京都にいたころ

そして赤毛の幼馴染の女の子がいて、二人と供に遊んでいた頃

関西弁の黒ジャージの男の子や、いつもカメラで遊んでいる眼鏡の男の子

そしてそばかすとおさげがチャーミングな女の子の六人で、よく神社に遊びに行っていた。

上京区にある兄妹の家からは少し離れている伏見区の伏見の稲荷神社

山一つを巡りながら様々な社を通りすぎて駆け巡り

そして途中の茶屋で水あめを買って一緒に飲む。

とても単純で、なにもないけど、しかしみんなではしゃぐのが楽しかった頃

兄妹が極普通の日常の中にいた頃

 

その記憶は

兄妹の中で大切に大切にしまわれていた。

 

 

 

 

「碇君て、愛想はいいけど、ホントは何考えてるかわかんないよね」

「碇さんて、綺麗だけど話さないし、なんか余所余所しい感じがするね」

 

これが、転校してから五日目にしてすでに定着しつつある

二年B組生徒の碇兄妹に対する認識だった。

正直、あまり良い評価ではない。

 

「「なにより怖いよね、ちょっと。強いだけでなくて冷たい感じがして」」

 

ここまで来るとかなり印象が悪かったと言えるだろう。

 

大門高校の構成員は、生徒から教諭までおおよそ“多様性”寛容な部類に入る。

と、言うより個性的過ぎるな生徒並びに教師が集まり過ぎているこの高校ではやっていけない。

さらに、このクラスの生徒は、よい意味で(多分)一般常識にとらわれない。

 

それはなにより、南雲慶一郎をはじめとした極めて個性的な(一部ではある)教諭達と特に縁が深く

草薙静馬といった暑苦しくトラブルメーカーでひょうきんで人気者といった強烈なキャラ 

アイドル的な容姿と面面は良いがその実強かで草薙以上にトラブルメーカーな神矢大作

さらに御剣涼子といった普段はクールでストイックな、ハンサムな美人でも

彼らと交わるとストッパー的で、ツッコミの相方のような役目担うもの等など

かなり個性的な面々・・・・いわば際物がそろっている。

いくら極めて硬質な、近寄りがたい雰囲気を醸し出す美貌の持ち主とはいえ

はっきりとアルピノとわかる特性が神秘的

あるいは人外のようで恐ろしく近寄りがたいとはいえ

それはこの際、問題にならない。

 

結局のところ、当人達がまるで周りに気を許そうとしないのが問題なのだった。

 

唯一互いにまったく壁をつくらず話しているのが涼子ぐらいで

その関連で大作、結城ひとみなどとはそれ相応には会話をしていた。

 

もっとも大作に関してはシンジは表面だけの歓迎

レイは明らかに非好意的だったが・・・

 

シンジはそれ相応に話をするし、表面上愛想もいいのだが

ともかく妹のレイが極めて無口、無表情であり

シンジも絶えずそんなレイを優先しているので、会話らしい会話が続かないのだ。

だから、転校初日に奇跡的にも仲が良くなった涼子とひとみのみが二人と互いに隔意なく話しているくらいだった。

 

 

さらに、もともと涼子自体、静馬といつもドツキ漫才に講じてクラスをにぎわすものの

大作以外のクラスメイトとは大したつながりもなく

ひとみは隣のクラスである。

シンジ、レイ、涼子の会話に大作が警戒しながら入って行き、時折はじき出され

そして休み時間には隣のクラスのひとみが来るのがこの二,三日の定番となっていた。

 

ちなみに、その大作は何故か比較的おとなしかった。

せっかく極めつけの美人兄妹が入ったのである。

大門高校の様々な怪しい部と競合して策謀し

二人を生け贄に話題を作り上げてもおかしくないのだがほとんどそのような行動をとろうとしなかった。

 

それは、散々兄妹をカメラに収めようとし、その度に涼子から制裁を加えられ

最後にはカメラを破壊されたこととは・・・関係ない・・・・と、本人は否定している。

ただ、大作が表立って前述のような行動することを躊躇さるほど影響力のある人物は

涼子だけだとはこの高校の誰もが認識していた。

 

いい具合かどうかわからないが、草薙静馬はその間一度も登校しておらず

慶一郎は夜中、極道の屋敷で見たシンジとレイの行動が忘れられず、始終様子を伺っており

ガス抜きも出来ず不完全燃焼でどこか妙な空気がクラスに漂い始めた頃

 

