公演日程
2002/ 9/3(火)、5(木) 18:30開演(21:30終演予定)
  9/7(土)、8(日) 15:00開演(18:00終演予定)
会 場 Bunkamuraオーチャードホール
チケット料金 S¥34,000 A¥29,000 B¥24,000 C¥19,000 D¥14,000 E¥9,000
発売日 2002/3/17(
主 催 朝日新聞社、Bunkamura


 



 


 

原作: ピエール・オーギュスタン・カロン・ド・ボーマルシェ
台本: ロレンツォ・ダ・ポンテ
作曲: ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト
指揮: マルク・ミンコフスキ
演出: リチャード・エア
美術・衣裳: ティム・ハトレー
照明: ジャン・カルマン
合唱指揮・チェンバロ: ミレッラ・ジャルデリ


 

アルマヴィーヴァ伯爵 … ローラン・ナウリ
伯爵夫人 … ヴェロニク・ジャンス
スザンナ … カミラ・ティリング
フィガロ … マルコ・ヴィンコ
ケルビーノ … ステファニー・ドーストラック
マルチェリーナ … ジェニファー・スミス
バジリオ … ジャン・ポール・フシェクール
ドン・クルツィオ … アレッド・ハール
バルトロ … ブライアン・バナタイン・スコット
アントニオ … ジョセフ・ディーン
バルバリーナ … マガリ・レーガー


 

合唱:ヨーロッパ音楽アカデミー
管弦楽:マーラー・チェンバー・オーケストラ


 

使用楽譜: ベーレンライター新全集版
共同制作: エクサンプロヴァンス国際音楽祭 (2001年7月プレミエ)
  バーデン・バーデン祝祭劇場、Bunkmaura




 

エクサンプロヴァンス国際音楽祭 『ドン・ジョヴァンニ』の圧倒的な成功


 

1999年1月Bunkamuraオーチャードホールで、オペラ『ドン・ジョヴァンニ』を上演、日本に初めてエクサンプロヴァンス国際音楽祭のプロダクションを紹介した。ダニエル・ハーディングの若さ溢れる溌剌とした音楽と、ピーター・ブルックの簡潔な舞台で人物像を浮き彫りにする様が見事に融合し、新聞、雑誌などあらゆるメディアに取り上げられ、クラシック音楽のこの年のベストテンには全て上位にエントリーされた。


 

「『ドン・ジョヴァンニ』は、オペラが21世紀に残りうる新鮮な表現手段であることをはっきり示した。24歳の英国人指揮者ハーディングと欧州の若手奏者の楽団「マーラー・チェンバー・オーケストラ」、新進歌手によるアンサンブルが演劇的にとぎすまされたブルックの簡潔な舞台とかみ合い、作品の原型を見事に洗い出した。」
(1999年12月21日/日本経済新聞)


 

「演出の力は侮れない。古典の名作から現代作品に劣らない今日性を引き出すこともできる。それを鮮やかに証明してみせたのがピーター・ブルック演出の『ドン・ジョヴァンニ』だった。装置はベンチと長い棹だけ。そんな簡素な舞台で、機敏に動き回る若手歌手たちの緻密なアンサンブルが、人物像を浮き彫りにしていく様は見事としか言い様がなかった。これが日本のオペラ界に示唆するものは大きいと思う。」
(1999年12月13日/読売新聞)



 

共同制作第2弾
世界で最も新しい『フィガロ』がやって来る
『ドン・ジョヴァンニ』の成功を踏まえ、次の作品を検討してきたBunkamuraとエクサンプロヴァンス国際音楽祭は、モーツァルトの代表作『フィガロの結婚』をその第2弾に選んだ。そして、今年7月エクサンプロヴァンスのフェスティバル開幕作品としてプレミエし、前評判に違わぬ素晴らしい舞台が出来上がった。フランス・バロック音楽を中心にパリで大ブレイク中の指揮者、マルク・ミンコフスキと、イギリス演劇界の重鎮リチャード・エアの演出(エアにとってはオペラ演出2本目)は、1930年代に舞台設定を移したシンプルな美術を背景に、登場人物の"音楽的な性格描写"に見事に成功している。ミンコフスキが"最高に幸せ"と目を細めるほど粒が揃った歌手陣が、このフェスティバルならではだが、十分な時間を費やして稽古を続けてきた結果がここまで密度の高い舞台を可能にしているのであ。シンプル、モダン、セクシー!今までの『フィガロ』とは一味も二味も違う、全く新しい『フィガロ』を是非体験して欲しい。



