written on 1996/5/12
/青葉シゲル(SHIGERU AOBA)
/ネルフ本部中央作戦司令室付オペレータ
/階級:二尉
/担当:通信・情報分析
/趣味:ギター
/現在独身。特定の彼女なし
ネルフ本部
中央作戦室(別名:第一発令所)
深夜
「ピピッ」
メール着信を知らせる電子音が、青葉の意識を浅い眠りから引き戻した。
うかつにも睡魔に負けていた事に気づいて、青葉は素早く計器類をチェック
する。
異常は、ない。
作業を行いながら、視界の隅で伊吹二尉が作成した「ぺんぎんくろっく」を
確認する。
モニターの中でかわいらしく踊る時計は午前3時を指していた。
「くぁぁ」
青葉は一つ大きなあくびをすると、首を回しながらタッチパネルへと手を伸
ばした。
0.01秒で指紋が認識されウインドウが開く。
『シゲル、寝てんじゃねーぞ。やっと打ち合わせ終了。
そっち行くから、何か買ってきて欲しかったら、
着替え終わるまでにメールいれといてくれ』
作戦課の打ち合わせに出席していたマコトからだった。
青葉は缶コーヒーを買ってきてくれるようメールに書き込むと、発令所の状
況を確認するため、椅子から身を離した。
さすがに夜番は人が少ない。
これまでの経験による確率論的なモノか、それとも何か確証があるのかはわ
からないが、碇司令は昼間に比べて夜は少ない人数しか配置しない。
そして今までのところ、何も問題は起きていなかった。
手すりから身を乗り出すと、下の方で何人かのオペレータが端末に向かって
いるのが目にはいる。
青葉よりも年下が多く、経験よりも反応速度、最新技術への適応力を重視し
た構成になっている。
ただ、こんな実験も何もない夜にやることといえば、他のネルフ支部との定
時連絡、あるいは計器類のチェックくらいで、みな身を持て余しているようだ。
異常は全くなかった。
青葉が自分の席へ戻ろうとした振り返った時、奥のドアが開いて日向が姿を
現した。
ジーンズにポロシャツというラフな格好に、売店の袋を下げている。
「早かったな」
日向は答える代わりに、缶コーヒーを投げてよこした。
「ほい」
「さんきゅ」
缶を両手でキャッチすると、青葉は伊吹二尉の席の横に置いてある冷蔵庫に
歩み寄った。
「お、今日もあるの?」
自分の席についた日向は、缶コーヒーを一口すすると訊ねた。
「ああ。いつもありがたいことで・・・っと」
青葉は冷蔵庫の中から伊吹二尉が夜食用にと作って置いてくれたサンドイッ
チを取り出した。
日向が満面に笑みを浮かべる。
「マヤちゃんお手製のサンドイッチ。おれ、好きなんだよな〜」
「おあいにくさま。一人前しかないんだよ。残念だったな」
「そ、そりゃないだろ! なぁ、一切れでいいからさ」
青葉はこの前のことで日向に少しだけ後ろめたさを感じていた。
「しょうがねぇな。一切れだけだぞ」
「おっけー、おっけー。さすが青葉様、話がわかる」
「で、打ち合わせどうだった?」
青葉はパックを開けながら、訊ねる。
「今日は葛城さんの機嫌が良くてさ。俺、褒められちゃったよ」
サンドイッチが一切れ、日向の手に渡った。
「へー。だったら一緒に帰りゃ良かったのに」
「ばーか。できたらそうしてるさ。何を好きこのんで、こんなとこにくるかっ
ての」
「ってことは、加持さんか?」
「あぁ」
少し寂しそうに日向はツナサンドを口に運んだ。
二人はしばらく無言でサンドイッチをパクつく。
その時、突然明るい光が二人を照らした。
光は、メインモニターの方からだった。
驚いて立ち上がった二人の目には、なぜか、素っ裸の美女の姿が映っていた。
ホログラフモニターで、くねくねと、安っぽいポルノビデオみたいに踊って
いる。
やっぱり金髪でグラマーだ。
高精細のホログラフだけに、そのリアルさは半端じゃない。
同時に、下の方から笑い声と、口笛とが、交錯して聞こえてきた。
「おおっ、すっげー。じゃなくて、誰だ、いったい?」
青葉が苦笑しながら言う。
「きっと、アキラだな。こんなバカやるのは」
日向が今年ネルフに入ったばかりのB級オペレーターの名前を出して、素早
く端末をチェックしはじめた。
「やっぱりな」
ホログラフモニターのアクセスユーザーがそれを示していた。
とりあえず現時点での、この発令所の責任者である青葉は、義務として忠告
を発することにした。
「おーい、まだ赤木博士が残ってるんだからな。モニターされてたら営倉行き
きは確実だぞ」
日向が続ける。
「司令と、副司令はいないけどな」
「了解ッ!」
下の方から、発令所全体に響きわたるような大きな返事が聞こえた。
「はぁ?」
何が了解なんだか、と、青葉と日向は顔を見合わせた。
しばらくすると、今度はかわいい子猫達がじゃれあう光景がホログラフモニ
ターに映し出された。
隅っこに日付が記載されているのを見ると、家庭用の3Dビデオで撮影され
たもののようだ。
画像は荒い。
だが、思わず見入ってしまう自然な子猫達の姿が、そこにはあった。
「あのバカ」
二人は頭を抱えて笑った。
発令所全体が、柔らかい空気に包まれる。
ビー、ビー、ビー!!
その時、突然、緊急警報が発令所の空気を切り裂いた。
一瞬にして、空気が張りつめ、発令所全体が騒然となる。
「使徒!?」
青葉が司令への緊急連絡回線を、日向が葛城一尉へのそれを開こうとしたと
き、突然警報は止んだ。
聞き慣れた女性の声がスピーカーを通して流れてきた。
「なんてこともあるから、あまり気をゆるめすぎないようにね。
差し入れ持っていってあげるから」
発令所に安堵の溜息が満ちていき、そして、どこからともなく笑い声が起き
る。
この奇妙な連帯感。
深夜のこんな時でなければ味わえない、ちょっとしたスリルと、意外な素顔。
何だか得した気分になれる。
青葉は端末に手を伸ばした。
キーボードを滑らかに、親しみを込めて、叩く。
『リっちゃん、愛してるゼ!!(チーズ鱈、ヨロシク)』
メインモニターにでかでかと映し出された文字は、もちろん赤木博士の研究
室にも届いていた。
「ったく」
頬杖をつきながら、ディスプレイを眺める金髪の女性。
しらず笑顔がうかんでくる。
「ま、たまには、息抜かなきゃね」
リツコは端末をスリープさせると、軽い足取りで部屋を出た。
<おわり>
古い作品で恥ずかしいのですがほぼそのまま掲載しました(汗)
日常の一コマ。リツコさんの知られざる素顔ってところでしょうか
夜勤や徹夜で仕事してる人、少しは共感してくれるかなー・・・
次回は新作で花火ネタを書いてみたいけど、ちょっと時間がかかるかも