「あ!いたいた!やっぱりここだったのか!」
1人の青年が丘を駆け上ってきた。歳の頃は18.9歳といったところだろうか、
明るい元気そうな青年だ。
「―なぁに?私に何か用なの?」
答えた方は青年より若干年下の少女だった。手に一杯花を持っているところを
見るとどうやらこの丘の上で花摘みをしていたらしい。
「村長が君のことを捜していたよ。何でも凄いニュースがあるんだって!みんな
は君の家の方に行ったけれど僕は君はきっとここだと思っていたんでね。」
少年が答えると少女は怪訝そうな顔をしていった。
「凄いニュース?私何かしたかしら?」
「―さあ?どんな凄いニュースかは知らないけれど・・・僕たちが婚約するつ
もりだっていうニュースより凄いニュースなんてないよ!」
少年がいたずらっぽい目つきで笑いながら言った。
「―そうね。一週間後に私の誕生日が来たらみんなに発表しましょうね!私たち
は婚約するつもりですっ!って・・・」
少女がほんのりと頬を染めて少年を見つめた。優しく少女を抱きしめる少年と、
花を抱えたまま青年の腕の中に抱かれる少女はまさに「幸せな恋人達」であった。
この後に訪れる悲劇を知る由もなく・・・
「・・・な・・・んです・・・って・・・?!」
抱えていた花束をバラバラと落としている事にも気がつかずに丘から帰った少女
は自宅の玄関先で立ちつくしていた。
「そうなのよ!お前が今度の女王候補に選ばれたのよ!」
興奮して叫ぶ母親の声に重なって父親の声が聞こえた。
「さっき村長が来て知らせてくれたんだ。お前とあともう1人の少女が今度の女
王候補に選ばれたので一週間後に聖地に来るようにとな!凄いじゃないか!」
母親に負けず劣らず興奮してまくし立てる父親を押さえ村長が少女に言った。
「うちの村から女王候補が出るなんてこんな名誉な事はないんだよ。村をあげて
応援するから是非頑張って女王になってくれたまえ。」
大人達が口々に言い合っているのを少女の叫び声が止めた。
「ちょ、ちょっと待って下さい!私、女王になる気なんてありません!だって、
だって私にはあの人がいるんですもの!あの人と約束したんですもの、一週間後の
私の誕生日の日にみんなに私達が婚約するつもりだって発表しようって!」
「・・ああ、あいつのことか。君とあいつがつき合っていたのは知っているよ。
でも君が女王候補になった以上あいつとのことは忘れた方がいいな。向こうの親に
は君のことはもう話してあるからあいつも今頃は君のことを聞いて考え直している
だろうよ。聖地へ向かう準備もあるだろうしもうあいつとは会うわんようにな。」
冷酷に言い放つ村長の言葉に黙ってうなずく両親の姿を見て真っ青な顔をした少
女は言葉を失った。両親でさえ娘が好きになった男性と平和に暮らすよりも女王と
なり村の名誉となる方を望んでいるのだ。もはや何処にも自分達の味方をしてくれ
る者はいないのは明白であった。
夜もふけてから村長が帰り、呆然としながら自分の部屋に戻った少女は窓の外に
誰かがいることに気がついた。ふらふらと窓の方に行くと小さいが、しかし聞き
慣れた声が聞こえてきた。
「―僕だよ、今そこに1人かい? 」
―!!慌てて窓を開けるとそこにはあの青年がいた。青年の顔を見るなり少女の眼
には涙が溢れてきた。青年の手が優しく俯く少女の涙を拭った。
「ああ、泣かないで、何とか家を抜け出してきたけど時間がないんだ。君の事は
親から聞いたよ。会ってもいけないって。」
「やっぱり・・・うちの両親も村長と同じ考えだからあてには出来ないし・・・
たとえ女王にならないでこの村に戻ってきても試験中にどれだけの時間が経って
いるかもわからないし、もう私どうしたらいいのか・・」
「僕と一緒にこの村を出て行く気ははあるかい?」
青年の思わぬ言葉に少女は驚いて顔をあげた。
「この村にいる限り僕たちは一緒になれない。もし、君にその気があるのなら
この村を出て、どこか他の街に行こう。そして新しい土地で二人で生きていこう」
青年の真剣な顔を見て少女は心を決めた。
「―ええ!ええ!行きます!あなたと一緒ならいつまでも、何処へでも!」
「それじゃ、明日の夜9時にあのいつもの丘の横にある穀物倉庫で待ってるよ。」
そういうと青年は少女に口づけを一つ残して闇の中に消えていった。少女はほぅ、
と、ため息を一つついて辺りを伺いながら静かに窓を閉めたが、家のかどから二人
のやりとりを一部始終見ていた者がいたことには遂に気が付くことはなかった。
― 次の日の夜 約束の時間の少し前 ―
「おや?こんな夜遅くに何処に行くつもりだい?」
母親に呼び止められて少女はドキッとしたが平静を装って答えた。
