NEONGENESIS GRAND PRIX
EVANFORMULA
第4戦「驚異の新人」
「僕はただマシンに乗っていただけだよ。後はマシンが答えてくれた」
今回のレースのポールポジションを手にした少年は、
無数に突き出されるマイクのうちの一つに向かいコメントを返した。
「ではカヲルさん。明日のレースの抱負などを聞かせてください」
「シンジ君と楽しみたいね」
「シンジ君というと、3戦目のウイナーの碇シンジ選手の事ですか?」
「そう、彼だよ」
それだけ言い残し、彼はピットの奥へと消えて行った。
薄暗いピットの中を歩くカヲルは一言ぽつりと呟く。
「・・・楽しみはそれだけだからね」
一方、ビルニューブサーキットのコントロールタワー内で、
カヲルの走りをビデオで見ていた3人の陰。
「渚カヲル・・・ウワサ以上だな」
冬月がゲンドウ、リツコに話かける。
「ああ、委員会が送りこむくらいだ。これで遅かったら我々も苦労はない」
そのやりとりを聞いていたリツコは彼らの前に2通の書類を差し出す。
「どうしますか?今からならレメクの巻物を仕組むことが可能です」
ゲンドウはその書類に軽く目を通しただけで、冬月に手渡した。
「依存はない。やりたまえ赤木博士」
「ちくしょう!!」
赤いプラグレーシングスーツを着た少女が栗色の髪を振り乱して、
先ほどまで乗っていたEG-Mを蹴りつけた。
「私が8位?なんでこんな順位なのよ!マシンが壊れてるんじゃないの!」
そう叫きながら、何度も何度もタイヤを蹴り続ける彼女。
「いい加減にして下さい!」
メカニックの一人が止めに入った。
少し感情的になっていた彼女を包み込むように押さえ込んだ。
「離しなさいよ!!」
アスカは後ろから覆い被さっていた彼に向かい肘鉄をお見舞する。
彼がひるんだ隙をついて、腹部に膝を飛ばすと彼はピットの壁まで吹き飛ばされた。
そのメカニックに鋭く尖った目線を投げつけると
「大体あんた達がロクな整備ができてないから私がこんなポジションなのよ!判ってんの!!。
ヘボなメカニックがこのチャンピオンに意見しようなんて10万年早いわよ!!」
しかし、蹴り飛ばされたメカは無言で口の血を拭うとそのままマシン整備に戻った。
他のチームクルーもアスカの相手をやめ、整備をする手を動かし始めた。
「な、何よ!言いたい事があるなら言いなさいよ!」
しかし、皆無言。彼女を無視していた。
「・・・あんた達・・・」
その態度に怒り、拳をふるわせて一番近くにいたメカニックに歩を進めようとした時、
「お前が悪いんだろ」
後ろから聞こえてきた声。
「だ、誰?そんな事を言ったのは」
アスカが振返るとそこにはシンジがいた。
「メカさん達が可哀相だよ。君が上手く乗れてないだけだろ」
アスカはシンジに寄っていき、胸ぐらを掴み上げると彼を睨み付けた。
「よくも言ったわね!アンタ!!」
だがシンジはそんな彼女を哀む目で見つめる。
「何なのよ!その目は!!」
アスカは拳を振り上げ、ガツンと一発食らわせた。
シンジは倒れこみそうになったが、後ろにいたカヲルが彼の体を支えた。
カヲルはシンジの顔を見ながら微笑みを浮かべる。
(彼は確か・・・)
カヲルは一歩アスカに歩み寄ると彼女を冷たく鋭い目線を彼女に向ける。
「いけないな、君。暴力を振るっては争いが増えるだけだよ。
シンジ君の言う通りさ。君は乗れてないんだよ、マシンに」
「・・・なんですって」
アスカは声を震わせてカヲルを見る。カヲルの目は彼女を凝視している。
「君には付き合っていられないんだよ。悪いけどね。
行こうか。碇シンジ君」
カヲルは目線を彼女から外し、シンジの手を握った。
そしてそのままシンジを引っ張ってアスカのピットを後にしてゆく。
「何なのよあいつら!いい?!明日までにはきちんと整備しておきなさいよ!!」
アスカはメカ達にそう吐き捨てると、唇を噛みしめてモーターホームに足を向けた。
その彼女の後ろ姿に、幾重にも侮蔑の視線が刺さっていた。
「カ、カヲル君!」
カヲルは足を止めてシンジを見る。
「カヲルでいいよ。碇シンジ君」
「え、あ、僕も・・・シンジでいいよ」
カヲルはシンジに微笑む。シンジは握られた手を見ながら
「もういいだろ、そろそろ離してよ」
「どうしてだい?恥ずかしいのかい」
「えっ・・・あ、いやそういう訳じゃ・・・」
と言うや否やカヲルはシンジに微笑みかけて、手を強く握った。そして
「君は嘘が下手だね。でもそんな君を見てると安心するよ」
「どういう事?」
「君に触った気がする。君を理解出来た気がする。そんな君は好意に値するね」