 

エクサンプロヴァンス国際フェスティバル


 

南仏エクサンプロヴァンスを舞台に毎年夏に開かれる由緒ある国際音楽祭。50周年を迎えた1998年に、前パリ・シャトレ座の総支配人である敏腕プロデューサー、ステファン・リスナーを総監督に迎え、「演劇性の高いオペラの上演」と「若い音楽家の育成」を2本柱に掲げる野心的なフェスティバルの大改革が始まった。「演劇性の高いオペラの上演」は、巨匠ピーター・ブルックが40年ぶりに本格的なオペラを新演出することで、『オペラハウスとは違うオペラ』を制作しようと若い歌手たちを長期間の稽古で鍛え練り上げられた舞台の実現を可能にした。ブルック以外にも、ヨシ・オイダが『カーリュー・リバー』(ブリテン作曲)を、ピナ・バウシュが『青ひげ公の城』(バルトーク作曲)を演出しセンセーショナルな話題となった。
さらに、「若い音楽家の育成」として大改革の最大の特徴は『ヨーロッパ音楽アカデミー』の創設が挙げられる。教育及び制作(リサイタル・コンサート・オペラ)のセンターとして、新たな才能の発見と様々な表現方法の出会いと対峙を促すべく、35歳未満の若い音楽家たち(オーケストラ・声楽・作曲)をオーディションで募集し、アバド、ブーレーズ、ブルックといった世界的な音楽家、芸術家との共同作業によってオペラなどの創作活動を行う。リハーサルとマスタークラスの形をとり、そのうちのいくつかは一般に公開され音楽家と聴衆の出会いが促進される。
98年の大改革から2年、その成果は飛躍的に現れている。特に、日本においては、99年1月にBunkamuraオーチャードホールで『ドン・ジョヴァンニ』(モーツァルト作曲)が紹介されたことで、エクサンプロヴァンス国際フェスティバルの認知度と評価が一気に高まり、今やザルツブルクを凌ぐ内容との認識が定着しつつある。2000年の公演内容を見ても、最大の話題を集めたサイモン・ラトル指揮の『マクロプーロス事件』(ヤナーチェク作曲)をはじめ、中国人演出家チェン・シー・ツェンを起用した『コシ・ファン・トゥッテ』(モーツァルト作曲)と演劇版『チェネレントラ』(ロッシーニ作曲)の3つが新演出。コンサートには、ブーレーズ、ラトル、ハーディング、ミンコフスキといったファン垂涎ものの人気アーティストが目白押し。いずれも質の高い上演で、各方面からますます注目されるフェスティバルに成長した。


 

「ビッグネームが並ぶ華やかな雰囲気と共に、公演をじっくりと練り上げる環境が舞台に直接反映している点は見逃せまい。併設のアカデミーで恒例の若手育成を含め、地に足のついた活動こそ、音楽祭の充実の大きな鍵と見た。」
(2000年10月5日/朝日新聞)


 

今年2001年は、マルク・ミンコフスキ指揮リチャード・エア演出の『フィガロの結婚』(モーツァルト作曲)、エンリケ・マッツォーラ指揮ヘルベルト・ヴェルニケ演出の『ファルスタッフ』(ヴェルディ作曲)、ダニエル・ハーディング指揮リュック・ボンディ演出の『ねじの回転』(ブリテン作曲)の3つのオペラが新演出上演され、いずれも洗練された演奏と演出が相まって圧倒的な成功を収めている。さらに2002年には、ダニエル・ハーディング指揮イリーナ・ブルックのオペラ初演出で『エフゲーニ・オネーギン』(チャイコフスキー作曲)がプレミエ予定。


 

写真:(c)木之下晃


 



 