 それが転校六日目の土曜日であった。

 


 

ふ・た・り

第六話

 

『鬼塚神社で社交デビュー?』

前編

 


 

 

「・・・・・・と、いうことだ。とりあえず今日の伝達事項は以上だ。記載については提示版を各自読むように、では終わる」

 

それだけ言うと、礼の合図もなく慶一郎は教室から出ていった。

 

四時限目も終わった土曜の昼

退屈な授業も全て終わり、ホームルームで担任である慶一郎が様々な伝達事項を伝えていく。

基本的に長話の“大”嫌いな慶一郎のそれは、極めて短く簡潔に、しかも要点を伝えるもので

さすがのこのクラスもおおよそ無駄話、爪の手入れ、枝毛のチェックその他はしていない。

特に土曜となると慶一郎は下宿先の鬼塚家、その昼食の支度が気になって仕方が無い。

だからいつもよりさらに一割増し早く終わるので、生徒たちに文句があろう筈が無い。

そして、号令も省いて終わるのも休みでない土曜の常だった。

 

 

 

 

「ねぇ、今日これから、ヒマ?」

 

とりあえずホームルームも終わって、帰り支度をしていた碇兄妹に涼子が声をかける。

二人はちょうどバックに荷物を詰め終え、顔をあげた。

 

「まぁ、特に用はないですが・・・・」

「じゃぁさ、今日の午後私と付き合わない?」

「はい?」

「だから、ちょっと来て欲しいところがあるの」

 

いきなりの発言に珍しくシンジが面食らい

レイが微かに眉を寄せ瞳を細める。

そして

 

「「「「「「「「おおおおおおおおお〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!???」」」」」」」

「ついに涼子ちゃんも草薙君を見捨てるのね」

「思えば時間の問題だったよなぁ」

「しかし碇君狙いなんて・・・涼子って面食い?」

「そういやぁ、身長差もあるし、けっこう御似合いかな」

「そうだよな、御剣が女に見える・・・・・・・」

 

涼子の爆弾発言?に沸きかえる教室

クラス中がこの話題でいっぱいになり、だれも教室を出ていこうとしない。

 

「しかし碇っていっつも妹の相手ばかりしてるよな」

「そうよねぇ、相手の双子の妹がライバルなんて大変」

「どっちが勝つと思う?」

「アタシ、涼子に賭ける」

「おれは碇妹!」

「その呼び方やめなさいよ、レイさんに失礼でしょっ!」

 

時間がたつに連れて沸き立つクラス

終いにはレイと涼子のどちらが勝つか、賭け事もまで始まっている。

なにやら盛大に勘違いしているらしく、口々に的の外れたことを口走っている。

そして、その度に涼子の非大尉太い血管の筋が浮かぶ。

そのうち、その浮き出た静脈から血でも噴出しそうにまで太くなったとき

 

「で、涼子さん、なんで静馬さんから碇兄に乗り換えようなんて思ったんですか?」

ブツっ!!

 

涼子の頭の中で何かが音をたてて切れ、反射的に手が動き

 

バキッ!

「―――――――――――――ッゥゥゥゥァア!!!」

 

最後に態々小型の録音マイクまで持ち出して聞いた大作の頭に見事涼子の特殊警棒がヒットする。

 

「「「「「「「「「―――――――――――――」」」」」」」」

「りょ、涼子ちゃん?」

「フ、悪は滅びたわ・・・・・」

「悪って・・・・・・・(涼子ちゃん単に苛苛したから手近な神矢君にやつあたりしたんじゃぁ?)」

「――――――――――――!!―――――――――っ!???」

「「「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(汗)」」」」」」」

 

一罰百戒とでも言おうか、

殴られた頭を抱かえて、声にならない悲鳴を上げながら床を転がる神矢大作の悲惨な最後(笑)を見て

そして右手で特殊警棒を弄びながら不適に微笑む涼子を見て

以後みんな青ざめた顔をして黙ってしまい

ただ一人、彼女の友人、ついさっきやってきた隣のクラスの結城ひとみが彼女にツッコむ。

ちなみに、シンジは展開についていけず

レイはいきなり始まったクラスのざわめきとそれを黙らせた涼子の恐慌に面食らい

とりあえず、ことの推移を見守っていた。

 

