瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)

電通、有罪後も違法残業 ずさんな労務管理に是正勧告


  広告大手、電通の東京本社(東京都港区)が、労働基準法と労働安全衛生法に違反したと
て三田労働基準監督署(東京)から今年9月に是正勧告を受けていたことが
分かった。社員の違法残業や、残業時間の上限を定める労使協定(36〈サブロ
ク〉協定)の違法な延長などを指摘された。法人としての電通は、違法残業を防
ぐ措置を怠った労基法違反の罪で2017年に有罪判決が確定したが、その後
もずさんな労務管理が続いていたことになる。

  関係者によると、是正勧告は9月4日付。労基法違反が2件、安衛法違反が
1件で、いずれも、残業時間に罰則付きの上限規制を初めて設けた改正労基
法が施行される前の18年中の法令違反が対象だった。

  電通は18年、残業時間の上限を原則として月45時間、事前申請すれば月
75時間に延長できる36協定を労働組合と結んだが、上限を超す違法残業を
社員にさせたケースが4回あった。いずれも営業関連の部署で、最長で上限の
2倍以上にあたる月156時間54分の残業をさせていた。

  上限を月75時間に延長するために必要な事前申請をせずに、違法に延長し
たケースも6回認められた。

  さらに、社員の安全や健康を確保するために社内に設ける安全衛生委員会
の運営に際し、最低1人を委員とすることが義務づけられている産業医をメンバ
ーに入れていなかった。委員のメンバーの半数を労働側委員にしなければなら
ない規定にも違反していた。経営側委員が半数以上を占め、経営側の意見が
通りやすい状況になっていた。

  電通は朝日新聞の取材に対し、「是正勧告を受けたことは事実。事務手続き
上の問題は、システム対応により速やかに解決を図った。(安全衛生委員会
は)法令にのっとった形式での委員選任を再度実施した。19年度は現時点ま
でに36協定違反は発生していない」(広報)などと回答した。

  電通では10〜15年、社員に違法残業をさせたとして本支社が相次いで是
正勧告を受けた。労組加入者が従業員の半数を超えていなかったため、15年
10〜12月に本社の36協定が「無効」と認定されたこともあった。

  15年12月には新入社員だった高橋まつりさん(当時24)が都内の女子寮
で自殺し、16年9月に労災が認められた。法人としての電通が労基法違反容
疑で書類送検され、17年1月に石井直(ただし)社長(当時)が引責辞任。17
年10月に罰金50万円の有罪判決が確定した。後任の山本敏博社長は労働
環境の改革を「最優先の経営課題」と位置づけ、18年末までに36協定違反を
「ゼロ」にする目標を掲げていた。

  電通は今年2月に発表した「労働環境改革の進捗(しんちょく)状況」で、36
協定の上限を超す残業をした社員が17〜18年度に「一時的に数名みられた
ものの、現在では解消されている」としている。(千葉卓朗、編集委員・沢路毅
彦)

(朝日新聞 2019年12月5日)


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