マルク・ミンコフスキ(指揮者)
Marc Minkowski
(c)木之下晃

1962年パリ生まれ。初めはファゴット奏者として音楽家のキャリアをスタートしたが、早くから指揮に興味を示し、アメリカのピエール・モントゥー記念学校でチャールズ・ブラックに指導を受け、以後独学で指揮者として磨きをかける。楽団「レ・ミュジシャン・ドゥ・ルーブル」を結成しパーセル『ダイドーとエアネス』『アーサー王』『妖精の女王』などに取り組む。93年リヨン国立歌劇場新装オープン記念としてリュリ『フェアトン』を20世紀初演し、初CD化され絶賛を博した。トロントのオペラ・アトリエでは演出家マーシャル・ピンコフスキの招きでモーツァルト『フィガロの結婚』『ドン・ジョヴァンニ』、95年パーセル・イヤーを記念した『ダイドーとエアネス』をヒューストンとヴェルサイユ・ロワイヤルで上演。96年バスティーユ・オペラにモーツァルト『イドメネオ』でデビュー、オランダのライゼオパー巡演でワーグナー『さまよえるオランダ人』を指揮しレパートリーの広さをアピールした。97年にはザルツブルク音楽祭デビュー、モーツァルト『後宮からの誘拐』(演出フランソワ・アブ・サレム)はNHKテレビでも放映され話題を呼び98年にも再演された。97年から98年にかけてはグルノーブルに拠点を移した「レ・ミュジシャン・ドゥ・ルーブル・グルノーブル」とベルギーのデ・ブラームス歌劇場の音楽監督を兼任し、アントワープとゲントで『イドメネオ』とウェーバー『オベロン』を上演。99年フランスのエクサンプロヴァンス国際音楽祭にデビューし、モンテヴェルディ『ポッペアの戴冠』を指揮し2000年にも再演。2000年はベルリン国立歌劇場でマイアベーア『悪魔のロベール』、ロサンゼルス・フィルでベルリオーズ:幻想交響曲、パリ・シャトレ座でオッフェンバック『美しきエレーヌ』、リヨン国立歌劇場でオッフェンバック『天国と地獄』、バーミンガム市響でベートーヴェン:交響曲第3番『英雄』、2001年ライプツィヒ歌劇場でドビュッシー『ペレアスとメリザンド』を指揮。
2001年夏は、エクサンプロヴァンス国際音楽祭に再び登場しモーツァルト『フィガロの結婚』(演出リチャード・エア)、ザルツブルク音楽祭でJ.シュトラウスU『こうもり』(演出ノイエンフェルス)のそれぞれ新演出のプロダクションを指揮し話題を集めた。


 

リチャード・エア(演出家)
Richard Eyre
(c)木之下晃

イギリス・ドーセット生まれ。ケンブリッジで学び、始めは俳優としてキャリアをスタート。1967年エディンバラのロイヤル・リセウ劇場のアソシエート・ディレクターに就任し『三人姉妹』『ワーニャおじさん』『オセロ』『マクベス』等を演出。73年から78年にはノッティンガム・プレイハウスの演出家を務め、『じゃじゃ馬馴らし』『欲望という名の電車』『錬金術師』『桜の園』などを手掛けた。88年から97年までロイヤル・ナショナル・シアターの演出家として『リア王』『リチャード3世』『マクベス』といったシェイクスピア作品はもちろん、『Guys and Dolls』『Skylight』といった現代の作品も数多く手掛けている。日本にも、89年グローブ座で『ハムレット』が紹介されている。オペラは、94年にコヴェント・ガーデンのロイヤル・オペラで『椿姫』を演出(指揮はゲオルグ・ショルティ)、日本でもNHKテレビで放映されるなど好評を博した。


 

ローラン・ナウリ(アルマヴィーヴァ伯爵・バリトン)
Laurent Naouri
指揮者マルク・ミンコフスキに最も信頼されているバリトン歌手で、様々なオペラ、コンサート、レコーディングで一緒に仕事をしている。2000年秋には、やはりミンコフスキの指揮で、パリ・シャトレ座のオッフェンバックのオペレッタ『美しきエレーヌ』のアガメムノンを好演した。今回の『フィガロの結婚』でイギリス演劇界の重鎮リチャード・エアの演出について「とにかく古臭い演技を捨て去って、モーツァルトの音楽と言葉に耳を傾けろ」と言われた、そうしているうちに「自分が本当の伯爵になったかのように演じられた」と語る。


 

ヴェロニク・ジャンス(伯爵夫人・ソプラノ)
Veronique Gens
エクサンプロヴァンス国際音楽祭の"看板女優"であり人気・実力ともにNo.1の歌手である。特に、モーツァルト歌手としての評価が高く、1998年エクサンプロヴァンスでクラウディオ・アバド、ダニエル・ハーディング指揮ピーター・ブルック演出の『ドン・ジョヴァンニ』のドンナ・エルヴィーラで世界中にその名を知らしめた。99年『皇帝ティートの慈悲』のヴィッテリア、2000年バルセロナ・リセウ劇場で『魔笛』のパミーナ、コルーナ・フェスティバルで『フィガロの結婚』の伯爵夫人を歌っている。99年にはクラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィルハーモニーとザルツブルクで共演している。


