『らくがき』
目の前で起こっている事柄がまるで信じられない。
見慣れた痕跡があるので、ここは何処なのかは寝ぼけ眼でもすぐに理解できた。
しかし、あるはずの天井には本物の空が存在し、
まだ固まりきらない金属が赤くその存在を主張する大地。
ミサイルの帯が空に流れる光景はさほど珍しくはなかったが、
自分の向かってくるような感覚は初めてだった。
通常チャンネルで交信を試みようとしてみたが、応答はない。
非常回線も返事を返さない事実を前に、困惑気味に通信チャンネルを変えている時に、
こちらを向いて旋回ている二機のVTOL機が目に入った。
怪訝に思いながらも通信を回復させようとエントリープラグのモニタに目を移した時、
視界の片隅で光が上がったのと同時に衝撃と、肩から腕に鈍い痛みが走った。
とっさに光の方向に向かって手のひらを差し出したが、
爆煙が酷くてその先までは見えなかった。
ただ、針で手のひらを刺された感覚のみが彼女に認識できた。
しかし、人工的な射撃音が耳に響いている事で彼女は薄々だが感ずいていた。
自分は人間から攻撃されている側なんだ、使徒と同列の怪物として。
−Rakugaki−『Red
sculpture』
情報がまるでなかった。
VTOLは何処からくるのか増える一方。
機体に書いてある「UN」の文字から広義の所属は分かったが、
自分が攻撃されている理由すら分からない。
しかも、自分が存在している風景はすぐには受け入れ難かった。
そもそも、なぜ自分がエヴァに乗っているのかさえ分からない。
目覚めてみたらいきなり重火器で攻撃されたのだから混乱するのも無理もないだろう。
幸いにもVTOLの攻撃では傷すらまともに付けられないし、
攻撃は振動を生むだけで痛みもほとんどない。
お陰で余裕が生まれたアスカは全神経を無線機に集中して、
情報を得ようと回線を手当たり次第に切り替えてみる。
「捕まえた!」
プラグ内に喜々とした声が響き、ガーガーと唸るボタン式のチューナーで
更に細かく周波数を探り当てようとする。
かなりノイズが酷かったが、何とか内容が分かるまで微調整を繰り返すと、
途切れ途切れながらスピーカーで聞き取れ始める。
『第2発令所制圧には大木を副隊長に再編成部隊を派遣』
『さしたる抵抗はなし、これよりもう一つ下層に移る』
という通信が聞こえてきた。
「なに・・・コノ通信」
アスカはチューナーのレベルを示す画面を見つめていたが、
VTOLの攻撃によりビリビリと伝わってきた振動が無くなった。
あれ、と思った彼女は先程まで攻撃されていた方を眺めた時、
一機の巡航ミサイルが爆煙の中から飛び出してきた。
息を飲む時間しか与えられずに激しい閃光が
彼女を飲み込むと辺り一面にも閃光が飛び散っていく。
「とにかくMG弾じゃ歯が立たん!。
ケーブルを切断した後の時間稼ぎ用にとっとけ!」
光る光景を高台から見ていた司令官らしき男は、
インカムで、周囲が轟然とする空間と格闘する男と話していた。
「今やってますよ!。2撃目からは時間稼ぎに使います!」
激しい閃光をまともに瞳で受けたアスカは目を押さえながら、理不尽な世界に叫んだ。
「どうなってるのよ!。何でこんな事するのよ!」
言葉も終わらない内に背中にVTOLよりのミサイルを受け、
弐号機はそのまま前のめりに地面に倒れ込む。
激しい振動のプラグ内で、電源が切れたことを示すアラームが鳴り響く。
「ちくしょう!」
目を押さえていた手をレバーに戻し、
まだ視力が戻らないながらも機体を立ち上がらせた。
その間も攻撃は絶え間なく彼女の機体に注がれた。
そんな中、アスカの弐号機に待望の通信が入る。
『・・・聞こえる?。弐号機・・・アスカ?』
スピーカーから流れる優先回線経由の声。今までの不安な思いを一掃してくれた。
「ミサト?!ミサトでしょ?!」
『・・・よかった。無事みたいね』
アスカはミサトの言葉を聞くことはしない。
「ちょっと!どうなってんのよ!今のこの状況を納得できるように説明してよ!。
なんで人間が攻撃してくるのよ!。なんでここが戦場になってるのよ!!」
『いいから落ち着きなさい!』
スピーカーからの渇に、アスカは喉を詰まらされた。
『いい?。手短に言うわよ。人間はエヴァを排除しようとしてるの。
少なくとも、あなたに攻撃してる連中はそう。
