モーツァルト・エッセイ 2004/7/14
《リンツ交響曲》についての新情報
先日、ある研究者の方から近刊の「音楽学(第49巻3号)」に
興味深い記事が載っている、とご教示頂きました。
さっそく
国音図書館で実物を読みましたところ
驚くべき内容がわかりました。
西川尚生・慶応大学助教授(1964年生まれ)による
「W・A・モーツァルト 《リンツ交響曲》の知られざる楽譜資料」
という発表です。
《リンツ交響曲》にはモーツァルトの自筆譜が残されていない、ため
その校訂は、ドナウエッシェンゲンとザルツブルクに
残された2つの筆写譜に頼っていることが知られていますが
(ザスラウの『モーツァルトのシンフォニー』の
下巻 P181−191 特に 187−191参照)
更に、近年ペータースから刊行されたクリフ・アイゼンによる
新校訂版において新モーツァルト全集への疑問が指摘され
話題になったことは、まだ記憶に新しいことです。
(2月のモ愛好会での発表の際、少々触れました)
今回、発表者の西川氏は、グラーツのフックス音楽院の調査で
なんと
「今まで知られていなかった《リンツ交響曲》のもう1組の筆写パート譜」
を、発見した!というものです。
(ザスラウは、上記著書で他に2つの筆写譜の存在を示唆しているので
今後は、都合 5組の資料により検討されることになる)
西川氏は、今回の発表で
「この新発見資料の内容と資料的価値を明らか
にするとともに,上記2点の筆写譜との比較を通じて,
C.アイゼンが指摘する《リンツ交響曲≫の改訂問題に
ついて再考しようとするものである。」
としています。
昨年11月に開かれた日本音楽学会での発表要旨
ということで、詳細不詳なのが残念です。
是非、全容を知りたいものです。
我が国モーツァルト研究が、
ついに、資料研究という分野で世界の研究者に肩を並べる
成果を挙げたということではないか!
〜という思いで勝手に興奮してます (笑)
感慨深いと同時に、研究の進展に期待が深まります。
先の《ジュノーム協奏曲》新資料発見といい、モーツァルトの
資料研究にはまだまだ大きな可能性が残されていることを、
あらためて痛感しました。
サワリを少々、…
>
今回新発見の筆写譜余白には、
「283/2」という番号(いわゆるトレーク番号)がふられていることから
モーツアルトの死後,ウィーンの写譜家兼楽譜販売業者トレークに
一時所有されていた可能性が強い。
(トレークはモーツアルトの死後間もなく,未亡人コンスタンツェから
モーツアルト作品の手稿譜を入手したとされている),
今回、確認されただけで2箇所、モーツァルト自身によるデュナーミクの
記入があることから、おそらくモーツアルトが晩年まで所有し、
実際の演奏に用いたのではないか、と考えられる、
としています。
楽譜の内容は、これまで知られていた2つの筆写譜のうち
ドナウエッシェンゲン資料により近く、
西川先生は、これらを検討した結果、
クリフ・アイゼンが主張している 「《リンツ交響曲》は改訂された」と
する説に疑問を投げかけています。
要旨では、この根拠にほとんど触れられておらず、隔靴掻痒の感が強い。
早く全容を知りたいものであります。
(余白に、会議出席者との質疑応答の一部が掲載されており
その中に、神戸のカリスマ・モーツァルティアン 野口氏の
質問が収録されているのも興味深い)
また、何か詳細判明したらご報告します。
<ブラウザの「戻る」ボタンをクリックして下さい>