Neon Genesis Evangelion SS.
1.ナナシサマ
僕が駅のホームで人を待っているとき、そこには一人の女の子が立っていた。 でも、その子は、とても変な格好をしていたし、なぜだか周囲を迷彩服を着た軍隊の人たちにも囲まれていた。
とても白い肌。 それ以上に白い髪。 そして、薄い色のサングラス。
顔のつくりは、きっと綺麗なのだと思うのだけど、その頬は少しやつれているような感じがした。
なんというか・・・病気の女の子を、入院中の病院から無理矢理つれてきたって感じがしたんだ。 でも、その割には背筋を伸ばしてしっかりと立っているのだから、少なくとも病気じゃあないのかも知れない。
「・・・遅いな」
「ああ」
その子の側で、周囲を見渡している軍隊の人たち声が聞こえた。
どうやら、あの人たちも誰かと、ここで待ち合わせているようなのだけど・・・。 でも、その子が奇妙な格好をしていると感じたのは、なにも軍隊の人たちが側にいたせいばかりではないと思う。 その子の着ている服は、これまた白一色の・・・しかも和服だったんだ。 ちなみに、僕は薄いカッターシャツを着ている。 こんなに暑いのに、あんな格好で、汗一つかかないだなんて・・・。
「・・・なあ、君」
そんな時、その子の側に立っていた男の人が声をかけてきた。
「あ、はい。 僕ですか?」
「ああ、君だ」
まあ、周囲には僕しかいなかったしね。
「もしかして、君は、碇シンジ君なのか?」
「え? そうですけど」
なぜか、その人たちは、僕の名前を知っていた。
「・・・でも、なんで僕の名前を?」
「ここでネルフの人と待ち合わせていると聞いていたんだ」
疑問は、これで一応は解消。
軍隊なんだから、それくらいは知らされていて当然なのかも知れない。
「すまないが、私たちは、そろそろ戻らなくはならないので、君に、この御方を任せられないだろうか?」
「・・・えっ。 えぇっ!? 僕がですかぁ!?」
い、いきなり女の子を頼むだなんて言われても・・・困るよ。
「大丈夫だ。 君が碇シンジ君なら・・・いや、碇家の人間でないと駄目なんだ」
「・・・どういうことですか?」
僕でないと駄目。 ・・・いや、違う。
僕って意味じゃなくて、碇家の関係者でないと駄目ってこと?
「詳しい説明をすることは、私たちには禁じられている。 ・・・後は、名無様に聞いて欲しい」
「ナナシサマ?」
「あの御方だ」
視線を追った先には、さっきの女の子。 あの子も、僕の方をみている様だった。
「ネルフの人が迎えに来てくれるまでで良い。 話し相手になってあげて欲しいんだ」
「・・・分かりました」
なんとか納得できた僕は、そのおじさんの頼みを受け入れることにした。
「名無様、それでは、私たちは部隊に戻らさせて貰います」
そう深くお辞儀をして言う軍隊の人たちに、そのナナシサマと呼ばれていた女の子は、小さく頷くと、サングラスを外して答えた。
『長い間、ご苦労さまでした』
その子の声は、すごく綺麗だった。
信じられないくらいに綺麗で、どこまでも透き通った声だった。
天使という生き物がいるのなら、きっとあんな声に違いない。 でも、その時の僕には、その声の綺麗さに驚くことはなかった。 なぜなら、もっと驚いたことがあったから。
・・・その子の目は、真っ白だった。
信じられないのだけど、黒目の部分まで白かったんだ。
何もかもが白い女の子。
とても綺麗な声をした、女の子。
それが、僕と、あの人の出会いだった。
2.ナナシカムイ
軍隊の人たちが車に乗って居なくなってしまった後、僕は途方にくれていた。
あの人たちとも全然話しをしていなかった様なのだけど、この子は僕の予想以上に大人しい子だった。 その・・・もの凄い無口っていうか・・・。
「ね、ねえ」
「・・・」
僕の言葉に振り向いてはくれるのだけど、その子はとても無口だったんだ。
「僕の名前は、碇シンジ。 君の名前は?」
その子は、そんな僕の質問を分かっていたのか、和服の袖の部分から一枚の紙片を取り出した。
「・・・名刺?」
コクリと小さくうなづくその子の手から、その名刺をもらった僕は、思わず絶句してしまった。
『名無 神威』
正直、ものすごく威圧感のある珍しい名前だと思う。
「これって・・・君の名前なの?」
「・・・」(コクリ)
ナナシカムイ。 それが、その子の名前だった。
人事ながら、凄い名前だと思う。 女の子なのに神威って・・・。 生まれた時、どんな子供だったんだろう? でも、これって携帯電話の番号まで書いてあるのだけど。 今更だけど、僕なんかが、こんなの貰っても良いのかな?
「これって、携帯電話の番号だよね?」
「・・・」(コクリ)
「僕に教えても・・・良いの?」
「・・・」(コクリ)
何のためらいもなく、彼女は頷いた。
なんか・・・ぜんぜん気にしてないって感じ。
もしかして、僕の方が考えすぎていたのかな?
「もしかして・・・今、携帯電話もってる?」
「・・・」(コクリ)
「僕、ここでネルフの人と待ち合わせしているんだけど、君もそうなの?」
「・・・」(・・・コクリ)
「僕、その人と連絡がつかないで困ってるんだ。 君の方は?」
「・・・」
ちょっとだけ考えて、フルフルと首を横に振る。
「電話してみたの?」
「・・・」(フルフル)
してないってことかな?
