「目標内部に高エネルギー反応!!」
 「なんですって!!」
 ミサトが驚いて青葉に向き直る。
 「周円部を加速!!収束していきます!!」
 「・・・まさかっ!!」
  リツコは使徒の正体とその恐ろしい武器に気づく。

 「だめっ!!よけてっ!!!」

 「「えっ?」」

 ミサトは警告の叫びをあげるが、いまだ安全装置で固定されたシンジ達は動くことができなかった。
 そこに出てくるのを知っていたかの様に使徒から超高出力の加粒子が発射された。アロザウラー前方のビルを蒸発させて、その胸部へ命中する。瞬間的な膨張による炸裂音と、物が瞬時に溶けていく不快な音がシンジ達の耳を聾した。
 プラグ内のLCLが沸騰してゆき、マナの瞳孔が開き、彼女の顔が苦痛にゆがむ。

 「きゃあああああああああああああああ!!!!!!!」

 発令所にマナの絶叫がひびいた。



 「戻してっ!!早くっ!!!」

 ミサトの絶叫と共に胸部装甲を吹き飛ばされ、コアであるゾイド生命体を露出させたアロザウラーが収容される。
 固定されたまま地面に潜っていくアロザウラーを追いかけた光線が地面に命中した。同時にアロザウラーが数秒前まで立っていた位置に爆発が起こり、発令所の主モニターが爆煙とノイズに覆われた。
 ノイズ混じりのモニターを見ながら青葉が叫ぶ。
 「目標完黙!!」
 「ゴジュラスを直ちに戻して!!このままじゃ霧島さんの二の舞よ!」


 ミサトが退避命令を出した時にはゴジュラスは最終安全装置から解放されていた。装置が外れたのではなく、無理矢理引きちぎったのだ。シンジはそのまま使徒へ攻撃を行おうとしていた。ゴジュラスの怒りに引きずられるように。
 ゴジュラスの右腕に装備された戦車砲を上回る威力の4連速射砲が火を噴く!
 だが、その砲弾は使徒に命中する寸前、忽然と現れた光り輝く6角形の壁によって全て防がれてしまう。
 「ちくしょう!何で効かないんだ!?」
 全弾撃ち尽くされた速射砲を放り捨てながら、ゴジュラスは雄叫びをあげた。使徒は依然不気味な光を放ちながら宙に浮いている。シンジは遠距離攻撃ではらちがあかないと判断して、使徒へ接近戦を仕掛けようとした。
 シンジの指令を受けゴジュラスが前傾姿勢になり、高速移動モードへと変形する。
 そのまま、使徒に向かって走り出そうとするが、

 「だめよ、シンジ君!ゴジュラスの装備じゃ使徒には勝てないわ!ここはいったん退いて!!」
 「でも、マナが!ミサトさん!行かせてください!!」
 「命令よ!!戻りなさい!!」
 だだっ子のようなことを言うシンジの考えがミサトには、手に取るように分かった。できれば彼女もシンジの好きにさせてやりたかったが、それでは決して勝てないことも分かっていた。そして負けたとき、自分が後ろのユイにどんな酷い目にあわせられるかも分かっていた。
 「くっ!・・・わかりました」
 
 ミサトの命令に従いゴジュラスは射出口に進路をかえた。言うことを聞いてくれて内心、ホッとするミサト。
 だが、数歩と進まないうちに再び使徒の中心が光り出し、加粒子砲を発射された。一転してミサトの心の中には恐怖の嵐が吹き荒れる。
 とっさに横に飛んだゴジュラスだが、さすがに全ての攻撃を回避することは不可能だった。
 後を追って動く光線の射線が、ゴジュラスの右腕をかする。
 加速された粒子(おそらく電子)の持つ天文学的なエネルギーによって、一瞬のうちにゴジュラスの右腕が蒸発し、その爆発によって500t以上ある巨体が吹き飛ばされる。
 その破壊力の前にはゴジュラスのATフィールドも全くの無力だった。
 右腕の付け根から体液を、口から苦痛の悲鳴をあげながら、いくつかのビルを巻き添えにして地面へ激突するゴジュラス。あまりの苦痛にシンジの意識は途絶えた。動かなくなったゴジュラスに、使徒が再度狙いを付ける。
 だが、吹き飛ばされたところが運良く射出口直上だったため、発射寸前にゴジュラスは回収された。
 ゴジュラスが消えた一瞬後、大爆発が起こり監視モニターが破壊された。





 「シンジ君!大丈夫!?」
 ミサトが回収されていくゴジュラス内部のシンジに問いかける。
 だが、返答はなかった。内部カメラも電磁波によって破壊され、中の様子は分からない。
 ミサトは焦りのあまり、真っ暗なモニターを見ながら爪を噛んだ。
 ゴジュラスは右腕が消し飛び、右半身全体が高熱によって焼けただれていた。いくら装甲によって覆われているとしても、本体部分へのダメージはさけられないだろう。本体部分が受けたダメージは、そのままパイロットに跳ね返るのだ。シンクロ率が高いほどうまく操作できるようになるが、パイロットへのダメージも大きくなる。シンジの現段階のシンクロ率は50%ほどで決して高いわけではないが、低いわけでもない。
 故にミサトの問いは恐怖に震えていた。

 (シンジ君、死なないで!)

