モーツァルト・エッセイ


レクイエムと≪アーメン・フーガ≫

  

 

 レクイエム伝説の1つに、ラクリモサ冒頭を書いたモーツァルトが

そこで力尽き、

「もうこれ以上書けない……」とハラハラと涙を流し筆を置いた、というのが

ありますが、この伝説にC・ヴォルフは疑問を投げかけます。

即ち、ラクリモサ絶筆説への疑問ということで、これは中絶でなく中断で、

モーツァルトはアニュス・デイのスケッチに軌道修正したのではないか、

というものです。今はまだ、根拠希薄な仮説の1つに過ぎませんが、

もし、これを裏付けるアニュス・デイのスケッチが発見・出現したら!!

と思うと胸がトキメキます。

 こんな期待をさせるのが、戦後モーツァルト研究の最大発見の1つと

いわれる1962年のヴォルフガング・プラートによるアーメン・フーガ

断片草稿の発見です。

『モーツァルトの「レクイエム」へのスケッチについて』と題した

この論文によれば、彼はこのスケッチをベルリンの国立図書館の草稿の中

から発見しました。

 この16小節のスケッチは、新モーツァルト全集にも付録として

収録されているので容易にみることができます。

 未完のレクイエムの完成を志していた各補作者がこれに着目したのは

当然の成行きといえ、まず1983年にリチャード・モンダーがこの

スケッチをもとに79小節のフーガを作成し多くの注目を集めました。

その後、ダンカン・ドゥルース(1984年)、ロバート・レヴィン

(1991年)による作品が続きます。

 一般には、モンダー版は編者の創作部の多いことで不評で

(ドゥルース版は問題外とされることが多い)、この中では、

最新のレヴィン版が出色と評価されているようです。

 (レヴィン版に並んで補作の決定版といわれる91年ランドン版では、

このフーガを採用していない)

各版はそれぞれCDに収録され、楽譜も出版されているので、興味ある者が

簡単に触れることが出来るのは大変ありがたいことです。

(ドゥルース版はピアノ伴奏譜)

2月の例会では、下記のようにCDでアーメン・フーガ原曲と各エディション

のラクリモサ聴き比べを行い、最後に、おなじみのジュスマイヤー版を

ガーディナーの映像で鑑賞しました。

 

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  ・アーメン・フーガ原曲 ……シュペリングCD    

  ・各エディションのアーメン・フーガ聴き比べ

    モンダー版(1983) …… 79小節、ホグウッドCD 

    ダンカン版(1984)……127小節,ノリントンCD

    レヴィン版(1991)…… 88小節、リリングCD 

 

(2000年2月の日本モーツァルト愛好会例会での発表原稿に加筆したものです)


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