「で、どうする?」

 

打って変わって零れるような笑みを浮かべ、聞きなおす涼子

相変わらずシンジは微苦笑し、レイは面食らっている。

二人の人を寄せ付けない雰囲気が緩和されて、そうなるとその美しさ、愛らしさが際立つ。

 

「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」

 

思わず見惚れるクラスメイト達(今だ床でのた打ち回っている大作を除く)

そんな様子にかまいもせず、マイペースな3人は話を続けていた。

 

「ええ、行くわ」

「そうだね、今日は特に用事も無いし・・・・・」

「じゃ、このまま行かない?時間もったいないし・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・すみませんが、やはり着替えたりしたいので、一度家に戻ります」

「じゃぁ、私も御邪魔するわ」

「ちょっと涼子ちゃんそんなぶしつけな・・・・・・・・」

「何言ってるの?ひとみも来るのよ」

「え?私も?」

「そう♪」

「それでは、そろそろ出かけませんか?時間もありませんし」

「ええ」

 

そして、碇兄妹、そして涼子にひとみはそれぞれの荷物をもって教室をでる。

シンジはいつものごとく目を細めた微笑を浮かべたまま

レイは涼子の話しに相槌を打ちながら、少し楽しそうに

ひとみは時折教室を降り返り、そして小さく溜息をついて首を左右に振りながら

 

『『『『『『『『『いったいどこに行くんだぁ〜〜〜!?』』』』』』』』』

 

と、これはクラスメイトの全てが思ったことであるが、誰も聞けなかった。

とっつきにくい(と、感じている)碇兄妹

先ほど不用意な発言のご褒美に大作を殲滅した涼子

特に涼子が

 

『コレ以上ゴチャゴチャ言ったら・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

なんてレイに笑いかけながら時折そんな視線を向けるので、なにも聞けなかった。

 

 

後には涼子達が去って気が抜けたように座りこむクラスの面々と

今だ泡を吹きながら床でのた打ち回る大作が残された。

 

 

 

 

 

 

六月

梅雨にふさわしく、ドンヨリとした曇り空

風も少なく、正直ジトジトしていて

そんな中、涼子は随分とご機嫌に水溜りのある歩道を歩いていた。

 

「じゃぁ、ボク達はちょっとスーパーに寄りますが、どうします?先に行って待ってますか?」

「シンジ君何買うの?」

「ちょっと昼食の材料など、涼子さんとひとみさんがいらっしゃるなら買って来ないと足りないので・・・・」

 

冷蔵庫や倉庫の中身を思い出しながら答えるシンジ

そして、横ではいつも手伝いをしているレイがうんうん頷くなど、珍しくリアクションしている。

思わずその仕草に見惚れてしまう涼子

 

(ああ〜〜〜、レイちゃんなんでアナタはそんなにカワイイのォ!!!て、違う私は私はそんなんじゃっ)

「「??」」

「だ、大丈夫!ご飯はコレから行くところでご馳走になればイイからっ!だから着替えたらすぐに行きましょっ!」

(涼子ちゃん・・・・・・もう、手遅れなの? サムライフリークと同じで、戻って来れないの?)

 

涼子が何故かほんのり頬を赤くしてレイを見つめている様に

そして突然必死に首を振り、己の考えを打ち消そうとする様子に

事情のわからないシンジとレイはどうしたのかと首を傾げ

その内心を正確に把握した親友のひとみは悲しげに首を振る。

そして、すでに涼子が碇兄妹をどこに連れていくのか理解したひとみ

己の予定のためにも、ここは辞退しようと策を練る。

ここはスマートに行く事にした。

 

「で、でも涼子ちゃん・・・・・涼子ちゃんはともかく私は着替えが無いんだけど・・・・・・・」

「あら?ウソはいけないわ、ひとみさん?」

(ダメよひとみ、ネタはあがってるのよ)

 

残念そうに装い、今回の目的地に行くのを辞退しようとするひとみ

しかし涼子は逃さない。

 

「え、私ウソなんて・・・・・・」

(涼子ちゃん、そんなに顔近づけないで、私をソッチの趣味に引き込まないで)

「アナタ、ホントは何時も使う駅のロッカーに着替え置いてあるでしょ?」

(ダメよ、そんな私の目は誤魔化せないわ)

「え、そんなこと・・・・・・・・・」

(だから、そんな息かかるほど顔近づけないで・・・・・・・そんな事は学校の涼子のファンの娘達にやってあげてぇ!!)