 シンジからの返事は無かったが、代わりに生き残った装置をモニターをしていた日向が答える。
 「パイロット心音、脳波ともに安定していますが意識不明!」
 「直ちに医療班を呼んで!」

 「シンジ君はとりあえず大丈夫ね。あ、そうだ・・・・霧島さんは!?」
 ミサトはホッとため息をついて、椅子に座りかけるが慌てたように立ち上がって先に回収されたマナの容体をたずねた。シンジのことにかまけてマナのことを忘れていたらしい。
 自分自身のあまりに露骨な反応に嫌悪を覚えながらも、ミサトが日向の席の後ろから噛みつくように聞く。
 「脳波異常、心音微弱!」
 「アロザウラーは第7ケージに回収しました!」 
 日向とマヤの報告を待たずに、ミサトは個人用エレベーターに乗り込み素早く発令所を離れた。
 「ケージに行くわ!リツコ!救護班に緊急処置の用意をさせて!!」
 「とっくに用意させてるわよ!」 
 リツコが怒ったようにミサトに言った。


<シンジが回収される1分前>

 未だにLCLが泡立つプラグ内ではマナが気を失っていた。口や鼻、耳などから血を流しており、それがうっすらとLCLに混ざっていく。
 「パイロット脳波乱れてます!!心音微弱!!!いえっ停止しました!!」
 「生命維持システム最大にして!心臓マッサージを」
 「はい!!」
 日向の報告を聞いたリツコは素早く対処をたてる。
 激しい電流が流れ、マナの身体が跳ねる。
 だが、その鼓動は回復しない。
 「もう一度!!」
 再び電流が流され、マナの体がけいれんする。マナの指がピクリと動いた。
 「パルス確認!」
 「プラグの強制排除。急いで!」
 強引に機械のアームによりプラグ挿入口のカバーがこじ開けられ、プラグを引き出される。
 すさまじい高熱により、プラグ周辺の空気が揺らいでいる。その光景を見て取ったリツコが次の命令を出す。
 「LCL緊急排水!」
 「はい!」
 マヤが素早く操作を行い、エントリープラグに開けられたLCL排出口から勢いよく沸騰したLCLを吹き出させる。
 次いでプラグのハッチが開き、中から蒸気が吹きあがった。続いて、寸分の遅れもなく、マニュピレーターが座席ごとマナを回収する。
 駆けつけた救護班とムサシ達が声をかけるが、マナはいっさい反応しない。そのまま緊急処置室へと運ばれていく。

 その直後、ゴジュラスが第7ケージへと回収された。
 先ほどのマナと同様に救護班の手によって、手早く緊急処置室へと運ばれる。
 直後、ケイジにたどり着いたミサトはケージで待機していたアスカ達共々、手術中のランプがつく緊急処置室の扉を見ることしかできなかった。


 シンジとマナをいとも容易く撃退した使徒は、ふよふよと第三新東京市上空を飛んでいた。ユイ達も意味のない攻撃をせず、使徒の次なる行動を把握しようとしていた。
 第三新東京市のほぼ真ん中まで飛来したとき、使徒は突然底部から巨大なドリルを伸ばすと地面へと突き立てた。そのまま地面をえぐり始める。アスファルトが、大地がえぐれ、不快な騒音が響いた。
 青い結晶のような体を太陽の光に輝かせながらのその行動は、使徒のネルフに対する勝利宣言のように思えた。