「イマイチわからないんだけど・・・」
「好きってことさ」
カヲルはシンジに満面の笑みを向ける。
そのやり取りを影で見ていたマヤ。
(何なの?あの2人・・・手なんか握って・・・しかもみつめあってる・・・)
=第4戦 カナダGP
ジル・ビルヌーブサーキット 決勝 36周
=
「フォン、フォン」
カヲルのマシンのエキゾーストノートが響く。
カヲルは目を閉じて何やら思案していた。
そしてゆっくりと目を開き、外界の景色が彼に脳裏に映し出されたとき、
彼の口から呟きが漏れる。
「ついに始まる。さあ行こう、僕たちの輝かしい軌跡を作る為に」
しかしカヲルは何となく違和感を覚えながらもピットを後にしていった。
1周のフォーメーションラップを終えて、スターティンググリッドに並ぶ各マシン。
P.Pにはカヲル、2ndにはレイがそれぞれのポジションにマシンを止めた。
「さてと・・・とりあえず君達の実力、見せてもらうよ」
カヲルはハザードランプを点滅させる。
これはスタート不可能という事だ。
3rdにいたシンジはその彼のマシンを見ると、怪訝な表情で目の前のマシンを見る。
「カヲル君、どうしたんだ一体」
しかしランプが灯っているのでスタートは遅れない。スタートは切られてゆく。
カヲルを置いてスタートする選手達。が、他にも1台サーキット上に止まっていた。
「またもや失敗・・・トラクションコントロールはもう駄目ね・・・」
落ち込むリツコのマシンがゆるゆるとコース外に彼女と共に押し出されていった。
カヲルのマシンは止まったままだった。
が、マーシャルがマシンを排除しようとした時、
「さあいくよ。君は何も考えなくていい。僕に全てを任せてくれ」
カヲルは言葉と共に司令を送ると、勢い良くマシンは加速していく。
トップはシンジ、シンジとカヲルの差は34秒だ。
シンジのペースは速く、後続グングン引き離してゆく。
5周目には2位のレイと10秒も差が開いていた。
だが、観衆の目はシンジではなくカヲルに向けられていた。
最速ラップはシンジではなくカヲルが叩き出していたし、
見た目にもアグレッシブな彼の走りは、観客の目を引きつけるのに十分だった。
そして遂にカヲルは最後尾のケンスケを捕らえた、と思ったとたんにかわしていく。
「またしても最下位・・・初めてブービーだったのに・・・いやーんな感じ」
カヲルは1周で1台もしくは2台かわしていく。
そして10周目アスカに追いついた。アスカは前の日向すらかわせていなかった。
「アイツか・・・意地でも抜かせるもんか・・・ぶつけてでも抜かせないわ
こっちには新兵器があるのよ。見てなさい」
アスカとカヲルはホームストレートに来る。
ストレートでカヲルはアスカの左横に並びかける。
それを見ていたアスカは秘密兵器のレバーに手をかけた。
「行くわよ!ラベンダーウィング!」
するとアスカのEG−Mが爆発的な加速力でカヲルを置いていく、
かに見えたが、
カヲルは目を閉じてシンクロ率を一気に上げた。
アスカについていくどころか、あっという間にかわしていく。
「そ、そんな・・・新兵器なのよ・・・アイツのEG−Mには付いてないのに・・・」
その勢いでカヲルは日向も料理した
「くうっ、速い」
カヲルは離れゆく2台を見て
「君達はこのマシンの性能の30%も出せていないのさ。勝てないのは当然なんだよ」
カヲルはシンクロ率を元に戻して次なるターゲットのミサトに狙いを定めた。
「碇、いつまでカヲルをのさばらせておくつもりだ。このままではまずいぞ」
「心配ない。シンジは順調だ。いざとなったらレメクの巻物を使う」
「・・・上手く行けばいいがな」
13周目カヲルはミサトに追いついた。が、ミサトはきちんとブロックしてくる。
「ここからだね。手強いのは。じゃあ見せてもらうよ、君達の腕前を」
と言うとミサトと全く同じラインをトレースしていく。パワーの掛けかたも真似する。
同時にシンクロ率の高さも調べていた。
そしてカヲルは1周ミサトの後ろで観察をしたあと、口元を緩める。
「君はマシンとシンクロしてないね。そのせいでパワーパターンが乱れてる。
けど年の功だね。ブロックは上手いし走りかたも馴れている」
そう言うとミサトよりもほんの少しシンクロ率を上げる。
真後ろについていたカヲルはミサトが中間ラインをトレースした時に、
「君は上手いけどワンパターンなんだよ」
と呟きながらミサトのアウトに並ぶ。
「馬鹿ね、ここで外に出ても意味が無いのよ」
ミサトはカヲルの事はさして気にしない。ここでアウトからは抜けないと思っていたが
「君は頭で考え過ぎだよ」
