【未来に生きる希望】
<第一話:子供達の思い>
Cパート>

「ママ………、ママ〜〜〜!!!

  

シンジは知った。アスカの母親は自殺したのだと………。

  

  

シンジは立ちすくんだ。

アスカに、あのアスカにこんな過去があったなんて。

そしてためらう。

僕がアスカを支えることが出来るのか?

こんな苦悩を支えることが出来るのか?

こんな重荷を背負うことが出来るのか?

途轍もない無力感。

シンジはアスカを目の前にして動けなくなった。

まるで金縛りにあったように………。

  

  

  

ふと気づくとそこは病室になっていた。

30前後に見える美人の女の人が、ベッドに横たわっている。

上体を起こし、その胸にどう見ても不釣り合いな小さな人形を抱きかかえている。

そしてぼそぼそと語りかけている。

  

「アスカちゃん、好き嫌いはだめでしょ。きちんと食べないと…」

  

扉には、歯を食いしばってその光景を見つめている幼いアスカがいる。

小猿の人形をしっかり抱きかかえ、必死に耐えるアスカ。

でも叫んでしまう。

  

「ママ、私を見て!! お願いだから私のママを辞めないで!! ママ〜〜〜!!!

  

泣きじゃくりながら叫ぶアスカ。その言葉に気がついたのか、アスカの母は人形を

落とし、アスカに顔を向けた。

  

「ママ!」

  

心底嬉しそうな顔をするアスカ。

アスカの母は、ベッドを降り、アスカの方へ近づいていく。

そして、アスカに語りかけた。

心から、本当に心の底から愛しげに。

だが、口から出た言葉はアスカの、そしてシンジの期待したものとは

全く正反対のものだった。

  

「あなたのパパはママが嫌いになったの。いらなくなったの。ううん、最初から好きじゃ

 なかったのよ。最初からいらなかったのよ、きっと。」

  

「だからママと死にましょ。パパは私たちがいらないもの。」

  

凍りつくアスカ。

それでも必死に訊ねる。

  

「私はじゃまなの?いらないの?」

  

アスカの母の口調が変わった。

  

「一緒に死んでちょうだい!」

  

そしてアスカの首に手を伸ばす。

  

叫ぶアスカ。それは絶叫!!

  

「いや!ママ!私を殺さないで!」

  

「私はママの人形じゃない!」

  

だんだん大きくなっていくアスカ。

ゆっくりとアスカの母の手がその首に近づいていく。

  

「自分で考え、自分で生きるの!」

  

「死ぬのはイヤ!自分が消えてしまうのもイヤ!」

  

「パパもママもイヤ!みんなイヤなの!」

  

さらに大きくなっていく。

しかし、母の手はもう首に触れる寸前。

  

「誰も私のこと守ってくれないの!」

  

「一緒にいてくれないの!」

  

赤いプラグスーツを着て、すっかり見慣れたアスカ。

そして母の手はアスカの首にまきつく。

  

「だから一人で生きるの。生きてみせるの!」

  

「でも、ヤなの!つらいの!」

  

「独りはイヤ! 独りはイヤ!! 独りはイヤァァァァァァッ!!!

  

  

  

シンジは、アスカが求めるものがわかった気がした。アスカのことを無条件で

支えてくれる人、守ってくれる人を欲している。そんな気がした。

それは、本来母親がなすべきこと。でもアスカは母から拒絶されてしまった。

そして自分もアスカを支えることが出来なかった。

アスカの心が汚されたとき、シンジは《立入禁止》の線を越えることが出来なかった。

アスカの元から逃げた。

アスカの求めるものは、自分が求めているものと同じだったのに。

その結果が目の前にある。

アスカが壊れてしまったのは僕のせいだ。

もう二度と逃げたりはしない。

だからアスカの母がアスカの首を締め上げようとしたとき、今度こそためらいなく

アスカの元に飛び込んだ。

  

「アスカ〜〜〜〜〜!!!!!

  

そしてアスカの母の手を振り払う。

アスカがシンジの方を向いた。

  

「シンジ!!!

  

その瞬間、病室も、アスカの母も消えた。

残されたのはアスカとシンジの二人のみ。

二人とも両膝を抱えながら、隣り合わせに座っている。

暗闇の中で、そこだけをライトが照らしているかのように浮かび上がっている。

最初にアスカがおずおずと口を開く。

  

「シンジ……、どうして……」

  

そして絶句。

シンジはなにも言わずにアスカを見つめていた。頬を涙でびしょびしょに濡らして。

アスカの目からも涙がこぼれた。

  

沈黙………

  

ずっとお互いに涙を流しながら相手の目を見つめていた。

それから、アスカがやっとの思いでしゃべる。

  

「ちょっと、しっかりしなさいよ、バカシ………」

  

その声は涙の中に消えていく。そして、

  

「ありがとう。私のために来てくれたのね。」

  

やっとシンジの口が開く

  

「そうだよ。そして僕のためでもあるんだ。」

  

それからシンジは、アスカに語りかけた。

  

「僕は、今までアスカに頼っていた。」

「強くて自身に満ちあふれていたアスカに頼っていた。」

「僕は、アスカに憧れてたけど、それ以上に卑怯なことをしてたんだ。」

「そしてアスカがぼろぼろになっていたときでさえ、僕はアスカに縋ってしまった。」

  

シンジは一息おき、そして強い口調で、はっきりとした意志を持ってアスカに告げた。

  

「でも、わかったんだ。」

「アスカも僕と同じなんだ。」

「アスカも自分のことを、無条件に守ってくれる人、支えてくれる人を求めていることを。」

「だから僕が、いや、俺がなってみせる!きっとアスカのことを支えられる男になって

 みせる!!

「だから、元の場所へ、僕たちのいた場所へ戻ろう。」

  

「シンジ………」

  

アスカはシンジの胸に抱きつき、シンジの目をみて言った。

  

「ありがとう、シンジ…」

  

「でも私もあなたを支えるわ。絶対に守ってみせる!」

「もう二度と逃げたりしない!現実から目をそらしたりしない!」

「だからこれからもよろしくね、シンジ。」

  

シンジもアスカの目を見つめて宣言した。

  

「約束する!」

  

そしてお互いに目を閉じ、唇を近づけ合う。

お互いの唇が触れ合った瞬間、シンジ、アスカの周りから闇が消えた。

  

  

  

****************************

  

  

  

そこはアスカのいる病室だった。

シンジはつぶやく。

  

「戻ってきたんだ。ここに…」

  

アスカもベッドから跳ね起きる。

そしてシンジの首に手をかけて抱きつく!

  

「シンジ、感謝するわよ!!!

  

真っ赤に頬を染めるシンジ。アスカのむき出しの胸が、シンジの胸に密着していた。

それに気づいたアスカが体を即座に離し、左手でシーツを体に巻き付ける。

それと全く同時にシンジに右手を振り上げ、

  

「よくも見たわね!バカシンジ!!

  

「ごめん、アスカ!」

  

反射的に身構えるシンジ。でもアスカの手の方が速い。

しかしアスカはシンジの左頬の直前で右手を止め、額をちょんとつついた。

  

「なぁんてね。」

  

「ふふふふふ」

「ははははは」

  

幸せそうなアスカとシンジの声がこだまする。

彼らはお互いに、支え合い、守り合う人を見つけたのだ。

カヲルはそんな二人をただ見つめていた。

(おめでとう。)

とただ一言呟いて……… 


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