 「ここへ直接攻撃を仕掛ける気ね・・・。そんなコトさせるもんですか」
 断じてそんなことを許すわけにはいかないユイ達は、司令席で使徒の映像を睨み付けていた。




新世紀エヴァンゾイド

第伍話Aパート
「決戦! 第三新東京市」



作者.アラン・スミシー



<ネルフ本部作戦課>

 「ゴジュラスと使徒との戦闘データ、戦自から提供されたデータ及びこれまで採取したデータによりますと、目標は一定範囲内の外敵を自動排除するものと推測されます」
 作戦会議室で日向が報告する。
 ミサトは半分寝っころがるような姿勢で椅子に深く腰掛けていた。手ではペンをもてあそびとても真面目そうには見えないが、その目は真剣である。故に周りの彼女の部下達は、取り乱すこともなく彼女の言葉を待っていた。
 「エリア侵入と同時に加粒子砲で100%狙い撃ち。ATフィールド中和可能なゾイドによる近接戦闘は無理というワケね・・・。
 シンジ君が身をもって示したとうりね」
 ミサトの額にしわができた。忌々しそうに、使徒の写真を睨み付ける。死ねと言わんばかりに。
 「敵のATフィールドは?」
 ミサトの質問に名も知れぬ作戦部職員が報告する。
 「健在です。相転移空間を肉眼で確認出来る程、強力な物が展開されています」
 「攻守ともにほぼパーペキ。まさに難攻不落の空中要塞ね・・・。まったく、マク○スじゃあるまいし冗談じゃないわ。で、問題のボーリング・マシンは?」
 「現在、目標は我々の直上、第三新東京市0エリアに侵攻。直径17.5mの巨大ドリル・ブレードがネルフ本部に向かい穿孔中。第2装甲板まで達しています」
 「敵はここ、ネルフ本部へ直接攻撃を仕掛けるつもりですね」
 「本部への到達予想時刻は?」
 「明朝、午前00時06分54秒。その時刻には22層、全ての装甲防御を貫通して、ネルフ本部へ到達するものと思われます」
 その報告に、ミサトは爪をかみながら時計を見る。
 「あと10時間たらずか・・・」
 そのまま厳しい目をして、空を睨んでいたが、突然起きあがると通話機を手に取り、第7ケイジにいるリツコと連絡を取る。

 「赤木博士。Gの状況は?」
 「右腕消失、胸部第3装甲板まで見事に融解。でも機能中枢をやられなかったのは、不幸中の幸いね。
 三時間後には換装作業終了予定よ」
 胸部装甲板が取り外され、内部のゾイド生命体を露出させたゴジュラスを眺めながらリツコが答える。彼女は平然としているが、横に立っているマヤは剥き出しになり、ミディアムに焼かれた生体組織に嫌そうな顔をしていた。

 「わかったわ。で、アロザウラーのほうは?」
 先ほどとうって代わって、心底疲れきった顔でリツコが答える。
 「ゾイド生命体が露出するぐらいのダメージを受けているわ。パイロット共々死亡しなかったのはまさに奇跡ね」
 「あと3秒照射されていたらアウトでしたけど・・・」
 リツコの隣でマヤが言葉を付け足す。そんなことになったらユイがどんなに荒れるか・・・それを想像して改めてマヤは青い顔をした。
 「いずれにせよ、戦闘は無理よ。霧島さんは重体で未だ意識不明。今動かしたりしたら死んでしまうわ」
 「となると、実戦に使えそうなゾイドは何体あるのかしら?」
 ミサトの質問に待ってましたとばかりに答えるリツコ。どうも言いたくてたまらなかったらしい。
 「とりあえず、ゴジュラスね。それから、レイのサラマンダー01。後5時間もすれば翼と武器の取り付け作業が完了よ。
 それと、これは作戦部にも秘密にしていたけど、アスカが『こんな事もあろうかと』思って封印をといておいたゾイドの起動に成功したわ。とりあえず、この3体ね。あの使徒との戦いに耐えられそうなのは」
 そこまで言うとリツコは嬉しそうにニヤリと笑った。甚だしく不気味で不安だが、最近徹夜続きで精神的にも不安定だったから無理ないかもしれない。
 「ちょっと!作戦部に秘密ってなんのコトよ!?あんたそんなこと極秘に進めてたっていうの!?」
 リツコの様子に気がつくはずもないミサトが、あんまりと言えばあんまりな報告にこめかみに青筋を浮かべながら抗議する。もしリツコがニヤリ笑いをしている事を知っていたら、決して抗議はしなかっただろう。なにしろ長いつきあいだし。
 「甘いわね、ミサト。『こんな事もあろうかと』
 これを言うのは科学者にとって最高の名誉でもあるのよ」
 ミサトの言葉を起爆剤に、目があっちの世界を向きだしたリツコ。リツコのニヤリ笑いにあてられたのかマヤから声援が飛んだ。
 「きゃーーーーーーーー!先輩!!素敵ですーーーーーーーー!!!」
 「あ、あ、あ、あんた馬鹿ーーーーー!?」
 親友の精神状態に気がつかなかった自分の失策と、リツコの狂態に気が遠くなるのを感じながらも、どっかの誰かのような科白でミサトが絶叫した。気持ちはわかるが。





