瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)

三菱電機、裁量労働制の3人労災 過労自殺も


  三菱電機の男性社員5人が長時間労働が原因で精神障害や脳疾患を発症
して2014〜17年に相次いで労災認定され、うち2人が過労自殺していたこと
がわかった。5人はシステム開発の技術者か研究職だった。3人に裁量労働制
が適用されており、過労自殺した社員も含まれていた。労災認定が直接のきっ
かけではないとしながらも、同社は今年3月、約1万人の社員を対象に適用し
ていた裁量労働制を全社的に廃止した。

  16年11月、情報技術総合研究所(神奈川県鎌倉市)に勤めていた研究職
の30代の男性社員が、長時間労働が原因で精神疾患を発症したとして労災
認定され、本人がその事実を公表した。柵山正樹社長(当時、現会長)は17年
1月の記者会見で「二度とこのような事態が起こらないように取り組む」と陳謝
し、労働時間の正確な把握に力を入れる考えを示していた。朝日新聞の取材
で、これ以前にも労災が2件、17年にも2件認定されていたことが新たにわか
った。

  関係者によると、5人のうち裁量労働制を適用されていたのは3人。このうち
コミュニケーション・ネットワーク製作所(兵庫県尼崎市)に勤務していた40代の
社員は、長時間労働が原因で精神障害を発症して自殺したとして17年6月に
労災認定された。若手のため裁量労働制を適用されていなかった名古屋製作
所(名古屋市)勤務の社員(当時28)も精神障害を発症し、14年12月に過労
自殺と認められており、4年間に2人が過労自殺していた。

  三田製作所(兵庫県三田市)に勤めていた40代の社員は13年に脳梗塞(こ
うそく)を発症。東京・丸の内の本社勤務だった40代の社員も、16年にくも膜
下出血を発症した。この2人も長時間労働が発症の原因だったとして、それぞ
れ15年3月と17年8月に労災を認められた。

  裁量労働制は実際に働いた時間にかかわらず、一定時間を働いたとみなし
て残業代込みの賃金を払う制度。労働時間管理が甘くなり、長時間労働を助長
する危険性が指摘されてきた。制度の廃止により、対象だった社員は原則とし
て残業時間に基づいて残業代を受け取る働き方に変わった。同社は多少の人
件費の伸びを見込んでいるという。

  三菱電機は朝日新聞の取材に対し、新たにわかった4件の労災認定の事実
をすべて認めた。4件とも社内に周知していないという。それぞれ「個別の事情
がある」(人事部)として、労務管理に構造的な問題はないとしている。

  だが、厚生労働省によると、裁量労働制を適用され、14〜17年度の4年間
に労災認定された働き手は全国で42人。うち3人が三菱電機の社員だった。

  三菱電機は04年に裁量労働制を導入し、全社員約3万人のうちシステムエ
ンジニアや研究職などの専門業務、経営の中枢で企画・立案などの業務に就く
社員約1万人を対象に適用してきた。「労働時間をより厳格に把握するため」
(同)に廃止したとしているが、厚労省関係者は「大企業が裁量労働制を廃止
するのは聞いたことがない。裁量労働制では労働時間管理ができないと公言し
たに等しい」と指摘する。(千葉卓朗、贄川俊、内藤尚志)

      ◇

  〈裁量労働制〉 実際に働いた時間でなく、あらかじめ決められた労働時間に
基づいて残業代込みの賃金を払う制度。それ以上働いても追加の残業代は出
ない。仕事の進め方や時間配分をある程度自分で決められる働き手に限って
適用できる。研究開発職など専門的な職種の労働者が対象の「専門業務型」
と、経営の中枢で企画、立案、調査、分析などの仕事に就く労働者が対象の
「企画業務型」がある。「専門業務型」は厚生労働省が対象の19業務を定めて
いる。

(朝日新聞 2018年9月27日)


トップへ
トップへ
戻る
戻る