ここが攻撃されているのもNERVがエヴァを所有しているからよ。
けど、ここが攻撃されてるのはもっと別の理由からなの。
とにかく、自分の身は自分で守りなさい。
エヴァがあればここから逃げ出すのも簡単でしょ。逃げた先の保証はないけど。
私たちと戦う気があるなら今あなたがいる地上には敵しかいないわ。
目に見えるモノは、すべて敵だと思いなさい』
ミサトの言葉に声も出ないアスカ。
『こっちも取り込んでるからまた連絡するわ。幸運を』
通信が途切れた頃には視界は開けていた。ため息を漏らしながらアスカは呟く。
「なんだかな・・・」
活動限界を示すタイマーが少なくなっていくのを見つめる。
「仕方ないよね・・・降りかかる火の粉は払いのけなきゃ。・・・たとえ人でも」
アスカは自分の言葉に、クススと静かに笑いを浮かべる。
「変なの・・・人間なんか消えちゃえ、って思ってた奴の言葉じゃないわね・・・」
そう言い終わるとアスカは瞼を閉じ、すうっと息を吸い込んだ。
「私たちの事・・・
殺そうとしてるんだもんね?。
排除しようとしてるんだもんね?。
だから・・・
いいよね?ファースト。
・・・私たちの存在が最も尊いんだもん・・・一緒に行こう、ママ」
貯めていた息を吐き出しながらゆっくりと瞳を見開くアスカ。
彼女の言葉に呼応するように弐号機が咆哮を発しながら、隠された四つの瞳に光が宿る。
同時に展開されたATフィールドが辺り一面に衝撃波となって襲いかかった。
弐号機を攻撃していたVTOLはもちろん、
半径1km以内に存在していた大地以外の物はその存在をこの世から消した。
むき出しになった広大な大地を眺めながら、アスカは呟く。
「ママ・・・私たち、強いよ。・・・怖いくらいに」
アスカはまだミサイルを発射している部隊に弐号機を向けた。
ゆっくりと向かってくる巨体にミサイルを打ち続けていた勇敢な部隊。
だが、弐号機が腕を振り下ろした刹那、
地表の木々と共にこの世から蒸発してしまう。
そんな光景に赤い光に照らされるアスカは表情一つ変えることはなかった。
靴音のみが廊下に響いている、この広い通路。
刻むリズムは早く、周りにも彼ら二人以外の人影は見当たらない。
「現在、例のモノは第3新東京領空に入っている。
戦線への投入は、ほぼ間違いないようだ」
軍服に身を包んだ男がレポートを見ながら紺のスーツ姿で半歩先を行く男に口を向けた。
スーツの男は彼の方に振り返らずに言葉だけを彼に返した。
「全ての歯車は思惑通りに動き始めたな」
「ああ。第三新東京の結果が上なら、各国の同士も動き出す」
「だが、あまり被害は出したくはないな。
碇が全てを沈めてくれるのが一番だが、やむなき時は頼む」
「全ての準備は我らに任せろ。お前は構えて巧くやれ」
「すまないな・・・。操り人形の皆様にはこの世界からご退席を願おう。
今の時代、彼らは毒以外の何者でもない」
「今は良い若者が大勢居る。癌を摘出しても人類は生きていけるさ」
「軍隊の展開は任せるが、残りはせいぜい歩兵師団相当で2個師団が良いところだろう。
今動いている人員では少し多すぎるんじゃないか?」
その言葉を聞き、軍服を着た男はガハハと笑った。
「情報戦は大したモノだが、用兵術はもう一歩だな、伊藤。
今第3新東京を攻撃しているのも元は仲間だ。被害は少なく事を納めたいだろ」
そう言ったところで、正面から小走りに駆けてくる人影が彼らの視界に映る。
グレーのスーツに身を包んだ彼は、紺の男にFAX用紙を一枚差し出すと、
来た方向へ慌ただしく駆けていった。
受け取った彼はスッと用紙に目を走らせた後で、隣の軍服の男に紙を渡した。
「イギリス?、まさか彼にも話を?」
「あぁ、ベルナは頭の切れる男だ。あっちの牽引には最適の人物だろう」
「・・・確かに。
だが今の時点でトップは危険だろう。もしリークしたら全てが潰れる」
「奴はこの黒い水の中で生きている数少ない首脳の一人だ。
この話を持ちかけたときの目の輝きをお前にも見せてやりたかったよ」
長く続いた豪華な装飾を施された廊下も、彼のそんな言葉と共に終わった。
足を止めることなく、伊藤と呼ばれた男は目の前のドアをノックもなしに
押し開くと、連れの男と共に部屋へと消えていった。
「馬鹿な・・・もう五分はとっくに過ぎてるはずだ!
