閉じるヒカリだが、ヒカリは何か勘違いしているようだ。
「最終コーナー、立ち上がりが最後のチャンスね」
アスカはマシンをアウトに寄せる。
「アマイで、惣流。作戦がばればれや」
とは言ったもののトウジがラインをアウトには振れないのはアスカにもわかっている。
インを開けるのは自殺行為であるから。
トウジはミドル・イン・インとトレースしようとした。
アスカはアウト・イン・インだ。
トウジは勝利を確かなものとするために
(悪いな、惣流。これも妹の為や。堪忍してや)
最終コーナー進入。
トウジとアスカは同時にクリップを通過、その時
トウジが急制動を駆ける。アスカの目に黒いマシンのテールが大きくなる。
「な!」
アスカもトウジと同様に制動を駆けた瞬間にトウジは加速に移った。
が、アスカはそこらのヘボレーサーとは違った。
トウジのこの後の行動を予測し、ギリギリでインに潜り込み、
E−S・Cに切り替えていた。
これはアスカがマシンの余力を残していたからこそ出来た事だ。
トウジも加速に入った瞬間からE−S・Cに切り変え、最後の加速に移る。
この時点で2台のEG−Mは横一線になった。が
トウジの方が早くに加速出来ていた。
「鈴原」
ヒカリはトウジに声をかける。
「なんや、なんか用かいな」
「・・・おしかったね」
「アホぬかせ!勝てなきゃ惜しいもなにもあらへん!」
更に
「勝てば今の倍の金が入ってきたんや。勝たなあかん」
トウジは遠くを見て言った。
だがヒカリは頬を赤らめて
「でも・・・また頑張ってくれるよね?・・・「アイツ」の為に・・・」
と言うと後ろを向く。もう顔は真っ赤だ。
「あたりまえや。アイツが今のワシの全てやからな」
トウジはそのまま帽子を深々とかぶると表彰台へと向かった。
=第2戦
イギリスGP 決勝リザルト=
1、惣流アスカラングレー
2、鈴原トウジ
3、綾波レイ
4、碇シンジ
以上4名がポイント獲得。
=ポイントランキング=
1、鈴原トウジ 12P
2、葛城ミサト 10P
惣流アスカラングレー 10P
4、綾波レイ 6P
5、碇シンジ 1P