「ひとみ・・・・・、あなた今日ホントはあのバイパーズの生徒会長的No,2の優等生とデートだったでしょう?」

「え?」

 

途中までまったく内心かみ合わない会話をしていたのだが

涼子が自分の予定の意外な部分を知ってることに、ひとみは始めて涼子の話し自体に注意を向ける。

 

「ど、どうして知ってるの?」

「私に不可能なんてないのよ!!」

「・・・・・・・それで、本当は何故?」

「あ、レイちゃん、本当はね、優等生のほうから聞いたの」

「なんで涼子ちゃんに氷室さんがしゃべるのよ!?て、いうか何時聞いたの!?」

「さぁ、いつかしらぁ〜〜〜?」

「涼子ちゃん!!はぐらかさないでっ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・どうやって聞いたの?」

「あ、レイちゃん、あのね、たまたま私が今日ソイツを呼び出したの」

「呼び出した?」

「あっちの優男・氷室那智っていうんだけどね。ひとみの彼氏たるアイツを呼び出す際にそんなことイイワケにして断ろうとしたから知ってるわけ」

「りょ、涼子ちゃん!?」

(な、なんでレイさんだとそんな風にアッサリ答えるわけ?それになんで氷室サンのことばらすの?それ以前になんで涼子ちゃんが氷室さんを呼ぶわけ!?)

「そう、彼氏なのね・・・・・・・」

「レイさんまで・・・・・・」

 

レイが聞くとあっさり涼子は答えてしまい、さらに彼氏との関係をばらされ

その彼氏はどうやら涼子に呼び出され、そのせいで今日の予定がばれたらしい。

レイまでそんなこと言われて涼子は少し沈んでしまった。

 

「ま、ひとみもそんなに沈まないの・・・・ちゃんとあの優等生には会えるんだからさっ!」

「そうなの・・・・・彼氏にはちゃんと会えるから心配しなくていいの」

「二人とも・・・・・・・・・・・」

 

なにやら自失しかけているひとみを余所に、涼子と楽しそうに笑い

レイは心配そうに顔を近づける。

涼子は自分の顔を覗いて来るレイの整いすぎた

しかも、いつもの無表情でない、こちらを気遣う様子に思わず赤面し、鼓動が早くなる。

 

(う・・・・・・・・・かわいい・・・・・・・・・・・・・違う違う、私にそんな趣味無いんだから!)

「え?う。ううん!大丈夫よ、レイさん。向こうでちゃんと会えるし、私そんな気にしてないわ」

「そう?」

(そんな風に首を傾げないで〜!?口元に手を添えないで〜〜っ!!私は涼子ちゃんと違うんだから!!)

(くっ! ひとみ、アンタもレイちゃんを狙ってるのね!でも譲らないわ!!・・・・・・・・・・・て、私なにいってるのっ!?)

レイの凶悪に愛らしい仕草を見て涼子とひとみが己の道を踏み誤るまいと盛んに首を振り

頭からアブナイ思考を追い出そうともがく。

 

 

 

「ま、こんなのもいいかな・・・・・・レイがあんなに笑うの久しぶりだし・・・・・・・」

 

その少し後ろから3人の様子を眺めていたシンジは何時もの有るか無きかの笑みでなく

目を見開いて、しかし穏やかな表情で見ていた。

 

「ま、ちょっとひとみさんが可哀想だけど」

(ついでに、雰囲気アブナイんだけど・・・・・・・レイも気づいてないし)

 

最後は少し苦笑していた。

 

 

 

 

 

 

 

そして、結局

ひとみは肝心な予定の御相手が涼子に捕らえられていることも有り動向を承諾

四人でも目的地に向かうことにした。

ひとみのにもつを駅のロッカーまで取りに行くと、そのまま碇兄妹のマンションまで向い

そして兄妹は手早く着替えた。

ちなみに目的地で別の服装に着替える涼子は大門高校のセーラー服のまま

ひとみも結局着替えることをせずに、碇宅でシャワーだけ浴びた。

どうも着替える気がうせたらしい・・・・・・・

(だってデート駄目になったんだもの・・・・・・・・)