電源は切れてるんだろうな?!」
「電力供給は完全に寸断されています」
「だが、現に奴は止まってない。他からの電力供給システムがあるんじゃないのか?」
比較的安全な戦自の作戦司令部でも怒声が先程から消えることはなかった。
たとえ一機でも、エヴァンゲリオンは戦自の部隊など簡単に殲滅できる力を有する。
「やはり押さえることは出来なかったか」
浮かぶモノリスの一つから声が漏れた。
「動き出す前に押さえられれば事は易かったのだが・・・致し方ないだろう」
「神の玉座を拝む前の良い余興程度のこと。予定の範疇のことだよ」
「反目もここまでだ碇、すでにチェックメイトは終わっている」
光の壁が大地を殺ぎ落としていたとき、弐号機が上を見上げ再び咆哮を上げた。
プラグ内のアスカもそれに習い上を見たとき、青空の中に小さな翼が複数見えた。
「なに?」
その陰は第3新東京市上空を旋回しながら
確実に降下してきていたのが彼女にも理解できた。
「シンジ君、あなたはどうするの?」
目当ての通路直前で止めたルノーからシンジを引きずり降ろすと彼女は辺りを見渡す。
ついさっき敵の検問を破ってきたお陰で車には無数の銃痕が付いていた。
追っ手が来る前に早くこの場を離れなければと思うミサトだが、荷物の足取りは重い。
その時、一台の装甲車両がミサトの目に入る。
同時に正面のマシンガンがこちらに向いているのが見えた。
とっさにシンジの頭を押さえつけてルノーの陰に隠れた直後に銃弾が降り注ぐ。
シンジの頭を抱えながらエレベーターのある通路に逃げ込もうと
腰を浮かした瞬間、銃撃が止んだ。
なに?
とミサトは思ったが、静寂の中で機械音が聞こえた。
「ちょっと、マジ?!」
シンジを思い切り引っ張ると、少しでも離れようと無我夢中で走り始めた。
通路のすぐ前でルノーを止めていたのは正解だった。
ミサトが通路に足を踏み入れた瞬間、徹甲弾がルノーを貫いた。
一瞬の間の後に炸裂した徹甲弾がルノーを吹き飛ばし、
ミサトはシンジを強く抱え込むと、床にその身を投げ出した。
床の上で堅く体を固めた直後、爆発の煽りが彼らを包み込んだ。
第二発令所にも銃撃の音が鳴り止むことはなく、
副指令が存在するこの場さえも攻撃を受けていた。
幸いにもここにはMAGIのオリジナルがあるため、戦自隊員も力攻めには出来ない。
とはいえ、もともと戦闘が本職ではない彼らであるから、
長くは持たないであろう事はここにいる誰もが思っていることだった。
現に、MAGIが置かれている階層以下は制圧されていた。
あとは、MAGIの階層と
その上のオペレーター達のフロアのみが唯一の抵抗を続けていた。
まだ爆煙が収まらない中、倒れ込んでいたミサトは抱いたシンジに声をかける。
返事はないが問題はなさそうだった。
耳がキーンとする以外には、特に問題がないと感じたミサトは屈みながら、
その先にあるエレベーターに向かった。
爆煙が起きたのが幸いしてか、追っ手はまだ来ない。
辺りを見渡しながら慎重にエレベーターの電子ロックにNERVのカードを通す。
カードを認識したロックがエレベーターのドアを開けさせた。
シンジを先にエレベーターに入れると、
カード挿入口横の電子版にある数字のキーを押したあとでカードを抜いた。
戦自隊員が来なかったことに感謝しつつ、ミサトもエレベータに乗り込む。
特有の音の中で、ミサトは隣で座り込むシンジをちらりと見る。
「シンジ君、このエレベータはもう使えないわ。
今通ってるここをベークライトで固めてしまうから」
返事はない。
「あなたが置かれている状況は分かるわね?。
シンジ君・・・もう逃げる手段は一つしかないわ。
エヴァに乗りなさい。それしか生き残る術はない」
それでもうつむくだけのシンジ。
「シンジ君!」
