NERV
第三話「想い、果てなく」


ここはNERV本部、第3発令所である。
今までこの発令所は使われてはいなかったが、
今回の作戦本部として初めて使用されていた。
MAGIも先の戦い以来、第1,第2発令所よりも奥に設置されているこちらに移されていた。
その、先ほどまで希望を賭けて作業していた場所で今回の作戦の打ち上げ、
並びに「ネルフ」の最後の宴会をやっていた。
宴会の輪の中には懐かしい顔がみえる。
青葉、日向、そしてオペレーターA、B、C・・・・・
皆ネルフが好きな、ネルフを忘れられない連中ばかりだ。
青葉はネルフを辞職させられた後、なんとか第三新東京市の諜報部(非公認組織)
に潜り込むことが出来た。今でもその職場で彼は生計を立てられている。
しかし青葉のヘアースタイルは真面目なサラリーマン風になっていた。
よほどあの頭で苦労したのだろう。彼がヘアースタイルを変えるのはよほどのことだ。

日向はネルフを自分から辞めた。そして航空機を操縦出来る特技を生かして、
NASS(航空会社)のパイロットになっていた。
その他については、それなりにやっているようだ。

もう宴会を始めて皆、ほろ酔い気分で昔話に花が咲いていた。
しかしミサトは話もそこそこで飲み続けてきたのでかなり悪いお酒になっていた。

「くかー、なめんじゃないわよ!なんで私が掃除の[お姉さん]やんなきゃ
 なんないのよ!」

とオペBにとぐろを巻きながら、片手に握りしめたグラスを傾ける。
彼はもう何とかしてくれ!と言わんばかりに周りを見渡すが、皆見て見ぬふりだ。
皆にしても触らぬ神に祟りなし。下手に助けようものならこちらが危ない。
仕方なくBはトイレに逃げ場を求め、立ちあがろうとした。
がミサトは彼を離さない。結局Bは彼女が眠るまで愚痴を散々に聞かされた。

それから一時間後。
皆の宴会の輪から少し外れて横になってるミサトを見ながら
少し宴会の輪からは離れて、カウンターに仕立てた所でマヤと飲んでいた青葉が囁く。

「葛城さん、飛ばしてたな」

グラスを傾けながら、中のアイスを見ながら言った。マヤもグラスを見つめながら

「仕方ないです。葛城さんの気持ち、痛いほど良く分かりますから・・・」

と言っただけで、その後は口を開こうとしなかった。
暫しの間グラスを傾けて、鳴る氷の音だけが2人の間に流れていた。
青葉もまずい事を聞いたな、とここに来て後悔したが
そこに助け船を出したのが日向だった。

「なに黙ってるんだ、2人とも」

そう言いながらマヤの隣りに座った。
この3人は仲が良い。この後昔話に花が咲いた。
出会いから始まり、話が進んで先の戦いの話まで進んでくると、一転暗くなった。
無理もないだろう。そして、マヤが2人に向かいこう訊ねた。

「このネルフに入って、ホントに良かったですよね?」

マヤはそう言うとまた視線を落とし、グラスをみた。
それを聞いた青葉と日向は微笑み、青葉から口を開き、日向も続いた。

「ああ、あたりまえだろう」

「もちろん、人生最高の選択だったよ」

顔を見合わせて2人とも酒を飲んだ。
マヤもニコリと笑みを彼らに向けたあと、彼らに習いグラスを傾けた。
グラスからマヤの唇が離れたあとで、日向と青葉が自分を見ていたのが分かった。
マヤが口を開こうとしたとき、青葉が自分のグラスをマヤのグラスに軽く当てた。

『チーン』

クリアな音が響いたあと。

「お疲れさま。マヤちゃん」

同様に日向も同じ事をする。

「長い間ありがとう。マヤちゃん」

二人の穏やかな笑顔を見たマヤの目にうっすらと水のフィルタが張った。
マヤは先ほどの彼らと同じようにグラスを動かした。
静かになり始めた第3発令所にクリスタル音が2回鳴り響き、
その音は彼らの耳に思い出と共に刻み込まれた。