 気を取り直して、ミサトが日向にシンジの容体を尋ねる。
 「身体に異常はありません。神経パルスが若干不安定ですが許容範囲内です。今はまだ薬で眠っています」
 先ほどのリツコの狂乱にすっかりと脱力していたミサトは、本気でモノを考えようという気が失せていた。
 「ふ〜ん。それで・・・どうしよっか?」
 「ど、どうしようかって、そんなこと言われても」
 はっきり言ってあわてる作戦部一同。彼らは改めてミサトの部下であることに不安を抱いた。そしてミサトを幹部にしているネルフという組織に、そのトップのユイに。何より、こんな危ない組織に未来をゆだねないといけない人類に。

 「白旗でも揚げますか?」
 なんとか場を和ませようと日向が冗談を言う。彼としては精一杯のユーモアのつもりだった。
 だが・・・
 「ナイスアイディア!その調子で日向君、良いアイディア出しといて。お願い♪」
 日向の言葉を聞かなかったことにしていきなり全責任をおっかぶせようとするミサト。その目はマジである。日向は血が音を立てて頭から足に流れ込んでいくのを感じた。
 ミサトを正気づかせないといけない!そうしないと俺がやばいんだ!!
 日向は必死になって抗議の声をあげた。
 「無理です!そんなことやったことありますけど、こんな状況じゃ、何より僕じゃ絶対無理です!できるわけありません!!」
 「リツコから説明を受けて♪」
 「説明を受けてって言われても・・・」
 そのもっともな日向につっこみにむっとするミサト。実のところ早くシンジのお見舞いにいきたいのに、ここで足止めされていることで、かなりイライラしている。それを邪魔する者は全て敵。今のミサトは抜き身の刃。触る者皆傷つける。
 「作戦を立てるなら早くしなさい!そうでなければ帰んなさい!!」
 キれたミサトからのあんまりな言葉に、日向はあっちの世界に旅立っていった。そのまま嬉しそうな顔をしたまま、うっすらと笑いを浮かべる。
 「いいんですよ。貴女と一緒なら・・・」
 さすがに日向の様子がおかしいことに気づいたミサトはその横っ面をはたくが、まるで反応がない。往復10回ほどビンタした後、まったく反応が返ってこないことを確認すると、ちっと舌打ち。ミサトの日向への好感度マイナス1
 「あちゃ〜、ちょっちいじめすぎたかしらね〜。
 しょうがないわ、自分で考えましょ。はあ、何でこんなに忙しいのよ。うっ、うっ、シンちゃ〜ん。お見舞いできなくてごめんね〜!!」
 そのまま日向の事を頭の中からきれいさっぱり忘れると、早くシンジのお見舞いをするために必死にない知恵を絞り始めた。
 ((((なら最初からそうしろよ!!)
 職員達が心の中で一斉に突っ込み。もちろん音に変換するほど命知らずはいないから、ミサトは気づくこともなかったが。
 机に座ってうんうん呻るミサトをしり目に、心配そうに日向の周囲に集まるその他の職員達。あまりの哀れさに涙を拭いながら、そっと日向を抱えて医務室まで運んでやった。幸いというか誰も注意をしなかったが、もしその時耳を澄ませば、彼のつぶやきが聞こえて、より多くの涙を誘ったことだろう。
 「いいんですよ。貴女のためなら・・・」



<ネルフ本部発令所>

 「目標のレンジ外、超長距離からの直接射撃?」
 「そうです。目標のATフィールドを中和せず、高エネルギー集中帯による一点突破!!それしか道はありません」
 ナオコの呆れ返った返答に、ミサトは自信満々な表情で答えた。
 「本当?」
 だがナオコは呆れた表情を変化させることもなく冷徹に聞く。その口調から、ミサトは自信のない問題を教師に質問されてしどろもどろになった大学時代の事を思い出していた。その時はリツコが助けてくれたが、今はいない。ミサトは孤立無援なことをひしひしと感じて、胃がしめつけられるように痛くなっていた。
 「た、たぶん・・・」
 「どっちなのよ?」
 「えっと、他にもあるかもしれないですけど、もう時間もないし・・・これで良いかなあと」
 愛想笑いを浮かべながら、教授にレポートのおまけをお願いする生徒みたいな顔をするミサト。ナオコの眉がつり上がった。
 「MAGIはどう言っているの?」
 「スーパーコンピューターMAGIによる回答は、賛成2、条件付き賛成1でした・・・」
 実はMAGIの回答を聞いて自信満々で作戦を報告したのだが、MAGIの親玉たるナオコの返答を聞いてミサトは完全に自信を失っていた。気分は落第の宣告を受ける直前の学生。学生時代の締めつけるような雰囲気を肌で感じて、ミサトは懐かしむより泣きたくなっていた。トホホな顔をするミサトに、ナオコは確認をする。
 「勝算は8.7%ね・・・」
 「・・・もっとも高い数値です」
 「自信満々ねぇ」
 消え入るような声でミサトはナオコに言った。嫌みったらしくナオコが言い返す。とたんにミサトの体がビクッと震え、おずおずとナオコを、次いで何も言わずに見下ろしているユイに視線を向けた。報告するまではナオコの言葉通り自信満々だったが、今のミサトは自分の馬鹿さ加減と楽天的な性格に吐きそうになっていた。