 

カミラ・ティリング(スザンナ・ソプラノ)
Camilla Tilling
スウェーデン生まれで、ロンドンで学んだ、声も容姿もとてもチャーミングなソプラノ歌手。昨年ロンドンのコヴェント・ガーデン(ロイヤル・オペラ)にR.シュトラウスの『ばらの騎士』のゾフィーでデビュー。グラインドボーン音楽祭にはブリテン『ピーター・グライムズ』に出演。イギリスを中心に、今最も活躍が期待される若手で、今回の『フィガロの結婚』のスザンナは当り役となるだろう。


 

マルコ・ヴィンコ(フィガロ・バス)
Marco Vinco
タイトルロールのフィガロは、1977年生まれの24歳!往年の名脇役イーヴォ・ヴィンコの甥という出自、今回大抜擢された期待の若手バス。精悍なマスクと、きりっと締まったボディは、新しい時代の歌手に相応しい。これまで、プッチーニ『ラ・ボエーム』『トスカ』などにも出演、コンサートでは、ハイドン『戦時のミサ』、ロッシーニ『小ミサ・ソレムニス』などの宗教曲をレパートリーとしている。トレントで最初に、フィガロを歌っている。


 

ステファニー・ドーストラック(ケルビーノ・メゾ・ソプラノ)
Stephanied'Oustrac
フランス生まれで、リヨンで学ぶ。指揮者ウィリアム・クリスティに見出され、リュリの『テゼ』に出演し高い評価を得る。2000年にはパリ・シャトレ座でミンコフスキ指揮のオッフェンバック『美しきエレーヌ』、バスティーユ・オペラでのマスネ『マノン』などに出演、クリスティ指揮でパーセルの『ダイドーとエアネス』の欧米旅行に参加した。エクサンプロヴァンスでも、2000年クリスティ指揮エイドリアン・ノーブル演出のモンテヴェルディ『ウリッセの帰郷』のプレミエに出演して好評を博した。



 

女性の喜びとアイロニーによって跳躍した「フィガロの結婚」
(2001年7月9日/ル・モンド)
イギリス人演出家リチャード・エアはオペラの演出は2回目、彼にとって「たわけた一日」は随分前に終わっていた。モーツァルトのオペラはフラッシュバックの原理に基づいて展開していくという思い込み、相次ぐ波乱と次々に起こる騒動はもはや明らかな障害にはならないが、そこに付随するテーマである欲望の引き伸ばしと堂堂巡りを強調する。オーケストラ・ピットから舞台を支えるマルク・ミンコフスキの指揮は、派手さや大げさな歓喜を拒否し、笑いではなく優雅さから来るある種の軽妙さを保っている。これら全ては、その繊細なタッチを得るために叙情性を回避した抑制されたムードの中にある。


 

リチャード・エアの2作目のオペラ演出
(2001年7月24日/ニューヨークタイムス)
演出のリチャード・エアは、素晴らしいキャストによって支えられていた。その中でも、頂点を極めたのは、スザンナ役のスウェーデン出身のソプラノ、カミラ・ティリングとケルビーノ役のチェコ出身のメゾ・ソプラノ、マグダレーナ・コジェナーの2人。リチャード・エアの演出は、登場人物の性格を発展させ、身振りを最小限に留めることで、このオペラに新風を吹き込んだ。


 

久々に巨匠たちの形而上的演奏を彷彿させた『フィガロの結婚』
(2001年10月/グランド・オペラ)
旧大司教館で公演された『フィガロの結婚』は傑作だった。指揮のマルク・ミンコフスキが円熟の期を迎え、序曲の部分から自然体を装いながらも、勢いと吸引力のある演奏で観客をぐんぐんとオペラの世界へと誘ってしまう。登場人物の音楽的性格描写には説得力があり、有無を言わさぬ自信に満ちている。全曲にわたって張りの効いた演奏は微細なものも逃さぬようにと観客を促し、一部の隙も見せない集中力と構成力とが堅牢である。…また、リチャード・エアの演出は、舞台を一場物にした秀逸の出来だった。
セットはエクサンプロヴァンスの街並みが舞台まで続いているかのよう。さらに、中央に扉だけをいくつか配置しただけで観客が無理なく分かる各場のシチュエーションを作り上げた発想には脱帽する。…このオペラを見飽きている方も、諧謔、風刺、知恵はあっても結局は弱者とならざるをえない者のアイロニーが鮮烈に表れているので、再考を促す格好のオペラとなるだろう。