ひとみは少し息消沈していた。

 

そしてレイとシンジはペアルックで決めていた。

お揃いのキャタピラーブルーのベスパジャケットに ダークブルーのヘリーハンセン ハーフジップシャツ

そして コロンビア エルクリバーパンツ にスニーカーと決めていて

 

「お、御二人さんお揃いですね・・・・・仲いいじゃん」

「・・・シンジといっしょ・・・・・・・」

 

涼子がからかい、レイはお揃いでご機嫌だった。

 

「で、どこ行くんですか?」

「ふふ〜ん、飛天神社よっ!」

「・・・・・もう、そこの人は行くこと知ってるの?」

「大丈夫。あらかじめ伝えてあるから」

「涼子さんの剣術の先生の家ですか・・・・・・なんか悪いですね」

「いいのいいのっ!!南雲先生がご飯つくって待ってるから、はやく行きましょっ!」

「涼子ちゃん、涼子ちゃんの家じゃ、ないんだから・・・・・・・・・・」

 

話はとんとん拍子に進んでいく。

仮にも剣の師匠と担任の教師の家を我が家同然に扱う涼子に

ひとみがためらいつつも注意しようとするが

 

「ここからだとあの通りを下って・・・・・・・・」

「あ、そこを右にまがるんですか・・・・・」

「ちゃんと覚えておくの・・・・・」

 

涼子はまったく聞いた様子も気にした様子も無く、シンジ達に道順を説明していた。

 

「ちょっと遠いですね」

「そうね、歩いて一時間あるかしら?」

「まさに大門高校挟んで反対側ですか・・・・・」

「最初から直接行った方がよかった?」

 

距離と涼子の言葉にシンジは少し考えるように顎に手を当て

レイはそんなシンジを見ている。

 

「大丈夫・・・・」

「さてと、ちょっと玄関で、待っていてくださいね」

 

なにか考えたのか、シンジがそう言って、レイと二人でマンション地下へと向かった。

 

「なにしにいったんだろう?」

「マンションの地下に行ったみたいだけど・・・・・・・・・・何があるのかな?」

「地下って駐車場だったっけ?」

「私知らない」

 

取り残された涼子とひとみは、そんなことを呟きながらマンションの塀に寄りかかって待っていた。

 

しばらくして静かなエンジン音とともに二台のスマートなシルエットのバイク

カワサキのミドルツアラー・KLE400が二台来た。

シンジが乗っているのは鈍いシルバーボディー

レイのものは髪の色のままの蒼銀のボディーだった。

 

「お待たせしました!」

 

待っていた二人の目の前に止まり、シンジがメットをはずして声をかける。

 

「ちょっとこれで行くの!?」

「ええ、早くてイイでしょ?」

「そりゃ、そうだけど・・・・・・」

「じゃ、ヘルメット被ってくださいね」

 

さすがに面食らっている涼子にシンジはさも当然とばかりに言い切る。

そして兄妹は涼子とひとみにヘルメットを渡す。

 

それぞれバイクにまたがった碇兄妹に続き、涼子はシンジの後ろに

ひとみはレイの後ろにまたがった。

 

 

『じゃ、行きますからね』

『へ?』

『ヘルメットにトランシーバが付いてますから、話しが楽に出来ますよ』

『そ、そうなんだ』

『じゃ、涼子さん、ひとみさん・・・・改めて行きますよ!!』

 

いつもより溌剌としたシンジの声で、二台の美しいバイクが出ようと・・・・・・

 

『ちょっと、待った!!』

『わ、』

『な、なに涼子ちゃん』

 

出ようとしたのだが、涼子がいきなり叫んだので発車を見送る兄妹

 

『なんですか?涼子さん』

『それそれ!! 私のことは涼子って呼び捨てで読んでって言ったでしょっ!』

『はぁ〜〜(涼子ちゃん・・・・・)』

『・・・・・・・・・・』

『判りました。行きますよ、涼子、ひとみさん、レイ』

『それでよろしい』

 

気を取りなおして、出発した。

 

 

 

 

 

二人乗せていることなどまったく関係ないように滑り出す二台のKLE400

順調に加速し、高速で道路を過ぎる。

が、極めて静かである。

 

