瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)

過労死ラインの医師がいる病院、1割超 防止対策白書


  厚生労働省は30日、過労死対策の議論の土台となる2018年版の「過労死
等防止対策白書」を発表した。過労死などが多いとされ、特別に調査する重点
業種のうち、今回は「教職員」「医療」「IT」の労働実態を分析。業界特有の働き
過ぎや精神的ストレスの要因が浮かび上がった。

  教職員の調査では、回答者3万5640人の1日の平均勤務時間は11時間1
7分だった。また、忙しくない時期の1日の勤務時間が「10時間超12時間以
下」との回答は50・2%で、法定労働時間(8時間)を大幅に超える人が半分を
占めた。

  残業の理由は「自分が行わなければならない業務量が多い」との回答が7割
弱で最多。ストレスの要因では、「保護者・PTAへの対応」と答えた人が4割弱
いた。学校に無理な要求をする親「モンスターペアレント」への対応が、大きな
要因となっていた。

  医療では、医師と看護職員計9389人が回答。カルテや看護記録などの書
類作成に時間がかかり、残業が発生していることがわかった。患者からのクレ
ームや暴力・暴言が精神的なストレスになる特徴も浮かんだ。一方、1078の
病院への調査で、月の残業時間が「過労死ライン」とされる100時間を超える
医師がいる病院は12・3%だった。

  ITの調査(回答者2465人)では、システムトラブルへの緊急対応や厳しい
納期を強いられるなど、発注者からの要望が長時間労働やストレスの主因とな
っていた。

  白書によると、過労死や過労自殺(未遂を含む)で労災認定された人は、17
年度に190人いた。業種別では「医療・福祉」が7人、IT産業を含む「情報通信
業」が6人、私立学校や学習塾などの「教育・学習支援業」が1人だった。過労
死などで公務災害に認定された公立学校の教職員は16年度に6人いた。

  白書は、昨年に調査した重点業種の「自動車運転」「外食」を含め、業種ごと
の特徴に応じた対策を講じ、過労死などの根絶につなげる必要があると指摘し
た。

  過労死などでの労災認定件数は、白書が初めて策定された16年以降、年2
00件前後で横ばいが続いている。政府が目指す「過労死ゼロ」にはほど遠く、
今年は新たに重点業種に「メディア」と「建設業」も加えられて計7業種になっ
た。

  今回の白書は11月中にも、過労死を防ぐために労使の代表者や過労死遺
族らが対策を話しあう厚労省の協議会に報告される。厚労省は協議会での議
論を踏まえ、対策の見直しや新たな対策づくりを検討するが、業種ごとのきめ細
かい実効性のあるものを打ち出せるかが焦点となりそうだ。(村上晃一)


過労死・過労自殺対策の重点業種での死亡事案
(2017、18年版過労死防止対策白書の関連資料から作成)

【教職員】

中学校教員・40代男性

3年生担任と運動部顧問を務め、残業月100時間以上。職員室でパソコンに
突っ伏し、心筋梗塞(こうそく)で死亡

小学校教員・20代女性

保護者から教育内容の要望を受けて悩み、職場の支援なく自殺

【医療】

産婦人科医・50代男性

月90時間以上の残業が続き、回診中に倒れる。脳梗塞で死亡

臨床検査技師・20代女性

難しい業務で残業時間月105時間以上に。うつ病で自殺

【IT】

プログラマー・30代男性

会社の命運がかかるゲームソフトを開発。長時間労働や顧客クレームのストレ
スが重なり、心臓停止で突然死

システムエンジニア・40代男性

カーナビシステムを開発。不具合が相次ぎ、月100時間超の残業や徹夜勤務
で気分障害。自宅マンションで飛び降り自殺

【外食産業】

居酒屋店長・30代男性

深夜勤務が月26日間に及ぶ。自宅ソファに座ったまま死亡しているのを妻が
発見

日本料理店料理長・50代男性

月130時間の長時間労働などで、正常な判断ができなくなり自殺。後に適応障
害などと診断された

【自動車運転従事者】

路線バス運転手・50代男性

勤務時間が不規則で労働時間も長く、10日連続勤務も。目覚まし時計に反応
せず死亡しているのを妻が発見

(朝日新聞 2018年10月31日)


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