それからしばらくして、宴会の輪から外れて1人で飲んでいたリツコが、

「みんな、もう遅いわ。そろそろお開きにしましょう」

と言うと、名残惜しそうに皆がかたずけ始めた。しかしミサトだけがまだ寝ている。
リツコがミサトを起こそうと側によって行くと、日向がリツコの前に歩み寄った。

「葛城さん、だいぶ酔ってますから僕が仮眠室までつれていきましょうか?」

リツコにしてもミサトを起こしても得な事はないと判断した。

「そう?じゃあ、お願いね」

と言うと自分もかたずけ始めた。
日向はミサトをおぶると、そのまま司令室から出ていった。

日向は背中にミサトの体温を感じていた。
暖かい・・・そして優しい・・・
日向はミサトを好きだった。
世界で一番・・・だけどミサトには他に好きな人がいた。
だから日向は身を引いた。
だがその思いは日に日に募るばかり・・・
何度彼女を白日のもとに抱きしめたい、そう思った事か・・・
しかし、出来なかった。
嫌われるから?
いや、そんなくだらない理由からではない。
そんな事をすれば彼女が苦しむから・・・
苦しむ彼女は見たくない。
ネルフを辞めたのも、
ミサトがかつての同僚を首にしたくなくて苦しんでたから・・・
彼女を苦しませたくない。悲しませたくない。そう思ったから・・・
日向は思い出していた。あの時の言葉・・・
「いいですよ、あなたと一緒なら・・・」
その気持ちは今も変わることはない。

色々と思案している内に仮眠室に着いた。
ミサトをベットに横にした時、2人の顔が至近距離で止まった。
ミサトは寝ている。
日向は無意識のうちに彼女の唇に向かっていた・・・。


次の日の朝は晴れていた。
ミサトが起きてきたのは昼になってからだった。
いかにも二日酔いそうな顔をして、第3司令室に現れた。
既にリツコは最後になるMAGIの整備を終え、コーヒーを飲んでくつろいでいた。
傍らにはマヤもいた。

「あっ、おはようございます。葛城さん」

律義にあいさつをするマヤ、だるそうにしながらも

「おはよー」

と返すミサト。それを横目で見ていたリツコは

「呑気なものね、今日がネルフとしての最後の一日、明日は運命の日なのよ」

と言うとキーボードをたたき出した。
ミサトは周りを見回すと最近は一緒に仕事をしていた二人がいないことに気づいた。

「あっれ、日向君と青葉君は?」

それを聞いたマヤが

「2人とも今日は仕事に行くとかで。今朝早くに出かけましたよ」

ミサトは二人がここまで付き合ってくれて、正直嬉しかった。
二人だって他に仕事があるのに無償で参加してくれたから。
そんなミサトだから

「そう・・・お礼くらい、いいたかったんだけど・・・」

この言葉が口から漏れる。
するとマヤが思い出したように自分の机から手紙を出しミサトに差し出した。

「葛城さん、これ預かってます。日向さんから」

そういって白い封筒を手渡した。それを見ていたリツコは、にやにやしながら

「あら、ラブレター。「年がい」もなく、お熱いこと」

というとミサトの方を見て、反応を楽しむようにミサトの顔を見た。
単純なミサトが冷静に対処出来る筈もなく、

「うるさいわね!そんな訳無いでしょ!」

そのまま少し頬を赤らめて、司令室から出ていくミサトを見つめるリツコ。
彼女はミサトの態度に
(変わらないわね)
と少し嬉しく思い口元を緩めていた。

その手紙をミサトは長い、そして誰もいない廊下で開けた。その手紙には
「お勤めご苦労様でした。これからも頑張って下さい」
とだけ書いてあった。
ミサトはこの手紙の意味がいまいち理解出来なかった。

そしてその日は何事もなく、静かに過ぎた。

次の日も既に暮れた。

そしてその次の日の朝刊の一面には、

「かつての花形特務機関ネルフが国会で解体議決!」


ではなく





























「国会議事堂にNASS航空のジェット機墜落
万田首相以下議員58人死傷。重軽傷者82人」

と書かれていた。


第4話に続く

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