「私のケッヒェル番号」特別編

   〜加藤木 昭さんを偲ぶ   2006/2/19

 

 

     

                (加藤木さん 1993/8)                                                        (加藤木さん 1996/8)

 


 

「私のケッヒェル番号を語る」特別編〜加藤木昭さんを偲んで  2006/2/19日本モーツアルト愛好会例会でのスピーチから

 

<1>

 ケッヒェル番号623の福地勝美です。

 本日は、「私のケッヒェル番号」特別編として、昨年お亡くなりになったk20の加藤木昭さんを偲ぶ、と題し、少しの時間お話させて頂きます。

まず、本日、私のような若輩者が、私よりはるかにお親しい間柄であった先輩諸賢を押しのけるようにして、僭越にも加藤木さんを偲ぶお話をさせて頂きますことをおゆるし頂きたいと思います。 その理由は、のちほど述べさせて頂きます。

       

 <2>

 最初に、加藤木 昭さんについてご紹介申し上げます。

加藤木さんは、 昭和8年(1933) 5月 5日 のお生れで、平成17年(2005) 9月28日 の没、享年 72歳でありました。

お亡くなりになる前月の当会例会、8月21日でしたが、元気に出席され、その後の2次会にもお出でになりました。その約1ヶ月後にお亡くなりになったわけですから、まさに急逝そのものでした。

 

<3>

 加藤木さんは、1956年に日本モーツァルト協会が創立された時以来の会員で、いわば、日本モーツァルト協会が本籍地といったところです。当日本モーツアルト愛好会には、1985年頃、入会され、これまで例会で私の知る限り、レジュメに書きましたように、3度お話されていらっしゃいます。

   「私のモーツァルト〜オペラの魅力」1993年8月

   「口説きのテクニック ア・ラ・カルト」1996年8月

   「私のK番号 第一回」 1999年8月

私がうかがったのは、3回目の「私のケッヒェル番号」の回で、これは、このシリーズの記念すべき第1回で、奇しくも最初のスピーカーだったということですが、いづれの時も薀蓄を傾けると同時に、人柄のにじみ出たお話で大変好評だったとうかがっています。

 

<4>

 私が加藤木さんに、親しくお付き合いさせて頂くきっかけは、私がふとした縁で、「ベーレンライター版新モーツァルト全集」の販売のお取次ぎをすることになった時で加藤木さんはその時、全集を購入なさいました。その後、日本モーツァルト協会の例会に招待してくださったりして、親交が深まりました。私が会社を早期退職する際も、その後のことなどご相談に乗って頂きました。私が、モーツァルトについてのHPを立ち上げた際も、いち早くご投稿してくださいました。そのうち、ご自分が長年集めた大量の資料を2度に渡り、お譲り下さいました。昨年最後にお会いした時、ちょうど前回の「私のK番号」の会ですから、たしか 8月20日だったと思いますが、ご自分でこれまで吹き込み、編集したカセットテープ10本近くを頂戴しました。そのとき、ふと「なんだか、形見分けをされているような」気がしましたが、まさかその一月後に急逝されるとは夢にも思いませんでした。

 

 私は府中市のTAMA市民塾という市民講座のモーツァルトについての講座の講師をやっているのですが、その 9月3日の例会に、加藤木さんゲストとして30分ほどお話頂くようお願いたところ、快諾頂き、楽しそうに準備をしておられたようです。最後にお会いした時も、愛好会例会の始まる前に、その打ち合わせを兼ねて昼食をご一緒しました。大変お痩せになられていたご様子なので、おうかがいすると、健康のため断食道場で修行してきた成果と笑っておられました。その時、頂いたのが、次にお話するレジュメ4番の原稿です。

いわば、「絶筆」となったわけで、私は、「遺言」を託されたような気がしてなりません。

その貴重な遺言を何らかの形で皆様にお伝えするのが、私に委ねられた「使命」のように思えてならず、本日こうして僭越にも、しゃしゃりでて参ったという次第です。

 

<5>

 レジュメ4番原稿の日付にご注目ください。私はこの原稿を、今申し上げましたように、8月20日の数日前に電子メールで頂きました。本日は30部ほどコピーしてまいりましたので、是非お読みになりたいという方にさしあげます。

 実は、市民講座の終わった翌日、突然加藤木さんから電子メールを頂きました。

退院でなく身の回り整理に一時帰宅されたようで、日付は、9月4日19時36分となっております。一部をご披露しますと、

 9月3日はキャンセルして申し訳ありません。急に検査入院しており、しばらくは外出できません。 <中略> また小生[入院]のことは協会愛好会の方々にはご内密にお願いします。しばらくメールの交換をストップします。

