モーツァルト・エッセイ         (2004.11.26)


ピアノ協奏曲K488 謎のピッチカート                                                                                                        

 すべては、1989年のバレンボイムのCD新盤(テラーク録音)から始まった。

また、そのCDについての井上太郎氏の指摘に始まったのがこの騒動?である。

それは、どういうことかというと、

 第二楽章 84〜91小節の弦楽部の譜面が、旧モーツァルト全集では、弦楽四部ともピッチカート指定であったのが、1959年刊行の新モーツァルト全集初版においてピッチカート箇所が ヴィオラ、バスのみにあらためられた。

 (校訂報告に理由記載なし、自筆譜では同様というのが根拠というが私は未確認。)
これに伴い、60〜80年代に録音されたCDでは新旧全集入り乱れた演奏で聴こえる。言い換えると、この部分を聴くと新全集(初版)を使っているかどうかすぐ分かる、ことになる。
 ところが……1986年 新モーツァルト全集第2版では、これを旧全集同様の弦楽四部ピッチカート指定に戻された。 (現在流通している「赤い表紙の縮刷版」も同様)
このためかどうか、最近の録音では、殆ど一致して弦楽四部ピッチカートとなっている。言い換えれば、使用譜面の確認はスコア全体を聴き比べなければ判別できなくなり、私たち素人には難題になってしまった。(下記および例会プログラム所載の譜例参照)
 話がここで終われば簡単だったが、データ魔 森 泰彦氏(くらしき作陽大学助教授)が注目すべき事実を指摘したことで、話はにわかに、ややこしくなってきたのである。

 即ち、バレンボイムの録音は新全集2版によるのではなく、旧全集を使用したものではないか、というのである。

 その理由として森氏があげるのは、バレンボイムが22番K482の録音で、第x楽章のxx小節の省略された旧全集楽譜を使用していること、21番K466のLDでクローズアップされた画面に映っている譜面が旧全集らしい、ということである。

 2月例会では、このLD画面をご覧頂いたのだが、諸氏は如何お感じになられたであろうか。聴く側にいる人間にとって、どうでもいいようなことではあるけれど、ファン(マニア?)というのは、こんなことが気になるものである。

………………………………………………………………

注:1)第二楽章  84〜91小節

   自筆譜  ヴィオラとバスにピッチカート

   旧全集  全部 ピッチカート

   新全集初版(1959)ヴィオラとバスにピッチカート(ヴァイオリンはアルコ)

   新全集第2版(1986) 全部 ピッチカート

 注:2)井上太郎「モーツァルティアンの散歩道」p83小沢書店

注:3)森 泰彦 ≪音楽現代≫連載 

-------------------------------------------

* 日本モーツァルト愛好会 2004年 2月例会発表原稿から


<ブラウザの「戻る」ボタンをクリックして下さい>