瀧本労働衛生コンサルタント事務所(大阪)

休日含め「残業960時間」 上限720時間に抜け穴、議論され



  働き方改革関連法案に盛り込まれている「残業時間の罰則つき上限規制」
は、長時間労働の是正につながるとの期待がある。一方、「過労死ライン」まで
働かせることが可能な規定も入っていて、年間上限の「抜け穴」もある。論点は
多いが、これまでの国会審議では議論が深まっていない。

  「年720時間まで働かせていいと受け取られないよう、原則は年360時間だ
と分かりやすく示すべきだ」。7日の参院厚生労働委員会で、国民民主党の小
林正夫氏はこう訴えた。法案では残業時間の上限を原則年360時間とし、「臨
時的な特別な事情がある場合」は年720時間まで可能としており、これが常態
化しないよう求めた。

  今の労働基準法では、労使が協定(36協定)を結べば、事実上いくらでも働
かせることができる。今回の法案は残業に上限を設け、それを超えて働かせた
企業に罰則を科すものだ。ただ、この年間の特例上限720時間にはさらに抜
け穴があり、年960時間まで働かせることができる。

  「年720時間」は休日労働を含まない上限だ。一方で、特に忙しい時期に認
められる「2〜6カ月平均で月80時間」の特例は、休日労働を含んだ基準にな
っている。この残業を12カ月繰り返し、「80時間×12カ月=年960時間」の残
業ができるのだ。国の過労死認定基準となる「過労死ライン」の残業を一年中
続けることになる。

  この抜け穴は昨年春に政労使が残業上限に合意した時から指摘されてき
た。野党も、先月9日の衆院厚労委で立憲民主党の尾辻かな子氏が「すべて
の労働者にかかわるものがこれほど分かりにくくていいのか」と批判するなどし
ている。

  ただ、高所得の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナ
ル制度(高プロ)」の削除を求める質疑が審議の中心になっていることもあり、
抜け穴をふさぐ具体的な議論には至っていない。

  ほかにも過労死が多く起きているドライバーなど自動車運転業務への規制
が、ほかの業種より緩いとの論点もある。厚労省によると、2016年度に過労
死で労災認定された107人のうち、業種別で運輸・郵便業が35人で最多だっ
た。

  しかし法案では、もともと労働時間が長い職場のため、一律に規制すると企
業活動に悪影響が出かねないとして制度実施を5年間猶予。さらに、適用する
年間上限は「960時間」とほかより緩い。業界の働き手でつくる運輸労連は「全
ての労働者が等しく守られるべきだ」と主張するが、この議論も乏しいままだ。
(村上晃一)

 ■裁量超す業務、対象外 高プロ、省令で規定へ

  加藤勝信厚労相は7日の参院厚労委で、高プロを適用された労働者に対し
て、働く時間を自ら決められないほどの業務量や仕事の期限を使用者が指示で
きないとの規定を省令で定める考えを表明した。

  高プロは、年収1075万円以上の一部専門職を労働時間規制から外す制度
で、長時間労働を強いられるとの批判が根強い。加藤氏は「労働者が自主的に
裁量を発揮できない業務量や期限指定をした場合、(高プロの)対象業務に就
いていないことになり得る」と述べた。立憲民主党の石橋通宏氏への答弁。加
藤氏はこれまで、使用者が高プロ適用者に働く時間や場所を指示できないとす
る規定を省令で定めると答弁している。

 ■パワハラ規制、法案審議入り

  7日の参院厚労委では、野党の立憲民主党、国民民主党、希望の党が提出
したパワハラを規制するための労働安全衛生法改正案の審議も始まった。今
後、政府の働き方改革関連法案と一緒に審議される。野党の法案は、パワハ
ラで職場環境が害されないよう、事業主に相談体制の整備といった「必要な措
置」を義務づけることが柱となっている。

  野党は4月27日に法案を参院に提出していた。政府の働き方法案にパワハ
ラ対策は盛り込まれていない。

(朝日新聞 2018年6月8日)


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