「電話しないの?」
「・・・」
「・・・ええっと、してないんだよね?」
「・・・」(コクリ)
「電話、しないの?」
「・・・」
ちょっとだけ間をあけて、コクリと頷く。
「もしかして・・・電話番号知らないとか?」
「・・・」(・・・コクリ)
頬をちょっとだけ赤くして、その子は頷いた。 さっき、軍隊の人たちと話をしてたんだから、別にしゃべられない訳じゃないようなのだけど・・・。 どうも、YES/NOで答えられない質問には、答えられないって感じがする。 もしかして、人見知りが凄い子なのかな?
「その・・・よかったら、君の携帯電話、貸して貰えないかな? 電話番号なら、僕が知ってるから」
そういうと、その子・・・えーっと。
「カムイさんって呼んで良い?」
「・・・」(コクリ)
その時、その子はようやく笑ってくれた。
ちょっとだけ頬を赤くしながら、笑ったんだ。
それは、とても嬉しそうで。 それに、凄く綺麗な笑みだった。
・・・でも、なんで頬が赤くなったんだろう?
「じゃあ、電話を・・・」
そう改めて電話を貸してもらおうとしていた僕だったのだけど。
どぉおぉぉおおぉん!
その時。 僕の耳に、とんでもなく大きな音が聞こえてきたんだ。
3.テンシとロボット
余りに大きな・・・空気がびりびりと震えるような大きな音に驚いたんだと思う。 だから、それを聞いた僕は、駅の構内を出て、周りの様子を確認しようとしていたんだと思うんだ。 でも、そんな僕の目にも、その光景は冗談のように見えてしまっていた。
「・・・ロボット?」
地面に倒れこんで、モクモクと土煙を上げているのは、額から伸びる角が特徴的な紫色のロボットだった。
その周囲では、いくつもの民家と、小さいビルが崩れてしまっている。 まるでミニチュアの世界のようだ。 でも、それはビルが小さいからって意味じゃなかった。 その比較になる対象が・・・とてつもなく大きなサイズだったんだ。 それは人間みたいに見える、大きな人の形をしたロボットだった。
「・・・なんだろう、アレ・・・」
そんな地面に倒れて動かなくなったロボットに、本来なら僕はもっと驚くべきだったのかも知れない。 でも、そんなロボットの向こうにいた『何か』のせいで、僕は、驚くことが出来なくなっていたんだと思う。
ズゥン。 ズゥン。 ズゥン。
大きな足音だった。
周囲を無数の戦闘機に囲まれた、大きな生き物。
そこに居たのは・・・黒っぽい色をした・・・怪獣、なのかな?
このロボットが倒れているってことは、あの怪獣と戦っていて、負けたって事なの?
・・・いや、そもそもの問題として、アレは何なのだろう?
「なに? ・・・あれ?」
『天使です』
僕の呟きに返されたのは、信じられないくらいに綺麗な声だった。
「え?」
そんな声の主は、カムイさんしかいないことを僕はすでに知っていた。
『アレは、神の威をもって人を狩るもの』
あんな常識はずれな光景を見ても、驚きもしないのか。 とても静かに・・・カムイさんは喋っていた。 少なくとも、僕には全然、焦ったところがない風に見えた。
『あれが・・・天使です』
その声が・・・凄く、綺麗だった。
遥か彼方に立っている天使を。 僕達を・・・地面の上で動かなくなったロボットをジッと見つめている怪獣・・・天使を、カムイさんは真っ直ぐに見返していた。
背筋が伸びていて、横顔が、とても凛々しくて。
声は、信じられないくらいに綺麗で。 それでいて、優しそうな声。
そんなカムイさんの横顔に、僕は見入ってしまっていた。
『私の、敵です』
そのせいだと思う。
その言葉の意味を理解するのに、少し時間がかかった。
「・・・敵? あれって、天使なんだよね?」
『・・・』
「天使なのに敵なの?」
天使っていたら、なぜだか正義の味方ってイメージがする。
そんな僕に、カムイさんはちょっとだけ困った風に笑って頷いた。
・・・でも、その笑顔は、すごく辛そうだった。
『アレは天使ですが、天使が必ずしも人の味方とは限りません』
だから、戦わなくちゃいけないってことなのかな?
「敵って・・・どういうことなの?」
『・・・』
「もしかして、僕が父さんに呼ばれてた事と、何か関係があるの?」
その言葉に、カムイさんは少しだけ困った顔をしていた。
「今、ちゃんと喋っていたよね? それなのに、なぜ、君は・・・そんなに無口なの? ううん、君の場合は、きっとそうじゃないんだ。 なぜ、そんなに喋ろうとしないのさ?」
なにか違和感があった。
あんなに声が綺麗なのに、なぜ喋らないのか。
なぜ、軍隊の人たちに守られていたのか。
それに、あの人たちは、カムイさんのことをナナシサマって呼んでいた。
それって、名無様ってことだよね?
多分、この人は偉い人なんだと思う。
それに、あの人たちは、碇家の人間でないと駄目だなんて言っていた。
それだけじゃない。
その説明をすることも、自分達は、そのことを説明することを禁じられているって。 そういってた。 でも、この人は、あのおっきな怪獣を敵だって・・・自分の敵だって言ってる。
「・・・もしかして、君は、軍隊の人なの?」
僕の質問に、カムイさんは、僕から視線を外してしまった。
「・・・君は・・・戦うために、ここに来たの?」
返される答えは、頷きだけだった。
「・・・僕には何も教えたくないってこと?」
そんな僕の辛い何かが滲んでしまう言葉に返されるのも、やっぱり頷きだけだったんだ。
to be continue next part.
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