「ちょっと外の空気を吸いに行くだけよ。だって今日一歩も外に出してもらって
無いんですもの」
そう、まるで監禁されているかのように親に見張られている。まさかあのことが
・・・そう思うと不安でたまらなかった。一刻も早くあの人の顔を見たかった。
「・・まあ、良いでしょう。」
ぱっと顔を輝かせて外にいこうとする少女の後ろから父親が言葉を投げつけた。
「穀物倉庫に行ってもあいつはいないぞ。」
凍り付いたように足を止めた少女に父親は言った。
「お前とあいつが夕べ話していた内容は知っているんだ。全く、偶然外に物を
取りに行って良かったよ。今頃あいつは村長のところでみっちりと絞られている
だろうさ―」
そう言った時、1人の男が凄い勢いで家の中に駆け込んできた。
「た、大変だ!あいつが、村長を、村長を刺して逃げた!!」
「何だって?!どういうことだ?!」
驚いて聞き返す父親に男は息を切らしながらも答えた。
「あいつ、大人しく村長の説教を聞いていて、村長が油断するのを待っていた
んだ。そして、隙をついて逃げようとした時に村長ともみ合いになって、そばに
あったナイフで村長の腕を刺して―」
「―それで、ヤツは何処に逃げたんだ?!」
「丘の方に行ったらしい。今みんなが銃を持って追っている―あっ!待て!行っ
ちゃいけない!危ないぞ!」
丘に向かって走っていく少女に男は声をかけたが無駄であった。
――あの人は私との約束を守るために、私を待つ為に・・どうか無事でいて――
そう思いながら走り続け、後少しで小屋に着こうとした時にその音は聞こえてきた。
乾いた嫌な音―それは、紛れもなく銃声だった。やがて、その後に続く男達の悲鳴。
なにやら前方が異様に明るい。一体何があったのか?不安に胸を潰されそうになり
ながら少女は走った。そして、たどり着いた小屋の前で見たものは―
「ヤ、ヤツが悪いんだ!小屋の中から出てこようとしないから脅しで銃を撃った
んだ!ホントに威嚇だけのつもりだったんだ!でもそれが小屋の中にあった燃料
に当たっちまって、あっという間に中にあった穀物に燃え広がって・・」
青年に刺された腕に包帯を巻いた村長が他の男達に向かって叫んでいた。穀物
倉庫は今や手の付けようがないほど火がまわっていた。
「まさか・・それじゃあまだあの人は小屋の中にいるの?!」
少女は村長に向かって問いつめた。
「ヤ、ヤツが悪いんだ!女王候補と逃げようとするからこんな事になるんだ!」
少女は小屋の方に向かって走ろうとしたが、周りにいた男達に両腕を捕まれて
しまい、どうすることも出来なかった。
「離して!あの人が・・・ラーガが、ナドラーガがまだ中にいるのよ!」
「あきらめろ!もう手遅れだ!お前は女王候補だろう!女王候補が男と逃げる
なんて許されると思っているのか?!」
遅れてやってきた父親が言った。
「いやよ!女王候補がなんだっていうのよ!そんなものの為に何でナドラーガが
死ななければならないのよ!そこまでして女王を出すことがこの村の名誉なの?!
人の命を犠牲にしてまで!そんな女王なんて呪われてしまえばいいのよ!」
「なんて言うことを・・・いい加減にしないか!」
少女の頬を叩くと父親は大股で去っていった。
「・・・許さない・・・」
燃えさかる紅蓮の炎を見つめて羽交い締めにされている少女は呻くように呟いた。
「許さない・・・何もかも・・・みんな・・・みんな・・・滅ぼしてくれる!」
少女の頬に涙が流れた。それは燃えさかる炎の色を映して血の涙を流しているか
のようにも見えたー。
一週間後の聖地
「育成する大陸の名前は決まりましたか?」
女王補佐官が女王候補として来た少女に問いかけた。
「―はい、ここに来る前から決めておりました。」
少女が静かに答えた。
「大陸の名は『ナドラーガ』にしたいと存じます。」
「ナドラーガ・・・それには何か意味があるのですか?」
「はい・・・『我が永遠の恋人』という意味があります。」
「それは素敵な名前ですね。頑張って下さいね。」
そう言うと女王補佐官は去っていった。1人残った少女は眼に暗い炎を灯して
呟いた。
「はい・・・その名の通りにしてみせます…『我が永遠の恋人』の通り…ナドラーガ
が向かえた最後のとおりに…ナドラーガの名を持つ大陸がどの様な最後を向かえるのか、
見せて差し上げますわ、女王陛下!!」
FIN.
ひぃ〜!とんでもない駄文をアップしてしまいました(;_;)読んで下さった方、 有り難うございましたm(_)m「アクセス代返せ!」と思っていらっしゃる方ごめん なさい!ではでは・・・
JOURNEYの「WHO'S CRYING NOW」を聞きながら打ったポコポコでした。