 (うっうっうっ・・・リツコ〜助けて〜。あんたのお母さんが私をいじめる〜・・・・・・や、やだ、何でこんな時にあのバカの顔が浮かぶのよ)


 「ユイ・・・。いいの、こんな方法で?
 もっと他にいい方法があるかも、いえきっとあるわ!逃げちゃだめよ!」
 キョウコが下で泣きそうになったかと思えば、急に怒ったような顔をするミサトに怪訝な顔をした後、ユイに必死の形相で話しかけた。だがユイは目を閉じ、口の前で手を組むあのポーズを取ったまま固まっている。何かを一生懸命考えているようだ。
 かなりの長考をした後、ゆっくりとユイは言葉を返した。
 「確かに無茶苦茶な作戦ね。でも、他に方法も時間もなさそうね。それに、日本にはこんな諺があるわ。
 『無法、天に通ず』
 ・・・・・・・葛城一尉、思う存分にやって。  大丈夫、私達はきっと勝つわ。生きようとする意志がある限り。たとえ、どんなに絶望的な状況になっても」
 ユイははっきりと作戦にGOサインを出した。迷っていても仕方がないから。
 彼女の目には迷いがなかった。


<ネルフ本部・ゾイド武器庫>

 「しかし、また無茶な作戦を立てたものね。葛城作戦部長さん」
 心底呆れ返ったように言うリツコ。どうやら再び現世に復帰したようで一安心である。
 「無茶とはまた失礼ね。残り9時間以内で実現可能、おまけに最も確実なものよ」
 リツコの言いように反論するミサト。先ほどまでは泣きそうにしていた彼女だが、今はとにもかくにも作戦が認められたので自信を回復していた。きっと彼女は、努力はするがしなくて良い努力は決してせず、試験の後は『後は野となれ山となれ』と遊ぶタイプだったに違いない。
 ともあれリツコに無茶と言われて、ミサトは憤慨していた。先のナオコへの恨み辛みがこっちに向いたのかもしれない。
 あんたにだけは言われたくない!はっきり目はそう言っていた。
 その視線をさらりと受け流してリツコが続ける。
 「これがね・・・。でも、うちのポジトロンライフルじゃ、そんな大出力は耐えられないわよ?どうするの?
 ・・・まさか、アレの封印を解くとか言わないでしょうね?」
 「そんなワケないでしょう。アレの封印を解いたりしたら、使徒は倒せてもジオフロントも壊滅よ。
 そうじゃなくて、借りるのよ」
 「借りるって・・・まさか」
 ミサトの考えていることを理解し、にやりと笑い返すリツコ。横にいたマヤはそのニヤリ笑いをまともに見て腰を抜かした。
 「そ、戦自研のプロトタイプ・・・て、どうしたのマヤちゃん?」
 「あ、あわわわ・・・」
 「どうしたのよ?おかしな子ね」
 「まあ、マヤちゃんが変なのは昔からだし・・・そう、戦自のアレよ」
 マヤに怪訝な顔を向けるが、ミサトもまたにやにやと笑い返す。マヤは今更ながらネルフがとんでもない組織だと、化け物屋敷みたいな物だと理解した。だが自分もその一員だということは理解しなかったが。
 「第伍使徒のデータを持ってたくせに、私達にすぐ伝えなかった戦自に対するお仕置きね。
 なかなか、うまいこと考えるじゃない。見直したわ。ミサトにしては上出来ね」
 ニヤリ。
 「ミサトにしては、は余計でしょ」
 ニヤリニヤリ。
 「とにかく、戦自のせいでシンちゃんと霧島さんが余計なケガしたんだから、思い知らせてやんないと。もちろん、その後でライフルは返してや〜んないっと」
 ニヤリニヤリニヤリ。
 マヤが引きつけを起こしている横で、ネルフのダーティ・ペアは大笑いをしていた。