ミサトはうつむいているシンジの胸ぐらを右手で掴み上げると、
左手で顎を押さえて彼の顔を自分の正面に向けた。
「分かったの?。分からないの?。ハッキリしなさい!」
シンジはミサトが見えないところに視線を移すと、一言だけ呟く。
「もう・・・ヤです」
彼女は彼から両手を退けると、シンジの肩に両手を伸ばす。
「辛いことばかりだから・・・乗りたくないの?」
彼からの答えはない。
「この前言ったたわよね?・・・自分が死ねば良かったって。
だから乗らないの?」
シンジからの答えはなかった。
一息ため息を吐くと、ミサトは彼に視線を刺して続けた。
「そのまま腐ってれば、さっきの連中が殺しに来てくれるわよ。
あなたはそれでいいのね?。シンジ君は死ぬ覚悟はできてるのね?」
そんなミサトの言葉にシンジは口を開いた。
自分の中で何度も自問自答していたことなのだろう。
「ボクが生きていても・・・他の人を傷つけるだけだ・・・。
トウジも・・・カヲル君も・・・アスカも。・・・だから・・・いいんだ。
ボクなんか・・・」
最後まで聞くことなく、
「そんなこと聞いてるんじゃないでしょ!。
死ぬ覚悟があるのかって聞いてるのよ!。どうなの?!」
しかし沈黙の時が続き、目的の階層に付いたとエレベーターが鬨の声を上げる。
エアロックが外れる音と共にドアが開く。
音のした方に振り返っていたミサトは、再びうなだれているシンジを見つめた。
ミサトは彼の肩に置いてあった左腕で首を締め上げる。
同時に右手で腰に付けていた銃を抜くと、シンジの胸に銃口を押しつけた。
「あんたが死を望んでいるならそれでもいいわ。人間なんか簡単に壊せるもの。
・・・いいわ、じゃぁ死ぬのがどんなに苦痛か教えてあげる。
意識がなくなるまで、人として逃げたことを後悔すればいいわ。
その先に”なにかがある”なんて考えない事ね」
ミサトはシンジの左の腕に銃口を移すとそのまま引き金を引いた。
弾丸は彼女の思うとおり、骨から離れた部分を貫通し、エレベーターの壁に刺さる。
金属音が響いた一瞬の後に、シンジの叫びがエレベーターに木霊した。
まいど、南里です。とにかく核となるシナリオだけの「らくがき」です。
ま、それだけの表題ではないんですけどそれはまた後でということで。
余分な描写は一切省きますので、読者は置いてけぼりになるでしょう。
が、今の私にはこれが限界なので。(--;)
話は変わり、「神様、もう少しだけ」というドラマを見た。
エイズが一大テーマかと思って見ていたのだが、
放送を見る限りではこの辺りはあまり深く考えていないようだ。(^^;)
ドラマが流れているだけ。上記の作品は娯楽ドラマだという事だろう。
それなら「GTO」や「今宵、宇宙の片隅で」の方が100倍面白い。
問題外のドラマの方が多数あるが、それは言わぬが花。
さて今回は饒舌。サッカーの話を少し。
浦和レッズが強い。ペトロビッチが上手い。Jはこれだけ。
中田っちも大した奴。調子が落ちてるユーベとはいえ、あの活躍は驚いた。
浪速の黒豹はチームに全くとけ込んでいない。やばいぞエムボマ。
とけ込んでいないと言えば、B.ラウドルップ。
巧さは見せるが周りは見学。好きなだけにちょっと可哀想な目で見てしまう。
話変わってアヤックスばりにインテルBを作ったら、
伊セリエAの6位以内は余裕で取れると思うのは俺だけだろうか?。
中でもピルロ(まだ19歳)が素晴らしい。小野も凄いがピルロは”はるかに”上。
久しぶりでワールドクラスのイタリア人攻撃型MFの誕生かと思わせる。
相方のヴェントーラもあれで20歳かと思うほど。
インテルの若手だけでもイタリアは安泰だな。(^^;)
反面ユベントスのエンジンがかからない。
下手すると今年はチャンピオンズリーグの予選を通過できないかもしれないぞ・・・。