『ねえ、なんでこんなに静かなの、このバイク・・・・・』

『はい?』

『バイクって走るとうるさいくらい音がでるものじゃないの?』

 

前に草薙静馬のバイクに乗せてもらったとき、とんでもなく五月蝿かったことを思い出した涼子は

それが疑問で聞いてみる。

 

『ああ、あの走ってて爆音を轟かせるバイクは、態々そういうマフラーとかを使ってるのが多いんですよ』

『そうなんだ?』

『まぁ、バイクはそれがいいんだ。なんて、よく乗ってる人はいうけど、ボクは五月蝿いの嫌いですから』

『へぇ』

『だから逆に、ボクとレイのKLE400はエンジンとマフラーに走るのに邪魔にならない程度に消音装置をつけたんです。ちょっと高くなったですけどね。音が大きいほうがいいですか?』

『ううん、静かなほうがイイ、でも速いね、走るの・・・音が無いから余計そう感じる・・・・・・』

『怖いですか?』

『・・・・・・・・・・・・ちょっと・・・・・・・・』

 

音が無いので目立たないが、シンジは常に八十キロ近くで走っている。

これでバイクに乗るのが二度目の涼子は、さきほどから口数が妙に少なく何時もの勢いが無い。

そいてシンジの胴に回された腕は微かに震えていた。

 

『じゃ、しっかりつかまっててくださいね、スピード落としませんから』

『もしかしてスピード狂い?』

『さぁ』

『イジワル・・・・』

『クス・・・・・・』

『あ、笑った!』

『ゴメンゴメン、じゃぁホントにしっかりつかまってください』

 

シンジはさらに加速する。

涼子は思わずシンジにキツク抱きついた。

するとキャピタルブルーのジャケットから、微かにシンジの体温を感じる。

 

(痩せて見えるけど、やっぱり背も高いから背中広い・・・・・それに固い)

 

涼子は鼓動が早くなり、顔が熱くなるのを感じた。

シンジから微かに香る香水の匂いもけっして不快出なく

すこし酩酊したようなふわふわした気分にさせられる。

涼子は切なくなってより強く抱きついた。

豊かな胸がシンジの背中に押し付けられる。

 

(イイ匂い・・・・・・・大きな背中・・・・・静馬より広いね・・・・・・・・)

 

 

ちなみに、レイとひとみのほうは、ひとみが早々に目をキツク瞑ってレイに抱き着いていたので

そしてレイがもともとしゃべらないので、まったく静かだった。

レイは何時も滑らかな安定した走りなのに、今日に限って乱暴な運転である。

 

涼子がシンジに抱きついているのが不愉快なため

ようするに嫉妬してイライラしているためとは犠牲者たるひとみは気づかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

そして

十五分かそこらで、二台のバイクは飛天神社のある神社に着くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちょっと設定

 

 

ちょっと設定

 

KLE400

 

 

車両本体価格(東京地区) 50.9 万円
総排気量 398 cc
全長 2210 mm
全幅 870 mm
全高 1280 mm
定地燃費 36.5 km/L
発売年月 1999年1月
販売国 日本国内モデル

 

 

 

取り回しの良さや快適なライポジを優先させて、オフロードスタイルを取り入れたミドルツアラー。

エンジンはGPZ900Rの技術を活かした水冷DOHCツイン

走行風を取り入れてシリンダーヘッド周りの冷却を促進するK-CASを採用

高速巡航時の性能安定性を高めている。

41φ正立フォークにリンク式モノショックで前後ディスクで足回りも万全

シンジ、レイの乗っているのはコレをさらにチェーンナップしたもの

消音装置を付けた分重くなり廃熱に無理がかかったのを水冷機構の改良

エンジンを耐久性が落ちない程度に軽量化したことで補った。

パワーも上がっているが、どちらかというと耐久性と安定性をメインにカスタムアップされている。

 

 

 

シンジの香水

 

カルバン・クラインのエタニィティ・フォー・メン

『永遠の男』

香りのベースはフローラル系だが、クールで透明感がある男性的なフレグランスもある。

しかし、そのイメージは子を宿すことで少女性を失う女性から見た男性像

『永遠の少年』の像ともいえる。

 

イイ香水です。

間違い無く

 

ちなみにレイの香水はローズ・カメリア

あるいはIN・LOVE・AGAIN

 

(つづく)

 




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