モーツァルト・エッセイ
モーツァルトの新発見?交響曲をめぐって (2005/4/15)
目下、巷のモーツァルティアンの最大の関心事(?)である「新発見?交響曲」騒動について
現在知りえる範囲でお知らせします。
* 私が、初めてこの曲の情報に接したのは、
あるコンサート会場でもらった下記公演のチラシによってであるが、現在容易に入手できる資料は次の4種であると思う。
(16日土曜日午後予定の、海老澤先生トーク付アフタヌーン・コンサートで新しい情報がもたらされるかもしれないが?〜残念ながら私は出席しない)
1) 公演チラシ記載の海老澤氏による紹介文。
2) 公演プログラム記載の オットー・ビーバ氏の解説。(海老澤敏氏訳)
3) 雑誌『レコード芸術』5月号 240〜243頁記載の ビーバ氏の文章。(小宮正安氏訳)
4) 日本モーツァルト協会3月例会プログラム記載の海老澤敏氏の文章。
公演当日の海老澤先生トークや、これら資料から得た情報を箇条書きであげると
· 仕掛け人(?)は、〜ビーバ氏と前田二男氏(今回指揮者)。
海老澤先生によれば、このことは、昨秋 びわ湖ホールの公演に来日した
オットー・ビーバ ウィーン楽友協会資料館館長から個人的に知らされたという。(上記4)
· ウィーン楽友協会が2004年10月27日ザルツブルクで行われたオークションで購入した楽譜資料、 (ザルツブルク近郊バート・イシュルで発見されたもの)の中に、「W・A・モーツァルト・シニョーレ」 というタイトル」が書かれた手稿譜があった。(主に、上記2、3、4) *詳細 下記注 参照*
· 楽譜は18世紀後半から19世紀初めのもの。 (上記3)
· 写譜屋が写したパート譜。 (上記4)
· ニ長調、4楽章構成。 (上記4)
· 用紙は、ベートーベンのボン時代、「その少し前」の頃に使われたものと推定される。(上記3)
· この楽譜とまったく同一の楽譜が、ザグレブ地方、スロヴェニアのリュブリヤーナに存在してい て、それは、モーツァルトと同時代のザルツブルクの(三流!の)作曲家、ヴェスタマイヤーの作
と伝承されている。 (上記3)
· ビーバ氏は、この曲がモーツァルトの真作であるか否かは不明で今後の研究に委ねるとしている。 (主に、上記2、3)
· 第1楽章の2小節に、ハーグ、ロンドン時代のモーツァルトの交響曲と同一の音型がみられる。
ただ、それがモーツァルトのオリジナルなものか、当時の流行か他作曲家からの引用なのか、不明
なので過大視は避けたい。 (上記3)
· 前田二男氏は、これまで約15年間毎年、楽友協会アルヒーフ所蔵の作品を取り上げ、ウィーンと東京で演奏会を開いてきたが、今年 5月3日この作品を「目玉」としてウィーン楽友協会においてパネル・ディスカッション付で初演する。それに先立ち「試演」の形で、今回演奏する。 (上記1、3)
* さて、演奏を聴いての印象は、
(たった1度聴いただけの印象なので、もう1度聴くとまた変わるかもしれない)
まず、メヌエットのある四楽章構成にビックリ。
(おそらく、 「アレグロ〜アンダンテ〜メヌエット・トリオ・メヌエット〜アレグロ」)
1楽章は、初期シンフォニーと考えれば、まあまあだが、メヌエット、フィナーレは、モーツァルト?と 首をかしげるほどお粗末なように聴こえた。
私の結論としては
「どちらともいえないが、傑作といいかねる作品のようで、大騒ぎする必要はないのでは……」
というところ。
* 今回の騒動をめぐっては、情報が小出し、あるいは「非公開」にされたことに違和感を持った方が多いのではないか。
特に、最も知りたい作品構成について、「ニ長調、メヌエット、トリオを含む4楽章」としか明らかにされていないのは、聴衆に何とも不親切のそしりは免れまい。 いくら正式初演前とはいえ、「調性」や「テンポ指定」、「小節数」等の情報を公開して何の不利益があるというのだろうか。
また、今回の公演のプログラミングにも一言。
ベートーヴェン初期作、モーツァルト最後期作で前半を終え、後半最初にこの曲を演奏したあと、 ブリュンなるブラームス時代の作曲家の凡庸このもない作品を連ねたのは、どういう意図か、図りかねた。この曲目当てに詰めかけた大半の聴衆としては、プログラムの最初と最後の2度、この作品を聴くことができたなら、「粋なはからい」と、満足して帰宅できたことであろう。
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@ 2005年4月12日(火)
新東京室内オーケストラ第18回定期公演
ウィーン古典派の系譜 ][ 「音楽におけるオーストリアのアイデンティティ」
会場: 紀尾井ホール /開演: 19:00
曲目: ベートーヴェン:序曲「命名祝日」op.115
モーツァルト:アダージョとフーガ ハ短調 KV546
:ホルン協奏曲 二長調 KV412 (未完、F.X.ジュスマイヤー補筆)
モーツァルト(と記名): 交響曲 二長調
イグナツ・ブリュル: 舞踏曲 op.89/1 、 セレナーデ 第3番 ヘ長調 op.67
指揮: 前田二生 管弦楽: 新東京室内オーケストラ ホルン: 山岸 博
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<注> 資料の出所に関する情報
· 一族から市長を出したこともあるバート・イシュルの裕福な農家である リードゥル家は文化・音楽に造詣深い名家であったが、末裔が途絶したため 財産一切が整理・売却されることとなった。 その整理の最中、手書きの楽譜の山が発見され、オークションにかけられた。 楽譜には、モーツァルトや、ハイドン、ディッタースドルフのほか、現在では無名である何人かの 作曲家の名前が記されていた。 (上記資料 3)
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