最終コーナーが迫り、ミサトは比較的早めにブレーキをかける、が、
カヲルがミサトの前に出た。
「な、曲がりきれないわよ!」
しかしカヲルは急制動を駆けた。タイヤがロックしない程度に。
そしてオーバスピードから曲がりきれない。と思いきや
車高を若干上げて、左タイヤをコース外に落とす。
そのまま最短距離を突っ切りシケインを曲がっていった。
「な、何?あんなことしてマシンが壊れないの?」
ミサトは常識を逸脱したカヲルのこの走りは理解出来なかった。
「君は頭はいいけど使い方を間違えてるよ」
カヲルはミサトの前に出ると、砂のついているタイヤながらミサトを離していく。
16周目、カヲルは加持を普通にかわしていく。
加持は本気で走ってないと考え、今の彼を詮索しても無意味だと悟り、
追いついたら一気に抜いていった。加持も特にブロックはしなかった。
19周目、トウジが前にいる。
「きよったな、新人レーサー。お前の走りこの目で見せてもらうで」
そう言うとトウジはマシンを右左にクイックイッと動かした。
明らかに挑発の構えだ。カヲルはミサト同様に観察し始めた。
しかしトウジは選ばれた4人のレーサーの一人である。ミサトとは違う。
カヲルは2周じっくりと見た。トウジの全てを見定める。
「ラフな走りだが計算されている。ブロックはしない。カンで走ってるね」
カヲルはトウジの後ろにぴたりと付く
「しかも速い。いいね。君のように情熱的なレーサーは」
と言うとトウジのシンクロ率に合わしてから少しだけ上げる。
「でも君といつまでも走っている訳にはいかないよ」
カヲルはトウジのアウトに出ようとした。
「甘いわ!これでもくらえ!」
トウジは故意にタイヤをスピンさせてテールを流した。
カヲルはマシンを下げる。ぶつけられる訳にはいかない。
「やってくれるね。ホントに好きになりそうだよ」
トウジはかなり攻撃な走りをしてくる。
カヲルはそんなトウジの走りかたには興味を持った。
「もう少し楽しませてもらうよ」
彼は更にシンクロ率を上げてきた。
こうなるとトウジもかなり必死で押え込まねば抜かれる。
「こいつ・・・ただもんやないで・・・」
「トウジ君、これでどうだい」
カヲルのマシンがインからアウトに鋭く動く。
トウジはカヲルの行動をモニターで見た。
「まだまだや!」
何とか押さえ切ってる。
『ちょっと鈴原!無理し過ぎよ!そんな奴前に行かせなさい!』
ヒカリが我慢出来ずにインカムで話かける。
『アホぬかせ!そんな事出来るかいな!』
『このままじゃタイヤが持たないわ、道を譲りなさい』
『ここまで来て譲れるかいな!まあ見ててくれや!』
『このレースはスーパースプリントレースなのよ!タイヤが持たないのよ!』
『そならタイヤ交換したらええ!』
『馬鹿!そんな事したら順位が一気に落ちるわ。他の人はピットに入らないのよ!』
『おい!いいかげんにせいや。黙って見とれ!』
トウジは思い切り無線の回線をカットした。
『ブチッ』
という音と共にヒカリのインカムからは砂嵐しか流れてこなくなった。
ヒカリはインカムを地面に叩き付けようとしたが、周りの目が気になったのでやめた。
(馬鹿!鈴原。もうしらないからね)
19周を終わった段階でもアスカは日向すら抜けていなかった。
そんなアスカの走りを見ながら
アスカのピット内でチームのメカニックが話をしている。
「おい、このシンクロ率見ろよ」
「酷いもんだな。まあチャンピオンは自分が1番と思ってたからな」
「この前あっさりと抜かれたのがショックだったんだろう?」
「あぁ、いい気味だぜ。あの高慢ちきな女」
「全くだな」
アスカは日向の後ろでイライラしていた。
「私はこんな所で走ってらんないのよ・・・」
アスカは日向のインを取る。が日向が被せる。抜けない。
2台は重なって最終コーナーを立ち上がる。
「私は・・・・」
「アンタなんかと遊んでらんないのよ!!」
「ラベンダーウイング!!」
「来るか!アスカちゃん」
日向もES・C、SIN・Dにまでして応戦する。
2人のマシンはほとんど互角のまま1コーナーに入ってゆく。
「もう負けられないのよ!こんなとこで!負けるわけにはいかないのよ!」
「私は一番なの!最速なのよ!こんな奴に負けるわけにはいかないの!!」
「アスカちゃん!無茶だ!!」
日向が叫ぶ脇をアスカはアッという間にすり抜け、かなりのオーバースピードでコーナーに入っていった。
そして赤いマシンのフロントが流れ、200km/hオーバーでコースを外れた。
「!!!」
コンクリの壁が凄い勢いで彼女に向かい迫りくる。
だがマシンはすでに彼女のコントロール下にはなかった。