<戦略自衛隊つくば技術研究本部・第4待機格納庫>

 「以上の理由により、この自走陽電子砲(ポジトロンライフル)は本日15時より地球防衛隊ネルフが徴発します」
 びしっと決めたミサトが書類を突きつけて担当研究員に告げる。研究員はミサトのオーラに何も言えずに一歩後退。
 「かと言って・・・そんな無茶な」
 「可能な限り、原型を留めて返却するよう努めますので」
 無い勇気を振り絞って反論する研究員。だが、それは獅子に挑む蟻同然だった。つまりは全くの無駄。
 じろりと一睨みで研究員を黙らせると、返す気なんて全くないくせに書類を突きつけ話を進めるミサト。結婚できないのも宜なるかな。
 「では、ご協力感謝致します。いいわよ、ムサシ君、鈴原君!
 やぁっておしまい!!」
 「「あらほらさっさ〜!」」
 悪の組織の女幹部みたいなミサトのかけ声とともに、格納庫の壁が外側から突き破られ破壊された。未知の金属製の爪が、拳が壁を突き破り大穴を空ける。急に気圧が変わったことで風が吹き、ミサトの髪を、研究員の白衣をはためかせる。そして風と共に中に入ってくる未だ傷だらけのベアファイターと、初登場のゴリラ型ゾイド、ハンマーロック。
 研究所の軍人も研究者も大口開けて固まった。
 そんな彼らを無視して、えっちらおっちらライフルを担ぐ2体のゾイド。何とも牧歌的な光景にミサトはクスッと笑った。
 「精密機械だから、そうっとねん♪」

 「うわ、こら結構重いわ」 
 「やっぱり委員長のマンモスなしでリニアまで運ぶのは無理だったな。俺達だけじゃ途中で倒れる」
 顔の横に写るモニターの加重情報を見てトウジが呻く。ムサシも同様に愚痴をこぼした。
 ぺちゃくちゃ喋りながら、ライフルを抱えやすいように持ち直すゾイドの背後、穴の向こう側には山のようなマンモス型ゾイド、ゾイドマンモスと雷竜型ゾイド、ビガザウロがこっちに向かってきているのが見えた。研究員の顎がかくんと落ちた。

バキバキバキ!!

 完全に格納庫をぶちこわすと中に入ってくる、大型ゾイド。もう周囲のことなんか気にもしていない。ミサトの背後で主任研究員が泡をふいて倒れたが、誰も助けようとしない。それどころではなかったからだが。
 「二人とも、無駄話してないで早くしなさいよ!週番でしょ!」
 「しゅ、週番は関係ないけど、委員長の言うとおりだよ。今から全速で走ってぎりぎりなんだよぉ」


 マンモスが鼻を絡めてライフルを持ち上げ、ビガザウロのカーゴに載せるのを見ながらミサトが満足そうに頷いた。日向の代わりについてきた青葉が、素朴な疑問を口にする。日向はまだあっちの世界にいた。
 「しかし、敵ATフィールドをも貫く、エネルギー総出量は最低1億8千万kW。それだけの大電力をどこから集めてくるんですか?」
 にやりと笑って答えるミサト。なんだかとってもうれしそうだ。
 「決まってるじゃない。日本中よ♪」



<日本各地>

 『本日、午後11時30分より明日未明にかけて全国で大規模な停電があります。
 これは地球防衛隊ネルフの使徒撃滅大作戦の影響によるものです。
 皆様のご協力をよろしくお願いいたします。

 繰り返しお伝えいたします。
 本日、午後11時30分より明日未明にかけて全国で大規模な停電があります。
 これは地球防衛隊ネルフの使徒撃滅大作戦の影響によるものです。
 皆様のご協力をよろしくお願いいたします』
 そのニュースは日本全国各地にテレビ、ラジオ、ビラを問わず伝えられた。
 多少の反発や、抗議行動はあって対応した冬月は泣きそうになったものの、最終的には『ネルフのやることだから。でも絶対負けるなよ』と国民のみなさまに受け入れられたため、大した混乱もなく作業は進んだ。



<ネルフ本部・総合作戦司令室発令所>

 「ポジトロンライフルの準備はどう?」
 ミサトが技術部に問いただした。

 「技術開発部の意地にかけても、あと3時間で形にしてみせますヨ。
 任せてもらいましょうか!!」
 リニアに乗せる課程でバラバラにされたポジトロンライフルが、技術員達によってドンドン組み上げられていく。その作業音はやかましかったが、ミサトにはなぜか心地よく聞こえた。

 「エネルギー・システムの見通しは?」
 ミサトが復活した日向に尋ねる。
 「現在、予定より3.2%遅れていますが本日23時10分には何とか出来ます」

 道路、林の中を問わず幾つもの極太の電線が、二子山山頂を目指し延ばされてゆく。このケーブルは文字道理日本中の発電所とつながっているのだ。

 「防御手段は?」


<ネルフ本部・第8格納庫>

 「それは、もう盾で防ぐしかないわね」
 説明口調でリツコが返事をする。
 「これが・・・盾ですか?」
 目の前の巨大な盾というか逆三角形の鋼鉄の板を見て絶句するマヤ。
 「そう。SSTOの流用品・・・。
 見た目は悪くとも、元々底部は超電磁コーティングされている機種だし、あの砲撃にも17秒はもつわ。2課の保証付きよ。
 ・・・ところで、2課ってなんの2課なのかしら?」