これが、おそらく最後のメールだったと思われます。

 

<6>

 話が長くなってすみません。

加藤木さんの番号であるk20を、聴いて頂きましょう。

加藤木さんがなぜこの番号を選ばれたかというと、日本モーツァルト協会での番号でもあるからです。加藤木さんはモ愛好会のメンバーと一緒にザルツブルクほかへご旅行さかれた時のことを、大変喜んでおられました。その時、イギリスにも行かれ、大英図書館で、このk20の自筆譜と対面されたわけです。 (音楽を聴く)

 

<7>

加藤木さんは、退職の時や在職中バレンタインのチョコの御礼や毎年の誕生日の折りなどに、たくさんの録音を残されました。頂いた10本のテープの中から、選んだ2分間のお話をお聞きいただきたいと思います。

 

<8>

  (加藤木さんのことば(肉声録音)を聴く)

「私がモーツァルトの音楽と出会わなかったら、私は別な人生を歩んだことだろう……」

    

 

<9>

 もう少々お時間を頂いて、お好きだった宗教音楽のさわりと、最後に、モーツァルトではないのですが、マタイ受難曲の終曲コラールをお聴きください。これは、いろいろ頂戴した御礼に私が加藤木さんに差し上げたのと同じガーディナーの指揮した録音です。「これを機会に、これからはバッハも聴いてみようかな」と嬉しそうにおっしゃっていらした加藤木さんの笑顔が目に浮かびます。

 今頃は天国で、たまにはバッハも聴いておられればいいな、と思います。

 最後の時までモーツァルトを愛していらした加藤木さんの人生は本当にうらやましい限りです。私も、いつの日か、世を去るときは、かくありたいと願ってやみません。 長時間ご清聴ありがとうございました。    

 

<10>     (音楽を聴く)

 

注: 当日の録音に加筆しました。 

 


*資料レジュメ

 

1)  加藤木昭さん      昭和8年5月5日〜平成17年9月28日 (享年72歳)   

2)加藤木さんと日本モーツァルト愛好会

  「私のモーツァルト〜オペラの魅力」19938

  「口説きのテクニック ア・ラ・カルト」19968月 //「私のK番号 第一回」 19998

3)私と加藤木さん

4)加藤木さんの絶筆原稿

>「モーツァルトのオペラを聴く楽しみ」 2005年9月3日

 1.オペラ体験〜 昭和28年 演奏会形式の「魔笛」

 2.モーツァルトオペラの楽しさ    3. オペラに親しむには

 4. モーツァルトのオペラに学ぶ    

  ア. 根底に「許し」の精神    イ.人が成長するに必要な「教え」

   (川柳式コピー) 聴いたあと スカットさやわか モツオペラ

    モツオペラ 聴けば聴くほど  それよさそう

5)モテット≪神はわれらの避け所≫ God Is Our Refuge ト短調 K20

           1765年7月 ロンドン

   God is our refuge and strength,  神はわれらの避け所、また力である。

   a very present help in trouble   悩める時のいと近き助けである。

    (神はわたしたちの避け所、わたしたちの砦。苦難の時、必ずそこにいまして助けてくださる。

          :聖書 新共同訳 詩篇46編 第1節) 

6)加藤木さんの愛聴された宗教音楽から

 1 モテット 神はわれらの避け所 k20   2 オッフェルトリウム ニ短調  k222

 3 ラウダーテ・ドミヌム k339       4 アニュス・デイ(戴冠式ミサ曲から)k317

 5 ラクリモサ(レクイエムから)   k622   6 終曲コラール(バッハ マタイ受難曲から)

 7 加藤木さんのことば から                                        ////////////////

*マタイ受難曲〜終曲

  Wir setzen uns mit Traenen nieder  われら涙してひざまずき

  Und rufen dir im Grabe zu;      墓の中のあなたに呼びかける

  Ruhe sanfte,sanfte ruh!       憩え安らかに、安らかに憩いたまえ。

    Ruht,ihr ausgesognen Glieder!   憩いたまえ、使い果たした御身体よ。

    Euer Grab und Leichenstein    あなたの墓と墓石は 

    Soll dem aengstlichen Gewissen    悩める良心には

    Ein bequemes Ruhekissen      心地良い安らぎの枕 

    Und der Seelen Ruhstatt Sein     魂の休息所です。

    Hoechst vergnuegt schlummern da die Augen ein.

心から満足して、この目はそこでまどろむのです。


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