モーツァルト・エッセイ (2004.11.26)
モーツァルトとトリビア!(及び カノン K233、234偽作説)
フジテレビの人気番組「トリビアの泉」(2月18日)でモーツァルトのカノンが取り上げられたのをご覧になられた方も多いと思う。
この日、4番目のトリビアとして登場したのは
「モーツァルトは、『俺のケツをなめろ』、という曲を書いた!」……というもの。
可愛そうに妙齢のお嬢さんたちが歌わされてました。(因みに結果は、81ヘェ〜)
さて、曲は、六声のカノン K231
「俺のケツをなめろ」 Lech mich im Arsh
(旧全集では「愉快に暮らしましょう」 Lass froh uns sein)
この曲には、非常に謎が多い。
旧全集では、おそらく編集者により別な歌詞にさしかえられている。
自筆譜がないため、冒頭部分以外の原詞の歌詞の信憑性に乏しいとして、新全集では冒頭のみを収録、以降は旧全集の歌詞を掲載している。
因に Lech mich im Arshは、「俺のケツをなめろ」という 字義そのものより
「くそくらえ!」(小学館独和大辞典)、「消えうせろ!」(クラウン独和)、「こん畜生」 (海老澤 訳)という意味に訳したほうがいいスラングであるから、スカトロジーと大騒ぎするより、晩年のカノン同様のしゃれ、ふざけ と解釈したほうがよいと思う。
また、ほぼ同じ内容の歌詞を持つ、K233、そして K234はヴォルフガング・プラートの研究により偽作(他人の作)であることが判明している。
即ち、
K233 「おれの尻をなめろ、きれいにきれいにね」
(旧全集では、「おれにゃ酒だけが楽しみだ」)
K234 「喰って飲んで身が保つ」
(前作同様、新全集では冒頭のみを収録、以降は旧全集の歌詞を掲載している。)
1988年のシンポジウムでのヴォルフガング・プラートでは、ヴェンツェル・トゥルンカ・フォン・クルゾヴィッツ(1739−91)の作品と断定されているそうである。今後、この曲を聴く機会はますます少なくなりそうだ。
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*参照文献
・海老澤敏「超越の響き」小学館 1999年664頁
・小林義武 「バッハ 伝承の謎を追う」春秋社 1995年 143頁
・Plath '91 opera incerta 所収論文 (未読)
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* 日本モーツァルト愛好会 2004年 2月例会発表原稿から
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