 各方面からの報告を満足げに聞くミサト。その目が光り、モニターに写る地図を見る。
 「結構・・・。狙撃地点は?」
 「目標との距離、地形、手頃な変電設備を考えるとやはりココです」
 「確かにイケるわね・・・」
 日向が地図の一点を指し示し、ミサトが深く頷き返した。ナオコに対するちょっとした怒りもあり、必要以上に力を込めてミサトは叫んだ。
 「狙撃地点は二子山山頂。作戦開始時刻は明朝0時。以後、本作戦を『ヤシマ作戦』と呼称します!
 この完璧すぎる作戦にケチをつけたナオコさんに、絶対ギャフンと言わせるわよ!!」
 「「「「「「りょ、了解!!」」」」」
 ちょっと、躊躇はあったが発令所全職員の声がそろった。







 シンジは悪い夢、過去の夢を見ていた。
 母に捨てられるように祖父に預けられたときの映像。
 ただひたすらに祖父に鍛えられ、碇家の跡取りにふさわしいようにと勉強を強制され続けた。
 彼は一度も祖父に甘えた事はない。
 自転車を拾い、それを盗んだと決めつけられて警察沙汰になったときも、母は来てくれなかった。
 その時から、彼は全てに無気力になったのかもしれない。
 そして第3、4使徒との戦い。
 第5使徒の砲撃を食らったこと・・・。


 (ここは・・・?)
 そこまで思い出したとき、彼の意識は急速に覚醒した。
 ぼやけた視界に、意識して焦点を合わせ、辺りを見回す。
 白い天井、白い壁、消毒液の臭い、単調な電子音をたてる医療器具。
 まだ頭はぼんやりとしていたが、ここは病室だと直感的に悟った。
 そして、無機的な第伍使徒の姿を思い出し、顔をしかめる。

プシュッ!

 そんな音を立てて病室の扉が開き、レイが食事の入ったトレイをワゴンに乗せて入ってきた。
 シンジは意外な人物の登場に目を丸くする。
 「綾波・・・」
 「・・・食事」
 レイは身を起こしたシンジの方をちらっと見ると、食事の用意を始めた。ポットから飲物をカップに移し、袋に入れられたプラスチックのフォークとナイフを取りだして並べる。シンジは何も言わずに見ていた。
 「目が覚めたら食べるように・・・・って」
 淡々とシンジの方を見ようともしないで話すレイを、どこか辛そうに見るシンジ。いたたまれなくなり、自分もまた視線をそらす。
 「・・・・何も食べたくないよ」
 「食べておいた方がいいと思うわ。
 60分後に出発だから」
 「え、それってどういうこと?」
 シンジの質問に対し、懐からメモを取り出すレイ。メモをシンジの目の前につきだして、2、3回振る。
 「明日午前零字より発動されるヤシマ作戦のスケジュール・・・読む?」
 そんなレイをシンジは呆然とした表情で見ていた。わかってはいてもここまで素っ気なくされると、かえって何も言えなくなる物だ。事実シンジは何か言おうと、声帯を震わせようとしたが、出てくるのはかすれた息だけだった。
 レイはシンジが何も言わないのを了解と受け取ったのか、意識して棒読みにした方がまだましな調子でメモを読み始めた。
 「碇・綾波・惣流の各パイロットは本日17時30分、ケイジにて集合。
 18時00分、ゴジュラス、及びサラマンダー1号機及びアイアンコング起動。18時05分出動。
 同30分、二子山仮設基地に到着。
 以降は別命あるまで待機。明朝、日付変更と同時に作戦行動開始」
 そこまで言うと、レイは替えのプラグスーツを丁寧に渡し、じっとシンジの方を見つめる。もちろん、彼女の任務はとりあえず終わったのだから、すぐにこの場を離れても良かった。いや、すぐにも新たな任務がある彼女は時間を惜しまず、離れるべきだったのだが、彼女は病室を出ようとはしなかった。
 じっとシンジを見つめ、彼の反応を確かめる様にスッと視線を動かした。
 シーツの下は裸だった。
 知らず知らずのうちにシンジのセミヌードを見てしまったレイ。顔がたちまち赤くなった。もっとも本人にはその理由はわからなかったりするが。
 「・・・・ね、寝ぼけて、その格好で来ないでね」 
 「えっ、うわあ!」

