Neon Genesis Evangelion SS.
The Cruel Angel.   extra episode. write by 雪乃丞.




 これで終わりだと思った人、どれくらいいる?
甘い、甘い。 僕は嵐を呼ぶ天使サキエルなんだよ? あれくらいで死ぬわけないじゃん。

「・・・なぜ、私、生きてるの?」
「リリスと一つになって完全体になった君が、あれくらいのダメージで死ねるはずないと思うよ?」
「そう、無に帰れなかったのね、私」

 どんよりと悲壮感漂わせるのは、不老不死な自殺志願者の女の子。 そんな存在自体が矛盾した少女をよそに、少年は困惑を浮かべている、もう一人の少年へと話しかけていた。

「さて、僕がここでこうしている以上、17番目の君の順番は、未来永劫やってこないんだけど」

 使徒は順番に目を覚ますことになっている。 人に作られた人造の使徒であるカヲルは例外としても、他の使徒たちは、サキエルが死亡したことを認識できなくては、目を覚ませないのだ。 前回は、限りなく0に近い所までエネルギーを消耗したからこそ、次の使徒が目覚めたのだが。 ・・・今回は、見ての通り、まだまだ元気なため、次の使徒が目を覚ませなかったのであろう。

「そんな君は、これからどうしたい?」
「・・・僕は、なぜここに?」

 それは、心持ち青ざめた顔に、赤い目、白い髪の少年だった。

「ダブリスゥ。 君って、自由意志の天使なんでしょ? それくらい、自分で決めなよ?」
「・・・しかし、いきなり研究所を爆破されて、そこから誘拐されて、自由にして良いと言われてもねぇ」
「君は、なにを望むの?」
「それは・・・自由、かな?」

 なんとか混乱が収まりつつあるのか、その少年・・・渚カヲルは望んでいるものを素直な気持ちで言葉に出来ていた。

「それじゃあ、退屈しない時間と、自由。 それを君にプレゼントしよう」

 そう言われてキョトンとしていたカヲルに、シンジはニタリと笑っていた。

「これから僕達は、ドイツにいってセカンドチルドレンを誘拐するんだ」
「・・・なぜ、セカンドチルドレンを?」
「そういう約束だから」
「誰かと、その子を殺すとでも約束したのかい?」
「もしそうなら?」

 そう意地悪に尋ねたシンジに、カヲルは呆れた口調で答えた。

「君は、僕にとって好意に値しない存在になるね」
「・・・殺すのなら、私を殺して欲しいの」

 そんな二人に、シンジは小さく笑っていた。

「僕は、エヴァに縛られた女の子を助けると約束したんだ。 だから誘拐しても、殺したりなんかしないよ。 それに、レイ。 君を殺すことなんて、僕にだって出来ないんだ」
「そう。 もう駄目なのね」

 るるるーと涙を流すレイは、たぶん、変なのだろう。

「・・・シンジ君、彼女は何なんだい?」
「使徒リリス」
「いや、そういう意味ではなくて」
「まあ、良いんじゃない? 不老不死なのに死にたがっていても」

 良くはないのだろうけれど。

「大丈夫だよ。 これからは、もう使徒も目覚めないし、エヴァも必要なくなる」

 きっと平和で楽しい毎日になるよ。
そう言葉を続けていたのなら、綺麗に物語を締めることが出来ていたのかもしれない。 だが、彼は天使を飲み込んだ少年だった。

「きっと・・・素敵に楽しい逃亡生活が始まるよ」

 それは、ドイツを始まりとして、一人の少女を、ただエヴァンゲリオンという名の呪縛から解き放つための誘拐劇。 それが眠り続ける使徒が居ることを知る世界に残された唯一の希望、最後のエヴァンゲリオン正規パイロットであるというのなら、きっといつまでも追いかけ続けられることになるに違いない。 海を、空を、そして大地を。 縦横無尽に逃げ回り続ける彼らは、きっと世界一の有名人となるに違いない。 それは、おそらく、世界中を巻き込んだハタ迷惑な逃亡劇となるのだろうから。

「君は、なにをしたいんだい?」
「別に? ただ、騒動を起こしたいだけなんだと思うけど?」
「・・・なぜ、そんな真似を?」

 きっと悪魔は、こんな顔で笑うに違いない。

「僕は、嵐を呼ぶ天使だからね」

 そんなシンジに、なぜか笑いが止まらなくなるカヲルだった。



── Fin ...





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