 動揺したレイの言葉に、慌てて大切な部分が見えないようにシーツで隠し、完全に見えないことを確認すると、膝を抱えてうんざりした顔と声でシンジがつぶやいた。目を覚ました直後よりも、先の戦いの記憶がはっきりとよみがえり、恐怖が彼の心を握りしめる。
 「またアレに乗るのか・・・。こんな目にあったって言うのに」
 「嫌なら寝てたら」
 シンジの言葉を聞き、冷たい口調でレイが言う。動揺から立ち直り、自分のペースを取り戻したのか、その口調はいつものレイに戻っていた。
 「あなたが居なくてもかまわないわ。・・・私とセカンドチルドレンが戦うから」

 (そう、あなたは戦わない方が良い)

 レイの目はそう言っていた。何故かはわからないが、彼女はシンジに戦って欲しくなかった。そして口下手というより、口をうまくするつもりのない彼女では、その事を彼に伝えることができなかった。だから、思いを込めた目でじっとシンジを見つめるだけ。赤い宝石のような目で冷たく見つめるだけだった。
 少し前のシンジだったら、何も言えず黙り込んで流されるままだっただろう。だが、その冷たい口調にも、視線にもひるむことなく、シンジは返答する。
 「そうゆうわけにはいかないだろ。母さんを、みんなを、・・・綾波を見捨てて逃げるなんてできないよ。それに決めたんだ。僕はもう、逃げない」

 それだけ言うと、シンジはレイの目をじっと見つめた。そう、彼はもう逃げないと決めたのだ。他人から、何より自分から。
 視線が絡み合い、見つめ合うというより睨み合う2人。
 迷いのないまっすぐな視線に耐えきれず、ついにレイは目をそらした。その顔は、シンジの目から見ても赤くなっていた。それに気づいたシンジの顔も赤くなった。何か言いかけるシンジだったが、途中で言葉が止まる。
 時計の秒針の音が室内を、2人を包んだ。
 しばらく二人ともそのままだったが、
 「そう、ならいいわ。・・・60分後にまた会いましょう」
 さすがにあまりゆっくりしていたら、ユイに怒られると判断したレイは、それだけ言うとそそくさと病室から出ていった。顔を見られたくないので、後ろを振り返ることもできず、熱を帯びた頬を冷やすように両手をあてながら。

 (これはなに?どうして私の胸はドキドキしているの?どうして顔が赤くなっているの?
 でもそれが嫌じゃない・・・。
 どうして?どうして?私はどうかしてしまったの?病気?
 なぜこんな風になるの?
 碇君のせいなの?碇君の裸を見たから?・・・それだけじゃない。
 碇君に見つめられると私、顔が熱くなる・・・。
 碇君の顔を見ると、もっと赤くなる。碇君と話していると、鼓動が速くなる。体が暑くなる。
 どうして?これはなに?これはなに?)

 無意識のうちにヒカリのいやんいやんをしながら、真っ赤な顔で廊下を走るレイを、看護婦達が驚きの目で見送っていた。





 シンジとレイが背中が痒くなるようなラブコメをしている頃、第3実験場ではミサト達が色気の欠片もないアイアンコングの最終調整をしていた。

 「何で連動実験にこんなに時間がかかるのよ〜〜〜!?もう、早くしてーーーーーー!!!」
 アイアンコングの中のプラグで、アスカがわめき声をあげた。すでにここで連動実験を開始して数時間あまり。その間、トイレ休息が一回あっただけで後はぶっ通しなのだから無理もない。彼女のイライラは最高潮に達していた。
 もっともそれは実験に付き合っているミサト達もそうだったが。
 「うるさいわね!お見舞いにいけないのは私達も同じなんだから、我慢しなさいよ!!」
 「な、何で私がシンジの見舞いなんかしないといけないのよ!?勝手なこと言わないでよ、ミサト!!」
 「誰も、シンジ君のお見舞いだと入ってないでしょう!?・・・ったく、アスカももっと素直になんなさいよ!
 そんなことじゃ、シンジ君レイに取られちゃうわよ!」
 「だから、シンジなんてどうでもいいって言ってるでしょう!?
 それより、ファーストはどこに行ったのよ!?あいつサラマンダーの再起動実験があるんじゃないの!?」
 「レイなら、とっくに起動実験を終わらせて、シンジ君のお見舞いに行ってるわよ!!」
 「な、何であの冷血女が私のシンジのトコに行ってるのよ〜!?」
 「ちょっと、アスカ!『私のシンジ』ってどういうこと!?それは聞き捨てならないわよ!!!!」
 「そ、それは言葉のあやで・・・ああもう!あいつは私の下僕なんだから、私の物よ!!」
 「い、言い切ったわね〜〜!!?それは洒落にならないわよぉ〜〜〜!!!!!」

 うるさいので、ここでいったん中継をうち切らせてもらいます。



Bパートに続く



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